学生諸君にこそ聞いてほしい。ダニエル・ピンク氏のスピーチがスタート

ダニエル・ピンク氏(以下、ピンク):皆さん、このような機会をいただきましてありがとうございます。光栄に思います。長い長い4年間だったんじゃないですか? 卒業できないと思った人もいるかもしれませんし、次に何が起こるか分からないという人がほとんどではないでしょうか。

でも、皆さんは今この場所までたどり着きました。硬い椅子に座り、陽に焼かれて、ひどい二日酔いと闘っていることでしょう。

(会場笑)

でも僕は、君たちの親に話をしにきたわけじゃないからね。

(会場笑)

学生諸君に、話をしにきたんです。僕がノースウェスタン大の4年生だった、ある日の午後に学んだことをお話します。そこで悟ったことが僕の人生を形作ったんですが、きっと皆さんにも役立つはずです。

28年前、僕は大学を卒業して言語学の学位を取りました。1986年は言語学部にとってエキサイティングな年でした。卒業生数が、史上最多の4人だったんです。

(会場笑)

言語学や歴史、古典、人類学なんかを間違って専攻してしまうと、必ずこう言われます。分かりますよね? 「それでどうするつもりだ?」と。

(会場笑)

皆さんは幼い頃から、それが馬鹿げた質問ではないことを教わっていると思いますが、実に馬鹿げた質問です。今週末にそれが分かったら、スラブ語の学部で皆さんを見かけることになるでしょう。

(会場笑)

その質問に答えようと思っても、分かるわけがありません。考えても分からないからです。ノースウェスタン大学での4年の間には、たくさんの素晴らしい授業を受けました。いくつかの小さなセミナーのうち、価値あるライティングの授業がありました。

ショートストーリーを書く授業で、有名な南アフリカの詩を題材にしたんです。先生からはAマイナスをもらい、2度と詩は書かないと決めました。

(会場笑)

エッセイの授業で出会った、人生を変える9語の言葉

最高だったのは4年生の春、エッセイを書く授業を取った時のことです。担当は、若くて優秀なチャーリーという先生でした。今でもここで教えているので、今日もこの場所に座っていることでしょう。

(会場拍手)

当時すでにエッセイの書き方は知っていましたが、僕は多くの皆さんと同じように、アメリカの中央西部オハイオ州のコロンバスで育ちました。

(会場歓声)

ワオ! コロンバス出身の人がいっぱいいるみたいですね。当時の話をします。1年生の時に25ポンドの電子タイプライターを買って、3階のボブ・ホールまで持って行きました。

テーマを理解して、アウトラインを作って、それに基づいて作成する。家を建てるようにエッセイを書くんです。テーマ、アウトライン、作成の手段を学び、僕はうまくなりました。でももっと上手になりたかったんです。

残念ながら1番最初のエッセイ課題で、つまずきました。テーマはぐずぐずで味気ないものでした。エッセイのパートAはサージェントホールでデザートとして出るライムゼリーのようにグニャグニャ。パートBは決まり文句と決まり文句の玉突き事故。パートCは……、パートCは空白でした。

締め切りの前日、いやいやながら授業に行きました。ビクビクしていました。このひどい家を修復する案を説明しました。テーマを短くすべきかもしれない。アウトラインは3パートではなく、4つにすべきかもしれない。実は思ったよりもひどくないから、なんとか最後までやりきるべきかもしれないと。

チャーリーは僕の提案に、何1つ同意してくれませんでした。「ノー」と、彼は言いました。「問題はもっと他の所にあるよ。君は自分が考えていることが分かっていない」。そして、僕の人生を変えた9語の言葉をかけてくれました。 

「何かを理解するためには、書かなければいけない時もある(Sometimes you have to write to figure it out)」

驚きました。それまでに聞いたどんな教えや、僕が考えていたことに反していたんです。

文章を生み出すための言葉が、いつしか生きるための指針へ

ちょっと待って下さい。何かを言おうとする前に、それを知る必要はないはずです。でも、ライティングは記憶するためだけのものではなく、自分が何を考えているかを知るためのものだと言うのです。

50年近くこの惑星で生きてきて、そのほとんどをライティングに費やしてきた自分にとって、この教えはそれほど特別なものではありません。でも21歳の僕にとっては新発見でした。「何かを理解するためには、書かなければいけない時もある」。これは大きな発見でした。少しの恐ろしささえ感じました。

そのアドバイスをクラーク・ストリートとシャーマン・アベニューの角、シャーマン・スナックショップの上にあったぼろぼろのアパートに持ち帰りました。

その春の日から、チャーリーの言葉を胸に生きてきました。パソコンの前に座って仕事をしようとすると、まばたきを何度もして文章の首尾一貫性を確認して、何度も何度も「何かを理解するためには、書かなければいけない時もあるのだ」と自分に言い聞かせました。

その後、このアドバイスは文章を書くためだけのものではなく、生きるための最高のアドバイスにもなり得ると気づきました。今日ここにいるすべての卒業生の皆さんは、間違いなく今後の人生について考えていることでしょう。

多くの方がシステマチックにテーマ、アウトライン、作成について考え、完璧に整えられた目的を持ち、アウトラインに従ってそこに到達する。一旦卒業証書が手渡されたら、作成段階に入るんです。

もしこんなふうに考えていないなら、親御さんはそういう考え方をする子供だったらよかったのにと思うことでしょう。

(会場笑)

プランニングは通用しない、より柔軟に生きることに重点を

皆さんは愛されてます。心配されてるんです。最小限の職の選択肢の中で、死の可能性にどうやって対処するのかと。きっと大丈夫、詳細なプランを持ってるし、と思うかもしれませんが、多分そんなことはありません。

卒業する前に、こんな実験を試してみてください。40代から60代ぐらいの人を見つけてください。みなさんが感心できるようなことをしていたり、世界に貢献していたり、いつか自分もやってみたいと思うようなことをしている人です。

そして彼らに、どうやってそうなったのかを聞いてみてください。保証します。100人中97人ぐらいまで、最もスマートでおもしろくてダイナミックで影響を与える人は、こう答えるでしょう。「はあ(ため息をついて)、話すと長くなるよ」

(会場笑)

なぜでしょうか? 彼らはそれを発見するために、生きてきたからです。そして、あるポイントで気づいたのです。作りこまれたプランは、大抵通用しないと。トピックを微調整して、サブセクションをアレンジし直しても、十分ではないんです。

自分が何者か、どんな人生を送るべきかを発見する唯一の方法は、プランニングよりも生きることに重点を置くことです。快適さと慣習という2つの幻想を打ち砕くには、とにかく何かをやってみればいいんです。

今後どうなるかなんて分かるわけがないから、この言葉はリスキーに聞こえるかもしれません。確かにリスキーです。でもより大きなリスクは真のあいまいさから選ばれるのです。失敗するかもしれないという大きなリスクは、月並み以上のものです。リスクが大きいと思う理由は、皆さんが選ぶ最初のキャリアパスだからというだけです。

それが、大昔に皆さんの席に座っていた素晴らしいクラスメートたちが、計画を立てなかった理由です。材料科学を専攻していた友人は、家具メーカーに落ち着きました。経済を専攻していた賢い友人は、ロー・スクールを中退してフィクションを教えています。政治科学を専攻していた友人は、ポーカーのワールドシリーズのコミッショナーに選出されました。

(会場笑)

ホワイトハウス勤務を経て、卒業生の皆さんへ送る言葉

オハイオ州コロンバス出身のオタクでさえ、法律家になって、議員になれると思っていましたが、最終的にはガレージを出て本を書くことに非常に興奮していました。彼らは人生の目的を発見するために生きていたんです。これは皆さんが思っているよりも全然怖くないんです。

このことは信じてください。卒業から9年後、私は幸運にもホワイトハウスで働くことができました。オールドファッションなワシントン流の仕事をもらいました。最初の仕事はスキャンダルを隠蔽することでした。

(会場笑)

私は、ロナルド・レーガン大統領のスピーチライターだったペギー・ヌーナンが書いたものを読むまでは緊張していました。彼女は、ホワイトハウスで働くうえで3段階の反応があると言っています。ステージ1は、仕事を得た初日にホワイトハウスに着くと、「誰も自分がどれだけアホなのか気づいてないな」と思う反応。

ステージ2。数カ月後にはこう気づきます。「ここにいる誰よりも自分が賢い」と。そして、いよいよステージ3。さらに数カ月後。彼女は辺りを見回して言いました。「オーマイゴッド。責任者になってるよ」と。

僕の言葉をメモって、親御さんに聞いてみてください。「オーマイゴッド。責任者になってるよ。父さんの人生の繰り返しになりそうだ」と。

(会場拍手)

もしこれから何をしていけばいいのか分からなかったら、あなたには他の皆と同じぐらい自信があるということです。

そんな他の人たちとは違うという人は、もはや意味を成さないアウトラインなんか投げ捨てて、チャーリーの言葉を結びつけて、人生の目的を発見するために生きてください。そうすれば皆さんはきっと、さまざまなことを成し遂げられます。

ありがとうございました。そしておめでとう。素晴らしいウェインバーグ・カレッジ2014年度の卒業生の皆さん。

(会場拍手)