即興会話を難しくしているのは自分自身

マット・アブラハム氏:これからよきスピーカーになるための4つの事項についてお話しします。 それぞれのステップで、アクティビティに参加してもらいます。どれも早口言葉よりは簡単です。立ち上がったり、隣の人に話しかけていただくことになりますが、辛いものではありません。

そして最後に、すばらしい即興の世界から得たフレーズや諺などで締めくくります。スタンフォードでのプログラムにおいて過去5年間で、アダム・トビンと一緒にクラスを教えました。クリエイティブ・アート・デパートメントで、彼は映画とメディアを教えており、即興の専門家です。そして一緒に、自発的な話し方を教えています。我々はそれを即興会話と呼んでいます。

彼は即興におけるすばらしいフレーズやアイデアを教えてくれたので、皆さんにも教えたいと思います。これについても、最後に配布物があるのでご安心ください。では始めましょう。

即興会話において自分を邪魔するものというのは、まさに自分自身なのです。完璧でありたいと思ってしまうのです。努力したからこそそれが重みになってしまうのです。なのでまず自分を追い出すことから始めます。言うのは簡単ですが、この部屋にいる人たちはいわゆる賢い人たちです。ものごとを正しくやりたい。しかしそんな考えが即興会話では邪魔になります。

パターン化しようとする脳

ちょっとデモンストレートしてみようと思います。「間違いシャウト」というゲームを今からやります。立っていただいて、私が30秒ほど質問します。皆さんは周りを探して間違いを指摘してください。指摘するのは失礼なことかもしれませんが、このアクティビティではどんどんやってください。そして指摘したものの本当の名前以外を叫んでください。叫ぶということが重要です。

立ち上がっていただく前に、すでに5〜6個指摘するものを見つけたという人は手を挙げてください。そうです、まさにこういうことなんです。皆さんは優れたゲームプレーヤーである故に、すでに正しくゲームしようとしている。そうやって正しくしようとする脳を持っているんです。

つまり間違うためには今まさにやろうとしたことでしか間違えないんです。間違えられないんです。

床を指して「イス」と言ってもそれが正しいかどうかはわかりません。イスの下の床を指さしているかもしれませんしね。計画して正しくやろうとしてしまうのです。とにかくやることが正しいのです。とにかく始めましょうか。1回30秒で2回やります。人と違うものを指差して、堂々と大きな声で叫んでください。始め! 

終了! まだ続けるので立ったままでお願いします。まず、ありがとうございます。すばらしい! そこで質問なのですが、声を出している時に、自分で何を言っていることを意識していたでしょうか? とりあえず野菜の名前を言ってみたり、Aから始まる単語を言っていましたね。それがまさに脳の働きで、「溜め込むなって言われたからパターン化してやろう」という対処なのです。 

授業では、脳は自分を助けてくれるというふうに教えるのですが、私たちはそれを流したがる。

きちんとした対応をするため、「あえて鈍くあれ」

ではもう1回やってみましょう。今回は、脳が構えたり、パターン化しても無視してみてください。それらを無視できた時にどうなるか注目してみてください。それでは15秒間やってみましょう。始め。

終了! では席に着いてください。1回目と2回目の違いに気がつきましたか? ゆっくりやっていくので安心してください。一気に効果が現れるようなものではないので。でも自分の殻を破るにはとっておきのゲームなのです。いつでもどこでもできます。皆さんは手続き記憶と戦っているのです。そしてそれは、自発的会話の中ではプレッシャーとなります。

このようなゲームは、何が自分たちを妨げているかを認識するのにうってつけなのです。私たちは対応ではなくただ反応してしまっています。本当に必要なのは、意味のある対応なのです。このようなことから理解していただきたいことというのは、「あえて鈍くあれ」ということです。

皆さんにこういうのは失礼かもしれませんが、そうすることによって良さがわかるのです。なぜならあなた方は考えすぎて硬直してしまっているからです。なのでこのプロセスの最初の項目は自分の殻をやぶるため、「あえて鈍くあれ」ということです。

自分の捉え方を変える

でもそれは重要なことで、2つ目のステップは、自分の捉え方を変えるということでした。会話というものを、恐れではなくチャンスと考える必要があります。起業幹部に質疑応答をコーチングしていた時、彼らはそれを、自分対相手という、敵対するものだと捉えていました。なのでそのアプローチを変えるようにしました。明確に人に理解してもらうチャンスだというふうに。

捉えた時、感覚は変わります。それによって自由な対応ができるようになります。敵対は対応を最小限にしてしまいますが、話を広げて説明するチャンスと捉えたならば、その対応は変わります。自発的な会話というのは、機会をもたらすものなのです。

会食の場などで上司が「彼のことは君のほうが知ってるから、君から説明してもらえる?」と言われた時に、「うーん、ちゃんとできるかな」となるより、「やったー! ありがとうございます」と、いい機会だと捉えるということです。

緊張感を和らぎ、楽しさを生み出す一言

そのためのゲームがあります。休日が近づき、皆さんはギフトを受け渡します。パートナーがいたほうがいいので、隣の人とやっていただければと思います。隣に誰もいなければ後ろでもかまいません。1人だとこのゲームの2回目ができなくなります。なのでこの説明の後にパートナーを探してください。

パートナーと想像上のギフトを交換します。渡された方はギフトの中身を見て内容について答えます。ギフトを見た時に最初に思い浮かんだことを言ってください。その時に準備した答えを言わないように。それがこのゲームのパート1です。

機会は2つあり、ギフトを受け取って中身を言い、あげた人はそれに対してコメントを言えます。受け取った人が「○○ありがとう」と言い、あげた人が「喜んでくれてありがとう! なぜなら」と言います。

ではパートナーを見つけてAとBを決めてください。Bから始めてください。

(会場会話)

欲しいものがもらえましたか? 中身をみて驚いた人はいますか? 

(観客解答)

おおすごい! フェラーリ。他には誰か何かありますか?

(観客解答)

生きてるユニコーン! いいですね。ギフトをあげた側からするとどうでしょう? 相手の反応に驚きましたか? 相手がギフト内容を決めるとわかっていながら生きてるユニコーンと聞くのは楽しいですよね。

このゲームのポイントは、自分の殻をやぶり、これを楽しむための機会として考えることなのです。皆さんを見ていて本当に楽しいです。最初はちょっと疑ってた人も今や笑顔になっている。気づくと緊張感が和らぎ、楽しさとして結果がでている。これはある即興における一言を思い出させます。「そうです、それで」というものです。

多くの人が「違います、でも」と言いますが、「そうです、それで」には大きな、とてつもない可能性があるのです。全ての質問にそういう必要はありません。状況へのアプローチとしてという意味です。「いいえ」といって防御するより、「はい」といって続けていくということなのです。

聞いて、聞いて、それから答える

これまでで、殻をやぶり、機会として捉えるという2つのステップを達成しました。次の項目は落ち着いて聞くということです。適切に対応するためには、自分の状況を理解する必要があります。で、私たちは物事をすっと飛ばして話し始めてしまう。

なぜなら、根本的なことを言うと、コミュニケーターとは観客のためにサービスするということだからです。相手のことを理解できなければ、義務を全うできません。

それではゲームをしてみましょう。このゲームでは、自分のパートナーに言う言葉を全部綴ってみてください。まずはさっきのパートナーと、今日の予定について話してみてください。このように「つ・づ・り・な・が・ら・で・す」下手でも効果はありますので。

(会場笑)

AとB別れて、Aの人が、今日の楽しい予定を綴ってください。「ね・こ・に・え・さ・や・り」とかはナシでお願いします。30秒間です。始め。交代! では30秒間お願いします! す・ば・ら・し・い・! あ・り・が・と・う・ご・ざ・い・ま・し・た。で・は・せ・き・に・つ・い・て・く・だ・さ・い。どうでしたか?

観客:いちいち止まらないといけない。

マット:なるほど。相手とのやりとりについて変化はありましたでしょうか。集中して聞くことですよね。今この瞬間に集中して、先については考えられなかったはずです。そうやって本当に相手のことを理解できた時、よりよい対応ができるのです。私たちはあんまり人の話を聞きません。

まず自分の殻をやぶり、状況を定義し直す。これらは自分の頭の中でやることですが、そうして対応するよりも前に、まず人の話を聞かなければいけない。これから言えることというのが、「とりあえず我慢」です。聞いて、聞いて、それから答える。

良きスピーカーとなるための話の構成

ではどう対応するか。これが4つ目です。ストーリーにして答えるのです。しっかり構成されたストーリーを話すのです。良きスピーカーになるためのキーは、構成を持つことです。自発的な状況においてのコミュニケーションで使えるとっておきの2つを教えましょう。

でもその前に、ちょっと構成の価値について話したいと思います。これは「プロセシング・フルーエンシー」というものを高めます。情報を消化する効率のことです。構成された情報のほうが、そうでない情報より40%効率的に理解できます。

私たちは電話番号を記憶しなければいけなかった世代ですが、10桁の数字をどう覚えていたのか。3、3と4というふうにしていたはずです。

会話でも同じです。その構成を2つお教えしましょう。

1つ目は皆さんも聞いたことがあると思います。それは、問題、解決、利益という構造です。問題は何かということについて話すことが「問題」、そしてその解決方法について話すのが「解決」、そうすることによる「利益」です。説得力があり効果的です。

もう何年も前に私がこのキャンパスのツアーガイドだった頃の話です。1学期まるまる使って叩き込む最も重要なことって何だと思いますか? 中庭で1列に並ばされ、後ろ向きで歩かされるのです。こけたらやりなおし。そのおかげで今でもまだ後ろ歩きができます。そんなトレーニングの中でも最も重要だったのは、「絶対にツアーグループを見失わない」ということでした。

(会場笑)

本当ですよ。プレゼンターとしても同じことが言えます。「オーディエンスを見失わない」ということです。そのためには構成が必要なのです。もし私が「初めましてマットです、さあ行きましょう」とか言ったら誰もついてこないでしょう。どこに行くか。なぜ行くか。どれくらいかかるのか。人はそれを知りたいのです。

「問題」「解決」「利益」これはすぐにつかえて役に立つ構成です。「機会」「解決」という見方もできます。

もう1つの構成は、「何?」「だから何?」「じゃあ今は何?」という構成です。あるものについて、それが何か、なぜ重要なのか、そして次のステップは何かにについて話します。

質問に答えたりするためになかなか役に立つ構成です。「何」を「誰」に変えれば人の紹介にも役立ちます。自然な会話の場では、2つのことを同時にする必要があります。「何を言うか」と「どうやって言うか」を理解するということです。これらの構成に慣れておくと喋りやすくなります。

構成があるから自由に話せる

では練習してみましょう。

スリンキーという子供のおもちゃをご存知でしょうか。皆さんには、「問題」「解決」「利益」の構成を使って今からこのおもちゃを売ってもらいます。「何?」「だから何?」「じゃあ今は何?」でもかまいません。この構成を使ってどう話せるかを試してみてください。それではパートナーと一緒に始めてください。

売られた方、彼らは良い売り手でしたか? 構成はどうでした? 良いですね。余談になりますが、この後に配る配布物の裏に、今回説明した2つを含めた複数の構成のリストが載っています。言うことをうまく言うのに役立ちます。

皮肉にも聞こえますが、構成が皆さんを自由にするのです。構成がしっかりしていれば、言うことについて自由に考えられるのです。無駄なことを考えなくてすみますので。それも全部、配布物に載っています。

これらが何を意味するか。それは、私たちはすでに良きスピーカーになる能力があるということです。まず不安をコントロールすること。不安に向き合い、会話と捉え今に集中する。その次は、殻をやぶり、挑戦ではなく機会として捉え、しっかり聞き、構成を使う。練習すればやりやすくなります。

つまり、今これらのテクニックを用いることによって、皆さんはより有能で自信がありオーディエンスからのうけもいいスピーカとなる機会を得たわけです。もっと知りたい方には『Speaking Up Without Freaking Out』という本がありうます。私が著者で、MBAの学生たちにも読んでもらいました。さらに、私が監修したnofreakingspeaking.comというウェブサイトもあります。いかに効率的に話すかということが学べます。

上質な詳細を引き出す質問方法

宣伝はこのくらいにして、ここで私が本当にやりたかったことを紹介します。自然な会話を皆さんとしてみたいと思います。2つマイクがありますので質疑応答をしてみたいと思います。

観客:敵対している状況というものを説明していただけませんか?

マット:挑戦的な状況にある場合でも驚くべきではありません。話しだす前に、どう状況が変化していくかということを考えましょう。何も驚くことではありません。そんな状況になった場合は、まずそうなったことを認識すべきです。

感情を言葉にするのではなく、認識しましょう。「あなた怒っていますよね?」とか言ってしまうと、相手は「怒ってないよ!」となり、話題が感情の状態になってしまいます。「熱意があるのはわかります」とか「気にかかっているのはわかります」とかいう認識を与えて、意味のある対応をするのです。

例えば誰かがあなたに「その商品、何でそんなに高いの?」と言ったとしても、まずはその価値を伝えて、それによって値段がついていると答えるのです。つまり、価格について答えているけれど言いやすい捉え方にするのです。

そのためにも先ほどのテクニックを練習してください。ここであえて言っておきたいのは、状況を理解するということです。じっくり聞いて相手が怒っているという状況を理解して、説明の機会とするということです。

他に質問は? 

観客:良いプレゼンありがとうございます。

マット:ありがとうございます。

観客:私の場合、テレコムなどで離れたところにオーディエンスがいる場合が多いのですが、そういった場合のヒントは何かありますか?

マット:状況は今のこの状況とあまり変わらないと考えてみてください。 観客だったらどうするかというように想像させてみるのです。GoogleドキュメントやWikiなど、プレゼンの間に人々が活動でき、それをプレゼンターがモニタリングできるのもいいですね。そういったものによってコネクトするのです。

他に質問は?

観客:法律関係の証人を専門としているのですが、反対尋問の際のおすすめは何かありますか? 特に敵対している相手について(笑)。

マット:いかなる状況でも、とにかく重要なテーマを理解する必要があると考えています。そういったそれぞれのテーマに、主張をサポートする根拠があります。アイデアとテーマを押さえる。

もし自分がそのような状況にいたとしたならば、その場に適する形で切り抜けると思います。また、そういった状況で最善の1手となるのが言い換えです。それはコミュニケーションに置けるスイスアーミーナイフみないなものです。そうすることによって新たな捉え方がわかり、考え、うまくできるのです。

観客:良いお話ありがとうございました。最後のスクリーンを見せていただけませんでしょうか? 本のタイトルをメモしたいので。

(会場笑)

マット:もちろんです! 一応配布物にも書いてありますが、自分の著書のスクリーンをバックに話すのもいいですね(笑)。

観客:私は、様々な文化背景をもつ人々と働いています。今回のテクニックというのは万人に通じるものなのでしょうか?

マット:スピーカーとしてそうであることを信じていますが、誰が何を求めているのかということについて考えるのもリスニングのうちです。そういう場合には期待される基準があるとは思います。私が講演するときは、自分がどこにいるかについて考えます。

イグナイトプログラムというもののプレゼンを手伝ったのですが、その時は35人を相手にチリのサンティアゴでプレゼンしました。その時はその場所で求められていることを考えなければなりませんでした。どう質問してくるかなどといったことです。なので、これはリスニングの一環とも言えます。あと2つ質問に答えます。

観客:あなたも実際にうまくやっていたのですが、いいスピーカーは会話にユーモアを取り入れます。そうすることによるリスクと見返りはどんなものがあるのでしょうか?

マット:まずはありがとうございます。ジョークによってグッと近くなれるのですが、同時にとてもリスキーなものでもあります。文化によっては笑えなかったり、自分の思う笑いが相手にとってはそうではない場合があります。

リサーチによると、自虐ネタは王道のようです。最もリスクが低い。なのでユーモアについて考えなくてはならないことは、まず面白いかどうかです。これは聞けばわかります。次に、通用しなかったときのことについてバックアッププランを持つ。3つめ、これら2つについて心配があるならしないことです。

最後の質問者お願いします。

観客:私はジャーナリストなのですが、こういった臨機応変な質問をメディア対応について訓練した人たちにしなければいけません。

(会場笑)

このように完全武装した人たちからストレートな解答を得られるような質問方法ってあるのでしょうか?

マット:方法は2つ。まずは「なぜ」を使い層のように質問する。「なぜそう言うのか?」「どう感じるのか?」などです。もう1つは、私がよく使うことなのですが、アドバイスをさせるような質問にするのです。

「こんな状況になっている人にどんなアドバイスをすするのでしょうか?」というように。そういう質問をすることによって、回答者と質問者の関係性が変わり、より上質な詳細が得られます。なので、「なぜ」を使ってガイドを得るような方向に持っていくのです。

ではこの辺で終了させていただきます。今日は本当にありがとうございました。

(編集協力:伊藤勇斗)