スポーツジムのヒエラルキー

司会:せっかくの機会ですので、ご質問のある方は挙手をお願いします。

質問者1:田中先生の趣味ってなんですか?

田中俊之氏(以下、田中):趣味はありまして、それを言うのは恥ずかしいですね(笑)。

(会場笑)

田中:「それやってるのに大したことないなー」って思われるのが嫌なんですけど。スポーツジムに通うことが趣味でして、これは男性学をやっていることにおいて大変良くて。スポーツジムっておもしろくて、重いものを持ち上げられるほうが偉いんですよ。

だから重いものを持ち上げられる人が来たら場所を譲らないといけないんですね。

ジェーン・スー氏(以下、スー):なるほど。

田中:「軽いものしか持ち上げられないのに、おまえはなんでいるの?」っていうことになるので。そういう序列もあって、でもその中で平和が守られてるんですよ。一番重いものを持ち上げられる人は、いつでも笑みを浮かべているから、素人でも質問しやすいんです。「力が全ての世界」みたいなのがあって、おもしろいなっていう観察もできるし。

あと僕はすごい華奢だったんですよ。身長は180あるんですけど、高校のときは55キロしかなかったんです。今75キロあるんですけど。そしたらおもしろいもので、態度とかがでかくなってきた。

(会場笑)

田中:「俺の身体は前よりでかい!」みたいな。変な自信がでてきて。

質問者1:それだと嫌われちゃうんじゃないですか?

田中:そうなんですよ!

(会場笑)

田中:おもしろいですよね。ノートをとってるんです、自分の心境がどう変化したかについて。

質問者1:やってみたいなぁ。それで今、「俺、嫌われているぞ」みたいな。

田中:それ、今言われて初めて気がつきました(笑)。ありがとうございます。でもそういうところに行くと、結局運動をしているんじゃなくて。おじいさんとかは話をしに来てるんですよ。

そういうのに参加するっていうのは良いのかなと思うんですね。トレーナーの人と話したり、お友達をつくったりして。「会社以外のところに出て行く」っていうのは、すごく良いんじゃないかと思います。

突然の休みをどんなふうに使うのか

質問者1:もう1ついいですか。うちの夫は有給をすぐ取っちゃうんです。

スー:素晴らしいなぁ(笑)。

質問者1:会社が休日出勤したら、必ず代休を取らないといけないシステムになっていて。結構ぽかんと空いちゃうんですね。そうすると先生が仰ったように、何もやることがなくて。私はそのとき、体調が悪くて風邪を引いて寝込んでいて。でもやることがないから「出かけてくる」って言って、動物園に行っちゃったんですよ。

それがよくわからないんですよ。「なんで動物園行くの? 浮気してるんじゃないの?」って思ったんですけど、本当に1人だったんです。それぐらい男の人って、いきなり代休をもらっちゃったりすると、「1人で動物園に行かなきゃ」みたいな感じになっちゃうのか? それぐらい切羽詰まってるんですかね?

田中:そうなんですよ。だからゴリラとかご覧になったんじゃないかなと思いますけど。それはそれで深刻な問題で、さっきスーさんが「1日有給休暇をとってみたらどうですか?」っていうときに、何もすることがないわけなので。定年退職したら恐ろしいのは、それが毎日なんです。

スー:すごいですよね。

田中:だから大変だと思います。今のうちから備えられる。ジムでもなんでも良いんですけど、会社以外の場に出ていかれることをしてもらうのが良いし。熟年離婚も結構多いのは、やめて帰ってきて、毎日家に居て。毎日家に居られるのがストレスだって言ってやめちゃう人が多いんですね。結婚生活がそこまできて。

スー:それもひどい話ですよ。よく考えたらそこまでにコミュニケーションをちゃんととっとけっていう話です。それはそれで「どうかな?」って思いますよ!

田中:そうですね。社会学者で詩人の水無田気流さんが、電車の中で目耳にした話を教えてもらったんですけど。「誰々さん家の夫は、定年退職してすぐ亡くなられたんですって」って言われたら、3人の上品なお母様方が、「それはラッキーね!」みたいな話をしてたって言って。それはひど過ぎるっていう話をしてて。確かにひど過ぎますよね。

スー:そうですよね。大変だなぁ。本当に男の人も大変ですね。

質問者1:女性は唐突なお休みにいろいろやりたいことがあると思うんですけど、男の人は唐突なお休みに何かやりたいこととか、ポンとできない?

スー:聞いてあげましょうよ、会場の人に。今、目が合いましたけども、そちらの男性の方、「明日有給です」ってなったら何をしますか?

同棲をやめたら、やることがなくなった

男性参加者(以下、参加者1)1:最近同棲をやめたんですよ。

スー:同棲をやめた? おめでとうございます(笑)!

参加者1:同棲していたときは、土日に何かしら彼女とやりたいことを。遠くへ出かけたり温泉へ行ったりしてたんですけど、彼女がいなくなると、本当にやることがなくて。

スー:すごい、このリアリティ! 彼女の願いを叶えて一緒に遊んでいたつもりが、やることないねって!

参加者1:そうなんです。

スー:なるほど!

参加者1:とりあえずボウリングを始めました。

スー:いいじゃないですか、マイボールを持って。

田中:1人でも行けるしね。いきなりすごい当たりを引きましね。

スー:そうですか(笑)。そちらの男性、どうします? 明日有給だったら。

子供が生まれたときに「無職」と書いたら

男性参加者2(以下、参加者2):僕ですか。無職の方が進まないっていう話だったんですけど、僕は3回ほど立ち止まっちゃった人間でして。有給が無くて、本当の休みみたいな。

スー:長期休暇ってやつですね。

参加者2:その時は非常に心苦しいこともあったんですけど。自分で何とかするということで、趣味の古本屋で。

スー:自覚があって話がしやすいですね。

参加者2:ただ、考えてよかったと思うんですけど。シビアな場面に遭遇してしまうこともあって、子供が40前ぐらいに生まれまして。

生まれた直後に、病院の看護師さんですかね、「ここに書いてくれ」と、用紙を渡されて。そこに職業欄……。嘘をかけないので「無いです」と。大騒ぎというか、「ちょっと待って」みたいなことになって。

スー:それは失礼な話ですよね。看護婦って呼ぶなって感じですよね。わー、病院機関でもそうなんだ!

参加者2:そうです。相模原市の。

(会場笑)

なんとなく誤魔化すっていうか。「いやいや大丈夫です」みたいな。

スー:「事情があります」という話ですよね。

参加者2:「貯金もそれなりに」とか、ごちゃごちゃと言って誤魔化したんですけど。そういうこともあるなと。

スー:昼間に歩いてるとね、怪しまれるっていう。

参加者2:そうです。平日の昼間だったら。

スー:そういうことをするのか。

田中:それだから男性は生きづらいってなっちゃいますよね。

スー:それは本当に怒ったほうがいいですよね。怒れないですよね。おめでたい、めちゃ嬉しい瞬間でね(笑)。おめでとうございます。

田中:そうなっちゃうと、後ろめたさを感じなきゃいけないっていうのは、好きにできないですよね。そこだけですもんね、だって。不思議な格好されてたっていうことはないですよね? 当日ね。

スー:それすらも自由ですからね、本当は。

田中:自由ですよね。そうですよ。

スー:例えば酩酊状態だったとしたら、心配されるのもわかりますけど。

立ち止まってよかったと気づいた

田中:人を動揺させるプロフィールだっていうことですよね。ある程度年齢いった男性のプロフィールが無職あることを、驚きをもって捉えるということですよね。

スー:女の人で同い年くらいの、40代ぐらいで子供がいないっていうことで同じような驚きをされたら、結構な社会問題になりますけど。男性だったらそれは、社会問題にならないところではあるんですよね。

田中:そうなんです。未婚のこととかも実際そうだと思うんですけど、男性が未婚であることっていじられるんですよね。職場とかでも。女性に同じことをしたらセクハラだと明確に思うようなことを、男性はいじられるし。あと、ビックリされたっていうことですよね、今のお話で言えば。

スー:大騒ぎになったとおっしゃいましたけど。

参加者2:大騒ぎというか「大丈夫なんですか?」っていう。

田中:大丈夫なんですか、っていうことですよね。

参加者2:だと思うんですね。「紹介しましょうか」ってことだと思うんですけど。

スー:気持ちはわかりますけどね。お母さんが明日から働けないっていう状態で。

田中:でも立ち止まる機会があったことっていうのは、自分の中でよかったことってあります?

参加者2:今から考えると非常に良かったと思っていて。田中さんが書かれた、前の新書のタイトルを読んで、本当に我がことのように感じまして。

田中:そうですか。ありがとうございます。そう言っていただけると。

スー:気がつけたのはすごいラッキーですよね。比較的早い時期に。

参加者2:今振り返ればですよ。

スー:確かに当時は、いろいろ大変だと思うんですけど。永久にやることがないという方っていらっしゃいますか? 絶対何かあると思うけどな。

田中:何かありますかね。

スー:女はやることが多いんですよ、いろいろね。

田中:もう1回ぐらい男性に聞いてみましょうか。どうですか?

平日に休むということのメリット

男性参加者3:土日はすごく混んでいて。平日は現状休みだから、美味しいお店に入って。

スー:素晴らしい。

田中:いいですよね。

スー:それは私もやるかも。

田中:そうですよね。それも男性の生き方だと思うんですけど。土日って全部混んでますよね。もうちょっと分散して生きたほうがいいですよね。月曜日から金曜日は仕事っていうことにしちゃってるから、いろいろなところが混むし。

土日だったら行列のレストランとかでも、平日に行ったら空いてるとか、ランチのサービスがそもそもあるとか。休日にはない。いいですね。

スー:素晴らしい。すぐ思いつく人がたくさん来てますが。

田中:そうですね。それはすごい良い事だと思います。以上を踏まえて女性で何か疑問にもたれたことがあるとか、聞いてみたいことがある方とか。他にもう1人いらっしゃいましたけど。

司会:どなたかせっかくの機会ですので。

自分にできないことは、専門家に頼る

女性参加者4(以下、参加者4):ジェーン・スーさんの『相談は踊る』という本を、拝読させていただきました。

ジェーン・スー 相談は踊る (一般書)

スー:ありがとうございます。

参加者4:その中で「旦那が働くのが怖い」というのを見つけました。「自殺しようと思って川に飛び込んできて、ずぶ濡れになって死にきれずに帰ってきた」っていう相談がありましたけど、そうした男性に、田中先生だったらどのような言葉をかけるのか? それをサポートする妻にどのようなアドバイスをするのかっていうのを聞いてみたいと思いました。

田中:なるほど。

スー:先生もヘビーリスナーで?

田中:はい。僕は全部聞いてますよ。

スー:ありがとうございます。

田中:それはありましたね。

スー:一番難題でしたもん。

田中:まず1つ、妻ができることっていうのは、僕は限られてると思うんですよ。そういったことの専門家でもないでしょうし。一般的には女性相談の窓口っていうのは、各市区町村の男女共同参画センターとか、公民館に設けられてるんですね。

でも男性相談の窓口って設けてないところが、結構あるんですよ。しかるべき機関を紹介してもらって、専門家がある程度扱うことだと思うんですね。

身の回りの人ができることっていうのは、精神的に追い詰められている人は全て同じだと思うんですけど、「責めない」っていうことだと思うんですよ。「どうしてそんなことしちゃったの?」って言いたくなる言葉を、呑み込まなきゃいけないし。

夫婦とはいえ、自分にできることは限られるので。家族の問題って子育てもそうだと思うんですけど、日本人はもっと専門家に開いていたほうがいいと思うんです。自分たちだけで、愛情でなんとかしようとするんですけど。愛情でカバーできない専門的な助けが必要な場合が多いんですよ。

そのケースでいえば、自分たち以外の家族と手を結んで、その人の問題を解決していくっていうことをやっていかなければいけないし。自分が元気で明るいのであれば、それをサポートしてもらえる専門家と、どう繋いでいくかっていうことを努力するしかないですよね。

あと、「自分のせいでこの人はこんなふうになっちゃった」とか思う必要は無いでしょうし。

スー:難しいですよね。

田中:そこまでしなくても、そういうレベルで追い詰められている男性は、僕は結構いるんじゃないかと思っていまして。現場の窓口が少ないって話をしましたけど、少ないってことの問題じゃなくて、設置してもかかってこないっていう問題があるんです。だから今、公の事業でも業績評価なんて、かかってこない事業は継続できない、予算が取れない。

この事業は人気があるから、公務員の事業でも予算をつけるっていう話になっちゃってるんですよ。でもかけられないこと自体が問題だから、そういうところのジレンマっていうのを僕はすごく感じます。男性の運営について言えば。

考えるより、行動して試してみよう

司会:最後にお二方から一言ずついただいて終わりたいと思います。

田中:本日はありがとうございました。「自分の頭で考えろ」っていうアドバイス以外に、どうしていくかっていうことを考えたんですけれども。スーさんと一緒にお話しまして、具体的に何か行動して、試してみるっていうことはいいなと。

抽象的に物事を考えて、俯瞰して自分で考えなさいみたいなアドバイスって正論で。たぶんそういう本もいっぱい売っていると思うんですけど。

「自分を変えたい」っていう時には、具体的な行動をしたほうがいいし、それで示してもらえて、「あっそうか」って思うんであればそれで全然構わないと思うので。

有休を取るっていうアドバイスが出ましたけど、他にも何か会社中心の生き方になっているときにできることがあるでしょうし。もしご夫婦であれば、今日は女性の参加者が多かったので、パートナーの方に掛けられる言葉とか、してもらうことによって何か変わってくることがあると思うので。

具体的に何か行動に移してみるということが、1つの中年の男性の生きづらさを突破する糸口としていいかなと思いました。ぜひ何か試してみてください。

男性優位社会は超一部での話

スー:ありがとうございました。仕切りたがりなので、田中先生のイベントなのに喋り過ぎました、こういう感じで生きてきたから独身でして……。

歳をとって思うのは、女だけが差別されているという意識を強く持ちすぎるのは視野を狭くするだけだと。それを声高に言ってもあんまり物事は解決しないっていうのが私の持論でございまして。

これもまた正論とは離れてくるんですけど、愛情を持つ相手であれば、1回は「大変だよな」って言って肩を叩いてやるということが、親にしろ、兄弟にしろ、パートナーにしろ、話が早いというのが実感です。すべての男性が優位な社会じゃなく、超一部の男性優位社会なんで。そこは勘違いしないほうがいいかなと思っています。

田中:しかも「女の人のほうが大変だ」っていうことを、まともに耳を傾けるような男性っていうのは、ここの会場に来るような人なんですよ。「女の人が大変だ」って言っても無視するような人は、ここにいないような人なんですよ。

だから「女の人のほうが大変だ」って主張しちゃうと、女の人と手を取り合えるような男性を萎縮させちゃう危険性があって、届けたい人にはまったく届かず。結果、その人たちの思うようになっちゃうんですね。

女の人と共存できるような男性の芽を摘んじゃうことになると思うので。現実的な効果として、そのことを訴えることの意味がどういうものであるのかっていうのは、考えてもいいかなという気がします。

スー:欲しい結果から逆算して描く行動っていうのを心がけています。

司会:では時間がきましたので、トークイベントを終わらせていただきます。田中先生、ジェーン・スーさん、どうもありがとうございます。

田中:ありがとうございます。

スー:ありがとうございました。

(会場拍手)

<40男>はなぜ嫌われるか (イースト新書)