農家と田舎暮らしに対する憧れ

ふくだ峰之氏(以下、ふくだ):そもそも何で農家の家なの? これがわかんない。変な話だけれども、農家で生まれた娘さんが地元から出て行って、東京で働きたいという人のほうが、圧倒的に多いわけじゃない。

「あえて農家にというのは何なの?」という素朴な疑問があると思うんですね。田村ちゃん、その話聞いた?

田村篤久氏(以下、田村):いや、まだこれからです。

新谷梨恵子氏(以下、新谷):やっぱり最初は田舎暮らしに対する憧れだったんですけれども。

学生時代にいろいろなところに農業実習に行って、だんだん現実のものとして、自分の将来、どこに住んで、何をしたいかと考えたときに、やっぱり生きる原点というのは、農業かなと思ったんですね。

私は農家の出身じゃないからこそ、そういうところに行って、そこで町おこしをしたいなと思ったので。今では、新潟に行って15年経つんですけれども。

やっぱり東京に帰ってくると、「もうすぐ帰りたいな」と思ってしまうくらい懐かしいというか。

大学の合コンでは農家の息子を探していた

ふくだ:じゃあ、どこで出会ったの? お見合い?

新谷:いえ、違います。大学の先輩なんですけれども。サツマイモ結婚式というのをしたんです。

田村:大学はあれですよね。

ふくだ:農大。

田村:東京の。

新谷:東京農大の先輩なんで。その大学で知り合った主人の実家が、新潟の小千谷だったんです。

ふくだ:それもしかしたら、結婚を前提とするお付き合いの方は、「まずどこ住んでるの?」と聞いて、「遠い人以外はお付き合いしません」。という感じだったの? 逆に。

新谷:そこまではしなかったんですけど。よく大学時代、合コンなんかあるじゃないですか。そういうとき、私いつも「おうち、農家?」って聞いてたんですね。案外、農家さんっていなかったんですね。

けど今思うと、みなさん農家だったかもしれない。農家だったんですけれども。せっかく「大学で4年間遊んでこい」と言うときに「俺は将来農業継ぐぜ」と言う人はあんまりいなかったんですね。

ふくだ:隠してたんだ。

新谷:隠してたかもしれないですね。そんなときに今の主人が、「俺ん家は農家みたいなもんだ」と言ったのでその言葉を信じて。大学卒業したのが3月で、6月に嫁に行ってしまった。

田村:22歳ですよね。

新谷:そしたら、家の周りは田んぼと畑しかなくて、「これは農家だ」と思い込んだら、目の前が全部人の家で、周りは借地だったという……。実はだまされていたんですけれども、行ってから気がついて(笑)。

3万人の観客の中で挙げたスイートポテトウェディング

新谷:それなら自分で農業しようかなと思って、「農園ビギン」という会社に就職をしました。それでこれが「芋神様に愛を誓う。」というサツマイモの結婚式でして。

田村:芋神様という神様、もともとあるんですか?

新谷:千葉県にありまして。

田村:勝手につくっちゃったわけではない。

新谷:千葉県の栗源町というところに日本一の焼き芋祭というのがあって、そこで。

田村:焼き芋を食べながら。

ふくだ:これは披露宴なわけ? 披露宴というか、お披露目会なの?

新谷:スイートポテトウェディングという(笑)。すごくマニアックなことを言ってるようなんですが、3万人の観客の中、ヘリコプターで登場するという。

ふくだ:3万人?

新谷:って言っていました。本当か嘘かわからないですけれども。

ふくだ:5万人かと思ったけれども。3万人か。

新谷:わからないです。そういうみなさまの前で。

田村:これ、1組だけやるわけじゃないですよね。

新谷:2組なんですよね。

田村:ああ、でも2組なんですね。

新谷:2組だけの結婚式で。

ふくだ:でも、すごいよね。バイタリティというか……。農家やろうと思って行ってきました。だけどなかった。じゃあ、何か新しい展開をしようと思ったときに、普通諦めちゃうじゃない。「まあいいか」みたいな。その諦めないというのは、何がモチベーションなの?  新谷:そうですね。やっぱりこのサツマイモを、小千谷で特産化したい。サツマイモでやっていきたいというその思いですね。15歳のときに自分で決めた人生で。やっぱりおいしいものを伝えたいという思いがあったんですね。

その中で、このサツマイモだったり、新潟県の食材であったり、やっぱり人においしいと言ってもらえると、本当につくっているほうとしては、私も元気になるので。

その原点があって、今こうしてお菓子をつくっても、夏は違う農産物をつくっていても、そういうおいしいという笑顔を見られると、頑張れたというのはありますね。

ふくだ:サツマイモじゃなきゃだめだったんですか? 別にじゃがいもでもキャベツでもよかったんじゃないですか?

新谷:だめですね。

ふくだ:なぜサツマイモなんですか?

新谷:サツマイモがよかったので。小千谷で、新潟でサツマイモというイメージはまだないと思うんですが、いつか新潟で「おいしいサツマイモがつくれるんだよ」「新潟のサツマイモおいしいんだよ」というイメージに変えていきたいというのがあって。

ふくだ:サツマイモが好きなわけ?

新谷:好きなんです。

ふくだ:好きなんなら、しょうがないよね。僕はサツマイモとじゃがいもだったら、じゃがいものほうが好き。人それぞれあるものね。

新谷:そうですね。

ふくだ:好きなのね。じゃあ、それが一番いい。

田村:周りにはもともと全然サツマイモ畑はなかったんですか?

新谷:なかったですね。小さい頃から田舎暮らしというのがなかったので、畑も田んぼもない状態ですね。

ふくだ:新潟はやっぱり、お米だよね。

新谷:そうですね。

ふくだ:基本的にはね。

農業の6次産業化と国の認定

新谷:やっぱり「お米でこれからも頑張っていきたい」という思いは、新潟県もあると思うんですが、いろんな切り口から農業という部分は頑張っていきたいなと思うので。

今、農家が加工して売ることを「6次産業化」という言葉が出ていて、私はその6次産業化という「総合事業化認定」というのを先月取りまして。

その認定を取って、農家さんがこれからもっともっと元気になって、地域で活性化していくというのをイメージしながら、これからもやっていきたいなと。

ふくだ:(総合事業化)認定を取ると、何が変わるんですか?

新谷:この総合事業化認定というのは国の認定なので、地域の担い手としてその6次産業に取り組んでいるという認定を受けるんですね。

そうするとその先に、何か建物を建てたいとか、アドバイスを受けたいというときに、すごい有益であるんですけれども。

今回取ったのは、地域の担い手としての意識づくりですね。会社内でそういうことに取り組んでるんだよという意識づくりもかねて取りました。

ふくだ:6次産業化って、今までいろいろ言われていたんだけれども、正直な話そんなに成功モデルというのがあるもんじゃないわけよ。

言うのは簡単だけれども、実際に6次産業化するということは。例えば取る素材も良くなければいけない。あるいはその加工するときの内容もよくなければいけない。

あるいはその先のマーケット。本当に売れるのかどうかということをトータルでプロデュースしてやっていかないと。つくったはいいけれども、売れないんじゃ意味ないじゃない。

だから成功事例というのは、たくさんあるようでない。結局、その中で売れていくとか、みんなに注目してもらえるというのは、他の6次産業と違う何かがあるんですか?

農家は作るプロであって、売るプロではない

新谷:そうですね。「農家が自分たちで売り込め」というのも、今言われているんですけれども。

農家というのは作るプロであって、売るプロではないというのを、自分が取り組んでみて感じているんですね。実は私、東京にいた頃に東京ドームのビール売りをやっていたんですね。

あれをやっていたときに、とにかく売る根性というのを養って、新潟に行ってから最初はもう行商みたいなところからスタートして、自分で売り込んで、自分で本当に芋を持って、飛び込みみたいな感じでやっていたんですね。

でも、これを農家さんたちにやっていってもらうのは、やっぱり難しいので。私、今後6次産業化プロデューサーというのを取って、農家さんと消費者をつなぐような仕事をしていきたいなと思っています。

農家さんとして必要なのは、まずおいしいものをつくる。その原点を守っていくことじゃないかなと思いますね。

ふくだ:これ、その通りだと思っていて。結局どんなにおいしいものをつくって、どんなに良いものをつくっても、そのためには研究をしなければならないし、大変だし。

だからそうやっておいしいものをつくっても、売り先がなければ結局高く売れないでしょう。そうなると、例えば農協とかに出していくだとか。

中間に出していかない限りは、最終消費者に届かない。だけど真ん中があればあるほど、結局利益は下がっていく。そのときに、やっぱり重要なのは売り先支援だよね。

新谷:そうですね。

ふくだ:今や重要なのは、売り先支援で、例えば、良いものを作る知恵なんていうのは、逆に言うと誰かがどうだと言うよりも、農家の人がやっぱり詳しいわけで。

農協と農家の協力関係

ふくだ:売り先支援も今までの農協がどこまでやっていたのだろうか。変な話だけれども、やっていないから売り先を支援するようなベンチャー会社とかが出てきて、結局そこに任せようみたいな話になっていくじゃない。

売り先支援というのは、農協とも関わっているかもしれない、農家の人とも関わっているかもしれない……誰がやってったらいいんだろうね。

新しく、全然違う感覚でその新潟にお嫁にいった人がやるとかね、いろんなことがあると思うんだけど、そうすると売り先支援の主体ってこれからどこがやったらいいの? 

新谷:私は農家に寄り添っていけるような人がいいと思います。自分自身、こういう加工して販売していく中で、やっぱり農家の目線でやってくれる人っていうのが、なかなかいないなっていうのは感じるんですね。

工業製品ではないので、いきなり100、1,000と言われてもできない。でも、その同じ目線で長い目で見てお付き合いしていただけるというのが、農家と同じようにやっていけるんじゃないかなって……。

ふくだ:それ、農協はできないわけ? 僕はそれを農協にやってもらいたいって昔から思っていたし、だけど実際はなかなか対応しきれてないでしょ。それは何でなんだろう? 一番許せるのは本来であれば農協でしょ。

新谷:きっと意識の問題かなぁと思うんですよね、やっぱり意識の中で「農協さんが全部やってくれる」っていうイメージもあるかと思うので。

6次産業化という言葉も最近出てきたかと思うので、農家がこれから自分たちも顔を出して、売っていくんだという意識になるといい関係が築けるんじゃないかなって思いますね。

農家を身近に感じてもらうプロデュース

新谷:いろんな切り口から宣伝しているので、私はその芋芋芋芋言ってるんですが、いろんなプロデュースというか、こんな感じで売り出したりとかしてるんですね。

田村:これ、一見お花に見えますけどね。違うんですよね。

新谷:これは農産物の。

田村:よく見るとこれアスパラガスですね。

ふくだ:アスパラか。

新谷:そうなんです。アスパラフラワーブーケというのをつくって、小千谷市にあるブランさんという花屋さんでコラボをしてるんですね。

そうすると、花屋さんと農家が手を組んでコラボをして、母の日に売り込むとか、いろんな切り口ができるんじゃないかなと。

ふくだ:これ、アスパラ以外には野菜なんかあるわけ? これなんかハーブで食べれるとかそういう感じじゃないの?

新谷:これ去年のバージョンで、今年はアスパラと食べられるお花のベジドレッシングというのをコラボしてつくったり、そういう形でいろいろな異業種とコラボすると農家がまた注目してもらえるんじゃないかなと。

できることと、やっぱり無理してまでやることではないっていうのといろいろあると思うんで、こうやっておいしく食べてもらう、農家を身近に感じてもらうということもできたらおもしろいかなと思ってますね。

ふくだ:これおもしろいね。これなんか例えば、ここにある野菜を全部もらった人が紐解いてやると、これ全部でサラダになるとかね。

新谷:いいですね。私も母になって、母の日ってお花もうれしいけど、食べられるもんがいいなぁなんて思ったんですね。

そういう母の意見とか、お父さんたちに来月父の日もあるんで、また父の日は父の日で、そういう形で仕掛けていきたいなって思ってるんで。

ふくだ:すごいねー、いろんなこと考えてるねー。