なぜグローバルが重要なのか? 経営者たちの見解

小野裕史氏(以下、小野):お三方のプロフィールを含めて会社の説明をしていただいたんですけど、改めて「日本からグローバルに通用する製品・企業を創る」ということでこのセッションを進めていきたいと思います。

そもそも、「グローバル、グローバル」とよく言うんですけど、「なんでグローバルやないとあかんのや?」と。そのあたりの「そもそもグローバルってなんぞ?」という、それぞれの考え方と、「なんでグローバルなの?」という根本的なところを、普段考える機会ってひょっとしたらないんじゃないかなと思うので、そのあたりの考え方をぜひお三方に聞いてみたいんですけれども……いかがですか?

千葉さんはグローバルというキーワードをどう捉えていて、なぜそれが重要なのか。

千葉功太郎氏(以下、千葉):僕は純ドメでして。純粋ドメスティック。国内で育ち、慶応で楽しく過ごし、そのままずっと日本で生きてきたので英語がまったくダメで。

一念発起して今年の1月から、いまさら41歳にして英語を一生懸命頑張りはじめたんですけれど。僕にとってのグローバルは、もう当たり前のものにしないと、我々日本人は生きていくことすらできないものだと思っています。

なぜならば、昨日も話したんですが、日本はもう人口がこのままでいくとすごく減っていくんですね。今の0歳児人口はいよいよ100万人を割る水準まできて、ここから90万人台80万人台と下がっていって、我々のようなオヤジがどんどん高齢社会のほうに上がっていくと、少なくとも日本の人口はどんどん少なくなっていきます。

なので、インターネットサービス、まあどんなサービスも同じなんですけど、国内で何かをやっていてもたぶん意味がない時代になってきてしまうので……。

小野:マーケットが小さくなっていくということですね。

千葉:小さすぎる。今まで日本が良かったのは、中途半端に国内マーケットが大きくて、成熟していて、お金も流通していたから、国内でやっても十分大きな産業がつくれた時代だったんです。ここから10年20年で見たら、どう考えても国内向けにやっても効率が悪いし、極端なことをいうと、意味がないと思うんですね。

なので、最初からスウェーデン、北欧のように全世界向けにサービスを提供していくというのが当たり前の考え方になっていくんじゃないかなと個人的に思っています。

小野:ありがとうございます。浜本さんはいかがですか?

クラウドサービスによるビジネスの変化

浜本階生氏(以下、浜本):僕もまったく同感なんですけど、最近サンフランシスコで人材採用をするために面接をするようになりまして。それで候補者の人と会うと、その国籍が全部違うということが当たり前なんですね。アメリカ人ももちろんいますけど、本当に世界中の国籍の人がいる。

僕が最近面接をした人だと、モンゴルの人やバングラデシュの人、サウジアラビアの人と、まさに英語を使うという共通点以外は極めて多様性があって。その考え方というのは、当然今起きるべくして起きていることかなと思うんです。AWSのようなインフラストラクチャーが完全に国に依存せずに、どこでも立ち上げることのできるサービスを実現可能にしているわけで。

つまり、Amazonを使えばシンガポール、アメリカ、日本もブラジルもそうですけど、いろんなリージョンですぐにサーバーが立ち上げられる。そうすると、もう特定の場所に依存する意味はどんどんなくなってきている。ちなみに日本でも最近候補者の人と面接していて、日本国籍じゃない人はかなり増えてきているんですよね。

その人たちはもちろん日本語はあまり得意じゃないかもしれないけど、英語は普通に使えて、技術力がすごく高いと。そうすると、日本人で日本語がすごく使えるんだけど技術はそんなにないという人と、英語が使えて技術がすごく高い人とどっちを採用しますかというと、それはやっぱり後者だと。日本でもだんだんそういう動きは強くなってきているんじゃないかなと思いますね。

小野:玉川さん。

玉川憲氏(以下、玉川):いくつかあって、「グローバル」と言ったときに、日本だと漠然とグローバルと言うんですけど、実は日本市場とか北米市場とか中国市場とか、それぞれ全然違う市場全体を言ってるんですね。

実際、我々の会社でもグローバルに出て行きたいと言ったときに、純粋に「日本→グローバル」と考えているのかというとそんなことはなくて。

「シンガポールへ行くんだったらどうしたらいいんだろう?」とか「北米に行くんだったどうしたらいいんだろう?」と、すべての市場ごとに違うアプローチがあると思っています。なので、そんなに簡単な話ではないんですね。

一方で、グローバルと言ったときのそれぞれ個々の市場の仕切り、バリアは解けていっているというのも確かなんです。FacebookとかTwitterとかソーシャルで、英語で世界中でつながる。とは言っても先進国が中心ですけど、つながるようになってきていますし。先ほど浜本さんがおっしゃったように、AWSのようなものが出てきたら全然これまでの考え方と変わってくるんですね。

何が違うかというと、例えばAWSのようなクラウドが出てくる前は日本でコロプラさんのように、サーバー立ててつくりましたと。すごいゲームができたから、今度インドネシアにいこうと思っても、インドネシアのサーバーの規格、電源の規格、ネットワークのコスト、全然違うんですよね。そんな中で出ていって、つくって、やっていこうと思うとすごく時間もコストもかかった。

それが今、グローバルでどこでも使えるデータセンターというのができているので、ボタンをピッと押せば、それを特定の市場に持っていけると。みなさんNetflixさんって知ってますかね? 日本にくるんじゃないかと言われている動画の見放題サービス。ひと月1000円ぐらいですかね。北米の夜のインターネットのダウンロード回線の60パーセント以上がNetflixだと言われているぐらいシェアを持っています。

NetflixのCTOが3年前ぐらいに日本にきたときに言っていたのが、「ケン、俺はNetflixのこのサービスを日本で展開しようと思ったら半日でできる」と。サーバーを持ってくるだけですからね。もちろん版権の問題とかいろいろあるんだけど、それぐらいバリアが下がってきているということがあると思うんですね。

玉川:もう1つ、特に我々の企業はソフトウェアとかインターネットサービスをやる企業なので、大きく昔と違う点というと、経済原理が変わっていると思っています。トヨタさんとかソニーさんとかはすごい企業で、車とかを世界中に売っていっているじゃないですか。

でも、車は売るときにモノをつくらなきゃいけないので、製造原価がすごく高いんですよね。世界中で売って、すばらしい企業さんが頑張っているんですけど、あれはすごく大変なことで、どこで売っても製造原価がかかると。

ただ、ソフトウェアとインターネットになった瞬間に、1回つくったらそれのコピーは無料なんですね。日本だけで売っている企業と世界中にそれを展開できる企業は、圧倒的な差がつきます。

これは中で働いているエンジニアや、みなさんの給料にも圧倒的にはね返ってくるんですね。だから、世界中に展開できる企業とそうじゃない企業で全然社員の待遇も変わってくるし、競争力も変わってくる。

そういう意味で、僕は非常に焦っていて、早いうちにグローバルで戦えるインターネットサービス企業、ゲーム会社さんなんかはだいぶやれてきていると思うんですけど、そういう企業がどんどん出てこないと、相対的に日本人がいろんな国で活躍できる幅が狭まっていくんじゃないかなと思っています。

小野:ありがとうございます。いろんなキーワードがあったんですけど、1つはどうやったって国力が下がってマーケットが小さくなるから、マーケットを変えないとだめだよね、というビジネス的な側面。

あとはインフラの面ですよね。AWSしかり、コロプラさんとかスマートニュースさんは、スマホアプリに関しては販売・宣伝はAppleやGoogleがやってくれる。これは今までにはなかった世界ですよね。

サーバーのインフラという問題もそうですよね。Amazonさんが全部用意してくれている。だから日本でやるということのそもそもボーダーが解けているというマーケット的な広がり。逆に言うと、それによって海外の人がどんどん日本にきてしまうから、競争優位性をつけていかないと我々はサバイブできないぜと。そんなグローバルの重要性があるという話だったと思うんですが。

日本のIT業界と世界の壁

小野:改めて、みなさんもインターネットを使っていてたぶん感じると思うんですが、Facebook、Twitter、Google……日本製のもので世界に広がっているものって、残念ながら……まあゲームの世界は頑張っていると思うんですけど、ほとんどないですよね。

でも一方で、古く見渡すと、まさにさっき出たホンダさんやトヨタさん、ソニーさんなどは世界で戦っていて、(製品を)世界に出していた。

インターネットという業界も含めて、なぜそれができなくなったのか? このあたりは、それぞれお三方はどんなふうに捉えていらっしゃいますか? 何がいけなかったんだろう? 難しいテーマなんですけど。

玉川:先に言ったほうが楽なので先に(笑)。インターネットの起こりってアメリカなんですよね。先に走ったアドバンテージというのが、英語の広がりと相乗効果があって、どんどんコンピュータサイエンスという意味で前を走りきっているのがアメリカなのかなと思っています。

それは今ぱっと見渡してみても、世界中の国においてコンピュータサイエンスのディグリー(学位)を持っている人が何人ぐらい生み出されるのかを考えたときに、圧倒的な国力の差として出てくると思うんですよ。

なので、みなさん今からでも遅くないので、特に技術系に拒否反応がない人はぜひコンピューターサイエンスを勉強するといいと思います。そんな大変なことではなくて、学術エリアの1つなので。どんどんそこの人が増えてきたほうがいいと思いますね。インターネットという世界においては。

小野:言語的な、逆に日本的には不利さがあったというのが1つ、なかなか生み出せていなかったという背景。

玉川:不利さがあったのは、インターネットが先に起こってきて、そのときに日本は決して遅くはなかったはずなんだけど、よくガラパゴスみたいな言われ方をするんですけど、インターネットも標準規格にならって出すというのは大事なんですけど、そこで英語の壁はあったのかなと思っていて。

世界中の人と話が合って、「じゃあうちと組んでこういう規格をつくりましょう」といったときに、どうしても置いてけぼりになりがちなのか、もしくはそこで絡むのがしんどいから「自分たちで日本国内で標準規格をつくろう」みたいなやり方をすると、結局周りの国から受け入れてもらえないというところがあると思うんですよね。

でも一方で、日本ってトヨタの「カイゼン」なんかもそうなんですが、そのあとは任天堂さんとか、ソニーのPSPとか、あれはまさにプラットフォームビジネスなんですよね。プラットフォームで世界を席巻した。

AppleとかGoogleも実はそれを見習ったというくらいなので、日本人にそれができないかというと、できる。ただインターネットの世界でそれができていないということですよね。

まずは日本市場を絶対に守る

小野:そういう意味では、これからまだまだチャンスがあるということで、千葉さん、浜本さんのお二人はまさに今実際の展開をされていると思うんですが、例えば、グローバルとひと言で言っても、まさにそれぞれエリアが違うと思うんですけど。

そのエリアに、いつ頃から、どういう理由で攻め始めたのか、そのあたりを聞かせていただければと思います。

千葉:コロプラはスマートフォンのゲームをつくっているので、当然大先輩である任天堂さんをはじめとした大手のゲーム会社様が過去に世界中で展開してきたように、ゲームは世界に提供していくものだというのが大前提としてあったのですが、さっき小野さんがおっしゃった通り、結構悩んだんですよ。

インターネット業界って過去いろんな日本の有名インターネットベンチャーが世界に進出してM&Aしたり、現地に法人つくったり、中国にいったりしながら、だいたい3年後ぐらいに血を垂らしながら戻ってくるというのが繰り返されていて。なかなかうまくいかなったんですね。

やっぱりそういう過去の大先輩方の例を見ていても、日本人が世界で戦っていくのが難しいのはなんでなんだろうなと悩んでいるときに、我々の場合だと結構保守的に考えています。

これだけ頭の良い人たちが体力を持ってこの10年取り組んで、期待値を超えるような成果が出ていないのであれば、我々がやってもきっと同じ成果が出るだろうと。

なので、コロプラは逆にドメスティックに、あえて最初振って、最初の6年間は完全に日本市場だけで徹底的にマーケティングして攻略して、日本人が大好きなゲームをつくりこんでいく。

こういうことをやり、その目的は体力をつけることですね。やっぱり世界で戦うために、これってインターネットのビジネスの戦争なので、兵力を分散させることの危うさもあるだろうと。

なので、もともと小さいインターネットベンチャーなんだから、なるべく1箇所にすべての頭脳と最大兵力をためて、国内市場は絶対に守る。小野さんが言う通り、スマートフォンの恐ろしいところはワンボタンでどの国にも提供できるんですね。うちだって別に英語版つくってポチっと押せばUSに10秒以内に配信ができるわけですね。

でも、逆にそれをやられることによる、いろんな国から日本市場への入り込みも起きてくるので……。

小野:実際ゲームもきてますもんね。

千葉:どんどんきている。彼らが怖いのは、日本に支社すらなくても日本でトップランカーになっていくんですね。なので、まず我々がとった戦略は日本市場をある意味守ることですよね。日本市場におけるポジションをつくり、しっかりと足場をつくり、ここは崩されない。これができてから海外にいこうと。これが実は昨年の秋なので、お恥ずかしながらこの1年なんですね。でもそれは結構意志を持ってそうやってきています。

最初は一番日本に近いだろう台湾、韓国、香港のあたりからですよね。やっぱり台湾とかは非常にウケがいいので、うちのゲームは基本的にはそのままヒットしていくんですけど。

少し文化の違う韓国。最近だと、中国。「白猫プロジェクト」が中国でもトップランキングに入るようになってきて。それで次はやっと北米、というような順番で取り組んでいるところです。おっしゃる通り、国ごとです。

アメリカか東南アジアか スマートニュースの決断

浜本:スマートニュースは日本でローンチしたのが2012年の12月で、アメリカバージョンを開始したのがその1年10ヵ月後だったんですね。

小野:非常に早いですね。

浜本:早いかどうかはわからないんですけれど、どうしてそれぐらいの時間がかかったのかというと、「ニュース」というフィールドの持つ特性もあるかなと思ってまして。

例えばメッセンジャーのようなツールの場合だと、仕組みとしてはユニバーサルなものを提供して、その仕組みの上でユーザーが勝手にその国の言語とか文化の違いに基づく自発的なアクティビティを行ってくれるから、我々がもしメッセンジャーの会社だったら基盤の部分を提供すればそれでいいと思うんですね。

だけどニュースアプリというものは、ニュースのコンテンツ自体がとても言語や文化の影響を強く受けていて、例えば日本だと、僕たちは「グルメ」というチャンネルを設けていておいしい食べ物の情報が読める。でもこれって日本特有なんですよ。日本人っておいしいものが大好き。食べにいくのが大好き。なんだけど、アメリカでは意外とそこまでではないということがあったりするわけです。

このような文化の違い、言語の違いみたいなものを本当にきめ細かく考えないと成功できないという意味で、ニュースの分野は特殊で。スマートニュースが海外に出ていこうというときに、アメリカにいくのかそれとも東南アジアにいくのかという議論があったのですが、アメリカを選んだ理由は英語で、かつマンハッタンを中心とする世界のトップレベルのニュースメディアが集結しているからですね。

もしこれが東南アジアだったとしたら、おそらく僕たちがタイ語、タイの文化、それからインドネシア語、中国語みたいな感じで、完全にフラグメント化された言語や文化をしっかりと考慮に入れてやらなきゃいけなかったわけなんだけれど、それは大変難しい。僕たちはタイ語のことが一切わからない。

でも英語のことはある程度わかっているし、もっと勉強し続けることによって、より英語圏における情報に自分自身の体験として、社員自身の体験として触れていくことができるだろうと、そういう理由があってアメリカを選んだんですね。それは成功だったと思ってはいるんですけど、ただ準備にはやはりそれなりの時間はかかったという感じです。

千葉:カルチャライズですよね。

浜本:そうですね。

海外の優秀な人材は縁でつながる

千葉:みなさん「カルチャライズ」という言葉を知ってます? アプリをただ単に言語だけ翻訳しても、さっきのツール的なやつならそれでいいんですけど、コンテクストが入るようなサービスの場合は、全然意味がなくって。当然ニュースもそうだし、エンタテインメントもゲームも、本当に言語圏および文化圏によってまったく使われ方と盛り上がるポイントが違うので。

今、同じ「白猫プロジェクト」というゲームを韓国語版、中国語版、北米版、それぞれ提供してるんですけど、ゲームのつくり込みとか、意外と直してるんですよね。キャラクターのデザインから色合いからゲームルールまで、結構踏み込んで変えています。そこまでチューニングして初めてヒットするしないという手間暇がかかるので。ワンボタンだけど、ワンボタンじゃない。

玉川:お二人にお伺いしたいんですけど、浜本さんのところは還暦のVPがいたじゃないですか。業界のキャリアを築いてきた人をVPに据えていてすごいなと思ったんですけど、どうやって見つけたのか。あとコロプラさんがアメリカに行くときはどういうアプローチ……人を取ったのか、行ったのか。そこをお伺いしたいなと。

浜本:今スマートニュースのサンフランシスコでVice President for ContentということでメディアBiz Devのトップを務めているのが、さっき写真に出てきたRichという人物です。彼をどのようにして見つけたのかというのは、なかなかおもしろいエピソードがあります。

まず、スマートニュースのエンジェルインベスターの1人が「こんなおもしろい人がいるよ」ということでアメリカのエンジェルインベスターの人を紹介してくれたということがありました。そのアメリカのインベスターの人が「こんなにおもしろいHRの人がいるよ」ということで、人材採用のプロ、リクルーターの人を紹介してくれたんですね。

この人と会ってみたら、単なる仕事としてアメリカでの人材探しに協力しますよというレベルを遥かに超えて、スマートニュースのことを大好きになってくれて。最後にはもうスマートニュースに入りたいと言ってくれたんですよ。今、もうメンバーなんですけど、このHRの人が見つけてきてくれたのがRich。

という感じで、人が良い人を紹介してくれて、その良い人が次のまた良い人を紹介してくれてという、まさに縁というか、素晴らしい人は素晴らしい人を知っているという、そういう縁によって今チームをつくれているという感じです。