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基調講演・吉岡マコ氏(全1記事)

2015.11.25

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うつ、乳児虐待、早期離婚--なぜ産後危機は訪れるのか

提供:リクルート

リクルートが「子育てしながら働きやすい世の中を、共に創る。」をキーワードに、育児を応援するiction!プロジェクト。「育児×働く」の課題に触れることを目的とした今回のイベントに、産後を起点とした社会問題の解決を目指すNPO法人マドレボニータの吉岡マコ氏が登壇。日本は妊娠・出産までのサポートは手厚いが、産後のケアは不十分だと吉岡氏は指摘します。産後うつ、乳児虐待、早期離婚など産後にまつわる社会問題がなぜ起きてしまうのかを解説しました。(2015年9月4日・14日のログ)

産後の心と体をケアするマドレボニータの活動

吉岡マコ氏(以下、吉岡):よろしくお願いします。ここまで子育ての環境、それから子供についての話だったと思うんですけれども、私達は子育てをする前の出産した女性の心と体の状態をしっかり整えるという活動をしています。

マドレボニータというのはスペイン語で「美しい母」という意味なんですけれども、それはきれいに着飾った美しいお母さんということではなくて、心身ともに人として美しく歩こうという、そういう思いをこめて活動をしています。

まずは活動と私自身の自己紹介も兼ねた動画を今日用意してきているので、ご覧ください。ほとんど字幕なので、ちょっと見てていただかないと内容がわからないと思うので、画面のほうにご注目いただければと思います。5分くらいのものになります。

日本は妊娠、出産まではケアが手厚いけれど…

(映像開始)

子どもは社会の宝、しかし……。

赤ちゃんの危機「年齢別の他殺被害者の件数は0歳が最多」。

母体の危機「10人に1人が産後うつに」。

産後うつアンケート。

夫婦の危機「産後2年以内の離婚が最も多い」。

誰にも話したことのなかった、産後のこと(産後うつアンケートより)。

生後1か月の娘はミルクをよく吐いたので私はいつもガーゼを手にしていた。泣き止まない娘に対して「もう!」と怒って、そのガーゼを娘の顔に投げつけようとしたけれど、とっさに、顔のすぐ横に投げつけた。その瞬間、ごめんね……と、ひとりで大泣きした。

大人との会話は、旦那と実母のみ。家事もせず、外にも出ず、1日中泣いている赤ちゃんのそばにパジャマのままでずっとそばにいた。

シャワーやトイレの間も、空耳で泣き声が聞こえた。思えば、笑った記憶も無い。はじめまして、吉岡マコです。

出産がこんなにも身体にダメージを与えるということ。

赤ちゃんがいて幸せなはずなのに……。

これでもっと私が元気なら……。

当時の私は25歳、出産が身体に与えるダメージにうちのめされました。赤ちゃんと2人きり、孤独で、心細い。

知っていればもっと心構えができたのに。こんな状態でみんな子育てしてるの?

ボロボロの体、このままでいいの? 元気なからだで子育てしたい。笑顔で子どもに向き合いたい。

そのためには産後のからだをしっかりケアしなければ。

産後ケア、どこにいけばできるの? 探したけれど、みつけられなかった1998年の春……。妊娠、出産まではケアが手厚い日本。でも、産んだ後、お母さんはあとまわし。

母子保健には死角がある。

産後の三大危機。

これらはすべて「産後」におきています。

甘えてるわけじゃない。出産のダメージは想像以上。自分が産んでみて初めて知った。

誰も教えてくれなかったのはなぜ? 見落とされている問題。孤独と、体力の低下。

まずは自分が元気になりたくて、産後の女性と赤ちゃんのためのプログラムをつくりました。1998年の夏。

マドレボニータ参加者の声

こんなプログラムです。

からだと心、両方にはたらきかける。

ある参加者のビフォー・アフター。

産後を振り返ってみると、足に錘りをつけられて、海底に沈められたような感じでした。もがいても、もがいても、動けないし、頭も働かない。

周りの人たちの声がくぐもって聞こえるような。思い描いていた生活とかけはなれていて気分が沈みました。

そんなときマドレボニータと出会いました。プログラムに参加して、一気に地上に引き上げてもらいました。

すると私は体がだるいんだということがハッキリわかり、フィットネスで体力をつけさせてもらいました。

あーこの感じ。やっと体力がついて、気持ちが晴れ晴れとしてきました。くぐもっていた声がハッキリと出るようになりました。

ベビーズへの愛情が深まり、夫に自分の状況を言葉で説明できるようになりました。

新しい友達がふえ、地上の色鮮やかな世界が一気に広がりました。それは出産前よりも幅広く、深い世界で、想像していた以上に素敵な子育て生活のスタートでした。スタート地点への最短の架け橋をしてくれたマドレボニータさんに出会えたことに感謝しています。

(映像終了)

吉岡:はい、ありがとうございます。ここからはプレゼンテーションをしていきたいと思います。

育児は瀕死の状態からのスタート

吉岡:こんなふうに見ていただいたんですけれども、女性が出産して子育てを始める、仕事もしたい、いろいろあると思うんですけれども、意外と見落とされているのが(出産後です)出産すると、女性の体っていうのはすごく大きなダメージを受けるんですね。

ただ赤ちゃんが出てくるだけじゃないんですよね。赤ちゃんが出てくるだけでも、すごく産道も傷つきますけれども、その後に胎盤っていう臓器が子宮からはがれて、それで体外に出ていくわけですから。出産後っていうのは本当に子宮の中に、こんなに大きなお好み焼きくらいの傷をかかえている状態なんです。

出血も1カ月くらい続きますし、あと骨盤周り、股関節もぐらぐらしてうまく歩けないような状態、本当に瀕死の状態でスタートするっていうことなんです。

意外とそれが忘れられがちで、私自身もあんまりそういうことを知らないで、犬や猫みたいに普通にしれっと子育てがスタートできると思っていたんですけれども。

そうことはやっぱり知られていなくて、女性達はずっと家にこもっているので、「私だけなんじゃないか、私が我慢すればいいのか」っていって、結局この問題が表面化してこなかったんで、研究もされてこないしサービスも生まれてこなかったっていうのがあります。

私達はそこの部分に取り組んでいるんですけれども、私達よく「フィットネスの団体でしょう」とか、「産後うつのことやってるんでしょう」って言われるんですけれども、ひとことでいうと「産後を起点とする社会問題を解決する」ために活動しています。

産後うつや乳児虐待、産後を起点とする社会問題の数々

吉岡:産後を起点とする社会問題。例えば産後うつ、先ほど見ていただきました。それから乳児虐待、そして夫婦不和、夫婦の関係が良くなるはずだったのに、出産をきっかけにぎくしゃくしてしまうというカップル、実はすごく多いんですね。

そういった問題を解決する一番のレバレッジポイントが、産後だというふうに私たちは思っています。今日は先ほど(動画を)見ていただいたので、だいたい活動の様子はわかっていただいたと思うんですけれども、じゃあこの産後ケアが女性の働くということにどう影響するかというお話を少しだけしていきたいと思います。

ちょっとこれを見ていきたいと思うんですけれど、A美さんとB子さんがいます。2人とも産休前は同じようにいきいきと働いていました。

同じように活躍していた人がいます。A美さんは復帰後、体力、気力十分で復帰して意欲的に仕事に取り組んで、パートナーと協力して仕事と家庭の両立をする姿を若手女性社員のロールモデルに。こういう人が増えたらいいですよね。

でも実際多くの人は体調を崩しやすい、あわただしさに追われて余裕がない、手厚い制度を最大限活用してなんとか続けられればいいかな、という程度のモチベーション。

いわゆるぶらさがりというやつですね。で、会社のお荷物になっていって、居心地が悪くなって辞めてしまうみたいな、そういうほうがまだまだ多数派だと思います。

そこはA美とB子は何が違うのか、っていうことなんですけれども、復帰前の過ごし方なんです。A美さんは何をしたかというと、復職モードへしっかりマインドセットして、パートナーと協力して復職後のシュミレーション。

「保育園の送り迎えどうする?」とか、「子供が熱出したらどうする?」とか、そういうことをしっかりパートナーと話し合って、そして場合によっては外部サービスの手配も一緒にしていくと。

だいたいこういうことって女の人ひとりで頑張っちゃうことが多いんですけども、女の人が授乳があったりとか、いろいろ体の変化があって大変なときに、男性ができることっていっぱいあるんですよ。

病児保育のサービスを申し込むとか説明会に行くとか、保育園の説明会に行くとかも、男性が行けば良いこともいっぱいあるんですね。こうやってちゃんと復帰できると。

B子さんは時期が来たからやむなく復職する、適切な準備をする気力も体力もない。パートナーとぎくしゃくしてしまって、話し合いが進まないみたいな状態。

じゃあ何でこんなふうになっちゃうんだろうと。復帰前これだけ変わってしまうのは、何が違うんだろうって。そのカギが産前産後にあると、私達は考えています。

出産の準備はするが、産後の準備はできてない

吉岡:A美さんは産前産後をどう過ごしたかっていうことなんですけれども、これが私達の考える理想の産前産後なんですけれども、まず妊娠中にちゃんと産後について夫婦で学んで、パートナーと協力して準備する。

今日こういうリーフレットをお配りしてると思うんですけれども、こういったものを活用して、産後にどういうことが起きるのか、復職に何が必要なのかってことを、女性だけじゃなくて男性も担い手としてしっかり考えていくと。

産褥期、産んだ後は先ほど言ったように、体が本当にボロボロに傷ついてますから、産後8週間はしっかり休養をしないといけないんですね。

だから、家事や育児は他の人が担わないといけないんです。たとえばパートナーがやるとか、外部サービスに委託するなどそういったことをします。

そのあとリハビリ期といって、2か月から5か月の間にしっかりエクササイズをして、体力を取り戻して、そして復職準備期というのを私達は産後7カ月以降というふうにしているんですけれども。

こうやってマインドセットしていくっていう、これが私達の考える理想の産前、産後なんですが、でも大事なことはこの産後の知識のインプットを妊娠中にするっていうことなんですね。

なので、こういうリーフレットを配ったりとか、あとアプリを作ったりしているんですけれども。じゃあほとんどの人はどうなってしまってるかというと、妊娠中、出産とか赤ちゃんのお世話の準備はみんな万全なんです。産後の準備はしてないです。

そうすると出産によって体のダメージは受けてるんだけれども、産後の準備はしていないから、家事を再開してしまって、休養できず体調は悪化してしまうと。

そして孤独で夫婦関係もぎくしゃくしてしまうと。こうやって妻が一生懸命かいがいしく赤ちゃんの世話とかをしていると、夫の居場所がなくなってしまうみたいな、そういう現象もおきてしまいます。

そうすると体調が戻らない、外出が怖くなってしまう、復職なんてとてもとてもできない。夫婦関係がますますぎくしゃくしてしまうので、復職の時期が近づくと憂鬱、でも籍は残ってるからしょうがないから復職するかな、っていうような状態。これだけやっぱり変わってしまうんですよね。

社会問題をみんなで解決しようという機運の高まり

吉岡:本当に産後の知識が妊娠中にあるかないかで、これだけのことが起きてしまいます。産後ケアが当たり前の世界になるにはどうすれば良いかっていうのを、常に私達は考えています。

先ほど子安さん(子安美和氏)からもお話があった通り、1つの企業体とか1つのNPOでこういった問題を解決することって絶対できないんですよね。

今コレクティブインパクトっていう言葉があるんですけれども、いろんなNPOだったり企業だったりとか、個人だったりとか、いろんな知恵や力を持ち寄って、そして解決していこうっていう機運があります。

私達としては、まずこういった教室に参加してくれる人を増やしていくと。今までは1000人くらいずつ増えてきて、今年は7000人くらいの人が全国で参加してくれたんですけれども。

それを私達も中期経営計画を2020年までたてていまして、2020年には5万人の人に届ける。これは全国で5パーセントという数字です。これは本当に場に足を運んでもらうという数字です。

教室に足を運んでもらうというのは、やっぱり場を作ったりとかすごく大変なので、こういった紙のパンフレットを配ったりとか、そういうこともやっているんですが、紙もやっぱり限界があるんですよね。

こういうのを見る人はできる、熱心な人は見ますけど、なかなか意識の高い人にしか普及しないということで、私達は今アプリを作って2020年までには、年間100万ダウンロードを目指して頑張っています。

Googleインパクトチャレンジで受賞

吉岡:これは何で実現したかというと、Googleが優れたNPOの活動に5000万の助成金を出すというコンテストがありまして、そこに今年の3月に応募してそれを受賞しました。

これを使って私達が地道に草の根でやってきたことを、テクノロジーを使って社会を変えるスピードを上げようということで、ちょこっとだけ1分だけこのアプリのコンセプトを説明した動画があるので、これだけ見ていただいて終わりにしたいと思います。

コンセプトムービーなので、内容はまだちょっとわからないかもしれないんですけれども、これが広がっていくというイメージを見ていただければと思います。アプリの開発を鋭意進めているところです。

(動画再生)

(動画終了)

ありがとうございました。

母子手帳に産後について書かれたページはない

司会:おひとりのみですけど、ご質問などあれば承りたいと思います。じゃあお願いします。

質問者:私は6歳の子供がいるんですけど、自分の実体験とかなり重なるところがあって。この課題が世の中に浮き彫りになってない現実っていうのをすごく感じています。その中でこういう取り組みって本当に素晴らしいと思うんですけど、なかなか見つけるのも難しかったです。

16年前に出会いたかったなと心底思ったんですが。機会として、出産するので絶対に病院だったり区を通ることが産前産後は多い中で、そこからの入り口っていうのを考えられたりは?

吉岡:もちろんです。もちろん病院でも提携してくれてる場合もあります。あと例えば区内だと文京区と北区と大田区は、児童館とか保健センターで私たちが講師を派遣して、無料で受けられる講座を開催してるんですよ。

やっぱり保健師さんからのイノベーションはすごく強いので、行政との連携っていうのは強めていきたいと思いますし、究極的には2023年に母子手帳が改正されるんですね。

10年に1回しか改正しないんですよ。そこに私達は今参加をしようと思っていて、もう私達10ページくらい産後のページを入れ込んでいただきたいと思ってるんです。

今は1ページもないんです。妊婦の記録はあるんだけど、その後どうなのかは赤ちゃんですよね。なので産後どんな備えをしなきゃいけないのか、っていうのを夫婦でちゃんと読んで、備えられるようなページを母子手帳に入れ込めば、全員にちゃんと届きますので、そういう活動を模索しています。

なぜ産後問題が見過ごされてきたのか

質問者:こういうのって今までおっしゃった通り、産前は母子、母体が大半で、産後は子供ってところが主流になってきてる中で、この課題が今までなぜ出てこなかったのかって……。

吉岡:なぜかというのは、やっぱり「のど元過ぎれば暑さ忘れる」というやつで。例えばこういうつらい思いって、なかなか会社の後輩とかでも言えなくないですか? 結局自分で抱え込んじゃうんですよね。

自分のイケてない体験っていうのは、やっぱり言いにくいし、そうするとどうしても表面化してこない。きらきらした部分だけがクローズアップされるんで、こう見えてこないのかなっていう。

私はこれを仕事にしてるので、すごい根に持っていて、わたしの子供が今高校3年生なんですよ。全然産後関係ないんですけど、でも今こうやって未だに根に持って仕事をしていて(笑)。来年、再来年大学院で公衆衛生の修士をとろうと思ってるんですけれども、そこでしっかり公衆衛生としてのお仕事や基本をもう1回ちゃんと見直して、それを提供していきたいと思ってるんです。

質問者:ありがとうございました。

司会:はい、ありがとうございました。

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