会社経営に、リスクヘッジは欠かせない時代です。あなたの会社にも、いつ、どのようなリスクが襲うか予測できません。気候変動による自然災害の激甚化やサイバー攻撃件数の増加など、企業を取り巻くリスクは、昨今ますます多様化・複雑化しています。
日本損害保険協会が実施した
「中小企業におけるリスク意識・対策実態調査2025」でも、中小企業の経営者がどのようなリスクを感じ、対策をしているのか、実態と課題が見えてきました。
今回は、株式会社浜野製作所 代表取締役会長 浜野慶一氏(写真左側)と一般社団法人日本損害保険協会 業務部会長 八幡英明氏(写真右側)による対談形式で進行します。
※本記事は、(一社)日本損害保険協会の
対談記事を、ログミーBusinessにてタイトルなどを追加して転載しています。
事業には至るところにリスクが潜んでいる
八幡英明氏(以下、八幡):浜野会長、本日はよろしくお願いします。まずは、中小企業の経営者として、ますます多様化している事業リスクについて、どのように感じていらっしゃるかおうかがいしたいと思います。
浜野さんの会社では、実際に何かリスクに直面されたご経験はございますか?
浜野慶一氏(以下、浜野):よろしくお願いします。当社はモノづくりをしている会社ですが、設備や事故のことなど、事業としてのリスクや最近は自然災害のリスクを感じております。また、当社はもらい火を経験しているので、事業には至るところにリスクが潜んでいると考えています。
日頃からリスク管理には非常に気をつけていますが、今、一番関心があるのが、自然災害です。ここ数年、地震や台風や水災がメディアで多く取り上げられており、我々も万一の自然災害への備えを、より一層検討しなくてはならないと感じています。
八幡:昨今、自然災害の激甚化という言葉も頻繁に耳にしますね。台風や集中豪雨による水災のリスクは、河川の近くだけではなく、今では河川から離れていても起こり得るため、リスクの大きさもそうですが、昔とは種類も変わってきたと実感しています。
浜野:当社のある墨田区は海抜ゼロメートル地帯と言われておりまして、地域の多くが海抜より低いところにあります。実際に当社の工場が水災被害にあった経験はないものの、全国的な水災被害のニュースを見聞きして、リスク対策を考えるようになりました。
また、当社とお取引のある栃木県の会社の方にうかがった話ですが、台風の影響で河川が氾濫して工場内の機械が浸水してしまったが、その方は、水災に対する保険に入っていたおかげで、機械を新調できたとのこと。工場内には高価な多くの精密機械があり、これが水浸しで全部使えなくなったらものすごい損失になるのですが、保険のおかげで、事業を継続することができたそうです。
自宅兼工場がもらい火で全焼、補償金も振り込まれず…
八幡:身近な方が被害に遭われると、あらためてリスクを実感することもあるかと思います。浜野さんご自身は、過去、もらい火の被害に遭われたとのことですが、その時の経験や、体験エピソードがあればうかがえますでしょうか?
浜野:自宅兼工場がもらい火で全焼してしまったのが、今から26年前の2000年6月30日の出来事でした。火災は、隣家の解体作業中のミスが原因で、当初解体作業会社の元請けの住宅メーカーが補償してくれる予定でしたが、補償金が振り込まれる前にその住宅メーカーが倒産してしまいました。
当時は、これからどうしよう、どうしたら仕事を再開できるのだろうか、ということばかり考えており、途方に暮れていましたが、両親が火災保険に加入していたおかげで、その保険から多少補償を受けることができ、非常にありがたかったです。
この経験を今振り返ると、事業活動だけではなく、実は身の回りのいたるところに、予期せぬ大きなリスクが潜んでいることを強く意識するきっかけになりました。リスクをゼロにすることは難しいですが、リスクを最小限に抑えるための対策を講じることが重要だと実感する機会にもなりました。
製造業に従事する人の6割が「自然災害」のリスクを意識

八幡:浜野さんは工場火災をきっかけに企業存続の危機に陥ったこともあったとのことで、相当なご苦労があったのではないかと思います。もらい火のように自社に原因がないところにもリスクは潜んでおり、リスクをゼロにすることは不可能ですが、被害を最小限にする対策を講じるのはとても大切ですね。
また、先ほどうかがったとおり、昨今、集中豪雨や台風など自然災害リスクは高まる一方で、ひとたび災害が発生すると企業の経済的損失は非常に大きくなります。
実際、中小企業の経営者を対象とした当協会の
調査では、製造業に勤める6割の方が自然災害のリスクを認識しており、他のリスクに比べてもリスク意識が高いことがうかがえます。
事前対策が十分でないと、仕入先の被災によって部品・原材料が手に入らないおそれや、被災後の事業活動の再開までに時間がかかり、取引先への供給責任が果たせなくなったり、場合によっては事業縮小に繋がったりするおそれもあります。
浜野さんの会社ではBCPや事業継続力強化計画(以下、ジギョケイ)は策定されていますか?
浜野:BCPは経営者にとって、事業を継続するための仕組みづくりとして非常に重要という認識です。事業資産の損害だけではなく、働く従業員を守るためにも、お客さまへの製品供給責任においても、自社で起こる可能性のあるリスクについて、しっかり計画的に備える必要があると感じていますが、中小企業の多くが人手不足なこともあり、日々の業務に追われてなかなか策定に着手できないという事情もあると思います。
そんな事情もあり、最近、会長を務めている地元の経営者会で講師の方をお招きして、ジギョケイに関するセミナーを開催したのですが、セミナー内でジギョケイの一部分を実際に自分で作成する機会があり、あらためて当社でもジギョケイの策定を本格的に検討しているところです。
緊急事態に陥っても、事業継続や早期復旧するためには
八幡:策定をご検討中とのことですが、あらためてBCPとは、企業が自然災害や大火災などの緊急事態に遭遇した時に、損害を最小限にとどめて事業を継続したり、早期に復旧したりできるようにするための計画です。BCPを策定することで、損害を減らすだけではなく、緊急時の対応力強化や、取引先や顧客からの信頼を高める効果があります。
浜野さんがセミナーで作成に取りかかったとおっしゃっていたジギョケイは、「簡易版BCP」とも呼ばれ、BCPの中で緊急事態発生時に即座に対応すべき事項に絞った実効性のある内容になっています。また、ジギョケイは、認定制度があり、国からの認定を受けた中小企業は、防災・減災設備への税制措置や金融支援、補助金の加点措置など、BCPにはない経済的なメリットも受けられます。
浜野:なるほど、BCP、そしてジギョケイについての理解がさらに深まりました。当社のような製造業では、サプライチェーンのつながりの中で、緊急事態の時はお互いに助け合う文化があります。実際に、東日本大震災では、当社のあまり使用頻度が高くない溶接機を岩手の工場に差し上げたこともあります。
ただ、これだけ自然災害などのリスクが高まっていると、「こういう時にこう動こう」「こういう形で協力しよう」といった一定の仕組みづくりが、この時代には必要だと感じています。あらためて、当社でもジギョケイの策定を前向きに検討しようと思います。
中小企業の6割が選ぶリスク対策
八幡:BCP(ジギョケイ)を策定する上では、被災時の資金面の対策を検討することも重要です。さまざまなリスクに対応できる保険は、リスクファイナンスとして、非常に重要な位置づけになります。実際に、中小企業の約6割がリスク対策として「保険に加入」していると回答しており、対策として最も多く選択されているという調査結果もあります。
浜野さんの会社では、どのような保険にご加入されていますか?
浜野:モノづくりにはさまざまなリスクが伴います。自然災害はもちろんのこと、火災のリスクや製品の運搬時の事故、機械設備の故障などさまざまなリスクがあり、当社では、一般的な火災保険や自動車保険に加え、機械保険に加入しております。
また、年1回の決算期には保険の見直しを行っており、最近では、水災リスクを強く意識するようになり、一昨年に水災補償を追加し、さらに昨年、補償内容を充実させました。
八幡:なるほど、最近、水災補償を追加されたのですね。実は、水災などで工場に損害が生じて休業した場合、その間の費用を補償する、「休業補償保険」という保険もあります。
また、浜野さんのような製造業の場合、多くの事業者さまが生産物賠償責任保険(PL保険)に加入されています。これは、製造した製品の欠陥等により賠償責任を負った時の損害賠償金に加えて、争訟費用も補償対象となるため、賠償責任リスクへの備えとして重要な保険です。
さらに、PL保険を補う保険またはオプションとしてリコール保険という、製造した製品のリコールを実施する際にかかる回収費用等を補償する商品もあります。
浜野:確かに、事業の特性上、製造物に関する賠償責任リスクの影響はとても大きいと考えています。当社では、定期的に小中学生向けの工場見学を実施しており、金属に触れてケガをしてしまった場合など、不慮の事故に備えた保険にも加入していますが、他にも、重要な保険はあるのでしょうか。
サイバー攻撃は中小企業にとっても無視できない状況
八幡:サイバー攻撃による日本企業の被害が相次いだのは記憶に新しいかと思います。近年、サイバー攻撃の件数は急増しており、サイバーリスクに備える保険も注目度が高まっています。
例えば、御社のような製造業では、受信した不審メールの添付ファイルを開いたことで、PCがウイルスに感染し、調査費用や弁護士相談費用、コンサルティング委託費用など約3,000万円の損害が発生したという事例やサイバー攻撃による納品遅延により、取引先から多額の賠償請求を受けたという事例もあります。
サイバー攻撃による情報漏えい等が発生した場合の損害賠償金、発生原因の調査費用等を補償するサイバー保険も重要な保険といえます。
浜野:サイバー攻撃による損害はそんなに高額になることもあるのですね。最近、大企業の被害がニュースになっていましたが、サイバーリスクは、大企業のみならず、我々のような中小企業にとっても無視できないリスクであると考えております。
八幡:おっしゃるとおり、今や業種や事業規模にかかわらず、サイバー攻撃の対象になっています。サイバー保険では、長期の事業中断リスクに備えて、サイバー攻撃などが原因で業務が中断したことによる利益損失や営業継続費用を補償するようなオプションもあります。
企業を取り巻くリスクはさまざまかつ年々変化しているため、BCP(ジギョケイ)も保険も定期的な見直しが大切です。
リスクに優先順位を付け、必要な備えを考えていく
浜野:今、至るところにリスクがある時代になっていると思います。ただ、その無数にあるリスクに対応するすべての保険に加入するのは、物理的にも金銭的にもなかなか難しいので、会社の状況や事業を取り巻く環境を踏まえて、優先順位が高いものを丁寧に提案いただけると、非常に助かるなと感じています。
八幡:我々も事業者の方に寄り添いながら、リスクコンサルティングをしていかないといけない時代ですね。おっしゃるとおり、すべてのリスクに対して保険で備えるのは困難です。
その中で、優先順位を付けて、「これは法的支援」「これは自己資金」「これは保険」など、備えの組み合わせを考えていくことが、いわゆるBCPにおけるヒト・モノ・カネの手当の仕方だと考えています。
浜野:ぜひ、よろしくお願いします。現状、認識できていないリスクやそれに備える適切な手段を一緒に考えていければと感じております。お話をうかがって、BCP(ジギョケイ)を策定して不測の事態を想定し、リスク対策のひとつとして保険に加入する必要性を益々、実感しました。
八幡:もしものことが起こった時に素早く対応し事業を継続する。そのためにBCP(ジギョケイ)と保険の存在は非常に重要です。災害リスクの他にも、賠償責任リスクやサイバーリスクなどさまざまなリスクがあり、備える保険もさまざまです。
想定外の被害をゼロにすることはできませんが、事前に備えて被害を最小限にすることは可能です。もしもの時に備え、事業を円滑に進めるためにも、まずはご相談いただきたいですね。本日はありがとうございました。
浜野:こちらこそ、BCP(ジギョケイ)、保険の重要性、加えて、時代に即した見直しの必要性をあらためて認識しました。ありがとうございました。