エネルギーから金融まで、複雑な意思決定を支える
私が仕事にやりがいを感じるのは、ほぼ毎週のように当社技術の新規活用事例を発見できる点にあります。これまで数多くの事例を見てまいりましたが、人々が数理最適化をビジネス課題に応用する創造的な手法には、今も驚かされ続けています。その規模は大きなものから小さなものまであります。
こちらのスライドは、私たちの顧客基盤を構成する多様な業界や事業形態の、ほんの一例です。各ユースケースは独自性を持つものの、共通するテーマがあります。
それは、常に複雑な意思決定が求められ、それが実際のビジネスに重大な影響を与える点です。この複雑性を克服するために、より賢明な計画立案を行い、それによってお客さまは計り知れない価値を創造できるのです。
例えばエネルギー分野を例に挙げましょう。エネルギーといえば電力だけでなくさまざまありますが、今回は電力分野を例に説明します。最適化は、この市場のあらゆる分野で重要な役割を果たします。

電力会社は複雑な計画課題に直面しています。市場に販売したエネルギーを可能な限り低いコストで供給しなければなりません。同時に送電網運営者は、送電網が電力の流れを安全に、確実に、経済的に処理することを保証する必要があります。
再生可能エネルギー発電、蓄電池、動的市場価格の拡大により、エネルギー管理はさらに困難になっています。ここで、Gurobiの技術が役立ちます。
私たちの技術は、エネルギー市場のあらゆる主体、電力会社・送電網事業者・消費者が最適な方法で資源を活用できるようにします。そうすることで、重要な持続可能性目標(SDGs)も達成できるよう支援しています。
金融サービス企業も同様の課題に直面しています。その計画立案は往々にして、1つの重要な問いに集約されます。「リスクとリターンのバランスをどう取るか」ということです。
この業界の多くのお客さまは、資産運用判断、すなわち投資計画の策定を支援する手段をGurobiに任せています。Gurobiを活用することで、複雑なお客さまの好みを満たしつつ、自社の目的にあった投資ポートフォリオを構築・維持することが可能となります。
生産設計と計画は、当社技術の代表的な応用分野の1つです。当社は、これを可能にする世界トップクラスのソフトウェアシステムを支えています。
製造業の本質は、「賢明な意思決定」にあります。どの製品を、どの順序で、どの機械で製造するか。ここで数百、数千もの異なる製品を扱う企業を想像してください。各製品には独自の納期、優先順位、資材需要が存在します。
生産計画は複雑な課題です。生産スケジュールだけでなく、物流も調整しなければなりません。すべての部品や資材が正確なタイミングで適切な場所に届くようにするのです。
そこで、Gurobiの技術が役立ちます。私たちの技術は、この複雑性を効率的に処理し、生産を最適な方法で運営することを支援します。
通信業界のお客さまは、世界最大級の通信ネットワークを管理しています。需要の増加に対応するため、これらのネットワークは「構築・拡張・維持」が必要です。
こうしたプロジェクトには巨額の投資と多大な運用コストが伴います。なので、あらゆる意思決定が価値と長期的な効率性をもたらすよう、慎重な計画が不可欠なのです。
あらゆる業界のマーケティングチームは、多くの共通課題に直面しています。キャンペーンを慎重に計画し、予算の1ドル1ドルが最大限の効果を発揮するように行う必要があります。
考えてみてください。各キャンペーンはパーソナライズされたコンテンツを持ち、異なる対象者をターゲットにしています。多様なチャネルで展開される可能性もあります。これらすべてを予算枠内で適正なバランスを保つことは、本当に複雑な作業です。
ベンダー選定から世界中への配送まで、ネットワーク全体を最適化
生産計画をより大きな全体像で見ると、サプライネットワーク全体を管理することの一部に過ぎないととらえることができます。これには、適切なベンダーの選定、複雑な入荷物流の調整、生産の監督、そして世界中の市場への製品流通まで、あらゆる活動が含まれています。
これらすべての活動の共通基盤となるのが、サプライヤー、工場、お客さまの間で資材が流れるネットワークです。目指すのは、コスト効率とサービスレベルを両立させながら、これらの流れを効果的に計画することです。
Gurobiでは、世界を代表する多くのサプライチェーン、計画、ソフトウェアソリューションを支えていることを誇りに思っています。
近年、私たちは配送サービス業界から多くの新規のお客さまを迎えています。世界中の都市で人々に食品、食料品、その他のサービスを提供する企業です。
これらのビジネスはドライバーや配達員を適切な場所へ、多くの場合リアルタイムで送り、すべてのお客さまが最高の体験を得られるようにすることを目的としています。
ここで、Gurobiが真の価値を発揮します。当社の技術により、注文とルートをドライバーに瞬時に効率的に割り当て、時間どおりの配達と顧客満足を実現できます。
スポーツ、半導体、航空、あまり知られていない最適化の活躍現場
あまり知られていない活用例としては、スポーツのスケジュール編成があります。スポーツリーグの計画、どのチームがどこでいつ対戦するかを考えると、非常に複雑な問題になります。
考慮すべき要素は数多くあります。移動距離、会場の空き状況、公平性、さらにはチームの相対的な強さまで。この具体的な例については、後ほど詳しく見ていきます。
最適化のもう1つの、おそらくあまり知られていないユースケースは半導体産業です。ここでは、生産計画だけでなく、品質検査や設計も対象となります。物理的制約と生産制約の両方が、この分野で重要な役割を果たします。これは、量産に移行するずっと前に、レイアウトを慎重に計画・設計することが不可欠だということを意味します。
最後の例は航空業界、すなわち航空会社と空港の計画です。この業界ではすべてが高コストであるため、綿密な計画が必要不可欠です。空港は資源を最大限活用しなければなりません。これには地上作業要員の管理、ゲートの効率的な割り当て、そして発生した混乱に対しての対応も含まれます。
航空会社も同様です。収益管理のための運賃設定を計画し、乗務員のスケジュールを効果的に組み、航空機群を可能な限り経済的に運用しなければなりません。いずれの場合も、優れた計画とは単にコスト削減を目指すだけでなく、すべてを円滑に運営し乗客に最高の体験を提供することを意味します。
基幹製品「Gurobi Optimizer」とAIチャットボット「Gurobot」
次のトピックに移る前に、私たちの製品ラインナップを簡単にご紹介します。先ほど述べたように、Gurobi Optimizerは私たちの基幹ソフトウェア製品です。多くの計画・分析アプリケーションの舞台裏で静かに稼働する強力なエンジンです。
Gurobi Optimizerを核に、管理機能やサービス機能を備えたレイヤーを追加してきました。これにより、大規模なシステムへの導入や、負荷の変動への対応がより簡単になります。

最新のイノベーションは「Gurobot(グロボット)」と名付けたAIチャットボットです。この開発には大きな自信を持っており、本日後ほど専用のプレゼンテーションを予定しています。
またユーザーが当社の技術を最大限活用できるよう、AIツールとの深い連携や、新たなスキル構築を支援する多様な学習教材など、リソースへの投資も積極的に行っています。
さまざまな業界向けに、実践的かつ魅力的な学習を実現する、インタラクティブでゲーム化された事例を多数提供しています。現在開発中の最新ゲームでは、プレイヤーが最適な計画を立てるコンペ形式で、当社製品と対決できる仕組みになっています。これにより最適化技術の理解を効果的に楽しく深めることができます。
最近、あらゆる産業でAIの導入が飛躍的に進んでいます。Gurobiでは、自社の技術がAIの中でどの役割を果たしているのかを正しく理解していただくことを重視しています。その理解があることで、皆さまは課題に応じて最適なツールを選び、より効果的に活用することができます。
AIを考える最もシンプルな方法の1つは、それを主に2つのタイプに分類することです。帰納的AI (Inductive AI) と演繹的AI (Deductive AI)です。私はこれをクライムサスペンスの例で説明するのが好きです。
優れた探偵物語には、常に2つの側面が働いています。まず証拠の探索があり、探偵は手がかりを集め注意深く観察します。これらの手がかりからパターン、つまりこれまで知らなかった何かを明らかにする関連性を見出し始めます。
ビジネスにおいて、これが機械学習の役割です。大量のデータの中からパターンを探し出し、そうでなければ見過ごせてしまうかもしれない洞察を明らかにし、手助けします。そうした洞察を得たら、それを用いて予測を行い、過去から学んだすべてに基づいて、将来何が起きるかを予測することができます。

では演繹的AIについて見ていきましょう。帰納的AIが証拠を集める探偵だとすれば、演繹的AIは次に何をすべきかを決断しなければならない指揮官です。なぜなら予測そのものは決断ではないからです。何が起きる可能性が高いかを知っても、取るべき行動が自動的にわかるわけではありません。
ここでGurobiの出番です。演繹的AIは意思決定の定式化を扱います。あらゆる証拠、データ、パターンを駆使し、可能な限り最良の結果を見出すのです。つまり、究極の「もし~なら」という問いに答えるのです。「もしこの状況なら?」「もしこれらの未来が起こり得るなら?」「目標達成のための最善策は何か?」――こうした問いに対して、最適な答えを見つける手助けをします。
「脳vsチップ」で読み解く、Gurobiが担う論理的推論
ここで、私がよく使うイメージをご紹介します。「脳とチップ」を対比した図です。

人間の知能を考えるとき、私たちはクリエイティビティや直感、そして論理的思考力の組み合わせとして捉えます。一方、GurobiはAIの中でも演繹的な側面を担っています。
当社の技術は最適な結果を計算するために設計されています。つまりGurobiのアルゴリズムは、複雑な意思決定状況に、厳密な論理的な推論を適用しています。それを信じられないほど速く行います。目標はいつも同じで、可能な限り最短の時間で、可能な限り最良のソリューションを見つけることです。
AIにおける意思決定の際、よく言われる用語は「Decision Intelligence」ですね。Decision Intelligenceとは適切なデータ、適切なAI手法、適切なレベルの人間の判断を統合したものです。言い換えれば、人間の知能の特性をコンピューターのアルゴリズムにマッピングすることです。
Decision Intelligenceソフトウェアソリューションというのは、人々が考えて推論して学ぶ方法のさまざまな側面を取り入れて、それらをアルゴリズムの精度・速度と組み合わせたものです。

ただここではっきりお伝えしておきたいのは、Decision Intelligenceは人に置き換わるものではありません。人間を支援し、力を高めるものです。Decision Intelligenceは複雑な情報を処理して、私たち人間では見逃す可能性があるパターンを見つけて、より良い結果につながる選択を行うためのツールです。
ビジネスにおけるほぼすべての意思決定のプロセスは、この4つの主要な領域と、その間の移行で定義できると思います。最初の移行は、よくビジネスアナリティクスと呼ばれます。
これはAIドリブンの意思決定です。データを見て有用なインサイトを生み出すものです。パターンを見つけて、関係を特定して学習したことに基づいて、将来を予測できるモデルをトレーニングすることです。
2つ目のトランジションポイント、つまり移行点は、インサイトが計画に変わることです。計画というのは将来を見据えることですね。将来の活動を予測して、期待と十分な情報に基づいた意思決定を行います。これはGurobiの最も強力なトランジションポイントの1つです。
しかしそれで終わりではありません。結果から実行へ移行するということは、あらゆることに適応できなければなりません。ビジネスというのは静的な世界で起こっているものではありません。常に情報は変わっています。
だから我々は計画・戦略の再調整を常に行わねばならない。それを適応制御と呼んでいます。新しい情報が到着した瞬間に、また計画を立てるんです。Gurobiはそこでも大きな役割を果たしています。なぜなら迅速に反応して方向を変えることは、目標を達成するために不可欠だからです。

最後に、経験から学ぶということは、我々が行ったことを踏まえて過去の取り組みを記録し、そこから学ぶことです。過去の情報を分析することで新しいパターンが見つかります。それが将来の意思決定を改善できます。それでまたサイクルが始まります。
つまりGurobiは、まさにこれらすべての移行点に有益なツールなのです。私たちは特に、新しい情報が入ってきて計画を再度練り直す必要がある時に、組織が計画と実行の両方を可能な限り効果的に行うことをお手伝いいたします。