クラウド、モバイル、そしてAI。ここ10年あまりの技術進化は、ブランドと消費者の関係を大きく変えました。特にパーソナライズが当たり前となった今、企業は単にメッセージを届けるだけでなく、「どのユーザーに、いつ、何を、どう伝えるか」が問われています。本セッションで登壇したBraze CEO 兼 共同創業者のビル・マグヌソン氏は、メジャーリーグのワールドシリーズで勝敗を分けた“クリティカルな瞬間”に例えながら、顧客エンゲージメントのこれからを、GiGOやTaco Bellの事例、さらにはChatGPTとの新機能を交えながら語ります。
激変した「ブランド」と「消費者」のつながり
Bill Magnuson(ビル・マグヌソン)氏:みなさま、本日はご参加いただきありがとうございます。東京でテクノロジーの報道を担うジャーナリストのみなさまとご一緒できることを、大変光栄に思います。「Braze」に とって重要な市場である日本で、顧客エンゲージメントという職能について、みなさまが関心を寄せてくださっていることを特にうれしく思います。お時間を割いていただき、心から感謝いたします。

2週間ほど前のことです。私が成田で乗り継いでニューヨークからシンガポールへ向かう途中の、ちょうどこちらに到着した頃に、大谷選手と山本選手、佐々木選手が、ロサンゼルス・ドジャースと共にワールドシリーズ優勝という歴史的偉業を成し遂げました。

このような瞬間は、偶然生まれるものではありません。長年の献身とチームワークが結実した結果です。そして、それは今、マーケティングテクノロジー業界で働く私たちにとって良い示唆を与えてくれます。顧客エンゲージメントも野球と同様に、勝敗を決めるのは「クリティカルな瞬間」です。そして、その瞬間に最高のパフォーマンスを発揮できるのは、日々の鍛錬と技術の積み重ねを怠らなかった人たちだけです。
顧客エンゲージメントにおいて、クリティカルな瞬間が訪れるのは、顧客がブランドに困難の克服や重要なニーズの充足、あるいは生活を豊かにすることを期待する時です。そうした接点の機会において、ブランドは顧客を深く理解し、敬意と関連性のあるコミュニケーションによって価値を届けることが求められます。
過去10年ほどで、ブランドと消費者のつながり方は完全に変わりました。最初の転換点はクラウドコンピューティングです。これにより、企業は巨額の初期投資を必要とせずに、スケーラブルなインフラを構築できるようになり、新たなソフトウェアイノベーションが開花しました。

次に訪れたのがモバイル革命です。日本はその世界的先駆者でした。モバイルデバイスが世界中の人々をリアルタイムにつなぎ、常時接続が当たり前となり、テクノロジーとの関係がより個人的で密接なものへと変わりました。
そして今、人工知能が牽引する次の波の入り口に立っています。これらの技術的シフトの一つひとつが、ブランド間の競争を激化させ、消費者の期待水準を引き上げました。人々は利便性、パーソナライズ、即時性に慣れています。ブランドは顧客を理解し、ニーズを予測し、関連性のあるメッセージを送り、さらに時間とプライバシーを尊重することが求められます。
AIはマーケターの生産性を加速するレバレッジ
これは極めて難しく複雑な課題です。しかし適切に行われれば、顧客エンゲージメントはマーケティングではなく「信頼と尊重、価値に基づく関係構築」になります。

成功するブランドとは、顧客が残す断片的な行動履歴だけでなく、デジタルボディランゲージ全体を理解できるブランドです。Brazeは、膨大なファーストパーティデータの流れを即座に行動可能な知性へと変換し、重要なすべての瞬間における高い関連性を実現します。
こうした高度なツールと消費者の期待値の高まりが相まって、マーケターの役割はかつてないほど加速、進化しています。もはやキャンペーンやチャネルを管理するだけではありません。スケールしながらも意味のある関係を構築することが求められています。
現代のマーケターは、創造性やデータ、テクノロジーを結びつけ、毎回個別で人間味のある体験を届ける存在となりました。そして生成AIからインテリジェントな意思決定システムにまでAIが普及する今、マーケターは“単なる運用者”から、“マーケティングシステムの指揮者”へと進化するための強力な武器を手にしています。
Brazeはまさにこの未来を築いています。AIはマーケターの生産性を加速させ、その役割をより戦略的なレベルへと引き上げ、成果を何倍にも伸ばすレバレッジだと考えています。
最初は「文脈」。ファーストパーティデータに基づき、顧客理解を土台として信号を捉えること。次に「知性」。文脈を解釈し行動するモデルやエージェントが、ブランドの創造性と戦略に従ってマーケターの仕事を加速させる。そして「インタラクション」。市場で最も包括的な顧客エンゲージメントプラットフォームを通じて、その知性を個別で意味のある瞬間へ転換することです。

私たちが目指しているのは、ブランドと顧客のつながりをより深くすることです。コンポーザブル・インテリジェンス(※組み合わせ可能な知能モジュール)という新たな力を加えます。
東京にBraze専用のデータセンターを開設
豊かなファーストパーティ文脈から生成されるデータを活かし、コンポーザブルなエージェントや意思決定システムをエンゲージメント戦略に組み込み、データ資産を強化。マーケターのワークフローを加速させる。その結果、顧客にはより強い関連性が届けられ、ブランドにはロイヤルティと成長という報酬が返ってきます。
私たちはこのビジョンを世界中のマーケターと共に実現しています。世界中のブランドが、オーディエンスとの関わりを、一方通行のコミュニケーションから継続的で意味のある関係へと変えつつあります。
そして、Brazeはその中心で役割を果たせていることを誇りに思います。米国、欧州、アジア太平洋地域にわたるチームが、あらゆる業界、市場、規模の企業に対して、知的で人間中心のエンゲージメントを実現するお手伝いをしています。
私たちは、巨大企業から新興のイノベーター、創業間もないスタートアップまで、テクノロジーはブランドとの関係をより個別的で、敬意があり、影響力のあるものにできると信じるマーケターと共に歩んでいます。
このビジョンは、信頼なしには実現できません。信頼こそが、Brazeエコシステムのすべてをつなぐ接着剤です。ブランドと顧客、テクノロジーと人、そして世界中で連携するパートナー同士。そのすべてを支えるのが信頼です。

エンゲージメントがよりインテリジェントかつデータドリブンになるほど、その信頼を獲得し維持する責任は一層大きくなります。ブランドは、テクノロジーが安全で透明性があり、プライバシーを尊重していることを求めます。
そして顧客は、あらゆる接点が自分の選択を尊重し、データを守ってくれると感じられなければなりません。
Brazeは信頼を、一度得て終わりのものとは考えていません。信頼とは、信頼性や説明責任、相互尊重を通じて、時間をかけて育む関係なのです。だからこそ私たちは、日本でこの信頼とパートナーシップをさらに深める次のステップを踏めることを大変光栄に思っています。
2026年3月、東京にBraze専用のデータセンターを開設することを誇りに思っています。この新たな投資は、日本企業と消費者が日々使うテクノロジーに寄せる信頼への敬意の表れです。日本のブランドが、次の顧客エンゲージメントの時代へ、自らの条件で、安全かつ自信を持って進めるよう支援するためのものです。
新店舗オープン時のクーポン利用率が47%増加
日本企業が国内でデータを管理しつつ、Brazeのグローバルエコシステムとつながることで、安全に、世界とシームレスに接続できるようになります。そして、卓越したエンゲージメントを実現する未来を共に築いていきます。
日本はすでにBrazeの物語において欠かせない存在です。2020年の参入以来、日本の主要ブランドと強固な関係を築いてきました。小売や旅行、エンターテインメント、金融、テクノロジーなど、多様な業界で、よりつながりのある顧客体験を共に創っています。

興味深いのは、これらのブランドが単にBrazeをメッセージ送信ツールではなく、日本の顧客エンゲージメントの未来そのものを形づくるために活用しています。
2020年に日本にオフィスを設立して以来、私たちの日本市場に特化したチームは150以上の主要テクノロジー企業・コンサルティング企業とパートナーシップを築いてきました。新たなデータセンターの開設により、日本におけるパートナーシップをさらに深化させ、長期的な成長とイノベーションの基盤を拡大していきます。

ここで、日本におけるBrazeの価値と力を示す事例をご紹介します。「GiGO」は、全国600以上のアーケード施設を運営する大手エンターテインメントブランドです。この事例は、日本市場で大規模に成果を出せるBrazeの能力をよく示しています。
GiGOは、リアルタイムデータ活用による即時の投資対効果に早くから気づきました。彼らは外部の天気APIをBrazeに直接連携し、顧客の位置周辺で悪天候が予測された瞬間に「雨の日クーポン」を文脈に沿って自動配布しました。これにより来店数が増加しました。リアルタイムの文脈に基づいて行動した結果です。

さらに新店舗オープンの際には、近隣のアーケードを頻繁に訪れるユーザーに対して、位置情報を用いた高精度のオファーを送信しました。そのローカライズ戦略により、クーポン利用率が47パーセント増加。豊富なファーストパーティデータと精緻な配信の組み合わせが、顧客エンゲージメントを大きく向上させた好例です。