自走するためには仕事の背景理解が不可欠
篠田:今の朝蔭さんが言ってくださったことはすごく大事だなって思いました。自走とか自律とか言うと、ちょっと繰り返しになっちゃいますけど「自分1人で自己完結できる」っていうイメージを想起しちゃうんですけど。
まさに何が求められているのかとか、お客さまだったり自分たちの会社の優先順位とか、その背景にある考えみたいな、要はエンジニアの方からしたら他者ですよね。
ここへの理解が深ければ、自分のことを大して考えていなくても意外と自走できる感じになるわけですよ。だって相手の要望が見えているわけだから、それにフィットした動きを考えやすくなるので。
先ほどは評価に対して自己主張の、いわば文句みたいなのが出た時に論理的な説明をって言ってくださいました。
より広げて、自走とか自律を目指すチームは「なぜ今あなたにこの仕事をアサインしているのか」「この仕事の背景はこういうプロジェクトで、この部分なんです」っていう全体観を先に示してあげることはすごく大事なんじゃないかなって、お話をうかがっていてあらためて感じました。それなしで自走は、ちょっとないですよね。
朝蔭:確かに評価で揉めるケースって、配属前の説明であんまり情報がなかった場合に本人と揉めているケースをよく見るなと思っています。「この配属先はお客さんがこういうことで評価するから、こういうことをがんばらなきゃいけない」っていうところが正しく説明できているケースってあんまり揉めていなくて。
そこの本人とのやり取りよりも、配属するために必要な契約上の話や運用の話だけになったやり取りに終始しているんじゃないかなっていうのは、ちょっと傍から見ていて思います。
今お話しして、自分で棚卸ししてみて、あらためて会社でそこを定義してみようかなと考えました(笑)。
5年後に見える組織の差 - 自走型人材育成の長期的効果
――あともう5分ぐらいで最後の質問になってしまうんですが、基本的に自走するエンジニアを研修で育てたり、さっき言った自律型人材を会社として育てていきましょうとなった時に、そういうのが今はまだいろんなところで比べて少ないかなと思うんです。
ここらへんがどんどん増えていったり、あるいはそこがどんどん実績を生むということになった時に、そういうことをやっていないところと比べるとどれだけの差が出てくるのかみたいなところ。
例えば5年後ぐらいに実はこのぐらいの差が出てくるんじゃないかな、みたいなところってあったりするのかなと、ちょっとお二人におうかがいしたいなと思っているんですけど。ここらへん、じゃあまず朝蔭さんのほうからお願いできますか。
朝蔭:やはりすぐには差が出てくるものじゃないので、長い時間経つと誰から見ても差が出る部分で言うと、我々はエンジニアなのでプロジェクトというところを軸にしゃべりますが……今のプロジェクトってほとんどが中堅層に仕事が依存していて、若手への引き継ぎがうまくいかないっていうところがIT業界全体にある課題なんですよ。
どうしても人に仕事がひもづいちゃっていて、その人以外ができない仕事があまりに多すぎるんですね。それがなぜかっていうところを長い目線で辿っていくと、やはり新人がずっと新人の仕事をしているんですよ。
それは上司がチャンスを与えていないって取り方もできるし、新人が取りにいかないっていう考え方もできるんですが。その部分で自律型・自走型の人材を育てている組織と差が出ると思っています。
自律型・自走型の人材をうまく育てられた組織は、中堅層だとかどうだとかっていう決まったカテゴリーの人材に仕事が結びつかないと思います。誰がやっても似たような成果が出せるんじゃないかなと考えています。
技術環境の変化に適応する組織力の違い
――なるほど。篠田さんはどうでしょう。
篠田:私が接点を持たせていただいている企業さんは、わりと大きな経営環境、技術環境の変化に直面されているというところが起点になって、最終的に管理職の方の聴く力を高めることで、まさに現場の方々の潜在力をもっと事業に結びつけようとされています。
「もうここやらないとダメだよね」と。ちょっと抽象化すると、こういう環境にいらっしゃるところが、本当にみなさんそうだなっていうふうにお見受けしているんですよね。
つまり管理職層、あるいはそれ以上の方々の過去の経験値が、あんまりもう活きないところに会社の未来を託さないといけなくなっちゃっている。
そういうことだとすると、ここまでお話をうかがってきたような良いかたちで育てられた今の新入社員の方だって、5年目になったら立派な中堅ですからね。5年って本当に長いようでけっこうあっという間(笑)。
かつ今のようにさまざまな技術環境が変化している中では、過去のものをアンラーンしなきゃいけないある種の技術負債を負っている先輩たちよりも、若手の方が今の環境にどんどん自ら順能していくほうがはるかに勝ち筋が見えるようになるわけですよ。
そういうふうに思うと、やはり基礎力としての、ここまで朝蔭さんが言ってくださったような「自ら考える」とか「わからなかったら自分で質問ができる」とか、あるいは「背景を理解しにいく」っていうような意味での自走力。
それがある若手を育てられた組織は本当に、5年後に新しい事業環境に適応したビジネスやサービスをより生み出しやすくなっているということにも直結するのかなと感じています。
――お二人のお話を聞いていてなるほどなと、うちの会社もがんばらないといけないなと思いながら聞いておりました。
(一同笑)
管理職に求めるものの再定義が必要
――いったんこれでインタビューは終わりにしたいと思うんですが、最後に何かお互いに聞きたいこととかあったりしますか?
篠田:大丈夫です。途中で聞いちゃいました、すいません(笑)。
朝蔭:じゃあ1つだけよろしいですか? すいません。私自身、管理・マネージャー層に会社側が求めすぎているんじゃないかなっていうところを考えていまして。
先ほど管理者層・マネージャー層って、まず個として優秀だというお話をしていただいたと思うんですけど、まさに私もそう思っていて。ただ優秀なポイントを理解しないと、本人の本来優秀な力が出せないと思っているんです。
要はマネジメントが得意な方っていうのは、やはり状況を整理したりとか、筋道立ててベターを探す作業が上手なだけであって。コミュニケーションして、部活で言うところの副キャプテンみたいな働きが得意かっていうと、そうじゃないと思っていまして。
そこをちゃんと役割を分けてアサインさせたほうが効果が出るんじゃないかって思っているんですけれども……そのへんってどうでしょうか(笑)。
篠田:朝蔭さんがおっしゃったとおりで、管理職に丸投げしすぎ。どんどんやるべきことを押し付けていて、経営観点で見ると「マネージャーの人数×働く時間・量」は有限なんだけど、それが有限だっていうことを誰も理解せずに、本社の各本部がバラバラと管理職に「あれやれ、これやれ」って落としているというふうに見える。
そうなるとやはり組織というものの性質上、上からはやいやい言われるから一生懸命出すんだけど、部下に対しての目配りって比率的におろそかになっちゃう。そういう力学が働きやすい構造の中で、みなさん大変な思いをされているというふうには見えるんですよね。
会社によっては少しずつ、本当にまだ例は少ないけれども、まさにそこの管理職の役割を再定義したり、役割を分割していくという取り組みをされているところはちらほら耳にします。
それこそさっき朝蔭さんが言ってくださったように、チーム全体の戦略的な舵取りをするとか、誰にどの仕事をやってもらうかって仕事を小分けしてアサインして、ちゃんとデリバリーできるようにするっていうことはやるんだけれども。
より具体的な、一人ひとりとコミュニケーションを取ってフォローアップするっていう、サブリーダー的なものをより公式な役割にして、そういう組織にしましょうっていうふうに制度で決められた会社さんも知っていますし。
別の企業だと部長職を3つに分けて、言ってみればプロジェクトを動かす人と、人を育てる人と、より技術的なところの充実を図るっていう。かつてはその全部を1人の部長がやっていたのを、3人に分けましたっていうようなところも聞いたことがありますね。でもまだそういうところは数が少ないです。
朝蔭:そこの費用対効果みたいなのが提示できれば、そういうところにお金をかけてもいいのかなって思ってもらえると思うんですけれども。やはりなかなかまだちょっとそこの価値観が、マネージャー層とそれを指示する側でマッチしないのかなっていうところが、今ちょっと僕がジレンマとして思っている部分ですね。
篠田:そこは今はそうかもしれないですけど、けっこう人手不足、特に若手の人数が物理的にいないということは明らかになってきているので。そうなるとちょっと感度が高い会社さんから、そこへの投資を考え始めている。
その点でいくとさっきのご質問にありましたけど、今そこに気がついてちゃんと、例えば「管理職の役割を見直すべきだな」とか気づき始めた会社は、5年後にはそれも実現して組織の中で回っている状況になっているので、けっこう差が出てくる可能性がある領域ですね。
朝蔭:ありがとうございます。
――お2人ともありがとうございました。