鶏が新しい刺激に対して好奇心を持つ理由
新村:そうすると脂が全身に付いて、例えば雨が降ってもちりが付いても、羽にくっつかない。
川崎:コーティングですね。先生、今、羽をバタバタとやりましたけど、これは?
新村:これは羽ばたきですね。これも慰安行動なんですが、羽を伸ばして。先ほどのは、尾振りですね。
川崎:羽ばたきの後の尾振りでしたね、これ、もう一度戻してみますね。この、端っこのほうに座っている。脚で砂をかいているんですか?
新村:砂浴びをやりそうですね。おぉ? おー! 砂浴びですね。
川崎:砂が舞っていますね。
新村:そうですね。砂を集めて体に砂をまぶす行動が砂浴び行動です。
川崎:これ、砂をわざわざまぶしているんですか? なんでそんなことを?
新村:羽の中にいる粉じんや寄生虫といったものを、砂と一緒に体の外に除く行動なんですよ。羽の状態をより良く保つ機能がありますね。
川崎:そのために、わざわざ自分の体の下に砂を集めてきて。左の子もまた、すごい砂が。
新村:すごい、すごい。
川崎:砂がガーッと上にね。
新村:スローモーションで見るのは初めてですね。
川崎:先生も初めての映像ですか?
新村:はい。
川崎:僕が動いたら、鶏たちも動きますね。もうほぼ全羽じゃないですか?
新村:かもしれないですね。
川崎:すごく探索されています(笑)。
新村:(笑)。すごく好かれていますね。
川崎:動けるスペースがあって本来的な自由があると、こういう行動になるということなんですね。
新村:だから新しい刺激に対して驚かない。むしろ好奇心が勝ってどんどん探索しちゃうという。
川崎:なぜそうなるんですか?
新村:おそらく、この環境自体がすごく豊かで、常に刺激に満たされている状態なので、新しい刺激に対しても好奇心が勝るということだと思いますね。
川崎:それが、刺激が少ない環境だと……1つの刺激の入力が大き過ぎるということですね。
新村:パニックになっちゃう。
川崎:ふだんからいろんな刺激があると、多少の刺激が入ってきても、「なんだ、なんだ?」でいられると。これは?
新村:おぉ。今のは敵対行動ですね。
川崎:けんかがここで起きていたわけですね。
新村:レアなんですけど、これはこれで正常行動なので。闘争行動が過剰になってしまうと、それは良くないことなんですけども。
ケージの違いで鶏の性格も大きく変わる
川崎:小競り合いもあるんですね。だんだん、みんな飽きてきて、涼しいほうに入っていきますね。
新村:(笑)。本当ですね。
川崎:これもまた、なんか動物らしい行動ですね(笑)。
新村:おもしろいですね(笑)。
川崎:すごい、みんなフワフワですね。
新村:毛がフサフサなんですよ。
川崎:こうやって間近で見ると、すごくきれいな毛並みだなという感じがします。
新村:すごくツヤのある状態で、お尻の毛もフッサフサなので、見ていて気持ちいいですよね。
川崎:この短時間で、4つの飼い方と運動場をギュッと見て、なんだか言葉にならない感情が湧いています。
新村:よかったです。
川崎:これはすごい体験ですね。
新村:やはり体験できるということが、この鶏舎の1つの特徴なので。いろいろな人に入ってもらって、肌で感じてもらうことが大事だと思っているので、すごくよかったです。
川崎:ありがとうございます。じゃあ、先ほどの部屋に戻りましょう。
新村:はい、よろしくお願いします。
(※場面転換)
川崎:先生。戻ってまいりました。
新村:ありがとうございました。
川崎:いやぁ、鶏ってフレンドリーなんですね。
新村:平飼いの鶏も、好奇心がかなり旺盛で、寄ってくる様子がわかったと思うんですけど。
川崎:毎日、あの中で作業をされて。
新村:そうですね(笑)。
川崎:飼い方による違いについては、「あっ、こういうことか」という実感もあったんですけど。みなさんは、どういう感想になるんですか?
新村:川崎さんと似たような感想になると思いますね。放し飼いの鶏は人懐っこくて好奇心旺盛で、すぐ寄ってくるんですが、ケージの鶏は人が入っていくと、驚いてパニックになってしまう。そういうのはおそらく肌感覚でわかるんじゃないかと思いますね。
川崎:ストレス状態とか、そういうことの違いなんですかね?
新村:ケージですと刺激がほとんどないので、新しい刺激に対して過剰に反応してしまう状況になっているんだと思います。
川崎:こちらは、今採卵していただいた卵ということでして。ここに「BC」と書いてあるのは、これはバタリーケージ?
新村:はい。
川崎:「EC」がエンリッチド。「BL」が?
新村:平飼い(Barn-laid)ですね。
川崎:「A」が?
新村:エイビアリー。
飼い方の違いによる価格差を調査
川崎:鶏の種類は全部一緒ですよね。
新村:一緒です。
川崎:だからなのか、同じ卵に見えますね。みなさんから見てどうでしょうか。わかりますかね?
新村:難しいですね。
川崎:どこかに出してほしいんですけども。今週、埼玉と東京の10ヶ所のスーパーで、鶏の卵の実際の小売価格を調べてみました。

これを見ますと先生、2025年6月現在での、東京近郊でのバタリーの価格は、1個当たりが30円から50円ぐらいの間に収まっていると。エイビアリーになると70円から90円。だいたい倍から3倍くらいの感覚ですかね。平飼いの場合はもっと幅がありまして。
新村:そうですね。
川崎:下はバタリーと似たような金額から、上は1個当たり150円ぐらい。かなり幅があるわけなんですけど、一般的にやはりバタリーがすごくお安くて。一方で平飼いやエイビアリーは高いということになりますか。
新村:はい。
川崎:1個当たりが数十円の違いなので、10個とかになると、数百円の違いになることもあるだろうと。これをどう捉えるか。
新村:価格差が日本だとおおよそ2倍ぐらいですが、この2倍の価値をどこに見いだすかが非常に難しいところだと思います。
川崎:だって、並んでいたら一緒じゃないですか。
新村:一緒ですね(笑)。
川崎:我々は「あぁ、こういう飼い方の違いなんだ」というのを見ましたけど、でも、いざスーパーで並んでいて、一方がいくらで一方がいくらってなった時に、これはたぶんわからない。ちなみに味って変わるんですか?
新村:私たちが調べたところによりますと、放し飼いのほうがうまみが強くなることがわかっています。
川崎:餌の条件が同じだったらということですか?
新村:まったく環境は一緒なんですが、飼い方だけを変えた時、ケージと比べて、放し飼いのほうがうまみが強くなる。
川崎:なるほど。でもそれって、「あっ、この卵は平飼いだね」というような、海原雄山的なことまでは一般の方はわからないぐらいですよね。同じ条件にしたもので、飼い方の違いだけを、まさに実験的に比べたらわかる程度?
新村:そうですね。ものすごく大きく違うというよりも、かなり小さな違いではありましたね。
放し飼いの鶏の卵黄には栄養素が多く含まれている
川崎:このあたりがなんて言いますか、難しさというか。
新村:栄養価もかなり違うのはわかってはいるんですけど。放し飼いだと、太陽光を浴びることで代謝が変わってくる。例えばケージと比べて、放し飼いの鶏の卵黄には、ビタミンBやビタミンDが3倍から4倍含まれているとわかってきていますね。
川崎:あっ、そういうことなんですか。よく、餌にビタミンDを足してある餌とかあるじゃないですか。そうするとやはり高いんですよね。
新村:あれは本当に餌に追加しているので、それに対する餌の値段が高くなるんですけれども。
川崎:なるほど。だからちょっと高いんですね。
新村:私たちは、餌に何かを追加するのではなくて、環境を変えることで鶏の体の中がどんどん勝手に変わっていって、ビタミンDなどが体から卵黄にどんどん移行していくという。
川崎:それは、太陽光を浴びているということのほかにも、運動していることも関係するんですか?
新村:それも関係していますね。放し飼いにすると、アミノ酸代謝や、ビタミンBを合成する腸内細菌が増えていくんですね。それが血液を介して、卵の卵黄の中にどんどん蓄積していくというデータが得られています。
川崎:なるほど。これはなかなか深いですね。いろいろ体験をして、見聞きして、恥ずかしながら、卵や鶏肉をいただいていますけど、どう飼われているかというのは、私もまったくわかっていませんでした。そんな中で「あっ、こういうことなんだ」というのを、画面の向こうのみなさまにも疑似体験していただいた時に。
それぞれの飼い方の良さや、他の飼い方のほうがいいな、ここは改善点だなというところと、それぞれにあったと思うんですね。
それをどう感じられて、スーパーの卵コーナーでどういう行動になるかということは、なかなか深いですね。「これが正解です」と言い切りたい気持ちもあるけど、言い切れない。そういう生活者としての目線もあり。
飼育方法を変えるには億単位の投資が必要なことも
川崎:これは何が正しいんですかね?
新村:いやぁ、何が……わからない(笑)。
川崎:(笑)。
新村:私は、それぞれの人の行動がそれぞれ正解だと思っています。ケージの卵はケージの卵であっていいと思いますし、放し飼いに価値を見いだす人がいるなら、例えばそっちの卵を年に1回買うというのも、それはそれで正解だと思いますし。
川崎:一方で、スーパーに平飼いのような卵が多くなってきたと感じるんですけれども。
新村:まぁ、増えていますね。ほとんどのスーパーで、少なくとも1個ぐらいはあるんじゃないかなと思います。
川崎:実際、養鶏業者さんはどのように捉えておられるんですか?
新村:アニマルウェルフェア自体は、不可避の課題だと感じていると思うんですけれども。放し飼いに変えるのは、どうしてもお金がかかることですし。
川崎:コストはどれぐらいかかるんですか?
新村:例えばエイビアリーを1つの鶏舎にドンと入れると、億です。
川崎:億!? 単管パイプを「ちょいとちょいと、こう、ヒュッ」でやるだけじゃないんですか?
新村:さらに糞や卵を運ぶベルトコンベアや、餌などは全部自動化されているので、大きな機械を入れていかないといけないんです。
川崎:じゃあ、単に何階建てに組めばいいというもんじゃなくて。そういう自動化の部分があるんですね。
新村:管理もそれだけ大変になります。
川崎:じゃあ、エイビアリーと書いてある卵のパッケージの養鶏業者さんは、億単位の投資をしているんですか?
新村:そうですね。赤字でまず導入して、それを回収しなければいけないので。
川崎:このわずかな数十円、数百円の単価差で、それを回収していくんですか?
新村:売れないリスクもある中で、チャレンジしている方もいますので。
川崎:それはうまくいっているんですか?
新村:難しいですね。うまくいっている人もいると聞きますけれども。放し飼いをしているけど、ケージの卵を売っているという人もいます。ニーズがあるように見えて、販路が難しいといいますか。買ってくれる消費者というのは、実際にはそんなに多くないので、なかなか苦戦しながらチャレンジしている状況だと思いますね。
養鶏は「大きな施設をドンと入れて終わり」ではない
川崎:卵っていろいろな場面があって、自分で卵のパックをスーパーで買うこともあれば、飲食店で出てくる料理に使われていることもある。たぶんそんな卵まで気にしないですよね。
新村:そうですね。
川崎:玉子丼、親子丼、カツ丼、とじ丼、普通はあれらがいくらかということしか気にしないですよね。
新村:そうだと思います。一番たぶん気にする場面は、スーパーの殻付きの卵の時じゃないかと思います。
川崎:そこでの消費者行動というものが、どれぐらいのスピードでどうなっていくかによって。でも養鶏業者さんにとってはどう考えてもリスクのほうが大きい状況じゃないですか?
新村:そうですね。補助金もあるわけでもありませんし。
川崎:その中で(売上を)伸ばしておられるのは、どういうところなんですか?
新村:もともと、もうやっていて。私も体験してよくわかったんですが、放し飼いは、鶏が巣箱で卵をしっかり産んでくれるのかというと、必ずしもそうじゃなかったりするので、管理も難しいんですよね。
川崎:どこで採れるかわからないんですか?
新村:施設をドンと導入したとしても、その中で鶏をうまく飼っていくのは、また3年、4年、5年と月日をかけて洗練させていくので。
川崎:鶏の行動を見ながら調整をかけないといけないと。エイビアリーをドンと入れたら、よし、次の日から卵をそれでどんどんいくぞ、ということでもないんですね?
新村:なので、やはり先にやっている人が、かなり洗練されたかたちで。
川崎:そのノウハウを持って拡大していくという。でも、逆に言うとそういった方は、ある程度の単価で卵をお売りになっている。そうでないとスーパーで増えていかないんですもんね。
新村:はい。
川崎:へぇ、すごいですね。卵1つ取っても、この動物はどう捉えるんだと、その波が日本に来ていて、どう受け止めるのかがすごく大きいですね。
新村:深いですね。難しい問題だと思います。
川崎:食料品の価格ってすごくセンシティブなところで。特に人間の生活にものすごく密着しているから、感情的な部分もかなり入ってきますよね。
新村:それに対していくら出すかという話になってきますので。アニマルウェルフェアが拡大する中で、あらためて食の価値といったものも、再認識していく方向になればいいと思っていますね。
生活に根差した議論が必要
川崎:わかりました。ではみなさん、本日は、アニマルウェルフェアの第2弾ということで、東京農工大学にお邪魔して、新村先生と一緒に最新の施設、Unshelledを見学をさせていただきました。
鶏の生態の映像も途中で見せましたが、みなさんはどのように感じられたでしょうか。言葉が躍っているだけだと、なかなか議論が深まらないと思いますので、実際の動物の生態や、我々の「スーパーでいくらだった」というような、生活に根差したところから議論がスタートできたら、きっと素敵な結論に徐々に近づいていけるのではないかなと思いました。
では、ご好評いただければ、第3弾、第4弾とさらにアニマルウェルフェアの世界を新村教授と共に深めていければと思います。また新村先生とご一緒させていただきたいと思いますので。
新村:はい、ぜひよろしくお願いいたします。
川崎:では、みなさん、本日はありがとうございました。さようなら。
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