生成AIが注目を集める一方で、「ビジネスの現場で活用できていない」という声は少なくありません。本記事では、「カスタマーサポートDX SUMMIT SUMMER 2025」で行われたオンライン特別セッション「AIで問い合わせ対応の完全自動化は可能か? CS業務における生成AI活用の最前線」の様子を紹介。株式会社ATOMica Platform 開発本部 白塚湧士氏と、株式会社ラクス ラクスクラウド事業本部戦略企画部 矢﨑澪氏が、CSの現場で生成AIをうまく使えない「5つの理由」を元に、活用を成功に導くために必要な考え方のシフト、具体的な事例まで、企業が取り入れるべき「生成AIとの向き合い方」を明らかにします。
なぜ生成AIは「知っているけど使えない」?
馬渡拓海氏(以下、馬渡):ここからは、ATOMicaさまとラクスさまより「AIで問い合わせ対応の完全自動化は可能か? CS業務における生成AI活用の最前線」と題して、特別セッションを行わせていただきます。みなさま最後までご視聴くださいませ。
ということで、今日のアジェンダを軽くご覧いただきます。冒頭のオープニングで、自己紹介と会社紹介を軽くさせていただいて、「CS現場の“リアル” なぜ生成AIは『知っているけど使えない』のか?」「どこで差がつく? CS現場における生成AI活用効果」というところを中心に話をさせていただきます。
ではさっそく、まず簡単に会社紹介、自己紹介をお願いできればなと思っていまして。ラクスの矢﨑さまからお願いしてもよろしいでしょうか。
矢﨑澪氏(以下、矢﨑):ありがとうございます。自己紹介ということで時間をいただきます。「メールディーラー(Mail Dealer)」の製品戦略を担当しております、矢﨑澪と申します。本日はラクス側の講師を務めさせていただきます。
私の経歴を簡単に紹介させていただきます。新卒でラクスに入社いたしまして、メール共有管理システム「メールディーラー」のフィールドセールス、インサイドセールス、マーケティングを経験した後に、現在はプロダクトマネジメントを担当しています。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

続いて簡単に、会社の紹介もさせていただきます。弊社は株式会社ラクスと申しまして、クラウドサービスの開発・販売を行っている会社です。
CMでご存知の方も多いかもしれませんが、経費精算システムの「楽楽精算」や電子請求書発行システムの「楽楽明細」など、バックオフィス向けのシステム。それらをはじめとして、私が製品戦略を担当しております、メール共有管理システムの「メールディーラー」、メール配信サービス「配配メール」などフロントオフィス向けのシステムなども多く提供しています。
16年連続売上シェアNo.1のメールディーラー
矢﨑:メールディーラーをご存知ない方もいらっしゃると思いますので、簡単にご案内できればと思います。メールディーラーというシステムは、「info@」や「sales@」などの共有のメールアドレスやメーリングリスト宛に来るような、複数名で対応するメール・問い合わせの対応を楽にするシステムです。

問い合わせの対応漏れ・遅れ・見落としなどを防げるところが、大きな特徴になっています。
今は累計9,000社以上のお客さまにご導入いただいておりまして、メール処理市場では16年連続売上シェアナンバーワン(※)もいただいているシステムです。
※出典:ITR「ITR Market View:メール/Webマーケティング市場2025」メール処理市場:ベンダー別売上金額推移およびシェア(2009~2024年度予測)
よりお客さまの問い合わせ対応業務が楽になるように、AIを活用したさまざまな機能を順次リリースしております。

詳しい内容や機能面については、後ほど、簡単に案内できればと思います。長くなってしまいましたが、私の自己紹介は以上です。
馬渡:矢﨑さま、ありがとうございます。ではATOMicaの白塚さま、ご紹介をお願いしてもよろしいでしょうか。
白塚湧士氏(以下、白塚):ありがとうございます。私も簡単にご紹介ができたらと思います。株式会社ATOMica KOMMONSカンパニーCEOの白塚と申します。もともとKOMMONSを立ち上げて、2024年にATOMicaに事業を売却しました。
自己紹介をさせていただきますと、新卒からずっとこのCS・CX領域に従事しております。最初はコールセンターの事業会社に総合商社から出向して、カスタマーサポート領域のBPO業務のマネジメントを行っておりました。
CSの現場で生成AIを使えない5つの理由
白塚:その後スタートアップに移りまして、カスタマーサクセスの立ち上げを経てKOMMONSという会社を創業しました。今はこのカスタマーサクセスの顧客を起点にしつつ、カスタマーサクセス・サポートのコンサル、BPOの事業を展開しております。簡単にはなりますが、本日はどうぞよろしくお願いいたします。
馬渡:ご紹介ありがとうございます。よろしくお願いいたします。では、次のアジェンダにさっそく移らせていただければなと思っていまして。
ここからは矢﨑さまより、画面共有をいただきながら「CS現場の“リアル” なぜ生成AIは『知っているけど使えない』のか?」についてお話をいただければと思います。よろしくお願いします。
矢﨑:今日は、カスタマーサポートの現場のみなさまが多く参加いただいていると思います。昨今、生成AIを使っていこうという風潮がある中で、なかなかカスタマーサポートの現場で使えない、使いこなせていない、踏み出せないという話をうかがうことがよくあります。
その中で、お話を聞いていると、ここに出している5つが挙げられると考えております。上から1つずつ解説をできればと思っておりまして。まず上の2つについて、白塚さん、お願いできますでしょうか。
白塚:ありがとうございます。1つは「出力された内容が正解かわからない不安」。こちらについては、今の生成AIになる前にもありましたが、よくおうかがいする不安かなと思います。

間違った情報をもっともらしく提示してしまうハルシネーションの話もありますが、改善傾向にはあるかと思います。ただ、間違った情報の提供を防ぐために、クロスチェックを行うことが重要です。
入力したデータはAIに「学習されてしまう」のか?
白塚:2つめは、「入力したデータが学習されてしまうらしい」という話です。ここについては生成AIに学習されない設定を各生成AIのツールで行う。あるいは自社専用の環境を構築するためのツールを導入することでも解決できます。
直近でいいますと、メールディーラーのような組み込み型のツールを使うことによって、そのあたりのリスクをなくしていくことも有効と考えております。
矢﨑:ありがとうございます。そうですよね。私もいろいろなお客さまと話していて、「学習されちゃうんじゃないか」が、ぱっと出てくるワードとしてかなり多いんです。
弊社で提供しているサービスもそうなんですが、AIのモデルに学習されないようにオプトアウトをしているケースが多いかと思うので、基本的にそこはご安心いただければと思いますね。
白塚:そうですね。生成AIは、ChatGPTなどのツールを直接使うパターンと、組み込み型のツールを使うパターンがあると思っていて。前者のパターンは、ある程度会社が大きくなると、情シスが統合管理をするかたちになると思いますし。
組み込み型の場合は、ベンダーがセキュリティを意識しながら開発を進めていると思いますので、不安な方は、組み込み型のツールからまず利用してみるのがおすすめです。より自分でカスタマイズして使いたい方は、不安であれば情シスとコミュニケーションを取りつつ進めるのが安心かと思います。
矢﨑:ありがとうございます。次は、後半3つについて私からも少しお話しできればと思います。

まず1つめは、業務のどのような場面で使えるかわからないというお悩みです。こちらは、私も最近、多くのメールディーラーのユーザーさまとお話をさせていただく中でよくおうかがいします。
ChatGPTなどの環境はあるけれども、「どうやって使えばいいかわからなくて正直使えていない」という内容が、正直ベースでお話しいただくところです。
「AIを相棒として使う」という考え方へのシフト
矢﨑:AI自体は人間の知的な活動を模倣してくれるものなので、ふだんの業務の中でみなさんが「効率化したい」「時間がかかっている」「正直面倒だな」と思うところから洗い出してみるのがおすすめです。
例えば集計に毎週2時間かかっていたり、毎日ミーティングが終わった後に議事録を1時間かけて作り直していたり。
そういった、時間がかかっている業務から洗い出すと、「AIを使わなきゃ」というよりも「どうしたら楽にできるか」という観点になるので、固定観念にとらわれずに洗い出しができるようになるんじゃないかと思います。
それこそ、洗い出したものを「どうしたらAIで効率化できますか?」とChatGPTやGeminiに投げかけてもらって、考え方、やり方の幅を広げてもらう。それにより、どういった場面で使えそうか、どうやったらできそうかというところまで見えてくると思います。
次に、「新しいことを覚えたり取り入れたりするのが億劫だ」というものです。これはAIに限らず、何か新しいシステムを導入する時に、やはりこのハードルが一部あるかなと思っています。
それはみなさんがふだんの業務のお忙しい中で、さらにプラスアルファで考えたり、取り入れたりするとなると「大変だ」と思ってしまうことはあると思います。
ただAIに関しては、単純に業務が追加されるわけではありません。先ほどもお話ししたように、ふだんの業務を楽にする、効率化する手段でもあるので。楽に早くできるようになるためにAIを相棒として使うという考え方にシフトをしてもらうのがいいと思います。
最後の「実際に使ってみたが業務が楽になると感じられなかった」についてです。これは、ケースとしてはいろいろなパターンがあると思うんですが、結局AIが出してきた答えを直す必要があって「逆に手間だった」というケースが多いと思います。
アウトプットを出すためのデータ蓄積が重要
矢﨑:でも、最近の流れで言うと、「AIはなんでもできる魔法だ!」という風潮がじんわりとある中で、AIに100パーセントの完成品を出してもらおうとしたことから起きるギャップなのかなと。AIの回答は、100パーセントを狙うものではなくて、たたき台として使うのがコツかなと思っています。
例えば0から書くよりも、AIが作った50点・60点の原稿を90点・100点に磨き上げるほうが圧倒的にスピードも速くなります。
完成度を求めるのではなくて、たたき台を作ってもらうという視点に変えると、ぐっと楽になります。AIに対する期待値コントロールが自分の中でもできるので、使えば使うほど、こういうシーンで使えるんだと、自分の中で知見がどんどん溜まっていくんじゃないかと思っております。
……というところなんですが、白塚さま、何かコメントはございますでしょうか。
白塚:ありがとうございます。「実際に使ってみたが業務が楽になると感じられなかった」というところは、やはりこの直近、エンタープライズを中心に会社用GPTや会社用生成AIが少しずつ広がってから出始めていると思ってまして。
この後もお話をさせていただくのですが、セキュリティの都合でデータを社内環境用に絞ると、結局は社内にちゃんとデータが溜まってないと、出てくるアウトプットの精度が下がってしまう。
ツールを入れて終わりではなく、しっかりアウトプットが出てくるような土台としてのデータ蓄積が重要になってくると非常に強く感じています。
矢﨑:ありがとうございます。まさにそうですね。
馬渡:ちなみにモデレーターとして気になった部分ではあるんですが、ATOMicaさんとラクスさんの、「社内でこんな感じで実際に踏み出したよ」「今踏み出してこう進んでるよ」というケースがあればご共有いただけると、みなさんイメージできるかなと思います。何かあったりしますでしょうか。ちょっとオープンな質問で恐縮です。
白塚:じゃあ僕からお話しさせてもらっても……。
馬渡:そうですね。