災害リスクが高まっている3つの要因
森山:こういったことがある中で、社会的には気象災害に弱くなっている部分が、3つあります。まず、高齢化ですね。避難するにも時間がかかる方の割合が増えている傾向があります。過去の水害の犠牲者でも、60歳以上の割合がかなり多いです。
川崎:高齢化社会というのは、こういうところにも影響してくるんですね。
森山:2つ目が、浸水想定エリアに住む人の数自体が増えているということです。
川崎:以前より増えているんですか?
森山:増えています。これは主に1980年代・1990年代を中心に、宅地開発がけっこう危険なエリアにも進んでしまったこともありまして、人間の側から近づいてしまっていると言えなくはないというのがあります。
あとは高齢者の施設ですね。介護福祉施設が水害のリスクエリアに立地している割合も、けっこう(高くて)40パーセント以上。
川崎:えー!? これは1番(高齢化)と2番(浸水想定エリア)の掛け算で、心配ですよね。
森山:より心配です。3つ目が、2025年も下水道管の破裂によって道路の陥没などがありましたけども。
川崎:昨日も福岡で見られていますね。
森山:ありましたよね。インフラが老朽化していて、特に橋については、2030年には、建設から50年以上経過するものが54パーセントということです。物によってはメンテナンスをしっかりしていかないと、危ないものも出てきていますね。
川崎:これは手が回り切るのかという話にもなってくる。
森山:人手不足や人件費高騰というところもあって、なかなかすぐに進まないこともあります。こういった社会課題と、先ほど申し上げた激しさを増す気候変動によって雨・風がより凶暴になってしまうと。
川崎:世界から見ると日本という国は、ビジネスをしようと思った時になかなか大変ですね。
森山:そうですね。天気を味方につけないと、経済的損失が出てしまいかねない。そういった場所で我々は暮らしているところに、より一層社会基盤の弱さも出てきて、気象災害リスクは高まっていると言えると思います。
なので、従来の防災対応だけでやっていくと、なかなか間に合わないケースも増えてきていると言えます。
事前に予測や備えができるのが「気象災害」
川崎:企業のBCP(事業継続計画)対応といえば地震がメインで、やはり大きな地震がある度に、みなさん見直しをされているわけですけれども。今けっこうジワジワと、でも1兆円、2兆円というような大規模な被害総額が出ている段階で、この期に及べば、企業のBCP対応としては当然、気象リスクも踏まえるべきものになってきますよね。
森山:そうですね。地震には本当に十分対策をしてきたという企業さんも、これからは気象災害リスクにも、より一層しっかり捉えて準備していかないと。それも社会責任の1つになっていくんじゃないかなと思います。
みなさんがスマホで、これだけの情報を自分で取れる時代にもかかわらず、被害がなかなか減らないのは、もう1つ視点を変えると、想定がなかなかうまくできていないことが多いと言えると思います。
被害に遭った方の声で多いのが、こちらに挙げているように、「こんなことになるとは思わなかった」「まさか自分がこんな目に遭うとは」ということで、危機をうまく想定できていない時にどうしても、より一層被害が大きくなってしまう傾向がありますね。
川崎:やはり毎回こういった声が上がってしまうのは、ある種人間がこういうことになりやすい性質といいますか。あるいはその方に情報がうまく届いている・届いていないというところの難しさがあるんですか?
森山:そうですね。情報が届いても、それをきちんと受け取って、どう行動すればいいか。ここの部分にもまだ少し課題はあるかなと思います。
地震は突然ドンと起きてしまうので予測がなかなか難しいですが、そんな中で気象災害は、今日台風が発生しましたと。直接の影響はなくても、来週は湿った空気が日本付近にも流れ込んできて、雨雲を活発化させるといった予想ができるんですね。なので、備える時間があるのが、他の自然災害との大きな違いになります。
この備える時間を有効活用することが、今後は必要になるのではというところで、我々はソリューションを開発して進めていったというところになります。
川崎:なるほど。そこに最新の防災テックを当てていくと、いろいろな安全につながったり、経済的な利益を守ることにつながったりする。
能登半島豪雨を引き起こした「線状降水帯」
森山:なんとかそこの課題を解決できないかというところで進めています。ここでちょっと事例を1つ見ていただきたいんですが、一番記憶に新しいもので、2024年9月に能登半島豪雨が起きた時に、どれくらいの被害だったかというデータになります。
川崎:今なお、「なかなか復興が」という声もあります。
森山:そうですね。残念ながら、犠牲者もこれぐらい出てしまいましたし、大規模な土砂災害や浸水被害、そして大規模停電、断水など、経済的な損失もかなり大きかったところがありました。
ポイントは土曜日に発生したこともあって、いつもどおり休日を過ごそうとした方が犠牲になったり、「さあ、仕事をしよう」とした方が工事現場で残念ながら土砂災害に遭ってしまったといったこともありました。なぜ起きたかというと、やはり冒頭でお話しした、線状降水帯です。
川崎:これも線状降水帯で雨がものすごく短時間でダーッと降って、雨量にいろんなものが耐え切れなくなった。
森山:そうですね。もう見ていただくとわかるように、狭い範囲に集中的に雨が降って、輪島市で一番雨量が多くなったんですが、半日足らずで300ミリ以上という、史上1位の集中豪雨が起きてしまった。
川崎:地図で見ると、ちょっと南のほうに行けば雨すら降っていないわけですね。
森山:そうですね。本当に同じ石川県内でも、金沢市や小松市といった、ちょっと南のほうはあんまり強くはならなかった。ですが、能登半島の一番北のほうは大変なことになってしまった。「線状降水帯が発生しました」という情報が出た時には、もうあちこちで川があふれていたり。もう一気に状況が悪化してしまったと。
午前7時半に避難指示、午前9時には被害が出始めていた
川崎:急激に起こったことであって、住民の方にはそんなに情報が下りていなくて、前々からということではなかったんでしょうか?
森山:はい。前の日からここまで悪くなるというのは、なかなか住民の方が(情報を)受け取れなかったというのもありました。実はどういった防災情報が発災までに出ていたかというのがこちらになるんですね。
ちょっと見ていただくと、当日の朝6時半とか7時に、大雨警報や土砂災害警戒情報などが発表になって、それをきっかけに輪島市の行政側が、7時半ぐらいに避難指示を発令しました。
川崎:9時にはもう被害が出始めたことを考えると、相当に直前というか。
森山:はい。かなり切迫した(状況でした)。
川崎:この情報が行き渡ることを考えると、なかなか難しいところがありますね。
森山:そうですね。時間的猶予が非常に短かったというところがあります。
川崎:4日前からちょっとずつ(情報が)出始めてはいると。ただ、石川県で中程度の雨だと、まぁ気をつけようかぐらいで。前日も能登地方で「中」ということで、引き続き気をつけていれば、あるいは大丈夫なのかなという、ある種のメッセージになってしまっているとも取れますよね?
森山:そうですね。
川崎:「まさか」という言葉は、もう本当にそうですけど、急激にこんなにすごい被害になるとは思ってもみないわけですよね。
森山:輪島市民の方が、自分のところでこれほど(雨が)ひどくなるというところまでは、なかなか想像が難しい状態でした。
川崎:これは前々から気にされていた方でもそうですね。
被害を最小限にするための備え
森山:そして、当日の朝を迎えてしまったというのがこちらの事例になります。これに対して、「気象防災シグナル」で、どういった課題を捉えて被害を最小限にできるかというところで、浮き彫りになった課題をまとめてみました。
課題としては、やはり先ほども見ていただいたように、直前までリスクがなかなかはっきり見えず、ちょっと手遅れというか、防災対応も後手に回ってしまう。初動の遅れというところがまずありました。
川崎:避難1つ取っても、「どこにどうやって行くか? 何を持っていくか」というのも、やはりそれなりに準備や情報が必要ですよね。誰かに連絡を取ったりというのは、時間があればあるほどいいんですけど、切迫するとなかなか難しくなると。
森山:はい、そこがやはり1つ目ですね。2つ目が、自分ごと化がなかなか難しかったと。やはり何々地方とか何々県全体に出ている情報だけだと、自分ごととしては、なかなか動きづらいという点があります。
川崎:県全体が本当にヤバいという情報にならない可能性が高いわけですよね? 県になるとちょっと危機感が薄まってしまうというか。
森山:そうですね。「広い範囲で危ないかも」という情報だとも言えるんですけれども、一方でそういった弱点というか、自分ごと化しづらい捉え方につながってしまう部分があります。
3つ目が、やはり状況が悪くなる前までにしっかりと準備をして、みんなで安全対応、安全確保するというところまではなかなか難しいです。
川崎:そうですね。この安全というのもいくつかの捉え方があって、当然ながら一番は命の安全の確保だと思います。でも、次の安全はやはり家財など財産の安全ですよね。自分の車をどう避難させるかといった、いろんな安全があると。
そして、当然ながらビジネスの安全があるわけですよね。やはり、このビジネスまで守りたいが、切迫してくると「なんとか命を守りたい」というところまででとどまってしまう。もっと先にわかったならば、そういったビジネスまで含めた安全も幅広く守りたいということにつながるということですね?
森山:そうですね。本当に地域全体で危機意識を持てていたり、あとは企業も本部と例えば店舗、事業所全体でそういった「危ないかもしれない」というのを自分ごと化して共有できていたら、変わってくるのではないか。そういったところで、今回はみなさんにも、新しくこういったかたちの備えの視点を知っていただきたいなと思っています。
最長2週間先までの気象災害を予測する「超早期リスク予測」
森山:それが、想定外を減らす超早期リスク予測というものになります。冒頭でちょっと申し上げましたが、最長2週間先までの気象のリスクを検知し次第、お知らせするというものになります。
川崎:通常は3日ぐらいなんですか?
森山:通常は3日先、72時間先ぐらいです。
川崎:でも、2週間後の天気予報ってありますよね?
森山:そうですね。2週間先までの天気予報があっても、どれぐらいの量の雨が降って自分の場所にどういった影響があるかというところまで読み解くのはなかなか難しいと。
川崎:そこまでの情報はないということですね。
森山:超早期リスク予測は、そこまでの落とし込みをして、お伝えするというものになります。具体的にどういったものになるかというと、大雨だけではなくて大雪、暴風なども含めて、気象リスクが発生する危険性を最長2週間前から検知して、備える時間を最大限化する防災ソリューションになります。

そのことを通じて早めの想定が生まれて、防災対応の初動も早まり、リスク回避につなげていただきたいというものになります。
川崎:生命はもちろんのこと、ビジネスという経済活動においても、これがかなり役立つであろうということですね。
森山:そうですね。
川崎:今、私は手元にiPadを持っておりまして、Q&Aが手元で見られるようになっておりますので、後半はみなさんのQ&Aにお答えしていきたいなと思っております。
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