昨今、負担の増大ややりがいの喪失に悩む管理職が急増しています。管理職が機能しなければ、若手の成長や組織全体の活力にも悪影響が及びかねません。本セミナーでは、管理職のやりがいをどう取り戻すか、そのカギとなる「心理的資本」に注目。株式会社タバネルの奥田和広氏と株式会社Be&Doの橋本豊輝氏が、管理職を救い組織を再生するヒントを探ります。後編では、橋本氏が心理的資本の観点から組織が取り組むべき施策について語りました。
心理的資本の専門家が登壇
橋本豊輝氏(以下、橋本):奥田さんからバトンを引き継いで、私、Be&Doの橋本が第2部をお伝えしていきたいと思います。私からは、「管理職のやりがいを高め、能力を発揮させる内なる原動力とは?」という大テーマでお話をしていきます。よろしくお願いいたします。
簡単に自己紹介をします。「人と組織のイキイキ」に携わって十数年経つ人間なんですけれども、2023年9月に『心理的資本をマネジメントに活かす』という書籍を、大阪大学の開本浩矢先生とご一緒に出版しておりますので、もし良ければお手に取っていただけたらなと思っております。

というわけで、今日はその中から、内なる原動力の「心理的資本」というのはそもそもどんなものなのかという理解を、少しでもみなさんにしていただきたいなと思います。短い時間ではありますけれども、やりがいを高め、能力を発揮させる具体策としてどんなことができるのかのエッセンスをお伝えしていきたいなと思っております。
先ほどの奥田さんのお話とリンクする部分がたくさん出てくると思いますので、ちょっと思い出していただきながら、お話を聞いていただけると大変ありがたいなと思っております。
というわけでさっそく、「Chapter1」ということで、「内なる原動力『心理的資本』を理解する」というテーマでお話をしていきます。
先ほどの奥田さんの
JD-Rモデルの中にも出てきているんですけれども、まずそもそも、「働きがい(ワーク・エンゲージメント)」を促進する要因として、個人の資源である心理的資本の強化が重要だよと、もう令和元年の『労働経済白書』の中で触れられているんですよね。

私たちは、「その心理的資本を強化する方法ってどうなの?」というところを専門的にやっておりますので、後ほどご紹介したいなと思います。では、この心理的資本の正体が何なのかというのを、もう少しわかりやすくお話ししたいなと思います。
「人的資本・社会関係資本・心理的資本」の正体
橋本:ちょっとイラストを用いながらお話ししますが、例えばこんな状態を想像してください。管理職の職務に就いた時に、その方自身が知識・スキル・経験もなくて、人とのつながりもなくて、やる気も自信も心の余裕もない。そして行動もしないという状況はどうでしょうか。

ここから成長するイメージもなかなか持てないですし、もちろん成果やパフォーマンスが上がるイメージも持てないことは想像がつくかなと思います。
一方で、「いや、もうプレイヤーとしてすごく優秀だったし、すごい成果を上げてきた」と。そういう人が管理職になることもありますよね。その業務についての知識もスキルもしっかりあるし、たくさんの人とのつながりもある。

なのに、やる気もないし自信もないし心の余裕もない。ゆえに行動もできない・しない。こういう状況はどうでしょうか?
成長するイメージを持てないですし、もしかしたら最低限の業績を上げることはあるかもしれませんが、下手すると周囲や部下に悪影響すら及ぼす可能性だってあるわけです。良くないですよね。
では、その逆もちょっと見ていきたいんですが、ほかの部署から異動してきたり、あえて新しい領域で管理職を任されるようなケースだってもちろんあります。そういった意味では、知識・スキル・経験がないこともあり得ますし、人とのつながりも新しくその分野で作っていかないといけないこともあり得ると思います。

それでも、やる気も自信も心の余裕もあって、行動することができる状態を想像してみてください。潜在的に非常に成長する可能性を感じられますし、今すぐでなくても業績も上げてくるだろうなと、部門としても良くなっていくだろうなというイメージがつくと思います。
最終的にはこの状況を目指したいですよね。知識やスキルもしっかりあって、たくさんの人ともつながっていて、やる気も自信も心の余裕もある。だから行動することもできる。成果が上がりそうですし、困難を乗り越える自信もあるでしょうし、成長するイメージが非常に湧きます。

実はこれが、先ほど奥田さんの図の中にもありました、人的資本と社会関係資本と心理的資本の正体みたいなものだとご認識いただけたらなと思います。
「好影響を生むリーダーシップ」を発揮できる状態とは
橋本:要は、せっかく知識やスキルや人とのつながりを持っていても、それを活かそうとする心の状態を持てていないと、宝の持ち腐れになってしまいますよということでもありますし。
今は(知識やスキルが)なくても新たに作っていこうとする原動力としても、この心理的資本は非常に重要になってきます。もともとはポジティブ心理学の流れを汲んで、人がどうやったら前向きに行動するのかということがたくさん研究されてきたわけなんですが。
それを経営学で見た時に、どれぐらい成果につながるのかとか、何が要因になっているのかということで、この3つの資本がそれぞれ研究されてきた中で、近年になって、やはり心理的資本が非常に注目されてきています。

この3つは、それぞれが関係し合って高め合うような関係にあるので、起点となる心理的資本を一部でも高めていけたら、それぞれが連動してシナジーを生んで高まっていく可能性もありますので、まずそこに注目してもらえたらいいんじゃないかなと考えます。
この心理的資本をさらに要素分解すると、4つの要素に分解できると言われています。その頭文字を取って「HERO」と呼ばれているので、今日はぜひ覚えて帰っていただけたらなと思います。

これは「Hope」「Efficacy」「Resilience」「Optimism」の4つの項目の頭文字を取って「HERO」です。翻訳は違いますけれども、先ほどの「希望」「自己効力感」「レジリエンス」、そして「楽観性」のものですね。
私たちは「Hope」は意志と経路の力。「Efficacy」は自信と信頼の力。「Resilience」は乗り越える力。「Optimism」は柔軟な楽観力と訳していますが、同じものになっております。
この「HERO」が充実している人は、好影響を生むリーダーシップを発揮できる状態とお考えいただいても相違ないかなと思います。