昨今、負担の増大ややりがいの喪失に悩む管理職が急増しています。管理職が機能しなければ、若手の成長や組織全体の活力にも悪影響が及びかねません。本セミナーでは、管理職のやりがいをどう取り戻すか、そのカギとなる「心理的資本」に注目。株式会社タバネルの奥田和広氏と株式会社Be&Doの橋本豊輝氏が、管理職を救い組織を再生するヒントを探ります。前編では、奥田氏が実態調査を通してわかった“管理職のやりがいを上げる要因・下げる要因”について解説します。
管理職のやりがい再生のカギを徹底解説
奥田和広氏(以下、奥田):みなさんこんにちは。株式会社タバネルの奥田です。お時間になりましたので、スタートしたいと思います。本日はお忙しい中、お集まりいただきましてありがとうございます。
13時から14時まで、「管理職のやりがい再生のカギを徹底解説」ということでスタートしていきたいと思います。私、タバネルの奥田と、株式会社Be&Doの橋本さまにご登壇いただくかたちで進めていきたいと思います。橋本さん、ごあいさつをよろしいでしょうか。
橋本豊輝氏(以下、橋本):奥田さん、ありがとうございます。みなさんも、今日はどうぞよろしくお願いします。Be&Doの橋本でございます。
奥田:よろしくお願いします。ではさっそく、私の登壇からスタートさせていただきたいと思います。本日は「過剰負担でもう限界?」という、管理職の方々のやりがいについて、1時間お話をしていきたいと思います。
本日のアジェンダですが、まず当社で「課長のやりがい実態調査」を行いました。そこから見いだされた解決のポイントについて、お話をしていきたいと思います。

後半は、今ご登場いただきましたBe&Doの橋本さまに、「管理職のやりがいを高め、能力を発揮させる内なる原動力」についてお話をいただきます。「心理的資本」の専門家ですので、ぜひそのあたりも詳しく聞ければと思っております。
最後は、実際にあった管理職の方々の抱える問題について、私と橋本さんで解決策についてディスカッションをしていきたいと考えておりますので、よろしくお願いします。
管理職を取り巻く「5大変化」
奥田:ではまず、「課長のやりがい実態調査からわかった解決のポイント」について、お話を進めさせていただきます。現在、「管理職の罰ゲーム化」なんて言われたりもしますが、管理職の方は、やはり組織の要なんですね。
「経営層からの要求」と「現場からの要求」の間をつなぐ、まさしく組織の要であり、重要な役割なんですね。ただ、先ほども言いましたように、「管理職の罰ゲーム化」と言われるような、大変な状況に陥っているということです。

「管理職を取り巻く5大変化」ということで、さまざまな変化が起こっています。1つ目は「複雑化」です。仕事自体が非常に複雑になってきていて、過去のやり方をそのままやっていくというやり方ではなかなか対応し切れない。複雑になってきていることが、管理職の仕事を大変にさせている要因の1つです。

さらには「少数化」です。日本は労働人口が減っている中で、これからさらに人手不足が進んでいく。そういう中で、管理している部門を運営していくことが難しくなってきている。
3つ目は「多様化」ですね。働き方、働く人それぞれの個性や考え方・価値観。こういったものがさまざまに多様化していっています。同質性の高い集団をマネジメントするのに比べて、やはり多様化している集団をマネジメントするのは、非常に困難な状態です。
また、「分散化」ですね。コロナ禍を通じて、リモートワークなども非常に多くなってきましたし、バラバラの時間、バラバラの場所で働いている人たちが、一緒に協力しながら成果を上げていかないといけない。同じ場所で同じ時間を過ごしていることよりも、より難しいマネジメントが必要になる。
さらに「多忙化」ということで、以前に比べて管理職の方も人数が減り、兼務やさまざまな業務を任されることが増えてきています。この5つの変化が、管理職の仕事をますます難しくしている状況です。
日本企業の管理職は、仕事は困難で報酬も上がらず
奥田:そんな管理職なんですけれども、日本企業は海外企業よりも管理職の報酬が低いと言われています。海外企業は、一般の社員の方と管理職の方の報酬の差の開きが、日本企業に比べて大きいことがわかっています。
さらに昨今、みなさまの会社でも賃上げ、報酬アップが行われているかと思います。賃金構造基本統計調査を複数年調べてみたところ、コロナ禍以降の賃上げの情勢としては、非役職者に比べて、部長や課長はそこまで上がっていないことがわかります。

コロナ禍以降、より難しくなっていっている管理職の仕事に対して、報酬面で報われていない現状があることがよくわかります。管理職の方々は、「罰ゲーム化」と言われるように、仕事が難しく困難になっていく中、なかなか報われていない。
とはいえ、管理職は組織の要ですから、しっかりやりがいを持って働いていただくことが大事なのではないかということです。「実際どうなんだろうか?」ということで、当社で実態調査をしました。

今回は組織の要である管理職の、特に課長にフォーカスしました。「課長はやりがいを持って働いているのだろうか?」「やりがいを持っている課長と持てていない課長には、どんな差があるのだろうか?」。さらには「課長がやりがいを持つための解決策は何なのだろうか?」ということを調べたく、実態調査を進めました。
2025年3月に、100人以上の会社に勤めていて、部下が1人以上いる課長の方を対象にインターネット調査を行いました。
「やりがい=ワークエンゲージメント」
奥田:「『やりがい』ってそもそも何なんですか?」というところですが、「ワークエンゲージメント」という概念を、当社では「やりがい」と考えています。
ワークエンゲージメントを構成する要素で、「活力」「熱意」「没頭」という3つの要素がありますので、その要素の6問の平均値の上位、中位、下位でやりがいを分類しました。やりがいが高い人、低い人というような3分類の分け方にして、この後の調査・分析を進めています。
この調査を考える上で、「JD-Rモデル」という、ワークエンゲージメントについての考え方を用いて分析を進めています。「JD-R」というのは、「Job Demand(仕事の要求)」と「Resource(資源)」ということですね。「Job Demands-Resources model」というものです。

ワークエンゲージメント(やりがい)は「仕事の要求度」、簡単に言うと仕事の負担ですね。それから、仕事において使える「資源」。「仕事の資源」と「個人の資源」に分けられるんですが、このバランスによって影響されるという考え方です。
下の図の、厚生労働省が出した令和元年の「労働経済の分析」でも取り上げられているモデルになります。
なお、「個人の資源」は、先ほど橋本さんから詳しくご説明していただくというお話をした「心理的資本」になってきますので、そのあたりは後半でもお話が聞けるかと思います。
課長職の53パーセントがやりがいを感じられていない
奥田:まずこの調査の大前提として、「課長の方はやりがいを持っているんだろうか?」ということで、「仕事にやりがいを感じているかどうか」についておうかがいしました。「やりがいあり」と答えた人が47パーセント、「やりがいなし」と答えた方が53パーセントということで、組織の要である課長の半数がやりがいを感じていない状況が明らかになりました。

やりがいを感じている・いないということは、実際さまざまな影響があります。課長がやりがいを感じているということで、やりがいの上位、中位、下位と調べてみると、「今の会社で働くことを知人に薦めることができる」が、やりがい上位の人が圧倒的に高いわけですね。
こちらは、従業員エンゲージメントの代表的な計測指標の1つです。会社や職場を薦められるということを測るために使われる尺度ですので、やはり仕事にやりがいを持っている課長は、従業員エンゲージメントが高いことがわかります。

その他にも、「会社に満足」「仕事を通じて成長できる」「さらに上のポジションを目指したい」というようなことも、やりがいを持てている人のほうが高いと。やはり、高いやりがいを感じている課長の方が増えることは、会社にとっても、その人にとってもいいということがよくわかります。