サイボウズ株式会社が主催する「Cybozu Days 2024」。同イベントでは、全国の
kintoneユーザーの中から選ばれたファイナリストたちが活用事例を発表する「kintone hive tokyo vol.20/kintone AWARD」が行われました。
本記事では、関東・甲信越地区代表の株式会社成田デンタル デジタル推進室室長の吉原大騎氏が登壇したセッションの模様をお届けします。全国の営業所でマネジメントの質に格差が生まれる中で編み出した解決策とは。
歯科業界の営業商社が遭遇した2つの「大きな壁」
吉原大騎氏(以下、吉原):みなさん、最後の発表になりますので、一緒に伴走していただけたらなと思います。私からは、「kintoneが支えるマネプロを、みんなに活用してもらいたいんじゃ!」ということで、お話しさせていただきます。どうぞよろしくお願いします。
さて、自己紹介です。吉原大騎と言います。営業を6年間経験した後、現在はデータ活用を軸に業務に当たっております。
「サイボウズ Office アンバサダー」をやっておりまして、趣味はボルダリング、そして『Dead by Daylight』という、学びの多いゲームをやっております。ぜひ、ググっていただけたら幸いです。Xをやっておりますので、ぜひフォローしていただけたら幸いでございます。
会社紹介です。株式会社成田デンタルは、歯科医院と歯科技工所の間に立つ営業商社でございまして、全国に24拠点あります。みなさん歯医者で歯を削ったことはありますか? 型を取って、歯型模型が出来上がります。
我々はそれを、歯科医院さんからお預かりして、提携している技工所に送ります。そこで技工士さんが差し歯や入れ歯を作って、出来上がったものを我々が検品・チェックしてお届けするというビジネスモデルです。
営業は、1日に30~40軒の歯科医院さんを訪問する、ルート営業でございます。ちなみに最近は、オリジナルのスポーツ用マウスガードの「VIA」も取り扱っております。
さて、今日私がお伝えしたいことは、「共感を得るしくみ」、そして「人を動かすしかけ」。この2つをkintoneに実装することは非常に有効だということです。とはいえ、我々はkintoneを導入する前、2つの「大きな壁」に遭遇しておりました。
全国の営業所でマネジメントの質に格差が
吉原:1つ目は、もともとパッケージ版の「サイボウズ Office」を導入しており、掲示板機能を使って、営業の活動報告を運用しておりました。社長が全員分チェックして、コメントしてシェアしていたんですけれども、2022年に突然社長が代わってしまいます。
みんな、「どうしよう」と言っていて、僕も「サイボウズ Officeはどうなっちゃうのかな?」と思って聞いてみたんです。そうしたら新しい社長は、「ピラミッド型組織において、管理職の価値や裁量権を高めていきたい。その一環として、活動報告は管理職がチェック・コメントしよう」となったんです。社長がやっていたところの価値が、だいぶ薄れてしまったんですよね。
これは私にとってはすごくショックでした。なので、「じゃあ営業所の管理職に聞いてみよう」となったわけですが、「いやいや、そもそも掲示板で自由入力だから書きづらいし、何のための活動報告だかわからない」という辛辣なことを言われました。
そんな中、営業所の管理職の方々といろいろ意見交換すると、モヤッとしたものがいくつか出てくるんです。例えばこれは「仕分けリスト」というもので、お預かりした歯型模型を、提携しているどの技工所さんに送るかが書かれたリストです。
また、訪問する歯科医院さんの順番やルールが書かれた「ルート表」。
そして、営業は月に1回、こういう月1のレポートを提出するのですが、このフォーマットが、24拠点の営業所ですべてバラバラだったんです。
そのためマネジメントの質に格差が出て、問題が起きていました。これが1つ目の大きな壁でございます。
コスト面でkintoneの導入が承認されない
吉原:2つ目の壁は、パッケージ版のサイボウズ Officeが終わってしまう問題です。我々はサイボウズLiveの頃から使っておりましたので、これはサイボウズさんから与えられた、二度目の大きな試練でございます。試練をいただきまして、感謝申し上げます。
といったところで、我々は移行先を探さなければならなくなりました。当然、クラウド版のサイボウズ Officeを見るわけですけども、ユーザーの上限数が300です。我々が使っていると、300に当たるので却下。この時の私の気持ちは、崖っぷちというか、崖から落ちて「どうしよう」という状況だったんですね。
なので、そこで私はkintoneに一縷の望みを託して、取締役の方々に提案しました。すると、「いやいや、アカウントの価格は倍だし、サイボウズ Officeでやっていた自動ルックアップや年齢計算をやると、プラグインが必要でしょ? コストがかかるよね?」と言われたんです。まあそうなんですよ。
サイボウズ Officeでやっていたことをそのままkintoneに移行するとなると、決裁者、取締役に首を縦に振ってもらえない。「この引っ越しに、何かしらの付加価値を付けなければいけない」と私は考えました。じゃあ、この付加価値をどうするか? そこで、ぶち当たった壁を乗り越える要素にしようと思ったんです。
全社営業マネジメント統一プロジェクトを発足
吉原:そこで「仕分けリスト」「ルート表」「営業の月1レポート」のフォーマットを全社統一してクラウドに保存する。そして、何のために書いていたかわからない活動報告を、顧客管理、そして売上実績とガッチャンコして、月1のレポートに反映させることによって、マネジメントの質を高めていこうという取り組みをしました。
私はこれを、「全社営業マネジメント統一プロジェクト(マネプロ)」と称して、推進していきました。このマネプロを取締役の方々に提案したところ、「やはりコストが気になるよね。でも、お試しの5アカウントをやっていいよ」と言われました。だけど、プラグインはお金がかかるから、「じゃあそこは私がJavaScriptカスタマイズでやります」と言いました。
どこで勉強したかと言うと、kintoneって、コミュニティが熱い製品です。「cybozu developer network」というところで、イチから勉強していきました。
「じゃあ、何のアプリで勉強するか?」と言うと、私は楽しくやりたかったので、業務のアプリじゃなくて、朝活の『Dead by Daylight』のゲームの結果を入れるアプリを作って、勉強していきました。
詳しくは
noteに書いてあります。記事もリニューアルしてありますので、ぜひご覧ください。そんな感じで、マネプロのプロトタイプの画面を作って、取締役の方々に提案しました。すると、「お、いいじゃないか。最初は2、3の営業所で試してほしい。うまくいったら全社展開だ。その時はトップダウンをうまく使ってくれ」と言ってくれたんです。激アツでした。
「共感を得るしくみ」を作る
吉原:とにかく、決裁者が首を縦に振らないと、kintoneは導入できません。そのためには、「共感を得るしくみ」が大事です。現場と徹底的に対話をして、プラスアルファの付加価値を付けて、実画面を共有するのが大事です。そんな感じで、スモールスタートから全社展開になっていくわけです。
2、3の営業所で試してほしいということだったので、私は営業所の管理職の人柄を見ました。見るポイントは3つです。1つ目、「DXに前向きで熱量がある」。2つ目、「営業所のメンバーにしっかり落とし込んでくれる」。3つ目、「全社展開の時にメリットを伝えながら、横展開の手伝いをしてくれる」。
この3つの要素を持つ管理職がいる営業所と徹底的に会話をして、kintoneの環境を作っていきました。ただ、もともと使っていたのはサイボウズ Office、最強のUIを持つグループウェアです。なので、これに対抗するため、私はkintoneの環境構築で「居住性」を意識して作っていったんです。
kintoneの環境構築で大事な4つのポイント
吉原:ポイントは4つあります。1つ目、「使用するデバイスは何か?」。これは、営業所に足を運んだり、対話をして徹底的に調べたところ、営業の方々はパソコン、タブレット、スマホを全部使って、kintoneにアクセスすることがわかったんです。「紙も使うよ」と言われたんですけれども、とにかくデバイスに合わせたアプリを作る必要がありました。
例えば「仕分けリスト」では、テーブルデータに技工所の情報を入れていきます。一覧表示にすると、テーブルのデータは「表示する」というところをポチポチ押さないと開かないので非常に面倒くさいと言われました。なので私は、TISさんの「テーブルデータ一括表示プラグイン」を導入しました。これは何がいいかと言うと、テーブルデータを初期状態で一覧表示でフルオープンしてくれるんです。
もう1個、いいところがあります。営業はタブレットを使って情報を見ますので、スワイプしても赤いところを固定表示で見ることができる。これが使い勝手がいいということで、OKをもらいました。
また、「ルート表」。これは「紙で出力して持ち歩きたい」という声が多かったんですよ。紙は紙で書き込めるという良い点があるんですね。なので、フォーマットを統一しなければいけないということで、トヨクモさんの「PrintCreator」を導入して、OKをもらいました。
徹底した現場理解で見えてきたこと
吉原:2つ目のポイント、「導線の明確化」。とにかくユーザーからは、アプリまでの道のりが遠いし、「何がどこにあるかわからない」と言われますよね。なので、ポータルを工夫しました。
アプリのリンクを貼る時って、だいたいフラットな画像を貼ることが多いです。だけどフラットだと、ここが押せるのか・押せないのかわからないんですよね。なので、無意識で押せるということを表現するために、ボタンの形を採用しています。
ボタンの右側の文字は、「~アプリ」じゃなくて、「~する」というアクションベースのかたちにしています。例えば活動報告を入力するのであれば、入力画面になりますし、みんなの活動報告を見るのであれば、一覧画面に飛ぶようなアクションベースのボタンを作る。
ちなみにこれは、エバンジェリストの方が作っている「KUMA ICON」と「Figma」で、無料で誰でも作れます。
noteに書いてありますので、ご覧ください。
ポイント3つ目、「入力の手間軽減」です。とかく活動報告は手間だし面倒くさいから入力しないと言われたので、手間を徹底的に抑えました。これはスマホで入力する人が多いので、動画で見てください。
「活動報告入力」と押すと、まず「何をするの?」というのを選ぶんです。選択肢が次に出てきますので、どんどん選んでいきます。歯科医院の情報は顧客コードで、営業のみなさんは覚えていますので、それを登録してルックアップで引っ張ってきて、行動の結果を選択して保存。手間を徹底的に抑えたので、1登録に20秒もかかりません。
行動量を測りたいので、「1行動1報告にしよう」というルールにしました。また、「選ぶだけでいいよ。がんばらなくていいよ」と言ってあります。特に共有したいことがあれば、文字列フィールドに入力して保存というふうにお願いしてあります。
社員のモチベーションをアップさせる工夫
吉原:ただ、ここまでしても、「いやいや、フィードバックがないから書かないよ」という人がいますよね。
なので、ポイント4つ目です。「データの自分ごと化」。これは何かというと、活動報告の集計を、全社ポータルの目立つところに貼ります。これは標準機能でできます。
これは何がいいかと言うと、「自分はすごく登録しているから、引き続き登録しよう」となるし、「あとちょっとであの人(の活動量)に手が届くから、行動して登録しよう」というモチベーションになるんですよね。
私は、マネプロで活動報告の内容をレポートに反映させて、フィードバックさせたかったんです。これは社内にあるツールを、kintoneとつなげることで実現できました。みなさん社内にあるツールを見渡してみてください。意外とkintoneとつながると、やれることが広がります。
そんな感じで作った月1のレポートがこちらです。上の段が売上実績、下の段が行動量の結果です。売上があって行動量も伴えばマルなんですけども、行動量が伴わなければ、「それは値上げの影響だよね」とか「患者さんが多かったんだよね」ということで、行動量にアプローチしたマネジメントをすればいいことになります。
ちなみに、BIツールといわれる「MotionBoard」で、kintoneにたまったデータを、こういうふうに地図で可視化することもできます。
私はみなさんにkintoneを使ってもらいたかったので、こんなふうに居住性を高めるしかけを作りました。ポイントは4つありますので、ぜひ参考にしてください。
社員の7〜8割がマネジメントの質の向上を実感
吉原:そんな感じで、2023年の12月、取締役のトップダウンとともに、熱量の高い役職者に「すごくいいぞ」と横展開してもらいながら、マネプロでkintoneにお引っ越ししました。その結果がどうだったかというところを共有させてください。
まず、登録数。サイボウズ Officeの時に比べると、5.5倍になっています。これはすごいですよね。もう1個すごいところがあります。9ヶ月キープしているんですよ。これはマネプロの意図をボトムにまで落とし込めている証拠かなと思います。
じゃあ、マネプロの質がどうだったか? アンケートを採りました。左から、管理職の方に「マネジメントのしやすさはどうなったか」。真ん中は、営業社員の方に「セルフマネジメントができているか」。一番右側は、営業社員の方に「上司からのマネジメントはどうだったか」と聞いてみました。
円グラフの真ん中の数は回答者数、ピンク色の部分は「良くなった」という回答を示しますので、総じて7割から8割の社員が「マネプロで良くなった」と回答をしてくださっております。効果があったんです。
kintoneのインフラ化で社内カルチャーに変革が起きる
吉原:じゃあ、社員の声を聞いていきましょう。営業社員は、売上規模が同じ人と活動量・活動内容を見比べることができて良いと。そして、記憶じゃなくてデータでしっかり行動を見ることができるので、前向きになっていきました。
それを見ていた管理職の人たちは、他の営業所と自分の営業所を比較して、課題が見えるようになりました。そして、営業社員は自分でモチベーションを管理できるようになったから、みんなの行動が変わっていきました。
そういうふうに進んでいくと、私の頭上を、「それ、kintoneにあるからね」「kintoneで作ったアプリでやればいいじゃん」と(いう言葉が)飛び交って、インフラ化しているんですよね。
そこに着目した他部署の社員に「アプリを作ってみませんか?」と声を掛けたら、1人構築者が増えました。それを見ていた取締役の方々は、「行動したらkintoneに記録してね。行動量を見ているからね」ということで、行動量が評価指標の1つになりました。
それを聞いた管理職の方々は、「じゃあ、業務の最後に登録する時間を取ります」ということでルーティン化し、営業所のベクトルがそろっていったんですよ。結果、社内のカルチャーが大きく変化していったという効果を得ることができました。「kintone、ありがとう。マネプロ、すごいね」というところでございます。
そんな感じで、私は本当はプラグインでやりたかったんですけど、JavaScriptカスタマイズをやってみると意外と小回りが利くので、ハイブリッドで今後も運用していければと考えております。
kintoneのポータルを作成する際のポイント
吉原:さてみなさん、「共感を得るしくみ」、「人を動かすしかけ」、それぞれポイントが3つと4つあります。ぜひお持ち帰りいただいて、今からぜひ活用していただけたら幸いでございます。
そんな感じで、マネプロを導入して社員の売上が上がると、仕事が楽しくなりますよね。楽しくなると笑顔が出てくるんですよ。私が実現したい「笑顔創造」というところに通じているんです。「kintoneって、笑顔を作ってくれるすてきなツールだな」というところをシェアして、私の発表を終わりたいと思います。ご清聴ありがとうございました。
(会場拍手)
司会者:吉原さん、ありがとうございました。吉原さんに、1点質問させていただければと思います。さまざまなしかけ・しくみをお話しいただきましたが、私がすごく記憶に残ったのが、ポータルの秀逸さです。ボタンを押しやすくする工夫があったかと思うんですが、他にkintoneのポータルを作成する際に気をつけていたことがもしあれば、ぜひおうかがいしてみたいです。
吉原:「KUMA ICON」を使っているんですけど、色を統一するということです。マスタ系は黄色にして、青は営業系、緑は申請系、赤は情報共有系というかたちで、色でわかるようにしています。
司会者:なるほど。パッと見で、どんな用途のアプリなのかが認識してもらえるように心掛けていらっしゃるということですね。すばらしいです。吉原さんの発表は以上となります。ありがとうございました。
吉原:ありがとうございました。
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