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数理最適化ツールによるヨックモッククレアの生産計画立案業務の改革について​(全1記事)

2024.11.22

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熟練の担当者による手作業で属人化・後継者不在… 年間3.5億個のクッキーを生産するヨックモック工場の業務改革

提供:Gurobi Optimization Inc.

「シガール®」をはじめ、年間で約150種類・3億5,000万個の菓子を製造するヨックモッククレア社。複雑で業務負荷が大きい生産計画の立案・調整業務を、熟練の計画担当者の知識・経験に依存し、業務の属人化、後継者の不在、他の関連業務の遅延という問題を引き起こしていたと言います。株式会社ヨックモッククレア本社生産管理部の安齋博輝氏が、これまで同社が抱えていた問題を解消し業務改革を起こした「数理最適化ツール」について語ります。

「シガール®」のヨックモックが行った業務改革

安齋博輝氏:ただいま紹介に与りました、ヨックモッククレアの安齋と申します。よろしくお願いいたします。

先ほどの自己紹介にも書いてあったかと思いますが、私は数理最適化の専門家ではなく、プログラムを書いたりはできない人間でして。農学部卒で製造業にずっと携わっている者でも、数理最適化の恩恵に与れたという話をさせていただければと思います。

本題に入る前に、アイスブレイクも兼ねて、会場のみなさまに2つ質問をさせていただければと思います。今映っている弊社の代表商品でロングセラーの「シガール」および「ヨックモック」というブランドをご存じの方は、お手数ですが手を挙げていただけますでしょうか?

(会場挙手)

多いですね。70〜80パーセントぐらいですかね。ちなみにその中で、ここ1年で実際に購入された方は、どれぐらいいらっしゃいますか? 20〜30パーセントぐらいですかね。ありがとうございます。

ちなみに、昨年弊社で1万人程度を対象にアンケート調査を行った結果、ブランド認知度は58パーセントほどで、1年以内の購入経験がある方は15パーセントほどでした。今日参加していただいた方はかなり多くて、数理最適化界隈では人気があるのかなと思います(笑)。すみません、ご協力ありがとうございました。

ちなみにこのシガールの製造と販売を始めてちょうど55周年になります。55年前というと1969年になりますが、この資料を作りながら、「その年は何があったかな?」とググってみました。1969年には、アポロ11号が月面着陸したり、東大の安田講堂事件があったりと、37才の私からするとかなり昔から愛されているんだなと、あらためて感傷に浸っていたという小ばなしです。

そんなシガールですが、栃木県の日光工場で最も多く生産しており、私も日々この工場で働いています。今日は、このヨックモックのクッキーを工場で効率良く作るための生産計画を立てるのに「Gurobi (Optimizer)」を使い始めましたよ、というお話をします。

属人化や後継者不在の問題が深刻化

それでは本題に入っていきたいと思いますが、ヨックモッククレアでは、複雑で業務負荷が大きく、しかしながら生産管理の重要業務である日別生産計画の立案・調整業務を、長らく熟練の計画担当者の知識・経験に依存してきました。その結果、業務の属人化や後継者の不在、他の重要業務の遅滞といった問題を引き起こしていました。

これらの課題を解消するために複数のシステムを比較・検討した結果、数理最適化を用いたシステム開発を選定し、業務改革を実現しました。本日は同様のお悩みをお持ちの企業さまに向けて、弊社の導入事例をご紹介させていただければと思います。

本日の流れとしましては、まず簡単な会社の紹介をさせていただきまして、その後、本題のシステム導入に関わる背景、プロセス、効果とその他まとめという流れでお話をさせていただければと思います。

まずは会社の紹介になります。ヨックモックグループは、ホールディングス体制を取っておりまして。ヨックモッククレアは、グループの中でクッキーを中心とした菓子製造の中核を担う製造会社となります。他のグループ会社としましては、販売会社である株式会社ヨックモック。弊社と同じく菓子の製造を担う株式会社クローバー。その他、YOKUMOKU OF AMERICA INC、フジリコー・トレーデイングがあります。

ヨックモックグループのミッションは、「『菓子は人間の生活に欠くことができないものである』という創業からの想いを胸に、最高の顧客満足を追求して人と人とのつながりをデザインし、おいしさと笑顔が共にある世界を創ります。」と。また、「社員が夢に向かって進み、共に成長できる企業であり続けます。」という2点を掲げております。

ヨックモッククレアは、製造会社としてミッションを達成するために、お客さまに安全で高品質な製品を提供するとともに、安定かつ効率的な生産を実現するために日々努力をしております。

年間で約150種類・3億5,000万個の菓子を製造

続いて、ヨックモッククレアの基本情報です。ヨックモッククレアの組織としましては、本社部門が日光工場、鹿沼工場、東京工場の3つの工場を統括管理、最適化する役割を担っております。東京工場が最も古く、1957年から操業していますが、現在のホールディングス体制になってヨックモッククレアが設立したのは2010年となっております。

簡単に事業内容の菓子製造の部分についてご紹介をさせていただきます。まず、先ほど話したシガールという弊社の代表商品です。このほかにも同じ形状で、中にチョコレートが注入してある菓子や、四角いラングドシャ生地でチョコレートをサンドした、弊社では通称「サンドタイプ」と呼んでいるものですとか。

長方形に焼いた菓子を半分に折ってチョコレートを下につけたり、全部(チョコレートで)コーティングした、弊社では通称「ビエタイプ」と呼んでいるもの。あと「サブレタイプ」の生地や、一部クッキー以外の製品も製造しております。年間で約150種類ほど作っておりまして、数にすると3億5,000万個の菓子を製造しております。

また、ギフトシーンに合わせたさまざまな詰め合わせや、季節、デザイン、出荷先に合わせたさまざまなデザインのパッケージを使用して製品化しております。そういったデザインの違いも含めますと、最終製品の種類としては年間では約500種類生産しています。

特徴が異なる3つの工場間で菓子の移動も

これらの製品をどのように製造しているかと申しますと、こちらの図のように、一連の作業を流れで行うライン生産方式になります。



工程の流れとしましては、まずは製品の配合に合わせて原料の計量を行い、バンド状の長いオーブンで焼いていきます。焼き上がった後に、巻くとか折るなどの加工を行い、チョコレートをつけるものに関してはチョコ付けを行って冷やしていく流れになります。

その後、菓子を一つひとつ個包装し、缶や箱に詰めて、段ボールに入れて出荷していく流れとなります。弊社ではこの上流の工程を焼成ライン、下流の工程を缶詰ラインと呼んでおります。

このような製造ラインを各工場で複数保有しておりまして、最も規模が大きい日光工場は、焼成ラインが9ライン、缶詰ラインが11ライン。鹿沼は焼成が3ライン、缶詰が7ライン。東京工場は焼成、缶詰、共に1ラインといった規模となります。

また、工場ごとに得意とするものが異なりまして、日光工場はシガールと、その他多くの品種の生産を担う主力工場となっております。鹿沼工場は、弊社で通称サンド・ビエ・サブレタイプと呼ばれる菓子の生産に特化した工場。東京工場はシガールの生産に特化した工場です。

そのため、例えばシガールとサンドのアソート商品を生産する場合には、工場間での菓子の移動が発生します。お聞きのみなさまも、ここまでのところで弊社の製品の種類の多さと規模感がなんとなくイメージできたかなと思いますので、次のスライドから生産計画のシステム化の部分に入っていきたいと思います。

高度な業務「日別生産計画」をシステム化

まずは導入背景です。そもそも日別生産計画はどんなもので、どれだけ大変な業務なのか、また課題は何なのか、なぜシステム化する必要があったのかについて、ご説明をさせていただきます。

まず、日別生産計画とはどんなものなのかというと、「いつ、どの工場の、どのラインで、何を、何個生産するか」を計画した予定表のことです。

こちらのスライドの表は、一部を切り取って簡略化したイメージになります。簡単にご説明しますと、例えば日光工場の焼成Aラインは、1月1日の昼勤は菓子Aを7万個、夜勤でも連続して菓子Aを7万個作ると。



翌日1月2日は、今度は菓子Bを6万個作り、夜勤では切替を行って菓子Cを5万個作る。翌日1月3日は昼勤の中で切替を行って、菓子Aを3万5,000個、菓子Bを3万個作る。夜勤では連続して菓子Bを6万個作ると。こういった計画を日別生産計画と呼んでおります。

この計画作成が大変な理由の1つとしまして、弊社の場合はこの粒度の計画を3工場全32ライン×2シフト×500製品分を作成する必要があります。つまりは膨大な量を計画する必要があるということです。しかも単に必要な量を作れればいいというわけではなく、多くのことを考慮して目的を達成する必要があります。

生産計画を立案する際は、計画の3要素を加味し、生産資源の4Mを適切に使いながら目的を達成することが求められます。計画の3要素とは「生産能力、納期、在庫」です。これらを管理しながら生産資源の4Mである、「人、設備・機械、材料、方法」を適切に使って目的を達成する必要があります。

生産計画の目的は、適切な量を適切な時期に最も経済的に作ること。また、弊社の場合は工場が3つありますので、それらの工場間の負荷を平準化する、年間での生産の負荷をなるべく平準化するといった視点や、3工場全体の稼働を最大化することを考慮しています。

こういったことを加味しながら、なおかつ変更もありますので、変動にも弾力的な計画が求められます。一言で言うと、高度な要求であるということです。しかも1度計画を立てたら終わりというわけではなくて、さまざまな要因で計画を修正していかねばなりません。

各工場に計画担当者を置くことのデメリット

計画変更が発生する要因をご説明します。まずはフローから簡単に説明しますと、弊社の場合は販売会社のヨックモックから販売計画を入手し、ヨックモッククレアの本社で、月別・工場別の生産計画数を立てます。

それを各工場に連絡しまして、各工場にて日別、シフト別、工場別、ライン別の生産計画数を立てると。これが先ほどご説明した日別生産計画となります。この計画をもとに計画生産を実行し、各拠点へ出荷し販売される流れになります。

この中間にある日別生産計画ですが、例えば上流の販売計画の見直しや、生産実行段階での進捗のずれ、在庫が多い少ない、販売予測と実販売数のずれ。そういったものを吸収するために頻繁な変更が発生します。

また、もう1つ計画立案に手間がかかる理由としまして、工場間の半製品(製造途中にある製品)の供給、菓子の移動がございます。これは、計画立案の業務ボリュームが膨大かつ複雑で、1人が手作業で全体の計画立案をやることは不可能な状況でしたので、各工場に1人ずつ計画担当者を置いて、業務に当たっておりました。

そうすると、1人あたりの業務負荷が軽減されるメリットはあるものの、弊社は工場間の半製品供給を相互に行っておりますので、各工場の生産計画も相互に影響し合うことになります。

そのため、例えば主力工場の日光工場の計画担当者が、自工場にとって最適な生産計画を立てたとして、それが鹿沼、東京にとっては必ずしも最適な計画ではないということが発生します。

そこで、何度もやり取りをしながら落としどころを探すために時間を要していたという問題がございました。端的に言いますと、複数の意思決定者がいる状態のため、全工場を最適化するために工数を要していたということです。

引き継ぎや分業が困難、ヒューマンエラーの問題も

ここまでのまとめとなりますが、弊社の日別生産計画は、膨大な計画を、高度な要求に応えながら、頻繁な変更を行い、全工場を最適化することが求められると。計画立案の担当者には、豊富な知識と経験×膨大な時間が必要になるという業務でした。一言で言うと、めちゃくちゃ大変で責任が重い仕事ということです。

これによって、次のような課題が発生しておりました。1点目が、引き継ぎや分業が困難で属人化してしまう。めちゃくちゃ大変で責任が重い仕事なので、やりたい人もなかなか出てきませんし、引き継ぐにもかなりハードルが高く、後継者の不足にもつながっていました。

2つ目は、熟練の担当者でもヒューマンエラーの発生が避けられないということです。人による作業なので、頻繁ではないですが、ちょっとしたトラブルが発生することはありました。

3点目は、優秀な人材が計画立案業務に忙殺されて、他の重要な業務に十分なリソースを割けないということです。特にこの3点目については、近年の物価上昇などによる製造コストのアップで、「原価管理活動を活性化していこう」という状況でしたが、キーマンとなる計画立案に従事する優秀な担当者が、なかなか十分なリソースを割けないという状況でした。

こういった課題を解決するために、システム化による改革が必要となり、着手し始めたという経緯です。

要件を満たせるシステムを探し回る日々

続いて、導入のプロセスとしまして、今の話の続きとなるシステムの選定、導入のスケジュール、システムの概要についてご紹介させていただきます。

まずは、システムの選定の部分になります。システムの選定にあたっては、なるべく選択肢を広げて複数社と商談を行い、「弊社の要件を満たすことができるのか」「狙った効果が得られるのか」といった視点で検討を行いました。

この表は、検討したものの中から一部を抜粋したものです。あくまで弊社の基準となりますが、例えば既存のExcelのフォームの改善であれば、導入済みのため費用は特にかかりませんし、なおかつ使い慣れているので使い勝手もよいですが、なかなか大幅な改善は見込めないという評価です。

また改善にあたっては、複雑な数式を組んだりマクロを使ったりしますので、ファイルの変更やメンテナンス作業が、結果的に属人化してしまうんじゃないかといった懸念もあり、こちらは採用しませんでした。

次に、すでに完成されている、いわゆるパッケージソフトも、複数社と商談を行って検討しましたが、なかなか弊社が求めている要件を完全に満たせるものはない。もしくは、要件を満たすためには、ものすごく複雑なカスタマイズをしたり、優先順位付けした条件設定が必要で、結果的に効率化されないということで、こちらも断念しました。

そうなりますと、弊社の要件を満たせるシステムを開発するという選択肢になるため、まずは付き合いがある、ここで言うC社に「開発できないか?」という打診をしました。しかしこちらも、弊社の要件を完全に満たすものは開発できないという返答でした。

そんな時に、縁あってオクトーバー・スカイさまに出会いまして、弊社の必要要件を満たせる数理最適化を用いたシステム開発を選定したという流れです。

クオリティを維持しつつ効率化できる「数理最適化」を活用

まとめますと、弊社の日別生産計画の立案には、複数の条件を総合的に判断する必要があるため、パッケージソフトでは機能不足でした。現在の計画のクオリティを維持しながら効率化を図るためには、数理最適化を用いたシステム開発が最適と判断したということです。

弊社が検討したパッケージソフトと数理最適化の差について、ほんの一例だけご紹介させていただきます。仮に「就業時間内の製造ラインと人をフル稼働させたい」という要件があったとします。需要が生産能力を上回っているような状況で、人とラインと時間をフル活用して、できるだけ生産量を上げたいというイメージです。



仮の条件としては、50人の従業員で3つのラインを稼働させる。つまり、8時から17時の間、3つのラインがフルに動き、50人の従業員も常に働いている状態をつくりたいということです。

パッケージソフトに関しては、キャパシティや生産能力に関わる設定が1つしかできないものが多く、仮に時間を基準に設定したとすると、製造ラインはこの図のようにちゃんとフル稼働しますが、それを動かす人員が加味されません。

この図の例ですと、午前中は55人必要で、50人しか従業員がいないので5人不足すると。逆に午後は40人で済むので、10人余ってしまう。従業員は50人しかいませんので、実際には実行不可能な計画となってしまいます。

一方で、数理最適化の技術を使えば、人数、時間といった複数の条件を加味した最適解を求めることが可能でした。このように、数理最適化ソリューションは多くの優位性がありますが、導入や実装の際には十分な検討が必要であり、専門的な知識やリソースが必須です。

弊社の場合は、社内に専門的な知識やリソースはありませんでしたので、オクトーバー・スカイさまとプロジェクトを組んで、システムを開発した流れとなります。

開発から導入までのスケジュール

開発から導入までのスケジュールは、この図のとおりです。まずは要件定義を3ヶ月かけて行って、その後2ヶ月かけてPoCの開発とその結果の評価を行いました。ここで問題ないことが確認できたので、本番開発を7ヶ月で行い、並行稼働、本稼働というかたちで導入に至りました。

弊社がこの要件定義フェーズのところで洗い出した要件を、少しだけご紹介させていただきます。まず必須となる制約条件と任意となる目的です。

まず、制約から簡単にご説明しますと、一番上の納期遵守は、読んで字のごとく、納期を必ず守るという制約条件です。2つ目が、期日まで作業しないという制約です。こちらは、計画段階では数量が確定しておらず概算の予算しかないようなものについて、数量が確定する前までは作業を開始しないようにしたい時に使う、制約の条件となります。

3つ目が、メンテナンス予約制約。これは設備メンテナンスや清掃等で製造ラインを止めておきたい時に使う制約条件となります。

4つ目が、同時間帯生産不可制約です。こちらは、同じ時間帯に別のラインで並行して生産できない製品の組み合わせを指定する条件となります。例えば、製品Aと製品Bを作るのには共通の設備を使う必要があると。その設備が1つしかない場合、この製品Aと製品Bを同じ時間帯に複数のラインで並行して生産することはできませんので、そういった組み合わせを設定する制約条件です。

「制約をクリアした上で、なるべく目的を達成する」システム

これらの制約条件は必須となりますので、これに反した計画が組まれることはありません。一方右側は、あくまで任意となる目的の関数です。1点目が切替回数小、「ライン停止の時間を少なくするために、品種切替の発生回数をなるべく少なくしてくれ」という目的です。

2つ目が切替時間最小というものです。どうしても切替が発生してしまう時に、なるべく切替時間による停止時間が短くなる組み合わせにするという目的です。例えば菓子AとBがあったとして、AからBの切替は50分かかるが、逆にBからAだと30分で済みますよと。そういった場合は後者のBからAの切替をなるべく選びましょうという目的です。

3つ目が同日組み合わせという目的です。こちらは、同じ日に生産したほうが効率がいいものを設定するものです。例えば製品Aと製品Bが同じような仕様だった場合に、同じ日に連続して作ったほうが、準備や片付けの作業負荷が軽減できますので、そういった組み合わせを設定できる目的です。

最後が人員平準化という目的で、これは読んで字のごとくですが、なるべく日別の必要な作業人員を平準化する目的関数となります。このほかにも多数の制約、目的がありまして、必ず制約をクリアした上で、なるべく目的を達成する仕様になっています。

システムの構成は図のとおりでして、まずはExcelベースで各種変数、インプットのデータを準備し、それを日別生産計画自動立案ツールでGurobiに解かせ、アウトプットしたものが日別生産計画となります。



導入前と同じように、Excelベースでアウトプットする仕様で開発をしてもらいましたので、その後はもともと導入してあった基幹システム(ERP)に連携して、生産実行に至るという流れです。

2〜3週間かかる生産計画が最短1日に

こちらのスライドは実際の操作画面になりますが、先ほど申したとおり、Excelで準備した入力データの保管先を選択して、あとは目的の重み付けを設定し、計画の条件や範囲を設定して計算を開始するという、シンプルなものになっております。



製造ラインの変更や新商品の追加が発生した場合は、入力データを追加、修正することで簡単に対応可能な設計になっていますので、メンテナンス性も良いと感じております。開発にあたっては、弊社の要件だと、計算にだいたい4時間ぐらいかかると見ていましたので、それを基本の計算時間として実行しております。

このようなシステムを導入したことにより得られた効果が、大きく2つございます。1点目が、日別生産計画立案業務の改革ができたこと。2点目が、戦略的業務の活性化ができたことです。

日別生産計画立案業務の改革の内容としましては、1つ目は意思決定の迅速化が図れました。各工場で業務を行っていたところを、本社の生産管理部に集約し、効率化を図るとともに、本社の管理・統制機能が強化できております。

2つ目は作業の標準化で、システム化により属人化を解消できました、という効果です。3つ目が業務効率の向上で、システム化と本社部門への業務の集約によって、各工場の計画担当者は、年間約600時間の工数が削減できております。

4点目が精度の向上で、機械によって計算しますので、ヒューマンエラーがなくなったという効果です。

5つ目は柔軟性の向上で、計画立案にかかるリードタイムが大幅に短縮できたという効果があります。これまでは初回の計画に最も時間がかかっていて、2〜3週間ほどかかっていましたが、最短1日で計画できるようになりました。

これらの改善によって、これまで手がつかなかった原価管理等の戦略的業務を活性化できたのが、システム化による効果となります。

導入時における要件定義のポイント

今話したことをイメージ図にしたものですが、これまでは、本社部門はあくまで月別の計画まで(をやっていて)、その後の日別の計画は各工場に行っていて、2〜3週間かかっていました。この日別生産計画の立案を、Gurobiの導入によって効率化して、さらに本社の生産管理部に業務を集約したと。



それによって各工場では、結果を確認して必要に応じて修正するという業務に変わり、かなり業務負荷が減りました。その創出した時間を原価管理活動等の戦略的業務の推進に活用しています。

残りの時間では、導入時における課題や、導入後、数年経って起きた変化、今後の展望や発展についてお話をさせていただきます。導入時における課題の1点目は、要件定義時の苦労ですね。数理最適化においては、目的と制約を明確にして、要件定義することが非常に重要だったと思っております。

単なる作業手順の棚卸では不十分なところがありまして、何の目的でその作業手順になっているのか、それは制約(必須)であるのか、目的(任意)でもいいのかまで追求することが重要だと感じました。

イメージとしては、熟練担当者の「こういう時はこうするんだよ」という言葉。こういうものが要件定義でたくさん出てきますが、「それってそもそも何のためにそうしているの(目的はなに)?」「それって絶対(制約)なの?」といったところまで深掘りしていくようなイメージです。

この要件定義をスムーズにやっていくためには、今までの手作業のやり方と、数理最適化の解へのアプローチがぜんぜん違うんだと理解するところが大切だと思っております。私も数理最適化に関する知識はありませんでしたので、オクトーバー・スカイさまが開催されているセミナーのビギナーコースを受けて、なんとなくわかるようになりました。私と同じような境遇の方は受けてみるのもいいかなと思います。

導入後に困った時の対処法

2つ目は、解なしへの対応です。開発の期間中や、特に導入初期においては、計算を実行した時になかなか解が出ないことや、求める結果と異なる結果が出ることが、往々にしてあると思います。こういった時に、複数の目的や制約、変数が絡んでいますので、正直、素人にはどこに問題があるのかを特定するのは難しいと感じました。

こういった場合は、自分たちが出した要件、目的や制約の条件を見直す。変数に当たるオーダーのデータをいったん単純化してみる。

あとは、先ほどの乾(伸雄)さんの話にも出てきましたが、この(Gurobiの)ログを見てみる。また、弊社の場合は、オクトーバー・スカイさまのサポートを受けることができましたので、わからない場合はサポートを受ける、ということで対処できました。

導入から数年経って起きた変化

続いて、導入後数年経ち、今回講演するにあたって、あらためて振り返って思ったことを、3つ共有させていただければと思います。1点目は、当初はあまり想定していなかったのですが、その後に起こった良い変化というところで、最新の販売状況を反映した計画立案ができるようになりました。計画立案の所要日数がかなり短縮されましたので、そもそもその作業を開始する日を後ろ倒しにできます。

これによって販売部門からの発注や、販売計画の提示のタイミングを遅らせることができました。最新の状況を加味した生産計画の立案が可能になりましたので、結果的に生産計画の精度が上がりました。

2点目は、求められるスキルの変化で、当たり前ですけれども、これまでの「人の手で作り上げる」というスキルから、「結果を確認して必要に応じて修正する」スキルが必要になってきます。また、各種インプットデータの作成も、ちょっとコツが要る部分もありますので、そういったスキルも必要になってきます。

また弊社の場合は、計算開始から結果が出るまでに4時間かかりますので、緊急時やイレギュラーな対応の時のために、既存のスキルの継承も重要だなと感じております。

3点目、人とシステムの協働というところで書かせていただいたのは、多くの制約や目的が複雑に絡み合っていますので、最初から完璧を求めすぎてしまうと、本稼働に踏み切れないことがあると思います。人とシステムが協働して効率を上げるという視点で、まずは導入してみて、段階的に改善していくというアプローチが建設的かなと、あらためて思っています。

数理最適化は、複雑な意思決定や効率の向上を図る強力なツール

今後の展望になりますが、弊社は今回の事例を活かし、今後も数理最適化の技術を活用していきたいなと考えております。

今回は日別生産計画の立案にGurobiを導入したんですけれども、その前後工程のところ。前工程で言うと、月別の生産計画を立てるところや、後工程では生産実行段階における人員配置の決定の業務にも、Gurobiの活用を検討していきたいと考えております。

最後にまとめです。弊社は日別生産計画の立案業務を数理最適化ソリューションを用いて改革し、業務効率、精度、柔軟性の向上、属人化の解消を達成しました。また、新たに生まれたリソースを戦略的業務に充てて、原価管理などの利益に直結する業務を活性化できております。

今後も生産活動の領域において、数理最適化技術の活用を検討していきたいと考えております。このように、数理最適化は、複雑な意思決定や効率の向上を図る強力なツールとなりますので、ぜひみなさまも、社内での活用を検討していただければと思います。以上で弊社の事例紹介を終了いたします。ご清聴ありがとうございました。

※「シガール」は株式会社ヨックモックホールディングスの登録商標です。

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