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基調講演/スペシャルセッション(全4記事)

2024.11.22

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「闇雲なAI導入」から脱却せよ Zoom・パーソル・THE GUILD幹部が語る、従業員と顧客体験を高めるAI戦略の要諦

提供:ZVC JAPAN株式会社

企業のAI導入が加速する中、「とりあえず導入」では効果は限定的——。本セッションでは、Zoom、パーソル、THE GUILDの各界リーダーが、AIをビジネスの真の推進力とするための具体的なアプローチを語り合います。上流での経営判断から現場での活用まで、組織全体でAIの価値を最大化する戦略と、従業員の働きがいを高める実践的な導入ステップを紹介しています。「楽しく」「使える」AI活用の要諦をつかむ90分の特別対談。

企画協力:NewsPicks Brand Design

AI実装の最前線を語る各界リーダー対談

金井明日香氏(以下、金井):「Zoomtopia Japan Virtual 2024」にご参加いただきましてありがとうございます。このセッションはスペシャルセッションということで、「脱・闇雲なAI導入。顧客・従業員体験を高めるAI実装の手引き」と題して、組織の中でいかにAIの真価を引き出していくか、どう未来に向けて準備をすべきかを考えていきたいと思います。

それではさっそく、登壇者のみなさまに自己紹介をしていただきましょう。まずは、株式会社THE GUILD 代表、深津貴之さんです。

深津貴之氏(以下、深津):みなさんこんにちは。株式会社THE GUILDの深津と申します。僕はいわゆるサービスデザインといって、新しいサービスや新規事業を作ったり、グロースする時にどうしたら使ってもらえるか、どうしたら使いやすいかなどを設計するような仕事をしています。

そのような絡みで、最近ですとAIをいろいろと導入することや、新しいAIサービスを作ることのお手伝いをしています。みなさん、よろしくお願いします。



金井:よろしくお願いいたします。では続きまして、パーソルホールディングス株式会社 グループデジタル変革推進本部 本部長、朝比奈ゆり子さんです。

朝比奈ゆり子氏(以下、朝比奈):私は派遣の「テンプスタッフ」、転職の「doda」など、総合的に人材サービスを提供するパーソルグループから参りました。私は今、グループ全体のデジタル施策を推進する立場にいまして、特に最近ではAIの推進に力を入れています。

グループビジョンは「はたらいて、笑おう。」でして、今日のこのセッションのテーマにも通じるのかなと思っています。本日はどうぞよろしくお願いいたします。



金井:よろしくお願いいたします。では最後に、ZVC JAPAN 代表取締役会長 兼 社長の下垣典弘さんです。

下垣典弘氏(以下、下垣):みなさんこんにちは。Zoomの下垣です。Zoomは2011年にアメリカで創業した後、日本では2018年からみなさまにご愛顧いただいており、6年目になりました。

この6年の間に、Zoom Phoneという電話をはじめ、AI Companionについては大変多くのみなさまにご愛顧いただいております。そして、今では従業員8,000人を超えるメンバーが、毎日AIを使いこなしています。そんな第2創業期のZoomでリーダーを務めております。本日はとても楽しみにしております。どうぞよろしくお願いします。



金井:よろしくお願いいたします。私はモデレーターを務めます、NewsPicks Brand Designの金井明日香と申します。このセッションは、NewsPicks Brand Designとのコラボレーション企画になっていますので、どうぞよろしくお願いいたします。

闇雲な導入が招くAI活用の落とし穴

金井:ではさっそくディスカッションを始めていきたいと思います。最初のトピックなんですけれども、まず「闇雲にAIを導入する落とし穴とは?」というテーマでお話をおうかがいしたいと思っていて。

「AIを組織に導入しなきゃいけないよね」というところは、多くのみなさんがご認識されているところかなと思いますけれども、その導入の仕方で迷っている会社は、けっこう多いんじゃないかなと思う中で。

あまり戦略を立てずに闇雲に導入してしまうとどんなリスクがあり得るのか、というようなところからまずはおうかがいできればと思うんですが。深津さん、このあたりはいかがですか?

深津:やはり一番あり得るのは、せっかくがんばって導入したけれども、誰も有効な使い方を知らないまま入れてしまったので、使ってくれなかったとか。

あるいは、使ってはもらえるんだけれども、「検索の代わりに使いました」とか、「メールのあいさつ文を整えてもらいました」とか、事業の本質にインパクトしない小さなイテレーションが現場で回りすぎてしまうなどが、よくあるパターンかなと思います。

金井:そうですよね。せっかくAIサービスってお金もかけて導入したものの、実はそんなにインパクトを作れないまま現場で使われているにとどまってしまうみたいな、そんなイメージですかね。

深津:そうですね。恐らく多くの場合は、適切な使い方のお手本とかトレーニングが提示されないままツールだけ渡されると、そういうことになりやすいのかなと思います。

パーソルが実践する全社的なAI戦略

金井:朝比奈さん、今のお話を受けて、パーソルグループでデジタル推進をされているという中で、闇雲に導入しちゃうところはどうなんでしょうか?

朝比奈:特に生成AIが台頭した2023年は、我々は人材業ですので、やはりセキュリティ、情報の保護を非常に大事にしますので、まずセキュリティの担保と、どのように社員が使えるようにしていくかを、一番初めに考えて行動していったんですね。

なので、「危ないよ」と(使用を禁止する)ことはないんですけれども、逆に社員にかなり浸透した今、社員発の取り組みにはすごく功を奏しているんですけれども、導入ってキリがないんですよね。なので、「本当にもっともっと大きなインパクトを得ていくにはどうしたらいいんだろう?」と、少しその壁に当たっている。今我々は、そんな状態です。

金井:じゃあ、けっこうジレンマみたいなものを抱えているんですね。

朝比奈:そうですね。「こんなことができる。うわぁ、すごいよね。だったら、もうちょっとこのあたりができるかな?」というところでできなくなってしまったりとか。あとは、現場が活性化しているけれども、例えば経営目線で見ると、「現場が盛り上がるのはいいけど、それでいくらビジネスで儲かるの?」みたいな話とかが、また再燃したりとか。

金井:(笑)。

朝比奈:そういったことの繰り返しなのか、今そういったフェーズに来ているのか、そんな感じがしています。

経営者が語る日本企業のAI導入の本質

金井:下垣さんはどうですか? うなずきながら聞いていましたけれども(笑)。

下垣:そうですね。「そもそも、なんでAIを入れなきゃいけないんですかね?」という話があって、「流行っているからなんですかね?」と。

例えば時代を振り返ってみると、ソニーのウォークマンが流行った時代に(他の企業から)さまざまなポータブルオーディオプレーヤーが出てきたように、コンシューマーの世界では、流行っているから(企業として参入した)ということはけっこうあるんですけど、こんなに闇雲に日本の企業が、貪るように新しいテクノロジーに食いついたことは、歴史上、実はあまりなくて。

そんな中、私が経営者の方々とお会いして「使っていますか?」と聞くと、みなさん胸を張って「使っています」と言うんですね。「何に使っているんですか?」と聞くと、「いろいろ使っている」と言っていて。

意外と使っているストーリーが経営者の方々に伝わっていない部分が多くて、「一生懸命現場で言われているけど、企業として使えているのかな?」という落とし穴があるような気がしていますね。

金井:ありがとうございます。深津さん、このあたりのストーリーというのはどうですか? 

深津:そうですね。一番大きなストーリーは、人口動態が変化をして労働できる人材層が減っていく中で、日本においては逆にエンジニアリングやDXが重要になってきているので、企業の数に対してエンジニアの数、あるいはデジタル人材の数が足りていないというのが根本にはあると思います。

そこに対して、AIがヒットしてくれるのが理想ではあるんですけど、今は使われ方が辞書の代わりとか、ちょっとまとめを書いてもらう代わり程度に止まっちゃっているので、本来的には今のオペレーションにAIを使うんじゃなくて、「AIを使った時に一番いい成績が叩き出せるオペレーションを、どうがんばって作っていこう?」みたいなところに注力していけるといいのかなとは思います。

経営層に求められるAI戦略の描き方

金井:ではどうやって経営者とかリーダーは、戦略を描くと言うが、やっていったらいいのかも、ぜひみなさんのご意見をおうかがいしていきたいなと思ったんですけれども。そこを深津さん、続けていかがですか?

深津:一番シンプルには、やはり経営層、リーダー層がAIを正しく理解したり使うことが一番インパクトがあると思います。やはり現場で「文章がちょっと良くなりました」というインパクトよりは、例えばよく例でお話しすることとしては、Zoom会議あるいはそういったものの経営会議の議事録を生成AIに渡して、経営判断の中で「これを考慮するの忘れてない?」とか。

金井:(笑)。

深津:「やらなきゃいけないプロセスを忘れて、みんな目が1ヶ所に行って突っ走ってちゃってない?」みたいにツッコミを入れてもらうほうが、ぜんぜん経営インパクトとしては大きかったりするので。

金井:確かに。

深津:まずはそういう上流のインパクトの大きいところで率先して触ってみて、理解してもらうところが大事かな、とは思っています。

経営判断を支援するAIの実践的活用法

金井:朝比奈さんもどうですか? この観点。どうやって戦略を描いていったらいいのかも含めて。

朝比奈:そうですね。我々の戦略を描いてみたものがあるので、それを少しシェアしたいと思います。まず、もともと私が描いていたグループ全体のテクノロジーの中計なんですが、まず今日のテーマとぴったりでして。

取り組みを大きく4象限にまとめてあるんですが、顧客の体験と社員の体験それぞれを、デジタルで良くしていく。そういったコンセプトで、このテクノロジーの中計を作っています。

それに当てはめると、AI、特に生成AIの登場によって、一部のテクニカルな社員が作ったものを実装し、そのシステムを使うところから、あまねく社員が使えるというパラダイムシフトに際して、いくつか取り組みのポイントを作りました。それが今共有している資料になります。



最終的に経営としては、本当にドラスティックに、例えば経営スタイルを変えていく、ビジネスを変えていく、業務を変えていく。そこを目指したいと思っています。

ただそれは、一発ではできませんので、社員の共通領域として、本教育啓発活動もあれば、ガバナンスを整えていくところもあれば、社員が広く使えるような汎用的なGPT、良いツールを使えるような取り組み。また、我々がお客さまに向けて提供しているサービスそのものを磨いていくといった、そこに対しての取り組みと、いくつかにテーマを分けて取り組んでいます。



金井:ちなみに、具体的に「ここを目指していくぞ」みたいなゴールとかKPIみたいなものとかも、何か設定をされたりしていたんですか?

朝比奈:KPIの設定はしていません。これは全体像ですね。ただし、一つひとつの取り組みで、例えばやはりお客さま向けのサービスであれば、「ここに実装するので、お客さまのここの不便を解消しようよね」とか、そういった目標はそれぞれには置いていたし、社員の共通の領域においても、実は裏目標としては持っていました。

各論文を読むと、例えば「1ドルの投資につき3.5ドルのバックがあるよ」みたいな論文があったりすると、じゃあ少なくとも3.5倍ぐらいのリターンがあるような活動に資するものが取り組めたらいいかなみたいなものは、裏の目標としては持っていました。

ただ、そういうことを前面には打ち出さず、やはりできるだけ業務、プロセスに可能な限り練り込んでいく。あまり特定の場所に狭めることなく、練り込んでいくというアプローチを取っています。

金井:下垣さんもいかがですか? 先ほどストーリーというお話もありましたが。

下垣:2人のお話がすごくおもしろくて。例えば経営層で、使わせると言うのか、使っていただくと言うのか。

金井:(笑)。

下垣:一方で、広くあまねく使う。過日、「Zoom Experience Day Summer」というイベントがあって、そこでもお話ししたんですけど、今の投資を「AI1」とすると、7年後には20倍になると言っているんですね。なので、今は投資対効果が見えてないけども、もうちょっとしたら「なんぼのお金を使うの?」というお金(の話)になってくると思うので。

そういう意味で言うと、先ほどのように経営層にガーっと使ってもらって、広くあまねく使っても生産性が上がらないところよりも、もっとドラスティックに変わるところに使っていくような入れ方が日本人にとっては必要かなと思う一方で、先ほどちょっと歴史の話をしたんですけど、例えば日本で言うと、Webサイトの作り方を間違えちゃったんですよね。

金井:そうなんですか?

下垣:アメリカで(情報)スーパーハイウェイ構想という、「将来はリモートの中で、インターネットを通じてWebサイトでビジネスをしていく」ということを発表していた時に、日本人は「どうせ会社の企業ホームページだけ作るんでしょ」ということで、小さい投資をして継ぎ接ぎだらけにした。

そういう意味で言うと、今後現場から行くのか、トップから行くのかは別にして、より安価に抑えながらスケーラブルにするとか、アジャスタブルにするということは、計画や戦略を考える上ですごく重要なことかなといつも思っていますね。

CXとEXを高めるAI導入の具体策

金井:そうですよね。では、次のテーマに移っていきたいなと思います。次のテーマは、「CX・EXを高めるための、AI導入の具体的ステップとは?」と置かせてもらっているのですが、「じゃあ具体的に、実際にどうやっていったらいいのか?」というお話を、ぜひみなさんからおうかがいできればなと思っているんですが。

「どの領域から始めたらいいの?」とか「どこから始めよう?」みたいなところがあると思うんですけど、深津さんはこのあたり、ちょっと重複するところはあるかもしれませんが、いかがですか?

深津:いくつかいろいろあると思うんですけれども、僕が導入の時にお薦めするところは、いきなりすごいインパクトポイントを出すところというよりは、例えば導入して数時間で成果が実感できるところとか。

金井:数時間。

深津:Small Win、Quick Winを達成できて、その達成しているところを外部から観測できるような場所。

つまり、「入れた瞬間、こんなに仕事が楽になったよ。わぁ」みたいな。たぶんそれが本質的な営業成績にはヒットしなくてもいいので、「AIを入れるとこんなに仕事が変わるんだ。楽になるんだ」が、数時間、数日で見えて、というところから入ると、「じゃあもっとAIを使おう」とかになっていくので。

比較的推進しやすいモメンタムを作る。モメンタムを作った後で、本質的なところをちゃんと押さえる、みたいな順番でやるとやりやすいかなと。

逆に最初に正しすぎると、成果が出るのに1年かかる、2年かかる。あるいは、やればやるほどつらくなって、仕事の楽しみが失われるみたいなところを、正しいからといって着手しちゃうと、インパクトは出るんだけど、チームがバラバラになったり、反対活動が巨大化したりするので、そこは注意が必要かなと。

金井:朝比奈さんはどうですか? すごくうなずかれながら聞いていましたが。

朝比奈:確かにそうだなとは思っています。本当に共感します。だから、例えばサプライチェーン全体とか業務プロセス全体、長いプロセスを一気に置き換えるとかは、やはり無理でしょうね(笑)。難しいですよね。

金井:(笑)。

朝比奈:もちろん何か、その先にはあるのかもしれないです。例えばコールセンターの業務みたいなものは、できるだけ無人化をしていくみたいな取り組みって、やはりトライはしていますが、一気にバーンとはいかないと思いますので、Quick Winはすごく大事だと思います。社員の自発的、自律性に任せて業務改善をしていく。そこからの導入でいいんじゃないでしょうかね。

金井:ちなみに、先ほどちょっと「成果も出さなきゃ」みたいな観点もあるというお話もありましたが、実際導入を進めるに当たって、パーソルさんで一番「ここは気をつけよう」とか、意識していたポイントみたいなものがあれば、聞いてみたいなと思いました。

朝比奈:なるほど。では、ちょっと導入の経緯をスライドに。これはちょっとビジーなんですが、2023年度に我々が生成AIをグループに導入する時の簡単な振り返りです。冒頭でも申し上げたとおり、人材業は非常にセキュリティ、データの保全性を大事にします。

でも一方で、今回このタイミングでちゃんと生成AIを使わないと、グループ企業としてクリティカルな経営リスクに陥ると思ったので。絶対に使いたい、でも安全に使わなくてはいけないということで、まず初めに、実はセキュリティを担保しにいきました。

なので、2023年の4月ぐらいだと思うんですけれども、私のところにいるエンジニアに「作れる?」と聞き、その時に一番初めに声を掛けにいったのが法務・コンプライアンスの部門で。ということで、初めにガイドを作ってグループに入れていきたいということで、まずはそういったアプローチを取って、安全なことを確保しにいったんですね。

そして経営の理解をきちんと得ていくということ。あとは、現場でやりたいと思っている人たちがたくさんいるので、そういったファーストペンギンになるような子たちをピックアップして、「がんばれ、がんばれ」って言っていると、どんどん盛り上がっていく。

また、その盛り上がりと同時に、やはり汎用のGPTツールは、一度作って終わりではなく、どんどんイテレーションを回して機能を追加していく類いのものなので、利用者の声を聞きながら、どんどん機能アップをして使い続ける仕掛け。そういったことを意識して導入をしていきました。


組織全体で進めるAI導入の実践ステップ

金井:深津さん、今のお話はどうですか? 

深津:いや、僕もすごくいいなと思いまして。今のももちろんすごく大事で、自分もすごく意識しているんですけど、さらにそこにもう1個ぐらい付け足すとすると、今は個々のお話をしていたので、僕はちょっとチームの話をすると。例えば営業チームに生成AIを渡した時に、各チームのメンバーががんばって、プロンプトを入力して回すというのが、今のパートの話です。

そことは別のパートのお話として、例えば営業チームみんなの営業ログをいったん集めて、「成約した営業と成約していない営業の違いは何? 言語化・構造化して」とプロンプトを入れて構造化してもらって、我が社の成約するための営業マニュアルをAIに作ってもらって、これを各チームに配る。

各チームの人は、ChatGPTの先ほどのプロンプトみたいなテクニックを使って、その営業マニュアルっぽいことができるように、ChatGPTと練習してもらったり。あるいは、ふだんのそこから先の営業ログをマニュアルと突き詰めて、自分がどれぐらいうまくできていて、どうしたらもっとうまくなれるかを壁打ちしてもらう、みたいに。

現場でやれることと、オペレーションと言うほどではないですが、武器として仕上げて、実際に生成AIを触るところとは別に生成AIでできたものを渡してあげるというパワーアップの仕方もあるので、2つを組み合わせるとすごくドライブするのではないかな、とは思っています。

朝比奈:確かに。やはり多層で考えたほうがいいですよね。本当にみんながやるところ、ある意味でボトムアップのところと、ちょっとミドルアップダウンではないですが、現場を見ながら少しまとめてあげて、具体に落としてあげるやり方もあれば。あとはトップダウンから、少し視座を上げるようなことがありながら、もっとエンカレッジしてあげるとか。

深津:そうそう。現場はガンガン走る係で、リーダー層は「ガンガン走れるように足場を良くしたよ」とか、「いい靴を用意したよ」というやり方で、生成AIの援助ができるといいかなと。

現場と経営をつなぐAI活用の要点

金井:下垣さん、どうですか?

下垣:今の深津さんの話はまさしく。ちなみにちょっとZoomの話をすると、Zoomでけっこう売れているAI系ソリューションは「Revenue Accelerator」です。要はみなさん共通の悩みは何かっていうと、「売れない営業をなんとかしたい」っていうことで。

でも、マネジャーは売れている営業を一生懸命見ているわけですね。売れない営業は辞めちゃうし、辞めるとまた採用費もかかるし。採用費がかかると、パーソルさんは儲かるんですけど(笑)。

朝比奈:(笑)。

下垣:つまり、どうやって売れない営業を売れるようにするかというマニュアルを欲しい人もいるし、上司から1対1で居酒屋で教えてほしい人もいる。今の大半の人たちは、セルフサービスで学びたいんですよね。一方で、(セルフでやっていると)営業活動をしているのを見れないわけです。なので、そういう意味で、本当にすべてを普遍的に、事業としてやっているということは売上があるので、売上があるということは営業をやっていると。

(そのような)営業の人たちの多種多様なニーズに合ったことをAIで提供する、みたいなことを普遍的に提供することは、本当にまさしく今のニーズに合っていて、すごく引き合いももらっているので、まさしく今深津さんがおっしゃるとおりだなとは思います。

深津:営業とかが、一番事業をドライブするのに必要だと思うんですが、例えばこれからはZoomとかで会議をしている時に、右側のチャット欄に「今褒めて!」みたいのが出てきて、それを見て、「社長、すごいですね」みたいなことを言えるとか。

朝比奈:(笑)。

下垣:でも、現場もそうなんですけども、私自身、Zoomのリーダーとしてこういうことを言うのは変ですが、いまだにお客さまのところに営業と一緒にお邪魔して、営業がやることに感銘を受けたりするんですよ。

例えば(営業が)お客さんといろいろ話をしている時に、急に「Zoom Docs」を立ち上げて、お客さんが言っていることをメモってピュッとやると、きれいに整形してくれるわけですよ。(それをお客さんに見せて)「こういうことができたらいいんじゃないですか?」ということをやると、お客さんは「こういうのが欲しい」と言ったんです。

私はそれにすごく感銘を受けて、帰りがけに「あれ、俺もできるようになりたいな」と言ったんですよ。そうしたら、(使い方を説明するための)ミーティングインビテーション(招待)が来ると思っていたんですよ。そうしたら、ミーティングインビテーションではなくて、URLが飛んできまして。

(それを見ると)Zoom Clipsという機能に「こうやってやるんです」というのが、先ほどのスクリプトと同じように貼り付けてあるんです。(そしてそれを私たちの)サイトに載せるんですね。そうすると、私もスタディできるんですけど、それをやりたい人たち全員が学べる。

だから、ワクワクして、生産性が高くて、自分のスキルが上がるのは、AIの効能としては一番おもしろいところかなと。(使い方の例が)2,000種類、3,000種類のものが出ているので、私もいまだにぜんぜん理解ができず、本当に現場と共に学んでいる感じですね。

AIが変える人事評価と人材育成

金井:いいですね。究極、人事評価みたいな話もおもしろいかなと思ったので、そのへんをちょっとうかがえる質問をしようと思っていました。

深津:そうですね。人事評価に、というとみなさんAIを使って人事評価をしがちに考えちゃうんですけど、どちらかというと僕が考えるのは逆であって、人事評価の中でAIを使いこなせているかどうかを、例えば給料、あるいは出世の査定と結び付けてしまうというのが一番ダイレクトです。

金井:ダイレクトですね。

深津:つまり、一番究極的には、「エグゼクティブに上がるためには、AIを使って生産性の何ちゃらにどれだけコミットして、成果を出していなければならない」というのが、出世の条件に入っていたりとか、転職の条件に入るみたいな。

下垣:ちょっと息苦しくなってきたかも。

深津:そうですよね。息苦しくなる。

(一同笑)

深津:ただ、やはり構造で縛ってしまうのが一番成果を出しやすいとは思います。

金井:そうですよね。

組織階層に応じたAI活用の最適化

朝比奈:あとはアプローチも、同じ会社の中でも、レイヤーによって分かれると思うんですよね。やはり経営目線で興味がある話題、使い方。マネジメントレイヤーで興味がある使い方。あと、メンバーレイヤーで現場で使う興味ポイント、使い方。そこをしっかり分けてコミュニケーションをしていくのが、企業の中で本当にみんなが使えるようにしていくための、1つのアプローチかなって思っています。

例えば(取り組み始めてから)1年以上になるんですが、私は勝手に経営に向けて2週間に1回ぐらいメールを送り付けています。一般のメンバー向けにはコミュニティでワイワイいろいろな情報の展開をしていますが、「コミュニティに入ってきて」と経営に言っても、たくさんの情報量の中から欲しい情報はないですし、細かな機能の話をしても、やはり盛り上がらないので。

とすると、やはり「経営に刺さるだろうな」と思う話題をピックアップしたりとか、押しかけていって、「どうやって使っている?」みたいな。「使ってなくないよね?」みたいなことをやるとかも含めて、たぶんコミュニケーションの仕方を変えていくことが、1つ要るのかなって思っています。

深津:そうですね。

下垣:それを深津さんのおっしゃる査定が来る前に(やれれば)。

朝比奈:確かに。

金井:(笑)。

深津:もう少し査定よりもポジティブな話だと、僕がけっこうお薦めしているのは、個人情報とか少し整理は必要ですけど、“メンターのメンター”をAIにやってもらうっていうのをお薦めしていて。

社内で1on1とかあるじゃないですか。1on1のログをAIにレビューしてもらって、私が部下にこういう言葉をかけてあげる時、「もっとこういうふうに言うと伝わるよ」とか、「もっとこういうふうにやると、信頼してもらえるようになるよ」というふうに、上司のメンターとしての質を上げるところをAIに手伝ってもらうと、上司の人もうまくすごく話せるようになるので。

AIを使って良かったなってなるし、部下の人も上司としゃべる時に、風通しが良くなる、しゃべりやすくなる、楽しくなるみたいなのが起きるので、そのような使い方をお薦めをしています。

朝比奈:確かにそうですね。今すごくヒントをいただいた気もします。またうちのグループの話になるんですが、汎用的にみんなで使えるGPTの中に、プロンプトギャラリーというものがありまして、そこでプロンプトのシェアができるんですけれども、わりと多いのが、例えば目標設定の時期に、自分が書く目標設定の壁打ちをしてくれるものみたいなものが多くて。メンバーからの、自分の仕事の質を上げていくプロンプトはけっこうあるんですけど。

金井:あ、いいですね。

朝比奈:一方で、マネジメントレイヤー(向けのプロンプト)がそんなにないなと思っていたので、今のはあらためてヒントになるかと思います。

下垣:先ほどRevenue Acceleratorという話をしましたが、結局部下はコーチをする人のクオリティに左右されるのです。上司は部下を選べるけど、部下は上司を選べないというので、上司のクオリティの不均一感をAIがコーチしてくれる。

つまり、うまくいっている人のことをコーチしてあげるのが、もともとコーチの役割なんですけども、それをAIが自分にやってくれるみたいなのはすでに始まっています。でも、それが査定評価につながるとか、そういうのはまた新しい取り組みだと思うし。

朝比奈:確かに、確かに。

下垣:あともう1個違うトピックスでいくと、昨日もとある経営者会に行ってやったんですけど、私が経営者のところに行くと、こうやって携帯を取り出して、これはiPhoneですけど、背中をトントンと叩くとカメラが立ち上がるんですね。そうすると経営者は「へぇ! そうなの?」と言う人と、携帯を出して叩く人と2つに分かれますね。

深津:自分で試してみるかみたいな。

下垣:それで、「試さない人は、たぶんAIもやっていないでしょう」みたいな話をするんですね。つまり何が言いたいかというと、今日はAIというトピックスなんですけども、基本的に現場も経営者もどのぐらい好奇心があるかということと、それを実行できるかというところが、すごく手順として大事かなと思っていて。

言い方を変えれば、今スケジュールとか戦略という話があったと思うんですけど、そういう人たちをどう集めるか。西海岸のAmazonもそうですし、Googleもそうですし、我々もそうなんですけど。

好奇心と失敗している人をちゃんと採用するという意味で言うと、好奇心をどうかき立てるかは、AIというテーマとはまたちょっと似て非なるものではありますが、我々が取り組まなきゃいけないテーマなのかなって思いますね。

AIで実現する働き方改革

金井:ありがとうございます。ぜひ、最後のトピックに移っていきたいなと思うんですけど。ちょっと今のお話とも近しいところで、「どうしたらAIで仕事がもっと楽しくできるんだろうか?」というところを、ぜひみなさんに聞いてみたいんですが。

AIはともすると、「とにかく効率重視だ」みたいになってしまったり、逆に「生産性は上がったけれども、結局別の仕事が増えただけじゃん」みたいな話になったりもあり得るのかなと思うんですけど。「では、どうしたらもっとポジティブにしていけるかな?」というところなんですが、そのあたり、深津さんはいかがですか?

深津:そうですね。生産性を純粋に上げることだけフォーカスをすると、けっこう失敗しがちです。「生産性を上げる」という円と、「仕事が楽しくなったり充実する」という円の、2つの重なる部分をちゃんと狙うことが大事かなと思います。

やはり生産性だけ上げると、「僕、要らなくていいんじゃないの?」とか、「仕事がつまんなくなっちゃった」ってなるので。どっちかというと、それなら私が仕事が楽しくてたまらなくなるように、雑事を消すようなところをAIに手伝ってもらうとかする。

先ほどのコーチングとかの話もそうなんですけど、たぶん仕事で一番レバレッジがかかるのって、社員みんながやる気になって積極的にどんどんやって、新しいことをどんどん勉強してもらうようになるという構造を作るところが、一番インパクトがあるとも考えられて。

そのために、つまらないこと、つらいところをどんどんAIにサポートしてもらう。苦しいところを楽しくしてもらうみたいなところは、わりといい使い方のスタート地点ではないかな、と。

金井:確かに、クリエイティブ領域で「デザインを何でも作れちゃうよ」と言われたら、ちょっとデザイナーさんからしたら、「つまんないな」と思っちゃいますよね。そのようなところは、あえて避けるみたいなところですね。

深津:逆に「プロマネしてくれるよ」「給料の交渉をしてくれるよ」「確定申告を手伝ってくれるよ」のところから使って、自分が絵に集中できる環境を作るみたいなところのほうが、本当はお薦めです。

金井:それは本当にそうですね。朝比奈さんもこのあたりはどうですか?

朝比奈:これは当社グループでもトライをして、生成AIのリテラシーが上がると、まず業務時間が減っているんです。残業を減らすだけではなく、本来使いたかったタスクに(時間を割ける)、減らしたい仕事を減らすことができて、本来振り向けたい時間に振り向けられているということがデータとしても取れていて、まず取り組み価値はたくさんあると思うんですよね。

また経営者こそ、本当はたくさん使っていただきたくて。例えば他社と話をする時に、その会社の統合報告書であるとか有価証券報告書の何年分かをちょっと読んで、そこをばっとサマリーしてもらって、お話しする時の戦略を立てるとか。

いろいろなオフィシャルな場でのアプローチの方法を壁打ちするみたいなことを、誰かにお願いすることなく、ご自身の観点で何度でもトライができるみたいな。すごくインパクトが大きいことができると思うんですよね。

だから特に経営とかマネジメント層とか、これまで誰かにお願いをしなくてはいけなかったものが、今自分が瞬時にできる時短にもなるし、とにかくスピードが担保できるって、すごく楽なことだと思うんですよね。なので、「楽しんでやる」の手前に「楽になる」と。それがシンプルにうれしいって。その循環でいいんじゃないかなって思います。

深津:おっしゃるとおりで、僕がけっこうお薦めしているものとして、ちょっとプログラミングが絡んじゃうんですけど、AIの使い方でチャットと別に、「カレンダーの中に会社名が入っていたら、ミーティングの15分前にその会社名を勝手に調べて、近況サマリーを作ってカレンダーに付け足しておいて」とかの処理をお薦めしていて。

金井:あ、すごくいい。

深津:それを業務でできると、ミーティングに出る人はみんな客先の雑談から話に入れるようになったりするので、そういうのはすごくお薦めです。

金井:それは超ハッピーです。

朝比奈:確かに。

金井:いいですね。

朝比奈:本当にその手の営業支援ツールはたくさん作っていて、「今このお客さまは、このへんのニーズがありそうだよ」とか、そういうのってどんどん作っているんですが、やはりそれで実際に最後に成約するのは、まだまだ営業マンの腕だったりすると思います。そうやって現場を盛り上げていく、そういう楽になるツールだよねっていうことがもっと浸透するといいかなって思います。

好奇心がAI活用を成功に導く

金井:下垣さんも、今回のZoomtopiaは、「仕事をもっと楽しく」というのがコンセプトだと思うんですけど、どうですか?

下垣:今回のZoomtopia自体は、AIうんぬんかんぬんじゃなくて、仕事を楽しく。いわゆるウェルビーイングということを幅広く捉えた中での「Work Happy」だと私は認識していて。なので私も、先ほど例えば控室で新しく入ったマーケティングの人に、「楽しくやっていますか?」ということを聞いたんですけど(笑)、これはAIとは関係ないじゃないですか。

つまり何が大事かって考えると、「自分が楽しいか」ということだと思っていて、まず自分が楽しんでいるかどうか。それはAIは関係なく。「楽しんでいる」ということは何かっていうと、自分が楽しんでいるだけじゃなくて、やはり相手が必要なんだなと思っていて。

ウェルビーイングとかの発想もそうなんですけども、何かをすることによって、自分が良くなるだけじゃなく、会社が良くなるだけじゃなく、誰かに「ありがとう」と言ってもらえる、「助けてもらってありがとう」と言ってもらえるのような環境を増幅させる。

その1つの手段としてAIというのは、すごくホリゾンタルに仕事ができるものなので、非常にいいなと思っていますし、それが「Work Happy」の原点で、自分が楽しく働いて、AIを使って何か楽しいことをやった時に、誰かに「楽しい」と言ってもらえる環境を作るのがすごく大事だなと思っています。

ちょっとネガティブに聞こえるかもしれませんけど、楽しくないこともあって。それは何かと言うと、例えば営業として、担当の営業の人とお客さまに行く前に、先ほどのようにブリーフィングをやるわけですよ。

例えばそこで(打ち合わせの)15分前に(AIから)顧客情報が届くんですけども、その顧客情報が全部ありきたりのもので、こう書いてありますということを説明されると、メチャクチャつまらないんですよ。メチャクチャ、アンハッピーになる。つまり、AIによってアンハッピーになっているんですね。

準備も効率性も上がるし、聞いたことは全部答えられる。何が一番おもしろくないかと言うと、お客さまに訪問する前に、パソコンも携帯もないところで、「このお客さんの~はどうだっけ?」というと、一言も答えられなくなる。

つまり、人間の心の中に入れておかなきゃいけない本当に大切なものがあるんです。先ほどの「大切なものを奪わない」という話がちょっとあったと思うんですけど、それと同じで、情報って答えるためにあるんじゃなくて使うためにあるので、それを上手に使えたら、アンハッピーがある反対側に、すごくハッピーがあるなと思うので。

情報を自分のポケットの中に入れて人間力にするっていうようなことができたら、僕はハッピーになるかなというのが最近のテーマですね。

AI時代を生き抜くリーダーの心得

金井:ありがとうございます。ちょっと未来に向けて、すごくワクワクした話も出てきた中で、ちょっとお時間も迫ってきたところで、ぜひ最後に、これからAIを活用しようと考えている経営者だったりビジネスリーダーのみなさまに向けて、ちょっとメッセージをいただきつつ、クロージングをしていければと思っております。深津さんからぜひお願いできますか。

深津:僕、毎回こういう時に同じことを言うんですけど、「まず触りましょうね」という。本で読んで、記事を見て、部下に「おいお前ら、チームを作って推進しろ」みたいのは、あんまりうまくいかないので。やはり「自分でとりあえずいっぱい触ってみる」「いっぱい聞く」から始める。そこが本当にすべてではないかなと考えています。

金井:ありがとうございます。朝比奈さんもいかがですか?

朝比奈:同じような内容になりますが、やはり「自ら先頭に立って触ってみる、手を突っ込む」だと思います。だって、もう使わないという選択肢はないと思うんですよね。なのであれば、それぞれの場所でのリーダーが、自ら楽しんで、手を突っ込んで、トライをしてみる。そこなのかなって思います。

金井:下垣さんもいかがでしょう?

下垣:そうですね。私も、今日「好奇心」というお話をしたように、やってみることがすごく大事です。ウェルビーイングの3原則「理解して、腹落ちして、やってみる」という意味で言うと、(多くの人が)理解するだけでやってみないんですよね。

なので、やはりワクワクさせるコミュニケーションがあって、初めてやってみる気になるという意味で言うと、AIのような新しい取り組みの分野では、好奇心を持たせるような会話をまず行えることが大事かなと。「じゃあやってみようかな」というふうに腹落ちして、興味を持ってもらうところからまず始められればいいなと、本当に心から思っています。

あともう1つは、今日冒頭にお話しをしたんですが、しばらくAI戦国時代が続くと思うんですよね。戦国時代というのは、つまり例えばよくある話だと、昔はビデオデッキで、ベータとかVHSで(争った時代が)ありましたが、今は(そもそも使われ)なくなったように、形はまったく変わっている可能性があるんです。

(AIが)昔の車のエンジンや(昔)テレビの(中にあった)真空管とかトランジスタみたいな(いつかは別のものに変わる)存在になるかもしれないとなった時に、私がマーケットのみなさんに言いたいのは、「可変な状態を作りましょう。何かを入れてしまったら変えられない状態ではなく、可変な状態を作りながら、コストコントロールができるものを使いましょう」というのを、私はすごく提唱しています。

ZoomのAI Companionは無償で使えるので「まずは試してみたらどうですか?」というのが、私からのメッセージです。

金井:ありがとうございます。みなさん共通して、「まずはやってみよう」というところでコメントをいただきました。みなさん、本当にありがとうございます。

下垣:どうもありがとうございました。

深津:ありがとうございました。

朝比奈:ありがとうございました。

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