2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
提供:株式会社ベルシステム24
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川崎佑治氏(以下、川崎):みなさん、こんにちは。「産業動物のアニマルウェルフェアってなぁに?」と題したウェビナーをお届けいたします。新村先生もよろしくお願いいたします。
新村毅氏(以下、新村):よろしくお願いいたします。
川崎:さっそくですが、アニマルウェルフェアは、グローバルなテーマで「動物福祉」とも訳されており、今日はこの言葉の中身や実態に迫るウェビナーです。
日本人の大半がまだ知らない新潮流を、この1時間のウェビナーで知っていただくことによって、おそらくみなさんにも、「今そういうことが起きてるんだ」とわかっていただけるんじゃないかと思います。
当社はベルシステム24と申しまして、イノベーションとコミュニケーションで社会の豊かさを支える企業です。全国1,300社とのお取引があります。伊藤忠商事のデジタル群戦略の1社で、株主として他にはTOPPANもございます。
具体的なサービスは多岐にわたりますが、全国4万人が、さまざまなサービスを提供しています。そんな「さまざまな」という中に、最近は特に一次産業の畜産といった分野も含まれておりまして。
私自身、いろいろな業界の勉強をしていく中で、どうやら最近「アニマルウェルフェア」という大きな流れがあるらしいと知るに至りました。今回ファシリテーターを務めます、川崎と申します。ふだんはデジタル分野ですので、新村先生とご縁が結ばれたのは非常にありがたく思っております。
今日は、東京農工大学の教授で、動物福祉学の専門家の新村毅さんにお越しいただいています。よろしくお願いします。
新村:よろしくお願いします。
川崎:先生は『動物福祉学』という本もお書きになっていますが、発刊されたのはいつでしたか?
新村:2022年ですね。
川崎:そこから、みなさんからの反響はいかがでしたか。
新村:ありがたいことに毎年重版になっていますので、けっこういろんな人に見ていただいてるようです。
川崎:じゃあ、この動物福祉学という分野は、まだまだ知られていないんだけれども、今まさにどんどん知られていっている最中だと。
日本の動物福祉学の第一人者、権威でもある新村教授に、今日はとことんお話をうかがいたいなと思っています。私はまったくの素人なんですけれども(笑)。いろいろと至らぬ質問もさせていただきますが、よろしくお願いします。
新村:もちろんです、よろしくお願いします。
川崎:そして、みなさまからもご質問を受け付けておりますので、ZoomのQ&Aで投げていただけましたら、時間の許す限り新村教授におうかがいしたいと思います。今日はちょっとインタラクティブな感じなんですけども、(先生は)こういうスタイルはあまり?
新村:そうですね。対談形式は初めてだと思います。一方通行(の講演形式)で話すことはよくあるんですけども、こういうかたちは初めてです。緊張してますけど、楽しみにしてます(笑)。
川崎:ありがとうございます(笑)。さっそくですが、「動物福祉学、アニマルウェルフェアってそもそも何ですか?」というところから、ひもといていただけますでしょうか。
新村:わかりました。私たちにとって身近な存在である動物との関わり合いですが、やはり日本と世界では意外と感覚が違うことがいくつかあります。例えば、活け造りやイルカのショーは、日本では当たり前のように目にしているものですけれども、海外の方にはけっこう驚かれますし、実際にヨーロッパではほとんど見られなかったりもします。
鶏のケージ飼いは今日の話題にも出てきますが、日本だとだいたい94パーセントぐらいがケージです。でも、それがヨーロッパだと(ケージ飼いが)0パーセントになっていたりします。
ということで、私たちが身近に接している動物に持っている感覚が、一歩日本の外に出た時に、意外と常識じゃなかったりすることがあります。なので、ぜひいろんな人にアニマルウェルフェアを知っていただきたいと思いますし、知っておいて損はないかなと思っております。
新村:「今日はアニマルウェルフェアとは何か」から、世界でどういった状況にあるのかというところを紹介させていただきます。まず、アニマルウェルフェアには大きく2つの考え方があります。1つは動物の権利、「アニマルライツ」と呼ばれる考え方になります。
こちらは、「人が動物を利用するということを許容しない」という考え方・立場になります。ですので動物を食べませんし、ペットも飼わないというのが基本的な立場になるかなと思います。
一方「アニマルウェルフェア」は、基本的に動物の利用を許容します。ですので動物を食べますし、ペットも飼います。
ただ、最終的に殺してしまって食べてしまうから、何をしてもいい、虐待してもいいということではなくて。生きている間は、その動物の生活の質をできるだけ高めてあげましょう、というのがアニマルウェルフェアの基本的な考え方になると思います。
川崎:新村先生、動物の権利としてアニマルライツという考え方もあるんですね。
新村:そうですね。あくまで立場ということなので、特にどっちが上とか下とかではないです。動物の権利、アニマルライツですと、例えばヴィーガンやベジタリアンといった立場の方々。そういった選択肢も十分あり得るということですね。
川崎:一方、アニマルウェルフェアというのは、いわゆる動物を食べたり、利用するということはマルという立場になるんですね。でも、愛護とアニマルウェルフェアはまた違うものなんですか?
新村:そうなんです。基本的には同じだと考えてもらってかまわないんですけれども、微妙に違っていてですね。私たち日本人がよく持っている考え方は動物愛護です。
例えば、手を合わせて「いただきます」というのは動物愛護的な考え方なんですけれども、ここに書かれているとおり、基本的に主語が「人」なんですね。人が動物の命に対して感謝をすると。
アニマルウェルフェアは、主語が「動物」なんですね。動物の立場に立って、動物がどういった状態なのかを考えていくのが、アニマルウェルフェアになります。
川崎:これは微妙なことなんですけれども、先生がお書きになってらっしゃる本は『動物福祉学』。アニマルウェルフェア自体には「学」とはついてないんですね。この違いは何でしょう?
新村:もうアニマルウェルフェアは基本的な考え方になっていて、海外の科学の世界になると、「アニマルウェルフェア・サイエンス」と言われるんですね。行動学や動物心理学といった科学を使うことで、動物の状態が何点なんだろうというところを測定していくので。
川崎:愛護というと、どうしても主観的なものであって、感情の動きを慮る力みたいなことになるとは思うんですが。福祉学というサイエンスの分野になってくると、科学での再現性といった話になってきますか?
新村:そうですね。科学ですので定量性もありますし、おっしゃっていただいたように、科学的な信憑性が高ければぶれにくいので、非常にグローバルスタンダードにもなりやすい性質があるかなと思います。
川崎:わかりました。まずはこういう位置づけなんですね。
新村:アニマルウェルフェアの定義を端的に言うと、「アニマルウェルフェア=動物の状態」と考えていただいていいかなと思います。(スライドに)動物の状態が「快と不快の連続体」と書いてあるんですけれども。
例えば、マイナスの要因としてはストレスですとか。そして、プラスのものは喜びや快楽。そういったプラスのものもしっかり満たしてあげようというものになります。
ですので、例えば1日のストレスがこのぐらいで、喜びがこのぐらいあって、それらの足し算で今日の動物の状態が40点だったとします。そうすると、その40点がアニマルウェルフェアそのものだといった考え方になるかなと思います。
川崎:ということは、動物のストレス状態なんかも計測していくということですか。
新村:そうですね。ストレスホルモンといったものも測定しながら、総合的に何点かを導いていくところになりますね。
そうした動物の状態を、5つに切り分けてまずは考えてみようという、「5つの自由」という考え方があります。例えば「餌をしっかりあげましょう」とか「痛みをなくしましょう」とか。
4番目の青色のところに「正常行動発現の自由」と書いてあるんですけれども、「動物が持っている正常行動をしっかり発現させていきましょう」と。こういった5つの項目を満たすことによって、アニマルウェルフェアが向上できるだろうという考え方になります。
新村:今申し上げた「正常行動発現の自由」について、もう少し詳しく紹介したいんですけれども。実際に動物がしゃべったり、心の中を見ることができるのかという話なんですけども、「できます」と。
川崎:えっ、できるんですか?
新村:そうですね(笑)。動物行動学や動物心理学といった学問分野によって、動物の心の中を探っていくことができます。
川崎:ただ、ちょっと難しいなと思うのが、人間だとインタビューベースでこれが叶うと思うんですけれども、鶏にマイク向けてもなんというか……「クックドゥドゥルドゥ」しかないわけですよね。
新村:(笑)。はい。
川崎:これはいったいどういうことなんでしょうか。
新村:例えば、ここに動物行動学・心理学の代表的な行動テストをちょっと持ってきたんですけれども。
川崎:今映っているのが、テストされているところなんですか?
新村:そうです。どういうものかといいますと、透明なペット用の扉を鶏がよいしょと持ち上げて、左側に進んでいこうとしている写真なんですけれども。
例えば、24時間空腹にした状態の鶏を右側に置いて、左側に餌を置きますと、やはり鶏は餌が食べたいので、よいしょと扉を持ち上げて左側に進んでいきます。扉の重さをどんどん重くしていけば、その欲求がどれだけ強いのかがわかってくると。
川崎:「重たくても食べに行きたい」のか「こんなに重たいんだったらいいや」なのかという測り方。
新村:そうなんです。次に満腹な状態にした鶏を右側に置いて、左側に止まり木を置いたとすると、鶏はやはりその止まり木に止まりたいので、扉をよいしょと持ち上げて左側に向かっていくわけですね。
川崎:「止まり木に止まりたい」という欲求があるから、向かっていきたくなるんですね。
新村:例えば、先ほどの24時間空腹にして「餌を食べたい」という欲求が100点満点だったとすると、満腹な状態で「止まり木に止まりたい」という欲求は75点ぐらい。そういうことがこの研究でわかっていたりするんですね。
川崎:75点ということは、(扉の重さが)80点になるともう諦めてしまう。でも、50点~60点だと止まり木に行きたい。そんなふうに欲求の度合いを測る。
新村:そうですね。24時間空腹な状態が100点で、止まり木が75点ですので。
川崎:まあまあ高いということですね。
新村:そう、鶏にとってその欲求がけっこう強いことが、こうした研究でわかってきます。鶏の場合ですと、大きくは「止まり木に止まりたい」「巣箱で卵を生みたい」、それから「砂浴びをしたい」という欲求が、非常に強く内在されていることがわかっています。
そういった研究を基にしますと、鶏の従来型ケージは、世界的に見てもどうしても批判の的になってしまいます。やはり、鶏が強く持っている行動欲求が満たされるような、止まり木や巣箱がない環境であることがその理由です。
川崎:この従来型ケージは、世界的にはちょっと批判の対象になってるんですか。
新村:そうですね。畜産分野のアニマルウェルフェアの課題は非常にたくさんあるんですけれども。その中でもたぶん一番批判の的になっているのが、鶏の従来型ケージかなと思います。
そういったこともあって、やはり正常行動発現の自由が満たされるような環境の提示として、鶏だとケージフリー、豚だとストールフリーですとか。あくまでもEUにおけるものなんですけれども、けっこうトレンドになっています。
新村:次に世界的な動向として、実はアニマルウェルフェアはもう世界基準が出来上がっております。日本も含めて93パーセントの国と地域が加盟している国際機関のWOAH(World Organisation for Animal Health)が、各家畜の世界基準を作っています。ですので、やはりなんらかの対応が迫られます。
川崎:日本もこのWOAHに加盟しているんですね。
新村:そうなんです。なので、やはり世界基準ができたら「じゃあ日本どうするの?」という話になってしまうということです。中身はと言いますと、例えば「餌をしっかりあげましょう」「新鮮なお水をあげましょう」というところもいろいろ書かれているんですけれども。
例えば、「砂浴びのエリアをしっかり提供しましょう」ということも、やはり推奨事項として挙げられるのが世界基準の1つになります。ヨーロッパでは、実はアニマルウェルフェアは法律になっています。
先ほど申し上げた鶏のバタリーケージは、もう10年以上前に法律で禁止になっています。商業ベースで見ると、バタリーケージで飼われている鶏はもう0パーセントになってしまう。
法律ですので、守らなければ罰金や禁固刑があります。かなり強い拘束力をもって、ヨーロッパはアニマルウェルフェアを進めていることがわかるかなと思います。
川崎:ヨーロッパでアニマルウェルフェアがかなり以前から推進されてきたのは、なにか文化的な背景があるんでしょうか。
新村:1つは歴史をひもといてみると、実は動物虐待の歴史が非常に激しいのがヨーロッパということがあります。
川崎:なんだか意外ですね。ヨーロッパって動物に優しくあろうとしてるようなイメージがあったんですが。
新村:やはりキリスト教からきてるので。神が動物を作り、人間に動物を支配する権利を与えたというところで、「人が動物に対して何をしてもいい」というような虐待の歴史は、大昔にはけっこう色濃くありました。
その反動があったことと、しかも功利主義で「もっと良いことをやっていこう」ということで、アニマルウェルフェアがかなり出てきたところがあります。
川崎:昔は目をそらしたくなるような状況があったということなんですか。
新村:そうですね。その反省とヨーロッパの功利主義的なもの。宗教と主義なものが相まって今、アニマルウェルフェアがヨーロッパでかなり推進されていってるんじゃないかなと思いますね。
川崎:そういう背景があるんですね。日本的な感覚なのかどうなのかということもあるんですけれども。それこそ動物に神さまの要素を重ねたり。あるいは、(動物にも)魂がある前提でその魂を鎮めるといった鎮魂のカルチャーは、ヨーロッパとかなり違ってますか?
新村:根底にある動物への配慮は共通していると思うんですけれども。逆に日本は動物の虐待の歴史がほとんどないし、先ほどおっしゃっていただいたような神道・仏教のところから、かなり長い動物への配慮の歴史、愛護の歴史があります。
有名な生類憐みの令ですとか、「人が動物に対してちゃんと配慮しましょう」という歴史はかなり長いです。動物への配慮のポテンシャルは、非常に高いんじゃないかなと思っています。
川崎:ある種、法というよりももっと下層。日々の生活・倫理観・道徳観の中で大切にするというカルチャーのポテンシャルは高い。
新村:そうですね。たぶん根底にかなりの人が思いやりの心みたいなものは持っていて。「動物の状態はどうなのか」というところまで、今はまだできていない。なので次のステップとして、アニマルウェルフェアに向かうポテンシャルはすごく高いんじゃないかなと思います。
川崎:もともと反動が起こるほどひどい状態もなかったので……(笑)。
新村:おっしゃるとおりです(笑)。
川崎:強くそこにいくという、逆のバネがないわけですね。EUの歴史的な流れというのはぜんぜん知りませんでした。
新村:ヨーロッパはバタリーケージを禁止していて、このエンリッチドケージは止まり木などを敷設したようなケージです。さらにケージフリーは、日本で言う平飼いです。エイビアリーというのはマンション構造で、2階にも3階にも跳び上がっていけるような放し飼いのシステム。
放牧はさらに野外・運動場。太陽光を浴びられるような飼い方です。まとめてケージフリーが、おおよそ半分半分ぐらいで移行したという状況になっています。
川崎:今、バタリーケージがヨーロッパでは禁止になって、みんながみんな放牧になっているということではないんですか?
新村:そうですね。今おおむね4割ぐらいがエンリッチドケージで、いわゆる全部まとめてケージフリーということにしますと、6割ぐらいですね。
川崎:なるほど。ケージフリーと一口に言っても、ちょっと方式はあるわけですね。
新村:いろんな方式がありますね。放牧もそんなに多くはなくて、平飼いやエイビアリーが一番多いです。
川崎:平飼いと放牧って違うんですね。
新村:そうですね。野外運動場があるかどうか。自然環境にさらされるか・さらされないかの違いですね。
川崎:この(ケージの)在り方もけっこう多様なんですね。
新村:そうですね。多様な飼い方があるんですけれども、やはりケージにはケージのいいところがあるし、ケージフリーにはケージフリーのいいところがあります。
川崎:え? 先生、放牧最強説みたいなことをイメージしてたんですが。
新村:(笑)。確かにそうですね。
川崎:私のイメージの中では、放牧されたみたいな感じで、モクモクっと夢の中で描いていたんですけれども(笑)。スライドを見ると、放牧でもちろん青が付いています。青が良くて赤が良くないんですよね。
新村:はい、青がいいですね。赤はリスキーです。
川崎:従来型ケージでも、けっこう青があるんですね。
新村:そうなんですよ。やはりいいところもあって、例えば「不快からの自由」。空気環境を見てみますと、ケージはかなり温度コントロールができていて粉じんが少ない。
ケージフリーは砂浴び場があるので、どうしても粉じんが舞い上がってしまいますし、そこでフンもしますので、アンモニアの濃度が高くなってしまうリスクもありますね。
川崎:僕も大好きなんですけど、例えば卵かけご飯(TKG)がありますよね。卵かけご飯のためのタレとかも出るぐらい、日本にはカルチャーがあると思うんです。極めて高い衛生観念や、高度な管理をされていると聞いたことがあるんですけど。それとこの飼い方はリンクしてくる話なんですか?
新村:まさに今言った空気環境ですとか。やはりケージはかなり精密に飼いやすいところがありますので、安全安心な卵を量産することができます。そういった生産のやりやすさと、日本は卵を食べている量が世界第2位ぐらいですので。
川崎:そんなに食べている国民なんですね。
新村:そうですね。なおかつ、日本の生産者のすばらしいところは、非常に洗練されたケージの飼い方で、卵もたくさん取れるんだけど、もちろん安全で安心な品質の高い卵を安価に作って消費者に届けているところです。そういった飼い方にリンクしてくるところの1つはケージかなと思いますね。
川崎:例えば、僕らのおじいちゃん世代なんかが、ちょっと伏せっている時に生卵が出てくると、「ああ、もう自分は死ぬんだ」と(笑)。こんなに栄養のある貴重なものが出てくるくらい、自分はヤバいんだみたいな。
今となってはそういう笑い話がありますが、卵は今では非常に安価かつ、いろいろな人の口に届く、重要なタンパク源になっていると思います。こういう飼い方のスタイルは、やはり「経済性」ともかなりリンクしちゃうんですか?
新村:例えば高度な福祉を実現するのがケージフリーだとした場合に、1つの空間で放し飼いにするんですけども、行動の自由がある分、どうしても活動量がすごく高くなってしまう。
同じ餌を食べても、出てくる卵の量はケージフリーのほうが減ってしまいます。卵がたくさん取れないので、どうしてもケージフリーの卵は高くなってしまうというデメリットはあるかなと思います。
どのぐらい高いかというところで、ヨーロッパのデータとしては、ケージの値段が1パック100円ぐらいだったとすると、平飼いの卵の価格は1パックだいたい113円ぐらいの価格差になっています。
もちろん管理の洗練というところはあるんですけれども、日本ですと1パック100円だったケージの卵が、今度は2倍ぐらいになってしまう。そのあたりが、どうしてもケージフリーに移行する時に、避けられないことかなとは思いますね。
川崎:やはり小売の価格にも、そこが反映しちゃうということなんですね。
新村:そうですね。
川崎:これ、すごくちゃぶ台を返すような話で、もしかしたらすみませんということなんですけれども。最後は屠畜(とちく)してしまうと思うんですね。卵以外で鶏肉という意味でもそうですし、他の動物もそうだと思うんですが。
最後は屠畜してしまうけれども、すごくリッチにするというのは逆に、ある種ちょっと偽善的な罪悪感みたいなものを感じるようにも思うんですが。そのあたりは率直に、先生はどうお感じになりますか?
新村:多様な考え方があっていいと思うんですね。例えばそういう考え方で、普通のケージの卵を買うのも、選択肢としてぜんぜんありかなと思っています。
アニマルウェルフェアが、なぜ今こんなに潮流になっているかと申しますと、やはり科学によって、私たちが感じる苦しみ、あるいは喜び、共感の心みたいなものがかなりの動物に(あることがわかってきました)。鶏にもそういった苦しみを感じたり、共感したりする能力があります。
そういった動物に対して、私たちも何か配慮しなきゃいけないんじゃないか。そういったところにどれだけコミットできるか、例えば(アニマルウェルフェアな商品を)買えるかどうかというところが関わっているのかなと思います。
川崎:確かに、今までわからなかったことがわかってきて「そういうことなんだ」と理解が増えていく。それに応じて、我々が変わっていくのかどうかという選択肢が生まれる。これもまた一方で、極めて人間らしい営みなのかなという気もしますよね。
新村:そうですね。いろんな選択肢があるということで、いろんな方向性があっていいのかなとは思いますね。
川崎:アニマルウェルフェアの現実の1つとして、学問だからとことん突き詰めていけばいいということではなく、やはり実体経済とどうリンクしていくかというのもテーマなんですか?
新村:やはり福祉と生産性には、かなりネガティブな関連性があります。ただ一方で、産業動物は産業のために育種改良されてきた動物ですので、そこの兼ね合いをどのポイントに持っていくのかは、議論すべき点かなと思いますね。
川崎:だからゼロイチではなくて、先ほどの買い方のようにバリエーションがあって、いい点も悪い点もあるから、具体的な議論に進んでいくためには、もうちょっと科学的に中身に入っていかないと、ということなんですね。
新村:(家畜の幸福度を)何点上げたらどれくらいのお金がかかっちゃうかという。それに対して消費者のニーズがどれくらいあるか、需要と供給のバランスを考えてみる。おっしゃるとおり、何パーセントから何パーセントまでいくのかというゼロイチではなくて、バランスを考えていくのは非常に大事かなと思います。
川崎:「放牧」というシールが付いていたら、オールオッケーなのかなと思っていた自分が浅はかでした。
新村:(笑)。
川崎:あくまで動物の状態を見ていこうということですね。
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