2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
提供:株式会社リクルート
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竹迫良範氏(以下、竹迫):それでは最後に「産学連携の取り組み」、あと梅谷さんの産学連携に取り組む想いについて聞きたいと思います。
大阪大学の在籍時代からいろいろな企業と共同研究に取り組んだと思いますが、そのあたりから今リクルートでやろうとしている産学連携のあり方とか、今後は大学と企業の関係性がどうなったほうがいいとか、そういったところもあらためてお聞かせいただけないでしょうか?
梅谷俊治氏(以下、梅谷):はい、ありがとうございます。僕自身が産学連携をやっていてやはり一番初めに感じたのは、まず数理最適化のエキスパートが企業には本当に少ない、なかなか普及しないよねっていうことは、もう常々ずっと感じていました。
だから僕自身は共同研究っていうよりも、企業の中で数理最適化のエキスパートをいかに増やすかということにわりと腐心していました。実は大阪大学にいた時の最後の数年、そんな感じでしたね。
そういうことを考えると、共同研究でなにかプロジェクトをやるっていうよりも、いかに教育するかということに心を砕いていた気がしますし、それはやはり今でも変わりません。そういう機会をどれだけ増やすかっていうことかなと。
もうちょっと言うと、それは数理最適化だけに限らなくて、今例えばこの会に参加していただいている多くの方もそうなんですけど。たぶんみなさん、今勉強する機会にすごく飢えていると思うんですよね。
企業にいると、勉強してスキル、専門知識を身につける機会や時間がなかなかないと。そういうのを企業の中で、例えば研修の枠組みとしてうまく取り入れると。
ただ、そうすると誰が教えるのかという話になるわけなんですよね。だからそうした時に、大学側の、例えば大学教員が企業に行って専門知識を教えると。そういうことでうまく協力するという、しかも長期にわたってやるっていう、そういう体制を作れればいいなと僕はすごく思っています。
あともう1つ、大学側の問題もあるんですよ。みなさんご存じのとおり、18歳人口はどんどん今減っているわけです。だから大学としては、教育はメインなわけなんですけれども、市場としてはどんどん縮小しているっていうのが実際のところです。だから大学の人間としても、ここから先も生き延びるために、やはり市場拡大しなきゃいけないと。
そのためにはどうすればいいかというと、18歳人口に限らず、より広い範囲で専門教育をやると。僕は今、企業の需要とすごくマッチしているはずだと思っているんですよね。だからそこを、まさにリクルートってマッチングの会社なので(笑)、それができる、そういう機会に携われたらいいな、ということを今都度都度思っています。
そうは言っても、まずはリクルート社内でそれを実現するところからかな、と思っています。長くなりました(笑)。
竹迫:ありがとうございます。非常にためになる話でした。確かに今、東京大学もメタバース工学部というのを立ち上げられて、まさに社会人がリスキリングの目的で、最先端のAIを学べたり5Gの技術を学べたり、そういったものをけっこう社会人向けに、オンラインで講義を提供したりとかしていて、今あれを数千人ぐらい受講されていると聞いていて。
あとは、文部科学省の枠組みだと、そういったものは大学の定員とは関係なく実は提供できたりするみたいで、そういった意味で、まさにこういった社会人向けのリスキリングの教育って、おっしゃるとおりすごく今後需要があるんじゃないかなと私も思っています。
梅谷:そうなんですよ。あと1つ、ポイントとしては、コースワークにしないということですかね。例えば大学とかだと、今MBAとか社会人博士とかがあるんですけど、あれはやはり社会人にメチャクチャ重いんですよね。
だからその時々で、例えば学びたい科目があるとか、そういうふうにいかに高いハードルを低くするかは、わりと大事かなとは思っていますね。そこらへん、制度設計というかシステムの設計がわりと大事かなとは思っています。
竹迫:そうですね。学位を授与するってなると、ちゃんと授業を受けているかとか、確認とかテストとか、宿題もちゃんとやってこいみたいな感じになりますけど、おっしゃるとおり、いろいろな分野の話が聞けるとか、そういうのができるようになると、またそれはまたそれでつまみ食いができるというか、カジュアルにどんどん参加していくようになるので、裾野も広がるような感じがしてきますね。
梅谷:そうなんです。だから聴講制度とかそういうのってわりと大事だと思うんですけれども、大学はあんまりそこに熱意が入っていない。いや、そういうことを言ったらよくないんですけれども(笑)、なかなか難しいところですよねっていう。だからそこらへん、組織としてのKPIがなかなかうまく揃わない、需要と揃わないのは難しいところかな、というのはちょっと感じますね。
竹迫:そうですね。私の出身校は広島市立大学っていうところで、地元の地方の公立大学だったんですけれども、そこは今やはり地域との密着の連携みたいな事例は増やすっていうKPIとか取り組みをしているみたいです。地域の企業の人と一緒にコラボレーションをして課題を解決するとか、そういうのはすごくトップダウンで推進したりとかして、いろいろな人を巻き込んでやっているみたいですね。
梅谷:そういう動きができるといいんですけれども、やはり大学もやるべきことが多くてなかなか大変なんです。僕は特に国立大学にいたもんですから、どうしても研究とかの話がわりと先に来がちかなという。特に産学連携とか共同研究とかビジネスの話が先に来ちゃって、リスキリングとかはわりと後回しになっているな、という。そこはわりと残念かなという気はしていますね。
竹迫:あとは、国立大学と私立の大学で、やはり1人あたりの教員が指導する学生数とか、ぜんぜん違ったりしますよね。
梅谷:それは本当にそうですね。僕自身はずっと国立大学だったので、わりとリッチな環境だったなとは思いますね(笑)。いや、卒論とかはすごくいいトレーニングなんですよね。やはり卒業研究をやるのは大事なんですよね。
だから僕も、共同研究とかそういうノリが多かったような気はしますね。相談を受けて、一緒にやって、最後、学会発表まで一緒にやるみたいな。だからそのことを通じて、企業のメンバーに専門知識とかそういう一連の流れが身につくみたいな、そういうのがいろいろ増やせるといいのかなという気はしますね。
だからプロジェクトそのものが大事かというと、もちろんそれも大事なんですけど、やはりプロセスをこなすことがわりと大事かなという気がしますね。そういうことがもっと増えればいいんですけど(笑)。大学の先生もなかなかみなさん忙しいので、難しいと言えば難しいところですね。
竹迫:例えば大学の先生が、学生ごとに実験のデータを全部個別に用意するのは大変ですけど、例えば梅谷さんがリクルートで携わられたような数理最適化の問題を解くような事例とかデータセットみたいなもの、それを研究室とかに使っていただいて、卒業論文をしてもらうとか、そういう産学連携のあり方ってあるんでしょうか?
梅谷:いや、あると思いますよ。僕自身が今日の事例でご紹介したように、当時共同研究でリクルートの担当者の人に「データを使いたいからよろしく」って言ってお願いしたのが、まさにありますから(笑)。そういうのがね、もうちょっと気軽にできるようになるといいかなという。
あと逆にもうちょっとオープンに出して、コンペティションみたいなのができるといいですよね。例えば機械学習とかだと、「Kaggle」とかああいうのでメチャクチャ盛り上がるわけですよね。だから数理最適化でも同じようにそういうオープンな場でデータを出して、そうすると学生の子とか興味を持った人がわちゃわちゃやると。そういう場が持てるとわりといいのかなという気はしますね。
竹迫:ありがとうございます。今質問が来たんですけれども、「最近研究を始めた私立理系で数理最適化をやっている大学生なのですが、学習の機会をもっと得るにはどのような方策を取るとよいと思いますか?」という質問が来ています。
梅谷:そうですね。数理最適化ということで、今回はconnpassのイベントでやっているわけですけれども、connpassのオンラインイベントは、やはり機械学習とかを含めて、いろいろな機会があると思いますから。
ここ数年、オンラインで勉強できる機会は増えましたね。だからYouTubeもそうですし、わりと質の高いコンテンツは増えているので、学習はしやすくなったなという気はします。僕が学生の頃とはもう段違いですね。僕が学生の頃は本当、機会なんてぜんぜんなかったですから。
竹迫:確かに。私もネットが「テレホーダイ」で普及し始めた1995年ぐらいに、大学に入ったんです。なのでネットで論文がすぐ手に入るとかいう状況ではなくて、やはり大学の図書館とか行って、数学の本とかいろいろと借りて読んで、僕も勉強した口なんですけど。今はすごいですよね。もうメチャクチャ、検索すればいろいろなものが出てくるので。
梅谷:そうなんですよ。だからそういう意味じゃ良くはなったかな。ただ、確かに玉石混交って感じで、やはり質の高いものからそうでないものもあるので、シェルパというか、ガイド役は要るのかもしれないですね。そこはちょっと大事なところかもしれない。
竹迫:そうですね。私も本を単著で1冊仕上げたことがあるんですけど、メチャクチャコストをかけて本1冊って仕上げますよね(笑)。編集にメチャクチャコストがかかっているから品質も高い。でも確かにネットの情報ってね、パラッと出ているものなので、なかなか検証しても違ったりとか、そういうのもけっこうあったりして、そこの差は確かにあるかもしれないですね。
どんなキーワードで検索すればこういうのが出てくるのかっていう、そういう土地勘とかも必要なのかなと思いました。
梅谷:そうですね。そういう検索力はメチャクチャ要りますね。いや、もうそれも研究していると本当にそうで、適切なキーワードを引き当てられるかどうかがサーベイ、いわゆる調査の一番の肝なんですよね(笑)。日々そう感じていますね。
竹迫:あとは、先ほど洋書の『Model Building in Mathematical Programming』という本をご紹介いただきましたけども、質問で「この本の日本語の訳本はかなり古いものしかないと思っています」と。「梅谷先生の周辺や学会周りで翻訳の動きはありませんか?」という、質問が来ています。
梅谷:いや、それに関しては今、訳本ないですね。動きはあるんですかね?というような感じです(笑)。ただいい本なので、がんばって本読み会とかするのはありなんじゃないかなという気がします。僕も3年前ぐらいに有志の方と一緒に、数人ぐらいで本読み会しましたよ。ぜひがんばってください(笑)。すみません。
今、竹迫さんが言っていたように、本を書くのは大変なので、訳本もしかりでして。なかなかそういう時間を取れないのは、本当に難しいですね。いや、なんとかしたいなとは思っているんですけれども。
竹迫:あと、そうですね。「日本ではOR学会ですけど、海外の学会名をもう一度おうかがいしてもよいでしょうか?」っていう質問が来ています。
梅谷:そうですね。これはINFORMSと呼ばれる学会で、これは略称なんですけれども、OR and MSなので、Operations Research and the Management Sciencesとなっています。
だいたい毎年10月ぐらいに「Annual Meeting」があるんですけれども、それにすごく人が集まるんですよね。5,000人以上集まって、パラレルセッションも80ぐらいあるみたいな感じで。
竹迫:80ってすごいですね(笑)。
梅谷:はい、すごいです。メチャクチャいろいろな人が集まって、実務の応用事例も多いですし、チュートリアルとかもあって、すごくおもしろいです。
僕が前回参加したのが、コロナが流行する前の2019年だったんですけれども、その時、先ほど話にあった、リクルートの西村(直樹)さんと一緒に参加したんですけれども。あの時も確かAmazonさんとかUberさんとかがチュートリアルをしていて、すごくおもしろかったんですよ。シアトルだったもので、ついでにAmazonさんの倉庫も見学に行ったりとかして、非常に楽しませてもらった(笑)。
竹迫:すごいですね。アメリカの最先端の事例とかも見られるっていう感じですね。
梅谷:そうですね。本当に向こうは実務応用が盛んで。実務で考えるんだったら、ぜひ機会がある人は参加することをお勧めします。
竹迫:ありがとうございます。もう1つ質問がありますけれども、「数理最適化を専門に仕事をしたい人は、どのような企業に行かれることが多いのでしょうか?」っていう質問です。
梅谷:それに関してなんですけれども、例えばかなり前だと、実はオペレーションズ・リサーチというか数理最適化ってわりと鉄鋼関係と親和性が高くて、鉄鋼会社とかああいう重工系の研究所で所属していた、みたいなことはわりとありました。
ところが最近に関して言うと、わりと受託分析をやっているような会社で働いている方とか、あとはシステム、やはりソリューション系の会社で数理最適化をやっている人が増えているのを感じます。
先ほど物流とかいろいろいくつか話を挙げましたけれども、そういった会社が例えば数理最適化とかそういうソリューション、数理を使った技術を使ったソリューションをやっている部隊を中でなかなか持てるわけじゃないので、そうするとソリューション系の会社が多いというような感じになるかなという気がします。僕自身もわりと大学にいた頃、学生の子にそういう会社を薦めたりとかすることが多かった気がします。
竹迫:ありがとうございます。あと、また学生さんから質問が来ています。「現在大学に在籍している学生です。企業に対して数理最適化の能力を示す方法として、研究以外にありますか?」というご質問です。
梅谷:なるほど。そこはわりと難しいところですけれども、やはりKaggleみたいなコンペティションがわりといいかなとは思いますけれども。ただKaggleは機械学習なんですよね。ただKaggleも、例えば年に1度「サンタコンペ(Santa)」があって、あれ、実は組合せ最適化のコンペティションだったりします。
あとは、実は競技プログラミングがわりと数理最適化に近い問題が多かったりするので、だから今日も社内にアルゴリズムのエキスパートがけっこういますよっていう話をしたと思うんですけれども、あそこらへんもわりと数理最適化に近いので、ありなのかなという気はします。
ただ確かに、数理最適化そのものというドンピシャなのは意外とないというのは、おっしゃるとおりかなという気がします。
だから僕としては、現状では結局数理最適化をやっている人が少ないっていうことに尽きるんですけれども、機械学習とか、例えばアルゴリズム、いわゆる競技プログラミングとかから入って、数理最適化に広げていくっていうルートが、わりと一番いいのかなというのは個人的には思います。
竹迫:ありがとうございます。Kaggleってデータコンペというイメージがありますけど、12月とかのサンタコンペでは、毎年数理最適化の問題が出るコンテストがあるっていうことですね?
梅谷:そうです。あれを楽しみにしている人が、わりと多いみたいで。
竹迫:テーマもおもしろいですよね、なかなか。サンタクロースにちなんだかたちでトナカイが出てきたりとか(笑)。
梅谷:そうそう。だから昔は普通の、いわゆる都市をめぐる巡回セールスマン問題にいろいろな制約が加わったような問題だったんですけど、最近はいろいろバラエティに富んだ問題が出てくるみたいですね。
竹迫:わかりました、ありがとうございます。あと、リクルートでもまさに社員がそういうコンペに毎年出たりとかして、世界大会に出たりとかもしているんですけど。
リクルート独自でも、「日本橋ハーフマラソン」を開催していまして、これは夏とか、今度もやるんですけど、けっこうヒューリスティックのコンテストみたいなものもやったりしていますので、まさにアルゴリズム系とかが好きな人は、そういうところにチャレンジしてみるのも、実力を証明する1つの手段かなと思います。
梅谷:いや、そうですね。僕もわりとふだんの研究がそういうノリに近いので、いいんじゃないかなと思います。
竹迫:わかりました、ありがとうございます。あと、学部生の方から質問です。「今、学部生ですが、大学院で数理最適化を学べる研究室を探しています。梅谷先生のお薦めの研究室を教えてもらえませんか?」っていうご質問です。
梅谷:これを口にすると、いろいろな先生から「いや、なんでうちは挙げてくれないのか」とか怒られそうですけれども(笑)。
そうですね。僕が在籍していた阪大はもちろんですけれども、東大、京大、名大、東工大(2024年10月より東京科学大学)とか、けっこういろいろなところに数理最適化をやっている先生がいますので、それはわりとありです。
今、一番数理最適化をやっている先生が多いので言うと、東工大が一番多いのかもしれないですね。あと、関東だと筑波大学はけっこう知り合いの先生も多くて、あそこも盛んだったりします。
(日本)オペレーションズ・リサーチ学会という名前が先ほどから出ていますけれども、オペレーションズ・リサーチ学会で発表されている先生とかをつぶさにチェックするのが一番早いかなという気はしますね。
竹迫:ありがとうございます。まさに学会とかで発表している研究室のところを並べて、それで見ていくのがいいんですかね?
梅谷:そうですね。例えばオペレーションズ・リサーチ学会だと研究発表会も確かアブストラクト集とかオンラインでも確認できるので、たぶん2、3年分ぐらいチェックすると、だいたい国内で数理最適化をやっている研究室の名前を挙げることができるかなと思います。
竹迫:ありがとうございます。あと、もうしばらくすると東工大が東京科学大学とかに名前が変わっちゃうので、僕らもちょっと気をつけていかないといけないですね。
梅谷:そうですね。あとついでなんですけれども、数理最適化も、例えば機械学習のほうから数理最適化に入る方もいるので、わりと両方の流れがあります。だから機械学習とかだと、今日お話しした連続最適化みたいな話で、機械学習寄りの話で最適化をやりたいっていう人は、機械学習の学会、例えば人工知能学会とかで調べるといいのかなっていう気がします。それで毛色が違ったりするんですよ。
竹迫:わかりました、ありがとうございます。
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