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実務につなげる数理最適化(全3記事)

2024.09.30

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機械学習の先にある“未開拓領域”への挑戦 リクルートが取り組む「数理最適化」の最前線と将来性

提供:株式会社リクルート

データサイエンスの世界では、次なるブレイクスルーを探る企業が増えています。その最前線で注目を集めているのが「数理最適化」です。機械学習や統計解析の先にある未開拓領域として、多くの企業がその可能性に熱い視線を送っています。ここでは、200以上のサービスを展開するリクルートの取り組みを通じて、数理最適化の実務応用と将来性に迫ります。前回の記事はこちら

リクルート入社の経緯

竹迫良範氏(以下、竹迫):パネルディスカッションのテーマに移れればと思います。まず1つ目ですが、梅谷先生は大阪大学でいろいろな研究をされていましたけれども、リクルートに入社された経緯について改めてお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?

梅谷俊治氏(以下、梅谷):はい。まさにそれが今日のメインテーマのような気もしますけれども。ちょうど今から10年前ぐらいのことなんですけれども、その前後ぐらいから、企業の方から「実問題を解きたい」というご相談を受けたり、友人のコンサルタントに「ちょっとこういうので困っているんだけれども」という相談を受ける機会が増えました。

わりと共同研究とか、産学連携というか、そういう機会が増えてきたという感じでした。そうこうしているうちに、先ほど質問にあったオペレーションズ・リサーチ学会に行った時に、リクルートの今のデータ推進室の西村さんが、まさに先ほどのクーポン配信の事例を学会発表されていたんですね。

それを聞いて、メチャクチャ大きい最適化問題を解いていて、非常におもしろいというか実務でメチャクチャ役に立つんじゃないかと思ったのはもちろんのこと、自分だったらどうするだろうということをメチャクチャ考えたわけですよね。西村さんのことは、まぁ実は前から知っていたんですけれども、「自分もこれをやってみたいんで一緒にやらせてください」と言って声をかけたのが実は始まりですね。

そこから共同研究が始まって、実に足掛け5年ぐらいずっとやっていて、今日ご紹介したようないろいろな問題に取り組んだというような感じです。それでそうこうしているうちに、実は僕自身のほうも、大学でふだんの仕事をしていて、さらにそのような産学連携とかをしていると、ちょっと仕事がいっぱいいっぱいになってきて、ここから先自身のキャリアはどうしたらいいものなのかなと思って悩んでいたんですね。

そのタイミングで西村さんに「企業で働くことも少し考えているんですよね」という話をしたら、西村さんがまさに竹迫さんにその話をしたんですね。そしたら竹迫さんが、僕は大阪にいたわけですけれども、その西村さんと2人で次の週に飛んで来てくれました。

いきなりすぐに飛んで来てくれたので、僕はすごくびっくりしたのと同時に感激してしまって、じゃあリクルート入社することを改めてちゃんと考えてみようと思ったのが入社したきっかけという感じになります。

竹迫:そうですね、弾丸旅行で僕は行った記憶がありますけれども、いろいろとホテルの会議室とかで話をして楽しかった思い出がありますね。

梅谷:あの時はメチャクチャ楽しかったですね。

竹迫:特にアカデミアから民間企業だと、たぶんいろいろと不安になられることがあるかもしれないので、リクルートではこういった人事制度がありますとか、そういう紙の資料とかも僕はたくさん印刷して持っていた記憶があります。

梅谷:あれは今もちゃんと置いていますよ。

リクルートでの経験と感想

竹迫:ありがとうございます。では2つ目のテーマに移ろうと思うのですが、「実際にリクルートに入社してみてどうでしょうか?」という質問です。

梅谷:いや、ぶっちゃけて言うとメチャクチャ楽しくやらせていただいています、というのが正直なところですね。やはりおもしろいんですけれども、今いるデータ推進室って研究所じゃないんですよね。どんな感じかというと、プロダクトでビジネスもやるんですけれども、常にその技術を使ってテクノロジーを使ってちゃんとビジネスを回しましょう、という意識がすごくみんなに浸透して、すごくバランスが取れている。そういうところがすごくおもしろいですね。

あとはリクルートについてみなさん知っておられる方は、「よもやま」といういわゆる1 on 1ですね。それがあるんですけれども、もうそこら中でやっていて、いろいろなプロジェクトの話とか、「こういうことをやりたい」「ああいうことをやりたい」みたいな話が行き交っている。

僕自身も、そういうところでいろいろなプロジェクトの話をうかがって、ディスカッションに参加する。そうこうしているうちに、「じゃあこういうことをちょっとお手伝いできるかもしれない」みたいな感じでできると。そういうのが縦横無尽にできるのが、すごく楽しいなと感じていますね。そういうのがやはり一番いい感じですかね。

放っておくと、僕はどんどん仕事を増やしちゃって、今の上長から「いや、あまり増やし過ぎないように」という時々ストップが入るぐらいな感じですね。

竹迫:私もリクルートに入社して9年目ですが、それでもまだ知らないことがたくさんあって。リクルートって『ゼクシィ』とか『じゃらん』とか、そういった別々のブランドのサービスが200以上あって、なので新しい発見が日々あるという感じですね。

梅谷:この間ちょっとお話しした時も竹迫さんに「こういう話があるんですよ」という話をしたら「知らなかった」とおっしゃっていましたもんね。

竹迫:そうなんですよ。まだまだ僕も会社の中で知らないことがたくさんあるので、本当にスルメを噛んで何度もおいしい、みたいな感じの経験を今でもしています。

梅谷:そうですね。

竹迫:逆に一言でパッと答えられないというのが、リクルートの伝えにくいもどかしさだったりとかするんですよね。

梅谷:そうですね、それはあります。僕みたいに、特に数理最適化みたいなことをやっている人間にはありがたくて、それはなぜかというと、単一の事業だとどうしても僕自身が出ていける、その時期によって貢献できる場面が限られたりすることもあるんですね。ところがリクルートは、今言われたようにこれだけのプロダクトがあるものですから、がんばれば、どこかで何かあるんですよね。そこがありがたいな、というのがやはり1つの大きなところですね。

数理最適化の活用と課題発掘

竹迫:ありがとうございます。今、チャットで質問が来ているんですけれども。「現場の方、営業の方などから自然発生的に『これは最適化問題になるのでは?』といったかたちで梅谷さんに相談が集まるように、工夫して取り組んでいることはありますか?」という質問が来ています。

梅谷:実はこれ今取り組み中だったりするんですけれども、なかなか難しい。その1つが新人研修なんですよね。だから新人のみなさんに「最適化はおもしろいよ」と言っておくと、それぞれみなさんのところの部署に散らばった時に、数理最適化が使えそうだということで口に出してくれる。そういうのを期待しているのは、1つありますね。

それ以外のところではなかなか……。ただ社内で、数理最適化はこういうことに使えますと、今日お話しているような話をもっといろいろな場面で話をしていく機会を増やしたいな、というふうには思っています。そこらへんは、ちょっと工夫しなきゃなというところでもありますね。

竹迫:ありがとうございます。でも現場の人が気づくには、やはり数理最適化というか最適化問題は、こういう形式でこれは解けるかもみたいな、たぶんそういった肌感覚を持っていると、相談が今後いっぱい来る、という感じですよね。

梅谷:そうですね。あと1つ僕がやりたいのは、やはり社内のわりと大きなプロダクトに数理最適化で貢献する、というのはちょっとやりたいなとは思っていますね。やはり1つヒットを出すのが大事かなと(笑)。

竹迫:わかりました、ありがとうございます。あともう1つ質問が来ています。「今大学院で機械学習と数理最適化を研究していました。実務では統計と機械学習しかやっていないのですが、数理最適化領域では、リクルートのキャリア採用によってディスアドバンテージになりますか?」という質問が来ています。

梅谷:そんなことないと思いますよ。というか、実際にはリクルートの中にデータ推進室という名前があるように、まずはデータありきなんですよ。だから統計と機械学習が一定の水準でできるのが大前提で、だから数理最適化しかしない僕みたいなのは、かなり特殊だと思っていただいたほうがいいかなと思います。

だから、そのすでに身につけている統計、機械学習の上に、数理最適化ができるとなお良し、くらいに思ってもらえればいいんじゃないですかね。僕も実際にそういう感じで布教しています。機械学習ができる人が数理最適化もさらにできると、個人としても組織としても差別化できると。そこが狙い目なんじゃないかなと思って、布教していますね。

竹迫:そうですね。あとは統計も実務でやっている場合は、検定とか、有意差とか、あとはA/Bテストみたいな考え方も普通に出てきます。あとはプロジェクトもやはり自分で計画を立てて、それを進めていくという、そういう研究自体の力みたいなものとかも、ものすごく汎用性があって役に立ちますね。私もそんな感じがしています。

梅谷:そうですよね。実際にデータ推進室のメンバーはみなさんいろいろ日々お付き合いしていますけど、そういうタイプの人が非常に多いですね。今言ったように、機械学習とか統計ができた上に、数理最適化もできるというメンバーがかなり多い感じの印象です。

竹迫:何か研究を進める力があれば、たぶん仕事も進めることができるんじゃないかなと私は思っているので、ぜんぜんこれはディスアドバンテージではないのかなと思いました。

梅谷:はい。

竹迫:ありがとうございます。また質問が来ていますので、質問しますね。「社内で数理最適化を積極的に活用していくためには、何よりも課題を発掘することが重要だと考えています。ご講演の中でも最適化の適用範囲は想像力次第とのご指摘がありましたが、数理最適化に明るくない社内のいろいろな人に、こんなところにも使えそうだというイメージを持っていただくためには、どのような活動を行えば良いでしょうか?」というご質問です。

梅谷:これがなかなか、今僕自身がわりと苦労しているところではあるんですけれども、やはりまずいろいろな応用事例を見せるのが、わりと大事なところかなと思います。僕自身がふだんの講演でも意識しているんですけれども、単一の狭い範囲の分野、事業分野に限らず、いろいろな事業分野の例を示す。その幅広さを示すのが、わりと大事かなとは思っています。

今日は紹介しなかったんですけれども、例えば翻訳に実は最適化が使えますよという話もしたりしますし、そういうバラエティの広さを示すのが、都度僕がいつも意識してやっていることです。

竹迫:ありがとうございます。逆に、このメチャクチャできる人という意味で質問が来ているんですけど、「リクルート社内で数理最適化のレベル2、レベル3相当の方はいますか?」という質問が来ています。

梅谷:社内ですか。レベル2の人はメチャクチャいますよ。けっこういます。僕の周りでふだんやりとりしている人の中にもけっこういますね。というか、わりと放っておいてもやってくれる感じなんですよ。共同研究をやっている時にわりと(いろいろな人が)相談に来るんですけれども、その時に、やけに難しい相談案件ばかり来るんですよ。

それで聞いたんですよ。「なんでそんなに面倒くさい案件ばかりしかないんですか?」と聞いたら、「いや、自分たちでできるものはもう片付けちゃっているんです」というような感じで、なのでレベル2の人についてはかなりいるというのが、実際のところです。レベル3については、数理最適化はわからないんですけれども、アルゴリズムというところまで広げると、例えばうちの社内だと競技プログラミングをやっている方がかなり多くて、その中でもすごくハイレベルな方もいるんですね。

だからそういう人は、実際には数理最適化からちょっとずれるかもしれないですけれども、アルゴリズムという意味でいうと、もうレベル3に相当するような人ですよね。だからわりと近い分野というか、数理最適化にかなり近いところでは、レベル3の方もけっこうチラホラいるのが実際のところかと思います。

数理最適化人材の需要と将来性

竹迫:ありがとうございます。まだ、質問がけっこうたくさん来ていますので、このまま質問を続けます。「今年からデータサイエンティストとして勤務しており、研究分野も数理最適化だったため、数理最適化に特化したデータサイエンティストになろうと考えています。将来的に数理最適化の需要はどうなると思いますか?」という質問です。

梅谷:これは僕は、ちょっとポジショントークが入っちゃうと思われそうなんですけれども、確実に増えると思います。やはり、機械学習で分析が終わったそのあとが、わりとピックアップされるようになってきているんですよね。出口がほしい、出口感を求めている方がメチャクチャ増えているなというのは実感します。

先ほど話にあった、オペレーションズ・リサーチ学会ですが、実はここ最近、企業から参加する方がメチャクチャ多くて、「数理最適化ができる学生さんはいませんか?」みたいな感じでわりと聞かれるようになったんですね。ところが一方で数理最適化ができるエキスパートになれる方って、ものすごく少ないんですよ。

なので伸びるというか、人材が足りないがゆえに伸びづらくなっているぐらいですね。需要はメチャクチャあります。だからそれに対して、それに応えられる人材をどれだけ育成するかが、今ものすごく課題というような状況です。

推薦システムの評価プロセス

竹迫:ありがとうございます。まだ質問があるので、ちょっと梅谷さんにお聞きしようと思います。「検討した最適化手法の評価プロセスについてお尋ねしたいです。例えば推薦システムの応用事例をご紹介いただきましたが、従来の推薦システムのようにオフライン評価・オンライン評価とチューニングを繰り返していくかたちになるのでしょうか」という質問です。

梅谷:そこですね。実はここらへんの話は、僕自身は最適化のところだけをやっているので、最終的にシステムに載せるところはプロダクトの担当者がやっているんですね。ただ、実際に話を聞いていると、そんな感じでまさにオフライン評価をやって、というような感じでやっているという話は聞いています。ちょっとあまり詳しくなくてすみません。

竹迫:ここの推薦の基盤のシステムを作っていたり。そういったものも作ったりしているという感じですよね。

梅谷:そうですね。重要なのが、やはりオンライン評価ってなかなかそんなにしょっちゅうできるわけではないので、オフライン評価の精度をどれだけ上げるかがやはり肝になるらしく、そこで前段の機械学習がどれだけしっかりできるかが大事になってくる。

ここのところの、例えばKPIとか、要するにモデルの設計がちゃんとできていない。そうすると結局、最適化問題がうまく解けたとしても、ぜんぜん結果が伴わないというのは、やはりよくあることで。なのでわりと社内だと、最適化問題はがんばれば解けるみたいな雰囲気は感じますね。

数理最適化ソルバーの選択と使用

竹迫:ありがとうございます。続いてソルバーに関して質問が来ています。「商用の数理最適化ソルバーは高価だと思うんですが、実務でヒューリスティックスを作られることは多いのでしょうか? それともソルバーを買って使われることが多いのでしょうか?」というご質問です。

梅谷:それに関しては、実は僕はそうなんですよ。大学から企業に移ったばかりなので、ここはなかなかしゃべりづらいところではあるんですけれども。大学に行った時は、実は商用のソルバーも安く使えたんです。今企業に来てどうかというと、最近無償のソルバーもけっこう動くようになってきました。

実際は、確かに商用はいわゆる有償のソルバーのほうが性能が断然いいのは、それはそうなんですけれども、問題がそこまで難しくなければ、無償のソルバーでもわりと動きます。どれくらいの肌感覚かというと、たぶん有償の最先端のやつの10年遅れぐらいですかね。だから今2012年、2015年ぐらいの最先端のその商用ソルバーぐらいの性能のものが無償でも使える、ぐらいな感覚かなと僕は捉えています。だから今は、無償のものでもそんなに悪くはないですよ。

竹迫:ありがとうございます。

(次回へつづく)

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