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DXで日本の畜産の未来は明るいか⁉(全2記事)

2024.06.28

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近い将来、牛や豚が食べられなくなる可能性がある? コンサル出身者が挑む、畜産のデータ化による生産性向上

提供:株式会社ベルシステム24

株式会社ベルシステム24が開催する、各業界のイノベーターをゲストに迎えてトークを行う「イノベーターズラウンジ」シリーズ。今回は「畜産DX」をテーマに、牛の起立困難予防声かけAIサービス「BUJIDAS」と、クラウド型養豚経営支援システム「Porker」の開発に携わった各担当者が登壇。近い将来、「タンパク質危機」によって牛や豚が食べられなくなる可能性があるという危機的な状況の中、畜産業界が抱える課題にどう取り組むのか。実際の施策や成果について明かしました。

2名のイノベーターが語る、DX×畜産の未来

川崎佑治氏(以下、川崎):みなさん、こんにちは。本日は「DXで日本の畜産の未来は明るいか⁉」と題して、お届けしてまいります。ベルシステム24がお届けする「イノベーターズラウンジ」、今回はお二方のイノベーターにお越しいただいてお話をうかがいます。赤野間さん、荒深さん……よろしくお願いします。

赤野間信行氏(以下、赤野間):よろしくお願いします。

荒深慎介氏(以下、荒深):よろしくお願いします。

川崎:すみません、しょっぱなから緑が目に飛び込んで噛んでしまいました(笑)。

(一同笑)

川崎:なぜ緑なのかも含めて、後ほどお話をうかがおうと思っております。当社ベルシステム24は「イノベーションとコミュニケーションで社会の豊かさを支える」をパーパスにしている会社でございます。とはいえ畜産のテーマでDXというのは、けっこう珍しいテーマです。

当社は国内で1,300社以上の企業とお取引がございまして、伊藤忠のデジタル戦略群の中の1社、BPOパートナーでございます。大きな株主としては、TOPPANなんかも含まれております。絵に描いた餅にならず、ちゃんと餅まで作って食べちゃうところまでやるような、伴走型の会社と言いますか、いろんな企業さまとお取引させていただいております。

牛の命を救うプロダクト「BUJIDAS」をローンチ

川崎:私は、ベルシステム24でデジタル&クリエイティブの局長を務めます、川崎と申します。今日は、お二人のお話を余すところなく引き出そうということで、お二人のイノベーターのご紹介でございます。

まずお一人目、赤野間さん。NTTテクノクロス株式会社、IOWNデジタルツインプラットフォーム事業部第二ビジネスユニットのマネージャーの方……というよりも、この写真のインパクトですよね(笑)。語り合ってますね。

赤野間:語り合ってますね。

川崎:完全に牛と語り合うスタイルで。

赤野間:完全に入ってますね。

川崎:距離が近いなんてもんじゃないですよね。

赤野間:ここ(目の前)にいますもんね。

川崎:そうですよね(笑)。2006年、NTTテクノクロスの前身となる、NTTソフトウェアにご入社されました。2015年ですから、もう9年ほどになられますかね。

赤野間:そうですね、9年になります。

川崎:牛のモニタリングシステム、いわゆるIoTの走りだと思いますが、牛の状態がわかるテクノロジーの開発をずっとされてきました。

後ほどご紹介いただきたいんですが、2024年にはプロダクトオーナーとして「BUJIDAS」という、画期的なAIテクノロジーを用いて、牛の命を救うプロダクトもローンチされたばかりの赤野間さんです。

アナログベースな畜産業界

川崎:もう一方のご紹介です。牛の次はなんと豚なんですが(笑)。荒深さんは株式会社Eco-Porkの取締役で共同創業者です。

もともとはコンサルティングファームにおられたんですが、今回のウェビナーのテーマでもある食の安全保障の問題で、養豚農家さんを助けるサービスを展開なさっています。先月の養豚農家さん内でのシェアが10……?

荒深:12パーセントですね。

川崎:12パーセントに。そうですか。

荒深:なので、スーパーで売られている豚肉は、たぶん10個に1個が我々が支援させていただいてる農場さんのお肉になっているかなと思います。

川崎:もう、そういう状態になってらっしゃるということでございます。一見、畜産とDXはかなり遠いイメージがあるんですが、お二方はまさにその業界でデジタルの力を信じておられるということで、今日はざっくばらんにいろいろとお話をうかがってみたいと思います。

最近一押しのプロダクトもこのあとすぐおうかがいしたいと思うんですが、一番最初に思うのは、牛も豚も肥育牛とかも……この言い方は見てる方もちょっとアレかなと思うんですが、言葉を選ばずに言うと「すごくアナログベースな産業じゃないかな?」というイメージがどうしてもあるんです。実際のところはどうですか?

赤野間:もう、間違いなくアナログですよね。

荒深:アナログですね、はい。

川崎:ばっちりアナログ。

赤野間:ばっちりアナログです。

川崎:そうですよね。とりわけ生き物を相手にしていると、基本はデジタルからスタートという感じではない中で、デジタルを持ち込まれる苦労もいろいろあると思います。

携帯電話の開発→畜産業界に飛び込んだ背景

川崎:お二人のような技術者とされる方々が、その技術を持ちながらも、なぜ畜産の業界に足を踏み入れようと思われたのかという動機の部分をおうかがいしたいと思います。まず、赤野間さんはいかがですか?

赤野間:先ほど紹介にもあったとおり、2015年にスタートアップのデザミスさんと組ませていただいて、創業者の清家(浩二)社長から「牛が今どこで何をしてるかを知りたいんだよ。こんなことができないかな?」ということで、お話を聞かせていただいて。

川崎:牛がどこで何をしているか、見たらわかるじゃないかという世界ではないんですか?

赤野間:当時、それをデジタルの世界に落とし込むというのが画期的だったんですよね。うちはセンサー技術を持っていて、それでお声がけいただいたんですが、その話を聞いた時にシンプルに「おもしろそうじゃん」と。

川崎:出会いが。それまで、畜産業界は?

赤野間:「NTT」とあるとおり、弊社も電話の会社でございまして、私も直前まで携帯電話の開発に携わっておりました。

川崎:携帯電話の開発に携わっておられた技術者だったんですか(笑)。

赤野間:そうです。畜産に関しては、ふれあい牧場もほぼ行ったことがないんじゃないかなと。

川崎:それまでは?

赤野間:食べるか、飲むかですよね(笑)。

(一同笑)

川崎:ミルクか肉か。

赤野間:ヨーグルトかチーズか。

川崎:そういう距離感だったんですね。

赤野間:もう、本当に一般の消費者さんと変わらずですね。

川崎:ただ、「牛がどこで何をしているかを知りたい」というアイデアにビビっときたわけですね。

赤野間:きましたね。ビジョンがすばらしいと。

牛の観察を始めて気づいた畜産のおもしろさ

川崎:それで、実際に開発されるわけですよね。

赤野間:しましたね。すごく苦労したんですが、そもそも牛がどんな生き物なのかって、川崎さんはご存知じゃないですよね(笑)?

川崎:どんな生き物かというと……「モー」って鳴くイメージです(笑)。

赤野間:そうですよね。だから、僕たちも牛のことを何も知らなかったわけなので、まずは農場に行って、分析する対象物の牛を観察しようと。僕らはエンジニアとして、AIで分析する対象物そのものを深く知らないと正しく分析できないんじゃないかということで、農場へ行きました。日がな一日牛舎に入って、牛が1分ごとに何してるのかをずっとメモって。

川崎:それって楽しいんですか……?

赤野間:超楽しいです。

川崎:あっ、楽しいんですか(笑)。

赤野間:楽しいです。最高です(笑)。

川崎:今まで携帯電話の開発をやっていた方からすると、けっこう世界観が違いますが。

赤野間:最高でしたね。牛ってけっこうのんびりしていて、目が優しくて。食っちゃ寝食っちゃ寝するんですが、それがまたキュートで。1日中メモしてるんですが、これが時間を忘れてできるおもしろさがあったんですよね。

川崎:「出会ってしまった」という感じですね(笑)。

赤野間:出会ってしまいましたね。「これは長い付き合いになるだろう」と(笑)。

川崎:そういう出会いがあったということですね。

約10年前から広まった「タンパク質危機」という社会課題

川崎:荒深さんは、豚との出会い、畜産との出会いは?

荒深:赤野間さんの話とも近しい部分はあるんですが、バックグラウンドがぜんぜん違うなと思って。私はもともとエンジニア畑の出身ではないんですよね。先ほど川崎さんにご紹介いただいたように、コンサルティングファームで、どちらかというと大手企業さんの経営の戦略策定支援や業務効率改善のプロジェクトをよく(やっていました)。

川崎:完全に会議室が現場ですよね。

荒深:そうです。本当に会議室が現場、修羅場、みたいな状況でやっていて(笑)。

(一同笑)

荒深:そんな中で、(NTTテクノクロスは)2015年からデザミスさんと一緒にパートナーを組まれたという話があったと思うんですが、我々の会社は創業が2017年なんですよね。なので、ちょっと遅れてというか、タイミング的には後ろなんです。

ちょうど2015年ぐらいから、世間的にも「タンパク質危機」みたいなワードが広まり始めているなという時でしたよね。その時に僕らはコンサルティングのお仕事の中で、データサイエンスに近いところもやらせてもらっていたので、「タンパク質危機というのが社会課題としてあるんだね」みたいな(認識はありました)。

川崎:すごく社会的な話から入っていったんですね。

荒深:そうです。社会人なりたてじゃないですが、日経とかを読むじゃないですか。読んでる中で出てくる情報として、(タンパク質危機というワードは)インプットがあって。本当に頭の片隅ですが。

川崎:これまた僕の勝手なイメージですが、代替肉とか、そっちのほうに興味が湧いたということではないんですか?

荒深:漠然と課題があるということですね。ソリューションはさておき、課題の部分が何かというところで引っかかってたというか、頭の片隅にずっとある状況でした。

養豚業界の“光と影”

荒深:いろんなニュースやトレンドを追っていくと、それこそ「牛でデジタル化が進んでます」とか、畑にドローンを飛ばしたりだとか、農薬の状況を自動で(管理している)みたいな(ニュースが)流れていた時に、「鶏と豚は?」みたいな(笑)。あんまりニュースがなかったんですよね。

川崎:「鳥と豚のニュース、ちょっと寂しいな」と思ったんですか?

荒深:そうです。

川崎:漠然と思っているけど、それはまだ会議室内で思っているわけですよね。

荒深:そうです。会議内で「何だろうな?」と思っていたというのが、スタートにはなっています。ひょんなことから、実際に養豚場さんの経営状況をいろんなところで確認をすることがありまして。

川崎:その時は、まだコンサルティングのお立場としてということですね。

荒深:おっしゃるとおりです。農業系のお仕事というか、プロジェクトに近いようなことをやっている中で情報のリサーチをしたら、養豚の事業ってすごくおもしろくて。すんごい儲かってる方は、本当にすんごい儲かってるんですよ(笑)。びっくりするぐらい、本当にもう芸能人なんじゃないか? っていうぐらい。

川崎:華やかな(笑)。

荒深:本当に華やかな。一方で「経営がすごく大変だ」というところもいらっしゃる中で、ボラティリティが高いというか、幅広い業態だなというのを感覚的に見ていて。ただ、それは数値上の情報だけで、「これは何が原因で起きてるんだろう?」というのがすごく気になったんですよね。

仕事のフィールドが会議室から養豚場へ

荒深:私は「共同創業者」という立場で紹介いただきましたが、もともと代表とは前職も一緒でした。この社会課題というか、食料課題にけっこうエモさを感じるというか。「ちょっとこれ、2人でワーキンググループを作って調べない?」ということで、実際に養豚場へ研修に行き始めたのが最初のきっかけですかね。

川崎:研究テーマだったんですね。でも、それで会社を作ろうってならないじゃないですか。

荒深:ならないです。けっこう前から「ちょっと遊ぼう」というか、自分たちの教養を高めるじゃないですが(そういう思いはありました)。自分たちがいろんなプロジェクトを通じて得た知識や技術を、社会課題に活用することができないかな? みたいなことを考えていて。

そのきっかけとなった、おもしろい情報があって。実は知り合いが養豚農家さんで、声をかけられる人がいるから、そこへちょっと学びに行こうと。

川崎:知り合いに養豚農家さんがいらした。

荒深:本当にたまたまなんですが。それで1週間ぐらい立てこもりというか(笑)、養豚場に入らせてもらって現場を見て「これはおもしろいな」と。

川崎:何がおもしろかったんですか?

荒深:一番は、今まで自分がいたようなオフィスワークとはぜんぜんかけ離れた世界。

川崎:会議室から養豚場に。

荒深:いろんなところでギャップをものすごく感じたんですよ。「ここはデータを取ったら、もうちょっとおもしろいことが見えそうだな」というのが、パッと思い浮かぶようなこともいくつかあって。

川崎:そういう目で見るわけですね。

ハマる人にはハマる魅力がある畜産業界

荒深:ただ、現場の業務としてすごく大変だというのもわかる。だとすると、ここはテクノロジーが介在する余地がすごくあるなって、その1週間でポテンシャルをめちゃくちゃ感じとって。「これは、自分たちの技術や今まで培ってきたものが活かせるんじゃないか?」ということで、1ヶ月もしないうちに会社を興そうってなりました(笑)。

川崎:すごい勢いですね(笑)。畜産業界って、惚れ込んだら一気にいかなきゃいけない決まりでもあるんですかね?

(一同笑)

荒深:そんなことはないです(笑)。

赤野間:でも、ハマる人はハマるよね。

荒深:ハマる人は本当にそうですね。

川崎:そういう魅力があると。

赤野間:(畜産業界に惚れ込んだ人を)いっぱい見てきたよね。

荒深:いっぱい見ましたね。

川崎:そうなんですか。お二人のお話を聞いていると、「本当にたまたま出会ってしまった」という感じがすごく強いですね。

赤野間:そうですよね。荒深さんも豚舎に入ってめっちゃ魅了されて、「これだ。これをやるんだ」ってなったんじゃない?

荒深:そうです。頭にあった「タンパク質危機」と「解決する」というところが、点と点がひもづいた感じでバッと思い浮かんで。

近い将来、牛や豚が食べられなくなる可能性がある?

川崎:いろんな方が見ていらっしゃると思うんですが、本当にプロの方から、「え、(畜産業界って)そんなことになってるの?」という方まで、いろいろいらっしゃると思います。まず大前提として、今の日本で生産されている牛や豚は、実は食べられなくなる可能性があるとお聞きしたんです。これはどれぐらいリアルな話なんですか?

荒深:すごくリアルだというのは、我々はそういうものを公表資料として共有させていただいているので、ちょっと私の資料を出していただいてもいいですか?

川崎:荒深さんの資料、出ましたね。

荒深:ありがとうございます。我々が何を根拠にそう言ってるかというところなんですが、まず前提として、ちょっとおさらいに近いんですけれども、世界で見ると農業は生産額が488兆円とめちゃくちゃ高いんですよね。今、iPhoneなどのモバイル携帯市場はたぶん60兆円とかぐらいだから、それと比べても圧倒的に大きい産業です。

豚肉で考えると、世界で40兆円。なので、それ(モバイル携帯市場)と変わらないぐらいのかなり巨大なマーケットサイズを持ってます。お米とかトウモロコシと比べても少し大きいぐらいで、そういったデカい産業であるというところが、まず1個注目点としてあります。

じゃあ、なんでこれが(将来的に)食べられないのかというと、やはりタンパク質危機があります。「需要と供給が崩れますよ」という話なんですけが、下のほうに書いてあるとおりで、人口増加はもう避けられないものだと。

発展途上国の方々が徐々に富裕層化していく中で、タンパク質がどんどん摂れるようになってくる。それで需要が高まっていくというのが、非常に大きな要因としてある。

地球上のタンパク質の需要と供給が釣り合っていない

川崎:でも、ちょっとマリー・アントワネット的なことを言っちゃいますが、「食べたい人がいるんなら作ればいいじゃない」という話にはならないんですか?

荒深:そこが問題としては1つあって。作るだけだと、環境的な負荷や資源コストが非常に大きい。畜産業自体が環境資源をめちゃくちゃ使わなければいけないので、そことトレードオフの関係になっている時に、単純に増やすだけは許されないのが現状の畜産業ですね。

例えばなんですが、豚が食べる・消費する穀物量は年間約6億トンなんですが、これは米の生産量よりぜんぜん多い。こういったものが豚を育てるために使われています。あと、動物はけっこう病気になりやすい。抗生物質、いわゆる抗菌剤と言われるものですが、これも人間が使用するよりもぜんぜん多い。国内でも年間で(人間の)2倍近く使われています。

川崎:今のバランス感覚で言うと、「もうそんなにがんばって作らなくていいじゃない」「お米を直接食べちゃえばいいじゃない」という話になりやすいってことですか?

荒深:おっしゃるとおりです。お米だとタンパク質の吸収効率が悪くて、そのタンパクをいかに吸収できるのかということで、今はプラントベースフード(植物由来の原材料を使用した食品)やバイオ肉の産業が技術的に徐々に伸びてきている。

川崎:じゃあ世界的な背景として、もともと地球上のタンパク質の「欲しい量」と「供給できる量」が釣り合っていない。それと、それを供給するためのバランス感覚でいろんな負荷を考えなきゃいけないよね、という時代になっていると。

荒深:おっしゃるとおりです。

川崎:てっきり「日本の農家さんのなり手がいない」みたいな話なのかなと思ったんですが、もうちょっと大きい話もあるわけですね。

荒深:そうですね。マクロで見ると、やはり世界的なトレンドとしてはあります。

円安の今、日本は苦しい状況に置かれている

荒深:タンパク質危機、要は需要と供給のバランスが逆転するような状態は、2027年から起こり始めると僕らは言っています。2032年には、もう完全に逆転しきる状態が起きてしまうことを危惧しているイメージを持っていますね。

川崎:さすが、すごいですね。コンサルティングファームな感じがすごくしました(笑)。

荒深:いえいえ(笑)。

川崎:勉強になります。赤野間さん、一方で牛、とりわけ和牛と言われるようなものは、今は世界的にも大人気ですよね。

赤野間:そうですね。今は輸出も増えてます。

川崎:その観点から言うと、これ(和牛)が食べられないなんてことはないんじゃないかな? という気もしますが。

赤野間:荒深さんからのご説明にあったとおり、食べさせる飼料(の問題)ですよね。実は今、東南アジアなどで乳牛の需要がすごく高まってます。もちろん東南アジアは人口増加していますから、そうなると何が起きるかというと、牛の餌ってほぼ輸入なんですよね。

川崎:そうなんですね。

赤野間:今、日本は円安じゃないですか。そうなると、それよりも強い通貨を持った中国などの新興国に売ったほうが、世界の大きな餌メーカーさんは(メリットがある)。

川崎:なるほど。日本は買い負けるわけですか。

赤野間:買い負けるわけです。なので世界的に見て、実は餌の取り合いもけっこうあったりするんですよね。今、日本はちょっと苦しい立場にあります。

小さな養豚場でも、1人あたりの管理頭数は約1,000頭にものぼる

赤野間:それと、さっきちらっとおっしゃいましたが、農業全体の社会課題として「なり手が少ない」ということがあります。

川崎:たまに新聞なんかで見たりしますが、本当にそうなんですか?

赤野間:本当にそうですね。若い頃からデジタルを使っていろんなことをやってる子たちが、じゃあ農業の現場にわざわざやってくるのか、それを選ぶかといった時に、やはりちょっと難しい部分はあるのかなというのは、僕らは日々現場に行って感じています。

データを持ち込むといっても、そのデータを使いこなすところに課題があるのかなということも感じていますので、そういう意味では人材育成ですよね。農業の現場での人材育成がどれだけできるのかというのは、すごくキーになっていくのかなと思ってます。

川崎:なるほど。荒深さん、さっき「データを取れるといろいろおもしろい」という話があったと思うんですが、豚舎でデータを取ったら何がどうなるのかが、よくわかっていなくて。何かいいことがあるってことなんですよね(笑)?

荒深:おっしゃるとおりですね。特に豚は、とにかく1人あたりの管理頭数が非常に多いんですよ。

川崎:1人あたりでどれぐらいの頭数なんですか?

荒深:規模によるんですが、小さいところでも1人で1,000頭ぐらいは見なきゃいけないとか。

川崎:えっ、そんな頭数なんですか。

荒深:いろいろあるんですが、牛って1回の出産で何頭くらい生まれますか?

赤野間:牛は1回に1頭ですね。

荒深:1回に1頭ですよね。豚は1回で20頭とか生まれるんですよ。

川崎:そんなに違うんですね! 

荒深:しかも、年間で2回転以上出産をします。

定量的な評価しか発見できない課題がある

荒深:1年間で、1頭のお母さん豚が40頭近く子豚を産むわけですね。それを細かく管理していくというか、牛のように1頭1頭を管理するのは難しいので、小学校みたいな感じでクラスを作るんですね。「1の1」「1の2」というのを、豚舎という豚を飼っている小屋の中で柵でくくってあげる。

川崎:「1年2組がここです」という。

荒深:「何日生まれの子たち」みたいな育て方をしていくんです。群として見ていくようなかたちでやっていて、その中で管理をしていくのは大変なんですよね。頭数が多くて、その中でも途中で死んじゃう子や風邪ひいちゃう子とかを見るとなると、やはり人は非常にたくさん必要になってくる業界なんです。

川崎:データを取るというのは、何のデータを取ればいいんですか?

荒深:まず1つあるのは、実際に豚舎の中で何が起きているのかが俯瞰的に見られるような情報が必要です。例えば、日々の作業の中で1頭ずつ死んじゃっているといっても、1,000頭いる中で1頭が死んでも気にならないじゃないですか。

川崎:人間の感覚って、どうしても鈍感になっちゃうところがありますよね。

荒深:おっしゃるとおりです。それが毎日続いているとか、1週間おきとかだと、1年に1回だとぜんぜん違う。

川崎:結果はぜんぜん違いますね。

荒深:その感覚で絞って見た時に、それが深刻な問題なのか、それとも一般的に普通にそれは問題ないのかとか、「これ、本当はすごい問題が発生しているんじゃないか?」というのは、やっぱり定量的に評価しないとわからない。

データの見える化によって、売上高が7,980万円増

川崎:実際にデータを取得して、何らかに気づけて改善できたことはあるんですか?

荒深:そうですね。実際に、売上の試算改善効果というものを出させていただいています。

川崎:データがありますか?

荒深:私の資料を出させていただきますが、これは本当に見える化をしただけなんですね。何をしたかと言うと、特に繁殖側に注力させていただいたのが、(スライド)上の「農水省スマート農業実証事業」というところです。

お母さん豚が1回の出産でどれくらい産めているのかをしっかりと測っていくと、産めていないお母さん豚と産めているお母さん豚って、すごく特徴が分かれていることが見えたんですよね。

川崎:へ〜!

荒深:じゃあ、(子どもを)産めるすごくポテンシャルの高いお母さん豚を、いかにしてうまく維持し続けて出産ができるかを工夫しましょうとか、産めないお母さん豚をどうやって産めるようにしていきましょうか、とか。

川崎:その1点に気づいただけで、(生産頭数が)14パーセント向上したんですか? 

荒深:そうです。

川崎:え! 特殊な餌に変えたとか、環境をガラッと変えたとかではなしに?

荒深:違うんです。それをやると、もっと上がると思います。

川崎:そうですか。じゃあ、日々起きていることに気づけるか・気づけないかの差がめちゃくちゃデカいんですね。

荒深:それが、オペレーションとしてどう仕組み化できていたかとか。本当に人が足りないので属人化してくるんですよね。要は、Aという豚舎の中ではAさんがやっていて、Bという豚舎ではBさんがやっているんです。

川崎:担任制度みたいな感じですね。

荒深:おっしゃるとおりです。小学校でも、やっぱり担任の先生によって学力って変わるじゃないですか。

川崎:変わりますね(笑)。

荒深:そこが豚にも大きく影響されるんですよね。

川崎:「人気の先生はどうやっているんだ?」ということですね。

荒深:定量的な数値で扱わないと、そういうことも気づけないんですよね。

もともとはExcelも使っていなかった

川崎:8.7パーセント増加の「千葉県庁のプロジェクト」、これは何ですか? 

荒深:これも同じようなもので、もう少し規模の小さいというか、家族経営されているような養豚農家さんで実際にやってみたということです。人手が少なくて、かつ、なんとかそれで円滑に回しているようなところ。

逆に言うと、上(農水省スマート農業実証事業)は従業員さんもいらっしゃるようなところで、情報が非対称的になってしまっているところですね。情報を対照的に扱える・共有化することによって問題の発見に気づき、そこで改善できましたというのが上の事例です。

川崎:上の14パーセントは大規模な会社でおやりになっているところで、下の千葉県庁のプロジェクトは家族でおやりになっているようなファーム。

荒深:家族でおやりになっていて、もともとデータ管理自体をあんまりしてなかった農場さんですね。「じゃあデータ管理だけしてみましょう」ということで、「慣行区」「Porker区」と書いてあるのは、もともと何もやっていないところにExcelを使ってやった場合と、うちの「Porker」(を使った場合です)。

川崎:Excelは使っている?

荒深:もともとは使ってなかったんです。

川崎:記録をExcelで付けてみたと。

荒深:そうです。もともとは使ってなくて、まずは今回Excelで付けてみましょうと。それと比べて、我々のサービスであるPorkerを使った場合はどれだけ違うんだい? というふうに(データを取りました)。

クラウド型養豚経営支援システム「Porker」の有用性

川崎:記録を取るという意味では、たぶんExcelも一緒だと思うんですが、Porkerを使うと何が違うんですか? 

荒深:これは先ほどの赤野間さんの話にもすごく密接に絡むんですが、ITを活用する、要はExcelも1つのITツールと捉えた時に、Excelをめちゃくちゃ活用できる人材なんてなかなかいないんですよ。

川崎:難しいということですね。単純に、Porkerのほうが楽で簡単だから。

荒深:おっしゃるとおりで、入力さえしていただければ、分析結果までを出すのがPorkerの魅力というか強みなので。要は、記録さえ取っていただければ、何か気づきを与えられるというものなんですよね。

川崎:赤野間さん。ということは、やはり(操作は)簡単じゃないとダメなんですか? 

赤野間:簡単じゃないとダメですし、Excelにただ数字だけを打ち込んで、その数字が何の意味を持つかという知見と分析力がないと、「何が課題で、これをすることによって改善する」ということが(分析)できないんですよね。

川崎:それが、さっきおっしゃっていた人材の部分もかなり課題があるという。

赤野間:おっしゃるとおりです。Porkerとか、牛にも台帳ソフトがありますが、日々の営みを打ち込んでもらうことによって、それが意味のある数字として出てくる。分析が簡単にできるような……「コンサルツール」くらいまで言っちゃいますよね。

川崎:ITを入れたらいい、デジタルを入れたらいい、AIも使えばいいというのはなんとなくわかるんですが、実際に農家さんが使う負担が大きければ、結局は使えないということになるんですかね?

赤野間:そうです。

荒深:おっしゃるとおりです。

川崎:それは、実は畜産業じゃなくても言えることかもしれませんね。

伝統的な「勘と経験」をいかに数値化していくか

川崎:なんとなくITってキラキラな感じで入ってくるんですが、「あとは自分でやってください」みたいな冷たいところもあるというか。

赤野間:そうですね(笑)。使いこなせるかどうか。

川崎:そうそう。「使いこなしてないほうが悪い」みたいな論調になるじゃないですか。あれはちょっと違いますよね。

赤野間:そうですね。いかに簡単にするかというのはすごく重要かなと思います。僕はお肉の世界と乳牛の世界なんですが、荒深さんと同じようなかたちで「ちょっと受胎率が良くない」という農家さんがいて、相談があったんですね。

見に行って、ちょっと記録を取っていこうという話になって。牛は発情期が来たら人間が人工授精で精液を入れるんですが、使っている精液をバーっと一覧で出してもらって、それぞれに一覧で受胎率を出してもらったんですよね。そうしたら受胎率が1桁台の精液がめちゃくちゃあって、けっこうそれを使っていたんですよ。

やっぱり、リストにしてみないとわからない。ここでリストにしてみて、農家さんは「あ、確かに!」ってなったんですよね。それだけで受胎率が5パーセントアップした。気づけるか・気づけないかです。

川崎:その現場だと、赤野間さんが入って記録を取って、「こういう管理をして、ここに気づける」というところまでをガイドしているから気付ける。気付けたら、あとは農家さんのプロフェッショナルな領域で全部おやりになられるということですよね。

赤野間:そうです。「あとはどうするかわかるよね」というかたちだと思うので。

川崎:これまでの伝統的な農業の管理の中では、「気づきを得る」というのが課題になっているということなんですね。

赤野間:勘と経験のところをいかに数値化していくか、みたいなところかな。

農家同士のコミュニケーションが起きにくい理由

川崎:農家さん同士は、そういう(情報の)シェアはあんまりないんですか?

赤野間:豚ってどうなんですか?

荒深:豚は、あるにはあるんですが限定的かなと思っています。畜産業の中でもかなり特殊なんですが、病気が非常にセンシティブな問題としてあります。

川崎:病気。そうですよね。

荒深:人の体に着いているような菌やウイルスが、ほかの養豚農家さんのところへ接触してしまうと、それをそのまま農場に持ち帰ってしまうことになるので。「バイオセキュリティ」と言ったりするんですが、防疫対策が非常にシビアに見られているので、極論、「本当は農家さん同士であんまり会いたくない」という人もいらっしゃるくらい。

川崎:前提として、命を育てていく・守っていく業界なので、それが第一に来た時には、「ほかの農家さんと交流して知見を深めよう」という時にブレーキがすごく強くかかるわけですね。

荒深:そうですね、それは心の中にはあります。なので、お会いした翌日は農場には入らないとか。一定期間農場に入ると危険リスクが高いからということで、それをずっと何度もやっていると、やっぱり現場が回らなくなってきちゃいますよね。

川崎:そうですよね。

荒深:というのもあって、なかなか情報交換が(起こらない)。それこそコロナがあって、リモートワーク化したことによって、現場でもZOOMなどのオンラインツールが入って、ようやくオンラインでのコミュニケーションが少し盛んになってきてはいるんです。ただ、それ以前で考えると、そういうコミュニケーションの機会は本当に薄かったかなと思います。

川崎:なるほど。

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