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大人の学びとWell‐being(全2記事)

2024.04.04

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上司のふだんの行動が、メンバーの学習意欲に影響を与える 「部下が学ぶ上司」と「部下が学ばない上司」の違い

提供:株式会社パーソル総合研究所

HR領域における実務に役立つ調査研究を行い、有益な情報を発信する「パーソル総合研究所シンクタンク」。今回は同シンクタンクが発表した「ミドル・シニアの学びと職業生活に関する定量調査」について、パーソル総合研究所の上席主任研究員・井上亮太郎氏が「大人の学びとWell‐being」をテーマに解説したセッションの模様をお届けします。前編に続き、後編では学び直しをする人たちの特徴とマインドや、趣味の学びが実務にもたらしたメリットなどが語られました。

上司のふだんの行動がメンバーの学習意欲に影響を与える

井上亮太郎氏(以下、井上):今日は人事の方が多いので、ここからは企業人事として(学び直しを推進するために)どうしたらいいかという話をします。一番介入しやすいのは、口だけ層(学び直し意欲はあるが行動していない)を学び直し層にすることだと思います。

では、どうするか? この人たちが学び直さない理由としては、「お金がない」「時間がない」「何を学べばいいかわからない」「どう学べばいいかがわからない」といったことが上位にきました。

では、いくらなら年間投資ができそうかを聞くと平均10万円で、学び直し層の実際の支出額は3.5万円でした。要は予算未消化で、「お金がない」と言いながらも使い切ってはいない状態です。

また、学び直しについて補助を受けているかを聞くと、補助を受けていない人が84.3パーセント、費用補助を受けている人は正社員で13.7パーセントでした。

次に時間です。学び直し層が多いのは、週あたりの労働時間が50時間以上の人たちですね。長く働いている人のほうが学び直しをしていることが多い。だから「時間がないというのは本当なのか?」ということです。

ほかにもいろんなファクターがありましたが、着目したのは上司です。上司の学び行動が、メンバーの学習意欲や学習時間、あるいは学習共有(秘匿しない度合い)にプラスの影響を与えていました。仕事関連の学びに熱心な上司ほど、メンバーが学び直しに積極的だったというデータですね。

そして、「部下が学ぶ上司」と「部下が学ばない上司」の違いを見ると、部下が学ぶ上司はいつも新しい知識やスキルを学んでいたり、仕事に関わる情報を収集したり、仕事に関わる本をよく読んでいたり。あるいは(部下の)新しい仕事のやり方の提案や試行を歓迎する特徴がありました。学ばない上司はこの逆なので、上司の日常のふるまいがけっこう大きそうだという話です。

では、「将来への危機感は学び直しを促進するのか?」というところを見ていきます。35歳から44歳の専門性が低い仕事に就いている人たちほど、将来の収入やキャリアに不安を持っています。

専門性が高い人より低い人たちのほうが、将来の収入やキャリアへの不安が強い人ほど、学習意欲もグッと高まっています。なので、危機感は専門性が低い人たちほど感じている傾向があります。

実際に学び直し行動を取った人たちを見ると、専門性の低い職種に就いている人たちは、危機感が高くても低くてもあまり変わらない。

逆に専門性の高い群は、危機感の高低は関係なく学び直しをしていました。ということは、危機感を煽るだけでは学び直しが行動化するわけではないということですね。

学び直しをする人たちの特徴とマインド

学び直しをする人たちの特徴を見ていきます。まずはキャリアのセルフアウェアネスです。キャリアや自分自身への気づきや自己理解ですね。

こういったものを強く持つ人ほど学び直しをしたいと思っていますし、実際に学び直し行動をする傾向がありました。なので、キャリアのセルフアウェアネスを高めることがポイントになると考えました。

では、どうやってキャリアのセルフアウェアネスを高めるのか。ここは、職務特性の「技能の高さ」「成果の明確さ」「仕事の負荷の低さ」が強く影響していました。それ以外には、人事管理の「職務範囲の無限定性」や、「キャリアプランニング研修」などがプラスに影響していました。

次に、学び直しを行動化している人たちのマインドです。いろいろと仮説を立てて分析したところ、4つの特徴が出ました。まず「自己効力感」が高かったですね。そして「好奇心」が旺盛で、「エンジョイメント」という何事も楽しむ姿勢を持っていました。

そして「いけ図々しさ」とありますが、日本人は謙虚なので多少図々しいくらいでいいというポジティブな意味で書いています。要は失敗を恐れずに踏み出すことができる人たちですね。こういう人たちに学ぶ傾向が見られました。育むべき学びのマインドだと言えるのではないでしょうか。

趣味の学びが実務にもたらしたメリット

ここからは実務的な学びではなく、趣味的な学びについてお話をしていきます。企業の人事の方は、実務に直結する学びは補助を出しやすいと思うんですね。実務から外れそうなものは「それは自己啓発です」「それは趣味ですね」「それは個人でやってください」と言いますよね。

しかし私は、これからは実務に直結する学びかどうかの線引きがすごくしづらくなると思います。簿記3級なら実務に直結して、アロマセラピーはダメなのか? わからないですよね。なので、もう少し学びを広く捉えてもいいんじゃないかと思って、この趣味的な学びにフォーカスを当てました。

調査では、趣味学習をしている人は12.6パーセントでした。

うち4.4パーセントの人は、実務的な学びと趣味学習の両方をしています。ただ、12.6パーセントはちょっと少ないと思ったんです。趣味を持つ人はたくさんいますが、そこに学びを見出せているかどうかだと思うんです。

この調査で「趣味学習をしている」に入った12.6パーセントの人たちは、趣味としてやっていることを学びだと認識している人たちです。

内容は語学が多く、音楽、スポーツ、資産形成、歴史を学ぶ人が多くいました。

こういった趣味の学びが実務でメリットになったかを聞いたところ、「人間関係が広がった」という答えが一番多かったですね。それ以外には、「学びが将来のキャリアに活かされると思う」や「学ぶことによって将来の生活への不安が減った」、あるいは「仕事に対するモチベーションが高まった」などの効果を挙げています。

そして、趣味学習もやはり学習期間が長くなるほど「社会に参画している実感が得られた」「人間関係が広がった」と答える人が増えています。

趣味学習と実務的な学びをしている人たちを比較すると、人間関係に関しては明らかに趣味学習のほうが高くなっています。

また、(スライドの赤線の)「学ぶことが楽しい」が7割を超えるポイントを見ると、実務的な学びをする層は1年から3年くらいかけて達するんですけど、趣味学習層は1ヶ月から3ヶ月の間で達するんですよ。なので趣味学習はタイパがいいということですね。

趣味的な学びを実務的な学びに移行させるポイント

では、趣味学習者が仕事・キャリア関連の学び直しに移行するポイントを見ていきます。

いくつかありましたが、今日は2つご紹介します。まず、「キャリアのセルフアウェアネス」が高い人は、学び直しに積極的でした。もう1つはジョブマッチやジョブフィットと言ったりしますが、「仕事と興味関心の一致度」ですね。ポイントとしては、この2つがありました。

キャリアのセルフアウェアネスを見ると、高い人ほど、趣味の学習によって仕事や収入への波及効果を感じている傾向が見られました。

また、仕事と興味関心の一致度も高いほど同様の傾向が見られました。

仕事と興味関心の一致度を高める方法も分析しています。

これには「キャリア自立支援策」がけっこう効いていました。「キャリアの方向性を相談できるような環境がある」「キャリカウンセリングやコンサルティングの経験がある」「キャリアプランニング研修の受講経験がある」「自由に副業・兼業ができる」といったことが、仕事と興味関心の一致度を高めていました。

また「育成支援策」では、「目標管理の手厚さ」。自分の学んでいるものや興味関心を上司に表明して、目標管理の中で自分のやりたい仕事とすり合わせをしているイメージですね。

そして「業務時間外の学習や自己啓発に積極的な従業員が多い」こと。周りに学んでいる人が多いと、自分が学んでも浮きませんよね。その他、「社会貢献活動に積極的な従業員が多い」「職務範囲が無限定」といったことが影響していました。

これだけではないと思いますが、仕事と自分の興味関心を一致させることはかなり大切だということが今回の分析で見えてきました。

大切なのは「学びを止めない」こと

さて、最後にまとめです。先が見えにくく変化への適応が必要な時代ですが、単にリスキリング経験があるだけではダメで、リスキリング習慣が大事だということです。要は学び続けることが重要なポイントになります。学びを止めないということですね。社会人とは学び終わった人ではなく、学ぶ人だという捉え直しが必要だと思います。

(働く)個人としては「キャリアの自己認識」を高めてあげる必要がありそうです。そして、「学び直しマインド」。「自己効力感」「好奇心」「エンジョイメント」「いけ図々しさ」という4つのマインドを促進させていくことがポイントになりそうです。

組織としては「育成制度」「職務設計」「評価制度」。評価制度については、今までは実務に直結した学びをやっていれば評価していましたが、趣味的なものでも、そこに学びを見出せる人材って貴重だと思いませんか? 学ぶ姿勢を持つ人がたくさんいることが組織の風土を変えていくわけですから、そういう姿勢こそ評価の対象とすべきではないかと思います。

また、仕事と自分の関心をどうマッチさせるかという職務設計。もしかしたら単純なタスクの集合ではなく、少し高度なことも混ぜて職務を再編集することが必要になっているのかもしれません。職務が高度化すると学び直しのモチベーションが高まり、学び直す人も増えてくるでしょう。あらためてこの職務開発を検討いただければと思います。

育成制度に関しては、将来のキャリアを見通せるような機会を提供するといいのではないかと思います。

職場風土では「上司のふるまい」や「同僚のふるまい」が影響していました。関心を持たれていなかったり、学んでいることをバカにされそうといった雰囲気を変えていくことがポイントになりそうです。

また、やることを1つの会社の中だけに閉じる必要はないと思うんです。外に出ていくことをうまく設計に組み込んで、会社の外にも仲間や役割が見出せるように促進する。ミドル・シニアになって会社を辞めたあとに、「何をしていいかわからない」ということがないような、健全なコミュニティづくりにもつながるのではないかと思います。

「学び」は狭く考えず、広く考え直していただけたらなと思います。多様な学びを奨励し、いくつになっても学び続けられるような「ラーニング・カルチャー」を、ぜひみなさんで育んでいけるといいかなと思います。

ご清聴ありがとうございました。

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