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大人の学びとWell‐being(全2記事)

2024.04.03

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7割が「学び直しは必要」と答えつつ、実際に学ぶ人は2割以下 ミドル・シニア調査でわかった、社会人の学びに潜む「バイアス」

提供:株式会社パーソル総合研究所

HR領域における実務に役立つ調査研究を行い、有益な情報を発信する「パーソル総合研究所シンクタンク」。今回は同シンクタンクが発表した「ミドル・シニアの学びと職業生活に関する定量調査」について、パーソル総合研究所の上席主任研究員・井上亮太郎氏が「大人の学びとWell‐being」をテーマに解説したセッションの模様をお届けします。前編は組織のWell-beingを考える際のポイントや、学びの楽しさをWell-beingにつなげる4つのアプローチについて語られました。

パーソル総合研究所の上席主任研究員・井上亮太郎氏が登壇

井上亮太郎氏:あらためまして、井上亮太郎と申します。

私は人と組織の領域、そして美しさや幸せを感じる人の感性や感情に関心があり、その感性を計測、モデル化して、さまざまなプロダクトに適応していく仕事をしています。プロダクトとは、例えば人事制度や研修プログラムなどのソフトプロダクトもありますし、あるいはワクワクするオフィス設計やまちづくりなど幅広くあります。

HRM(Human Resources Management:人的資源管理)を軸足に、感性工学やシステムエンジニアリング、産業心理学、感情心理学といった領域を主に扱い、人と組織に関しては調査結果を冊子にして発表しています。また、大学にも所属して学生さんと一緒にさまざまな企業が開発する製品の検証のお手伝いなどもしています。

最近は、私も委員を務めるデジタル田園都市国家構想の中で、この考え方をまちづくりや地域創生に適用することも増えています。

実は、私は岩手県の盛岡で家業もやっています。本当は家業を継ぐためにパーソルを辞めなければいけなかったのですが、パーソルはいい会社でして、副業がOKということになり、盛岡の会社で社長業をやりながら、こうしてパーソルでも働いています。

18ヶ国・地域を対象とした調査で、「成長実感度」が一番低かった日本

今日は『大人の学びとWell-being』というテーマでお話をさせていただきます。パーソルは「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンに掲げ、“はたらくWell-being”創造カンパニーをありたい姿として、多様な働き方と学びの機会を提供し、「人の可能性を広げることで、2030年に100万人のより良いはたらく機会を創出する」と宣言しています。

まず「大人の学び」についてですが、現在、日本の雇用者の52.3パーセントが45歳以上です。ミドルを35歳以上と捉えると72パーセントがミドル・シニアになるんですね。

良くも悪くも日本を代表する世代がミドル・シニアであるということですが、このミドル・シニアの人たちは、働いて笑えているのでしょうか? 働いて笑っている状態とは、私は活力に満ち溢れて成長を実感できている状態だと考えます。

これは一昨年のグローバル調査の結果ですが、日本は(仕事を通じた)成長実感度が18ヶ国・地域の中で一番低かったんですね。

年代で見ると、成長実感度は40代以降で急激に低下していきます。

成長を実感するためにリスキリングなどをされているのかなと、「業務外の学習・自己啓発」の項目を見ると、「とくに何も行っていない」が52.6パーセント。年代別に見ると40代から「何も行っていない」と答える人の割合が多くなるわけです。

裏返せば、特に何もやっていなくても会社に勤められてお給料がもらえるという恵まれた状態なのかもしれませんが、「これから先はどうなるんでしょうね?」と言われると、ちょっと首をかしげるところがあります。こういったことから、政府も「成長分野への労働移動」を念頭にリスキリングを積極的に訴えています。

GDPの成長とWell-beingが連動しなくなっている

もう1つの「Well-being」も最近よく耳にするキーワードですが、ポッと出たものではなく、グローバルの大きな流れから来ています。SDGsもよく言われていましたが、SDGsも1987年のSustainable Developmentという概念から来ています。

最近は、(国際連合事務総長のアントニオ・)グテーレスさんが「これからはWell-beingだ」と、Sustainable Well-beingをしきりに言っているので、もしかしたらSDGsの次はSustainable Well-being Goalsになるのかもしれません(笑)。

これまでは経済成長をしてGDPが上がれば、国民の豊かさが追随していたわけですが、これが崩れてきて、必ずしも正比例しないということですね。

こういった流れを受けて、政府も今年度の(経済財政運営と改革の)骨太方針で、KPIとして政府の各種基本計画にWell-beingを入れてくださいと言っています。

また「成長と分配の好循環」がキーワードでしたが、1人あたりの実質GDPとWell-beingの2つの指標で見ていきましょうという提言がなされています。経済性も大事ですが、それだけではなくWell-beingも見ていきましょうということですね。

こういった流れを受けて企業も動き出しています。

金融系の企業さんが「ファイナンシャル ウェルビーイング」という新しい言葉を作ったり、高級車ブランド・ベントレーもホームページで「Well-being」と謳ったりしています。

このように、いろんな文脈でWell-beingという言葉が使われ始めていることはすごく喜ばしいと思うんですが、概念がけっこう混乱しています。

日本では「身体的、心理的、社会的に良好な状態」というWHOの定義を使われることが多いと思いますが、元を正せばこれは健康の定義ですね。

OECD(経済協力開発機構)は「生活の質」(Quality of Life)と、所得や仕事などの「物質的生活条件」の両方が揃い、それがサステナブルであることが個人のWell-beingだとして、こういった概念図で示しています。

研究の世界でも、定義は研究者によってさまざまです。

日本では、私の上司でもある慶應義塾大学の前野隆司先生は「やってみよう」「ありがとう」「なんとかなる」「ありのままに」の4つのファクターが一定程度良い状態にあることをWell-beingと言っています。京都大学の内田由紀子先生は、日本は特に対人関係の調和に幸せが起因しているとして「協調的幸福感」を提唱しています。

組織のWell-beingを考える際のポイント

みなさんは、どういう状態にあるとWell-beingですか? いろいろな事象があると思います。似たようなことを喜びと感じるところはあると思いますが、重ならない部分もけっこうあると思うんです。Well-beingの概念はもともと個人がベースで、けっこうパーソナルなものです。

そんな人間じゃないですけど、例えば、私がパワハラ上司だったとします(笑)。部下を罵倒する時に「めちゃめちゃ気持ちいい!」「最高!」と思う人間だったら、私はその瞬間がWell-beingです。ただ、それってNGじゃないですか。

だから、個人ではなくて組織などのレイヤーでWell-beingを語る時は、ここに「組織・社会にとっての規範的・倫理的な枠」が出てくるんですね。

この枠からはみ出てしまう人はその会社に居づらくなるかもしれない。重なる部分が多いと、その会社にいるとWell-beingが促進されるかもしれない。こういう規範的・倫理的、もっと言ってしまえば道徳的なWell-beingが定義されるべきです。

企業文脈で「幸せ」と言った時に、わかる人はわかるけど「何だそれ?」という経営者も多いんですよね。

こういった「お花畑」なイメージに思われることも多いんですが、そうではなく、意気揚々としていい感じの状態と捉え直していただけるといいかなと思います。

言葉で表すと、「自分の仕事に満足し、仕事を通じて社会とのつながりや貢献、喜びや楽しみを感じることが多く、怒りや悲しみといった嫌な感情をあまり感じずにいる状態」。また、そのような仕事や働き方を自分で決めることができている状態」。

こんな状態にあると人はいい感じで働けていると言えるのではないかと思います。こういうものを企業ごとに定義すればいいと思うんですね。

7割が「学び直しは必要」と答えつつ、実際に学ぶ人は14.4%

さて、ここから本題に入ります。今回は、35歳〜64歳のミドル・シニア就業者の学び直しと趣味の学習に着目します。学び直しは、業務時間外に仕事やキャリアに関連する実務的な学びをすること。趣味の学習は業務時間外に仕事やキャリアとは一見無関係に、趣味として学び続けることです。

この調査は私の前職、東京の自由が丘に産業能率大学という大学がありますが、そこの同僚の齋藤弘道教授と一緒にやったものです。

学び直しの意識について、70.1パーセントの人が、「何歳になっても学び続ける必要がある時代だ」と言っています。また、63パーセントが「学び直しは将来のキャリアに役立つと思う」と言っています。みなさんだいたい肯定的で、必要性は感じている。

でも、実際にどれくらいの人が学び直しをしているかと言うと、14.4パーセントでした。そして、学び直しはしておらず、学び直す意欲もない人(不活性層)が47.5パーセント、学び直す意欲はあるが行動をしていない人は29.8パーセント、約3割ですね。

学ばない人と学んでいる人で、こういうきれいな正規分布にはならないですけど、今回はこの真ん中の一般的な人たちにフォーカスを当てます。

そういう人たちがどれくらいいるか? 男性女性でも多少の差はありますが、年代のほうが差が大きそうです。年齢が上がるにつれてだんだん学び直し層が減って、不活性層が増える傾向があります。

学歴もちょっと関係があります。学生時代にどういう学習態度を取ってきたかも関係がありましたが、今日はあまりそこには触れません。

職種では情報系、あるいは商品開発や研究職、専門・技術職、間接部門など、どちらかと言うと専門性の高い職種の人は学び直しをする人が多い傾向が見られます。

役職では、管理職になるほど学び直しをする人が多い傾向でした。

会社規模については、一定規模以上はあまり変わりません。大企業だからどうこうという話ではなさそうです。

社会人の学びを阻むバイアス

続いて、学習観や組織風土に着目して、学び直しをする人が増えない理由を分析してみました。「仕事のことは、仕事の中で学ぶのが一番だ」が70.1パーセント。「業務外の仕事に関する学習は、パフォーマンスにつながりづらい」が45.6パーセントと半数近く。

「学んだ成果をすぐに実感したい」が60.4パーセント。「学んだ成果が出るのに数年かかるとやる気が出ない」も56パーセント。みなさんYouTubeなども2倍速で見る時代ですよね。タイパがここには出てくるわけです。

そして学習観。学び直しをしている人たちは「研修や資格取得こそが学びだ」と考える人が多く、「机に向かって黙々とやるものだ」という人も37.8パーセント。硬直的な学習観を持つ人が多いのかもしれません。

勉強方法は書籍、Webページを読むがダントツですね。日本の社会人の学びはけっこう独学志向が強い。

そして、いろんなバイアスも出てきました。

学びは新人や若い人だけ、そして学校でやるものだという考え方がけっこう根強い。学生は「学ぶ人」というのはわかりやすいじゃないですか。私たち大人は、よく社会人と言ったりしますが、学び終わった人みたいな感覚がどこかにあるのかもしれません。でも決して、社会人=学び終わった人ではないですよね。こういうものが「新人」バイアスや「学校」バイアスですね。

そして、「自信の欠如」バイアスや「地頭」バイアス。「やったところでたかが知れているよ」と言う人たちですね。他にも「現場」バイアスや、先ほど言った「タイパ」バイアス、今のままでも十分仕事はできるという「現状維持」バイアスもあります。

こういった業務時間外の学習について周りにあまり言わないという人が56.2パーセントと、半数以上でした。

私たちが学生の時も、テスト前に「勉強した?」と聞いても「いや、ぜんぜんやってないよ」と言っていたじゃないですか(笑)。けっこう、勉強していることを言わないんですよね。こうした「学習の秘匿化」が起きています。

なぜ言わないのかを聞くと、「反応が薄そうだ」「興味をまったく持たれなさそうだ」「仕事が暇だと思われそうだ」「自慢だと思われそうだ」「仕事を追加で任されそうだ」といった意見が出てきます。

周りの反応を予期してしまう部分もあると思うんですけど、組織としてはこういう学びは共有したほうがいいわけです。学びを共有している割合は2割程度です。組織としてはナレッジなどの資産化を進めていきたいわけですが、なかなか増えない。

学びの秘匿化の原因としては、先ほどの「独学」バイアスや、転職を考えていると疑われそうといった「裏切り者予期」、興味を持たれていなそうといった「無関心予期」、そして「タイパ」バイアスの4つが出てきました。

ミドル・シニアの3年以上の学習が年収に与えるインパクト

では、ミドル・シニアの学び直しは割に合うのでしょうか。年収を見ると、学び直し層が一番上で、不活性層は一番下。学び直し層のほうが明らかに年収が高い傾向が見られます。

学習期間を見ると、学び直しを3年以上実施している人は、していない人と比べると30万円ほど年収が高くなっています。年間10万円投資して、3年間かければ元が取れるということですね。

こういった学習の効果は、学習期間が長くなるほど高まっていく傾向があります。

もう1つご紹介したいのは、転機学習です。職業人生が長くなればいろんな転機、ターニングポイントがあります。新しいプロジェクトにアサインされたり、異動や転勤があったり、部下を持ったり。プライベートでは出産、育児、あるいは介護。そういった転機をきっかけに、学び直し行動を取ったかどうかです。

こういう転機を機会に学び直し行動を取った人たちは、その後も学び直しを続ける傾向が高く出ています。

これは最終学歴に合わせて転機学習度合を高・中・低に分けて出したものです。転機学習をちゃんとやっている人は年収が高くなっていますし、役職も要職に就く割合が高い。転機をチャンスにしているということですね。

また、学び直しを仕事の成果向上につなげるには、4つのポイントがありました。

1つ目は学んだ内容を活かす機会があること。2つ目が学んでいることの全体像を把握しながら、「今はここをやっている」とわかりながらやるということですね。ラーニングマップと呼んでいます。3つ目は、人と関わりながら学ぶこと。そして、4つ目が自分の強みや経験に関連する分野を学ぶこと。あさってなことをやっているわけではないということですね。

学び直しをWell-beingにつなげる4つのポイント

続いて、学び直しがWell-beingにつながるのかを見ていきます。これは学び直しの継続期間ですが、学習期間が長くなるほど「学ぶことが楽しい」「主観的な幸福感が高まった」という割合が増えます。

実際、学び直している人は幸福感が高い。ただ、働いていて不幸せを感じるかという「不幸せ実感」も取っていますが、学び直し層はこれもちょっと高い傾向があります。

学び直しは手間もかかるし、時間も食われるし、大変なことは確かにあります。負荷がかかるんですね。だけど、それ以上に主観的な幸福感が高まり、ハツラツとできるというイメージを持っていただけるといいのではないかと思います。

3年以上学び直しをしている人は(学び直していない人と比べて)幸福感が12.7ポイント高くなり、かつ不幸せ実感が低く抑えられる傾向も出ています。つまり学んでいる人はWell-beingが高いということですね。

Well-beingについても4つのポイントがあります。

1つは自分なりの興味関心に基づいて学んでいること。2つ目はラーニングマップ。3つ目が学ぶことが習慣づいているという継続性です。そして4つ目が多様なバックグラウンドを持つ人と関わりながら学んでいるということです。

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