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20年前のインフラから20年後のインフラへ インフラエンジニアの今後とは?(全2記事)

2023.08.30

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システムソフトウェアレイヤーの技術革新のタネは「自由な試行錯誤」 登大遊氏が語る、日本のICTの課題と取り組むべき“おもしろい”こと

提供:株式会社リクルート

天才プログラマー・登大遊氏をゲストに、リクルートのエンジニアと生対談を行う「20年前のインフラから20年後のインフラへ インフラエンジニアの今後とは?」。IPA産業サイバーセキュリティセンターの登氏、株式会社リクルートの小杉氏・鶴谷氏・竹迫氏が登壇。前半では、登氏が日本のICTの課題と、取り組むべきことについて話します。

登氏の自己紹介

登大遊氏(以下、登):こんばんは。登と申します。IPAという独立行政法人の役所みたいなところで、サイバー技術研究室というものをやっております。また、NTT東日本というところにも入っていまして。あそこもリクルートさんのように歴史が長く、インフラという重要な領域をこれからは継続・発展をさせていかないといけないという共通点を有しています。

日本のICTの課題

:今日はインフラについてお話をしようと思います。コンピューターやネットワークのだいたいの技術というものは、アプリのレイヤーとインフラのレイヤーがあります。インフラのレイヤーはネットワークとか、OSとか、セキュリティとか、システムと呼ばれる部分であります。クラウドなんかもシステムのレイヤーにありますが、ここを何とかしないといけないんです。

日本人はみんな外国のクラウドサービスやOSなどを買ってくることはできるんです。ユーザーとしては成熟しましたが、あのすばらしいアメリカ人の諸先輩方と同じようなものを、日本もこれからどんどん作らないといけないという課題があります。その作り方、大学の研究所やスタートアップ企業だけでは作り得ないものを、大企業の中では作ることができるんだと思います。

(スライドを示して)システムソフトウェアを船で表しますと、この図に示すように、赤い下の部分の船の船体を意味しております。ちなみに上のアプリケーションのところは、船の上に浮かぶ船室、例えばレストランとか、プールとか。豪華客船でしたらそんなものがございます。

アプリケーションは日本人でも作れるようになったんですけれども、システムの部分をどうやって作るか。船体に相当する部分はどうやって作れるか。我々はまずこのやり方を研究しないといけないのです。

アプリケーションという領域、我々はDXとかEC、eコマースとかビッグデータとか、AIとか言いますが、これらは大変がんばって作れるんです。

(これらは)もっとも上の領域のちょっとしたところでありまして、自由にできる範囲が狭まっています。開発者やシステム管理者、ユーザーは、この非特権的な狭い牢獄のようなところでAPIを呼び出して、システムソフトウェアに「何かやってほしい」と言うんです。

行政機関みたいなものがシステムソフトウェアで、上が民間みたいなところです。民間は狭いところしか見えず、特権領域は行政のほうが持っています。システムもほぼ同じで、民間のアプリケーションと行政的なシステムの間には、深淵の壁1というものが存在します。これもソフトウェアなんですけど特権レベルがぜんぜん違い、システムソフトウェアのほうができることの巨大な権力を持っているんです。

アメリカのMicrosoftやGoogle、Amazon、Apple。中国のHUAWEIとかAlibabaとか、そういうような会社が何をやっているのかというと、(スライドの)水色の部分のシステムソフトウェアの大きく分けると、左にはコンピューターシステム。その中にはOS、仮想化、クラウドというのがあります。

右にはネットワークシステムで、インターネットや通信システムというものがあります。この部分を日本企業は忘れていたんです。1990年代に始まったのがこの部分のおもしろいところで、日本企業はそれより前の1950年ぐらいから1990年ぐらいまで、下の黒いハードウェア領域のところをしょっちゅう(作っていて)、ここは世界最高になったんです。

しかし、その上でアプリケーションとの間にはシステムという部分が必要で、この部分を立ち上げるのをそっくりと(やっていなかった)。もう十分に利益を得て儲かっていた日本の企業は、第2の真ん中の黒よりも、上の青いところができていないんです。

この図のおもしろいのが、日本人にはノーベル賞級の超能力みたいな発明者もいるんですよ。物理世界の法則を生み出すんです。ハードウェアもできるんですよ。アプリケーションもできるんです。残すはシステムソフトウェアだけであります。

他の発展途上国や先進国は、この黒いところはできない可能性があります。アメリカ企業がすごいのは、全部できるんです。我々は残す水色のところをやりましょう。こういうことだと思います。

「日本人もこういうことができるんだ」の例

:「日本人もこういうのができるんだ」という例を紹介すると、例えばこの「SoftEther」というものや、VPNという外国の検閲、ロシアなんかの検閲をうまくすり抜ける分散型システムです。

新聞に載ったんですが、これはまさにシステムの通信の部分であります。

また、NTT東日本とIPAの我々でやっているのがテレワークのシステムで、これもシステムソフトウェアとハードウェアが非常におもしろく、Raspberry Piを大量に並べたんです。

それを発展させて、今度は自治体向け、日本には1,600の行政庁があるんですが、主にその多くは市役所、県庁の市町村です。(その方々が)テレワークを安全にするために「LGWAN」を作ったんです。

(スライドを示して)これのおもしろいのは、新聞記事にはまじめに書いてございますが、実際の裏側のところはなんとこういう手作りなインチキシステムになっていて。赤色のラックにIPAというけしからんロゴがありますけど、あれはRGBカラーを完全に再現して作った。そっちに手が込んでいて、中身は非常に手作りのインチキだったんです。

日本が持つ優位性と、それを妨げるもの

:インチキはいろいろあります。これは500万人ぐらいが利用している重要なシステムの写真で、これも自分らで作りました。2003年ぐらいから我々の集団はこういうものを(作り)始めていて。

今日はちょっと持ってきていないんですけれども、アメリカのMicrosoft社やGoogle社、Amazon社のAWSの発明、AT&T社はUNIXの発明、サン・マイクロシステムズ社はJavaの発明という(ことをしてきています)。

今示しているシステムやインフラの部分はスライドのようなおもしろいやり方で、そして単にアプリケーションのレイヤーに囚われることなく、ハードウェアもネットワークも電話局の中がどうなっているかとか、光ファイバーはどうかとか、全部のレイヤーを、少数の方々でもいいので統合して全部把握するということをなしえることができるのは、日本の豊富な垂直統合された生産部門から、販売部門から、いろいろなバックヤードから、他の連動する協力会社も全部要する巨大な機構は合理化され、機能分解されて(いるからです)。

外国の場合(これら)はバラバラになってしまったんです。でも、日本の場合は30年間、多くの大企業は生き残っているんです。

これはすばらしいことで、全部のレイヤーをわかった上で奥深く掘り進めるところは(なかなかできません)。実は氷山の一角、表面だけはMicrosoft、Google、Amazonは掘れるんですが、99パーセントの部分が日本企業のような全部を1社で持っているという会社が何百もあるというような。そこらへんを(掘ることで)初めて全部を総取りできるのではないかと思うんです。

先ほどの(お話に出てきた)システムソフトウェア、ハードウェア、そしてアプリケーションの全部が(日本は)できるということで、我々には他の国よりも優位性があるのだと思います。

それを妨げるものはいったい何であるか。十分なリソース、資源、優秀な社員の方々、設備。これを全部日本企業は持っているんです。1950年ぐらいからがんばって蓄えた富もあります。

ただ、それを使って社内で自由に試行錯誤するというふうなことが(できません)。日本人は非常にまじめですから。経営者や管理者の者たちは、ある程度の努力を持って試行錯誤を認めるということだけをやれば、あとは豊富な成果が自然に生ずると思われます。

我々は、IPAというけしからん役所、NTT東日本というもっとも日本でけしからんところでもやっているんですから、他の大企業や他の役所でもできる(という)のは間違いがないのです。

大学でも最近は「けしからん実験はやっちゃいかん」と。「インフラの実験なんかは危ないからやるな」というふうに言われるそうなんです。

もっとも厳しいはずの独立行政法人みたいなところに、大学生の方々が持ってきて、インターネットの基幹通信のソフトを自分で書いたりして。我々はそれをUFOとか宇宙人を匿うみたいな感じで、「おもしろ学生を匿う」ということをやっているんですね。これはIPAでやってきたんです。

昔大学にはそういうことがたくさんあったんですけれども、今はないんです。

大学も企業も役所もどうなっているかというと、自分の頭脳を使って独立していろいろな試行をする、(スライドの)図におけるAのような主体の方々、これは一定数もともといて、この方々が新しい技術革新・業務革新を起こします。その技術革新・業務革新をうまいこと大規模にスケールするというのが日本の大企業の成功したことで、これはBにあたります。

Aで技術革新をしてBでスケールをして、両方うまくいってお金がだいぶ儲かった。「じゃあどんどんとAの人材を増やそう」「そのためにBで金を儲けるんだ」みたいな、1970年代の日本の経営者はそういう夢を描いてAとBを始めたんです。これを1つの組織でやっていたんです。

ところが、長年やるといつのまにか「Bだけでいいんじゃないか」と。この30年間でAのやり方を忘れてしまったんです。

他の分野も日本はトップになっていて、鉄鋼、半導体、工作、化学、繊維、自動車、エレクトリック製品。これも全部トップになっていました。

AとBを単一の企業グループの中で、研究も現業も両方やっていたんです。我らがNTTもやっていました。他の分野もやっていました。造船業もそうです。鉄鋼業もそうです。全員が試行錯誤をやっていました。(だから)日本のITでもできるはずです。

もしそれをやれば、日本からもGoogle、Amazon、Microsoft、CISCO、Juniper、あとは中国のHUAWEIのようなすばらしい先輩のような会社を、既存の日本企業の設備、人材、体制をそのまま用いたまま作れると思います。

日本では大企業そのものがシリコンバレーの役割を果たせる

:投資家集団がシリコンバレーにはありますが、実は日本では大企業そのものがシリコンバレーの役割を果たせるんじゃないかと。それによって優秀な社員、大学ですごく勉強された優秀な社員の方々が、自律的な勉強をします。自律的な勉強は、コンピューターの勉強だけでは不十分な点があります。

経営、法律、哲学、化学、科学、物理学、数学、論理学。こういうふうなものを楽しみに任せるように広く浅くやることです。人間の頭脳、特に大企業やスタートアップ企業や役所にいらっしゃるような、勉強をすごく豊かになさった方は、自動的に頭の中でそれを統合して、初めて新しいアイデアを生み出すことができるんでしょう。それを機能分解して遮ってしまうことがないようにするのが、企業における経営者や管理職の方々の役割であります。

具体的に何ができるのか

:こういうふうなことをやろうとすると、「じゃあ具体的にどうすればいいんだ」と。それには準備が必要です。自分のわかる範囲はすごく浅いので1つの範囲だけを述べますと、コンピューターやネットワークに関する試行錯誤を行う環境が、1990年代の日本にはどこにでもあったんですね。どうもリクルート社にもあったようで。銀座のほうにもビルがあって。

銀座以外にもリクルートさんはたくさんビルがあるんですが、その地下奥深くにサーバールームがあって、大阪につながっている専用線のシステムのコンピューターが置いてあった場所とか。自分たちでシステムを試行錯誤して自作されていたのが、本日訪問しているリクルート社、巨大で豊富な会社を支える、先ほどのイメージ図でいうリンゴのマークのところを生み出した方々であります。

30年前(1990年代)のことだと思います。我々は今それを復活できますが、どの会社も単一で復活させることは難し過ぎるのです。ITの問題、ユーザー向けのITルールはあるんですけれども、「試行錯誤を自由にするコンピューターネットワークのルールをどうやって作ればいいか」「自由に通信の実験をしてインシデントが起こったら困る」と。

「しかし、ガチガチに拘束しては自由な実験ができない」「そのバランスをどうやって取るのか」「実験ネットワークは現用ネットワークとは少し異なるから両方用意しないといけないが、それは大変だ」と。これをどうすればいいかということに、登はこの数年間、2015年から取り組んでいます。

今やっているのは、自由な試行錯誤(の中)で、ネットワークを共同でみんなで使えるようにしようと(いうことです)。

(スライドを示して)この図は、余っている光ファイバーをけしからんNTT東日本から借りて、23区内の電話局の中に装置を置き、リングネットワークを作り、非常に高速で電話会社よりも良いものを我々が自分たちの手だけで作ったものです。専用線サービスには頼らないです。商用プロバイダーには頼らない。

今日のきっかけでお礼をしないといけないのは、2015年3月にリクルート社のある部門の方々が「実験用のネットワークを作りたい」とお話しをされて。我々は光ファイバーをやっていたので「じゃあ銀座、渋谷、あとは東京のグラントウキョウサウスタワーの本社の、その間にリングネットワークを組もう」と(いう話になりました)。それが発端でこれを始めたんですよ。

ということで、あれがなければこういうふうな活動をしなかったんです。それからどんどんと発展して、それがIPAの実験ネットワークにもなり、さらにそれが分岐をしてNTTの実験ネットワークになり。

本当はNTTがそういうのをやっていなければいけないんですが、NTT東日本はなぜかそういうネットワークはないんです。なので「それをやろう」ということで作り、この上にシン・テレワークシステムや自治体テレワークシステムも載り、多くの高校生、大学生、高専生も遊んでいるという感じです。

個人ができることは限られますが、登がやっているのは今のネットワークです。他のレイヤーでもこういうような社内の試行錯誤を自由に引き出すという措置を取ることは、大企業は豊富なリソースを持っていますからそれほど難しく(なく)、コストをかける必要もないことです。

トップマネジメント・経営者・管理職が「やりましょう」と言わないといけない

:問題は、そういうふうなことを誰が言うのかと。20歳ぐらいの方々も言うべきなんですが、そういうことはできるだけトップマネジメントの方々、経営者の方、管理職の方々がそういうことを言ってあげないと。「やりましょう」と言わないと、みんなまじめに、「他と同じように均一にやらないといけない」と勘違いしてしまうので、できないです。

戦後を、昔の大企業を思い出したならば、我々が(スライドの)左に述べているような、例えば半導体とか鉄鋼、自動車、化学。そういうレイヤーで(昔)日本は世界一になって。これは全部インフラストラクチャ産業だったんですが、今重要なのはそのハードウェアの上に精通している、先ほどスライドで述べたシステムソフトウェアの部分であります。そこを生み出すことです。

レガシーな日本企業に大量に存在する古いシステムを、いかにそのまま必要なところは延命して、必要なところは革新を加えて、その延命と革新の間の境界線を高度に融合するかという、極めて他の既存のイチから作ったモダンなシステムにはないおもしろさがあります。この問題は全世界の国や大企業が困っているので、そこを何とかすることは誰もできていないです。

Google、Amazon、Microsoftはモダンしかやっていないです。日本企業はこの部分ができます。そのレガシーとモダンの融合に起きる努力がシステムソフトウェアを確立するんだと思います。

これが我々日本企業における、システムソフトウェアのレイヤーの技術革新のタネになると思います。

以上でスライドは終わります。どうもありがとうございました。

竹迫良範氏(以下、竹迫):登さん、貴重なお話をありがとうございました。まさにリクルートは『ゼクシィ』とか『スタディサプリ』も新規事業で従業員が提案して始めたりしているような文化もありつつ、一方で、もうすでに仕上がっているような大きな事業もあって、それをいかに動かすかというところも大事です。

新しいものを作っていくということを両立させていて。確か2015年に「エムキャス」というテレビ局のストリーミング配信の基盤とかも作って。オープンなネットワークみたいなところも確かに一緒にやらせてもらったということで、すごく懐かしく思いました。ありがとうございます。

まさにGoogle、Amazonとかの黒船と日本はどう対抗できるのかという話ですが、まさに日本の大企業こそそういったものに打ち勝つことができるポテンシャルがあるということで、勇気づけられた思いがあります。ありがとうございます。

(次回につづく)

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