2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
提供:サイボウズ株式会社
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野水克也氏(以下、野水):さあ、3つ目のキーワードに行ってみたいと思います。今度は「好き嫌い」。基本的に僕が新入社員の頃は、「この仕事やりたくねえ」(と言うと)、「好き嫌いを言ってんじゃねえよ」と上からげんこつが飛んでくるような時代に育っています。
ここにいらっしゃる40代以上の人はほとんどそうだと思います。「好き嫌いは仕事に持ち込むな」と言われていたんです。でも今僕らは、好き嫌いは仕事に持ち込んでいいと思っているんです。ただ、その「好き嫌い」に違いがあるんです。
例えばサイボウズの場合。2018年の「Cybozu Days」のテーマは「楽しいは正義」だったんです。要するに楽しいこと、好きなことを一生懸命やっている状態が最高。そういう状態が仕事としても最高だねと、メッセージとして言っていたんですね。
例えば一番おもしろい例で言うと、うちは「取締役立候補制」だったんです。その次の2019年に「誰でも立候補していいよ」と言ったら、新入社員が手を挙げて立候補したんです。どうしたかと言うと、「新入社員だから断るという理由はないな」と思い、そのまま取締役にしたことがありました。1年間、新入社員が取締役の1人でした。
好きで手を挙げた人はとことん採り入れて、とことんそういう人でやってみようというのが我々サイボウズのいいところですが、時にはやはり「取締役を新入社員にするとあまりにコストがかかり過ぎる」という理由で、今はルールが変わっています。それでも立候補制は残っています。「好き」にこだわるのがサイボウズの一種の社風でもあるわけです。
野水:ところが、武藤さんのところになると違うんですよね。
武藤北斗氏(以下、武藤):そうですね。うちの場合は「好き」というよりは「嫌いなことをする必要はない」ということにこだわっています。表が出ていますが、これは「嫌い表」といって、毎月アンケートを採るんですね。最初は「何の作業が好きですか?」「何の作業が嫌いですか?」と聞き始めました。空欄は「どっちでもいい」です。
野水:どっちでもいい(笑)。
武藤:どうですか。みなさんから見て「×が多い」「○が多い」と、いろんな感想はあると思いますが、僕は「意外に×は少ないんだな」と思ったんですね。
緑の矢印があるところは「エビフライの計量」です。エビフライが何グラムか量っていく作業に対して、三者三様なんですよ。好きな人3人、嫌いな人3人、どっちでもいいが3人。そこで「嫌いな人がわざわざやることのメリットは何なんだろう?」と考えたんですが、一切出てこないんです。
武藤:もちろん「苦しいことに立ち向かってこそ仕事だ」という意見もあると思います。むしろ僕はそっちのタイプなんです。昔ボクシングをやっていて、とにかくがむしゃらにやるのが好きで、そこから見えてきたものはいっぱいあるんです。だけど、「嫌いなこと」をやるのはしっくりこなかった。
この表のいいところは、理由を一切聞かないことです。なんで嫌いか好きかを聞かない。プラス、毎月アンケートを採るから、例えば「エビフライの計量が嫌い」という人がこれに立ち向かいたいと思ったら、何も言わずに×を外せばいいんですよ。
野水:なるほど。
武藤:そうしたら、自分で嫌いなことに立ち向かうことができるんですね。立ち向かうか立ち向かわないかも決められるのが、この「嫌い表」のいいところです。でも、基本的にみんなそんなことしないですよ。やはり嫌なことは嫌。「好きな人に任せりゃいいや」ってやったら、本当に好循環が生まれていい工場になりました。
野水:これは「そうじ」に全部×を付けたら、そうじをしなくていいんですか?
武藤:これはそうなっていませんが、もし例えば全員が×にしたら、そこは平等に分ければいいという考え方ですね。
野水:なるほど。今のところは全部に×が付いて1人もいない工程はないんですね。
武藤:9割×が付いたのがあるんです。最近できた(項目な)んですけど、「テレビの取材」。
野水:すみません(笑)。
武藤:(笑)。メディアの取材はみんな本当に嫌いですね。
野水:わかります。うちもさすがに「出ろ」とは言えないので、それは(本人の意向を)聞いてやっています。
武藤:そうですね。そういう時は逆に平等にする。嫌いだとわかったら、何か対処法を考えようとしています。
野水:僕が行った時には「マスクを着けている取材は可」とか、細かくなっていましたよね。
武藤:そうですね。取材が嫌いでも、「みんなの前で話すのは嫌だ。1人だったらいい」とか、「顔が映るんなら嫌だ」とか、いろんな理由がある。そこを深掘りしていくと、「テレビ局の要求はこれ、自分たちの嫌はこれ。これとこれを合わせれば取材できるね」となっていくんです。
野水:なるほど、「化粧のノリが悪いから嫌だ」とかもありなんですね(笑)。
武藤:理由は基本的には聞かないので、もうなんでもありです。「どうだったらオッケーですか?」という聞き方はしますけど。
野水:この「嫌いにこだわって嫌いをなくす」ことと、「好きをとことん伸ばす」ことは、似ているんですが違うんですよね。嫌いな工程があったら、うちは「それは乗り越えなきゃダメだよね」となるんですが、武藤さんのパプアニューギニア海産さんの場合は「嫌いなことをなるべくなくす」。
武藤:そうです。僕「好きを仕事に」とか言われるとブルってするんですよ。
野水:そうなんですか。
武藤:なんか「きれいごとだな」と思って。
野水:すみません、きれいごとで(笑)。
武藤:(笑)。いろんなタイプがあっていいと思っています。
野水:それぞれ合っているタイプの社員の方がいらっしゃるんでしょうね。
武藤:そうですね。そっちを選んでくれればいいんだろうなという考えですね。「苦しまない」ってすごく単純に聞こえるんですが、2021年にあったことで、社交不安障害(SAD)を持っている従業員の方がいたんです。その人が本当に「辞めようかな」くらいの勢いで話をしてきて。
なぜかと言うと、工場に入る時には「おはようございます」とあいさつするんですね。僕はさっき言った通りボクシングをやっていて、「あいさつ命」なんです。あいさつがあってなんぼだ、これさえできれば何でもいいだろうぐらいの考えだったんです。
でも彼から「実は自分はあいさつができる日とできない日があって、できない日は喉まで出かかっているんだけど出てこないんです。だからどうしようか、仕事を続けられるかどうか」という話があったんです。僕は必死に彼のことを理解しようとしたんです。なんとか彼を理解しようと思ったんですが、正直言うと、できなかった。「あいさつ命」で40年間生きてきているので。
どうしようかと思い、最終的に「あいさつを『嫌い表』に入れてしまおう。選ぶようにすればいいんじゃないかな」というかたちで解決策にしようと考えました。要するに「僕は彼を理解するんじゃなくて、単純に認めればいいんだ」と。「お互い認め合えるような組織になればいいんだから、これは『嫌い表』に入れよう」と思ったんです。
武藤:普通だったら話はここで終わるんですが、パートさんは22人いるんです。彼だけ特別扱いしてはいけないんです。平等なので、みんなにあいさつできるかどうかを選んでもらうことが大事なんです。だから「これを入れました」と理由も説明して、次の日アンケートを採ったら、4人が×をしてきたんです。
野水:(笑)。
武藤:僕は本当にびっくりしました。「え? 『あいさつを禁止にしたい』という人が4人もいたの?」と。人間、わかっているようでわかっていないんです。「まさかあなたがあいさつに×したの?」と思うような人もいたんですよ。
(僕は従業員のことを)まったく理解してないんだなと。だからこそ対話が大切で、きちんと対応していくことの連続が、組織の変革につながっていくんだなと思った事例でした。
野水:苦しむポイントは本当に人それぞれなんですね。「あいさつで苦しい」という人もやはりいらっしゃるんですね。
武藤:本当に驚きでした。
野水:ありがとうございます。
野水:では4つ目のテーマです。今度は「どういう効果が出たか」。気になりますよね(笑)。こういう働き方をしたら、どういう効果が出たのか。
サイボウズの場合、単純に売上が上がりました。みなさまのおかげです。ありがとうございます。単純に、離職率が高いと売上は増えないんです。離職率が下がって社員の定着率が上がって、さらにそれが評判を呼んで新しい優秀な社員が入ってくると、売上は伸びていくものだと、我々はつくづく思いました。
ただ制度だけ整えてもダメです。私たちの場合、例えば社長が進んで育休を取った結果として、社内の男性も育休をぼんぼん取っていますし、育休を3回取っている社員もいます。
「介護休暇もありですね」ということで、いろんな休暇を取っている社員が出てきているので、やはりトップが率先して社風を変えていくことが大事だなとつくづく感じております。次はパプアニューギニア海産さんの場合ですね。
武藤:うちの場合、とにかくシンプルに辞める人が少なくなりました。
野水:やはり減るんですね。
武藤:2022年は何人かいろいろ理由があって辞めたんですけど、2021年までは3年間誰一人辞めなかったんですよ。
野水:パートさんが3年間辞めない会社は、すごいですよね。
武藤:すごい。しかも水産工場は人の入れ替わりがものすごく激しいので、そこで3年間誰も辞めないのは、僕も奇跡的だなと思っています。人が辞めないということは、要するに新人が入ってこないんですよね。そうすると、みんながベテランになっていく。ベテランになった人たちが職場で争いのないかたちで働いていれば、当たり前のように品質と効率が上がっていくんですね。
野水:そりゃそうだという感じですね。
武藤:当たり前過ぎるんですけど、それが起きたので、人件費で言えば3割ほど減りました。売上も伸びていますし、とにかくプラスしかないです。
野水:プラスしかない。でも、マイナスも書いてありましたね。
武藤:そうですね。このマイナスはちょっと自慢しているようなものですが、応募がとにかく多すぎる。パートさんの応募が全国から来るんです。「受かったら引っ越します」と。
野水:受かったら引っ越してくる(笑)。アルバイトをやるために、受かったら引っ越してくるんですね。
武藤:そうです。実際に引っ越してきた人もいます。だけど、それはやはりプレッシャーなんですよ。
野水:そうですよね(笑)。
武藤:お金をかけて引っ越してきて、実際やってみると合わないという人もいるんです。
野水:そりゃそうです。
武藤:先ほどの僕のテンションですから、「『好きを仕事に』? 気持ち悪い」と言ったら、「ええ? 僕はそういうのが好きです」と言う人もいるし。
野水:「僕は情熱をかけにきたんですけど」と。
武藤:そうです。(応募者の方は)僕のことをめちゃくちゃいい人だと思って来るんですが、ぜんぜんいい人ではない。
野水:いい人じゃないんですか?(笑)。
武藤:はい。
武藤:単に「こうやったほうが会社にとってプラスだよね」ということが世間的に評価されているだけの話なので、優しいかと言われると、僕自身も従業員と仲良くする気はぜんぜんないので、「冷たい」と言われます。
野水:従業員と仲良くする気がない(笑)。今さらっと言いましたよね。
武藤:本当にないです。僕も正直その気がないし、みんなが求めてないと思う。
野水:別に社長と仲良くなれとか、贈り物をするとかはないと。
武藤:はい、飲みに行ったりとかは一切ないです。みんなと平等に付き合いたいんです。絶対に一部の人と仲良くなることになってしまうので、それだったら僕はもう全員と仲良くならないという選択をしました。
野水:逆に普通の中小企業の社長が「おい、飲みに行こう」と言っている時は、懐柔したいという思いがあったりするわけですよね(笑)。それを懐柔するのではなく、システムで片付けようということですね。
武藤:そうですね。ルール化をしていくことで(解決したい)。だから(うちの会社の場合)「飲みに行こう」は逆効果で、そんなことは求められてないだろうなという気はしていますね。
野水:ありがとうございます。残り5分なので、そろそろまとめに入っていきたいと思います。どっちもそうなんですけど、冒頭の話で言うと、アンケートの結果、社長は「残業手当が減った」と喜んでいる人が多かった。社員の人は「働き方改革で幸せになってない」と言っている人が多かった。ここと考え合わせると、働き方改革の順序が違うと思うんですよ。
働き方改革の最初には、やはり「幸福度向上」があって然るべきだと思うんです。よく最初に「目的は生産性向上」と言われるんですが、武藤さんの話を聞いたらわかる通り、生産性向上は結果なんですよね。
要するに社員が幸せになって、負担のない働き方でずっと長く働いてくれるから、当然、労働生産性は上がって、チームがうまく回って、結果的に生産性が上がりましたという話になるんです。
武藤:そうですね。一時的な生産性の向上という話であれば、圧力をかければその瞬間だけは良くなる可能性はあるけれども、それは会社や組織にとっては本当の意味では上がってないですよね。長い目で見て上げるためにはどうしていくかと言うと、人材をどう育成していくかになると思います。もう「大切にする」しかないですね。
野水:そうですね。我々の会社でも、今、会社を変えているのは主に若い人です。次の儲けを作っていく若い人たちが、率先して好きに働ける現場を作るほうが大切で、逆に年長者としてはなるべく口を出さない(笑)。そういうポジションになりつつあるなという感想です。
野水:もう1つは、やはり多様性だと思うんです。みんなが幸せになれるのが一番いいなと思っています。例えば、我々の会社はどちらかと言うと成長志向の若者が集まってきます。
最初の面談の時から「僕は独立するための勉強としてサイボウズに来ました」という人がいます。昔だったら「何言うてんねん」という話になるんですが、うちの会社はオッケーです。そのための過程で、うちの会社でばりばり働いていただければいいだけなので。
またはステップアップ志向で、「もっと給料の高い会社に転職したいんです」。それもオッケーです。ところが、今まで給料がうちより高い会社に転職した人はたくさんいるんですが、半分ほどは戻ってきています。
自分の欲しいものが何かよくわかってないのもまた、人間の本性かなと思います。他にも出世志向で、うちの会社の中で上に上がりたいという人も当然いらっしゃったりします。
これに比べて、パプアニューギニア海産さんの場合はどちらかというと安定志向で、収入の手段として職を選ぶ方が多かった。でも、その中でもいろんなタイプがいらっしゃいますよね。
武藤:そうですね。「みんなが幸せになる」状態は、ちょっときれいごとに聞こえがちではあるんです。でも実際に今は22人のパートさんがいて、会社全員で30名弱ですから、本当に小さな会社です。その状態で障害を持っている人が何人かいるんです。国のルールでは雇用する必要はないことになっているけれども、「この会社だったら働ける」という方がすごく多いんです。
その中には、手帳を持っている人もいれば、発達障害と呼ばれるような人もいる。先月で言うと「てんかん」を持っている人が工場勤務をすることになりました。普通てんかんを持っていると言ったら、その時点で工場勤務はたぶんアウトだと思います。
でも「対応できることはないのか。本人が大丈夫、お医者さんも大丈夫だという状態で来ているのであれば、一緒に考えていこう」ということをやり始めているんです。
武藤:そうやってみんながお互いを認め合い、お互いの幸せを本当の意味で求め合うと、その組織では安心できるんです。「自分はこの組織にいていいんだ。この場所にいていいんだ。争いがなくて安心できる場所がある」と思えたら、「ここでがんばろう」と思えるんですね。
これは経営者にとっても、ものすごく心地がいい。誰にとっても心地が良い場所なんですね。そこで生産性が上がるのは当然のことだと思います。今すごくそれを実感しているので、広げていきたいなと思っております。
野水:ありがとうございます。我々の会社でも障害者雇用は1つのテーマになっていて、ちょうど今、僕らが社長室で取り組んでいる最中です。サイボウズは一応ベンチャー企業の端くれなので、どうしてもつい社員の成長やノルマを考えてしまうんです。
でもパプアニューギニア海産さんを見に行って、今お話を聞いて、「やり方を間違っているな」とつくづく思いました。やり方を勉強して、十分取り入れていきたいと思いました。
結局は「働きたくなる職場になること」が一番である。そうなればみんなが働いてくれるんだという、この2つの単純な話なんですが、これがなかなかできていなかったりします。
今日のお話の中で、どちらの働き方を採るか、それとも融合するか、いろいろあると思いますが、ぜひ「働きたくなる職場」にする働き方改革をしていただければと思います。武藤さん、今日はどうもありがとうございました。
武藤:どうもありがとうございました。
(会場拍手)
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