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基調講演 宝島 ーDXの勇者たちー(全3記事)

2023.03.06

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日本企業は「モノ売り」に慣れすぎたのが1つの敗因 さくら田中氏とサイボウズ青野氏が語る「サービス売り」への転換期

提供:サイボウズ株式会社

サイボウズ株式会社が主催する、クラウドサービスの総合イベント「Cybozu Days 2022」。今年のテーマである「宝島 ーDXの勇者たちー」には、自社の業務改善に一歩踏み出した“勇者たち”の事例を宝島で宝探しのように見つけて欲しいという思いが込められています。本記事では、基調講演の中で行われた3組のディスカッションの中から、さくらインターネット株式会社の田中邦裕氏とサイボウズ株式会社の青野慶久氏による、「モノ売り」から「サービス売り」への転換期の対談をお届けします。

社員3人から1,000人を超える会社に成長したサイボウズ

青野慶久氏(以下、青野):みなさんこんにちは、サイボウズの青野でございます。(冒頭で流れた曲について)すてきな音楽でしたね。みなさま、お楽しみいただけましたでしょうか? やはり五感で感じるリアルな音楽は最高ですね。これを聴くために生まれてきたんじゃないかと思うくらいにすばらしかったですね。ありがとうございます。

さて「Cybozu Days」は、今からDay2の始まりです。こちらの基調講演では、まず少し自己紹介などをさせていただいてから、お三方のゲストをお招きして、お話をうかがっていきたいと思います。

まず私は、1971年生まれの青野慶久と申します。昭和46年生まれなので、昭和どストライクゾーンな感じですね。最初に見たアイドルはキャンディーズという世代でございます。

そして、私たちが作ったサイボウズという会社も25周年になりました。最初に作った時は3人だけの会社でしたけれども、今はずいぶん大きくなりまして、1,000人を超えるぐらいの大企業になってきたところです。

そして、プロダクトも主に4つのグループウェアを作っております。今力を入れている「kintone」はドラッグ&ドロップ、いわゆるプログラミングをしなくてもノーコードで業務アプリケーションを作れるというツールになっております。

そして、右側の「サイボウズ Office」。サイボウズ Officeは中小企業さんが必要とする情報共有のアプリ。例えばスケジュールやファイルを共有したり、掲示板を作ったり、ワークフローをしたり、報告書を書いたり。こういったグループウェアアプリケーションツールがワンパッケージになった、中小企業さまでよく利用されているグループウェアになります。

そして、左下に行きまして「Garoon」。Garoonは規模の少し大きなお客さま向けの管理機能の充実した、また拡張性に優れた、APIなども揃ったグループウェアになっております。

そして右下の「メールワイズ」。メールのやりとりって面倒くさいですよね。どうしても個人メールになってしまうと属人化してしまうんですけれども、このメールを共有してみんなで読んでみんな書く。メールのやりとりをチームワークにしてしまうというお宝ツールが、メールワイズになります。

DXに取り組む勇者たちが語る、ノウハウとヒント

青野:ということで、さっそく本題に入っていきたいと思います。2022年のCybozu Daysのテーマは「宝島 ーDXの勇者たちー」にさせていただきました。

DXやデジタルトランスフォーメーションは、この数年よく使われる言葉になりましたし、おそらく今日いらっしゃっている方はみなさん、何らかのかたちでDXにチャレンジされていると思います。

DXもいろいろな会社がチャレンジして、だいぶノウハウがたまってきたので、ここで1回ぜひ、DXに取り組む勇者たちに集まっていただいて。情報交換して刺激し合って、また明日以降のヒントにつながるような宝物を持って帰っていただこうという趣旨で、このテーマを設定させていただきました。

そして、今から基調講演のゲストをお招きしますけれども、こちらのお三方にお越しいただいております。1人目がさくらインターネットの田中(邦裕)社長になります。田中さんは、非常に若くしてさくらインターネットを起業されて、今や日本を代表するクラウド事業者となられました。

また最近は、私たちのようなソフトウェア企業がたくさん集まる、ソフトウェア協会という大きな業界団体の会長にも就任されたということで、IT業界を代表してDXをどう見ておられるのか、お話を聞いてみたいと思います。

そして、2人目が信幸プロテックの村松直子専務になります。信幸プロテックさんは、もともと岩手県に拠点を置き、空調設備の施工・保守をされている会社です。そして、村松さんが入社されてから社内のDXに取り組み、今順調に業績を伸ばされているということで、ユーザーを代表してぜひお話をうかがってみたいということで、お呼びさせていただきました。

そして、3人目のゲストが武蔵大学の庄司昌彦教授になります。庄司先生は社会学部の先生をされながら、いろいろな地方自治体のDXのアドバイザーや、それこそ総務省をはじめとする政府のDXのアドバイザーをされています。ぜひより広い社会的見地から、学者の立場からDXをどう見ておられるのか、お話をうかがってみたいと思います。

18歳で起業した、さくらインターネットの田中邦裕氏

青野:ということで、最初のゲストをお招きしたいと思います。さくらインターネットの田中邦裕社長になります。大きな拍手でお迎えください。

(会場拍手)

青野:ようこそお越しくださいました。

田中邦裕氏(以下、田中):ありがとうございます。

青野:よろしくお願いします。

田中:いや、これはすごく圧巻ですね。

青野:あはは(笑)。ええ、そうなんですよ。毎年イベントをしているんですけど、こちらの基調講演はたぶん、一番お客さまが多いステージになります。では、どうぞおかけください。実は、田中さんとはほとんど打ち合わせなくこの場を迎えているんですけれど(笑)。

田中:そうですね。時間と場所だけ決めてやってきたという感じですね。

青野:せっかくなので、さくらインターネットさんについて調べさせていただいたんですけど、創業が1996年。サイボウズは1997年なので、サイボウズよりも早いですよね。でも、僕と田中さんは年がたぶん7つぐらい違うので。おいくつで起業されたんですか。

田中:18歳で起業しまして。

青野:18歳ですよ。すごくないですか?

田中:いわゆるネットバブルがぐっと来るということだったので。

青野:でも1996年だから、Windows 95の次の年ってことでしょう?

田中:まさしくそうですね。

青野:めっちゃ早くないですか?

田中:いや、ちょうどタイミングが良かったんでしょうね。Windows 95も来たし、インターネットも来たし、そういういい時期だったのかなと思いますね。

経営者自身が「自分が入って働きたい」と思えるような会社

青野:最初からデータセンターをやろうという感じだったんですか?

田中:いや、実はデータセンターは我々にとって手段でしかなくて。サーバーインフラ、クラウドインフラを提供しようというのがもともとのきっかけで、手段にこだわる中で突き詰めるとデータセンターを作っちゃったという感じですね。

青野:なるほど。最初はサーバーをみんなに貸してあげていたのが、やはりガチでやろうと思ったら、データセンターを作らなあかんぞみたいな。

田中:そうなんですよ。最近サプライチェーンだ何だと言われますけれども、結局自分で作るのが日本の強みでもあるような気がしていて、エンジニア出身なので作っちゃったという感じですね。

青野:そういう意味では、日本でもデータセンターを運営している企業はいろいろありますけど、さくらさんは本当に下から上まで全部やっちゃいますよね。

田中:そうですね。だからおもしろいのが、モノに投資しているけれども、サービスで食っている会社なんですよね。普通はソフトだけ作ってサービスを提供するか、ハードを作ってモノを売るかのどっちかなので、モノに投資してサービスを提供する会社は意外と少ないんですよ。

青野:そうなんですよ。なので、けっこうコアな技術者が、やはりさくらさんのところに集まっている印象ですよね。

田中:そうですね。最近は就職先として会社を捉えようと考えています。「人材が欲しいからITエンジニアを探そう」というのもなんだかおこがましいなと思って。会社は人を雇ってビジネスをするのも大事なんですけれども、そもそも就職先として人を雇うこと自体も社会貢献だろうと。

なので、エンジニアがいつまでも就職したい会社であり続けると、たぶん子どもたちが「将来エンジニアになろう」と思うので、そういうことも1つのテーマかもしれないですね。

青野:エンジニアが入って楽しく働けるという。

田中:そうなんです。「自分が入って働きたい」って、経営者が思わないとやはりダメなのかなと思いますよね。

青野:なんだか、ソニーが言っていた「愉快なる工場を作ろう」っぽいですよね。

田中:まさしくそうなんです。あの設立趣意書が好きで。やはり会社というのは、モノを作ることも重要なんだけれども、人が働くこと自体がやはり社会の価値だろうというのがソニーの設立趣意書かなと思いますよね。

いい社員を雇って伸びている業界にいれば、経営は何とかなるもの

青野:IT起業って世の中にいっぱいありますけど、田中さんみたいに本当にガチエンジニアで起業されている方って実はそんなに多くなくて。そういう意味では、さくらさんはすごくユニークだなと思って見ています。ただ、創業が1996年ですから、2022年で26年。

田中:26年ですね。26歳年を取った感じですね。

青野:ねえ。サイボウズも25年なので、25年と26年でちょっと振り返ってみたいんですけど。どうでした? この25年、26年、四半世紀。ITがWindows 95によって盛んに使われるようになってきて、変わってきましたかね?

田中:変わってきましたけれども、なんだか経営って、いい社員を雇って伸びている業界にいればなんとかなるものだなというのが26年の感想ですね。

青野:IT業界はだいぶ注目されるようにはなってきましたけどね。

田中:そうなんですよ。ただ、ホームページみたいな市場は10年ぐらい前にだいぶ成熟しちゃっていて、その後データセンターの波も来ましたけれども、最近(のデータセンター)は不動産会社さんが中心になっています。最近はクラウドが来て、サーバーからデータセンターに、最近はクラウドということ、さくらも実は業容を変えているんですよね。

青野:なるほど。

田中:常に伸びるところでやると、会社はなんとかなるという感じですね。

青野:最初にダッと行った時はレンタルサーバーをね。めっちゃ安くて高性能なレンタルサーバーで、だんだんVPS(仮想専用サーバー)になったり、それからクラウドになったり。今、IoTもけっこうされていますよね。

田中:そうなんですよ。なので、いろいろな意味で伸びる業界というのは……。何でしょう、ITの中でも全部が伸びているわけじゃないじゃないですか。例えばサイボウズさんでも、パッケージソフトも重要だけれども、やはりクラウドシフトするという選択がなかったら、ここまで来なかった可能性があるし。

あとはスケジューラも重要だけど、ノーコードの礎を作ると伸びるじゃないですか。だから、同じITの中でも「何が伸びるか」に注目するのがけっこうポイントなのかなと思いますね。

青野:そういう意味では25年、日本はデジタル化が進まないと言いながらも、なんだかんだでやっている人たちは業容を転換しながら、新しい価値を、新しい価値をということでがんばってきた感じでしょうかね。

田中:そうですね。まさしく。

競合は、ガチ強い「スーパーグローバルIT企業」

青野:ちょっとまた視点を変えてみたいんですけど、さくらインターネットさんって、競合がガチ強いところじゃないですか。

田中:ガチ強いところですね(笑)。

青野:クラウドとなった瞬間に競合が巨大資本、それこそ日本の企業が1,000社束になっても勝てないような、スーパーグローバルIT企業を相手に競争しないといけないじゃないですか。

田中:そうですね。

青野:あれはやはり大変じゃないですか?

田中:そういう意味だと、やはりサイボウズさんもマイクロソフトさんとか、グローバルのITのGAFAみたいなガチライバルがいると思うので、いろいろ学ばせてもらっていますよ。

青野:いやいや、すごいなと思って。インフラに行けば行くほど、どうしてもプレイヤーがグローバルになってくるので大変ですよね。

田中:あと、SaaSになればなるほど国ごとの文化というのもありますけれども、レイヤーが下がってくるとカルチャーはほとんどなくなりますので。そういった意味では、けっこうハードな戦いではありますよね。

青野:本当に、性能と価格とパフォーマンスですよね。

田中:そうなんです。

ユーザーと求職者に選ばれる、テックカンパニーであり続ける

青野:とはいえやはり、先ほど申し上げたように、いい人を雇って伸びているマーケットだったらなんとかなるということなので、やはり日本のインフラエンジニアが就職したい会社になり続けるというのはけっこうポイントなんですよね。

田中:やはりAWSのインフラを作るとなるとアメリカへ行かないといけないし、日本だとサポートなどが中心になるので。そうなると、いい人が就職してくれている環境さえ作り続けられれば、これは勝ち負けと言うよりは排除されないというんですかね。ちゃんと残ることが重要かなと思います。

青野:(働きたい会社の)選択肢の1つとして。

田中:まさしくそうです。大いなるオルタナティブがないと、やはり消費者の方の選択肢がなくなるじゃないですか。そういう意味だと、固有名詞を出しちゃうと、AMDやOperaなどの戦略をすごく学んでいます。絶対なくならないですよね。

青野:なるほど、なるほど。そうですね。

田中:だから大いなるオルタナティブとしてのインフラ企業は、やはり日本に必要じゃないかなということと、就職先としてのインフラ企業ということ。この2軸なのかなと思いますね。

青野:おもしろい。ちょっとAMDの話が出たのでびっくりしました。

田中:そうですね。ちゃんと技術者を雇っているから、たまにハチの一刺しみたいに、インテルが「おっ」てなるんですよね。

青野:なりますよね。時々すごいものを作ってね。「おいおい、すげえな」みたいな。

田中:そうなんですよ。やはりそういう会社であり続けたいですね。テックカンパニーであり続けたいという思いですね。

産業が一度途絶えると、人材の育成・供給も途絶える

青野:今朝ニュースを見ていましたら、日本の半導体産業がずいぶん衰退しちゃったので、もう1回ちゃんと日本で半導体を作れるようにしないと、次に半導体不足が来た時にやばいぞと言って、今やっているんですね。そういうものを見ていても、やはりオルタナティブの大切さを思いましたね。

田中:そうですね。あとは半導体で言うと、研究室がなくなりそうだったんですけども、半導体をまた強化するというので、大学の研究室が残りそうなんですよね。

青野:おお。

田中:要は、やはり30年とかの単位で学問ができて産業ができるわけですけれども、1回絶たれると勉強する人がいなくなるので、人材が供給されなくなるんですよね。そういう意味だと、サプライチェーン側と言うよりも人材供給側の大学、研究機関にしてもぎりぎりのタイミングだったと思いますね。

青野:なるほど、おもしろい。この視点はなかったですね。本当にコアエンジニアたちがちゃんと学び続けて、さくらさんのようなところで活躍し続けられる。やはりこの流れを大切にしたいなと、今お話をうかがっていて思いました。ちょっと盛り上がりすぎそうなので、次の話題に移っていきたいんですけど。

田中:そうですね。どんどん行かないと。

青野:田中さんは今、ソフトウェア協会というソフトウェア企業の一番大きい団体の会長に就任されまして。もともとね、孫正義さんが作られた団体で、「Software Everywhere」というキーワードで今、もう1回ビジョンを作り直しているところです。

ソフトウェア協会は、いわゆるアプリケーションを作っている人たちの集まりだったんですよ。ところが、ここでまさにクラウド側の人で、設備まで持っている田中さんが、ソフトウェア協会の会長になられた。なんだかもう「クラウド時代の象徴だぞ」みたいなね。

その方が「Software Everywhere」という言葉を使われているのは、僕はすごく象徴的だと思ったので、もしよろしければこのへんをお話しいただけませんか。

「ソフトウェアは国家なり」という時代へ

田中:そうですね。まず、ソフトウェア協会は40年前の1982年に孫正義さんが立ち上げて、実は青野さんにも筆頭副会長を引き受けていただき、一緒にやらせていただいている団体です。もともと日本パーソナルコンピュータソフトウェア協会(パソ協)と言っていて、IT健保の母体でもありました。

実はパッケージというモノじゃなくて、ソフトウェアが本当にソフトウェアのまま動くような世界になってきたと。ソフトウェアもパッケージとパソコンだけじゃなくて、本当にハードウェアの中にも入って、すべてのモノにソフトウェアが入っています。「鉄は国家なり」「半導体は国家なり」の次に「ソフトウェアは国家なり」という状況に、今まさしく来ているわけなんですよね。

そういう意味で言うと、単にパソコンで使うソフトウェアと言うよりも、すべての社会に含まれるソフトウェアにフォーカスして、それを発展させていこうというのがテーマですね。

青野:そう言えば、確かに昔は「パソ協」と言っていましたね。日本パーソナルコンピュータソフトウェア協会だったんですよね。だから、その時の業界としては、クラウドの概念がまだなかったと。

田中:そうですね。

青野:けっこう最近までなかったのが、クラウドでどこでもソフトウェアになってきて。

田中:最近だと、AWSさんもGCPさんもマイクロソフトさんも会員で、理事にも就任いただいていますから、そういった意味で本当にオールクラウド、オールソフトウェアの団体ということで広げていきたいなというところですね。

青野:最近、新規入会会員を見ていても、ぜんぜんIT企業でもないところも入ってこられているじゃないですか。

田中:そうなんです。ユーザー企業さんがすごく入ってこられています。昨日、実はIPAさんとの情報交換会に行ったんですけれども、情報処理技術者試験の受験者数が爆増していて、その多くが一般企業さん、ユーザー企業さんだそうです。

なので、ユーザー企業さんが(自社で)エンジニアを育てている。業界団体は業界の人間しかいなかったのにユーザー企業さんが入ると、業界団体のノウハウを全部持っていけるということで、2021年に定款を変更したんですね。

それまではユーザー企業さんは入れなかったんですが、「『Everywhere』と言うなら、ユーザー企業さんも入れるといいんじゃないの」という話でこうなったという状況です。

システムやソフトウェアは、新たな社会インフラ

青野:やはりどの企業もソフトウェア企業になり得るし、むしろならないといけないという感覚でしょうかね。

田中:だから、コストダウンのためにITを使うと言うよりは、ITでビジネスを作っていったり。それこそ鉄道会社さんも航空会社さんもITが止まると営業できなくなりますから。

青野:確かに。

田中:単なるコストダウンじゃなくて、営業拠点としてITを使っているものですから、そこは大きな違いなんでしょうね。

青野:いや、ずいぶん変わってきましたね。この前も病院がちょっとクラックされたりして、しばらく商売できないとかね。やはり本当にシステムがインフラなんだなって、あらためて思わされますよね。

田中:そうですね。だから、インフラが1つ増えたという認識を持たないといけないですね。“ソフトウェアインフラ”というかね。

青野:なるほど。電気・ガス・水道みたいな感じで「ソフトウェアがここを走っているよね」みたいな。

田中:それがないと、実は電気も止まっちゃう。だから、そういう意味だと(生活基盤の)一番下にソフトウェアが来ると考えてもいいのかもしれないですね。

青野:おもしろい。制御しているのがソフトウェアだから、ある意味ソフトウェアを一番下に考えたほうがいいぐらい。

田中:そうです。昔の車はソフトウェアが入っていなかったので、ガソリンを入れれば動きましたけれども、今はソフトウェアが止まると車は動かないですからね。

日本が海外のIT企業に差をつけられた理由

青野:いや、おもしろいですね。ただ、この25~26年を振り返ってみますと、僕の中ではちょっと海外勢とは差をつけられたなという感覚もあるんですよ。

田中:ありますね。

青野:だけど25~26年前は、まだ日本で検索エンジンの会社があったり、パソコンもばんばん作っていました。今や日本のメーカーはあんまりパソコンも作らなくなったし。途中、携帯電話が盛り上がって、iモードが写真が撮れる日本の携帯と褒められていたのが、気づいたらもう、スマホに完全にプラットフォームを持っていかれたという。

このへんって、田中さんからはどんなふうに見えているんですか? 「それはそうなるやろ」と見ておられるのか、どうですか?

田中:そうですね。やはりモノを売っちゃダメだということだと思います。アップルもiPhoneというモノを売っているように見えても、ほとんどソフトウェアを売っているようなものですよね。なので、ソフトウェアでありサービスを売ることがポイントだと思うんですよ。

4象限を取っていただいたら良くて、モノを売るのか、サービスを売るのか、ソフトウェアを作るのかハードウェアを作るのかということで言うと、ソフトウェアを作ってサービスで売っているのがネット企業ですよね。

それに対して、モノを作ってハードウェアを売っているのがメーカー。でも、日本の多くのIT企業さんはソフトウェアを作っているんだけれども、受託開発やパッケージソフトなど、モノのように売っているじゃないですか。

あともう1つ。インフラ企業は、ハードウェアを作って、それをソフトウェアやサービスとして売っているじゃないですか。(日本のIT企業は)どうしてもインフラ企業やネット企業にならずに、メーカーやソフトウェアをモノのように売るほうにシフトしてしまっていた。モノとして売ることに慣れすぎていたのが、やはり1つの敗因だと思っています。

モノとサービスに見る、売り方と価値創出の違い

青野:ある意味、モノを作ってたくさん儲けられたので、そのモデルから抜けられなかったという感じですね。

田中:そうなんですよ。だから結局、携帯会社みたいなインフラの会社は、なんだかんだ意外と儲けているわけじゃないですか。菅さんに携帯電話(料金)を下げさせられて、大変なことになっているみたいですけれども。そういった意味で言うと、やはりモノではなくサービスを提供するという社会が(来ている)。たぶんクラウド化もまさしくそうですし。

青野:そうですね。

田中:あと「モノからコトへ」みたいなキーワードがあって、観光なんかも「モノじゃなくサービスとかコトなんだよ」となっていますけれども、「モノからコトへ」の転換がIT以外でも起こるべきだし、ITでもそれが起こっていればこうはならなかったんだろうなと思いますね。

青野:確かにビジネスモデル観でしょうね。モノを売るのではなくサービスを売ること、お客さまに喜んでもらうこと自体が価値なんだというのは、大きな差がありますよね。

田中:モノって、売った時点から劣化が始まるわけじゃないですか。だって、メルカリで販売する時も定価よりも安いわけですよね。でも、サービスは始まってからどんどん価値が上がります。システムも納品されてからは(古くなっていくので)使いにくさが増していくわけですけれども、クラウドだったらどんどん便利になるわけですね。

青野:サービスですから、どんどん改善されていく。

田中:そうなんです。お客さまにとっての価値は、売った時点で確定してそこから劣化するよりも、売った時から上がっていく。カスタマーサクセスと言われますけれども、米系のソフトウェア会社はそういうふうにやってきたのがポイントなんじゃないかなと思いますね。

青野:サービス売りの時代にまだモノ売りをやっていないか、ぜひみなさんのビジネスに当てはめていただいて。DXはもしかしたら、ビジネスモデルの転換かもしれないということを、ちょっと認識いただければうれしいです。

田中:あと、モノで売るにしても値段を上げて売るという癖づけですよね。モノを売るなら高く売る。安く売りたいんだったら、モノではなくサービスとして売っていく。サービスとして面を広げていけると当然コストが下がってきますから。

やはりコストを下げてモノを売るのは、こういう時代は難しいんだろうなと思います。原価も上がるし、いわゆるサプライチェーンの信頼性も担保しないとならないのかなと思いますね。

ソニーがプレステのために別会社を立ち上げたわけ

青野:なるほど。今、田中さんのお話をうかがっていて、2022年にお亡くなりになったソニーの出井(伸之)さんと、1回だけお話しさせていただいた時のことを思い出しました。その時にプレイステーションのお話をしたんですよ。出井さんはプレイステーションをやる時に別の会社を作られて、そちらでやっていたんですよね。

田中:おお、なるほど。

青野:「なんでですか?」とお聞きしたら、「やはり原価で計算して価格を設定する人たちには、あの(ソフトウェアを売るというビジネス)モデルは無理なんだよ」というお話をしていて。

ウォークマンだったら、「これを作るのに1万円かかるから2万円で売りましょう」と。でも、プレイステーションは、とにかくソフトウェアサービスで稼いでいくから、5万円で作って3万円で売らないといけないんですね。「やはりこれが文化と合わなくて別でやったんだよ」という話をされていました。

田中:そういう意味で言うと、モノを売るとなると売った時点で(売上を)確定しないといけないから、原価を積み上げざるを得ないんですよね。でも、ソフト産業やサービス産業の場合は、ライフタイムバリューの中で回収すればいいので、原価をあまり意識しないですよね。

だって、データセンターを作るのに100億円も200億円もかかるのに、VPS(仮想専用サーバー)は(月額)1,000円以下で売っているわけじゃないですか。原価の積み上げだと絶対合わないわけですよ。でも、10年使ってもらえればぜんぜん割に合うという話ですよね。

青野:いや、おもしろいですね。みなさんいかがですか? みなさんもこれからソフトウェア企業に変わっていく可能性があり、その時に発想すべきは、やはりビジネスモデルの転換ですよという教えをいただいた気がします。

10年後の世界観を変えるのは、新しく事を成そうとする人

青野:あと5分ぐらいになってきました。ちょっとお聞きしてみたかったのですが、田中さんはめっちゃスタートアップを応援されますよね。あれはどういう意図なんですか?

田中:僕の田中邦裕という名前は「国を豊かに」という思いで親が付けたらしいんですけども、本当にシンプルに日本が良くなったらいいなと思っているんです。

新しく事を成そうとしている人たちを応援することで、たぶん10年後の世界線がぐっと横にずれるんじゃないかなと思うんですよね。このまま行くと、ちょっとお先真っ暗じゃないですか。でも、スタートアップや若い人となら、そうじゃない未来を作れるだろうし、やはり新しい事を成す人が日本を良くすると思ってやっていますね。

青野:私はやはりそのへんに、まさに四半世紀でアメリカや中国やその他の国々とちょっとデジタルで差をつけられちゃった理由があると感じるんですよね。

田中:そうなんですよ。ただやはり、ITが浸透してみんながフラットになってくると、既存の既得権のある人がだいぶ損をしますよね。

青野:お?(笑)。

田中:だから、これは恐ろしいことになるわけですよ。だって、無意味に高い給与をもらっている上の年代の人たちとか、なぜか若い人は給与が低いとか。おかしいですよね。若い人のほうが活きが良いんだったら、若い人が給与をもらってもいいのにそうじゃないと。

働き方もそうですし、女性と男性で能力は変わらないのになぜか男性のほうが優位とか。こういうことは、スタートアップ(の台頭)とか社会が変わることで、がらっと変わるはずなんですけど、既得権を持っている人は損をしますよね。だから動かないんですけれども。

でも、スタートアップは絶対この状況を動かすなと思います。だから、地域の雇用を全部スタートアップが持っていったら、既存企業は潰れて実は本当に社会は良くなるかもしれないと。これは暴言かもしれないですけど、本当にそういうふうに感じますね。

経営者が「実はDXをしたくない」と思っていたら絶対無理

青野:そういう意味では、田中さん自身が東京ではなくて沖縄に住まれて、まさに新しい働き方をされている。「これでもいけるぞ」ということを見せているような気もします。

田中:いや、実際に沖縄からでも普通に仕事ができますよね。実は、たばこ部屋や宴会で物事が決まる比率が極めて減ったんです。

だから、東京の人は「僕がいなくなって話がしにくい」「コミュニケーションがしにくい」と言うんですけれども、大阪の人や北海道の人は「前よりも田中さんとオンラインでミーティングできるようになりました」と。みんなが機会の平等を得られるのが、リモートの働き方なのかなと感じますね。

青野:そういう意味では今後、もしかしたらスタートアップも地方からもどんどん出てくるかもしれないし。場所が関係ないところから、どこの会社かわからないけど、ネットでつながっている人たちが起業するとかね。

田中:そうなんですよ。実は当社も大阪の会社ですが、北海道にデータセンターを作り、半分近くの社員が東京にいながら社長は沖縄と、よくわからないことになっていますけれども。そういう時代なんだろうなと思いますね。

青野:このあたりも、ぜひみなさんに感じていただきたいですね。場所がどんどん関係なくなっているし、若い人たちに新しいことをやってもらわないと活性化していかないという。

最後になりますが、今日いらっしゃっているみなさんは、これからDXに立ち向かっていくわけですけれども、IT業界の先輩として、もし何かアドバイスできるとするとどんなお話をされますか?

田中:そうですね。やはり会社はどこもトップが変わらないといけないので、経営者が「実はDXをしたくない」と思っていたら絶対無理なんです。

なので、まず最初に社長や経営陣が本当にDXをやりたいのかどうかというところにアプローチをして、変えていくことが重要かなと思います。お付き合いしている企業さまのほとんどが、社長によって良くも悪くもなっていますので。

青野:なんだかコロナでそれが加速した感じもしますよね。社長が「このタイミングだからDXやるぞ」と言ったところは「なんだかわくわくできるじゃん」となっているのに、一方で、ぜんぜん音頭を取る人がいないところは以前と変わらないような。

田中:そうなんです。だから、現場の方ががんばっても経営が変わらなかったらやはり変わらないし、そういう場合は本当に転職したほうがいいと思いますね。

ボトムアップで経営者を口説く時のコツ

青野:(笑)。来ました。みなさんはトップをどうやって口説いていきましょうね。トップを口説く時のコツやアドバイスは何かありますか。

田中:そうですね。実は当社も働き方改革をするきっかけはワークショップだったんですね。「みんなでワークショップをしよう」というので経営者が集まって、若手の人も一緒になって「本当はどういう会社にしたいんだろうか」と話し合うと、本当にアグレッシブな意見が出てきて、「確かにそうだよね」となって、それを議事録にばっとまとめるわけですよ。

「じゃあこういうふうにやりましょう」となると、さすがに社長も「嫌だ」とは言わないじゃないですか。だから、社長や役員をのけ者にするよりも、仲間にして一緒に将来像を語って、それを基に動いていくと、経営者の方も変わりますよね。変えることは不可能なので、変わることをいかに誘発させるかが、ワークショップという1つの手段かなと思いますね。

青野:なるほど。「このわからず屋を変えよう」ではなくて、ちゃんと対話をすれば変わっていくはずであると。

田中:そうなんです。一緒にエッセンシャルマネジメントスクールというものをやらせていただいていますけれども、まさしく「人は変わる時もある」というところじゃないですか。

変えようとしても変わらないけれども、その人を適切に頼りにしながら受け入れていくと変わることがあるので、その時をチャンスとして機をとらえるということかなと思いますね。

青野:ありがとうございます。めちゃいいお話でした。お時間となりましたので、ここまでとさせていただきます。大きな拍手でお送りください。田中さん、ありがとうございました。

田中:ありがとうございました。

(会場拍手)

青野:ありがとうございました。おもしろいですね。あと1時間ぐらい聞いていたい感じですけど、やはりすべての企業がソフトウェア企業に変わっていく。ビジネスモデルも変わっていく。そして若い人たちが活躍するための場所を作り、対話を重んじていく。本当にたくさんのヒントをいただいた気がいたします。

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