2024.12.03
セキュリティ製品を入れても検出されず…被害事例から見る最新の攻撃トレンド 不正侵入・悪用を回避するポイント
提供:サイボウズ株式会社
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富永京子氏(以下、富永):はじめまして、立命館大学産業社会学部の富永京子です。私はいわゆるIT系のことをやっているわけでもなく、情報系の研究者というわけでもありません。「なんでお前がここにいるんだよ」と思われる方もいらっしゃるかもしれないので、少しその話をさせてください。
私自身は「社会運動」という分野の研究者です。社会運動とは何かという方もいらっしゃると思うんですが、例えば今だとウクライナ危機で、ウクライナに募金したいとか、change.orgで署名したいとか。あるいは日本ではあまり見ないかもしれないのですが、先日安倍元首相の国葬がありましたが、それに対抗する「デモ」が社会運動だったりします。
要は署名や政府への陳情、デモやクラウドファンディングなどを通じて、社会や人々の意識を変えていく(運動の)研究をやっています。
ますます「なんでお前がCybozu Daysにいるんだよ」と思われるかもしれませんが、実は社会運動は、日本では非常にハードルが高いものなんですよね。例えば職場でも、「賃金を上げてほしい」「福利厚生もうちょっとしっかりして欲しい」など、いろいろな要求があると思うんです。
でも私たちは、それがなかなか言いづらい。例えば賃上げしてくれと言ったら、「いや、お前が十分働いてないから賃金が低いんだろう、もっと頑張れよ」とか、福利厚生をしっかりしてほしいと言っても、「お前の要求ばっかり聞いてるわけにはいかないよ、みんな我慢してるんだから我慢しな」と言われたりします。
つまり、そういった「要求」は「わがまま」に感じられてしまう。なので社会運動の研究者として、『みんなの「わがまま」入門』という本を書いたんです。その1年後、ちょうどCybozu Daysのテーマが「エゴ&ピース」だったことで、私が「エゴの専門家」として青野社長と対談させていただいたという経緯があります。
富永:私は2020年のCybozu Daysにすごく影響を受けました。(私と青野社長の対談以外のもさまざまなセッションがあった中、そのうちの一つのセッションにて)自分と似たようなことを考えてる人がいるとわかったのです。それが「サイボウズでも、まだこの状態。20代女子のわがまま? 働く上で『あたり前』ってなに?」というセッションだったんです。
例えばこの中で、20代の社員の方が「人生を逆算して考えてしまう」と。「例えば35歳で出産して30歳で結婚するから、それまでにキャリアを築かなきゃいけない」と。
あるいは女子社員の先輩方と話していると、将来がすごく不安になる。例えば「産休・育休1つ取るにも、周りに申し訳ないと思いながら取らなきゃいけない」と。これは男女問わずだと思います。
「安心して出産・育児ができる」ということは何なのか。2年前、私はまだ子どもを産んでなかったわけですが、ものすごく考えさせられました。
私は社会運動の研究者で、こうした研究をしているとどちらかというとサイボウズさんのような民間企業はすごく遠いセクターなんです。社会運動は不買などで企業に対抗するときもありますしね。
また、自分は研究者で、いわゆる一般企業の人たちとは違うと思っていたんです。でも「いや、職種や業種や世代は違っても、私たちは同じ構造のもとにいるんじゃないか」と、2年前のCybozu Daysで考えさせられたんですよね。
富永:「自分以降の女の子というか、女性が少しでも諦めることが少なくなるように、諦めなくても済むようなものを増やしたいというのが、私のエゴですかね」。
青野さんと対談させていただいた基調講演で、自分はこんなことを言っていたんですが、社会運動の研究者としてではなく、自分自身が女性の会社員として、後続の人たち(に何ができるのか)。自分は今36歳で、2年前は34歳でしたが、20代の人たちに対して何を引き継げるかということを、すごく考えてしまったんですよね。
今までは、自分の生活の外で起こっているようなこと。例えば今だと、ウクライナ危機や気候変動問題の運動の参加者に話を聞いたりしているわけですけど。でも「いや、自分が女性として出産をしながら仕事をやっていくこと、育休や産休をとることが怖いと思わない社会を作ることが、すでに社会運動じゃないか」と少し考えました。最近はそういうお話もさせていただいています。
そしてまた今年のCybozu Daysにお声がけいただきました。
実際、私の産前休暇がはじまったのが約1年前のこの時期だったわけですが、「子育てしてても仕事をする姿を(後輩に)見せることが自分の社会運動なんだ」と言っても、そもそも「見せる」ってことがすごく怖いんです。
何が怖いかというと、まず自分に貼られたラベルが変わることです。私はたまにテレビにも出たりしています。そういう時にコメンテーターの人のいろんなプロフィールを見ると、だいたい「1児の母」や「3歳児の父」と書いてあったりする。
今なら気持ちがわかるんです。その肩書きによって、子どもを持つ親同士わかりあえることもあるし、共感してもらえることもある。
ただ当時の自分は、すごく「アップデートしなきゃだめなのかな」と感じてしまったんです。「プロフィール欄に『1児の母』って書かなきゃダメなのかな」「私的な変化を公にしなきゃダメなのかな」と感じてしょうがなかった。
そんなこと誰にも頼まれてないはずなんだけど、変わること、私的な変化を明らかにすることを要請されているようで、すごく怖かった。そんなに特別なものだと思いたくなかったし、なにより、変わらず仕事をしたかったんですよね。
富永:産休を取る、つまり出産をすることは、ニアリーイコール育児をすることですよね。つまり「富永さんは研究者でもあるし、お母さんでもある」(と見られる)。一年経って、今そんなこと全然ないってわかるんだけど、当時は「お母さん」の比重を大きく見られると思っていたんだろうと。
子育てって十年以上続くことで、だからこそ、いわゆる「マミートラック」に乗せられる可能性が出てくるのかなと。多分、勤務の形態としては、例えば副業とかやっていて時短勤務をする社員さんと変わらないんだろうけどでも単純にそうは思われないんだろうなと、怖くてしょうがなかったんです。
例えば同じ時短勤務でも、副業のための時短勤務だったとしたら「スキルアップ・キャリアアップもするのね」とか「マルチな働き方をしたい人なのね」で済む。それが何十年も続くかどうかはわからない、あくまで短期的なものと見られるかもしれない。
ただ、出産とか、育児がそういうポジティブさを持ってるかというと、まだまだそうは思われないような気がしてしまったんです。そのように考えたときに、当時、何より自分が怖かったのは、見た目で妊娠しているとわかってしまうことですよね。どうやったってお腹は待ってくれない。
女性という、出産する人にだけ訪れる、見た目でわかってしまう変化をどうするか。まだ公表する覚悟もできてないまま、お腹はどんどん大きくなる。それが意図せず明らかになって、仕事の機会がなくなってしまうかもしれない。じゃあ、とりあえずいまこの事実をいかに隠すかということを、自分はすごく考えていました。
富永:前置きしておきますと、これからお話することは私のごく個人的な体験でしかないんです。ただ、この経緯を通じて、みなさんと「出産とキャリアがトレードオフなんだと怯えないためにどうすればいいのか」ということを、私自身の体験談から少しでも普遍化するかたちで議論していければと思います。
私自身は一番主要な仕事として大学の教員をやっています。そう考えた時に、出産しますと勤務先に伝えるわけですが、それにまず悩んだんですよね。私の勤務する大学は10月始まり(の2期制)なので、その2ヶ月前にはさすがに代理の先生に依頼する必要がある。
そこでまず考えたのが、どの範囲で休職の連絡をするか。あるいはそれが出産だということを伝えるか否かということです。
日本の職場は母胎保護の法的義務があるので、私も産前産後休暇、特に産後休暇は絶対に取らなければいけない。いわゆる福利厚生課が学校法人立命館にはあるので、そこにお伝えする必要はある。
では同じ教務に関わっている教職員の方々、同じ学部の方々に、どの範囲で伝えるか。みんなに伝えようとはさすがに思わなかったんですよね。それによって「この仕事はパスしてもらおう」とか、「来年以降この仕事ができなくなる人だ」と思われるのが嫌だったんです。
なので、いわゆる執行部であるとか、現在同じ教務に関わっている教職員の方々以外は、7人くらいにしか伝えませんでした。(産休であることは)それほど公にせずに、休職するということで話を進めようと決意しました。
富永:私自身は、先ほど申し上げたとおりメディアの出演や新聞や雑誌記事の執筆もしているので、そこに関しても基本的には「大学は休職する」と伝えました。ただ、それはあくまで法律上の、組織的に仕方ないものなので、「ただ、こういった、外での仕事は続けさせてくれないか」とお願いしていました。
なぜ休職とは言っても出産とは言えなかったかというと、「それなら育休も取るのかな?」と思われてしまう可能性が少しでもあるのが怖かったからです。それを考えると、まずこの時点で出産とは言えなかった。
育休を取ることがなんでそんなに怖いのかという話なんですが、やっぱり数か月間、あるいは1年間仕事の回路が絶たれることが、主たる勤務先である大学でも、そうではない学外の仕事でも不安だったんだと思います。
例えば「富永さんは今育休中だから、朝の番組のブッキングは大変だろうし、やめとこう」とか「夜間の社会人向け授業は、富永さんできないよね」と思われるのは嫌だったんです。
もちろん機会をいただいたからって全部受けるわけでは全くないけど、最初からやる機会がそもそも与えられないのではぜんぜん違って、後者になりたくなかったんです。これは自分でもわがままだと思ったんですが、そういう気持ちがありました。
なので、あくまで法律上伝えるべき人には伝えて、(一般向けには)休職だと公開しました。「とりあえず大学は休職しますが、仕事は続けられます」ということを、新聞の連載でもお話させていただきました。
富永:こぼれ話になるんですが、産休に入る前のお腹が大きくなってきた時期に一番やったことが、お腹を隠せる服を買うことでした。とにかく着る服のデザインが変わって、あまりお腹に目がいかないものや、あまり趣味ではないけどお腹が隠せるようなコートとか(を選んで着ていました)。「妊娠 体型 バレない」で検索したりね(笑)。
あるいは、私スイーツを食べるのが大好きなんですが、なるべく体型を変えたくなくて、糖質オフのものを食べたりしていました。
今思うと、なんでこんなに必死だったんだろうと思うんです。そんな数ヶ月だけのことって思われるかもしれない。でも、喉元過ぎて(忘れて)なかったことにしたくないので、今こうやって喋ってます。
この時期、同僚の先生からの言葉で印象的だったのが、このメールです。「ご負担にならないように」……。他の執行部の先生やスタッフの方々と、柔軟に対応していきますと言ってくださった。
学校法人立命館が大きい組織かどうかは、それはそれで重要なんですけど今はおいといて。この先生が「あまり遠慮しないでね」と言ってくれたことが、すごくうれしかったんです。
後日、「あのメールすごく励みになりました」とお伝えしたときに、この先生が、同じようなことを他の先生から言ってもらったのが印象的で、それで同じような境遇の人に優しくしたいとおっしゃっていたんですよね。「学部にも大学にも社会全体にも、優しさの輪が広がるといいですね」と言っておられて。私にとってとてもありがたいことでした。
富永:そして産休が始まったわけですが、ここで気づいたのは、みなさんもそうだと思うんですが、「仕事は引き継いでも引き継げない」。引き継ぎ終わっても、どこか不安なんです。「やり残したことはないかな」とか、ちゃんと自分で見てなきゃいけないような気持ちも働いたりして。
だから、引き継がれた先生は非常に迷惑だったと思うんですが、結局大学の卒業論文指導はZoomで、オブザーバーとして参加させてもらいました。
産前休暇中は休職しながら、大学に関係ないような仕事は体力を考えつつ、できる範囲でやっていました。
こう言っているんですが、実は自分は大学の外でのお仕事は、好きなんですが、そこに「出させてもらってる」みたいなスタンスを取るのはよくないと思っていて。そこだけはちょっと古い学者っぽくて、メディアに出させてもらってるとか、仕事をもらってるようなことを言うのはすごく嫌なんです。研究が一番重要な仕事だと思ってます。
むしろふだんは「知見を伝える必要があるから出てるだけです。むしろ、書いて差し上げてるんです」くらいの態度でいたいなと常々思ってるんですが、この時ばかりはどうしてもダメでした。「レギュラー番組クビにならないですよね?」と聞いたりしていました。こんなに自分が「仕事がなくなるのが嫌だ、仕事を通じて得た繋がりがなくなるのが怖い」と思ったことはないような時期でしたね。
この時、「育休を取るか取らないか」をずっと考えてました。結果として、育休・産休に入ると研究費が使えなくなったりすることもあり、既に自分の研究費で研究員も雇用してたので、その関係から育休は取れないなと考えました。
「引き継ぎ」の話に戻りますけど、本来は手放して、誰かに渡せたり任せられたりするのが健全な姿だったんだと思います。ただ、心が「スケジュールを立てたら、それどおりにやらなきゃいけない病」にかかってるので、それができなかったんですね。
富永:また、これはちょっと言い方を配慮しなきゃいけないんですが、同業者の子育てSNSは「なんでこの時期、こんなくらうんだろう」と思うくらい、ネガティブにくらっていました。
特に意外と男性研究者の方の投稿に切なくなってしまって。同世代の研究者の方って、男女問わず子育てにものすごく積極的に関わってて、その風景をSNSで見せてくれたりする。
それはものすごくいいことなんだけど、それに対してずっと「そうは言っても、体型は変化してないし、産前産後休暇とらなくていいわけで、私が今抱えているタイプの恐怖はわかってもらえないんだろうな」「自分の見せ方を選べる立場の人は、見せたいとこばかり見せられていいなあ」と思ったんですよね。
繰り返しになるんですが、「イクメン」のような言葉を使うかどうかは別として、男女共同で育児をしている(という姿勢を社会に示すことは)すごくいいことだと思います。
それに、男性だって、育休を取るのは相当怖いと思います。育児に専念していると、上の世代から「奥さんにやってもらえばいいでしょ」と言われた先生の話も聞きましたし、キャリアアップできないよと宣告された人の手記も読みました。その怖さはもしかすると男性の方が強いのかもしれない。
でも、産休中で体も動かなくて、これからどうなるか本当にわからなかった自分には、彼らの「子育てって楽しいんだよ」というポジティブな気持ちがすごく眩しかったし、つらかったんですよね。
今ならわかります。彼らだって自分の姿を発信するまでに葛藤や覚悟を要しただろうし、子育ての楽しさとかキラキラした面を、男性自ら発信していかなければ、まず社会が変わっていかない。でもこの2ヶ月、産前産後休暇中の自分にはずいぶん感じるものがありました。
プレゼンのこの右の部分はちょっと余談ですね(笑)。姿を見られなければバレもしないので、Zoomやオンラインツールに助けられたところはありました。多分Zoomがなかったらそもそも「秘匿」にも限界があったと思います。「テレワークさまさま」といったところでしょうか。
富永:この時私は「とりあえず休みます。理由は言いません」と言いながら休職したわけですけれども、うれしかった言葉として、当時ネット番組でレギュラーをやっていて、そのMCの津田大介さんから、体調について気遣うメッセージがあったんです。「いつでも待ってるし、無理だったらお休みしてもいいからね」と。
ネット番組のようなフレキシブルな形態だから、こういうことを言えるというのが1つあると思うんです。ただ、それがすごくありがたかった。
もっと言えば、あまり自分の事情に立ち入ってこないのがありがたかったんです。「わからないけど、大変そうだね。気遣うし、配慮もするよ。でも、事情は聞かないよ」というのが、私にとってはすごくありがたかったです。
そこから出産するという流れになるわけですけれども、結局は家族・親族と、非常に限られた仲のいい友だちと、勤務先の執行部や給与厚生課以外の人には誰にも知らせませんでした。(出産することを伝えたのは)15人くらいしかいなかったと思います。
その中で、出産後も1人で。家族の支えはもちろんありましたが……。コロナ禍だったので、面会もそんなに人が来なかった。個室で、孤独なわけですよね。
当時観たテレビ番組で、非常に印象に残って、かつ励まされたものがあったんですよね。それが青野慶久さんが出ていた『すくすくナイト』という、子育て世代のママ・パパが話し合うEテレの番組だったんです。産後3〜4日目くらいの時で、観ていて涙が止まらなくなっちゃうんです。
それにはいろんな要素があって、私の中で1つあったのは、私の古さと青野さんの新しさです。つまり自分より10個近く上の男性、しかも上場企業の社長が「育休をとります」と公言して育休を取っている。それも、今と比べれば相対的に男性の育休が一般的ではなかった10年以上前に。
それに対して2022年、35歳の自分は、いまだに昭和のサラリーマンみたく、2ヶ月休むのにもすごく怖がって、仕事に何がなんでもしがみつこうとしてる。その彼我の差に、すごく感じるものがありました。
富永:ただ一方で、「そうは言っても青野さんも、SNSで子育て発信してる男性同業者と一緒でしょ」と。もちろん子育てしてるのは立派だけども、今こうやって産後1人で入院してる自分の気持ちなんてわからないだろうと。体型が変化して、出産すると自動的にバレて、社会に確保した席がなくなるかもしれない自分の気持ちはわからないだろうという、嫉妬と羨望が入り混じった気持ちがあったんです。
この番組をずっと泣きながら観て、ぐるぐる考えました。私の十何歳上の男性である青野さんだからこそ、育休を取るのはすごく怖かったと思うんです。しかも社会的に立場もある人で、ステークホルダーには自分より上の世代の人も、自分より価値観が古い人もたくさんいると思うんです。
そういう中で、青野さんが周囲からどんなことを言われてきたか、思われてきたかを考えると、自分と同じような、あるいはもっと怖かっただろうと思ったんです。
で、とにかく青野さんに対して、羨望も嫉妬も、言葉にならない思いも、共感も、こうなりたいという憧れもあって、どうしようかと思ったんですが、ともかく何か伝えてみたいなと思ったんです。
それで何が解決するわけじゃないけれども、とりあえず「こういうことがありました」と言いたくて。ふだん絶対、青野さんのような目上の人にダイレクトメッセージはしないんですが、「今こういう状況なんです」「出演されているテレビ番組を見てます」と連絡しました。
富永:その時に青野さんが、こちらの身体を気遣っていただいて、その上で「おめでとうございます」という言葉をくださったんです。
当たり前のことなんですが、私はそれがすごく新鮮でした。そこで初めて気づかされたのが、今まで自分はこの状態を、自分が社会で得てきた何かを失う経験だと思ってきた。でも、第一にはおめでたいことなんだよなと。その時に初めて気づいたんです。
そのことでだいぶ自分も、「公表していいんじゃないか」という気持ちになってきました。しばらくは「入院して退院しましたよ」という雰囲気は出してるんだけれども、子どもができたとは言わずに、そのままネット番組やラジオ番組に出演したり、講演を続けたりしていました。
ただ、ある時、自分の連載している新聞記事で、出産を公表したんです。公表はしたんですが、最後まですごく怖かったです。
これによって「富永さん子育て大変だから」と思われてしまって、仕事も来なくなるかもしれない。研究者としてのキャリアに支障はないと思ってきたけど、それでも研究会などからお声がかかりづらくはなるかもしれない。
自分に共感を抱いてくれていた人も、離れていくかもしれない。だからこの記事を出すにあたって、SNSで公表するにあたって、迷っていました。ただ、共同研究者が言ってくれた「富永さんが母親になっても、社会は富永さんを嫌いにならないよ」という言葉がすごく印象的で。「じゃあ、公表してみるか」と思ったんです。
公表したら、びっくりするほどみんな(から反応がありました)。みんなと言っても、私はそんな有名人ではないので、自分をずっと見てくれている記者さんや編集者さん、自分の出ている番組の視聴者さんとか、SNSをフォローしてくれている人ですけどね。なんで秘匿したのか、なにが怖かったのか、いろんなところでお話させていただき、今この壇上に立たせていただいているという経緯になります。
富永:公表した時、私は一応一般人としてSNSを運用しているわけですが、一般の人の出産報告とは思えないくらい、自分でも想像しなかったほど反響が大きくて、共感の声もいただきました。
本当に見知らぬ人から、Twitterやインスタで「おめでとうございます」というメッセージをいただきました。「友だちや自分をフォローしてくれる人だけではなく、ぜんぜん関係ない世界の裏側にいる人にとっても、出産はうれしいことなんだ。子どもが1人、1つの命が新しく生まれることはいいことなんだ」ということに、あらためて気づいたんです。
その一方で、ションボリした言葉もそこそこありました。なんでションボリしたんだろうっていうことを振り返って考えたいなと思って載せてます。白状すると、自分も同じようなことを人に言ったことがあります。
まず、けっこういたのが「自分は気づいてたアピール」です。ネット番組の視聴者の方が、「ちょっとふっくらしてたから気づいたよ」とか。自分も言いがちなんだけど、一方で「それを言って、何かこちらをモヤモヤさせる以上の意味あるのか?」という気がするんです。
逆に、多分この人知っているんだろうなとわかるんだけど、知らないふりをしていてくれた記者の方がいて、その人はすごくリスペクトしています。「見せたい姿のままでいさせてくれる人」って大事だな、こうなりたいなと。
もう1つ、私も無邪気に言ってたなぁと思ったのが、「おめでたいことなんだから、言ってくれればよかったのに」。おめでたいことは知ってますが、そうと思えないくらい不安だったから言えなかったんだというのが、すごくありました。
仕事がなくなるかもしれない。機会がなくなるかもしれない。あるいは、決定的に自分を見る目が変質してしまうかもしれない。そう悩んでいたから言えなかった。でも自分もきっと、出産を経験する前だったらそういうことを言ってしまっていたと思います。
富永:いまだに後悔していることではあるんですが、ある友だちから、「休職するって聞いて、すごく心配してたよ」「病気なんじゃないかとか、長期の入院なんじゃないかって思ってたけど、病気じゃなかったんだ」と言われて、このことは未だに……「言わなかった」つもりでいたけど、「嘘をついた」と思われていたってことですよね。伝え方と受け取り方というか……。
第1段階は産休ではなくて休職としてみんなに伝えたわけですが、それが良かったのかどうかは難しいところです。休むことの怖さという点は共通だけれど、病気と出産は確かに違いますよね。そこを誤解させてしまったことは反省というか、自分の中で整理しきれていない思いがあります。
出産を公開した後は、実際にいろいろな媒体で取材をしてもらい、言語化できる機会をいただいたり、同じような状況の人たちと話ができるのが、ありがたい機会ではありました。
もし、このお話に関心を持っていただけたら、集英社の「yoi」というメディアや、主婦の友社の「CHANTO」というメディアでロングインタビューで話しています。もし同じようなことで悩んでいるみなさんの参考になれば、とても嬉しいです。
サイボウズ株式会社
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