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『売上の地図』から読み解く「良い売上」と「悪い売上」(全2記事)

2023.02.22

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本当に大事なのは、売上の裏にある「なぜ売れたのか」 わかりやすい指標に踊らされないためのマーケターの着眼点

提供:株式会社ZEALS

ユーザーがAIチャットボットと会話しながら商品の購入や予約ができる「チャットコマース®️」を展開する、株式会社ZEALSの渡邊大介氏と、昨年『売上の地図』を上梓した、株式会社トライバルメディアハウスの池田紀行氏。共にマーケティング業界の著名人であり、15年来の友人でもあるお二人に「売上」という切り口で、業界を取り巻く課題と今後の展望をお聞きしました。後編では、国内外のマーケットや時間軸を視野に入れながら、どんな売り方が求められていくかについて意見を交わしました。

「売る」と「買ってもらう」は、似て非なるもの

渡邊大介氏(以下、渡邊):良いか悪いかではなく、僕が新卒で入った会社の課題意識の持ち方と、池田さんの場合はやっぱり若干違うんだろうなと思いますね。池田さんは熱狂するブランドをどう作るかという方向だけど、前職とかは、めちゃくちゃCV(コンバージョン)とかCPA(顧客獲得単価)に向かっている会社でした。

池田紀行氏(以下、池田):確かにそうですね。noteの記事でも書きましたが、多くのデジタルマーケターは「売ること」に注意を払ってしまっているけれど、僕は「買ってもらうこと」に注力すべきだと考えています。

売上100円を獲得するという意味では同じですが、「どうやったら売れるか」と「どうやったら買ってもらえるか」を考える時の思考回路はぜんぜん違うと思います。

渡邊:そうですね。

池田:コンバージョン型のマーケターたちは、「どうやったら売れるか」というプッシュ思考だから、とにかく短期的にきっちりと売上を上げることが大事。僕はどちらかというと、「どうしたら長期的に買い続けてもらえるか」という方向の考えなので、短期と「中長期」というところにおいてスタンスが違うんですよね。

渡邊:だから、さっきの話とつながってくるんだなと思うんです。CVとかCPAはめちゃめちゃ明朗会計じゃないですか。わかりやすい指標と曖昧模糊としたブランド価値を比べた時に、この15年は「みんなわかりやすい指標に引っ張られたよね」という時期だったと思っていて。

わかりやすい指標を追い求めた、ということ自体は、デジタルマーケティングの発展のためにはなくてはならないことだったんだと思うんです。特にマス広告との対比として、デジタル広告の市場を拡張するには手っ取り早かったのは間違いない。

「悪い売上」につながるマーケティング施策とは

渡邊:しかしながら、それらの傾向が生み出したネガティブな要素もあったと思うんですよ。一時期、動画広告とかが流行り始めた時に、ブランドリフト(ブランディング広告がサービスの認知拡大に与えた影響を把握する指標)までExcelに落としていて、僕は「怖っ!」って思ったんですよ。ついにブランドまでCVみたいに扱い始めたかと。

指標化することはポジティブなことが多いんだけど、測れることしかやらなくなるというすごくネガティブな側面もあるわけで。

——『売上の地図』に「良い売上」と「悪い売上」の話がありましたが、これまでのマーケティング手法には、一概に良いとは言えない部分もあると。そんな中で、ユーザーに寄り添いながら、どうやって「良い売上」を増やしていくかは、お二人の共通の課題感ですね。

池田:そうですね。コンバージョン重視の売上を「悪い売上」と言うのは、少々荒っぽすぎるとは思います。最適なオファーをして、顕在化しているニーズを短期間で効率的に刈り取るのは、別に悪いことではないんですよ。

ただ、値引き・プレゼント・キャンペーンなどをやって、利益度外視・ブランド価値毀損も度外視で、強制的に短期的な売上を上げることは「悪い売上」だと感じるんです。

短期的なコンバージョンを重視するプレイヤーは本当にたくさんいるし、そこでやっていることは、どちらかというとマーケティングよりも算数の世界だと思うんですよね。全部足し算・割り算・引き算・掛け算の話ですし。

「どうやったらこうなる」というゼロイチの世界なので、僕はあんまりロマンを感じないんですよね。単純に興味をそそられないからやっていないというのが一番大きな理由です。

あと僕は、やっぱり広告というよりもマーケティングがすごく好きな人間なんですよ。それはものすごく非合理的な意思決定を、さも合理的なふりをしてやる人間という可愛らしい存在が、とてもおもしろいと思うから。

人間の営みを再現可能な状態で科学していくことが、マーケティングの一側面なのであれば、そこにとても興味があるんです。

例えば、「こういう広告クリエイティブをこのタイミングでこうやると、人間がクリックする確率が何パーセント上がる」というのも、人間の営みと言えばそうですが、レスポンスは「反応」だからあまり夢が持てなくて。一方、エンゲージメントは感情の動きだから、すごくおもしろいんですよね。

「お得です」とか「〇〇の1位は」のようなタイトルのクリック率が高い、ということの行き着く先にはおもしろみを感じないというか、「マーケティングってもっとダイナミックでおもしろいものなんじゃないの?」というところがあるんです。

「売ったもの勝ちの世界」が行き着く先の危うさ

渡邊:繰り返しになっちゃいますが、池田さんもおっしゃるとおり、レスポンスを追い求めること自体は悪い話じゃないとは思うんですよ。ただ過度な獲得系ソリューション、特に最適化思考が行き過ぎてしまうと、Evil(邪悪)になってしまうことも多々あると思うんですよね。

池田:そうですね。最適化志向が行き過ぎてしまって、倫理や道徳をすっ飛ばし、「売るためには手段を選ばない」みたいな人間だけが勝つ世界になってしまうことが危険だと考えます。「売ったもの勝ち」のような感じで、煽ったり釣りだったり、クリックしたくないのに誤クリックさせるようなものは、基本的には「良くないもの」だと僕は思っているんですよね。

その手法は、戦術とか最適化を極め行き着いた“美意識のない終着駅”みたいなものだから、持続可能ではありません。レスポンスの世界は決して悪くはないのですが、人を欺いてコンバージョンさせようとする方向に行き過ぎてしまいかねない。

渡邊:そういうところの垣根が、ちょっとなくなっちゃっている感じはありますね。

池田:そうなんです。レスポンスという数字だけを見ていると、上がれば「やった!」と思うけれど、誰かをだましてその数字が上がっているのか、それとも持続的にその人たちがそうしたいと思って上がっているのかではぜんぜん違うという話です。

渡邊:僕はアルゴリズムもデータも好きだし、新しいテックも好きで、それ自体に善悪はないと思うんです。でも、それを無味乾燥なものにしちゃっているのがKPI至上主義だったり、偏った最適化にあるなという。本当はそこに終始することなく、ブランドのあり方だったり、ひいてはプロダクトのビジョンだったり、測定できないものをどう扱うか。そういった二項対立を融合できたらいいと思ってるんですよね。

池田:結局、売る人と買う人がいるから成立してしまっている市場でもあるんですよね。「買いたい」という人と「こういう施策がありますよ」という人がマッチングされて伸びているので、近視眼的な「売れればいい」という指向性がその市場を作ってしまっている、ということでもあります。

みんなが「もっと楽してコストを下げて、売上を最大にするいい方法はないの?」というものを求めているから、そう簡単には解決しないのでは、と思います。

“中期的ライフタイムバリュー”という矛盾

——そういう流れと一線を画そうとしているのが、ライフタイムバリュー(LTV:顧客生涯価値)や熱狂といった、人の営みの部分に目を向けようというものだと思います。ただ、企業がLTVやロイヤリティを上げていこうという時に、数字に引っ張られすぎないためにはどうすればいいでしょうか?

渡邊:数値が悪いと言ってるわけじゃないですよね。売上至上主義的な側面が良くないという感じ。

池田:行き過ぎた短期的な売上至上主義が問題、ということですね。LTVは顧客生涯価値なので、例えば「車に乗る人は、平均で一生涯に何台の車を買うの?」「平均で7台だね」「その中で何台がうちのメーカーの車なの?」というのがもともとの考え方なわけです。

でも今は、LTVが「年間の売上金額」になってしまっている。「年間でこの人は、何回うちの商品をリピートして買ってくれているのか」という考え方だから、それはLTVではないだろうという話なんです。

渡邊:ただのリピート購入ですね(笑)。

池田:LTVへの考え方自体が、短期的なんですよね。だから、お客さまに「中期的ライフタイムバリュー」といった、わけのわからない言葉を使うことになってしまう。「僕の言っている中期は3年で、長期は5年です」みたいな。

渡邊:中期的(笑)。LTVはそもそも生涯のはずなのに。

「生涯顧客価値」を1年単位で考えてしまうわけ

池田:本当にそうなんですよね。だから、LTVは本当の意味で使っている人はかなり少数派なのではないでしょうか。年間で考える、ということとほぼ同義になっていますよ。

渡邊:そうですよね。スタートアップ界隈でもいろんなところでLTVと言われていて、多くのステークホルダーがLTVを1年くらいで見ているかもしれません。例えば、リピート購入や1年間の中で何の数値がいいかを見て、投資判断が行われたりしている。顧客以外のステークホルダーもそういう見方をすると、より(短期の目線が)強化される気がしますね。

池田:SaaSのIR資料には、LTVの積み上げグラフなどが載っていますよね。

渡邊:ネガティブチャーン(既存顧客からの新規収益の金額が、キャンセルやダウングレードから失う収益よりも多い場合)とかですね。

池田:そういうものは、本当のLTVっぽいですよね。要は5年前からのお客さまが何割いて、4年前からが何割残っていてという積み上げだから。MRR(月次経常収益)の考え方に近いけれど、いいと言えばいいんですよ。でも、B2C企業でそういうLTVの積み上げグラフを作ってるところはなかなか見たことがない。

中長期で顧客を積み上げていかないと厳しい時代

池田:顧客を獲得しても、通り過ぎるようにすぐいなくなってしまう。たぶん、LTVと言った時に「年間でいくら買ってくれている」しかアピールできないのが本音だと思うんです。

既存顧客からリピートが発生しないとなると、新規を獲得するしかない。でも、新規の顧客獲得コストが超高いわけではない。リテンションにはいろいろな理由がありますが、リピートするかしないかで一番大きいのは商品のパフォーマンス力。それがなかったら、リピートするわけないでしょう。

こんなことを言ってしまってはおしまいですが、「この商品じゃないと絶対にダメだ」なんていう商品は、もうこの世にほとんどなくなってきている。

そうすると「最初は流行りだしいいと思って、あるD2Cブランドのサブスクを契約してみたけれど、なんだかすごく高いし、安い市販品と大差ないから解約しよう」という流れになっていくんです。

渡邊:それで顧客が積み上がらないと、結局100億の壁を越えられなくて、厳しくなってきているとは思いますね。

日本の経済や人口減少の課題をひっくり返す方法

——なるほど。商品自体の差別化が難しくなっている中で、今は物価高や円安の話も出てきています。ただ、良い商品やサービスを提供する上でどうしても必要なコストはあるわけで、どうしたら持続可能性と価格を両立していけるのでしょうか。

池田:やっぱり、ちゃんと良いものだという価値を認めてもらって、それだけのお金を払ってもらう云々の議論もありますが、とはいえ平均年収約450万円の国になってしまっていますからね……。

渡邊:そのマクロを変えるのはかなり難しいですね。

池田:どんなに価値を伝えても、欲しくはなるけれど物理的にお金がなくて買えないという話になってしまうんですよね。一方で、プレミアム市場がある程度立ち上がったのは良いことだと思います。セブンイレブンの「金の」シリーズや、プレモル(ザ・プレミアム・モルツ)が売れているわけですしね。

それから、グローバルで商売をやっていく時は、もっと価値の規定や強気の価格設定をしていってほしいなと思いますね。

渡邊:そうですね。昔のソニーやトヨタのように、外貨を稼ぐようなことをしないと、ひっくり返りはしないと思うので。

——ZEALSさまがアメリカに会社を立ち上げられたのも、やはりそこをひっくり返していこうということでしょうか。

渡邊:アメリカ法人の設立にはさまざまな背景があります。僕の感覚では今みたいな話で、やっぱりマクロ経済も人口もこれだけ減っちゃって、今年の出生率も最近発表されていますが、1.3を切っているじゃないですか。これを逆転するのはもう数十年無理だよね、という感覚はすごくあるので。

これは海外でチャレンジしている日本企業の代表の方に、うちのCEOが言われた言葉なのですが、「ドルを稼げる企業にならなければならない」と。僕らスタートアップができることはそこにあると思っています。

高度経済成長期に起業家が海外でベンチャーを立ち上げて勝負したようなことを、今の僕らがやらないとな、という思いが強いですね。

日本企業の海外進出と、その先のマーケティング

池田:いやぁ、本当に長期の話になると、なかなかシビれる感じだと思いますよ。たぶんうちの息子は22世紀まで生きると思いますが、日本の人口はその頃6,000万人前後になっている予測ですから。

渡邊:だけど、人口が減るリアリティって別にないですよね。

池田:1日で1,000万人が一気に減るわけではなくて、ジリジリと減っていく状態ですからね。「今すぐの話ではないから別に考えなくてもいい」と思ってしまう人も少なくないでしょう。でも、本当に「どのビールが」「どのシャンプーが」とか言ってる場合ではなくなる未来が、すぐそこまでやってきています。

渡邊:そういう意味では僕、世界に挑戦するチャンスではあるなと思うんですよね。ちょっと前の韓国のエンタメみたいに、小さいからこそ(外に)出る力学が働くということでは、もっと世界を目指すスタートアップがいっぱい出てきていいと思うんですよね。

池田:先ほど「マーケティングは人間の営みを科学することだ」と話しましたが、年齢的に前線を張る状態ではなくなっても、マーケティングの20年後・30年後・50年後をできる限り見通しながら、後進のみんなが活躍できる道しるべを残していきたいなと思っています。

そうした時に、その海外ですらという話があるんですよね。地球全体の人口が2080年頃に100億人に達したところから徐々に減り始めるから、インドが16億人くらいで世界一になって、次にアフリカ勢が世界一になったら、あとは減るだけなんですよ。

人間はいろいろなことを経験し学習してきているけれど、結局みんな幸せになりたいから生きているんですよね。だから、「人間の幸せはどこに向かっていくんだろう」というところを解像度を上げて考えていくと、なんとなく10年後、20年後のマーケティングぐらいは少しおぼろげに見えてくるんじゃないかなと思っています。

これからの時代に不可欠な時間軸での視点

池田:僕がグローバルのメーカーのお客さまと仕事をしていると、よく「僕らがやってるのは地図の塗りつぶしなんです」と言われるんです。

車もバイクもさまざまなものがそうですが、日本はもう市場が成熟した、北米もヨーロッパも成熟したと。次は中国だ、ASEANだ、インドだという感じで地図を塗っていくんだと。地図を塗り終わった「次」のことを考えなきゃいけないという話をうかがいます。

あとは、昔のマクドナルドの世界最適調達みたいに、全地球上でポテトが一番安いところから一括で仕入れて売る、といったように、0.0何銭単位で仕入れの調達をやって、コストを削減して利益を出すという地球規模での戦いになっているところもあります。

けれど結局、その地球の資源には限りがあって、人間の幸福感が変わっていかない限り、立ち行かなくなる。人口が減ってきたり、北極の氷が溶けてきたりしている中で、SDGsが出てくるなど、意識は変わり始めていますが行動はまだまだですよね。

すごく大きな話にはなりますが、その行動がいつ変わり始めるのかということをずっと考えています。ベンチャーが海外へ進出するおもしろさはすごくよくわかりつつも、企業が提供する価値そのものがどう変わっていくのかというところですね。

デジタルは、顧客を見える化して効率的に収穫することに猛烈に長けているからこそ、みんなが近視眼的な方向に走っていってしまっている。僕を含めて、「短期だけじゃなくて中長期もちゃんとやらなきゃだめだよ」と声を挙げているプレーヤーがまだまだ少ないという課題感はありますね。

本当に大事なのは、売上の裏にある「なぜ売れたのか」

——『売上の地図』でも、「『売上とは、この企業や商品・サービスは、社会をより良くしましたね。人々を幸せにしましたね』という社会からの通信簿である」と書かれていましたね。

池田:だから売上ランキングがあるように、「買って良かったランキング」とか「買い続けたいランキング」があればいいのになって思うんですよ。売上はただの数字でしかなくて、「なぜこの数字になっているのか」ということが大事なのに、そこがないんです。

結局、意識や態度が変わったから行動が変わっているけれど、「安いから」「キャンペーンがあるから」が要因だとしたら、それは悪い売上ですよね。

「好きだから」「夢中だから」という気持ちがあって、売上という行動が変わっていくことが、本当はもっと重視されるべきなんです。

しかし、大企業の評価システム自体が売上ですし、工場があると稼働率も上げないといけない。不良在庫になると廃棄ロスや倉庫代がかかるから、たくさん作って売らないといけない仕組みなんですよね。

結局、社会全体が一定の悪い売上を許容しないと回らない経営システムになっているところは、実は相当大きいです。誰か1人が「悪い売上なんてもう嫌だ、良い売上にしたいんだ!」と言っても「じゃあこの工場の在庫全部、あなたの言う『良い売上』でさばいてみせて」と返されてしまう(笑)。そして結局「うーん……値引きしましょう」と折れる結末になってしまうんです。

身近な商品は「熱狂」というより「お気に入り」

渡邊:ちなみに、昔はアテンションの奪い合いがあったわけじゃないですか。認知を取れれば買い場に商品が置かれて、そこに行けば買えるというふうに、ロジックとしてシンプルでした。だからポリンキーみたいなCMもできれば、「そうだ 京都、行こう。」みたいなフレーズも生まれて、そういうクリエイターが生まれていた。

でも今の僕自身、いわゆる熱狂ブランドとか、自分が関与しているブランドが何個あるかなと思うと、たぶん10個もないと思っていて。やはり、この中のシェアの奪い合いにはなってくるんだろうなと思うんですけど。

池田:熱狂というと「うおー!」という感じの熱烈超ロイヤル層みたいな印象を持たれますが、スーパーやコンビニ、ドラッグストアに行って「この中で熱狂してるブランドはあるかな」と探すと、そんなにないわけですよね。

でも「このカテゴリーで一番のお気に入りは?」と言われたらいっぱいある。だから一般消費財は、文脈的に熱狂というよりもフェイバリットブランドですよね。

渡邊:なるほど。

まず最初のゴールは「どうせ買うんだったらこれを買いたい」

池田:「どうせ買うんだったらこれを買いたい」という気持ちが、まずはゴールではないかなと思います。「どうせならAがほしいけれど、Bのほうが50円安いからBを買う」というのは悪い売上で、競合に引っ張られていずれ負けてしまいます。

一方、「50円差ぐらいだったら、こっちの商品を買い続けたい」と思ってくれる人をどれだけ増やせるかというのが、いわゆるブランド資産と言われてるもの。だけど、そこはあまり評価指標になっていない。「ブランド資産やブランドエクイティを上げたら昇進・昇格・昇給だ」と言っている企業は、たぶんほとんどないのではないでしょうか。

渡邊:そうですね。

池田:(「今すぐ客」が多い)フェイバリットブランドの場合は短サイクルでいいけれど、自動車や住宅、家電の場合は「今すぐ客」よりも「そのうち客」のほうが多いから、今買わないなら「そのうち客」に育成するためにブランドを蓄積していかないとならない。

毎年掃除機を買う人はいないから、じゃあ掃除機のマーケティングはどうしたらいいのかということを、最初に考えてほしいですね。

渡邊:そうしないのは、やっぱり目の前の売上と未来の売上がコンフリクトしちゃうからでしょうね。

池田:その売上を上げていくためロジカルに考えていくと、「できること・できないこと」「今期やるべきこと・来期以降にもつながるから今期やっておくこと」は、普通に分けられる気がしますが、意外と分けないんですよね。

いい意味で外圧を利用しながら、売り方も変えていくべき

渡邊:さっきのマクドナルドの話もそうだと思うんですけど、ステークホルダー力学がめっちゃあるなと思いますね。「売上を追わない」という判断をしたら、物言うステークホルダーは必ずいるわけで。これは極端な例ですけど、何かを捨てなきゃいけないし、けっこう痛みを伴う変革をしなきゃいけないんだろうなと思います。

池田:そういう中で、すごく良い流れだなと思ってるのがESG。アメリカの企業は超近視眼的で、クォーターの売上最大化をがんばってきたじゃないですか。しかし、投資家が「社会的に良いことをやっている会社にしか投資しないよ」と言うようになって、本当に行動が変わってきています。

近視眼的な経営だけではなく、ちゃんと社会により良いことをやっていかないと、株主も納得してくれないですし、みんなが投資してくれなくなってきていますよね。

渡邊:環境変化が大事ですよね。

池田:そうなんです。結局、外圧でしか変わらないというところはあるけれど、株主の要求で中長期的なことを考えたり、より良いやり方にしていこうと思考したりするのは、とても良いことだなと思います。

このように、今のマーケティングの「売らんかな」のようなところから売り方を変えていかなければならない。短期だけではなくて中長期も見ていく必要があるし、さらにその外側には前述したような地球規模の話もあります。そこまでを一本の線として考えていくような業界になっていかないといけないな、と考えていますね。

——今の時代のマーケティングや売上の課題感から始まって、この先の「良い売上」を増やしていくために、たくさんの示唆をいただいたと思います。お話ありがとうございました。

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