2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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羽生祥子氏(以下、羽生):あらためまして、高津さん、今日はどうぞよろしくお願いいたします。
高津尚志氏(以下、高津):特別ゲストの高津でございます(笑)。楽しみにしています。よろしくお願いします。
羽生:ありがとうございます。続きまして、石原直子デスク。もう私たち、最近人的資本で頭いっぱいですよね。私はぜんぜん違うイベントでも、つい「人的」と言っちゃうんですけど、デスクもそんな感じじゃないですか。
石原直子氏(以下、石原):そうですね。人的資本経営の話をしないと決めてたんですけど、このメディアに関わることになって、その話ばっかりしてるというのが最近の私です。今日はどうぞよろしくお願いします。
羽生:ありがとうございます。このお二人は、もう本当に日本で1位・2位を争うぐらいの専門知識をお持ちです。かたや私は、編集長として座っていますが、ほとんど知識ゼロというか(笑)。ご覧になっているみなさんと同じような立場でいろいろと聞いていきたいと思います。
それでは、時間が許す限り、「あれはどうなの」「これはどうなの」と、聞いていきたいと思います。まず一番最初に私から聞きたいのが、この「人的資本経営」という言葉です。
例えば健康経営とか、ダイバーシティ経営とか、ナントカ経営って都度都度出てくるじゃないですか。「またナントカ経営が出たな。またなんかさせられるんちゃうの」と、従業員の方はたぶん思っているし。人事の方は「また仕事が増えるんじゃないの」というふうに、ちょっと申し訳ないけどネガティブというか、恐れているような感じもします。
お二人はこの「人的資本経営」という言葉を聞いて、まず最初にどんな感覚をお持ちですか?
高津:ありがとうございます。私は、2002年にボストン・コンサルティング・グループという戦略コンサルファームから、リクルートに移籍したんですね。
その時のリクルートの意図はヒューマン・キャピタル・マネジメント。つまり、人的資本経営をきちっとソリューションにしていって、お客さんにコンサルティングというサービスをしようという意思だったんですね。
だから2002年の時点で、実は世界的には人的資本経営ということが言われていて、リクルートはサービスを立ち上げようとしていたんです。それからなんと20年経って、この言葉がまたクローズアップされているということに関しては、独特の感慨を禁じ得ないです。
もう1つ申し上げると、「人的資源」ではなくて「人的資本」であることに注目すべきだと思っています。ガソリンを考えていただければわかりますけれども、資源というのは、基本的には使ったら減るものでした。
ところが資本は何かのリターンを得られるだけではなくて、その資本自体もうまく使っていくと増えていく。だから好調な会社は資本勘定が増えて、資本金が増えるということが起こるわけです。そこが資源と資本が根本的に違うところかなぁと。
だから、この人的資本経営を考える時には、どうしたら人が資源ではなくて資本になるのかということを考えていく必要があるんだろうなと思います。
羽生:なるほど、ありがとうございます。確かに、ヒューマンキャピタルという言葉は、ちょっと前から知っていたような気がします。20年前からとはさすがですね、高津さん。私は2ヶ月前に知りましたという感じなんですが、今日はじっくり解説していただきたいと思います。石原さんは、この言葉についていかがですか。
石原:はい。私も高津さんより一足早い2001年にリクルートに入社して、その時からリクルートワークス研究所というところで、ずっと人材マネジメントの話をしているんですけども。
今、「人的資本経営でこんなことをするべきだよ」と言われていることは、その時から確実に言われてたなと思っているんですね。
羽生:へぇ~。
石原:だから、今(人的資本経営についてのレポートを)読んでみた時に、「なるほど、新しくこれをしなくちゃいけないのか」と思うのは、はっきり言って、情報開示の部分だけなんです。
人事、人材マネジメント、人的資本経営というかたちでやらねばならぬことはこれだと言われている部分は、私も20年前から言っていたと思っていて。だから何が新しいのか。あるいは、なぜ今からそのことをもう1回考えるのか。やっぱり、この言葉が今流行っている背景には何かあるんだなと思いますよね。
羽生:出だしから、もうお二人は20年前から知っていたよというショッキングな事実なんですが、たぶん日本の普通の人はその頃はさっぱり知らなかった言葉だと思います。
羽生:それにしても「人的資本」とか、ちょっと言葉が違うとは思うんですが「人への投資」「新しい資本主義」とか、急に言ってますでしょ。岸田内閣からの発信で、本当に人が経営の真ん中に入ってきたんだなと思うんですが。急にこの波が来た背景を、私みたいな素人は知りたいんです。
一生懸命情報を見ていくと、経済産業省が関わっていたり、内閣府の官房や金融庁など、いろんなところが関わってるんだなというのは素人でもわかりますが、その狙いは何なんでしょうか?
石原:私からまずお答えすると、やっぱり人的資本経営という言葉がものすごく脚光を浴びたのは、『人材版伊藤レポート』と言われている経済産業省のレポートです。これは、2019年と2022年に2回にわたって出ています。
経済産業省が音頭を取ったというのは1つ、すごく大きくて。それにちゃんと付随するかたちで、投資家を監督する立場にある金融庁も(加わっています)。人的資本経営という時に何をしなきゃいけないかを考えるよう、指針を出しているのは金融庁です。
人的資本も非財務情報の1つだと思うんですが、実際にこれを可視化することを考えて指針を作っているのは内閣官房という感じで、言ってみれば政府をあげてその話を始めてきたというところだと思います。
じゃあ背景に何があるのかという時に、1つには投資市場、資本市場、マーケットとの対話をちゃんとしてという中で、人的資本の影響力が、企業の業績に対して強くなってきているという考え方はあるんだと思うんですよね。
これは、私がここ2~3年研究をしていても、さまざまな場所で「これから企業がかつてなく成長するかどうかは、人にかかってるんだよね」という言われ方がされるようになってきています。
なので、人的資本経営という言葉がフィットしてブームになっている部分はあるんだろうなと思います。
羽生:なるほど。ブームという言葉が出ましたけど、高津さんはこの流れをどうご覧になっていますか。
高津:今、まさに政府やマーケットにおける危機感という話をされたんですけど、僕は一方で日本の競争力という観点からお話をしたいなと思っています。日本の競争力が低下していて、実はその最大の要因がどうも人的資本であるというお話をしたいと思います。
ご承知のように、日本は世界第3位のGDPを誇る経済大国ということになってるんですけれども、実は1人当たりのGDPは、世界のランキングで言うと、この20~30年間落ち続けているわけですね。
私と関係が深いスイスに比べると、日本の1人当たりのGDPは、今は半分以下の水準になっています。2021年でスイスが9万2千ドルで、それに対して日本は3万9千ドルなので、半分以下です。
私の所属するスイスのビジネススクール、IMDでは、世界競争力ランキングを出しています。これは、ある国に立地することによって、その企業がどれくらい持続的な価値創造ができるのかを、世界63ヶ国で比較したものになるんですね。
この失われた20年、25年をチャートで見てみたいのですが、これは1997年から2022年までのデータです。
日本のランキングは長期停落傾向の中でも、2014年からの8年間に顕著な傾向と書いてあります。真ん中に青い線がありますよね。太い青い線で総合ランキングの推移を示していて、薄い青い線でその傾向を示していますけれども。1997年は17位で、そこから34位まで落ちてきています。
高津:それ以外の要素は、例えば経済パフォーマンスを見ると、だいたい東日本大震災のあった2011年あたりを底にして上がってきています。アベノミクスの影響かも知れません。今度はグレーの政府の効率性というところを見てみますと、それも若干上がってきている。
一番顕著なのがこの赤いところですね。ビジネスの効率性は2014年の19位から、なんと51位までつるべ落としに落ちている。ここが心配ですよね。
羽生:本当ですね。スパンは1997年から2022年までの25年間ということですね。
高津:ですから、失われた20年、30年と言われている期間とほぼ重なっています。
石原:本当に失われてきたんですねという感想が、つい口をついて出ますね。
高津:私は毎年このランキングが出る度に解説をしなければいけない立場なので、毎年悲しみを感じながらやっています。
羽生:政府はなんとなくイメージしやすいかと思うんですが、最も成績が悪いと言われてしまったビジネスは、(具体的には)どういうことなんですかね。
高津:次のスライドをお見せしたいと思います。もうちょっと細かく見ると、経済・政府・ビジネス・インフラという、4つの要素があります。今話題にしてるのが、このビジネスの効率性が63ヶ国中51位になっているのが問題ですよねということです。
ハイライトしているのは、そのさらに細かい項目を見た時に、日本が63ヶ国中ボトム10位に入ってるようなものをフィーチャーしているわけです。経済のところに物価とか、政府のところに公的財務とありますね。
でも、それ以外にやっぱりビジネスのところで3項目においてボトム10に入ってしまっています。ここが注目すべきところかなと思います。
羽生:ちょっと詳しく図を見てみますと、この丸の中に書いてある数字が63ヶ国中の順位ということですよね?
高津:おっしゃるとおりです。ですから、緑色の生産性と効率性は57位となっています。63ヶ国中の57位。経営慣行は63ヶ国中63位。
羽生:ビリってこと?
高津:はい。姿勢と価値観は58位ですかね。
石原:57とか58って、何事かという感じですね。63ももちろん論外ですけれども、なんで63ヶ国を並べた時に(日本が)一番だめというようなことが起きるのかが、ものすごく不思議ですけど。
高津:はい。不思議だと思われると思うので、一応次の解説を用意しています。
世界競争力ランキングについて、ざっくり言うと3分の2ぐらいが国連などの国際機関が出している、いわゆる統計データ。3分の1ぐらいがいわゆるサーベイです。このサーベイに答えているのは、その国の経済のインサイダーの人たちです。
日本で言えば、日本に住んでいる日本人と外国人の経営者や管理職。フランスであれば、フランスに住んでいる経営者や管理職が、自分たちの国に関して点数をつけます。10点満点で点数をつけるので、例えばある項目について日本の人たちが平均5点つけて、フランスの人たちが3点つけていたら、これは日本のほうが順位が高いということですね。
63位になってしまったということは、そのサーベイ項目において、他の62ヶ国の回答者たちのほうが、自国のことを日本の回答者よりもポジティブに評価していたということです。
石原:なんとなく日本人のもともとの気質で、どんなサーベイをとっても「自分はすごくできる」とは言わないとか。
羽生:幸福度ランキングとか、たいがい不幸ですからね。
石原:そういう意味で言ったら、その(国民性の)影響もあるかもしれないわけですね。
高津:それがある可能性はまったく排除はできないです。ただ、他に63ヶ国を横並びで客観的に測る手段はありません。だから、ある種の類似概念を使っていく必要がありますよね、という話が1つ。
もう1つは、そうは言っても例えば「経営者の社会的責任に対する意識は高いですか」とか。それから「人材育成や人材のリテンションに関する関心は高いですか」という項目は、日本は10点満点で8点ぐらいついてるんですよ。
石原:そういう項目もあると。
高津:そう。その結果、世界でトップ10に入ったりしてるんですね。だから、のべつ幕なし、日本の回答者の評価が低いわけではないんです。
高津:ちょっと残念なその成績が、次のスライドになります。例えばですけれども、「私たちの国の企業は一般的に言って俊敏である」という問いに対して、2014年の時点では、日本のインサイダーの人たちは10点満点で約5点をつけていたわけです。
羽生:これは5点満点じゃないんですね?
高津:10点満点です。
石原:でも半分ですね。5点です。まあまあ、そこそこだと言ってるってことですよね。
高津:それが8年経って、2022年の時点では3.53になっているので、ほとんどのひとたちが10点満点で3点か4点をつけている。
石原:1.5ポイント落ちているということですね。その時の順位がやばくないですか。63位ですもんね。
羽生:要は最下位ということですよね。
高津:そういうことです。同様に、例えば「起業家精神がビジネス界に広く存在しているか」も3.66で63位。「市場の変化への企業の感度が高いかどうか」も4.77で63位というかたちになっています。
石原:ほとんどの項目が、この8年間で1ポイント以上下がっていますね。
高津:そうなんです。この8年間で下がっているということが、非常に顕著で憂慮すべき事態かなと。
石原:生産性に至っては、2.5ポイントぐらい下がってるということで、なんだかとんでもないことになってますね。
高津:おそらくこれは生産性の議論がこの数年間でかなり頻繁になってきたので、その観点から見た時に意識が高まったということはあり得ると思います。ただ一般的に見て、日本経済のインサイダーである管理職や経営者が、日本の現状に関してかなり悲観的な見方をしていると言えると思います。
石原:そこちょっと若干気になるところですけど、インサイダーなんだから、自分の責任でなんとかしてという気もしますけども。みなさんわりと悲観的といいますか、「ネガティブな状態が続いてるんですよ」とおっしゃってるということなんですね。
高津:そうですね。
羽生:さっきおっしゃったように危機感があるということは、悪い中でも何にもわかってないわけじゃないんですね。問題意識があって、1ポイントとか1.5ポイント下がっている。俊敏性をもうちょっとどうにかしないといけないとか、起業家精神をどうにかしなきゃいけないと思い続けて何もできてない、という自己評価。
高津:そういうふうに言えると思います。私は比較的国の文化が近い韓国とか台湾のデータも見てみたんですけれども。そこでは、例えば俊敏性に関して言うと、日本よりもはるかに高いところに上がっているという傾向が見えてるんですね。
ところが、日本は残念ながらだらだらと落ちていくという。危機感はあるけれども何もしていない。人間ドックは受けたんですけれども、運動はしてませんし、食事も変えてません、みたいな。
羽生:わかりやすいですね。
石原:高血圧なのはわかったんだけど、まだ何も手を打ってませんと。
高津:それで数値はどんどん悪くなっている。
石原:(何もしなければ)治らないと言われてるのに、というものですね。
羽生:この結果をご存じだったかもしれないですけど、石原さんはご覧になってどうですか。
石原:失われた25年とか30年というのも言われるんですけど。結局ずっと落ちている、ずっと下がっているというこの現状は、やっぱりものすごく辛いですし。
私たちがこの後の世代にバトンを継いでいくことになると思うんですけど、そのことを考えても、それは若い人たちが悲観するような状況だという感じはすごくしますね。
高津:もちろん、このサーベイの対象者は比較的大企業で、しかも経営者、管理職などの何歳以上の人たちで、かつ国際的な経験をしている人たちが多いという、ある種の偏りはあると思います。
社会の別の局面において、「いやいや、うちは俊敏だし、起業家精神もあるし」というところもあるんだと思うんですよ。でも、ある部分を取っていくと、こういうことが見えていて、これはまさに人的資本の問題ではないかなと。
羽生:そうですね。今まさに高津さんから「海外と比較すると」という、キーワードが出ましたけど、発信元がアメリカやヨーロッパだというルールもあると思うので。
そこで気になるのが、やっぱり日本と海外の人的資本経営の現在地と言いますか。今の状況の違いや共通点を教えていただけますか。
石原:すごく難しい質問ですけど、私はこの話をするようになってから、やっぱり外資系の企業の方にもたくさんヒアリングをしていて。
「実際に人的資本の情報開示をすごくやっていて、それで株主からめっちゃ評価されて、株価も上がったみたいな話になってるの?」ということを、ヨーロッパ系もアメリカ系も含めて、外資系の企業のHRの人たちに聞いてみたりしてるんですけども。「うーん、あんまりやってないと思うよ」と言われてるんです。
それは、人的資本経営は例の情報開示の話だと捉えた場合には、まだまだ資本市場との対話はそこまで進んでいないという実感(があるという話だと思います)。
石原:あるいは、逆からも言えると思っていて。投資家から見ても、人的資本の状態の情報を開示してもらったからと言って、直近の財務データを見た時に、「いやぁ、この会社の株は買えない」と思うということだと思うんです。だから、資本市場や投資のマーケットの中では、まだ意識は変わっていないように思うんですが。
羽生:それは海外もということですか?
石原:海外もです。日本は投資市場との対話という意味でも、まだまだだと思います。ただ、海外ですらそんなに対話はできていない。もちろんESG投資やインパクト投資など、社会責任に対してどれぐらいインパクトがあるのかを見ながら投資するプレイヤーが出てきているのは確かなんですけれども、まだまだマジョリティではないと思います。
ただ、今の日本でも、企業が「人的資本経営ってこんなことでこんなことするんですよ」と言われていることをやってないかと言ったら、全員が「そんなのずっと前からやってる」と言うんですよね。
羽生:なるほどね。
石原:だから、そういう意味で言うと、情報開示にフォーカスしてしまうと、やっぱり本質を見誤ると思います。これは私たちのメディアのコンセプトでもあるんですけれども。そこはこれからやらなきゃいけないこととして、人事からすると重たいテーマなんですけれども、実はその手前の部分の話をしなきゃいけないと思っています。
そこに関して言うと、海外の企業で「いや、うちはそんなことはまったく考えてないよね」と言う人たちは、やっぱり皆無だと思っています。
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