2024.10.10
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なぜ組織の成長に多様性は必要なのか? DEI先進事例解説(全1記事)
提供:株式会社iCARE
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羽生祥子氏:みなさん、こんにちは。本日はご聴講くださりありがとうございます。「サステナブル」というキーワードをもとに、成長と企業の関係、そしてダイバーシティをエッセンスとして、30分お話ししたいと思います。
私は日経xwomanで客員研究員を務め、今は著作家・メディアプロデューサーとして活動しております。ご覧いただいているように、(スライド)右にあります『多様性って何ですか?』という本の中に書いたエッセンスを凝縮してお伝えしていきたいと思います。
本日のメニューを4個挙げました。意識して流れで聞いていただけたらと思います。
「今さら聞けない」という初めの一歩から、「組織とどう関係する?」「多様性がなぜ必要なのか」、そして「落とし穴」ですね。若い世代の声や、多様でない組織がどのようにサステナブルではないのかも説明したいと思います。
最後に「ウチの会社、何から始めればいい?」というところで、実践的なアクションにつなげられるお話をしていきたいと思います。
ご紹介いただきましたとおり、約20年間、日経グループでWebメディアを4つほど創刊してきました。そして今は内閣府さんとのイクメンプロジェクトや、少子化対策の大綱委員、共働きの家族または働く女性の声を発信しています。
企業の中でジェンダー平等を経営にどう結びつけていくのかを、約3,000社以上の会社の取材を通したり、約30,000人以上の働く女性を取材してきましたので、そのような現場の声もお伝えしていきたいと思います。
ではさっそく「D&Iって何ですか?」です。今さら聞けないんですが、こういうアルファベット用語は毎年新しくどんどん増えていくので、「なんのこっちゃ」と思っている方もいらっしゃると思うんですが(笑)。
ご存知の方は復習になりますが、「D」は「ダイバーシティ」ですね。日本語に訳すと「多様性」で、「I」は「インクルージョン」。これは日本語だとちょっと(表現が)難しいんですが、「包括」「包含」とか、入れ込むという感じですね。
組織の中では、みなさんの会社にもD&I推進室というものがあると思います。例えばダイバーシティ・多様性とか、イクオリティ(平等)とか。最近よく聞く「エクイティ」も頭文字が「E」で、公平・公正。関連する用語としては、「女性活躍」「男性育休」「働き方改革」といった言葉で、この10年ぐらい企業さんは推進されてきていると思います。
世界に目を向けますと、欧米では率先して女性を登用している取り組みがあります。中には、義務に加えて罰則まで進むところもございます。
例えばEUなんかですと、「上場企業に女性取締役が登用されてないとダメですよ」とか、米国では金融市場のルールとして「女性を登用していない企業には、機関投資家が投資しませんよ」というお話がございます。
金融・経済の分野だけでしょう? と思うと、そこもまた違っています。世界中では、政治や科学分野でもジェンダーの多様化が急進しています。
これはFacebook等で話題になったので、知っている人もいらっしゃるかな。各国大使館がハッシュタグを付けて「#No Manel Pledge」というキャンペーンをしたんですね。
「manel」というのは造語で、「man」だけの「panel」でmanelです。パネリストが全員男性のパネル(公開の会合、会議やウェビナー)、よくありませんか?(笑)。気がつくと全員男性、みたいな。
「声をかけて、ちゃんとかたちになるような人を集めたら結果的に男性だったんだよ」というのは、もう言い訳なんです。ちゃんと探していますか? 適任者は女性でもいるでしょう、と。男性が男性の基準で選ぶと、こういうことになりかねない。
この活動に参加している大使館は「男性だけで構築されたディスカッションやセミナーの場には一切参加しません」と表明しています。私はメディアを作っているので、自分が作っているメディアは必ずジェンダーミックスでやっております。
女性活躍は、GDPインパクトにとっては非常に強いんですね。IMF(国際通貨基金)の前専務理事の(クリスティーヌ・)ラガルドさんに、日本の実質GDPの予測をしていただきました。今の労働市場における女性の地位の低さが続いていくと、日本は30年後の2050何年にはGDPがぜんぜん伸びないんです。この20年くらい、1人当たりのGDPは本当に下がりに下がり続けています。
例えばよく言われるのは、スイスと比べると……日本では「スイスってイメージはいいけど小国でしょ?」みたいなことをよく言いますが(笑)。今、スイスの1人当たりのGDPに比べて日本は半分ですから、もうぜんぜん余裕じゃないんですよ。
そのような背景があって、女性活躍は単に(女性の)地位を上げるだけではなくて、経済問題ですよと指摘されています。
そして、今年一番問題として注目されているのが、この「ペイギャップ」です。国際的に見てとんでもない現状ですよと、海外からはかなり指摘されてます。このグラフをご覧ください。OECD(経済協力開発機構)の、男性と女性を比べた生涯賃金の格差です。
生涯賃金から、成人になるまでに個人に費やした教育費を抜いてるんですね。青が男性で、黄色が女性。これ、見てください。日本が一番左で、私は最初女性の低さにびっくりしました(笑)。「計算間違いなんじゃないの?」って、OECDについ電話しちゃいましたよ。
「単価が高いからですか?」「物価が高いからですか?」とか。いやいや、ぜんぜん違いますと。だって、日本の男性のOECDの平均値を見てください。平均はだいたい真ん中ぐらいにありますが、男性は世界と比べてもかなり普通なんですよ。女性だけガクッと下がっている。
せっかく大学や大学院まで出ているのに、企業の中にも(女性社員の)人数はいるんだけど、なかなか昇進しない。機会や期待や鍛える場を与えないから、この結果ですよ。集計するとこうなります。
というところで、行政も「こんなのダメでしょ」と本当にしびれを切らしたということで、「多様性元年」と私は呼んでいますが、2022年の4月からルール変更のラッシュが起きております。
たくさんある中で有名なものを4つだけお話ししますと、上場企業では東証が再編されました。その結果コーポレートガバナンス・コードが改訂されて、取締役や社外取締役の中に女性を入れましょうよ、という動きが加速したとか。
あとは大企業だけじゃないですよ。2022年4月からは(従業員数)101人以上の中小企業も女性活躍推進法の改正で対象になりました。管理職の目標やプロセスを情報開示しましょうね、という感じです。
あとはご覧になっているとおり、男性育休の義務化の推進がスタートしたり、人的資本、非財務情報開示で、さまざまに外堀を埋められてきているんですね。
2つ目のテーマで、組織の成長になぜジェンダーを代表とする多様性が必要なんですか? というところです。「地位の向上じゃない」というところに行く前に、まずはダイバーシティを推進する本当の根源をわかってほしい。
腹落ちしないと、日本だけ「男性VS女性」みたいなすごく小さい議論で、20年間ずっと同じところで足踏みしてるんですよ。もうこれをやめて、さっさと次の段階に行きたいものです。その時に重要になるのが、この図です。これは何かというと、左の黄色のカードで「属性の多様性」、右の緑のカードで「特性の多様性」を表しているんですね。
属性の多様性は何かと言うと、属性ですから、性別、年齢、民族、宗教、LGBTQとか。左のカードは生まれながらに与えられるものなので、自分で変えられないんですね。年齢もそうですし、ジェンダーもそうなんですが、特性の多様性の話とごっちゃになるんですよ。
多様性の話をする時に、「うちの会社はとっくに多様ですよ」「営業も事務も、挑戦的な人も、理系も文系も、率先して子育てと仕事を両立している人も、DINKsの人もたくさんいるから多様性が大きいです」と言っているんだけど、性別も年齢も民族も1枚のカードだけで増やそうとしていませんか?
もっと如実に言うと、「男性で50〜60代で日本民族」の一色になっていませんか。それによって緑のカードを増やそうと言ったって、限度があります。同じ感性で、同じ成功モデルを歩んできて、同じ年代の人たちでやろうとしても、緑は増えていかないんです。属性を増やすことで、比例して右側(特性の多様性)を増やしていきましょう、ということになっています。
イメージ図で表します。左の四角が会社だとすると、真ん中にまん丸の正円があります。これが先ほどの1種類のカードで、成功やロールモデルとされている、例えば50代・60代の男性はこのようなスタイルで昇進・昇格してきた。こういうやり方が、はっきり言うと評価において「いいよね」とされてきた。
右側のように、いろいろなポジション・いろいろな人がいるのに、「ああいうかたちでみんなやりましょう」「これが合っている」「これが評価が高い」と、集団心理でみんなが1つのやり方に寄せていっちゃうんですよね。100人雇っても、結局1人の得意技・不得意が再生産されてしまうから、“100人いても1人”なんです。
そのため、例えば左にいる人が「いや、これはリスクですよ」と発信したとしても、盲点になってしまう。キラリと光るイノベーターがいたとしても、このやり方に寄せていかないと評価されないので、イノベーターが孤立してしまう。それでは組織の成長につながりませんよね。
正円の、それこそ昭和・平成でうまいこといってきた人を否定するんじゃなくて、これはこれで「どうぞ活躍し続けてください」なんです。いろんな人がいますので、一方向に寄せていくのではなくて、画一的な組織に違う声を届ける勇気を一人ひとりが持ちましょう。
それは年齢や男性・女性に関わらないんです。もしかしたら23歳の男性がここらへん(右下の円)にいて、「こうではないんじゃないの?」と思っていても、声を上げるのに勇気がいる。
しかも、それに耳を傾けるのにも努力がいるんですよ。「何を言ってるの。我々はこの物差しでやってきたから」「場違いですよ」「空気を読め」「物わかりが良くなれ」というのでは、今後のD&I時代のリーダーとしてはちょっと失格かなと思います。
そうではなくて、(右の図のように)物差しを変える挑戦を全員でしていきましょう。「パーパス経営」と言われますが、「いろんなところにいていいよ」というのが、インクルージョンだと思います。
いろんな人がいてインクルージョンして、イノベーティブに変革を起こすのは、そんなにお金がかからない。マインドチェンジなので「やったらいいじゃん」と思うんですが、取材してきましたけど、なかなか進まないんですよね。
私から見て、残念ながらD&Iが進まない組織によくある傾向の言い訳トップ5です。いかがですか。「うちの会社もこういうことを言ってるわ」という人、心当たりはありませんか?
例えば、一番よく聞かれるのは「ここは職場なので、女性だけ特別視する必要があるの?」。実力があれば、男性も女性も(平等に扱えば)いいんじゃないのと。それはそうなんですが、そうではなくて。
先ほど申し上げたように「女性ならではの視点を入れる」ということではなくて、男性による男性の感覚で、今までの昭和・平成から続いてきた物差しで人を測っていませんか?
その物差しを作る人も男性で、物差しの目盛りを読む人も男性。それでは、どこか視点が1ヶ所に偏っていませんか。実力と言ったって、実力を測る物差しをまずは変えてみる必要がありませんか?
グローバル企業はもっと必死ですよね。「アングロ・サクソン人の考え方だけでやってはいけません」「(従業員に)アフリカン・アメリカンを入れましょう」「ハワイ系先住民を入れましょう」「アジア系のアメリカンを入れましょう」とか、そこまで細かく具体的にやってきているわけです。なので、男女のところで足踏みをしている場合ではありません。
ジェンダーダイバーシティを皮切りに、先ほど言った属性を増やしていくと何がいいことがあるかというのは、たぶんみなさんもいろいろなところで見聞きしていると思います。これはおさらいになりますが、はっきり言うと経済的利点なんですね。
例えば、投資のパフォーマンスが上がりますよ、ガバナンスが向上しますよ、ニーズをつかめますよ、とか。顧客は男性・女性が約半分ずつとされていますから、当たり前ですよね。あと、実は今一番大事なのはヒューマンリソースですね。右上に「『ヒト・モノ・カネ』から『ヒト・ヒト・ヒト』へ」と書いてありますが、これは金融庁や証券業界の方と話しました。
企業にとって大事なのは「ヒト・モノ・カネ」と言われてきたのが、今は一番大事なのが「ヒト」なんです。この人材の獲得と維持のためには、ダイバーシティ、特にジェンダーダイバーシティをやっていかないと選ばれない企業になってしまいます。
ここからがちょっと怖い話なんですが(笑)。多様性のない均一的なチームの落とし穴が何かは本にも書きましたが、経営や政治の分野でどういうリスクがあるかを研究している、アーヴィング・ジャニスという心理学者がいたんですね。
このグループシンクは「集団心理」や「集団浅慮」と言われますが、先ほどのように1つの枠の中で、たった1つのモデルを踏み外すと評価されないという、多様性がゼロの集団に、この8つの病・リスクが顕著に出てきますよと、歴史的にもいろいろ指摘されています。
例えば、「自分たちの集団に対して過大評価する」。メジャーじゃないマイノリティ、例えば白人だったら黒人の意見、男性だったら女性の意見、グローバルでヨーロッパの集団だったらアジアを軽視するとか。
こんな人たちは、マイノリティから発せられる道徳や理念、倫理を「取るに足らないだろう、大げさに言ってるだけだろう」と無視しちゃうんですよね。
そういうことが続いていくと、「都合の悪い情報を遮断する」「集団の決定に異論を唱えるメンバーに圧力がかかる」とか、この4・5・6のような話になってきます。もっと怖い病としては、「なんかおかしいな」と思っていても、「違う違う、大丈夫だ」と疑問を持たないように自己抑制しちゃうんですよ。
最終的には、全員の意見が一致してると思っていて「おかしいな」と思っても、(障害を)突破しようとせず、イノベーションにつながらないということなんですね。
そのような結果、こういうデータがございます。D&Iと企業の成長は完全に関連するデータがあります。例えばダイバーの上位企業は増益率が高くて下位企業は減益していた。これは、本当に経営にとっては実損ですよね。やらないと損して、やると得します。
数値、財務だけではなくて、非財務のところもリスキーになります。我々がサーベイで発信している調査ですと、ダイバーシティ推進に前向きに取り組もうとしている企業や、D&Iに取り組む企業で働きたいという女性は8割です。今できてなくてもいいんですよ。前向きに取り組もうとしてるところでいいので働きたい、と言ってるんです。
女性活躍やダイバーシティを推進している企業で女性が働きたいというのは、さもありなんだと思います。でも、それよりもっと恐ろしいのが、D&I経営を軽視していると男性社員にも逃げられますよ、というデータが実はじわじわと出てきております。
例えば、内閣府の令和3年度一番最新の世論調査です。「どのような仕事が理想的だと思いますか?」というお話の中で、「私生活とのバランスが取れる仕事がいい」と答えた人を分析しています。
(「私生活とのバランスがとれる仕事がいい」と答えた人は)総数で5割ぐらいなんです。地域別だと、東京のあたりがちょこっと上がっていますが、他はほとんど変わらないんです。だから、都会だからとか田舎だからじゃなく、だいたい同じなんです。
性別だと男性が45~46パーセント、女性が55~56パーセント。なので、「女性だからバランス(が取れる仕事が良い)とか言ってるんでしょ」というふうに甘く捉えていると、恐ろしいです。
それよりもこちら、ジェネレーション(別の回答)ですね。ジェンダーから、今はジェネレーションに多様性の現在地が移ってきています。男性を含めて、20代、30代、40代、50代、60代、70代とどんどん上がってきているんです。
私生活とのバランス重視と言っても、こういう感覚に対して50~60代の方々が「手を抜きたいのか」「仕事に本気にならないのか」と思ってしまうのは誤解なんです。バランスが取れた仕事を重視してるというだけで、この方たちはめちゃめちゃ(仕事が)できますよ。
なのでこれは、女対男の小さい問題ではない。多様性を求めている働き方だったり、人生観だったり、幸福観、家族観が変化している。男性も含めた価値観のジェネレーションギャップなんです。
ここに幸福感があったり、ウェルビーイングがあったりするんですね。これを無視した経営はまったくサステナブルではないですし、20代、30代、40代の男性たちにも「ちょっと違うんじゃないの?」というふうに思われて逃げられます。
最後に、じゃあうちの会社は何から始めたらいいんですか? 第一歩はどうしたらいいですか? ということで言いますと、今かなり注目されてるのは「人的資本経営という情報を開示せよ」と言われています。もうISO(国際標準化機構)にもなりましたから、やらざるを得ない。
(人的資本に関する開示情報の項目は)11領域あるんですが、コンプライアンス、倫理、ダイバーシティ、多様性、リーダーシップ育成、女性育成、組織の文化とか、今お話ししたことともすごく関連しているんです。
11領域の3本柱とあります。「費用」というのは人への投資です。あとは、多様性やリーダーシップを男性も女性もみなさん持ちましょうね、というものです。
じゃあ、実際に何を情報開示したらいいのかというと、こういう項目が挙がっています。男女間の賃金、ペイギャップや経営層の男女比率、男女別の育休取得やキャリア開発。男性、女性共にやっていますか? 結局、ジェンダーダイバーシティの経営が基礎でもあり、今注目されている人的(資本経営)の要なんですね。
じゃあどうしたらいいか。「何もやってこなかったんだけど悪気はないですよ」という企業さんに、ぜひ頭の体操としてやってもらいたいのが、こちらの4タイプ診断です。これは簡単ですよ。(縦軸が)女性管理職比率が高いか・低いか、(横軸が)男性育休などが取りやすいか・取りにくいか(ワークライフバランス度の高さ)。
右下のマミートラック型は、会社の中に女性はたくさんいるんだけど、女性管理職の比率が低い。だけど9時17時で帰りやすい、働きやすい。せっかく女性を従業員として雇用しているのに、戦力外にしてしまっていると、非常にもったいない組織なんですね。
じゃあ、これをイノベーション型にしていくためにはどうしたらいいか。これは私も企業の中に入っていって、研修やワークショップとかオンサイトで本気でやっていくので、残り数分で話すのはエッセンスなんですが、直球としてはちゃんとワーキングママ支援みたいなことをやりましょうということです。
それをやった上で働き方改革で男性にも横展開しましょう。さらにこの「リーダー育成」は、性別問わずしっかりと人材パイプラインを作って、スポンサーシップ制度を入れるなりコーチングを入れるなりして、男女共に一緒に育成していきましょう。
ちょっと駆け足になりましたが、私からのお話はこれで終わりにしたいと思います。
株式会社iCARE
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