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第2部 トークセッション「ものづくりDXの壁を乗り越える!各社のデジタル推進の挑戦」(全2記事)

2022.07.15

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自社の優位性を担保するための、AGCの「内製化」のポイント イノベーションにつなげる、内製と外注のバランスの取り方

提供:Sansan株式会社

早急な「DX推進」が求められる中、製造業では人材や知識の不足、技術の伝承などが大きな壁となっています。そのような中で、企業はDX、そしてイノベーションの実現に向け、現状の課題をどう捉え、準備・教育し、取り組んでいるのでしょうか。本記事では、製造業の企業の第一線でDXの指揮を執る、AGC株式会社の池谷卓氏と株式会社SUBARUの辻裕里氏が、両社の内製化のポイントや、DX推進のカギになる、経営層と現場の「間に入る人」の役割などを語っています。

グローバル企業にありがちな、ITに関する日米の温度差

友岡賢二氏(以下、友岡):辻さんにお聞きしますが、ものづくりには「メイドインジャパン」という日本製リスペクトがありますが、ことITの話になると微妙じゃないですか。情報システム部門が「これは日本が考えたITの仕組みです」とやったところで、微妙な温度差が出てくる。このへんの日本と海外の今後のロールアウトをどのように考えておられますか?

辻裕里氏(以下、辻):日本が本社なので、本来であれば日本で作ったものを展開できればいいのですが、SUBARUの主戦場はどちらかと言うと北米になっていて。

友岡:そうですね。

:現地にもITの組織があって、クラウドの使い方やアジャイル開発の進んでいるところがありますので、彼らのいいところを我々も学ばせてもらっています。共通のツールもできてきましたので、勝手にバラバラでやっていたのが、ようやく仲良くやれるかたちが取れてきたかなと思います。

友岡:なるほど。アメリカをITで抑え込もうとしても、ほとんどの日本のグローバル企業は失敗しますよね。アメリカは気持ち良くさせておくみたいな……。

:そうですね、そうしたほうが平和です(笑)。

友岡:次の質問ですけども、「設計者個人にとどまってしまうノウハウの部分を会社の資産として共有する効率的な方法を教えてください」と。これについて、何かありますか?

池谷卓氏(以下、池谷):設計者かどうかはわかりませんが、R&D(研究開発)部門で言いますと、昔からどの会社さんも一緒だと思いますが、基本的にデータは会社の資産であって個人の資産ではありません。データは個人の資産という位置付けで使っている(人もいる)かもしれませんが、データベース化して会社の資産として高めていく活動は非常に重要になるのではないかと思っています。

自社の何を内製化すべきかの判断基準

友岡:次にちょっと組織的な話をしたいのですが、私がさっきお話したDXレポートの中に、IT部門もあるし、事業部門もあるし、経営もあるという「三位一体」の取り組みと「内製化」の問題がありました。丸投げはダメで、内製化が必要ですと。

DXと社内の情報システムの内製化って、重なる部分と重ならない部分もあると思いますが、この内製化に関してどのように考えておられるかを聞きたいです。AGCさんはそのあたりをどのようにお考えですか?

池谷:情報システムの内製化については、ちょっと私も疎いところがあるんですが……。例えば私たちの場合はマニュファクチャラーの中でも素材なので、やはり「生産技術」が一番の肝になります。研究所でいくらいい材料ができても、経済的な生産ができないと意味がないので、生産技術に関してはかなり内製化しているんじゃないかと思います。

設備だけでなく、制御についてもかなり内製化をしていますし、そのためのエンジニアリング部隊も持っていると思います。会社としてどこが一番重要なコアで、そこは内製化をしていくというところがすごく大切だと個人的には思っています。

友岡:会社のコアの部分をしっかりと見定めて、そこに独自技術をビルトインして他社に対する優位性を担保する。そういった部分はやはり中で作っていくということですね。

池谷:そう思いますね。加えて近頃はデジタルがどんどん進んでいるので、各社さんとも内製化をやりながら、実はオープンもやるという、けっこう難しい局面になっていると思います。

失うものが多い、“昭和型アウトソーシング”

友岡:イノベーションを大きな渦のように巻いていく時に、そういった内と外の全体のバランスみたいなものはどうやって取っているんですか?

池谷:これは非常に難しいと思いますね。私もちょっとお答えできないところもあるんですけども。外にある最先端の技術を使って、今の時点で言う(自社の)コアをどれだけ強くできるかという。最先端の技術が外にあればそれを使う、という考え方ではないかなと思いますね。

友岡:あと外と座組みする時に、今まではどちらかと言うと「俺らは客だぜ」というスタンスで、「なんか商材持ってきて」のように、ある意味タダで提案をさせるというのが昭和のスタイルでしたが。今はこちらが出向いて学ばせていただくみたいなスタイルに変わりましたよね。

そのへんの企業カルチャーが変わっていかないと、良い出会いとその先のイノベーションまでつながらない気もするんですが。そういった関係性を作る際に、何か気をつけているポイントはありますか?

池谷:先ほどの繰り返しになりますけど、デジタルの技術はどんどん発展していきますので、自分たちのスタンスによって協力いただく会社さんのデジタル技術が止まると、イコール自分たちのデジタル技術が止まってしまう。そのようなかたちをとらないのが基本的な考え方かなと思いますけども。

働く人の「モチベーション」を考慮した、SUBARUの内製化

友岡:辻さんは、内製化に関してどのようにお考えでしょうか?

:情報子会社がありまして、そちらでできる範囲は内製化をしてきたんですが、ここ数年で案件が数倍に増加したこともあり、外への依存が増えています。その際は、仕様がはっきりしているものから外に出すと言いますか、優先順位が「中でやらなきゃいけないものかどうか」よりも、「早くやらなきゃいけないもの」という出し方になっています。まさにそこを今、反省を踏まえて見直そうとしています。

内製化をする時に一番キーになるのが、外から連れてくるだけではなく、中の人たちにどうやって一番価値のある働き方をしていただくかというところです。そのための体制を見直しているところです。

友岡:単に「組織を1つにします」「組織を変えます」という枠組みを変えるだけではなく、そこで働く人のモチベーションをうまくコントロールすると。このあたりは言うは易くで、なかなか苦労されていると思いますが、何か気をつけておられることはありますか?

:今回、2年後にその情報子会社を統合し、本体側に全員入っていただくという発表をしたんですけが、彼らはITをしたくてITの会社に入っているんですね。でも我々はSUBARUという、車作りにデジタルを活用したいというところがあります。

弊社の場合、ものをつくる工場系のところは絶対に内製で持たないといけませんが、リソースの都合で、大事なコアの部分でも外で作っていただいたところがあるので、そういうものをきちんと中に持ってきたり、スキルを転換したりというところを2年かけて3段階ぐらいに分けて進めていくと。

最初に数人に来ていただいて、うまく溶け込んでいただき、その後第2弾、第3弾というかたちでモチベーションを持っていただきながら入っていただくという工夫をしてます。

友岡:辻さんの中で「ここは中だけども、ここは外」という線引きのポイントはどこでしょうか?

:工場を回すところはきちんと中で押さえないといけないので、まず工場系ですね。今ちょっと弱いのですが、そこを押さえると。あと本社系のところは、もう一切外でいいんじゃないかなと。

友岡:バックオフィスと言われる部分ですね。

:そうですね。そして今、うちの中計の柱にしている「データ中心に考える」というところ。データ分析の環境とかスキルを変えていただいて、中の人たちでやっていけるようにしたいと考えてます。

DXで重要になる、経営層と現場の「間に入る人」の役割

友岡:ちょうど良い質問がきました。「製造業でDXを進めるにあたって、現場の課題と経営者が求める課題の違いに差はないでしょうか? 差がある場合はどのようなアプローチを行っていますか?」と。上から降ってくるものと下から上がってくるものに、「あれあれあれ?」という差(笑)。辻さん、引き続き何かありますか?

:弊社は2000年の頭ぐらいにすごく大きな風呂敷を広げ、「やっぱり、やりきれないね」と言って小さくした経験があり、今回もすごい旗を揚げてやろうという経営の意思はないですね。冒頭にもお話ししましたけれども、地に足のついたかたちで、今困っていることに対してきちんとデータを使い、お客さまにいいものを提供していこうという活動なので。現場と経営の意思がズレることはあまりありません。

ただ、日本にいる方は日本のサプライチェーンやお客さまを心配するんですが、弊社はビジネス上では北米が多いので。北米中心にものを考えないといけないというところで、データの入口のところでちょっとズレがあったかなというのはあります。

友岡:AGCさんは、この上からくるものと下からくるものというところで、何か課題や認識などはありますか?

池谷:基本的に経営層と現場の課題は違ったものであるし、そうでなければいけないと思っています。課題がそれぞれ違っていても、現場の課題は現場で解決しないといけないので、現場の課長みたいな方がデジタルを活用するなどして、一生懸命やっていくことになります。経営層は経営層で全体を考えて、デジタルだけを使うのではなく、トランスフォーメーションしていくという課題感を持っていくことになります。

ですので、その中間にいる人間がキーになるのかなと。ここが有効に動く組織は、現場と経営層を結びつけるかたちがとれるのではないかと思います。難しいですけど、デジタルのことを知りながら、経営の課題もある程度知り、現場も知る、みたいな(笑)。そういうことができる機能が必要になってくると思いますね。

友岡:例えば中期経営計画や、年度の大きなアジェンダに対して「この課題は、どういう関係性があるんだろう」ということをちゃんとマッピングしてあげることが、その間に入る人の重要な役割ですよね。

池谷:はい、そうだと思います。

組織の規模によって異なる、“仲介スタイル”

友岡:「これって要はこの問題だよね」という関係性をきちんとつけると、ズレとかギクシャクするところがなくなって、一本道がつながる。「この先にはこれがあるよね」というのが、たぶん我々3人の仕事かなと思ったりするんですね(笑)。

池谷:すごく重要なファンクションだと思います。

友岡:そう見ると辻さんはキャラ的に言うと強そうな感じで、経営者と握って「経営者がこう言ってるよ」と上からドーンといきそうな感じなんですけど(笑)。すみません、勝手にそういうスタイルに思っちゃっているんですけれども(笑)。実際はどんな感じですか?

:(笑)。基本スタイルはそうでした。今はみなさんとの平和的な解決方法に(笑)、やり方を切り替えています。やはり組織が大きくなっていますし、それなりに長い年月でプロセスがしっかりとできた業界なんですね。その中では、ちょっとのズレが何万人の仕事に影響してくると。一つひとつチェックしながらということで、PoC(Proof of Concept)をすごくはっきりさせ、評価をして、次に出ていく。

「こっちにいくんだね」って決まった時の、会社の進む速さと言いますか、一本にする力がすごく強いので、そこからは早くできる感じです(笑)。

友岡:複合格闘技戦ですので(笑)、硬軟取り混ぜてアプローチしていくことになりますよね。

急激な変化に柔軟に対応するための「リーダーの心掛け」

友岡:質問がいくつかきています。「新型コロナのような外的要因による急激な環境変化に柔軟に対応するために必要なリーダーの心掛けをお伺いしたいです」。今、若干触れたところもあると思いますが、どのようにお考えですか? リーダー論ですね。

池谷:ビジネスをやっていれば、予想外のことって起こるわけじゃないですか。というか、起こらないことがないわけですよね。そうすると、常にいくつかのオプションを用意しておくということだと思うんですね。

例えば今回のコロナでは、引き続きいろんな問題が起こっていますけど、事前にどういうオプションを持っているか、そしてそれをいいタイミングで打っていくということだと私は思っています。それをやらないといけないのは、DXも一緒ですね。

友岡:私からアドバイスすると、普遍的なリーダーに必要な素養はありますが、「あなたはあなたのスタイルでいいんです」とあえて言いたいですね。個性なので、人の真似をする必要はありません。自分にないところは他人に補ってもらえばいいんです。「私はこれができるけど、これはできない」と宣言すると、誰かが補ってくれるので。あんまり全知全能の神みたいになろうとしないことですね。それはちょっとおすすめしたいです。

事業会社に求められる人材

友岡:次の質問は、辻さんに答えていただこうかな。「現場や工場に近い部分をデジタル化するには、まず現行の現場レベルの作業フローを正しく把握する必要があると考えていますが、非常に重く、また正しく業務やリスクを整理できる人材も少ないです」と。

現場は決められたことなので淡々とやっているけども、これが正しいのか。何を直し、どういう方向にすればいいということをちゃんと判断できる人がいないと。ご本人も「ざっくりしていて申し訳ないですけど」と書いていますけど(笑)。ざっくりと答えていただいてけっこうです。

:弊社も、そこに課題がありまして。工場系の方は、口頭でがーっと言ったらフローができるということに慣れていたので、言ったとおりのフローやプロセスが書けないITの部門が悪いみたいなのがちょっとあって。「いやいや、現行のフローを書くのは業務部門ですけど」と一生懸命お話ししました。

そこでは、IT側へのプロセスの教育と、部門の仕事の内容を人事教育に盛り込んでわかっていただく活動から始めました。そうしないといつまで経っても(フローが)書けず、先に進めないので、そこは意図的に活動してます。

友岡:私もよく「現場に溶ける」とか言いますが、情報システム部門だけで集まって情報システム部門のレピュテーションを上げるとか、情報システム部門のお役立ちとか「ぜんぜん意味ないな」と思ったりするんですね(笑)。「これは事業だろ」と思いますよね。

だから事業に愛がない人は、救いようがないと思っているんですよ。やっぱり「車が好き」とか「素材が好き」とか「素材の先にある社会の変革が好き」。うちで言うと「エレベーターとかエスカレーターが好き」っていう。そこの「好き」は絶対ないとダメで、その上での話かなと思うんですね。事業会社とはそういうものなので。

「デジタルが好き」という人は事業会社じゃなくて、IT会社に行ったほうがいいというのが私の考えです。事業会社はやっぱり事業。会社が3つある中からどれかを選べといった時に「こっちの会社でいきたいな」という、自分の「好き」みたいな感情は素直に大切にしたほうがいいと思うんです。

ITやデジタル化で変わる、製造業のあり方

友岡:質問をどんどん片付けていきましょう。「ITはマイクロサービスが今後の主流になると考えています。今までみたいに自分たちでつくるんじゃなくて、選択・組み合わせになります。製造業としてはどのように考えていますか?」。もうこれは私が答えます。あなたのおっしゃるとおりです。そういうふうになります(笑)。

ゲームとかネット事業をやっている人からすると、もうコンテナを使ったマイクロサービスは当たり前ですよね。そうではないというのが製造業のあり方なんですけど、間違いなく全産業がそっちに移るので、そういうふうにならざるを得ない。そこに対してどう対応するかが非常に重要なアジェンダになります。非常に良い質問だと思っていますし、私もそのとおりだと思っています。

次。「DXを推進するために調達方針、例えばオンプレだったりクラウドだったり、そういったことの変更などを検討されておりますか? またデータをどこに置くかについての基準などありますでしょうか」。例えばクラウドが危ないんじゃないかといった議論。「こんな議論があったよ」というご紹介でもけっこうですが、AGCでは何かそういう議論はありましたか?

池谷:すみません、私がちょっと情報システム部門を完全に理解していないので、そういう議論は……。

友岡:逆に言うと、データをどこに置くかなどは気にしますか?

池谷:気にしますね。特に製造業はデータが命になってくるので、データをどこに置くかはすごく気にします。クラウドであったとしても、そこは情報システム部もいろんなカンパニーや製造部門と話し合って決めているはずだと思います。

友岡:ありがとうございます。質問は全部クリアしました。

DXは、自社や事業に合わせて自分たちで構築する

友岡:時間がないので、最後の締めにいきたいんですけども。最後に一言ずつみなさんにメッセージ、または言い残したことがありましたらお聞かせください。辻さんからお願いします。

:先ほどデータをどこに置くかというお話がありましたが、私、4月からサイバーセキュリティ部長も兼務することになりまして、セキュリティとかBCPをベースに運用のしやすさも考えて、この4月からどこに置くかの再整理に取り組んでいるところです。

みなさんが安心して働いていただけるような、データを使っていただけるようなところを目指していこうと。泥臭い仕事もたくさんありますが、ベンダーに負けないよう中の力を強化していきたいと思いますので、ぜひみなさんと情報交換をさせていただければと思います。以上です。

友岡:ありがとうございます。時間なのにもう1つ聞いちゃいますが、推しのSUBARU車。「これいいぞ」というのは何ですか?

:「ソルテラ」です(笑)。

友岡:ソルテラ、ありがとうございます(笑)。じゃあAGCさん。

池谷:今日もみなさんとお話ししていろいろ勉強しましたが、DXは「これ」って回答があるわけではありません。それぞれの会社さんや事業に合わせて自分たちで構築していくと、いろんなおもしろいことが出てくると思いますので、また意見交換させていただきたいなと思います。今日はどうもありがとうございました。

友岡:ありがとうございました。まだまだ話し足りないんですが、残念ながらお時間になってまいりました。私自身も非常に楽しい会で、この楽しさがみなさまにも伝わったんじゃないかなと思います。ご視聴ありがとうございました。それからお二人、どうもありがとうございました。以上でございます。

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