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ニューノーマル時代にエンジニアが活躍できる組織のつくり方 調査結果発表(全1記事)

2021.05.10

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ITエンジニアはなぜすぐに転職してしまうのか 百年前の工業エンジニアに学ぶ「混ぜる」と「目指す」ということ

提供:パーソルホールディングス株式会社

with / afterコロナ時代、エンジニアの働き方も各企業も変化に適応することが求められています。「PERSOL DX STUDY #7」では、パーソル総合研究所で行った「エンジニアの組織戦略やエンジニアの働き方に関する調査に関して、上席主任研究員である小林氏が、その調査結果について発表しました。

“働く”に関してのさまざまな調査

小林 祐児氏(以下、小林):パーソル総合研究所の小林と申します。よろしくお願いいたします。私が最初に口火を切る役を授かりました。「ITエンジニアが活躍できる組織のつくり方」に関するパーソル総研の調査結果をみなさんに紹介し、このテーマに関して考えるきっかけになればと思います。

まずは自己紹介からしたいと思います。パーソルグループのいわゆるシンクタンク、調査、研究、対外発表などをやっているところで、研究員をしています。もともと社会学の人間なんですが、“働く”に関してさまざまな調査をして、いろいろな本を書いています。実は今月(2021年3月)の末に転職学の、まさに転職に関わるいろいろな調査研究をまとめた本を書きました。そちらももしよろしければお願いします。

IT人材は20年後も足りない状況が続く

本日のテーマは、さまざまな調査研究をしている中で、ITエンジニアに対する定量調査から見えてきたことをお伝えしたいと思います。なんでこんな調査をやったかというと、簡単に言えば、なかなか採用できない。そして採用しても辞めてしまう、と。やっぱり人事の方とか現場の方は、こういう課題感をもっている人がけっこう多いと思います。この組織マネジメントでどうすればいいんだろうという課題に何かヒントが得られないか、そういう調査です。

IT人材は、みなさんご存知のとおりかなり需要が高く、そして不足が大きい、そういった領域の労働者です。経済産業省の試算でもやはり長い将来、10年後、20年後にあたっても足りない状況が続いていくだろうという結果になっています。

そこで今回は、ITエンジニアだけではなくて、例えばバックオフィスやマーケティング、営業職などのその他の職種と比べることによって、エンジニアの特徴を浮かび上がらせようという定量調査を行いました。最初に、回答者についてだけ少し補足しますと、ITエンジニアは内製のエンジニア、そして受託、常駐あり・なしと、バランスよく回答者を集められたかなと思います。合計1,600人のエンジニアの結果としてご覧ください。

かなり広範囲な調査を行いましたが、本日は時間も限られていますので、トピックは3つだけです。まず賃金の話。みなさんの気になる給料の話ですね。あともう1つ、「組織シニシズム」というコンセプトを今回の調査で我々検証いたしました。これが何かというところ。そして1、2を合わせて、少し私のほうで組織論的な、組織という全体を眺めたときにどういうことが言えるのかを紹介します。

ITエンジニアの年収ギャップ

まずは賃金の話からですね。(スライドを示し)こちらは希望の年収と現在の年収のギャップを見たものです。理想と現実のギャップですね。左側がITエンジニアで、他の職種も含めてやっぱり理想のほうが高い。それは当たり前かなと思いますが、ITエンジニアはその他の職種よりも8.7万円ほど多く、ギャップを感じていそうです。

(スライドを示し)こちらは業種とか事業内容、またはITコンサルやエンジニアの職種、そして役割においてもかなりの差が見られました。こちらのデータは細かく拾っていくと時間がなくなってしまうので、けっこうギャップがあるということだけ確認いただければと思います。

珍しいところでは、今用いている専門の言語別のギャップなんかも見ています。

(スライドを示し)こちらは別の調査ですが、日米で比べたときにどうなのか。日本の水準でいうと、IT人材の賃金水準の低いことがやっぱり指摘されています。右が米国、左が日本で、もう細かい数字を見なくても、だいぶ差があるところが見て取れます。

今回の我々の調査でわかったことは、ITエンジニアは、理想と現実の年収ギャップが大きめであることと同時に、年収のギャップが高まると転職意向が上がるという傾向です。他の職種、例えばバックオフィス、マーケティング、営業といった職種は、給料のギャップが高くても転職意向につながっていません。給料が低いからといってすぐ転職しようと考える人たちではないことがわかります。

ITエンジニア以外の職種では、年収ギャップがあると、どちらかというとその組織の中で管理職意向みたいなものが下がっていきます。同じ年収のギャップでも、賃金に不満があるときに、視線が外に向きやすいのがITエンジニアの特徴です。(スライドを示し)簡単なグラフにすると年収と転職意向との正の相関ですね。これがきれいに出るのが左側のITエンジニア職。その他の職種はもっとバラバラで、人間不満や他の要因が相まって転職を考えます。ITエンジニアは、年収によってもそれがだいぶ規定されます。

ITエンジニアと「組織シニシズム」

もう1つのトピックの「組織シニシズム」です。ITエンジニアの働く意識、例えば転職に関する意識とかマネジメント職になる、ならないみたいな意識は、さほど職種差の大きな違いは見られませんでした。働くという意識において、それほど大きな差はありませんが、1つ大きな違いがあったのがこの組織シニシズムという概念です。

組織シニシズムとは簡単に言えば、「組織に対する、冷ややかで批判的な気持ち」です。例えば「この会社って従業員を公平に扱ってくれないよね」とか、「この職場にいるだけでイライラするな」とか、居酒屋でずっと組織や会社の批判をしているみたいな、よくある話ですよね。そうしたものを組織シニシズムと呼ぶんですけれども、これがITエンジニアの職種においては転職意向と非常に強く紐づいていました。他の職種はさほど紐づいていません。

この組織シニシズムが何の影響を与えているのか、(スライドの)左側にまとめました。社内におけるエンジニア職のポジショニングによって、かなり規定されているということだったんですね。例えば、エンジニアが他の組織から疎まれているなとか、なんか浮いちゃっているなということや、会社の中の他部門から無理難題ばかり押しつけられて、意見が尊重されないなど。

社内における立場の弱さや、プロジェクトとかクライアントに対して社内の誰も守ってくれず立場が弱い、無理難題を外からも中からも突き付けられるみたいなことがあると、この組織へのシニシズムというものがすごく高まって転職意向が上がります。

それ以外にもシニシズムが高い組織、低い組織の特徴というのはいろいろ出ました。残業時間とかマネジメントの在り方などにもやはり影響は受けています。

賃金とポジショニングが転職につながりやすいのはなぜか

ここまで見えてきたことを簡単にまとめます。ITエンジニアは転職につながりやすいという意味で、まず賃金に敏感です。あとはもう1つ、ITエンジニアは社内外のポジショニング、相対的なポジショニングに非常に敏感です。それも、転職につながりやすいという意味での敏感ですね。

調査結果をプレーンに見ると、そういうことが言えますが、私は組織論とか雇用に関して日々調査していますので、もう少しみなさんと一緒に、この結果を考えてみたいと思います。なんでこういうことになるんだろう、というところですね。

労働社会を見るときに、昔からよく内部労働市場と外部労働市場という言い方がされます。簡単に言えば、内部労働市場というのは日本の雇用が大事にしてきた正規雇用。長期的に人を安定的に雇用して組織の中で、企業の中で育成して育てていく労働市場です。一方で外部労働市場というのは、組織の外の労働市場ですね。例えばアメリカみたいな国は、外部労働市場が強い国と言われています。この労働市場で組織間の賃金相場や人の流動化が起こっています。

簡単に言うと、内部労働市場は「make」の世界だと言われることもあります。内部育成と長期雇用、今時の言い方で言えばメンバーシップ型がよく言われるような世界だと。それに対して外部労働市場は「buy」の世界で、人が足りないときに、その欠員を埋めるためにお金を出して人を採用する。ここでは、内部育成という考え方よりも、その都度外部から人を採用してくる。そして外部から取ってくるので、外部市場に賃金が左右されると。こういった世界ですね。

こういった対比で見たときに、ITエンジニア領域はどこに位置付けられるかがポイントになってきます。私の見立てで言うと、ITエンジニア領域はこの中間、メンバーシップ型に片足を突っ込んでいる中途半端なbuyの世界に現在位置していると思います。このテクノロジーの進展が早い時代では、内部育成はなかなか難しいという感覚をどの人事もどの会社ももっています。

ITエンジニア領域に閉じた問題解決は効果が限定的

だからやはり外部労働市場から人を取ってこようとしているんですが、そこに例えば賃金や市場の理想と年収のギャップみたいなものが生まれています。この浮いている状態だからこそ、賃金不満みたいなことがITエンジニアの転職に直結します。そして、会社の中に入ったときにも、なんかエンジニア組織だけ雰囲気が違う、みたいなことがよく起こってきて、それがまた転職に直結する。

本日は詳しく紹介できませんが、エンジニア職には、このままスキルや専門性を高められるだろうかといった不安やマネジメント職を打診されても専門性が下がってしまうのではないかといったキャリア不安が高いです。こうしたことも「なんとなくみながマネジャー管理職を目指す」ことが一般的なその他の職種との相対的な違いだと整理できるでしょう。

この右側の内部労働市場重視のメンバーシップ型の組織の意識、例えば具体的に言えば、特定のジョブだけでなく会社組織のためにがんばる。決められた役割が終わったとしても、進んで役割外労働をする、残業が多くても当たり前、ジョブ・ローテーションを通じて自分の職種内容を組織側や会社側が決めても不平不満を言わずに単身赴任とかにも従うといった世界観から、ITエンジニアは浮きがちです。

つまりITエンジニアの組織を考える際に、どうしても「ITエンジニアはこういう人たちだよね」とか「ITエンジニアの特徴は何だろう」というところばかり見てしまいますが、結局これは、「相対的なポジショニングの課題」です。つまり、ITエンジニアが生き生きと活躍できる組織を作ろうというときに、ITエンジニア領域に閉じた問題解決は効果が限定的なんだろうなと、そう考えています。

百年位前のエンジニアの雇用社会の話

もう1つここで参考にしたいのが過去の歴史です。恐らく本日集っていただいたみなさんは、やっぱり技術系の方が多いかなと思いますが、昔はエンジニアというとITの領域ではなくて機械エンジニアで、工業エンジニアでした。第一次世界大戦前後のだいぶ前、百年位前の雇用社会で、実は今と同じようなことが起こっていたという話をします。

その当時、内部労働市場重視の世界には職員、いわゆるホワイトカラーという領域が今と同様に広がっていました。だいたい大卒ですね。その頃大卒というのはエリートの証でしたのでそういったホワイトカラーの職員として資本家の領域がきっちりとあり、左側の外部労働市場のほうにはいわゆる工業エンジニア、「渡り職工」と呼ばれる人たちがたくさん働いていました。

初めて聞く方も多いと思いますけれども、そうした渡り職工はいろいろな工場や現場を渡り歩いて技術を磨いて職人としてのスキルを蓄積していきます。まさに今ITエンジニアの方々が行っていることを百年前の工業エンジニアの方々も未熟練から熟練工までけっこうやっていました。かつ、この時は超流動的な雇用です。年間の離職率が3割、4割、5割とかで大量に辞めていくような世界でした。

かつ、直接雇用よりも今時の業務委託に似たような形態でスキルを付けていって、独立した親方みたいなポジションを狙っていくというのが当時の工業エンジニアの姿でした。このエンジニアとその他ホワイトカラーとブルーカラーの間の溝が大きく、非常に分離していたのがその頃です。これを職工身分制度と言ったりもしました。使うトイレすら違い、ほとんど差別に近いような処遇も行われていました。

「混ぜる」と「目指す」による分離の解消

今から百年前、ITエンジニア領域と同じような「浮いている」状況が工業エンジニアに起こっていたということですね。じゃあこのときはどうなったのか。それを考えてみると、ITエンジニア領域が今後どうなるのかということを考えるヒントにもなってくるかなと思います。

どうなったか。起こってきたことの1つは両者を“混ぜる”という方向性です。内部と外部で鋭く分かれているものを混ぜていく。ホワイトカラーとブルーカラーを混ぜていくような施策が取られ始めました。エンジニアを長期雇用しよう、内部で育成しようと内部育成機関を創設したり、あとは職務をまたいで「ジョブ・ローテーション」を行い始めることが起こってきています。

そしてもう1つは、企業別の組合ですね。これは日本の雇用を語るときに必ず言われますが、組合が職業別ではなくて企業単位に組成されていきました。今時の言葉で、メンバーシップ型雇用というものがこの第一次世界大戦から第二次世界大戦の間ぐらいに徐々に確立していった。そこにエンジニア領域が巻き込まれていったということです。

そしてもう1つ、“目指す”という方向です。つまりホワイトカラーだろうがブルーカラーだろうが、同じものを目指すといったかたちで企業が一丸となる。この時に契機としてあったのが、戦争です。第二次世界大戦の世界の中で職種をまたいで企業という単位で一丸となって、何か同じものを目指すという大きな機会になったのが、戦争です。国家総動員体制と、戦後の生産復興運動などが「職種ごと」ではなく「企業全体」の目標や目指す道を与えました。

そうやって職員と工員の鋭い分離というものが解消され、職種をまたいでさまざまな協働が行われるようになったと。そうした協働が柔軟に行えるがために、世界有数の高品質なものづくりということにつながっていきました。

ITエンジニア領域が、今後どうなっていくのか

ではこの歴史を踏まえてITエンジニア領域が今後どうなっていくのかということを考えてみたいと思います。やはり「混ぜる」と「目指す」この2つの方向性が基本軸になると思います。「浮いている」状態を解消するためにきちんと賃金の需給バランスを取っていくことや、職務横断の交流やコミュニケーションの機会を増やしていく、施策が取られ始めるんじゃないかなと思います。

エンジニアという領域に留まることなく、一緒に学び合うコミュニティだったり、例えば他の企画系業務を兼務するような動きや職務横断の異動、その他諸々の仕掛けを用いてどうにかITエンジニア領域とその他の領域を“混ぜる”という仕掛けが恐らく必要になってくるし、今後やられていくと思います。そして徐々に、外部から採用するだけではなくて、組織内に長期育成型のITエンジニアを取らないとダメだねという話にもなるんだろうなと思っています。

もう1つの“目指す”という方向性は、より難しい。我々は、戦争というすごく偶発的に生まれたものを頼るわけにはいきませんので、やはりここは企業理念だったり何を目指してDXを行っていくという方針だったり、今時の言葉で「パーパス」みたいなものが職務横断的に目指されている状態をつくらなければならない。そういったことが、ITエンジニアとその他、のような切り分けではなく、組織として動いていくということを可能にしていくんだろうなと思います。これが浮いているジョブ型の状態の解消になっていく。

最後に付記しておくのは、別案として今盛んに言われているのがジョブ型の人事制度を全体に、つまりメンバーシップ型の人をジョブ型に取り込んでしまうという方向性ですね。ただこれは、本日はあまり長くはしゃべりませんが、先ほど言ったメンバーシップ型の組織が当たり前に行っているような意識をかなり捨てるか、変えるか、無理矢理維持するかという仕掛けがビルトインされていないと難しい。 

実際には、専門職が大部分を占める組織や、グローバルでどうしてもジョブ型に統一したいといった企業を除けば、多くの企業が移ることはなかなかないんじゃないか、相当な覚悟が必要な転換ではないかと思っています。

ITエンジニア領域に関してより活躍できる、生き生きと働けるというところに関して、ちょっと過去の歴史の話と最新のデータを交えてお話ししました。私からの話は以上になります。ありがとうございました。

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