2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
提供:セーフィー株式会社
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佐藤晶紀氏(以下、佐藤):「臨店に頼らないリモート店舗管理 セーフィー協賛」のイベントにご参加いただきありがとうございます。司会を務めさせていただきます、ナレッジ・マーチャントワークスの佐藤と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
本日のセッションでは、昨今、従業員やお客さまの感染予防や、販売管理費の削減を目的に、スーパーバイザーの臨店業務業務が制限される傾向になってきている中で、「テクノロジーを活用して遠隔で店舗を管理したい」というニーズが急速に高まっている背景を受け、実現に至っております。
セーフィーとナレッジマーチャントワークスは、そのニーズに取り組んでいる2社となりますので、今後の店舗運営におけるヒントや武器の提供ができればと思っております。
では、まずはセーフィー株式会社 アライアンス戦略室室長 小室さんから、サービス及び自己紹介を5分ほどさせていただければと思っております。
小室秀明氏(以下、小室):みなさん、こんにちは。セーフィーでアライアンス戦略室の責任者を務めております、小室と申します。セーフィーにはビジネス側の責任者として入社しまして、6年目になります。今はアライアンス戦略室の室長をやっております。
私はセーフィーのビジネスサイドにおいて、一番社歴が長い人間でもありますので、最もお客さまと向き合ってきた自負がございます。なので、実際のお客さまの声や事例をもとにした解像度の高い具体的な話を、今日はできたらなと思っております。
先ほど佐藤さんのお話にもあったように、セッションをお聞きいただいているみなさまに、1つでもヒントやアイディア、武器を持ち帰っていただけたらと思っております。よろしくお願いいたします。
小室:そして次に会社の紹介になります。セーフィー株式会社は、こちらの3人がファウンダーで立ち上げた会社です。経歴を見ていただければお分かりのとおり、ソニーの遺伝子を持っている会社ではあります。
ただ、画面の下の企業ロゴを見ていただければお分かりのように、ソニーー色ではなくて、キヤノンさんやNTT東日本さんから、セコムさんや三井不動産さんまで、幅広い企業様から弊社の技術力やサービスを評価していただいて、一緒にビジネスを作っている会社でございます。
「じゃあ一体どんなビジネスを作っているの?」というところですが、セーフィーはクラウド録画サービスを提供している会社です。「IoTカメラ」なんて最近では言われますけども、ネットワークにつなげるカメラを見たいところに置いていただいて、その映像をいつでもどこでも見られる。そんなサービスをやっている会社です。
カメラで撮った映像は、クラウドに録画・保存されます。カメラは誰でも簡単にネットにつなげることができて、かつセキュリティもバッチリで安く使えるという特徴を持っています。クラウド録画サービスという市場では、実に47.5パーセントのシェアを獲得しております。圧倒的な1位という状況で、出荷台数も15万台に迫る勢いでございます。
そして、「なぜ我々がクラウドカメラのサービスをやっているのか?」についてお話いたします。我々は「映像から未来をつくる」というビジョンを掲げています。
このビジョンを今回のセッションの文脈に沿って少し噛み砕くと、「映像データを使ってあらゆる産業の”現場”のDXを推進することで、業界の未来をつくっていきたい」という思いのもとクラウドカメラのサービスを提供しています。現場のDXを“映像”という手段で推進し、課題解決をしていく。そのような会社であるとご理解いただければと考えております。
最後に、我々は今後、このプラットフォームを外部の方にも使っていただく予定です。本日セミナーを共催している、『はたLuck(R)』というサービスを提供するナレッジ・マーチャントワークスさんとの取り組みもこの一環です。
我々の映像プラットフォームの機能を、外部の方に使っていただけるAPIをご用意しております。我々の映像を外部から呼び出していただいて、我々の映像をマッシュアップすることで、お客さまに、より便利なかたちで課題解決の手段を提供できるかなと思っております。
なので本日は、「セーフィーはこんなことが実現できる」というお話や「『はたLuck(R)』さんはこんなことができるんだ!」というお話はあると思います。その中で、「この両者が組み合わさることでどんなことができるんだろう」ということをみなさまに感じていただけたらと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
佐藤:ありがとうございました。このあと小室さんには、パネルディスカッションにもご参加いただければと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
では次に、ナレッジ・マーチャントワークスの染谷さん。よろしくお願いいたします。
染谷剛史氏(以下、染谷):はい、みなさんこんにちは。染谷と申します。僕からは会社と商品の説明をさせていただきたいと思います。僕は76年に生まれておりまして、98年にリクルートのグループに入社をしています。今日ご一緒させていただく小室さんもリクルートだったということで、共通言語があるところが接点かなと思っています(笑)。
小室:よろしくお願いします(笑)。
染谷:よろしくお願いします。私の経歴についてですが、リクルートから独立した『リンクアンドモチベーション』という組織人事のコンサルティング会社で、14年間組織人事のコンサルタントをやっておりました。そこで大手の小売チェーン企業さまや、外食のチェーン企業さまのコンサルティングをやっていたところがバックボーンになります。
そこでは、本部の方々や部長、マネージャー陣の育成が主眼だったんですが、どうしても「店舗の中の問題解決」となると集合型の研修になってしまい、全国から店長さんを集めること自体が難しい状況でした。
そう考えた時に、「やっぱりITで問題解決をしないと」と思いました。大きな産業の変革やアップデートについて考えると、ITの力を借りる必要があるんじゃないかという問題意識がありました。
そこで2017年に、40歳になったというタイミングもありまして、「ITで現場の問題解決をしていきたい」という想いを持って独立をしまして、今の会社を創業いたしました。
サービスの内容ですが、2019年夏に『はたLuck(R)』という小売・外食サービス業のお客さまを中心として使っていただくアプリケーションをリリースして、今に至っています。
私たちとセーフィーさんで共通しているのが、三井不動産さんに株主に入っていただいているところです。ショッピングセンターの中のDX化に共同で取り組んでいきたいと思っています。私はコンサルタントが長かったこともありまして、今の取引先企業さまも一部上場企業さまが多くなっております。スライドに見えているようなお客さまに、導入が進んでいるようなかたちになっています。
染谷:そして「はたLuck(R)とは何なのか?」というところですが、大きくチェーン店の本部に所属するバイヤーの方、店舗の店長や従業員の方々に使っていただくサービスになっています。
本部からの指示を各店長や従業員の方々に伝えて、実行していくところをスマートフォンのアプリでやろうというサービスです。本日は、スーパーバイザーの臨店業務が1つのテーマになっていますが、臨店活動には「目の機能になるカメラ」と「耳と口みたいなイメージ」が必要になると思っています。
我々『はたLuck(R)』は、遠隔で店長と従業員をつないで情報共有を可能にして、お店の実行度を高めていく効果があります。「リモートマネジメント」と呼んでいますが、そういったサービスを展開しています。
『はたLuck(R)』のアプリには、実行度やアプリを通じて従業員がどういうふうに行動してくれたのか。そういったデータが集まってきますので、それをモニタリングするかたちで、本部の方々にも使っていただけるサービスになっています。
やはり、売り場の実現度・実行力を100パーセントにすることが、販売機会のロスを最小限にしていきます。そのあたりをデジタル化して、より現場の見える化が推進されていくようなサービスになっています。
利用イメージとしては、店舗の一人ひとりがスマートフォンにアプリをダウンロードしていただき、個人IDで使っていただくようなかたちになります。なので「◯◯さんが出社されたら△△の仕事をして報告してくださいね」という細かいリモートコミュニケーションが可能になります。
従来の店舗の場合は、1台のパソコンに指示が集中してしまい、店長がそれを処理するだけで手一杯になっていました。そこをスーパーバイザーから一人ひとりの売り場担当者へのコミュニケーションを可能にしたことで、その場で確認して作業ができるかたちになっています。
なので、この「トーク」と「連絡ノート」という機能を使って、業務指示や報告を求めていく。そして「星を贈る」というお互いに感謝をし合うような機能がありますので、仕事に応じてモチベーションを高める使い方も可能になっています。
また、マニュアル等も搭載できますので、手元でマニュアルを見たり、作業指示を見て実行する。そんなことができるようになります。加えて外国籍の方々が多い職場もありますので、他言語に翻訳することもできます。
そして、シフトの調整を一人ひとりのアプリを通じて集めて、シフトを作って通知を飛ばす仕掛けもございます。1個のアプリケーションの中に、店舗の中で行うマネジメントのほぼすべてが網羅的に入っていることが特徴かなと思っております。最近だと、こういったメディアへの露出も増えてきたという会社になっています。
佐藤:染谷さんありがとうございました。
では第1部のパネルディスカッションに移ってまいります。「現在の店舗管理において、考えを変えるべきポイントとは?」というタイトルになっておりまして、まず店舗管理や店舗サービスの現状からお話をさせていただければと思っています。
まずは、散々出ている話だとは思うんですけども、社会変化を語る上で避けて通れないのが「新型コロナウイルスの件」ですよね。染谷さんはコロナ禍において、店舗サービスはどのような状態にあると捉えていらっしゃいますか?
染谷:今は非常に厳しい状況に立たされているかなと思っています。いわゆる「不要不急の外出を制限してほしい」みたいなことが、また出てきていますので。とはいえ、生活必需品みたいな部分もやられていらっしゃるのが、小売業の店舗の方々だと思っています。
やはり社会インフラ的な非常に重要な産業ですし、大きな雇用を抱えている産業でもあるので、なんとかここを乗り切らないといけません。日本自体の失業率を大きくしてしまう問題も孕んでいますので、「感染対策をしっかりしてお客さまを喜ばせる」ってところは、絶対に必要だと思っています。「この産業なくして日本の経済なし」と思っています。
佐藤:ありがとうございます。小室さんはどうでしょう。現状をどう捉えてらっしゃいますか。
小室:今の染谷さんのコメントに加えて言うとするならば、「店舗を取り巻く外部環境の変化が激しい」ってことだと思うんです。なので、この外部環境の変化に合わせて、対応や運用を変えていかないといけない。そんな課題が現場ではあると思っています。
それこそ緊急事態宣言が出て、アルコール類は19時までしか出せない。20時にお店を閉めなきゃいけない。こういった時間の変更もそうですし、アルコール消毒しているのか・していないのか。お客さまの入りはどうなのか。こういった環境の変化を機敏に捉えて、しっかり対応していかなきゃいけない。それが店舗管理の難しさにもつながっているのかなと思っております。
1つ切り口を変えた環境の変化の部分でいくと、「自粛警察」みたいな話がありますよね。店舗の1つのミスが、「自粛警察」に取り上げられてしまい、その店舗の運営をしているブランドの炎上リスクになる可能性もあると思っていて。
本当に対応が難しくなっていると、お客さまの話を聞いていてすごく思うところですね。ここに対してなにかできないか? という意味での使命感や課題感はすごく感じているところです。
染谷:例えば「感染者が出ちゃいました」って言っただけで、けっこう叩かれちゃったりするところもありますよね。従業員の方々の安全を守りながら、お客さまには店舗の中で安心に買い物ができたり、食事ができるようにするのは、最低限やらないといけないことで、必要にはなってきますよね。
小室:ただ、先ほど染谷さんのおっしゃった「生活に必要な仕事」に従事されている方たちのことを「エッセンシャルワーカー」と最近では言われてますよね。エッセンシャルワーカーの方のために何ができるのか? という議論が各所で行われているのはすごく良い兆しかな、と思っております。
染谷:そうですね。あとは今日のテーマに近づいてくると思うんですが、店舗サービスにはスーパーバイザーという方がいらっしゃって。店舗のクオリティやサービス力、クリーンネス等、さまざまな項目を巡回してチェックして、アドバイスをされていた。それによって店舗のクオリティを維持していたんですよね。
ですが、緊急事態宣言が出てしまうと、移動ができなくなってしまう。そうなると、売り場の実行度や実現度にバラつきが出てしまう。そんなお話をよく聞くようになってきた実感もありまして。店舗の価値が下がってしまう危機感を、経営者の方や店舗責任者の方々は考えていらっしゃるなと思います。
小室:確かにデスクワークを主としている人たちであれば、今まさにこのセミナーで使っているような『Zoom』であったり『Google Meet』であったり、リモートワークを支援するツールはたくさんあると思うんです。ですが現場をお持ちの方だと「何のツール使ったらリモートで自分たちの業務ができるんだっけ」という差し迫った課題もあるのかなと思いますね。
染谷:そうですね。これまでやってきたことを是とするのではなくて、「これまでやってきた行動や仕事はどんな役割と目的があってやっていたのか」という棚卸しをした時に、「これはなにかに変えられるね」という発想を持つべきかもしれません。「移動できないので無理になりました」ということだと、こういう環境下では競争力やサービス力を低下させてしまうことになるので。
今までやっていたことにどんな目的があるとか、どんな方法だったら代替できるとか。そういったことを今考えなきゃいけないと思うんです。最近はよく「DX」だと言われていますが、その思考がヒントになってくるんだろうと思うんです。
小室:それぞれの業務の必要性を判断する良い機会になるという点についてですが、それを判断するためにはやっぱり目的に立ち返らないといけないと思っています。このあたり、染谷さんいかがですか?
染谷:僕もコンサルタントが長かったので、こういうことを本部の方々にずっと伝えてきたんですが……一向に変わらなくて(笑)。
(一同笑)
やっぱり上場している企業だと四半期決算なので、どうしても3ヶ月で切った売上高のお話になっちゃうんです。でも、中身がどうなってるのかがすごく大事だと思ってます。
小室:でも確かに「店舗での売上を上げるんだったら店舗を出せばいい」みたいな議論がずっとありましたもんね(笑)。
染谷:そうですね(笑)。そこにいっちゃうんですよね。店舗数で勝負していくところが、リアル店舗の戦略上で重要ではあるんですけれども。じゃあその店舗を出した時に、何人の方が収益貢献しているのか? みたいなところが……。
やっぱり僕らのようなサブスクリプションで毎月毎月少額をいただいているSaaSというビジネスをやっていると、解約されるのが一番怖いわけですよね。なので、サービスをブラッシュアップし続けていくこと。1人のお客さま・1社のお客さまに長くお付き合いしていただくことを念頭にやっています。
なので、次も継続していただけるようなサービスに寄せていかないと、僕らのようなビジネスは成り立たないんですね。でも本来は、どの産業も同じなんじゃないかと思ってまして。新規のお客さまを獲得するためには、ものすごいマーケティング費用がかかるわけですよね。店舗サービスで言えばチラシとかですね。来ていただいてもそのチラシ目当てで、いわゆる利益の小さなものだけを買って、それで終わりみたいな。
逆に言うと、常に定価で買っていただいているお客さまにとっては、「高いお金で買ってもらってしまっている」みたいな話にもなりかねないわけですよね。なのでもう少し、1人のお客さまがどれぐらい自社に通ってくれていて、年間でどれぐらい購買していただいているのか。いかにリピートしてファンになっていただくか。これがすごく大事になってきているんじゃないかなと思っています。
小室:確かにこれって、自分に置き換えて考えるとおもしろいですよね。「自分だったらどういう店でたくさん買っちゃうか?」とか「何度もそのお店で買っちゃうか?」って考えると、決して「品揃えがあるから」とか「近いから」とかだけじゃない気がしていて。
「ちょっと感じのいい店員さんがいる」とか「行ったらおもしろいことがある」とか、期待感があると何回も行っちゃうなって感じがすごくしますよね。
染谷:そうですね。「確実に自分が求めているものがあの棚にある」みたいなのがわかっていて。それに加えて、店内がきれいで店員さんの動きがテキパキしているとか。
小室:うん、うん。
染谷:店員同士で喋ってたり、レジに並んでるのに知らんぷりして品出ししちゃってるとか。そういうのを見ると、「どこを見て仕事をしているお店なんだろう?」ってやっぱり思っちゃうので。
人ってちょっとしたところに感情的なアンテナが立つので、本当にちょっとしたことで隣の店に行かれてしまうことがあるんですよね。そういうことが店長やスーパーバイザーの方が徹底的にやられているところが、選ばれる店になっているんだろうと思うんですよね。
小室:まさにアレですよね。「店舗でどういう体験をお客さまにご提供できるか」という。そこが先ほどの、業務の必要性を判断する一番の原点になってくるのかな、というところですよね。
染谷:そうですね。お客さんは合理的に値札だけで選んでるわけじゃなくて、感情でも選んでいますよね。前の会社では「限定合理的な感情人」って言ってたんですけども(笑)。
すべての値札を調べて購買するなんてできませんので、やっぱり一部の情報から合理的に判断するんですが、最終的には人間って感情で意思決定をしますから。その感情を少し持ち上げられるような顧客体験が、非常に重要になってくるんだろうと思うんですよね。
例えば「レジで待たせないように」ということもそうですよね。最近は、無人レジになってきてたりするんですけれども。それが1周回って当たり前になっちゃうと、今度は買い物体験をどうデザインするのか? っていう話になってくるなと思っていまして。
そういったショップ内での体験。すぐに欲しいモノを発見できるだとか、専門的なことをすぐに店員さんが回答してくれるだとか。そういった体験ですよね。そういったものがすごく大事。そのための時間をどう創出するか? というところにポイントがあるような気がするんですよね。
小室:そうですね。まさに今、染谷さんから「無人レジ」という言葉がありましたけど。例えばAmazon Goは、完全にレジがない世界ですよね。あのソリューションを日本に持ってくる時の文脈って、どうしても「無人化」ってなっちゃいますよね。でもそれって本質ではないと思っていて。Amazon Goって実は、無人にしてないんですよね。レジに割いてたスタッフを接客に回してるんですよね。
染谷:そうですね。あとフレッシュなサンドイッチ作ってたりとかしてますね。
小室:そうなんですよね。あくまで「顧客への体験価値を上げるために、人は何をすべきか」ってところにフォーカスした結果が、あのAmazon Goで実現している決済方法やソリューションだったと思っていて。決して無人にすることが価値じゃないってことですね。
染谷:まさにそうなんですよね。お金を受け渡すだけの行為に、サービス向上の余白ってそんなになくて。あそこって不満が溜まる部分なんですよね。マイナスをゼロにはすることができるんですが、ゼロからプラスにいくことはないんですよね。なので体験的には、マイナスがゼロになるぐらいの話です。
本当は、レジにいた人たちが時間帯によってお店で調理して、フレッシュな食事を提供できるようなにすることで、お客さまが満足する。あとは欠品がない状態を作り出すところに時間を割いている結果、「顧客体験価値をもっと高めるためにレジはなくしてしまったほうがいい」という判断になっていると思うんです。
小室:まったくそのとおりだと思います。
染谷:それが無人レジだけが先行してしまうと、その目的が人を削ることになってしまう。
小室:そうそう、そうじゃないんですよね(笑)。
染谷:「そもそも何のために店開いてるんでしたっけ?」みたいな話が出てこないんですよ。そこが業務効率化だけにIT投資がされている日本と欧米の違いですよね。欧米は、戦略的に顧客体験を高めるためにIT化に投資をしているんです。
グラフを見ると日本と真逆なんです。日本が使ってるお金と海外が使ってるお金の使い方が、「守り」が日本、「攻め」が海外になっている。だから欧米からソリューションがどんどん出てくる。
小室:そうですよね。守りの意識でレジを無人化して「そこで買ってください」っていうだけの顧客体験価値だと、それこそECに置き換えられちゃって終わってしまいますからね。
染谷:そうなんですよ(笑)。Amazonに食われて終わるっていう文脈的になってしまう。巨大な自動販売機でしかなくなってしまう。こっちからすると行く目的がないですよね。じゃあスマホでいいじゃん、みたいな話になってくるので、そこじゃないと思うんです。
「カスタマージャーニー」ってよく言いますが、Webで商品を購入された方はリアルの店舗にも来ますので。そこでの体験をどう設計して、顧客体験を上げるのか。Webでも買ってもらうのか。そういう設計がやはり必要ですよね。
佐藤:今まさに「目的」や「本質」って言葉が出ていましたが、半年くらい前から「DX」という言葉を多く聞くようになったと思います。DXという言葉が平易に使われるシーンも増えてきていると思っているんですけど、ただ正直、DXってどうなんでしょうと(笑)。
(一同笑)
ここについては、事前にお話を伺った際に、お二人とも鼻息荒く語ってらっしゃったと思うんですけど(笑)。どうですかね?
染谷:「よく紙でやっていることをデジタルに置き換えましょう」ってことがあるじゃないですか。でも僕は、紙でやることが便利だったら、別にそれは紙でいいと思ってるんです。
ただ、それによって実はものすごいコストがかかっていたとか、毎日の運用を足し合わせてみたらたくさんの時間を使っていたみたいなところ。先ほどの顧客体験につながらないところに時間を使ってしまっていたのであれば、そこを摘むためにデジタルに置き換えようって議論があれば、僕はDXになってくると思うんです。
ですが、「紙でやってるのをデジタルにしようよ」っていう短絡的な文脈の場合に関しては、それはDXではなくて、ただのデジタル化なんだと思うんです。
小室:そうですね。まさにデジタル化で終わってしまうと、手段が目的化してる気はしますよね。
染谷:そうなんですよね。そのあたりが文脈的にも多くなってきた印象があります。なので正直、大丈夫かなっていうのがありますね(笑)。
よくコンペで呼ばれた時に「目的は何なんですか?」って聞くと「紙をやめよう」って返答が来るんです。「紙でやってるから何が悪いんでしたっけ?」と聞いた時には、返答がないケースもあります。「紙のなにが悪いんですか?」って質問を僕らみたいな会社から言われると、「あれ、そうじゃなかったんだ……」みたいになるんですよね(笑)。
別に紙をデジタル化することがDXではなくて。紙でやっていた業務をデジタル化したことで、時間効率が高まるであるとか。データが取れて他の付加価値に変えることができるとか。常にお店にいらっしゃるお客さまに対して、いわゆるユーザー体験を上げることにつながるですとか。
仕事をしている人の体験を上げることで接客技術を高めて、お客さまの満足度を向上させることができるという文脈なら、僕は絶対投資をしていくべきだと思うんです。でも、手段が目的化してしまうと「失敗したDX事例」みたいなものが出てくるだろうなと思います。
小室:我々もお客さまとお話させていただくにあたって、今やっていることをデジタルに置き換えるって文脈のお話は、染谷さまにお話いただいたようにあります。
加えて、少し切り口を変えてお話すると、一足飛びにDXをやろうとするお客さまもけっこういらっしゃるんですね。今までやってないことをやろうとすると。でも、これはもう失敗の入り口に立っていてですね(笑)。
やってないことをやろうとすると、現場に反発されるとか、費用対効果が見えにくいとか、なかなか稟議が下りないであるとか。「そもそも、今やっていないことって、重要じゃないから今まで手をつけてなかった課題なんじゃないの?」という問いもあると思っていて。
まさに本当に必要なことをどうやってデジタル化していくのか? そこで生まれたリソースを、先ほどの顧客体験価値の向上にどうつなげていくか。ここまでをつなげた時に、初めてトランスフォーメーション(変革)が完成するのかなと思っています。
先ほど佐藤さんから平易な「DX」って言葉が乱発されているってお話がありましたけど、やはり私もお客さまと話す時には、そこを一番気をつけていますね。
染谷:「X」のほうがなくなっちゃってるんですかね。だから「D×(バツ)」になっちゃうとまずいみたいな(笑)。
(一同笑)
染谷:「D」だけになっちゃうとまずいですよね。大事なのは「X」なんですよね。何を変革するかが大事なので。もともとやってた業務とbefor/afterで比較しないと、変革になったかわからないですからね。それはそうだと思います。
佐藤:あとは今回、店舗サービスの分野でご活躍されている方が多いので、「店舗サービスにおけるDX」という観点でも、少し方向性を教えてほしいなと思っています。よろしいでしょうか。
染谷:これはApple創業者のスティーブ・ジョブズがよく言っていたんですが、「パソコンは自転車だ」って彼は言ったんですね。みなさん「パソコンが自転車?」って思いますよね。でも自転車というのは、「人間の走る能力の拡張をした」とジョブズは自転車のことを言っているんですね。同様にパソコンは「人間の脳の拡張である」とジョブズは捉えていて、それでMacができあがったというお話があります。
それと同じで、店舗サービス業のDXというのは、目や口や耳の拡張だと考えることができるんですね。チェーン店の場合だと、そこで働く人たちの能力が、物理的に離れています。その物理的に離れているところを臨店にすると、移動の限界が出てきますよね。そういったところに対して、人間が複数の目や口や耳を持っていれば、それができるわけなんですね。
例えば外食のファミレスチェーンだと、1店舗あたり40~50人の従業員やアルバイトさんを抱えています。でも、全員に瞬時に情報伝達はできないですよね。シフトに入っている人には伝わりますけど、それ以外の人に伝わらない。
そうすると、朝番の人に伝えたけども、夕方に入った人にはもう1回言わないといけなくなります。それを同時にできるようになったらどれだけ便利なのか? ということなんですね。
デジタルというのは、時間と空間を越えられるツールです。なので、「時間を越えて何かできないか?」みたいに考えるべきなんですね。それを使っていくことで人間の能力を拡張すれば、今まで当たり前だったことが、実はそうしなくてもよくなってくる。
「従業員の方々の知識と能力を拡張していくことが店舗サービス業である」と切り取った時に、大事な変革が生まれてくるんじゃないかなと考えているところですね。
なので、セーフィーさんと連携してやりたいと思っていることは「目の拡張」なんです。人間は2つしかないですけども、「物理的に離れた場所に自分の目があったらどれだけ仕事が楽になるか?」と考えた時に、セーフィーさんと共同でサービスの提供できれば、より多くの店舗を一瞬にして把握して、重要な場所に指示が出せるようになる。
このかたちができると、臨店しかできなかったマネジメントスタイルが大きく変革できる。そう思えたんです。
佐藤:今回は「臨店に頼らないリモート店舗管理」がテーマでしたので、その知識や人間の能力の拡張について、臨店においての重要人物であるスーパーバイザーの業務視点から、最後にお話をいただきたいと思っています。スーパーバイザーのこれからの活動は、どんなところがポイントになってくるんでしょうか。
染谷:先ほど、「行ったか行ってないかぐらいな管理」と言ってしまいましたが、正直「その中身がどうなのか?」ってわからないですよね。何を指導したのかわからないし、目的意識を持って毎日臨店しているスーパーバイザーが全国に何人いるかも、正直わからないんですよね。
今回のコロナで真っ先に臨店はできなくなったんですけど、「臨店で何をやっていて、どういうデータを取ってるんですか?」って聞いたら、特にないんですよね。それが「うそ!?」と思った瞬間だったんですよね(笑)。
これからDXしていくとデータが取れるじゃないですか。もし、本部からの指示が100来てたら、100を従業員に届けられているのか。それが1とか2になっちゃってたら、残りの98はどこにいっちゃったの? みたいな話ですよね。
「いや電話でやってます」って言っても、電話を受けた人にしか指示が伝わらないですよね。だからさっき言ったように、どこまで従業員に伝わっているかどうかは、やっぱりわからないわけですね。
そういうところが、臨店活動ができなくなった時に店舗のレベルが落ちてきている1つの要因だろうと思っています。現場ではまだFAXや電話の文化が残っているので、「電話をしました」って言うスーパーバイザーの方が多かったんですよ。僕らの仕事の仕方で電話ってなると、「それ1人にしか伝わってないじゃん」って僕は思っちゃうんですけどね。
例えば、チャットツールを使って仕事をしていれば、そこに入っている全員に情報が行き渡りますよね。そういうことをやれば、自分の管轄店舗に同じ情報を瞬時に届けることができると思うんですよね。報告も一瞬にして集めることができますし。
そういうことに切り替えていく必要があるんじゃないかな? と思ったところはあるんですよね。なので、回数や頻度だけではなくて、「何をどれぐらい」みたいなことも必要になってきているんじゃないかなと思います。
小室:今の染谷さんのお話はおっしゃるとおりだと思っていて。やはり我々のお客さまがよくおっしゃるのが、「見えてなかったものが見える化されていいよね」というお話なんですね。
現場が見れる。指導している内容が見える。かつ先ほど染谷さんがおっしゃっていたとおり、「時間と空間を越えての見える化ができます」というところはもちろん価値なんですが、とあるお客さまは、「残せる化がいいんだよね」とおっしゃっていて。
データとして残していけるって、すなわちお客さまや企業さまの資産になっていくものだと思っております。それを教育や指導に使ったり、ベストプラクティスとして蓄積をしていく。こういったことができるのがデジタル化のいいところかな、と思っております。
まさに国のほうも、今年の税制の大綱が出ているかと思うんですけれども、大きな方向性として、「2025年の崖」を越えるためには、資産をデジタルで残しておかなきゃいけない。なのでみんなクラウドを使おうね、と言っています。
「クラウドに投資したものは減税するよ」という内容が出ているかと思うんですが、まさに国の方向性もそうなっていると思います。企業さまからしても、「データを残していける」ということが、これから価値になるんじゃないかなと思っております。
佐藤:ありがとうございます。大変盛り上がってはいるんですが、第1部はここまでとさせていただければと思っております。スピーカーのお二人、ありがとうございました。
小室・染谷:ありがとうございました。
セーフィー株式会社
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