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ボツ企画の山を超え強くなった星野リゾート情シスチーム kintone×IoTで危機を救う(全2記事)

2021.02.24

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緊急事態宣言で売上9割減 それでも星野リゾートのIT化が進み、安心感のある旅行を提供できたわけ

提供:サイボウズ株式会社

サイボウズの総合イベント「Cybozu Days」。クラウドサービスを活用したチームビルディングなど、さまざまなセッションや展示をお届けします。本記事では、株式会社星野リゾート 情報システムグループに所属する4名のスタッフを招き、コロナ禍で話題となった星野リゾートのさまざまなIT施策の裏側を伺った様子をお届けします。 1記事目では、多くのメディアで取り上げられた「大浴場のIoTプロジェクト」の実施までの過程などを中心にお届けします。

星野リゾート情報システムチームのIoT化への挑戦

伊佐政隆氏(以下、伊佐):みなさま、こんにちは。まず、すごい会場ですよね! リアルのイベントに参加させてもらうのは本当に久しぶりなんですけど、こんなワクワクする素敵な会場に来れて今日はすごく幸せな気持ちです。

簡単な自己紹介をさせてください。私は伊佐と申します。2019年までサイボウズでkintoneを担当していたのでkintoneにそこそこ詳しいです(笑)。そして現在は、IoT通信プラットフォームのソラコムというチームで活動しています。IoTにもちょっと詳しい(笑)ということで、今回司会進行役のお声がけをいただきましてお手伝いすることになりました。

伊佐:本日は、今話題の星野リゾート情報システムチームのみなさまのお話を聞けるということでお越し頂いています。さっそくお呼びしてみましょう。星野リゾートのみなさま、よろしくお願いします! みなさん拍手でお迎えください。

(会場拍手)

伊佐:こんにちは、よろしくお願いします。みなさんお揃いのTシャツでお越しいただいて。

久本英司氏(以下、久本):仲良しチームなので(笑)。

伊佐:ありがとうございます(笑)。今日は40分という非常に限られた時間で、できるだけたくさんのことを伺っていきたいので、私からみなさまのご紹介をさせていただきます。

まずはこのチームのディレクターの久本さんです。久本さんはすごく男気のある方で。私がkintoneを担当している時に、まず星野リゾートの全社でkintone活用する大きな成功事例を作ってくださっていて。

さらに「私がkintoneからソラコムに移籍するよ」って話をさせていただいた時に、「次はkintoneとIoTで事例を作りますよ」と宣言してくださって、なんと1年経たずに実現されたということで。本当にありがとうございます。

そして真ん中に座っていらっしゃるのが、山本さんです。会場でご参加されているみなさんと同じく、kintoneの活用を中心に活動されている方なんですけれども、星野リゾートのkintone活用は山本さん無しには成り立たないと。

エンジニアのバックグラウンドはないそうなのですが、アールスリーさんのCustomineってわかりますかね?(※ノーコードでkintoneのカスタマイズができるサービス)

JavaScriptの知識がなくても、kintoneのカスタマイズができるサービスがあるんですけど、そのCustomineを使ったり。トヨクモさんの連携サービスシリーズのフォームブリッジとかもですね。さまざまなkintone連携サービスを使いこなして、あらゆる業務をkintone化して、現場のみなさんに喜んでもらっている山本さんになります。

緊急事態宣言で売上は9割減まで落ち込んだ

伊佐:そして、本日のメインコンテンツで言いますと、星野リゾートは「3密回避」と「温泉のIoT」を実施されてきました。このプロジェクトをプロダクトオーナーとして、社内で推進されたのが白根さん、そして開発部分を担当されたエンジニアの杉山さんです。今日はこの4人に代表してお越しいただいてますので、お話を伺っていきたいと思います。

温泉IoT……これはテレビでもたくさん取り上げられたので、ご存知の方も多いかもしれませんが、改めて久本さんに取り組みの経緯のお話をお願いできますか?

久本:はい。情報システムグループでディレクターをやってます、久本です。よろしくお願いします。先ほど伊佐さんから前振りがあったんですけど、伊佐さんが退職される時に、ソラコムとkintoneで事例作りをやりたかったんですね。

「2年くらいかかるかなぁ」と思ったんですけど、今回コロナをきっかけにIoTのプロジェクトに取り組めることになりまして。一応約束どおり1年で事例を作ることができました。

伊佐:ありがとうございます。

久本:まず、本当に多くのメディアで取り上げていただいた「大浴場のIoTプロジェクト」からお話させていただきます。

まず経緯としては、私たち星野リゾートが属する観光業界が今回の新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けたところが背景としてあります。

特に、影響が多き取り上げられ始めた3月のタイミングでは実はそんなに影響が出てなかったんですけど、緊急事態宣言が出された4月5月は前年比の1割2割くらいの稼働に落ちました。

伊佐:1割2割減じゃなくて、1割2割しか稼働がなかったということですよね。

久本:はい。9割減ですね。

緊急事態宣言を受けて星野代表が掲げた3つの指針

伊佐:そうですよね。みなさん思い出せますか? 4月とか5月のことを。ほとんど家から出てなかったと思うんですよね。そんな感じの時期でしたもんね。

久本:やはり外出制限の影響が大きくありましたね。その時に、代表である星野が「コロナ感染症の影響は18ヶ月続く」と宣言し、サバイバル計画を立てました。。

当然、18ヶ月間続くと言っても、緊急事態宣言中のように最も強い抑制がかかり需要がほとんどなくなる状態から、少し緩和されて少し需要が戻ってくる、また感染が広がって需要が下がる。これから18ヶ月間は、緩急繰り返していくだろう、ということを想定しました。

緩和されるタイミングで、「少しでも売上を取り戻すために私たちは準備をしていこう」ということを目指しました。そこで代表の星野から言われたのが、3つの指針でした。

1つ目が「現金を掴み離さない」こと。要はキャッシュを大事にしようという話です。2つ目が「雇用を維持しよう」という話です。3つ目が「2つの目標を達成するためにはCS(※顧客満足)やブランドを犠牲にしていこう」という話でした。

伊佐:星野リゾートさんと言えば、CSやブランドって最上級に大事にされているのかなと思うんですけど、それを毀損してでもいいから……と。

久本:そうですね。「生き残るための判断をしていくには優先順位を明確にする必要がある」という話で、まずは生き残ることを私たちは優先しました。

緊急事態宣言を受けて星野リゾートが変えたこと

伊佐:今日は観光やホテル業や旅館業等に携わられている方がいらっしゃるかもしれないんですけど。これは私の個人的な意見ですけど、今回の取り組みと星野代表がマイクロツーリズム(近郊からの旅行)を促す話をされたじゃないですか。

このIoTの取り組みと、マイクロツーリズムという考え方を普及されたのが、日本の観光業を救ったんじゃないかなと思っているんですけど。

久本:ありがとうございます。どうしても旅行は、県をまたいでの移動が前提になるんですよね。そのため、感染症の拡大につながっているとメディアで言われていた時です。

なので私たち観光業は、新型コロナの感染拡大に影響を与えていないことを、まずは示していく必要がありました。そのために「3密回避のプロダクトを作る」ところが重要視されました。

コロナ禍以前は「おいしい食事を作ろう」とか「上質なサービスを提供しよう」とか。そういうことが私たちの優先順位が高かったんですけど、なによりも安全安心だというところに大きく変わりました。

伊佐:そうですね。こういったイベントも、今までだったらギュッと座っていただいて、熱気を感じられるほうがよかったんですけど。少しずつ距離を空けていただいて。端っこの方は見えにくい部分も出ちゃうかもしれないんですけど。

でもこうしたほうが安全に学びができるし楽しめるということで。本当に価値観がガッと変わりましたね。

久本:「旅行自体が安全安心である」ということを、少しずつ伝えることができて。それに加えて先ほどおっしゃっていただいた「マイクロツーリズム」という考え方で、「近隣の商圏の中だけで旅行しましょう」という一般的な認知を得ることができたので、その2つが重なって少しずつ需要が戻って来たのが7月8月というところです。

伊佐:まさに3密回避ですよね。星野代表がテレビに出られる時は、いつも3密回避ってTシャツを着てらっしゃって。とにかくこれが大事なんだっていうことで。

「温泉がどれくらい混雑しているか、ゲストの方がスマホで見られますよ」っていうニュースをご覧になった方いらっしゃいますか? このニュースが出たのって5月でしたっけ?

久本:6月の頭くらいですね。

伊佐:圧倒的なスピードでしたよね。

星野リゾートがITを駆使して解決した「大浴場の混雑状況見える化」

伊佐:このあたりを白根さんにお伺いしたいです。

白根チエ氏(以下、白根):この取り組みなんですが、当時の接客サービス現場では、営業本格再開までに新しい取り組みがどんどん誕生していました。その中で、ITを使ってでしか解決できなかったのが「大浴場の混雑状況見える化」でした。

やはり旅館の最大の魅力は温泉でして。ただ、最初に対象になった旅館の客室数は12室から40室程度で比較的小規模旅館でした。そのため、ご滞在中はお部屋でごゆっくりしていただく時間が長く、食事は個室を使っていただいたり、ロビーやラウンジなどのパブリックエリアは座席レイアウトなどで人数を変更するなど、密になることを少なくすることができました。

しかしその一方で、大浴場を利用する方のコントロールが難しく、外から人数を把握することが困難な「大浴場の3密回避」が最大の課題となっておりました。そこで私たちはIoTデバイスを用いてゲストの数を把握し、その情報をクラウドに送り、ゲスト自身のスマートフォンで見えるようにWebアプリ化を行いました。

こういったものは、多くの旅館やホテルで同様のサービスが提供されていると思いますが、緊急事態宣言明けの6月に合わせて自ら開発したのが私たちだけだったため、コロナ禍において安心安全の取り組みとして注目していただけたのかなと思っております。

伊佐:ニュース見たときに、「これをやるのか!」って気がしました。確かに混雑度を確認できる情報があると、「安心して行けるかもしれないな」という気持ちになったことを思い出します。

一筋縄ではいかなかった新アプリの開発

伊佐:当たり前なんですけど、こういう新しい取り組みってやっぱり一筋縄ではいかないじゃないですか。今日はみなさんに、プロセスのところをご紹介いただきたいなということで。ちょっと情報を用意してもらいました。どんなリズムで実際に展開されていったのか。まずは白根さんからお伺いできますか?

白根:では、まず1番と書いてあるところですね。最初に話が来たのが現場のアイデアベースでして。入浴人数を知るために下駄箱にWebカメラを設置して、「ゲスト自身の履物の数から混雑状況を把握してもらおう」という内容だったんですね。

しかし、施設に初めて訪問されたゲストは、何人が利用してからが密になるか? というのが判断できないですし、なにより下駄箱にカメラが設置してあるのが心理的に落ち着かないということで。

伊佐:確かにそうですね。

白根:現場からカメラ設置の相談を受けた久本さんが「待った」をかけたんですよね。

久本:まずプライバシー的にまずいんじゃないのと思いまして。カメラを下駄箱の前に設置すると、当然その前をお客さまが通りますので。リラックスするために私たちの施設に来ていただいているにも関わらず、人から見られているというのは、決していいものではないなぁと思ったので。待ったをかけました。

伊佐:そうですね。

コロナでのコストカットをチャンスだと思えた

伊佐:やっぱり当時を思い起こしてみると、「とにかくなにかしなきゃいけない」ということがあって。一番最初に思いつくカメラっていうソリューションは、かなり広いところで使われたのかなと思うんですけれども。

ここは星野リゾートらしさというか。センサーによる大浴場の混雑状況見える化の取り組みは非常にユニークだと思いました。

久本:「プライバシー的にまずい」と思ったのもあるんですけど、もう1つは私たち的には「チャンスだな」と思いまして。特に新型コロナの影響を受けて、全社的なコストカットの目標が出たタイミングで、私たちが中長期で進めていたプロジェクトがすべてストップになったんですね。

その時にいろんな部署から異動して来てもらったメンバーや、採用したエンジニアの仕事が一時的になくなる状態が起こってしまったんですよ。経営者側からは、「エンジニアの手が空いているんだったら帰休でも取らせてくれ」と言われまして。せっかく集めたメンバーの仕事がない状態ができてしまったんですね。

ITを用いてコロナ対策に協力したいと思っていたので、「これはチャンスなんじゃないか」と思い、「とにかくやらせてくれ!」と提案しました。

伊佐:なるほど。そこで杉山さんと白根さんが手をあげて。すごくチャレンジングですよね。

白根:そうですね。ただその当時は、私が担当していたプロジェクトはすべてペンディングになっていて。「この先どうなるんだろう」と不安だったんです。その時に久本さんから「大浴場混雑可視化IoTのプロダクトオーナーをやらないか?」と声をかけてもらって。この頃は情報システムに異動して1年くらい経った時でした。

伊佐:もともと施設のほうでも働いてらっしゃって、現場をよくご存知の白根さんですもんね。

白根:そうですね。もともと界(※星野リゾートが全国に展開する温泉旅館ブランド)という施設で、3施設に渡って現場で働いていました。古巣の温泉旅館の課題と聞いて、「やってみたいです」と返答しました。

伊佐:なるほど、そうだったんですね。

プライバシーを守りながら大浴場の混雑情報の計測を

伊佐:では杉山さんに構成図のところの「kintoneって出ているのがどんな使い所なのか」が気になるんですけど、ここを簡単に教えていただいてもいいですか?

杉山陽輝氏(以下、杉山):はい。図に出ているとおり、基本的にはAWSの環境で作っているんですけれども。まずセンサーのところですね。

こちらは大浴場の混雑可視化ということで、混雑を可視化するデバイスやソリューションが世の中にいろいろあることはよく知っていたんですが、僕たちが求めるような機能を持ったモノはまだないので、「新しく作るしかない!」ということで、今回はオリジナルで作りました。

杉山:簡単に構造を言うと、2本のレーザーが距離センサーになっているんですけれども。そのレーザーのどちらが先に短くなるか。それで温泉に入っている方向なのか、出ている方向なのかをカウントできるようになってます。

伊佐:わかりやすく言うと、スパイ映画みたいな感じですよね。スパイ映画でよくレーザー光線みたいなのがあるじゃないですか。実際に色は見えないんですけど、セキュリティシステムになっていて。

左側から通ったら左側が短くなって、次に右側が短くなるという。これによって人が左から来ているのか、右から来ているのかわかる。要するにこの仕組みで、お風呂に入った人、出た人の人数をカウントしていこう、という仕組みですよね。

杉山:そうですね。そのセンサーのカウント値を通信するために、ソラコムの技術を使っております。私たちの施設は日本全国いろんなところにありますので、ソラコムさんの通信網でauとドコモが選択できるということで。日本中のどの施設でも対応できるというところで採用させていただいています。

肝心のkintoneの部分もですね。混雑度の可視化をする仕組みの管理画面としてkintoneを使わせていただいているんですけれども、もともと星野リゾートではkintoneを導入しています。そのため、現場でもkintoneのシステムについて理解があったこと、操作に慣れていたことが前提になりました。

そして、一言に大浴場の混雑度といっても、温泉の大浴場の構造だったりとか、お客さまの特性だったりで施設ごとにかなり違いがあります。混雑度も人それぞれ感じ方が違うかなと思っていました。

そういったところから、「現場でも細かな調整ができるように」ということで、今回はkintoneを混雑度の可視化をする仕組みの管理画面として利用させてもらって、現場の方でもしきい値変更などができるかたちで導入した背景があります。

成功の鍵は、スタッフ全員がkintoneに慣れていたこと

伊佐:私もこのkintoneの画面を見せていただいたんですけれども、温泉施設の名前があって、その温泉施設のお風呂のキャパシティ、サイズ感で分かれているんですね。「この温泉施設のお風呂は何人くらい入ると混雑という表現にしよう」とか「まあまあ混雑の表現にしよう」みたいな。

それって数字を入れておけばいいんですけど、現場の施設を運営している方々のほうが、そのしきい値の尺度は作りやすいでしょうと。「最初に仮で数字を入れておいたものを、現場の方があとで変更できるようにしてあげたいよね」ということで、kintoneなんですね。全社員がkintoneを日々当たり前に使っているからこそできる使い方なのかなと思いました。

久本:新しい仕組みを入れる時は、やっぱり慣れ親しんだアプリの中に作るのがいいかなと思ったところもありますね。

伊佐:そうですね。データを貯めるという目的でいったら、世の中にはいろいろな仕組みがありますけれども。それを現場の方がデータ変更できるっていう。これに特化したものというと、やっぱりみなさんが使っているkintoneは最適だなと思いますね。

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