2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
提供:NEC
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松島倫明氏(以下、松島):まずは1つ目の問い「大量消費社会から持続可能な社会へとシフトする上で、個と公共のあり方はいかに変化していくのか」について議論できたらと思います。COVID-19によって今社会が大きく変わっていますが、地球環境の持続可能性を考えなければいけない状況にあって、個人と社会との関係性や両者をつなぐ公共的なものがCOVID-19によってどう変わっていくと思われますでしょうか。
久保友香氏(以下、久保):私はメディア環境学の研究を進めるなかで、日本人の美意識に注目してきました。これまで日本人の美意識は「わびさび」や「禅」といったかたちで概念化されてきましたが、これらはなかなか技術開発の領域に反映されてこなかった。今回のパンデミックにおいても文化ごとに対応に差が生じていますが、日本の文化から提案できるものがあるはずなのに、グローバルな数字のものさしに振り回されてしまっている気がしています。
松島:ほかの国との比較という意味では、日本のどういったアクションがユニークなものだったと言えるのでしょうか?
久保:例えば日本の女の子たちはビジュアルコミュニケーションを非常に重視しています。お金はないけど時間に余裕のある若い人々がコミュニケーションを重視する行動をとっていることは、未来を先どっているように思うんです。女子中高生たちは自粛をなんとも思っていなくて、家の中で動画を撮影してアップロードすることを楽しんでいる。自粛によってモーニングルーティン(毎朝の日課)を撮影した動画が流行るなど、環境が変化しても最新の技術を使いこなして適応しているんですよね。
松島:技術の進化によって若者が「自撮り」だけでなくさまざまなコンテンツを生み出せるようになっていて、なおかつオンラインへの越境も盛んに行っていたわけですね。
久保:そうなんです。彼女たちは自然に世界中の人々とも交流していますし、逆に家にいることですごく交流が広がっているのだなと気づかされました。
松島:なるほど。ある種の“公”というか、新たな社会が形成されていたかもしれないと言えそうです。
松島:藤村さんはいかがですか?
藤村龍至氏(以下、藤村):今回のCOVID-19では、全球的な規模の公共的課題に世界中の人々が直面していますが、こんな機会は近代以降初めてでしょう。地球温暖化や食糧危機といった問題がこのあと確実に深刻化することを踏まえると、地球規模の課題にどう対処するか考える予行演習の場が生まれているとも言える。
今後100年の世界の変化を考えるうえでは、個の権利や自由だけを考えていてはもはや課題を解決できないわけで、全体を考える重要性はますます高まっている。共通体験としては貴重な機会だったと思いますし、今回の経験をどう活かすかが問われていくのだと思います。
松島:なるほど、今日の議論ではまさにその“活かし方”を考えられたらと思います。江村さんはいかがでしょうか。
江村克己氏(以下、江村):藤村さんが仰った「全球」というのがゴールですが、一方ではさまざまな規模のコミュニティがありますよね。家族やスポーツのチーム、学校のクラスや会社組織などバリエーションはありますが、人が管理できるのは100〜150人と言われていて。
松島:人間が安定的な社会関係を維持できるとされる人数は「ダンバー数」と呼ばれますよね。
江村:そういったコミュニティのなかでのコンセンサスのとり方が問われているように思います。みんなで一緒に課題を解決しなければいけない一方で、個々のコミュニティのなかにいる個人を考えないといけない。また、久保さんが仰っていた「時間の余裕」もヒントになるのでは、と。
これまで多くの大人は働くことに価値を見出していたけれど、地球環境を考えるとどんどん働いて新しいモノをつくりつづけることは難しくなっている。今後はもっと少ない時間で働いてほかの時間を別のことに使うようになっていくわけです。その点、若い人の方が技術の進化に合わせて時間の使い方を変えていくことに長けているのかもしれません。
松島:江村さんが指摘されたコンセンサスの問題は、今回のテーマを考えるうえでも重要そうです。藤村さんは建築にずっと関わられていますが、公共的な空間のなかでコンセンサスをとっていくことも多いと思います。
藤村:私が建築を学びはじめた1990年代なかばから建築家の立場がどんどん弱くなってきて、合意形成にものすごいコストをかけるようになっていきました。もちろん公共建築へ市民が関わることや丁寧な合意形成は重要ですが、日本の社会では徐々にそれが形骸化されてしまい、まちづくりでも公共建築の現場でも些細な意見に振り回されるような状況が生まれてしまった。
ビジョンの策定や意思決定が難しくなっていますよね。結果として、渋谷がこういう街をつくりたいと言ったら渋谷はこうするというかたちで個々の街のビジョンはその街の人々が一生懸命考えてはいても、東京全体を考える人がいなくなってしまった。個の主体性を重視することが社会をよくするというある種の“神話”が1990年代ごろから信じられてきたけれども、徐々にその神話が揺らいでいき、COVID-19がとどめを刺したように思います。
松島:今年のプレ有識者会議でも、全体最適と個別最適が比較されていました。一人ひとりの人間は全体最適が苦手なのに対してある種のアルゴリズムは全体最適が得意なので、両者をうまくつなぐことが課題なのだ、と。藤村さんから見ると、個別に最適化を進めてきた流れに今揺り戻しがきているということでしょうか?
藤村:そうですね。これまでは個の力がネットワーク化されてポストモダンな文化的状況がつくられてきましたが、いろいろな場面で行き詰まりはじめていますよね。建築やまちづくりは今、民主主義と大衆主義の間で揺れ動いているのだと思います。
松島:藤村さんも大宮駅前の公共施設「OM TERRACE」など、公共的なプロジェクトに携わられていますよね。ご自身の取り組みを振り返ってみても、変化は感じられますか?
藤村:建築家はその時代の権力と付き合うことが仕事の1つだと思うんですが、今の権力は「市民型権力」と呼べるもので、市民の発言がもつ力が非常に強い。1つでもクレームが入ると逆らえないような時代ですよね。そのため、丁寧に市民の意見を聞いていき、合意形成にコストを払ってクレームを処理していかないと建築の設計も進まないような時代になっている。
例えば丹下健三もあの時代に生きていたからああいった仕事をしていたわけで、今彼が生きていたらワークショップをしていたと思うんですよね。今は“フィクション”としての建築家像が成り立たず、ワークショップを行って市民とともにつくっていくような建築家像が求められている。
松島:地域の人々からすると、ワークショップに参加するというのはいったいどういった体験なんでしょうか。今までのようにできあがった建築を享受するのではなく、みずからが設計に参加していくわけですよね。
藤村:もちろん大変なことばかり起きるわけではなくて、本当に感動する瞬間が訪れることもたくさんあります。自分がまったく思いつかないようなことを街の人が教えてくれるとか、話し合っていくなかで思いもよらなかった解決策が出てくるとか。やはりワークショップにはクリエイティブな瞬間が生まれるので、建築家としてはそういう場をつくっていくことも基本的な仕事の1つだと思いますね。
松島:なるほど、単に市民が言いたいことを言うだけではなくて、クリエイティブな合意形成が生まれることも大いにある、と。
藤村:ただ、声が大きい人の意見を覆せないとか、往々にしてネガティブな側面があるのも事実です。私自身としては、より多くの人が参加すればするほどよりよいものができると言い切らなければ、現代においては民主主義というものを肯定できないように思います。なので、建築家はこうした環境の変化に対して自虐的になるのではなく、多くの場に飛び込んでいくべきだと感じています。
松島:合意形成という点では、久保さんが研究されてきた「盛り」の世界にも独特の文化があるように思います。若い女性の方々はバーチャルとリアルを使い分けながら合意形成を進めているのではないか、と。
久保:2009年ごろ、女の子たちが求めている「盛り」が何なのか調べるために画像を集めてみんなが求めている顔を比べてみたのですが、あまり差異が感じられませんでした。当時は「デカ目」といってみんなすごく目を大きくしていて。ビッグデータを見るとみんなそっくりという結果になるにもかかわらず、実際に女の子に会って話を聞いてみると自分らしくあるために“盛る”と言うんですね。それで行動を観察していたら、同じような目に見えていてもそれぞれがつけまつ毛をカスタマイズしていて、私がデータを集める際に特徴点を打っていた場所じゃない部分に拘っていたことがわかったんです。
松島:なるほど、フィールドワークによる発見が大きかったわけですね。
久保:そこで2〜3年かけてつけまつ毛の密度も調べられるような装置を自分でつくったのですが、いざそれをもって女の子たちのもとに行ったら「もうデカ目なんて興味ない」と言われてしまって。結局その装置は使い物になりませんでした。私は美意識を数値化することにこだわっていたのですが、彼女たちはむしろ技術で測れないところをつねに進んでいくような気がします。
松島:数値化することは、合意形成しやすいツールをつくることですよね。テクノロジーによる標準化によって、合意が形成しやすくなる。
久保:例えばデカ目も若い女性たちのなかから自発的に生まれたものではありますが、技術が規定している部分も大きいです。つけまつ毛やカラーコンタクトレンズのような化粧雑貨は化粧品よりも早くECサイトで買える環境がつくられていたし、画像処理も顔より目の方が先に加工できる技術が整っていた。実は技術が文化を決めている部分も大きいのだと私は思っています。
江村:技術を扱う側が豊かな創造性をもっていなければいけませんよね。技術自体は“透明”かもしれないけれど、どういう方向に使うかは意思によって決まるものですから。
江村:自然にコンセンサスがつくられるように見えることもありますが、実際はビジョンみたいなものに同意する人が集まっているからこそ自然にコンセンサスがつくられやすいコミュニティが生まれてるわけですよね。前回の有識者会議でも、ポートランドは共通する意思をもつ人が集まったことで今のようなかたちになったと言われていました。
松島:久保さんの話を都市へ敷衍すれば、アーキテクチャや場によって生活や意識が規定される側面もあります。ポートランドが都市成長限界線をつくってコミュニティが生まれやすい環境をつくったように、かつては意識的にビジョンをつくることで都市をつくっていた。一方で、藤村さんが先程語っていたような、ある種の民主主義的な都市のつくり方もあるように思います。
藤村:技術が個の多様性を促進する面と、技術に依存してコントロールされてしまう面、2つの間で揺れ動いていますよね。例えば今の都市開発って解像度を下げて見ると非常に均質化していて。1970〜80年代は高層ビル1つとっても三角形の形だったり真ん中に吹き抜けがあったりいろいろなことを試していたのですが、1990年代以降コモディティ化していった。ローコストで建てる手法が確立され、同じような大きさの建物が増えていった。
ただ、同じものが建っているように見える一方で、渋谷にはカルチャーがあるから渋谷らしいまちをつくろうとか、日本橋は江戸の歴史、京橋はものづくりとか、1990年代以降の東京は大きなビジョンがなくなっているけれどエリア単位の自分らしさについて議論されてきた。デカ目のなかにいろいろな差異があるように、共通のコードがあることで個々のあり方が活発に議論できるような環境がようやく生まれてきている。だから東京都内の街の差異はむしろこれから生まれてくるのだと思います。
松島:つけまつ毛の差異も都市の差異も同じように捉えられるのはおもしろいですね。もちろん規模は違うかもしれませんが、個人がどういうアイデンティティをもってどういうコミュニティに属していくのか考えることは、ライフスタイルや住み方、コミュニティについて考えることでもありますし、その先に都市があるという意味で両者はつながっているのだと思います。
藤村:確かに1990年代以降の大量消費社会のなかでは都市の均質化が進んだとは思うのですが、そのなかで生まれているいろいろな差異や運動に目を向けることも重要でしょう。徐々にいろいろな動きが浮かび上がってきているように思います。
江村:久保さんが研究されるテクノロジーの進化はかなり速くて、急速につくられた共通の基盤のなかでさらに個性を出していくような流れが生まれているわけですが、都市の変化は時間軸が違いますよね。久保さんが語っていたような変化と建物の構造の変化はまったくスピード感が異なっている。技術の変化に応じた都市のデザインを考えるうえで、久保さんのお話のなかにもヒントがあるものなんでしょうか。
藤村:ユーザーの声を拾いあげることには、功罪どちらもあると思っています。例えばスマートシティの文脈においては、都市のユーザーがおしゃべりしているような内容をデータとして可視化して設計に反映しようという流れが生まれていますが、誰でも技術的な問題に口を挟めるようになると、専門家の議論さえもフラットになって意思決定が難しくなってしまう。
例えば新国立競技場の設計においても、さまざまな専門的知識が求められる一方で、なんとなく出てきた不確かな情報を見て高い/安いと判断するおしゃべりレベルの判断が連鎖し大きな変化へとつながってしまった。技術が進化してきたからこそ、スマートシティをつくるうえではガバナンスの問題をきちんと考えねばいけないですよね。
松島:「声を聞きすぎる政府」という言い方もありますよね。例えば久保さんから見ると、若い女性のコミュニティで流通している“声”は、その外側にどれくらい伝わっていくものなんでしょうか。
久保:私はプリクラの共同開発にも携わるなかで、「技術」と「おしゃべり」どちらかだけでは機能しないことを知りました。かつては新機種への新技術導入や女の子たちを集めたグループインタビューを行っていたのですが、元ユーザーの女性プログラマーが考えた機種が大ヒットしたことがあったんです。
「おしゃべり」だけを聞いていても次のトレンドはわからなくて、ユーザーの感覚も技術の知識も持ち合わせている人が直感で出したアイデアをグループインタビューでチェックすることで機能していく。それ以降、もちろん最新の技術を活用しつつも、企画には元ユーザーが参加しているそうです。この事例はプリクラに限らず、いろいろな領域でモデルとして活用できるような気がしています。
江村:久保さんのお話は非常に示唆的です。技術をわかっている人が社会課題の現場に立ち会わないと、課題をきちんと解決できないんですよね。だから都市のアーキテクチャを考えられる人も実は限られていて、その方々が課題を見てひらめくことで新しいものが生まれるのかもしれません。我々NECとしても、技術を扱いながらきちんとみずから現場に出ていっているかどうかを考えなければいけないなと。
松島:「持続可能性」という抽象的な概念について議論するのではなくて、具体的な課題まで噛み砕いていかないと社会実装は起きないということですね。1つ目の問いでは個と公共をつなぐプラットフォームや場を考えるうえでの技術活用や合意形成の可能性について、功罪両面を議論できたのかなと思います。つづく2つ目の問いでは、テクノロジーを活用しながら場をつくるうえで重要となる思想や哲学について議論を続けていきましょう。
NEC
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