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公立学校における、渋谷区の取り組み(全1記事)

2020.09.28

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性的マイノリティの悩みは、差別や偏見だけではない 社会からの孤立を防ぐ、渋谷区のLGBTQ施策

提供:渋谷男女平等・ダイバーシティセンター<アイリス>

東京都渋谷区は、日本初の同性パートナーを認知する制度において「パートナーシップ証明」を交付するなど、全国に先駆けてLGBTQ(性的マイノリティ)に関する取り組みを続けています。今回の講演では、区内の小中学校の教職員向けに行われたLGBTQ研修などを紹介し、誰もが生きやすい社会をつくるために、学校や地域はどう変わっていく必要があるのかを考えます。本記事では、渋谷男女平等・ダイバーシティセンター<アイリス>にて、渋谷区の男女平等・ダイバーシティ推進担当課長の永田龍太郎氏が登壇し、区の取り組みについて、自身の実体験を交えながら語りました。

「ちがい」こそが未来を動かす力になる

永田龍太郎氏:渋谷区の取り組みについてご紹介をさせていただければと思います。改めまして、渋谷区男女平等ダイバーシティ推進担当課長をしております、永田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

まず、渋谷区がこういった性的マイノリティの課題に関して取り組んでいる背景をお話ししたいと思います。

渋谷区が大事にしていること。それは、「ちがい」でございます。ちがっている。これこそが未来を動かす力になる。渋谷区はそう信じて進んでいこうという考え方を持っています。

それが「渋谷区基本構想」というものでございまして、今のバージョンの基本構想は、2016年の秋に策定されたものなのですが、「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」というビジョンを掲げて、渋谷区はあらゆる領域でダイバーシティとインクルージョンを意識した区政運営をしていこうと定めております。 

こちらにお出ししているスライドの「区」の部分が、ちょっとロゴっぽく大きくなっているんですが、駅前のスクランブル交差点をイメージしたと聞いております。

目指すべきは「ソーシャルインクルージョン」

ダイバーシティとインクルージョン。ダイバーシティという言葉は昨今よく聞かれるようになったかと思いますが、インクルージョンという言葉は、ダイバーシティと同じくらいの認知度ではまだまだないのかなと思っております。

ただ、ダイバーシティとインクルージョンというのは、民間企業の間、とくに外資系の企業の中では、1つの言葉として取り扱われることが非常に多くございます。また、この1~2年くらいは、インクルージョン&ダイバーシティということで、語順を変える企業さんも出てきております。

その背景としては、「ダイバーシティの話ではなく、インクルージョンの話をしているのだ」ということを明確にするために、そういったことが行われています。

なぜかというと、目指すべきはソーシャルインクルージョン。共生社会づくり。みんなが一緒に生きていける未来、社会を作っていくことが目的であり、そのためにダイバーシティの理解が必要であるということ。

これが「ダイバーシティ&インクルージョン」が一語になっている。そして、「インクルージョン」という言葉に優先度が付けられている背景でございます。

そして、ダイバーシティ。これは民間企業などでもよく使われる絵なんですけれども、ダイバーシティの氷山モデルというものがございます。氷山は、水面に出ている部分と水面下で全部は見えていない部分があります。(氷山と同じように)「ちがい」というものは、見えやすいものと見えにくいものの両方があると言われております。

昨今、日本でも発達障害であったり、見えない「ちがい」についての理解が徐々に広がってきているかと思いますが、その中の1つが性の多様性のお話。性自認や性的指向といったものかなと捉えてください。

性的マイノリティが直面する2つの悩み

性的マイノリティのお話なのに、なぜこれだけ大きな視点でお話をしているのかと申しますと、性的マイノリティのお困りというのは大きく分けると2種類あるかなと思っております。

それは、直接的な差別や偏見の言葉を浴びせられるヘイトスピーチ的なものもありますが、実はこの右側のピンク色の円に書かれている「さらに困る&孤立」というもので、つまり人生におけるさまざまなお困りごとに直面した時に、さらに困ってしまうことが往々にして発生しがちということです。

いくつか例を挙げますと、例えば、聴覚障害でLGBTQの方がいらっしゃいます。残念ながら手話の口語(話すための手話)の中には、LGBTQに関して差別的なものもございます。そういった中で、ろうコミュニティの中で場所を感じづらい。しかしながら、障害を持つということで、LGBTQコミュニティの中でも、なかなか居場所を感じづらいような孤立が発生しがちです。

差別や偏見をなくすだけではカバーできない課題

それと同じようなお話は、さまざまなお困りごとによって発生しうると言われています。

例えば、心と体の性の不一致、違和を感じているお子さんが、制服が着られなくなって不登校になっている時に、その悩みも受け止められる不登校支援の仕組みがしっかりと構築されているどうか。

そういった人たちが安心して相談できる相手かどうかがわからない、見えないことによって、その不登校が原因不明のまま続いてしまう。そういったことも起こりがちだと聞いています。 

なので、性的マイノリティの課題は、実は「差別や偏見をなくしましょう」というような直接的なものだけでなく、いわゆるストレートの方がアクセスできている社会資源に、安心してアクセスできるようにするにはどうするかという課題ではないかなと感じています。

実はLGBTQの問題は、その単体の課題というよりも、より広い共生社会づくりという大きな絵の中で、この性の多様性の課題について考えていく、つまりLGBTQの方の単体というよりは、先ほど挙げた例のような、いろいろなイシューが重なっているダブルマイノリティ性の困難が非常に強く現れている課題なのではないかと思っています。

そう考えた時には、ちがい、多様性を認め合う社会、人権意識といったものをどう持てるかという、共生社会づくりの課題として考えていただくことが、とても大事なのではないかなと感じております。

ここに挙げているのは、もしかしたら共生社会づくりって、こんな感じの2階建てで考えてみるのもいいのかなということで作ってみたものです。

同性カップルを認める日本初の「パートナーシップ証明書」

共生社会づくりの中の欠けてはいけないパズルのピースであり、人権課題として、渋谷区は性的マイノリティの課題を捉えています。次に、渋谷区ではジェンダーの多様性と平等というところでは、こちらの「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」というものを作っております。

本日、センターにもこの条例の小冊子を置いておりますので、もしご興味をお持ちいただけましたら、お持ち帰りいただければと思います。

こちらの条例は、男女の人権尊重と性的少数者、性的マイノリティの人権尊重という2つの柱からなる条例でございまして、性的少数者の取り組みの中の1つのアクションがパートナーシップ証明書です。

パートナーシップ証明書は、同性カップルに婚姻と同じ程度の実質を備えているということを、区として証明書をお出しするという制度です。そこが日本で初めてだということで、この部分が強くスポットライトを浴びまして、当時は「パートナーシップ条例」という言い方をされました。

区が作ったものは、こういった2本柱からなる条例でした。そして、いろいろな場で渋谷区の取り組みであったり、この条例についてお話をする機会がたくさんございますが、その中で思いを非常に強くしているのが、この2つの柱は別々ではなく表裏一体、地続きなんだということです。

性的マイノリティの生きづらさも、いわゆるストレートの方の生きづらさも、実は根っこは同じなんだということを強く感じています。もしくは、別々の問題だと考えてしまうと、レズビアン女性の生きづらさというのは、どう取り上げて推進していけばいいんだろうかということになります。

できるだけ多様な性の共同参画といった意識を持ちながら、さまざまな啓発活動などをやっていく必要があるなと感じております。

性的マイノリティの方が社会資源を利用しやすくするには

区、とくに行政サービスを考えた時には、やはりセーフティネットの役割を強く持っております。そのセーフティネットにおいて、性的マイノリティのアクセス排除をどうやってなくしていくかということ。

もう少し口幅ったい言い方になりますが、性的マイノリティにおける、社会資源へのアクセシビリティをどう回復していくかということが、とても大事だと思っています。

加えて、行政の性的マイノリティ施策というと、「相談事業をしましょう」であったり、「居場所づくりをしましょう」といったところが、わりと意識されがちではありますが、実はこの図にございます「啓発・取組推進」、とくにこの先の「事業者」、「行政、組織内」、そういったところに、さまざまなセーフティネットであったり、行政サービスを提供しているところがあります。

そこに、性的マイノリティ対応の手裏剣をどう差し込んでいくかということが、実際のお住まいの当事者の住民の方々が、安心して暮らしていけることにつながるのではないか、そういうふうに考えまして、いろいろな部署で取り組みに関しての研修や勉強会を行いながら、職業意識であったり、もしくは事業のあり方というものを1つ1つ変えていく。アクティベートしていくということを地道に行っています。

渋谷区内の小中学校・全26校でLGBTQ研修を実施

ここからは、区内の小中学校での取り組みのご紹介に入りたいと思います。なお、高校は都立になりますので、渋谷区の公立の学校は、区内の小学校と中学校のみになります。幼稚園を除きまして、全部で26校ですね。

この3年強で取り組んできたことは、大きく分けて3つございます。まず1つ目が、3年をかけて、区内の小中学校26校をキャラバンで回りまして、教員向けのLGBT研修を実施いたしました。これは、それぞれの学校で全員参加が必須の研修で、去年度で全校完了しております。

2つ目。「26校を回りました」となっても、先生方もご異動があります。なので、そのご異動分のフォローというところで、新任・転入の教員向け人権研修がございます。

こちらで性の多様性について考える研修を実施いたしまして、1番目の終了後も「聞いたことがありません」という先生が1人もいない状態を維持していくという方向で、今、動いています。

また、実は去年、ちょっと実験的に動画のeラーニング素材も作りまして、その動画素材を見られるような環境を作るということで、その後、研修を受けた先生方で、「またちょっと時間があるから見てみたいな」という方がいらっしゃったら、見られるような状態にしていこうということも、今やっています。

保護者や生徒を対象にした「性の多様性」についての授業

次は3番目です。これは、学校長の判断なんですが、保護者、もしくは生徒を対象にした、性の多様性についての授業を実施いたしました。

これは、あくまで学校の道徳授業の中で「やってみたい」というご依頼をいただいた場合に実施しておりますが、こちらの写真でご紹介をしていますのが、2019年の1月に実施をしました代々木中学校での授業の様子です。

画像におりますのは私でございます。わざとちょっと楽しげな格好をしていたので、今日ご覧いただいている姿とは相当違うものになっていると思うんですが、生まれて初めて教壇に立ちました。

ちなみにこちらは、平成30年度の道徳地区公開講座という機会を使ったものです。これは東京都で道徳の授業を地域の方も参観できるかたちで実施するというもので、そちらで「やってほしい」というご依頼をいただいて、キャラバンで実施をしたものです。

LGBTQの当事者が自分語りをすることの課題

ここからは、どんな感じだったかという堅めの話をしたいと思うんですが、まずは先生向けの研修をするにあたって、どういうふうに研修を実施すればいいのかな、設計すればいいのかなというところで、いろいろ悩んだところを少しお話したいと思います。

LGBTQ研修はどちらかと言うと、当事者の方が自分語りをするものが多いと思います。いろいろなマイノリティに関して直接知るというところでは意義があるとは思いますが、なかなか複数の人がお話しすることが少ないので、研修を受けた方には、その1人がマイノリティの代表選手のように見えてしまう。こんな私が代表選手に見えてしまうのは、ちょっとどうなんだろうということで、非常にモヤモヤいたしました。

かつ、人によっていろいろなライフヒストリーがあるため、研修をするにあたっては、こちらに挙げているように、なるべく2名体制で実施しようということで組んでみました。

基礎知識のパートとライフヒストリーを話すパートと、2人の人に分けて実施して、できればそのお2人は、ジェンダーやセクシュアリティが異なる方にお話しいただくようにいたしました。

実際は、いろいろと都合がつかなくて1人で行く場合もあるんですが、そうなると先生方から出てくる質問が、同性愛者にすごく寄ったかたちで出てくる日もあれば、トランスジェンダーにものすごく寄った日も出てきたりしまして。

性の多様性という幅の広さも含めてご理解いただきたいなと思っているんですけれど、けっこう偏りが出てしまうことがありまして、できるだけ1人のサンプルだけで理解した気分にならないようにというところを、非常に強く意識しています。

「LGBTQの生徒を受け入れる」という言葉への違和感

そして、研修をいろいろ行っていく中で、ちょっとびっくりしたことがこちらです。後半に少しワークショップや質疑応答などを設定をしていたんですが、そこで先生方から「LGBTQの生徒を『受け入れる』」という言葉が、とにかく何度も何度も出てくる。

「受け入れる、受け入れる」という言葉が出てきて、私は非常に違和感を覚えました。なぜかというと、先生に見えているか見えていないかに関わらず、私も含めて性的マイノリティの子どもたちは、その先生の前にいたんです。これまでに若い先生もベテランの先生もいらっしゃいますが、その何年、何十年受け持った生徒の中にいなかったはずではないんです。

「過去に受け持った生徒さんたちの前で、性的マイノリティの生徒を『受け入れる』という言葉を、あなたは本当に胸を張って言えますか?」ということを、何度もお伝えをするようにしています。「いなかった」のではなく、「見えていなかったんだ」という意識を持っていただきたいとお伝えしています。

やはり、そこにすでにいるというところで、「受け入れる」という言葉が強く出てくるというのは、一緒に生きていく共生社会の視点がすごく弱いんじゃないのかなという懸念を感じましたので、「共生社会づくり」を1つのキーワードにしながら、研修、もしくは授業の在り方について、鈴木先生にもご意見をいただきながら進めていきました。

性的マイノリティにとって、学校の先生は頼れない存在

ここはご参考の情報です。これはライフネット生命さんが宝塚大学の日高先生に委託するかたちで実施した、大規模インターネット調査でございます。まだライフネット生命さんのホームページにプレスリリースで出ておりますので、ご興味のある方はアクセスしていただければと思います。

そこでの質問の1つが、「先生がいじめ解決の役に立ったか」という質問です。これが性的マイノリティの子ども、もしくは子どもだった人たちで、イエスと答えている人が、今10代の方で2割。そして50代の方だと、もう7パーセント弱というようなことになっていまして。性的マイノリティの子どもたちにとって、学校の先生は基本的に頼れない存在というふうに見られていますね。

一方、先ほど研修で先生方が、「LGBTQの子どもたちを受け入れる、受け入れる」といった言葉と、実際の当事者の子どもたちから見えていた学校環境というもの、もしくは先生というものに非常に大きなギャップがある。このギャップをどう埋めていくかということを、非常に悩ましく考えながら進めております。

教員研修を進めていく中で、「うちの学校でもちょっとやってみたいんだけど」ということで、校長先生から生徒向けの授業のご依頼をいただくということが舞い込んでくるようになりました。

ただ、どうやって授業を設定、設計すればいいんだろうということが非常に悩ましく、先ほどのライフヒストリーを語るという研修で感じたモヤモヤをもう一度見つめ直してみようということで、鈴木先生にも相談をして設計しました。

「一番嫌だね」ということになったのは、授業が終わった後、「可哀想なゲイの永田さん」という終わり方はしたくない。大変なこともあるけど、24時間泣きながら暮らしているわけではないので、そういう見られ方になってしまうのは、私としても不本意だなと。

ただ、やはり困ることはあるわけで、その部分は理解してほしいなと。この微妙なバランスをどういうふうに設計していけばいいのかというところで悩みました。

初めて会う人が何者かを当てるクイズ形式の授業

そういうことで到達したテーマが、ダイバーシティの話ではなく、インクルージョンの話をしようということです。

こちらがそのコンセプトなんですが、「お互いの見えない『ちがい』も尊重できる、誰もが安心して暮らせる社会づくりについて、『LGBTQ(性的マイノリティ)』といった、『性の多様性』から考えてみよう!」

そういったコンセプトで、まず始めに1回授業を作ってみました。どういったものになったかというと、生徒たちには、「今日はゲストスピーカーをお迎えしての道徳の授業ですよ」。それ以上のアナウンスはまったくしませんでした。

ふたを開けてみたら、なにか知らない人が教室に突然入ってくる。「さあ、私は何者でしょう」という、突然現れた初見の人が何者かを当てずっぽうでいろいろ言ってみるゲームが始まる。

本当にいろんな意見が出てきました。一番面食らったのは、今日のこの格好に近いんですけど、(私の職業として)「YouTuber」というのがありまして、「おお、YouTuberか」と。本当にいろいろな外見から想像されるところだとかいろんなものが出て、そういったものを踏まえて答え合わせをしました。

当たっているものもあれば、そうじゃないものもある。そして、自分がゲイであるというところも1つの要素として提示をしました。

こういったかたちで「ゲイでもあるんだよね」というお話をして、性の多様性についての基礎知識をお話しして授業は終わるというかたちで50分。けっこう短いので、駆け足ですがやりました。

「この人誰でしょうゲーム」の一長一短

本当に「この人誰でしょうゲーム」の中でいろんな声が出てくるので、その声に対して、「僕もゲームが好きなんだけど何のゲームが好き?」という会話が生まれたりしながら、1つ1つの側面だけではない、より大きな人対人のコミュニケーションを確立した上で、性の多様性についてお話ししてみました。

これはけっこう生徒さんもおもしろがって参加してくれたので、効果としてはとても良かったと、現場の先生からもお声をいただきました。

しかしながら、難点がありました。「私は誰でしょう?」と言いつつ、やはり何度も何度も地域でやっていれば、なんとなく地域で顔が割れてしまいます。これはなかなか、再演しづらいなと。

そして、そもそもこのかたちで登壇するのは、いろいろな意味でチャレンジがあります。それは自分のアイデンティティを晒すというか、「自己開示ショー」のようなかたちをとるので、そういったことをやってもメンタルが耐えられる人が条件になるので非常に難しいなと。これは非常に属人性の高い授業だなと思いました。

いくつかのクラスで授業をするので、何人かの方にお声がけをしてやってはみたものの、やはりみなさん、それなりに大人として自己のアイデンティティを確立されている方でないと、お声がけがしづらかったという背景があります。そして、やってみて私もわかりましたが、とても疲れました。翌日、廃人のように寝ていました。

性的マイノリティについて学べる、ドイツの教育番組

そこで、もう少し汎用性を持たせることを考えて設計するようになりました。

それが、こちらの映像素材を使ってみるというものです。映像素材はいろいろなものがあるかと思いますが、たまたまご紹介をいただいたのが、こちらの『レインボー・ファミリー』というドイツの教育番組です。

NHKさんが『NHK for school』 というWebサイトをお持ちで、学校の授業に使える映像素材をたくさん公開されているんですが、こちらはそこにありますので、この映像素材を使って授業をしてみたいと思った方は、ご活用いただくことが可能です。

どういった話かと言いますと、実はこれは性的マイノリティ当事者の視点ではなく、その娘さんの視点で描かれています。お母さんが離婚をして、新しいパートナーと暮らし始めた。そのパートナーは同性でした。女性でした。そういうお話です。

中学生の娘さんの視点からそういったものを見ている。もしくは、そういった家族であることを揶揄するような人がいたら、「私、絶対に許さないから」と伝えてくれる親友の友だちが出てきたり。当事者だけではなく、家族も含めた非常に広いお話を15分でうまくまとめていらっしゃる、とても良い作品です。

これを授業の冒頭で生徒のみなさんに見てもらいます。そこで「感想どうですか?」ということで、みなさんからどうだったこうだったという話がいろいろ出てくるんですが、その中で出てくるご意見が、「あの子の友だちみたいに、私は友だちを守れるだろうか」という声が出てきたり、そして「とは言え、自分たちの周りにはいないよね」という声がだいたい出てきます。

区民からの「LGBTQは宇宙人だ」という言葉

そこで、じゃあ、この資料を見てみようかということで、2019年11月の『しぶや区ニュース』を印刷したものをみんなに配って、読んでもらいました。

これは区内にお住まいの方全戸にポスティングされている区のお知らせなんですが、こちらの表紙は、渋谷区内にお住まいでパートナーシップ証明書をお取りになった一般の方々5組10名に、お名前と顔を出してご登場いただいたものです。

そして、めくっていただくと、特集の部分ではこのみなさんの座談会の様子が紹介されています。実はこういった企画をするに至った背景としては、直接ではないんですが、私が区民の方からお伺いした「LGBTQは宇宙人だ」という言葉がきっかけになっています。

このセンターでは、さまざまな啓発講座をやっております。それを区民に紹介したところ、その方が「渋谷区が取り組んでいるのは知っているけれども、自分は見たことも会ったこともない。なので、LGBTQの人権と言われても宇宙人の人権ぐらいに遠いものにしか感じられない」というふうに言われたというお話です。

そういった気持ちを直接言葉にしてちゃんとお伝えいただけることは、非常にありがたいことだと思います。そして、その言葉を考えたときに、どう可視化をしていくかが課題だなと感じまして、「現実に住んでいますけれど、何か?」といった感じで、区民の方がご登場される『しぶや区ニュース』を企画をいたしまして、実際に区民の方からは非常にポジティブなお声をいただきました。

「自分はそういった課題があるなと思っていても、なかなか考えたり話したりする機会がなかったんだけれども、この『しぶや区ニュース』を自分の娘と読みながら一緒にいろいろな話をしました」。そういったお声を寄せてくださったケースもありました。

ということで、(子どもたちがLGBTQの方を)見たことも会ったこともないと言ったあと、では住民にこれだけいるという記事を最後に読ませて、「じゃあ授業を終わります」ということで、50分が終了するというかたちの授業を作りました。

これは自分の身近な課題として子どもたちに考えてもらうというところで、ある程度、1つのプロトタイプになったのかなと思っています。

お互いの多様性への気づきと想像力

ここまでで学校と先生向けと生徒さん向けの取り組みのご紹介になりますが、何をやってきたのかを振り返ってみると、理解というところだけではなく、どう行動啓発につなげていくのかというところを意識していたのかなと思います。

それは、多様性・ダイバーシティと言ったときに「受け入れる」というのではなくて、お互いの多様性、自分の中の多様性に気づいて、両方を大事にしてあげつつ、かつ見えていない、意識できていないものが常にあるんだという想像力を持っておく。

もしくは、そういった指摘を受けられる可能性、対話のドアをどう開いていくか。それを先生方、そして生徒のみなさんにも感じていただけたらということだったのかなと振り返って感じています。

今後の課題ですね。私の部署は、直接すべての部署のアクションを決めていくのではなくて、あくまでも後方支援の部署ではありますが、学校という場を考えたときにはこのような課題はあるかなと思っております。

まず1番目は、すでにこれは今年度準備が進みつつあるんですけれど、性的マイノリティではなく、性の多様性もしくは性表現の多様性への配慮という視点から、職員・教職員向けの指針の策定の準備を今進めています。

なかなか「性的マイノリティ配慮」という言い方をしてしまうと、学校の制服の問題1つをとっても、性表現の選択の自由という視点がすぽっと抜け落ちてしまうことが往々にしてありがちです。

ですので、性的マイノリティを意識しつつも、より広い視点で考えられるような意識付けができるものを作りたいなと思っています。

当事者だけでなく保護者への啓蒙がカギになる

2番目、いわゆる基礎的な研修は、もう渋谷区では完了いたしました。この次は、それぞれの学校で取り組みを続けていってもらえるような、そういった体制を作れるような後方支援がどうあればいいのかというところ。もしくは、人権担当の先生がいらっしゃる学校への支援などを考えています。

それから3つ目ですね。やはり大きな網掛けとしての研修は行いましたので、より個別の子どもの事案のサポートにシフトしていくにはどうすればいいか。やはりそうなったときには、学校側の教育委員会側がリードをしつつ、どういう体制を作っていくのか、もしくは我々だけで支援しきれない部分を含めて、つなげる社会資源をどう確保していくかを考えています。

それから、いろいろなかたちで、渋谷区内でお話しする機会をいただいており、出張授業なども行っております。そこから見えてきましたのが、当事者へのアウトリーチだけでなく、保護者へのアウトリーチがとても大事ではないかなと思っています。

というのは、当事者の親御さんは、性の多様性に関する知識が100パーセントあるわけではありません。なので、どういった支援を子どもが必要としているかがそもそも見えていない場合もあります。

そういった中で、やはり保護者へのアウトリーチが、子どもが安心して学んでいける環境をつくる上では鍵なのではないかなと感じています。

区内の保育園・幼稚園での研修を目指す

最後に小学校・中学校が終わったというところで、次は保育園・幼稚園かなと思っております。今は若い保育士さんが性の多様性に関して、やはり非常にオープンな意識でいらっしゃるということで、多様な子どもたちに対して、非常に優しく排除することなく接していらっしゃるというお話も聞きますが、ただ一定レベルで全員の底上げができているわけではないと思います。

ですので、保育園・幼稚園への研修を今年度から徐々にやっていこうという話にはなっているんですが、ご存じのようにコロナ感染症というところで、そういったものの実施が今は難しい状況にありますので、できるところから少しずつということで、少しペースはゆっくりになっておりますが、取り組んでいるところでございます。

というところで30~40分経ちましたが、私からは、区の担当としてどういったかたちで取り組んでいったかというお話をさせていただきました。

ここから休憩時間を挟みまして、鈴木先生に渋谷区で取り組まれているさまざまな授業のこと、それから、より広い意味での取り組みについてお話をいただければと思います。

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