2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
提供:NEC
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松島倫明氏(以下、松島):リテラシーを高めていかないと、技術だけが進化したところで社会は変わらない、と。思えばNEC未来創造会議ではそうした問題意識があったからこそ「意志共鳴型社会」というビジョンを提示するに至ったわけですよね。
一方では、アメリカの政治状況やBREXITの例を見てもわかるとおり、インターネットによる分断はどんどん大きくなっている。そんな状況において大きな社会課題や環境問題に取り組むなかで、これから個人と社会はどのようにつながっていけるでしょうか。
江村克己氏(以下、江村):まず大事なのは、テクノロジーの使い方を変えることでしょう。これまではテクノロジーで人間のできることを代替して便利な生活を実現することが目指されていたけれど、人間の能力をより引き出してくれるように、人間をエンハンス(よりよく)するようにテクノロジーを使わなければ人が豊かに生きていけるようにはならない。
松島:本日の冒頭でICTによる分散化が新しい価値を生むという話がありましたが、遠藤さんはどうすればテクノロジーによって人をエンハンスしていけるとお考えでしょうか。
遠藤信博氏(以下、遠藤):今若い人の能力がすごく高いと言われていて、とくにスポーツなどでは10代の若い方々の活躍がすごいですよね。ただ、実際はその能力を支えられるプラットフォームがまだ整備されていないように思うんです。きちんと能力を発揮させてあげられる場がない。
だからこそ全体最適を行なっていく過程で、一人ひとりをエンハンスさせていかねばならない。その点、最近は教育にICTが取り入れられることで分散的に個々人が自分の能力を高めていけるようになってきたと思います。
これまでの教育はマスへの効果を重視するがゆえに、全体に合わせるべく学習意欲の高い学生を抑制するようなことも少なくなかった。でも、今はより個人が主体となって教育を組み直していけるようになっているし、これからは一人ひとりの力を引き出していくプラットフォームをICTがつくっていけるのではと思っています。
そうなると工学部だから数学だけ勉強します、ということでもなく、領域を超えていく人も増えていくはず。事実、最近は医者でありエンジニアみたいな人もいますよね。領域をひとつに絞ってしまうと、人々が共鳴できる範囲も狭まってしまうと思うんです。
松島:越境をICTによってサポートしていく。
遠藤:そうですね。リベラルアーツの重要性はもうだいぶ前から主張されていますが、それがより一層重要になってきていると思います。
従来は大学の面積が決まっているから学生の数を制限するために大学受験を行なっていたけれど、リモート教育がもっと広まれば大学受験すらなくなるかもしれないし、学びのあり方が変わっていくはず。何をどこで学ぶかはすべて個人が決められるようになるし、その機会も公平に提供されていくようになるでしょう。これが共鳴型社会の本当の基盤になっていく気がしています。
松島:一人ひとりが能力を発揮するという点では、インクルージョンの観点も重要ですよね。例えば今の社会の仕組みのなかでは障害を持った人が本来の能力を発揮しづらかったりします。
遠藤:少なくともリモート化によって選択肢はものすごく増えますよね。わざわざ東京に来なくても一流の先生から学べるようになるし、どこでも最先端の教育を受けられるようになる。それはこれまで以上に多様な人がチャンスを得られることでもあります。
全体最適を進めるうえではマルチな人間が必要になると思っていて、あれもできるこれもできるという人が全体最適をつくりあげるリーダーになれるんじゃないかと思う。同時に価値を生み出すプロフェッショナルであるところの企業はパーパス(存在意義)を明示してリーダーになっていかないといけない。
松島:遠藤さんのおっしゃっているマルチな人間が増えていくことで、意志共鳴型社会も進展していくかもしれないですね。
松島:意思共鳴型社会の基盤について、江村さんはいかがお考えですか?
江村:ICTによってプラットフォームをつくっていく重要性を強く感じましたね。マルチな能力を身につけていくために人は学校と関係なくずっと勉強しつづけていくと思うんです。人々が子どもから高齢者になるまでスキルを磨いていくとすると、そのスキルを相互に比較できる基準が整理されているといいなと思います。そういった基準があるとコラボレーションも生まれやすい気がしますから。
一方で、企業について考えると人事制度もひとつのプラットフォームだと思うんですが、社員のあり方が自由になっていくのに合わせて会社というプラットフォームも変わらなければいけない。
あるいはマルチな人間という意味では、金子みすゞの「みんなちがって、みんないい」という言葉にこそ本質があると思っています。一人ひとりが異なる存在で、異なっているからこそ集団全体がよりよいものになっていくことが望ましい。これまでの日本は均一にみんなが育っていくことが重視されていたので、意識改革を起こさなければいけないでしょうね。NECとしてもこうした変革を後押ししていかなければいけないなと思っています。
遠藤:私自身は、NECって価値創造の場だと思っているんです。つまり「場」を提供しているということ。だからそこで一人ひとりが社会を変えられるような価値を生み出せる場にしたいし、働いている人々が自分の力を発揮したくなるような場でなければいけないなと思います。
松島:さて、本日最後の問いは「意志共鳴型社会実現のために、どのような要素が重要となるか」です。意志共鳴というコンセプトについては今日もさまざまなキーワードが出てきたと思うのですが、NECさんが掲げている「人が生きる、豊かに生きる」というテーマの実践においても意志共鳴型社会は重要です。遠藤さんはどのように考えていらっしゃいますか?
遠藤:全体最適によって社会を変えていくためには、まず大きなパーパスみたいなものをつくらなければいけないですよね。そのためには、やはり人間や社会の本質に近づく努力が重要なのかなと思っています。共鳴という点については、これまで多様な人々の「違いを受け入れる」と言っていたんですが、本当は「違いを楽しむ」というレベルまでいかないと駄目じゃないかと気づきました。
われわれは楽しくなければ仕事もできないわけで、多様性を受け入れるという言い方になると「それをやらないと答えが出ないです」というふうに人を拘束するものになっていく。違いがあるからこそ人間社会はおもしろいんだなというような、一人ひとりの心の持ちようをポジティブに変えることが、本当の意味で価値を積極的につくっていける環境へとつながっていくんじゃないかと思っています。シンプルですが、やっぱり楽しくなければ大きな価値は生み出せないと思うんです。
松島:江村さんはいかがでしょうか? 遠藤さんがおっしゃっていた、人間の本質に近づくことと違いを楽しむことをふまえて、どんな要素が重要になっていくとお考えですか。
江村:これまで意志共鳴型社会について考えていくなかで、実はまだ少し茫漠としている部分があったんですが、今日のお話のなかでパーパスを設定することの重要性に気づきましたね。
ゴールを明確にして、きちんとコンセンサスをつくらないといけない。しかもそれは多様なステークホルダーが参加していないと本当の価値にはたどりつけないわけで。あとはただ成長重視の未来を念頭において議論を進めるのではなくて、もっと別の形を探していけるような議論の仕方を考えられるとよさそうです。
松島:全体最適という言葉はややもすると全員が同じ価値を標榜するような世界を想像してしまいますが、全員が異なっていることで全体が最適化されることこそが好ましいんですよね。このNEC未来創造会議にも参加したケヴィン・ケリーも以前、AIは人間より優れた能力を発揮するからよいのではなく、人間とまったく異なる能力を持つからこそ価値を生んでいくんだと語っていました。
これまでの20世紀的な価値観に基づけば大企業や国家は一様な価値を生むことがよしとされていたけれど、そこからいかに脱していくかこそが、「全体最適」という言葉が提示する課題なのかなと思います。改めてパーパスを設定して具体的な議論を進めていくために必要なのが、今日の冒頭でも議論した持続性だと思っています。今後20~30年のなかで、どう実現していくかについてお伺いできるでしょうか。
遠藤:パーパスや全体最適は、人間や社会の本質を知ることができないと答えを出せないですよね。とくに持続性については人間社会だけではなく地球全体の持続性を考えないといけない。とくに環境汚染については全体最適というより個別の部分最適をつくろうとしている気がして。より大きなスケールで考えることが大事だなと思います。
松島:確かに昨今は人間中心主義の視点を脱することの重要性が問われていますよね。江村さんはいかがですか?
江村:松島さんのおっしゃるとおりで、今人間は地球全体のエコシステムを壊しているので視点を変えないといけない。これまでのNEC未来創造会議でもNEC視点だけで考えてしまう危険性がよく指摘されていましたし、視野狭窄に陥らないよう気をつけなければいけない。視野が広がらなければ、どれだけ優れたICTがあってもできることが限られてしまいますからね。
松島:世界はもう地球ひとつ分の資源を使い果たしていると言われますし、問題は深刻化しています。地球の持続性こそが最終的な本質だとすると、そこに近づくためにICTをどのように活用していけばいいんでしょうか。
遠藤:今後知識がどんどんオープンになっていくことを考えると、ICTはオープンなデータを共有していけるプラットフォームをつくっていけると思っています。知識が共有されていくと意識も変わっていきますからね。
例えば今温暖化によって永久凍土が溶けていて、そこから新たな細菌やウイルスが出現していると言われている。COVID-19のように新たな感染症がもっと短いスパンで襲ってくる可能性がある。ただ単に気温が上がっていることだけではなく、地球の持続性について正しい知識を共有していけるような基盤をつくっていきたいなと。
江村:おっしゃるとおりですね。先日とあるウェビナーを見ていたら、楮(こうぞ)について語られていて。1年で生育できる楮からつくられた紙は100年もつのに、人間は何万年もかけてつくられた石油をプラスチックに変えて1年で捨ててしまっている。かつての人間には持続性に対する意識があったのに、便利なものをつくろうとした結果、その意識が失われてしまった、と。
あるいは今回のCOVID-19を受けて、日本では医療従事者への感謝や文化・芸術へのサポートが遅れていることが指摘されていました。それは日本の人々が持っている評価軸が少ないからでしょう。評価軸を多様にしていく努力がこれからのチャレンジなのかなと。地球環境の持続性を考えるというのも、その軸のひとつだと思います。
松島:ありがとうございます。先ほど遠藤さんはリベラルアーツや教育が重要だと仰っていましたが、未来をつくるうえで象徴的なツールにはどんなものがありうるでしょうか。
遠藤:例えば経済という観点からすると、資本主義というツールはやはりある程度優れていると思うんです。人間社会に進化を生むうえでも資本主義が大きな役割を果たしたことは間違いない。
ただ、資本主義がはらむ問題が見えてきているので、地球の持続性を考えながら資本主義的な豊かさを定義しなおすことが重要なのかなと思います。資本主義のなかでどうすれば地球の持続性を高めていけるような全体最適がありうるのかなと。
江村:資本主義はツールとしては非常にいいのだけれども、価値の置き方を変える必要があるということですね。金儲けのためではないツールの使い方が見いだされねばならない。
松島:資本主義が生んだ格差は今非常に大きな問題となっていますが、一方では社会全体の富を増やしてきたのも事実です。資本主義というツールを使っていくうえでは、成長をどう定義づけるかも大きな論点になりそうですね。
遠藤:結局、人間一人ひとりの心のありようが求められていると思うんです。人間は基本的に自分の利益のために動くけれど、自利のために動いていると世界が成り立たなくなっていく。やはりバランスが必要で、利他がないと実は自利もありえないことに人は気づいていくわけです。
そのバランスのもととなるのが倫理観ですよね。倫理観は人間一人ひとりの判断基盤なわけで。リベラルアーツが重要なのも、一人ひとりの判断基盤をきちんと構築していけるからです。人間社会のありようをよりよく考えられる基盤を10代のうちからつくっていくことで、社会も変わっていくように思います。だからこそ今教育に起きている変化が重要なんです。
江村:究極の利己主義は利他主義に転ずるとジャック・アタリも言っていた気がしますね。今日はNEC未来創造会議をこれからどのように進めていくか議論したわけですが、リベラルアーツや教育など、これまであまり取り上げられてこなかった論点がいくつも見つかったのかなと思います。今日気付かされたいろいろな視点をもとに、今年も議論を深めていけるといいですね。
NEC
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