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プレ有識者会議 REVIEW COVID-19で意志共鳴型社会を問い直す(全2記事)

2020.08.27

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ICTの普及が人々の自己実現を後押しする 持続可能な社会をつくる、これからの企業の役割

提供:NEC

NECが2050年の豊かな社会の実現にむけて始動したプロジェクト「NEC未来創造会議」。2017年に始まったこのプロジェクトは、テクノロジーや人の意識といったさまざまな観点から国内外の有識者とどんな世界を目指していくべきなのか議論を行なってきた。
2018年度のNEC未来創造会議は2050年の社会像として「意志共鳴型社会」というビジョンを提示し、昨年度からはさまざまなステークホルダーとの共創活動など社会実装に向けた取り組みも進めている。
本プロジェクトは今年度も議論を継続していくが、一方ではいまなお世界中で猛威を振るうCOVID-19の感染拡大によって、社会のあり方がそれ以前と大きく変わってしまったのも事実だ。グローバルな資本主義経済によって成り立っていた世界は、システムの面においても個々人の意識の面においても大きな見直しを迫られており、新たな生活や思考の様式を指す「New Normal」なる言葉も生まれている。
今年度のNEC未来創造会議は、まずこれからも人間社会に大きな影響を及ぼしつづけることが予想されるCOVID-19を取り上げ、「COVID-19が社会に本質的に示したものは何か? 2050年に社会や企業、人はどう変わるか?」というテーマのもとプレセッションを開催。昨年も本プロジェクトに参加した『WIRED』日本版編集長・松島倫明によるモデレーションのもと、NEC取締役会長の遠藤信博とNECフェローの江村克己による議論が繰り広げられた。
※このログは(「プレ有識者会議 REVIEW COVID-19で意志共鳴型社会を問い直す」)を転載したものに、ログミー編集部で見出しなどを追加して作成しています。

持続的に成長し、自律と制御を両立するエコシステム

松島倫明氏(以下、松島):今回の議論を始めるにあたり、NECさんは「2050年の社会エコシステムパレット」として「変化・自律/安定・統制」を縦軸に、「成長重視/持続性重視」を横軸にとったマトリクスをつくられています。企業や組織のスタンスによってこの4象限のどこに置かれるかが変わるわけですが、これまでは「安定・統制」と「成長重視」を志向する営利企業が社会の大部分を構成していたものの、2050年に向けてその構成も変わっていくのかもしれません。

まずはこのエコシステムパレットをもとに、COVID-19が社会にもたらした変化や2050年までつづく射程の深い変化を探っていけたらと思っています。今回パレットに配された自律性や持続性というキーワードについては、遠藤さんもかねてから強く意識されていますよね。

遠藤信博氏(以下、遠藤):今回の4象限では「成長」と「持続性」、「自律」と「制御」を対置させていますが、実際は相反するものではなく両者が合わさることで初めて大きな価値が生まれるのだと思っています。持続性を持った成長こそが重要だし、自律しながら分散的に制御できるほうが望ましいですからね。確かに特徴だけ見ればこれらの要素は相反しているのかもしれないけれど、実際は両者を同時に動かすことで新たな価値が生まれるのではないかと。

松島:江村さんは今回の軸についてどうお考えですか?

江村克己氏(以下、江村):軸の両端を対比したいわけではなくて、問題設定をより明確にするために対置しているのかなと。むしろ、これまでの社会が持っていた評価軸ではこの要素が両立しないことになっていたことこそに問題があるわけです。この軸をベースに議論を進めることで、そもそも「成長」や「持続性」が一体どんなものを想定していたのかについても明確になっていくように思います。

リモートに秘められた「便利さ」以上のポテンシャル

松島:これまでのNEC未来創造会議でも、数字や経済合理性以外の評価軸を持って物事を捉える重要性が指摘されていましたし、成長をうまく評価するためのKPIを僕たちはまだ持っていないのかもしれません。

遠藤:成長をどう定義づけるのかが重要ですね。本日のテーマにもなっているCOVID-19を通じてその感覚にも変化が生じているかもしれません。例えばICTってリアルタイム性/ダイナミック性/リモート性に価値があるんですが、今回時間や空間の制約から解放することに一役買いました。これは成長に対しても大きな変化をもたらしていて、例えば大学の授業は価値のあり方が変わってしまった。

松島:といいますと?

遠藤:授業が分散化したことで集合することに価値がなくなった結果、価値をつくる主体が講師ではなく受講者側になったと思うんです。もはや時間割にもそこまで縛られず授業を選び、何を学ぶのか考えるようになってきた。

だからどこの大学を卒業したかよりそこで学んできたことの方により焦点があてられるようになってきた。これは企業にとっても同じで、何か新しいプロジェクトを立ち上げるときにNEC自体が主体性を持ってすべてを管理するのではなく、外部の人を交えながら働いていくようになるでしょうし。

江村:一方で、リモートは本来もっと大きなポテンシャルを持っているはずなのに、ただ「便利」なものとして受け取られるだけで止まっている気もします。実際は「便利」という言葉の裏でこれまでの制約をいくつも突破しているわけです。例えば遠藤さんが提示した時空間の制約もそうですが、組織や人間の制約を超えているのかもしれない。

過去を振り返れば産業革命が空間の制約を取り除き、情報革命が時間の制約を取り除いたわけで、これから訪れるSociety5.0と呼ばれる社会がいったい何を取り除くのか、COVID-19を通じて考えていく必要がありそうです。そしてそれは、私たちがどんな社会を目指すのか、その本質を考えることでもある。

自己実現の欲求を叶えやすくなっていく

松島:COVID-19によって、まさに今「本質」が問われていますね。今まで信じていた「安定」や「成長」という概念があっけなく崩れてしまって、新たな価値をつくることが求められている。

遠藤:COVID-19によって分散的に価値を生む方向に進んだことで、これまで提供できなかった価値が提供できる可能性が出てきています。例えばマズローの欲求段階説を考えると、これまでは下位の生理的欲求しか満たせなかったけれど、ICTが時空間の制約をなくすことで上位に位置付けられていた自己実現の欲求を叶えやすくなったんじゃないかと。そうすると国が自律しやすくなるので、持続性も生まれてくる。

これはNEC未来創造会議が提唱する意識共鳴型社会とも関係していて、生理的欲求を満たしてくれるプラットフォームだけでは、人々の共鳴は引き起こせないと思うんです。でも自己実現を促進できるプラットフォームができあがれば、それは地球全体に共鳴を呼ぶベースとなるものになりうると思います。

松島:国がつくるプラットフォームとは、衣食住のような生理的欲求を満たすレイヤーだけを考えていても駄目だということですね。国はむしろ、自己実現のような欲求を満たして豊かさを生むようなプラットフォームをつくらなければいけないのだと。

SDGsをNECの文化にする

松島:こうしたプラットフォームを考えるうえで、これからの大企業は社会のなかでいかなる役割を果たしていくのでしょうか。とくにNECさんは今後どうされるのかなと。

江村:かつてNECはものづくりの会社で、先ほどの4象限でいえば左下の「安定・統制」と「成長重視」の価値観に重きを置いていました。しかしICTがどんどん発展することで、私たちの持つ力がこれまで以上に広い範囲へ応用できることがわかってきた。一方で、NECだけですべてのことができるわけではないのも事実で、これからはコラボレーションが重要になっていくのだと思っています。社会の持続性をつくっていくために、大企業だからこそできるコラボレーションを探っていきたいですね。

松島:成長と持続性を同時に追求するという点で、遠藤さんはSDGsをNECの文化にするとこれまでもおっしゃってきました。

遠藤:やはり人間社会の持続性と経済活動の継続性が重要ですね。ひとつのプロジェクトを実施して終わるだけでは会社である意味がありませんから。環境が変わっていくなかでも価値を創造する力を持ち続けるのが会社の役目であって。

先ほどの話に戻りますが、これからの企業は、持続性に貢献できないかぎり社会から支持されないので利益を生み出せない。社会の持続性を高めることと経済活動を続けることを一体化させることが重要だと思っています。とくに今は現代の政治がポピュリズムに走り短期的な成果をあげることに注力している分、経済はよりロングタームで答えを出すことが重要だし、より長期的な問題解決を行なうのが企業の役割だと思っています。

全体最適によって社会を変えるには「意志共鳴」が重要

松島:近年はかつて国が行なっていたような社会的なインフラ整備をICT企業が担うケースが世界中で増えていますが、長期的に社会を変えていくうえでは企業はインフラにおいても価値をつくっていくものなのでしょうか。

遠藤:今世界が情報社会からデータ社会に移ろうとしていることで、インフラのあり方も変わってきています。かつては類似性のあるデータから演繹的にそれが何を意味しているのか分析することで価値を生んでいたけれど、一方では捨てられてしまうデータも多かったし、価値を生み出せる領域はその都度限定的なものだった。

しかし、データ社会は膨大な量のデータを使うことで社会全体に影響を与えるような価値を生み出せる。データ分析によって「風が吹けば桶屋が儲かる」のような複雑で広範囲に影響を及ぼす価値を生み出せるんですよね。

つまり部分最適だけでなく全体最適が行えるようになるわけですが、ただデータやツールがあるだけでは何もできなくて、どんな価値をつくるのか、どのように社会を変えるのかに関するコンセンサスが求められるようになる。それこそが、NEC未来創造会議が掲げている「意志共鳴」なのだと思っています。

江村:全体最適によって社会を大きく変えていくうえでは、都度コンセンサスを形成しながらでないと進められないですからね。まさに今こそ意志共鳴が重要になっている。あるいはこれまでの部分最適が概して効率化を偏重していたことも問題かもしれません。

例えば今エッセンシャルワーカーの重要性が見直されていますが、実は彼/彼女らの仕事はICTで効率が上がったかもしれないけれど、根本的な構造はほとんど変わっていない。なので、医療や物流など大きな括りで産業のあり方を変化させていくようなところにICTを活用していくことも重要です。

社会課題へのリテラシーを上げる仕組み

松島:ありがとうございます。そもそも人間の思考には制約があるので、部分最適に取り組むことはできても全体最適が非常に苦手ですよね。だからこそデジタルテクノロジーによる全体最適には大きな可能性がある。

昨年のNEC未来創造会議で建築家の豊田啓介さんが提示した、人間とICTがコミュニケーションできる「コモングラウンド」という概念にもつながる話なのだと思います。人やモノがリアルタイムにセンシングされることでつくられる情報の共有基盤がコモングラウンドだとされていますが、これはまさにNECさんが取り組もうとしている全体最適によって実現するものかもしれません。

江村:そのとおりですね。どんなところにコモングラウンドをつくるかがポイントだと思います。ともするとサイバー空間って自分の好きなところに閉じこもって社会を見なくなってしまうような状況を生みがちです。事実、高い感染リスクのなかで今働いてくださっているエッセンシャルワーカーの人々の存在に私たちはこれまで目を向けずに部分最適をすることを容認してしまっていた。

リアルな社会をきちんと認識し、すべてを包含してコモングラウンドをつくることが重要なので、ただ技術的に環境を整えるだけではなくて人々の社会に対するリテラシーを上げていかなければいけない。遠藤さんが先ほど教育の例を出されたように、今ICTを使った教育がうまくいきつつあることがわかってきたので、リテラシーを上げていく仕組みのデザインが私たちにとって次のチャレンジになる気がしています。

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