2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
提供:株式会社デンソー
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伊能寛氏:今日は私から「人を理解した自動運転 -人間特性に基づいた技術開発-」というテーマで、私たちがこれまでやってきた技術開発を紹介させていただきます。よろしくお願いします。
まず最初に、デンソーはどんな会社かというのを簡単に紹介させてください。これは私たちの2030年長期方針です。
これから10年ぐらいかけて、地球にやさしく、すべての人が安心と幸せを感じられるような、新しいモビリティ社会の実現に向けて、価値を創出し続けていきたいと考えています。
そのときに大事になってくるのが、環境の技術と安心の技術ですね。この2つをしっかり考えながら、未来の扉を開けていきたいという想いでいます。
こちらを見ていただくとかなりたくさんの製品があると思いますが、これは全部デンソー製品です。
私たちには5つの大きな事業の柱があります。サーマルシステム、モビリティシステム、パワトレインシステム、エレクトリフィケーションシステム、電子システムの5つです。実は、みなさんが乗っているクルマのほとんどに私たちの部品が入っています。
デンソー・インサイドということで、みなさんの知らないところで多くの製品がクルマに使われています。これが私たちのやっている事業です。
こういったものがこれまでの製品だったのに対して、今後、将来を形作っていくにあたって、デンソーとしては4つの大きな分野に注力していきたいと考えています。1つ目は電動化、エレクトリフィケーション。2つ目がコネクティッド。3つ目が先進安全や自動運転で、4つ目が非車載の事業です。
こういった中で、今日は先進安全や自動運転に関する取り組みについて簡単にご説明します。
まず、これまで私たちがやってきた開発の事例を紹介させていただきます。
(動画が流れる)
私たちは部品メーカーなんですが、実際に自動運転システムを開発して公道で実証試験を行っています。こちらは北海道での試験の様子です。私たちの事業製品であるコンポーネントやセンサー類をうまく駆使しながら、信号の右左折などを行っています。
このようなシステムは、多くのセンサー群を組み合わせて、大規模にインテグレーションをしていかなければいけないため、それこそ私たちの事業製品を使ってどう組み合わせるのかという視点で開発を進めています。
また交差点では対向車もある中で、対向車を先に行かせて右折するというかなり難しいシーンを試験しています。
あとは信号のない交差点で、どういうふうにセンシングをしてクルマを動かすか。こういう場合は、センサーのFOV、センシング範囲が限られている中で、それをちゃんと活かしながらクルマを動かす必要がある。そういった中で私たちのセンシング技術がとても大事になります。
あとはより複雑な交通状況、市街地での自動運転です。歩道をしっかり認識しながら横断する人などを確認して走行します。
それからインフラ協調ですね。単純な車載センサーだけではなくて、通信機なども連携しながらインフラと協調をしています。事例紹介はこれぐらいにさせていただきますが、技術的にはかなりの部分が自動で動くことができます。
ただ、ポイントとなってくるのは、自動運転技術にはたくさんの領域があるということです。認識の部分から始まって予測、その後段でプランニングの部分、最後は車両運動全体をコントロールするような部分、最終的にはアクチュエーターの部分ですね。こういう膨大な複数のコンポーネントをどう統合していけばいいのかというのが、これからの課題になってきます。
そこについて、簡単にお話させていただきます。
ただ走らせるのではなく、安心で快適な自動運転を実現しないと商品性というのは出てこないため、「こういうところはどう実現するんですか?」というのが今日のお話です。
認識や詳細の部分に関しては、このあとのAI研究の伊藤室長に譲るとして、私からはオーバービューの部分をお伝えできればと思います。
ポイントとしては、みなさんが運転をするときに一体何を感じて運転しているのかということです。こういうことを明らかにして、しっかりとエンジニアリングに落として、先ほども言ったような5つのコンポーネントを統合していくということでシステムを鍛え上げていくこと。これがとても大事な次世代の課題になってきます。
そのときに、単純な機械学習や従来の最適化手法だけではなくて、1つの切り口として人間特性そのものの理解もやっているのが重要な部分であると思います。
(動画を指して)これは私たちが運転している様子なんですが、人間というのは運転するときに歩道橋などを直接知覚するわけではなくて、運転している景色そのものを理解して運転しています。
コンピュータビジョンの世界ではOptical Flowと言うんですが、認知心理学の世界でも同じような概念が存在しています。モノの流れで自分が一体どのくらいの速度を出しているのかがわかるわけですね。さらに、旋回状態みたいなものも、モノの流れの歪み方でわかってきます。
こういった人間が感じている視覚的な情報そのものをどうにかして自動車の自動化システムに入れられないかという取り組みが、実はかなり昔から行われてきたんです。
今お見せしているスライドは、先ほどのOptical Flowの話ですが、切り口は自動車の世界ではなくて実はアメリカの空軍なんです。1940年代の頃にアメリカで問題になっていたのは空軍のパイロットが着陸するときにどうしても距離感とかの運動感覚がわからず墜落することがたくさんあったということでした。
そういう状況をうまく改善していくために、アメリカ空軍の研究者が何をしたかというと、人間特性の解析をやったんですね。人間が一体何を感じているのか、その特性を操作性が向上するようなファクターにうまく落とし込めないかということをやっていたわけなんです。
航空機というのは、このように自動車よりはるかに先の世界をやってきており、その知見の一部分をスピンオフさせて自動車に応用しているのが今回紹介した事例ですね。このような視覚的な運動知覚は、例えば車酔いなどに関してもかなり影響があるということがわかっています。
もう1つおもしろいのが接触の話です。これはよくあるADASのシステムでACC(アダプティブクルーズコントロール)です。ACCは前の車両との距離などに応じて制御しているんですが、加えて人間がクルマを運転する際に重要視しているのが内的な接触時間であると言われています。これは認知心理学でTime to Conductと言われている概念です。
例えば、私たちは自分の目の網膜像に写る物の大きさと物の広がり方で対象物の接近を知覚します。この2つの情報から、あと何秒ぐらいで対象がぶつかってくるかということを理解します。
つまり、私たちが接近制御で知覚している変数というのは、距離や速度そのものというよりは、内的な接触時間なんですね。実はこのような目の特性みたいなものも入れ込んでADASシステムのACCは作られています。
さらに目の話だけでなくて、運動の知覚にはGの感覚もあります。クルマが好きな方はよくご存知かもしれませんが、タイヤの摩擦円をどう使うか、という概念で語られる場合もありますね。
タイヤの摩擦円全体をボールのかたちで表すと、ボールの摩擦円から外に出るとドリフトアウトとかスピンアウトしてしまうという話です。
これはタイヤの限界能力の中でクルマをコントロールするというお話なんですが、人間が気持ちよくコントロールされるG感というものがあり、それを表したのが右端の図になります。
従来の安全システムで、車両運動の限界を超えないように、つまりこのボールの摩擦円の端に来たときは力づくで戻すということをして安全を確保しているんですが、より安心なドライビングでは、効率的に車両運動の限界以下でコントロールするような、いわゆるBall in Bawlというコンセプトで運転されていることが多いと言われています。Ballが車両運動の限界のBawlの中で少し円を描くようにコントロールをされている状況ですね。
こういう部分を自動車工学視点からしっかり解釈して、G感を定義して、人間の感覚をエンジニアリングに落として、制御システムを作ってきているというのが自動車業界や私たちサプライヤーがやってきていることです。
このような技術を有効に適用できるのが、山岳路ですね。複数のカーブがある、いわゆる山道だと思ってください。これは私たちのテストコースなんですが、かなり難しいコースですよね。こういうコースを走るときも、車両の限界以下でコントロールし、乗員に安心感を与えることができます。
実際に、このようなシステムを使って、ドライ路面と雪道を走行させたときの様子がこちらです。
みなさん、クルマが雪道でも自動で走ってくれたらうれしいですよね。雪道というのはクルマがスリップしたりとても難しいシチュエーションなのですが、先ほどの人間の特性をうまく考えながら入れ込むことで、実はかなり安定したコントロールができるようになるということがわかりました。
人間の特性を理解しながらやることで、安全だけでなく快適や安心感が与えられるような技術開発ができるのではないかと考えています。
デンソーは自動運転システムそのものを売るような会社ではなく私たちが売るのは、センサーのコンポーネントになります。
ただ、このセンシング技術というのを鍛え上げるためには、先ほどお見せしたような限界領域での自動運転とか、安心で人間に親和性のあるような自動運転、いわゆるカーメーカーの方やサービサーの方がどのようにクルマを動かすかということを理解しないといけないんですね。こういうことを理解して初めてセンサーの技術を鍛え上げていくことができると思っています。
こういった研究開発を現場で汗をかきながら自主的にしっかり進めることで、一番最初にご紹介したような安全・安心なモビリティシステムの将来が実現できるのではないかと考えています。
私からの発表は以上になります。ありがとうございました。
株式会社デンソー
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