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パネルディスカッション(全2記事)

2020.02.26

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ディズニーランドは障害者に障害を感じさせない「夢の国」 誰もが過ごしやすい場所の“4つの条件”

提供:東京都産業労働局

2020年1月28日、「アクセシブル・ツーリズム推進シンポジウム」が開催されました。「アクセシブル・ツーリズム」とは、移動やコミュニケーションで困難に直面する障害者や高齢者の方々のニーズに応えながら、誰もが旅を楽しめることを目指す取り組みです。東京オリンピック・パラリンピックが間近に迫った今、「世界一のおもてなし都市・東京と『アクセシブル・ツーリズム』」と題して、誰もが外出を楽しめる街にするために必要なことをディスカッションしました。本パートでは、4名のパネリストが、「東京らしいアクセシブル・ツーリズム」について意見を交わしました。

東京オリンピック・パラリンピックで求められる「おもてなし」とは

西村晃氏(以下、西村):みなさん、こんにちは。本日はこのアクセシブル・ツーリズム推進シンポジウムにようこそ。お足元の悪い中、お越しいただきましてありがとうございます。私はこのシンポジウムのモデレーターを務めます、経済評論家の西村晃と申します。

アクセシブル・ツーリズムは、ちょっと体が不自由だったり、だんだんしんどくなって「おっくうで旅行するどころじゃないよ」という方にも、ぜひこの東京へ、あるいは日本へ旅行に来てください、というシンポジウムです。

これから1時間あまりの時間を使いまして、ぜひ健常者と一緒にみんなで旅行を楽しんでもらいたいというシンポジウムを進行していきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

さて、東京オリンピック・パラリンピックまで、いよいよ半年を切りました。今年日本に、あるいは東京に、たくさんの人がいらっしゃいます。そのときに私たちはどんなおもてなしをして、お迎えをすればいいのか。それが大きなテーマになっています。

海外からのお客様はもちろんですが、国内のお客様も含めまして私たち東京都が、障害を持つ方、あるいはお年寄りにいかに旅行を楽しんでもらうか。そういうことで「世界一のおもてなし都市・東京」を実現しようと、さまざまな取り組みを行っています。今日はその実現のための課題などについて、議論を深めていきたいと思っております。

まずパネラーのみなさんと議論していくテーマを3つほど考えました。1つは、「東京らしいアクセシブル・ツーリズム」。これは一体何なのか。東京の「らしさ」とは何なのか。

そして2番目は、「日本の魅力を活かしたアクセシブル・ツーリズム」。そのためにはどうすればよいのか。そして3番目ですが、アクセシブル・ツーリズムを通じて観光に携わるお仕事をしていらっしゃるみなさまには、どうビジネスの活性化に役立てていただくか。「ビジネスとの関わり」が3つ目の柱となっております。

おもてなしのプロとシドニーパラリンピック出場選手らが登壇

西村:それではまず、パネラーのみなさんをご紹介したいと思います。株式会社チャックスファミリー代表取締役の安孫子薫さん、どうぞよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

安孫子さんは東京ディズニーリゾートの運営部長や、キッザニアの東京副総支配人などをご歴任されていらっしゃいます。今日はそんなご経験から、アクセシブル・ツーリズムへのお考えをお聞かせいただきたいと思っております。

そしてお二方目は、ホテル椿山荘東京のマーケティング課長、眞田あゆみさんです。

(会場拍手)

眞田さんにはホテルの運営の中でどんなことに努められているか、ぜひお聞きしたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

そして3人目は、根木慎志さんです。根木さんは2000年シドニーパラリンピックの車椅子バスケットボールに出場され、現在は公益財団法人日本財団のパラリンピックサポートセンターでお仕事をされています。どうぞよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

そして4人目が主催者の立場から、東京都産業労働局観光部、受入環境課長の福田厳さんです。福田さん、どうぞよろしくお願いします。

(会場拍手)

それではまずパネラーのみなさんから自己紹介と、そしてこのディスカッションでどんなことを一番議論していきたいかというテーマについて、お話をいただきたいと思います。それではまず安孫子さんから、よろしくお願いいたします。

ディズニーランドやホテル椿山荘東京が取り組むバリアフリー

安孫子薫氏(以下、安孫子):みなさま、こんにちは。ご紹介いただきました安孫子でございます。私は長年の間、東京ディズニーランド・東京ディズニーシー、2つのテーマパークを中心に運営関係の仕事をやってまいりました。そのあと、先ほど司会の方からもご案内がありましたけれども、キッザニア東京でしばらく運営の基礎づくり・営業の基礎づくりをやりました。

現在はチャックスファミリーという会社で(各種企業、商業施設、飲食、清掃関連企業、テーマパーク、レジャー施設などの)コンサルティングの仕事を行っています。

ディズニーランドができて、もう37年経っております。その中でやはりディズニーパークは、ある意味1つのコンパクトな街・都市だと思っているんですね。当初オープンしたころはまだまだバリアフリーとか、今日のテーマであるアクセシビリティといったものは未開発な状態でしたが、ここ20年ぐらいの中において相当に先進的なものを取り入れている、ということだと思います。

ある意味、街づくり・施設づくりのベンチマークになってくるんじゃないかなと思いますので、今日はそんな実例を交えながら、みなさまがたにお話をしていきたいなと思っております。以上です。

西村:ありがとうございます。まさに夢の国のディズニーランドが、どんなアクセシビリティを実現しているか。ぜひうかがいたいと思います。それでは次は、ホテル椿山荘東京の眞田さん。お願いします。

眞田あゆみ氏(以下、眞田):ホテル椿山荘東京の眞田と申します。「ホテル」というと、みなさんどんなイメージでしょうか。究極にシンプルに言うと、なにか楽しい、なにかワクワクする、そんな場でずっとあり続けられたらいいなと私は思っています。

このアクセシブル・ツーリズムに関しましては、まもなく創業70年を迎えるというところもございまして、一から建築をするというのはなかなか難しいところではあります。今ある施設、設備、それから人の力によって、「ここはぜひ楽しんでもらいたい」というところをより多くの方々に楽しんでいただけるように、日々努めております。

まだ不十分なところもございますが、一部のちほど事例をご紹介させていただければと思います。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

「世界一のおもてなし都市・東京」の実現に向けて

西村:よろしくお願いします。さて、次にご紹介します日本財団パラリンピックサポートセンターの根木さんですが、実は選手村の副村長にご就任の予定だそうでございます。それでは根木さん、よろしくお願いします。

根木慎志氏(以下、根木):みなさん、こんにちは。今自分で紹介しようと思ったら、紹介していただいてありがとうございます(笑)。僕は今まで選手として、シドニーのパラリンピック代表キャプテンとして出場させてもらいました。

先ほど猪狩ともかさんから、車椅子ユーザーとして思うところなど、非常にわかりやすい説明があったと思うんですけども。僕も車椅子ユーザーになって長年経ちますし、今は東京でオリンピック・パラリンピック開催に向けていろんな活動をしていて、単身で東京の中で暮らしています。

あと、競技を通じて世界中にも行かせていただいていて。今回のテーマは「世界一のおもてなし都市・東京」ということで、そんな素敵な都市になるためにどうあるべきかとか、実はこんなに素敵なことがいっぱいあるよ、ということをみなさんと同じように紹介できたり。車椅子ユーザーの視点から、みなさんにいろんなお話を聞きながら、僕も意見を言わせていただけたらなと思います。よろしくお願いします。

西村:よろしくお願いします。それでは最後になりましたが、東京都の福田さん、お願いいたします。

福田厳氏(以下、福田):みなさま、こんにちは。東京都産業労働局観光部の福田と申します。本日はこのように多くの方にシンポジウムへお越しいただきまして、誠にありがとうございます。

私からは、アクセシブル・ツーリズムの推進に向けては、どうしても観光関連の事業者の方々の取り組みがやはり重要になってくることを申し上げておきたいなと思っています。

加えて、なかなかハードは進まないのかもしれませんけれども、ぜひ情報発信の重要性も、東京都の取り組みも含めてご紹介したいと思います。

最後に3点目でございますけれども、施設が不十分だとしても、最後は「人による手助け」が重要になってまいりますので。さまざまな方のサポートが重要だということを、プレゼンテーションを通して申し上げたいと思っています。

西村:はい、のちほど詳しくお願いいたします。このメンバーで、議論を深めていきたいと思います。それではディスカッションをスタートしたいんですが、「世界一のおもてなし都市・東京」の実現に向けまして、バリアフリー化などのいろんな取り組みがなされています。そのアクセシビリティの向上に取り組んでいる東京都の立場と最新状況につきまして、改めて福田さんからご説明をお願いいたします。

全国に先駆けてバリアフリーを推進する東京都

福田:はい。改めまして、私からは東京都のアクセシブル・ツーリズム推進に向けた取り組みをご紹介させていただきます。よろしくお願い申し上げます。

こちらは昨年2月に策定をいたしました、都の観光プランです。このプランでは今年7月に開幕いたします東京2020オリンピック・パラリンピック大会に向けた、観光面の重点的な取り組みを設定しております。

その重点テーマの1が「世界一のおもてなし都市・東京」の実現です。外国人の方、それから高齢者・障害者の方、子ども連れの方などの多様な旅行者が、安心・快適に観光を楽しめるような取り組みということで。宿泊施設のバリアフリー化や、本日のテーマであるアクセシブル・ツーリズムの取り組みの推進が位置付けられています。

さっそくですけれども、次が具体的な考え方です。東京2020大会オリンピック・パラリンピックでは、200を超える国・地域から選手や関係者がまいります。また国内外から多くの旅行者もまいりますので、ぜひ多くの方に都内観光を楽しんでいただきたいと思いますし、東京はオリンピック・パラリンピックを期に、多様な旅行者をお迎えすることになります。

また超高齢社会の到来ということもありアクセシブル・ツーリズムの推進が非常に重要と認識しております。そのため都は、バリアフリー化の推進や、観光関連事業者のみなさまへの普及啓発、機運醸成、さらには都民のみなさまへの情報発信に力を入れています。

続いて具体的な取り組みですが、まずバリアフリー化の推進です。リフト付きの観光バスなど、観光バスや宿泊施設のバリアフリー化に非常に力を入れており、補助金も出しております。

特に宿泊施設につきましては、建築物バリアフリー条例を改正いたしました。新築や増改築を行う宿泊施設につきましては、車椅子使用者客室以外にも、すべての一般客室を対象に、例えば客室内は段差がないことや、客室の出入口幅などの最低限の基準を、全国で初めて設定いたしました。

現在ほかの地域でも、この宿泊施設のバリアフリー基準の見直しに向けた動きも出てきておりまして、この条例が全国の先駆けになったと感じているところです。

都民や旅行者に向けたさまざまな情報提供

福田:次に、普及啓発・機運醸成です。特に施設のバリアフリー化に向けた取り組みや、接遇面でのアドバイスをする専門家の派遣事業、それから各種研修・セミナー。また本日のシンポジウムなどによりまして、事業者のみなさまへの働きかけも強化をしているところです。

それから、みなさまへの情報提供です。都民や旅行者のみなさまへの情報発信・情報提供ということで、アクセシブル・ツーリズム推進Webサイトを制作いたしまして、事業者の方々の具体的な取り組み事例の紹介や、先ほどもご覧になっていただけたかと思いますけども、観光のPR動画による発信もしております。

また、観光ルート・観光関連施設のバリアフリー情報の発信も重要です。おそらく本日お手元にある「東京観光バリアフリーガイド」での情報発信や、「ユニバーサルデザインナビ」というホームページによる情報発信もしております。

また、困っている方へのお声がけです。こちらも本日配布していると思いますけれども、「私たちにできること」という、声掛け事例をまとめた冊子を配布しています。宿泊施設や交通機関など、ハードの整備は一気に進みませんけれども、困っている方へのお声がけは今すぐできるおもてなしだと思いますので、ぜひ参考にしていただければと思います。

最後に東京2020大会の成功と、その先の将来に向けて、「世界一のおもてなし都市」実現に向けて、ぜひみなさまと一緒にがんばっていきたいと思います。ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。ご清聴ありがとうございました。

外国人旅行者1,500万人、国内観光客5億人が訪れる街

西村:ありがとうございました。東京都の取り組みなどについてご説明いただきました。さて今東京の街を歩きますと、本当に外国からいらっしゃったお客様をたくさんお見受けします。どのくらい来ていらっしゃるか、ご存知でしょうか。実は直近の数字ですと、東京に来る外国人旅行者の数が、1,424万人。ざっと1,500万人です。つまり東京都の人口よりも多い、ということになります。

それからもう1つ重要なことは、東京は全国から日本国民が訪れる、国内観光客がもっとも多いところです。日本人の旅行者がおよそ5億人です。それだけ多くの方が東京観光にいらっしゃる現状があります。つまり東京の観光は大変大きなテーマ。もちろんそこには消費や経済活動全般へのさまざまな影響があることは、言うまでもありません。

なぜそれほどまでに東京に人が集まるのか。それはたくさんのエンターテイメント施設、あるいはショッピングモールなどがあって、東京がそれだけ魅力的な街であるのも事実だと思います。

そして、その東京の魅力を高めているのは、そういった事業者のみなさん。企業のみなさんがたのおもてなし、サービスの積み重ね。これがあって初めて東京の魅力になっているような気がいたします。

そこでまず「東京らしい」アクセシブル・ツーリズムとはどのようにあるべきかという、今日の最初のテーマになるわけです。その点では、ディズニーリゾートをはじめ、さまざまな集客施設でのご経験をお持ちの安孫子さんから、集客施設での取り組みについてうかがってまいりたいと思います。それでは安孫子さん、よろしくお願いします。

誰もが分け隔てなく過ごせる空間を作る、ディズニーの4つの柱

安孫子:私自身、仕事の関係で現在、日本全国あちこち行っています。なんだかんだ言いながらも、東京はアクセシビリティを考えた場合には非常に優れている場所じゃないかな、と思ってるんですね。

ただまだいろんな課題があって、完全・完璧ということは絶対に有り得ないとは思うんですけれども、ディズニーパークの場合は相当に……俗っぽい言い方ですけど「イケてる」施設なんじゃないかな、というふうに私自身は思ってます。

ちょっとディズニーの話をさせていただくと、まず考え方として、みなさんご存知だとは思うんですけど「ノーマライゼーション」という考え方。北欧で生まれた福祉の考え方なんですが、障害をお持ちの方、あるいはご高齢の方、言うなれば弱者の方が、一般の人たちと分け隔てなく普通に暮らしていけるという。そういった考え方、ノーマライゼーションを、根本的な考え方の中に取り入れてやっております。

先ほど猪狩さんのお話も聞きながら、つくづく「あぁ、そうなんだな」と思ったんですけど、4つの柱があるんですね。1つはやはりバリアフリー、あるいはユニバーサルデザインというような、施設、道具・ツールのバリアフリー化って言うんでしょうか、利用しやすいつくりにしていくのは非常に大事だと思います。先ほど段差が大事なんだよ、という話をしていましたけど、まさにそうだと思います。

当然そのほか、食べ物。それからトイレ。そういったところに対しても気づかいは非常に必要になると思っています。

ディズニーの場合のお話をさせていただくと、乗り物やショーを見て楽しんだりということがありますけども、段差はほとんどなくしています。それと同時に、車椅子のまま乗れるようなアトラクション。あるいはほとんどのジェットコースターも、足が不自由な方でも乗れるようになっていたり。

あと食事のことを考えてみますと、例えば固形物が食べられない方もいらっしゃるわけです。咽頭がんだったり、食道の手術をした方もいらっしゃるわけですね。それに対して、ペースト食や刻み食などの加工食品も用意してあります。

東日本大震災の中、7万人の来場者に1人のケガ人も出さなかった

安孫子:2つ目は、先ほど猪狩さんも言っておりましたが、情報提供は非常に大事になると思います。事前の情報提供、現地での情報提供の両方ともそうですね。今日はスライドをお持ちしていないんですけど、ホームページを開いていただくとインフォメーションブックが出てきます。60ページ以上のかなりのボリュームなんですけども。

例えば、何か障害をお持ちの方がこれを見て、どんな遊び方ができるんだろうか、過ごし方ができるんだろうかということを事前に知って、計画ができる。こういったことはやはり大事で、街づくりも非常に大事だと思います。

3つ目はやはり人です。働いている人のホスピタリティ行動だと思います。なにかお困りになっているような方がいらっしゃったら、積極的に声をかけに行く。それも笑顔で、アイコンタクト、というね。先ほど「目線を合わせる」と言っていましたけれども、そういったものが大事になってくるわけですね。

最後にもう1つ大事なのは、意外とこういった席では語られないのが、エマージェンシー対応をきちんとしておくということだと思います。いつ何時、災害あるいは事故、いろんなことが起こるかもしれません。そういった場合にはどういう対応をしていくか、準備をしておくことが非常に大事になってくると思います。

事実、東日本大震災のときの地震の対応は、7万人のお客様がいらっしゃったにも関わらず……当然その中にはお体の不自由な方もたくさんいらっしゃったと思いますけども、1人としてケガ人もなく乗り越えたことがありました。

この4つのポイントは今後みなさんがたが考えていく場合には、必要な点なんじゃないかなと思います。これらがおもてなしにもつながっていくということだと思います。以上です。

相手の立場に立って、自分で考えて、自分から行動する

西村:ありがとうございます。今のお話でとても印象に残ったのが、やはりスタッフのみなさんがホスピタリティの気持ちに溢れていることではないかな、という気がするんですね。

私も経験があるんですが、ディズニーランドの中で掃除をしているアルバイトの方がいらっしゃいます。でも「掃除をする」というメインの仕事だけじゃなくて、いつでも道案内ができるようにポケットには地図を用意しているし、あるいはいろいろなときに手を携えて、場合によっては写真を撮ってあげる。そういう役割も演じる。

つまり掃除という与えられた仕事だけで終わらずに、「私はお客様のために動くんだ」という心構えが事前にできていると感じるんですが。そういうことですね?

安孫子:はい、そのとおりです。基本的にサービスのガイドラインの中には、「相手の立場に立って、自分で考えて、自分から行動する」というのが1つの重要なことになっています。(アルバイトの方を)「キャスト」と呼んでいるんですけれども、みんなが学んでおります。

西村:ありがとうございます。同じサービス業というくくりでいいんだと思うんですが、眞田さんは今の話をどういうふうにお聞きになったでしょうか。

眞田:大変おもしろかったです。アクセシブルというと、やはり施設や情報、人は思い浮かびます。そこに4つ目の柱として、エマージェンシーへの対応を入れられているということは、本当に対応が一本化されていて、私たちも取り入れられる素晴らしいことだなと思いました。

もう1点は、60ページにもわたるディズニーノートブック。自分がどうやって遊ぶ計画を立てるか事前も楽しいですし、園内でも安全に過ごせるのではないかと思って、ぜひ参照したいと思いました。

ディズニーランドは、障害者にも障害を感じさせない「夢の国」

西村:ありがとうございます。根木さん、いかがでしょうか。

根木:まずディズニーランド、たぶんここにおられるほとんどのみなさんも行かれてると思うんですけども。できて37年ですか?

安孫子:そうです。

根木:今ちょっと計算してたら、実は僕今55歳で、東京オリンピック・パラリンピックの年に生まれたんですけども。車椅子に乗るようになったのが18歳のときですね。ちょうど37年前で、僕がケガしたときにちょうどディズニーランドができたのか、って。

病院を退院してある程度して、ようやく外に出られるようになった当時、本当に街はバリアだらけだし。移動するのもなかなか大変でした。それで、初めてと言っていいぐらい遠いところに行ったときに、ディズニーランドに行ったんですね。そうすると本当に、いろんな意味で最高に楽しかったです。当時はやはり日常の困難さがいっぱいあったんですけれども、そこに行くと本当に夢の世界、夢の国ですよね。

そのポイントがまさしく先ほど言われた4つのものだったと思います。もちろん当時、僕にとっての「夢の」というのは、車椅子に乗っていようが乗っていまいが関係なく楽しめるという。これは当たり前のことかもしれませんが、当時は車椅子に乗って外に1歩出るのは、もうそれだけで楽しめなかったんですよね。

困ることが障害とするならば、(ディズニーランドでは)一切困ることがないので(笑)。「障害を感じさせない」という言い方がいいのかもしれません。それはバリアの問題もあるかもしれませんが、その後、なぜこんなにディズニーランドが心地いいのかなと思ったら、実はハード面だけではないんですよね。

先ほどキャストの人が対応をされているというお話もありましたけども、「車椅子に乗ってるからこうですよ」じゃなくて、その人の気持ちになるという。「どうされますか」と聞いていただけることがすごくよかった。

一番大事なのは「この時間を楽しく過ごそう」という雰囲気づくり

根木:あとはやはり僕だけじゃなくて、夢の国なので、参加されてるみなさんが夢のような気持ちになって、すごく優しい心になってるような気がしました。みなさんも経験あると思うけど、ああいうところに行くと写真とか撮ったりするときに、最近自撮りとかするかもしれないけど、カメラで撮ろうとしたらぜんぜん見ず知らずの人が「写真撮りましょうか」とか声かけてくれますよね。

街中ではなかなかそういうことはないかもしれませんが、ディズニーランドに行くと本当にみんなが前から知ってる友達のように「なにかお手伝いしましょうか」と声をかけてくれるんですよね。

実はお互いに「楽しくこの時間を過ごそう」という雰囲気づくりが一番重要なことで。それはもちろん、キャストの方がされてるからだろうと思うけど、みんなの気持ちが一つになっているのを感じることができました。

すいません、僕自身が今ディズニーランドに行ってるような感じで思い出しながら(笑)。あぁ、そんなことがあったなぁ、って話をさせてもらいました。

西村:(笑)。どうぞ、安孫子さん。

安孫子:今37年になるんですけれど、その当時と現状を比べたら、施設的やこういったインフォメーションなど、その4つについては、本当にもっともっと進んでいます。ですから、ぜひまた行かれてください(笑)。

(会場笑)

根木:けっこう行ってるんですけどね(笑)、ありがとうございます。インフォメーションのガイドブックは一番最初にすぐに見て、場所がわかって行ってるんですよね。施設も変化していっているところで、本当にみなさん大変だろうと思います。

上からの押し付けではなく、共感できるフィロソフィを共有していく

西村:安孫子さんにちょっとうかがいたいんですけども、そのキャストという方も身分的にはアルバイトじゃないですか。

安孫子:そうですね。

西村:まぁ時給いくら、ですよね。そういう意味では、街にいらっしゃるコンビニエンスストアやファミリーレストランの方と、サービス業という意味では立場は同じ方だと思うんですね。普通はアルバイトはマニュアル通りにできて当たり前、それがお給料だと思ってる人が圧倒的に多いと思うんですね。ディズニーランドでは、なぜそのプラスアルファのことまでできるのかが知りたいんですけど。

安孫子:なるほど。まず接客についてのマニュアルは、ディズニーでは作っていないんです。いろんな作業をする場合のマニュアルはあるんですけれども。というのは、まずお客様は一人ひとり顔も違うように、やはり望むところも期待値もみんな違うから。その場その場の、一人ひとりの要求に対してこちらで答えてあげよう、ということがあって。

ただ、基本的な考え方……ここで話したら1時間ぐらいかかっちゃうのでやめときますけども(笑)。「ディズニーフィロソフィ」というものに沿って行動しているんです。

自分たちの事業はまず何のために、そして自分たちは何のために仕事をしているのかを明確に学ぶというか、教育を浸透させている。ディズニーランドの場合は「ハピネスを提供する」ために我々はいるんだ、と教育しているんですね。それが徹底されて、やがては文化になってきたんじゃないかなと思っています。

西村:つまり時給が高いか安いかではなくて、フィロソフィをちゃんと教育できるかどうかにかかってるんですね。

安孫子:そのフィロソフィそのものも、上からの押し付けではなくて、共感できるものを共有していく。共感できることが大事だと思います。

西村:なるほど。東京都の福田さん、当然東京都にも、例えば博物館もあるでしょうし、美術館もありますし、やはりそういう人を集める施設はあると思うんですが。今のディズニーランドの話を聞いて何かお感じになることはありますでしょうか。

福田:私も本当は今日、美術館・博物館含めて我々のやってることを言おうと思ったんですが心が大事なのかな、と思いました。

あとはいろんな施設を所管している東京都としては、例えば砂浜など、なかなか行きづらいところのバリアフリー化や、人の手助けやハードの整備によって、アクセシビリティを改善し障害のある方が行ける場所をどんどん増やしていきたいと、お話を聞いていて思いました。

西村:どうもありがとうございました。

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