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「わたし、定時で帰ります。」原作者朱野帰子さんと語る。女性活躍?働き方改革?そうではない、若者のリアルとは(全2記事)

2020.02.04

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長時間労働者は承認欲求モンスターに憑かれているーー『わたし、定時で帰ります。』原作者が感じた、“定時上がり”に対する世間の偏見

提供:サイボウズ株式会社

サイボウズ株式会社が開発するツールの活用事例や、チームビルディングのノウハウなどを紹介する総合イベント「Cybozu Days 2019」が、東京、大阪、名古屋の3都市で今年も開催されました。2019年のテーマは「モンスターへの挑戦状」。同社代表 青野慶久氏の近著『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』に端を発し、会社に巣くう“思い込み”による支配への挑戦をメッセージに掲げています。この記事では、12月6日に大阪会場で行われたセッション「『わたし、定時で帰ります。』原作者朱野帰子さんと語る。女性活躍?働き方改革?そうではない、若者のリアルとは」の模様をお届けします。

“バリキャリ”か“ゆるキャリ”か 女性の選択肢が2つしかないことへの違和感

山田幸氏(以下、山田):続いて、『わた定』(『わたし、定時で帰ります。』)の主人公の東山結衣について深掘りしていきましょう。

渡邉華子氏(以下、渡邉):編集者との会話から生まれた結衣ちゃんというキャラクターなんですが、結衣ちゃんは私たちの象徴のようなキャラクターでした。

作品の中で、上司の種田晃太郎(氷河期世代入社の仕事人間)に、「キャリアをどうするんだ」「何のためにお前は働くんだ」と聞かれたり、同僚に「結衣ちゃんは何のために働くの?」と質問を受けるシーンで、結衣ちゃんが「私はただ幸せになりたいだけです」「私たちにはお給料日がある。ビールが飲みたい、ビールを飲む瞬間が楽しみ」というのが、まさにふだんから私たちがよく言っている言葉の代弁という感じでした。

渡邉:実は、弊社で20〜34歳の働く女子309人にアンケートを実施しました。

「あなたの仕事に対するモチベーションとして当てはまるものを下記から全てお選び下さい。」という問いに対して、「人間関係のいい職場で働きたい」という回答が66.7%と最も多く、自分の成長や能力を活かすなど長期的なモチベーションよりも、楽しく無理なく働けることが重視されている様子でした。

渡邉:また、「下記のワードのうち、好感が持てるものを全てお選びください。」という問いだと、ピンクの「楽しみながら」「自分らしく」が63.1%で最多。一方でブルーの「向上」「頑張る」「自己投資」「ストイック」などのワードに好感がもてない、という傾向になったんですよ。

渡邉:朱野さんは、どの言葉が好きですか?

朱野帰子氏(以下、朱野):私は完全にブルーですね。頑張るとか、向上とか、大好きな言葉です(笑)。

ちょうどさっき控え室で、ゆとり世代の編集者さんも会場に来てるので話したんですが、彼女はピンクだって言ってましたね(笑)。

渡邉:世代によって、わかりやすく真逆ですよね。

朱野:ちなみに今回の作品のように、「定時に帰る」って言うと、「子どもがいるの?」「看病をしなきゃいけない人がいるの?」「副業してるの?」「勉強してるの?」と、なんか理由がないと帰れないっていう、説明させられるっていうのがあって。

渡邉:確かに聞かれます。

朱野:ただ、18時以降ボーッとしたいだけとか。

山田:ボーッとしたいだけ、よくあります(笑)。

朱野:ただビールを飲みたいだけっていうのが。今はそんなことないですけど、2~3年ぐらい前までは言えない空気というのがあったと思うんですよね。

なので、こういうセリフを書くときにすごくドキドキしながら。わりとクーデター的な気持ちで書いていた覚えがあります。

長時間労働している人は“承認欲求モンスター”に憑りつかれている

渡邉:続いてのシーンについて。付き合っている彼氏の巧君が、結衣ちゃんに「億万長者になっても仕事を続けるの?」って聞いて、結衣ちゃんが「私は、仕事は続けたいな」というシーンが印象的でした。巧君のお母さんが、結衣ちゃんに「結婚したら仕事は辞めるの?」と聞いたシーンでも、結衣ちゃんは「仕事は結婚しても続けたい」と答えていました。

このシーンに込めた想いがあれば教えてください。

朱野:これはドラマのオリジナルのシーンなんですけれども、そうですね。これだけ時代が変わっていても、こういう話ってよく聞くなって思うんですけれども。

定時で帰るというタイトルを見ただけで……ちょっと話がそれますけど、ドラマ評の記事を読むと、必ず言われるのが「このタイトルを見たときに、やる気がなくて自分勝手でマイペースな社員が主役の話と思いきや」というのから始まるんですよ。

山田:(笑)。

朱野:20~30個そんな記事を見て、「そこまで偏見があるのか」ってさすがに私も思ったんですけど。彼女自身は別に仕事が嫌いなわけではなくって、むしろ他の社員よりも仕事を愛している人っていうふうに私は思って書いていて。

また、周りの長時間労働をしている人たちっていうのは、仕事をしている自分が好きっていうような、ちょっとなんていうんでしょう。このイベントのコンセプトで言うと、承認欲求モンスターみたいなのに憑りつかれているという設定で書いていました。

渡邉:「結婚したら仕事はやめるの?」と聞かれるシーンについては、どうでしょう。

朱野:男性ってあんまり「仕事を続けるの?」って聞かれないんですけど、女性はなにかにつけて……。

山田:聞かれますね……。

朱野:今でも、「作家を辞めても旦那が食わせてくれるんでしょ?」って言うのを、上の世代の人たちから言われるんですけど、ちょっと意味がわからないというか。

私たちは完全に結婚しても両方働かないとやっていけない世代なので、それをまだお金のことを別にしても、仕事をしたいという。人の役に立ちたいというか、社会に参加したいという気持ちはすごく強いので。

だけどやっぱりこういう会話って、今でもいろんなところであるんだろうなとは思いました。

渡邉:そうですよね。やはり仕事を続けるならバリキャリの女性になって、そうでないなら辞めてしまうみたいな。2択になっている質問を私もよく受けることがありますね。

朱野:そうですね。総合か、一般か。ユニバーサルか、エリアか。バリキャリか、ゆるきゃりか、退職か、みたいな感じで、常にパキッとわけられるというのがあって、なんかそれ以外の選択肢が……。「どちらか選べ」みたいな。

渡邊:2択になっちゃってますよね。なんかちょっと違和感あります。

「今の人はプライベートを大事にするんだね」 それは、旧世代が自分を納得させるための理由

山田:続いてのテーマにいきたいんですけれども。今バリキャリか、ゆるキャリかという話がありましたが、東山結衣はバリキャリなのか、ゆるキャリなのか。

仕事は誰よりもバリバリ働いていてバリキャリな面もあるかなと思いつつ、でもキャリアプランはなし、定時に帰る、プレイベートは充実させたいなど、ゆるキャリな一面もあり。両方?中間?どうなんでしょう。

朱野:ゆるくはたらくって、世間が思っているゆるいとは違うはず。

サイボウズさんは100人100通りの働き方があると言いながらも、共通のビジョンをめざすことからは外れないですよね。

わた定でも結衣がめざすのは常に「少ない労力で大きな利益をもたらすこと」であり、そこを果たすことが会社での自分の役割であり、「定時後の時間は私のもの」という考え。

その背景には、父や晃太郎など、愛する人を「会社」というモンスターに奪われ続けたという強い悲しみがあるんですよ。

そこまで犠牲を払えば必ず成果が生まれるのならわかりますが、ネットヒーローズ(注:作中で主人公が勤める会社)はブラックになりすぎたせいで一度潰れかけていて。「理不尽に耐えた先に勝利はあるのか」という疑問を持つ彼女、そしてその彼女を社長が雇ったのは、そういう危機感があるからで。

結衣が実際いちばん会社の方針に忠実なんですよね。効率よく働いて成果を出すことに、一番従っているんですよ。

山田:なるほど。

朱野:私が2社目に入った食品メーカーには工場があったので、改善という意識がすごく強くて。ホワイトカラーにもその意識が(あった)。ホワイトカラーのほうがわりと少なかったので、「お前らも業務を改善しろ」っていう、工場側の無言の……。

山田:圧力みたいな感じ? 

朱野:圧力というか、励ましが(笑)、多くって。ホワイトカラーでも残業する方ってほぼゼロで。なにか残業が生じたら、それはなにか問題があるんだろうということで、みんなでシェアして話し合う。だけど利益率はすごく良くって、業績もすごく良い会社だったんですね。

そういう2社目が頭にあって、こういうキャラクターになったと思うんですけれども。2社目で学んだ、早く帰ることと成果が出るということはイコールだということを、彼女のキャラクターに反映させています。

山田:そうだったんですね。そういうふうに説明したとしても、メディアの人とかからは、「今の人たちプライベートを大事にするから、業務効率を良くするんだね」みたいに言われることもあるみたいな。事前に伺っていましたけど。

朱野:私より上の世代の人たちは、長く働くことがいいことだと思っていらっしゃる方が多いので、「プライベートを大事にするんだね」と自分を納得させる理由を見つけて安心するんだと思うんですけど。

私より下の世代の人たちからすると、そういうことじゃない。この無駄な業務をやった先に勝利があるのかということが、常に気になっているんじゃないかなと思っていて。

「もちろんプライベートは大事ですけれども、それより以前に先輩たちのやっている仕事というのは、意味があるんですか?」というのを、心の中に抱えながら仕事をしているということが、みんなあるだろうなと思ったので。

私もどちらかというと、最初は定時帰り否定派だったので、彼女をこういうふうに書くことに抵抗を感じながらずっと書いていました。

山田:ちなみに、またここでアンケートの結果になりますが、世間の女の子は、仕事を頑張ると、自分の時間が取れないと思っている、諦めている方が多いんですよね。

左上、「家に帰ってから睡眠のために急いで寝る準備をする日々でゆっくりできない。平日に仕事以外をする時間がほぼない。(25歳)」。右上、「仕事の疲れを取るにも時間がないので疲れは取れない、したいこともできない。(26歳)」。下、「自分の時間が作れない」「仕事で疲れて何もできない」「残業が多くて、予定が立てにくい」。

見ていて、切ないです。東山結衣ちゃんは、仕事もがんばっているし、プライベートも充実できている。両方わがままに取ることができている。結衣ちゃんみたいな人もっと増やしたいと思いました。

SNS上の反応は真っ二つ 同じ国にいながら、異なる風土の組織が存在している

渡邉:続いてのテーマにいきましょうか。続いてのテーマなんですが、仕事人間の種田晃太郎とゆとり世代の来栖君が対立するシーンがありました。結衣ちゃんはよく、働き方に対する価値観の違う2人の間で板挟み状態でしたよね。

朱野:そうですね。こっちの晃太郎はまさに私のマインドを反映させた、死ぬまで働くキャラクターで、この話を作るきっかけがさっきもお話した、ゆとり世代の編集者さんに、それに対して反発されたというのがあるので。この2人にはわりと原作でも意見の対立をさせているんですけど。

編集者さんってあんまり作家さんに逆らってはいけないんですよ(笑)。いけないということはないんですけど、そんなふうに言う人ってあんまりいないんですよ。「そうですね」って聞いてくれるんですけど。

でも彼女はガーンと言ってきた。私の価値観が揺さぶられたことで、こうやって小説ができてドラマになって、今日イベントにたくさんの方が来てくださったので、下からの突き上げってすごく大事なんだろうなと思いながら、この2人をずっと書いています。ドラマでも何回もぶつからせてもらってて。

渡邉:SNSの反応も2つに割れたとお聞きしまして、ちょっと一部をお見せしたいんですが。

朱野:これはフェイクで作ってもらっていますけど、Twitterの意見がこういうふうにはっきり分かれていて。

私世代の人は、「あんな新人いるのか。信じられない」みたいな感じで。ただ、20代以下の人たち。私ちょっとアイコンを見に行って、何歳ぐらいかなって見たんですけど。

(一同笑)

朱野:「20代の子は気持ちがわかるし、ずっとそういう気持ちは持っているけど、職場で上司に対して言うことができない」っていう意見がありました。やっぱり、こっち側の世代(否定派)は、実力がない者とか入ってまもない者が、上の世代に意見すること自体がもう受け付けられないというか、そういう絵を見ること自体が辛いという。

渡邉:感情的な部分ですね。

朱野:下の2つ(コメント)は、友達から来たやつなんですけど、ピピッてドラマが終わった後に来て、ブラックめの企業でずっと働いてきた人は来栖君に拒絶反応。ホワイトなほうで働いている人は、「彼がいたら雇いたい」みたいな。「文句言ってくる新人のほうが育てやすい」「そのほうがイノベーションが起きやすい」みたいなことをホワイトな企業は言っていて。

本当に同じ国に暮らしていても、まったく違う会社風土があって、本当に別の国にいるみたいな感じだなってタイムラインを見ていて思ったんですけど。

渡邉:真っ二つに分かれましたね。

山田:わかりやすく真っ二つですよね。

朱野:そうですね。わかりやすく。はい。

後輩にお土産を配らせる 会社に巣くう“モンスター”を象徴する3つのエピソード

山田:今回の晃太郎と来栖の対立のシーンを見て、会社とか上司の評価とか指示って、かなり疑問を抱きにくい。これこそが会社というモンスターなのかなと思ったんですけれども、私たちの周りでも会社というモンスターがけっこういまして。エピソードを3つ用意してきたので、ちょっとご紹介させてください。

1つめ。後輩にお土産を配らせる。これ、やったことある方、いらっしゃいますか? 

(会場挙手)

山田:あ、大きく手を挙げてる。

これ、私も当時のサイボウズ、1年目のときにやったことがあるんですけど、先輩が配ればいいのになって思ったんですけれども、すぐに「忙しそうだから、これは私の仕事なんだな。新人がやらなくちゃいけないんだな」と思っちゃったわけですよね。

これって「先輩の言うことには従わないといけない」と思い込んでいたからなのかなと、今になって思うようになったんですけれども。朱野さんも作品の中で、こういうシーンを書くとか書かないとか、という話があったと。

朱野:そうですね。ゆとり世代の編集者さんもそうですけども、もう1人ついてくださっている氷河期世代の編集者さんも、すごく結衣のキャラクターを大事にしようとしてくださっていて。結衣が新人の女の子に、「これを配っといて」ってお土産を渡すシーンを書いたんですけれども、ゲラ(構成用原稿)に、「いや、結衣はこういうことを絶対に新人にさせない」というふうに書いてあって(笑)。

「あ、そうか。私もけっこう古い意識に支配されているな」というのをすごく感じました。けっこう今でもあるんだろうなと思います。

山田:けっこうあるあるみたいですね。

朱野:そうなんですね。

なぜ、新入社員は議事録係になるのか?

山田:次のエピソード。

渡邉:次のエピソードは、新入社員だから議事録係になってしまったというエピソードです。これは友人のお話なんですが、ポイントは新入社員だからというところかなと思っておりまして。

彼女はチームの議事録を毎週書いていたんですが、ある日異動することになりまして。異動した瞬間に議事録係がなくなったそうなんですよ。なぜかというと、異動をきっかけにこの議事録は誰も見ていない、実は誰も見ていなかったということが発覚しまして。

新入社員は議事録を書くものという思い込みが業務を生んでしまっていた。無駄な業務を作ってしまっていたというエピソードです。

こんな体験とかありますか? 

朱野:いや、もう新入社員の頃はずっと議事録係で。他にもやらせていましたけど、まあ書かせることはいいんですけど、フォーマットとか誤字脱字、内容がトンチンカンなのは指摘されるべきだとは思うんですけど。美しい社内資料を作るために誤字が1個あっただけで、「はい、やり直し」とか。そういう時間は長かったなと思いますね。

渡邉:けっこう時間がかかりますしね。

朱野:今思うとですね。当時はよかれと思ってやっていましたけどね。

Excelの集計は手作業で3日費やす 引き継がれた非効率業務の数々

山田:最後のエピソード、いきますか? 

渡邉:代々引き継がれた非効率業務というお話です。もう、文字を見ただけでぞっとするようなエピソードなんですが。

山田:ぞっとした方、いますか? 

(会場挙手)

朱野:けっこういる。

渡邉:こちらは私の友人の男性のエピソードです。彼はExcelで売り上げを集計するという仕事を引き継がれたんですが、コピペを手でやっていまして。2~3日かけてそれをダブルチェックしてというのをやっていました。

「なんて非効率なんだ」と思ったので、たまたまマクロを組むという知識があり、ワンクリックで集計ができるように改善したエピソードなんですが、知識がなかったらたぶん今も手でコピペをしているのかなと思うと、ちょっと怖いエピソードです。

山田:本当の怖い話はこれからなんですね。

渡邉:そうなんです。まだ後日談がありまして。今までがんばって非効率な業務をやってきた先輩に、なんとなく気をつかってしまって、彼は実はまだ「それはワンクリックでできますよ」ということを言えていないそうなんです。

(一同笑)

渡邉:怖いですよね。会社にとってもすごく損なエピソードなんですが、なかなか言い出しにくいそうです。

朱野:Excel職人であることを隠している人ってけっこういますよね。ひとたび明かすと、ものすごくみんなに丸投げされるからという理由で隠していたりして、わりと効率化のスキルがシェアされていないとか。

あとは日本人って伝統が好きなんだと思うんです。伝統工芸の番組を見るのが好きじゃないですか。

山田:確かに(笑)。

朱野:漆を塗ったり。私も好きですけど、ちょっと見過ぎなんじゃないかって最近思ったりします。歳をとると伝統がまたどんどん好きになるんで。だからそういう精神がExcelまでいってるんじゃないかなって思ったりはしますけどね。

山田:そういったことも影響してるんですね。

朱野:影響してるかはわかんないけど(笑)。

耐えている意識がないほどに“麻痺” ただ、上の世代がやってきたことを否定はしたくない

山田:(笑)。ここでまたアンケート結果を共有させてください。「あなたが仕事でストレスを感じた時の対応の仕方として、最も近いものをお選びください。」という問いに対して、20〜34歳の働く女子309人のうち、半数以上が「ストレスを我慢し、受け入れる」「別のことをして紛らわす」と回答したんですね。

私たち世代でこの割合だと、私たちより上の世代の方はもっと、ストレスを我慢しているのかなと想像しました。

朱野:二社目では工場メインの会社であったこともあり「いかに職場における身体的・心理的ストレスを減らすか」が最重要だった。一社目でも意見は言えたと思いますが、そもそもおかしいということに気づけなかった。

作中でも晃太郎が「定時で帰れる会社があるなんて、信じられなかった」と言うのですが、私も同じです。

山田:『わた定』を見たあとでは、朱野さんがそういうふうに思っていたなんて、想像できないですね。

弊社の社員でもこういうふうに言ってる人がいたんですよね。何年も受け継いできた“伝統のExcel”を不便と感じながらも、そんな業務に耐えている、というか。耐えている意識がないくらいに麻痺している感じでした。

やらないといけないって言われたことに対して、やらなくてもいいということがわからないので、やり続けてしまう。しかも、一度非効率だなって思ったことでも、やり続けることで麻痺してしまうんだなって、モンスター怖いなっていうのを改めて。

渡邉:麻痺って怖いですよね。

朱野:そうですね。出版もいまだにゲラを全部手書きで赤を書くというのがあって、10年ぐらいやってきたんですけど、そろそろ手が疲れてきて。PDFとかで文字を打ったほうが早いと思っているんですけど、ソフトもないしなかなか改善されずに、いまだに3行とか4行の文章を手書きで書いて送るみたいなことをやっていますけどね。

でもスピリチュアルな人がいて、「それが大事だ」という人もいて、なかなか出版も変わっていかないなと思いますけれども。

山田:なかなか難しいですよね。私たちも改善したいとは思っているんですけど、上の(世代の)人たちがやってきたことを否定したいわけではなくって。それをどう伝えていけばいいのかって、悩みどころですよね。

朱野:私も20代の頃はそう思っていたんですけれども、自分が30代後半というか、ほぼ40代なんですけど。さしかかって、どこかで時代から遅れているんじゃないか、という不安が3ヶ月ぐらい前から急に兆してきて。若い人にすり寄ろうという気持ちが、すごく出てきたんですけど。

けっこう上の人たちはおびえているんじゃないかなというふうに思うので、言ってもらいたいという人は多いんじゃないかな。でも、やっぱり言ってもらうと拒否反応が出て、バーンと押し返す。押し返してしまう自分もいて(笑)。なんかどうしたらいいんだろうっていうのは、日々思っていますけど。

「kintone(キントーン)」がもたらすソリューションを示した超展開マンガ

山田:私たちはですね、こういう会社というモンスターって、やらなくてもいいという選択肢があるのとないのとでは、その後の行動って大きく変わってくるなというふうに思っていて。

今回、会社というモンスターに、例えば弊社のクラウドサービス、「kintone」で脱却するとどうなるのかというマンガを1本作ったんですね。

このマンガ、超展開風マンガといって、ガラスの仮面みたいな感じでちょっと大げさに描いているようなマンガです。主人公の日本橋で働いているOL、28歳のきとみちゃんという主人公なんですけれども、この主人公が会社のモンスターと戦って奮闘する物語。

前半はモンスターにやられて、どん底に落ちるんですけど、後半は「kintone」によってハッピーになるというような物語になっています。

すごく短いマンガになっているので、ちょっと今からご覧ください。どうぞ。

渡邉:というマンガなんですが、いかがでしたでしょうか? 

朱野:すごい。前半が吹っ飛ぶぐらいのなんか……衝撃的な(笑)。もともとマンガをいただいて読んでいたんですけれども、声が入るとけっこうドキドキしますね(笑)。

渡邉:そうなんですよ。臨場感があふれる感じで読んでいただいたんですが。

朱野:これ、最初にマンガをいただいて読んでいたときに、『仕事って楽していいのね』という最後のセリフで、深夜だったのですごく笑っちゃって(笑)。

なんか当たり前のことなんですけれども、わりと私は根葉先輩側なので(笑)。なんて言ったらいいんでしょうね。楽していいんだけど、なんで楽しちゃいけないんだろうなという気持ちになりました。

渡邉:ありがとうございます。このマンガ、みなさまのお手元の布袋の中に実は入っておりまして。今読んだのが1話なんですが、全部で4話展開しております。

この主人公が若者、ちょうど私たちと同じ目線で書いているマンガなんですが、「kintone」の実際のユーザー様からも、「上司の立場からしても、非効率って若者のモチベーションを下げるよね」とコメントをいただいたりしているので、実は上司の立場からみても、「kintone」を使うというのがいい結果になればいいなと思っています。

作家側も効率化を意識 出版社でもメールからチャットツールへの移行が始まってる

渡邉:ちなみに、朱野先生も情報共有ツールをご検討されているとお聞きしたのですが。

朱野:そうですね。こういう小説を書いているので、ちょっと作家側の仕事ももう少し効率化していきたいなと思って。

出版社さんもチャットツールとかを入れはじめているので、メールじゃなくて、チャットツールを使ってプロットをやってみようということで、試行錯誤でやっているところです。

渡邉:ぜひ「kintone」を使っていただけるとうれしいなと(笑)。

朱野:もうちょっと成長したら検討させていただきます。

渡邉:ありがとうございます。もう少しお話を聞きたいところなんですが、ちょっとお時間が来てしまいましたので、最後にご来場のみなさまに一言メッセージをいただけますでしょうか。

朱野:最後に何を話そうかなと考えてたんですが、こんな若いお二人が、ぶっ飛んだ漫画を企画して、大きな講演をして。企画時は社内の説得も大変だったそうなんですけど。強引にでも世の働き方に訴えている。

若い人には経験がないが、経験がないがゆえに、会社のモンスターにとらわれない気づきを持てると思います。それが会社が新卒採用をする意義でもあると思いました。

みなさん、すごく意識の高い講演とかをお聞きにいらっしゃったと思うんですけど、元が平社員で小説家なので、たぶん本当にゆるゆるの内容だったと思うんですけれども。なんか若い女性の方ばっかりかなと思っていたら、けっこう男性の先輩方が多くて、すごく緊張しながらしゃべっていたんですけど、なにか得るものがあったか心配なんですけど(笑)。

みなさんきっと、まさに今職場で悩んでいらっしゃることがいっぱいあると思うんですけれども、一緒にがんばっていきましょう。

渡邉:ありがとうございます。それでは朱野先生、ありがとうございました。

山田:ありがとうございました。

渡邉:みなさま拍手でお見送りください。

(会場拍手)

山田:では、本セッションのまとめとなります。本セッションでお伝えしたかったのは、この3つです。会社というモンスター、「自分の身近にはいないかな」と思ってた方がいらっしゃるかと思うんですけど、みなさんの周りにも実はたくさんいます。

2つめ、経験の少ない若者こそが、疑問に思ったりできるので、モンスターに気づきやすい存在なんじゃないのかなと思っています。

最後。先ほどのアンケート結果では、半数以上の方が我慢してしまう、ということでしたが、若者に限らず、みなさん我慢しないでください。「我慢しない」、その一言がストレスフリーに今後働けるきっかけになるんじゃないのかなと私たちは考えています。

これにて、本セッションは終了となります。CybozuDaysはこの後も、展示ブースや様々なテーマのセッションをやっていますので、最後までお楽しみください。ありがとうございました。

渡邉:ありがとうございました。

(会場拍手)

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