2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
提供:サイボウズ株式会社
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渡邉華子氏(以下、渡邉):みなさま、ご来場いただきまして、ありがとうございます。突然ですが、『わたし、定時で帰ります。』という本を読まれた方、もしくは同じタイトルのドラマを見たよという方は、どれぐらいいらっしゃいますでしょうか?
(会場挙手)
たくさん手が挙がりました。
山田幸氏(以下、山田):9割ぐらい?
渡邉:たくさん、ありがとうございます。見られていない方もいらっしゃるかなと思うので、最初に軽くキャラクターの紹介と、あらすじをご紹介します。
ドラマでは吉高由里子さんが演じられていましたが、主人公が、東山結衣ちゃん。ちょうど私たちと同世代の、働く主人公でした。タイトルにもあるんですが、結衣ちゃんは定時で帰るんですよね。
山田:仕事したくないから定時で帰るんじゃなくて、仕事はむしろしっかりやっていて、定時後の自分の時間を楽しむために定時で帰る。そんな女の子でしたね。
渡邉:仕事もプライベートも楽しむために、定時という選択をしている。そんな女の子でした。
周りのキャラクターも個性が豊かで、例えば上司の副部長 種田晃太郎。ドラマでは向井理さんが演じられていました。
山田:かっこよかったですね!
渡邉:かっこよかったです! すごく仕事をするキャラクターで、日曜日も休日出勤をしているし、平日も夜中までずっといる。そんなキャラクターでした。
あとは結衣ちゃんが教育係を担当している新人の来栖君。ゆとり世代の代表という感じのキャラクターだったので、一言目には、「会社辞めたい」「辞めよっかな」みたいなことを言うんですけど、憎めない。そんな、かわいげのあるキャラクターでした。
あとは、彼氏の巧君がいたりとか、他にも会社の同僚たちが個性豊かで、そんなメンバーに囲まれながら結衣ちゃんが成長していく。そんな物語でした。
山田:はい。今日のセッションは、この『わたし、定時で帰ります。』の作品に触れながらも、女性活躍とか、働き方改革とは違う、「若者のリアル」について知っていただきたいなと思っています。
山田:さらに、若者のリアルを知った上で、じゃあどうすればストレスフリーに働けるようになるのか、考えるきっかけになるセッションになればと思って準備してきました。
渡邉:少しご挨拶が遅れましたが、このセッションの司会進行を務めさせていただきます、渡邉華子と申します。
山田:山田幸(みゆき)と申します。
山田、渡邉:よろしくお願いいたします。
(会場拍手)
山田:ありがとうございます。
渡邉:私たちは、新卒5~6年目の、サイボウズの社員でして、ふだんは弊社のクラウドサービス「kintone(キントーン)」のマーケティングとプロモーションを担当しています。なぜ「kintone」のプロモーションをしている私たちがこのセッションを開催するようになったのか。なんで、『わたし、定時で帰ります。』にこんなに夢中になったのか、という説明を少しさせていただきます。
山田:私たちは集まると、いつも話していることがあるんですよね。私たちに限らず、中・高・大の同年代の友達と集まると、必ず話していることがあるんですけど。「仕事をがんばりたいよね」「でも、私生活も充実させたいよね」みたいなことをよく話すんですよね。
渡邉:いっつも話してます!
山田:20代の我々世代だと、世間からはゆとり世代、さとり世代、仕事に熱がない、プライベート重視派って言われることが多いんですけれども。意外と、多少忙しくてもやりがいのある仕事をやりたいなとか、メンバーがたくさんいるプロジェクトを任されたいなとか、スキルを上げたいし、お給料も上げたいと思っていますよね?
渡邉:思ってます(笑)。
山田:ただ、これって、いわゆる仕事漬けとかバリキャリとは違うかなと、自分たちでは思っていて。私生活も同じぐらい充実させたい、結婚もしたいし、出産もしたいし、週末は海外旅行に行きたいし、おしゃれしたいし、あとは冷蔵庫にある残り物でレシピを作れるスキルもつけたいですよね!
渡邉:欲張りですよね(笑)。
山田:「あれもしたい」「これもしたい」みたいな感じで、もう毎日毎日あくせくしているような感じなんですよ。
渡邉:はい。生き急いでしまいます(笑)。
山田:次はこちら。産休前にスキルをつけておきたい。これもよく話すんですよ。よく私生活のほうでは、何歳までに出産したいから、何歳までに運命の人と出会って、何歳までに結婚してみたいなことを考えるんですけど。仕事でも同じようなことを考えているんですよ。
日本だと最近は女性は、30歳ぐらいで産休に入られる方が多いみたいなんですけど、30歳って、一番仕事が楽しいタイミングなんじゃないのかなと思っていて。できることもやりたいことも増えてくるタイミング。そのタイミングで1年間お休みすることに対する、漠然とした不安があるんですよ。しかも産休後はしばらくは時短勤務で、お給料も下がるかなと思うと、もっと不安になるんですよね。
渡邉:はい。
山田:そう思うと、産休前にスキルをつけて、経験を積んで、お給料のベースを上げておかないと。そうすることで、産休後も自由にキャリアを描けるんじゃないのかなというふうに思うようになるんですよね。
渡邉:焦るんですよね。逆算して、何も決まっていないのに「もう、あと3年」「あと5年」と焦ったりしますよね。
山田:先輩ママからは、「なんとかなるよ」って言ってもらえるんですけど、不安なんですよ。経験したことがないので。
山田:最後、私たちは女子学生でも女性リーダーでもワーママ(ワーキングマザー)でもないんですよ。これはどういうことかと言いますと、女子学生、女性リーダー、ワーママというのは、メディアからけっこう注目されるんですよね。
メディアから注目されるとコンテンツが増えるんですよ。ワーママの時短術、在宅ワーク術、女性社長、初の女性管理職、学生起業みたいな。
でも、この女子学生、女性リーダー、ワーママの”どれにも当てはまらない私たち”向けのコンテンツってぽっかり抜けちゃってて。あったとしても、「社内恋愛がうまくいくコツ」とか「OLファッション、これで決まり!」とか、あとは「デキる女性のコミュニケーション術」。「『ありがとう』って言いましょうね」みたいな。
でも、産休前にスキルをつけたいと焦っている私たちには、ちょっと物足りないというか。
渡邉:おもしろいんですけどね。占いとか見ちゃう。
山田:「しいたけ占い」とか毎週見ちゃうんですけど、物足りない。
渡邉:焦っている気持ちだと。
山田:それで、モヤモヤモヤモヤ。「なんかいいのないのかな」って思っているときに、今年の4月に『わたし、定時で帰ります。』がテレビドラマで放映されたと。「まさにこれだ」「欲しかったのはこれだ」って思いましたよね。
渡邉:おもしろかったですよね。私の友達もみんな夢中になって見ていまして、ご存じの通り大ヒットで大反響のドラマだったので、原作者の朱野(帰子)先生、とってもお忙しいのですが、「ぜひお話をさせていただきたい」と私たちがラブレターを書いたところ、ご快諾をいただきまして、このセッションを開催できる運びとなりました。
山田:イエーイ。
(会場拍手)
渡邉:ありがとうございます。
山田:さて、すみません。前置きが長くなってしまいましたが、ここで『わたし、定時で帰ります。』原作者で作家の朱野帰子(あけのかえるこ)さんにご登場いただきましょう。拍手でお迎えください!
(会場拍手)
渡邉:どうぞよろしくお願いします。
朱野帰子(以下、朱野):よろしくお願いします。
渡邉:さっそくなんですが、会場のみなさまに一言ご挨拶をお願いいたします。
朱野:小説家の朱野帰子(あけのかえるこ)です。といっても、新卒から8年半ぐらいサラリーマンをやっておりまして、出版業界のほうがどちらかというとアウェーで。今こちらにいるときの方が精神的に安定しているというか、ホームっぽいなというのを感じながらおります。
就職氷河期に就職しまして、最初が裁量労働制っぽい会社で、繁忙期にはものすごくブラックになるような会社におりまして。2社目が、ドラマに出てくるネットヒーローズ(注:作中で主人公が勤める会社)みたいに、労務管理がきっちりしているような会社に入りました。
その2つのギャップから、今回こういう小説を思いつきまして書いたところ、ドラマ化していただくことになりまして、こういう場に呼んでいただけることになりました。よろしくお願いします。
山田、渡邉:よろしくお願いします。
(会場拍手)
渡邉:さて、今日は朱野先生と『わたし、定時で帰ります。』執筆の背景についてお話ししていきながら、タイトル通り「女性の活躍? 働き方改革? そうではない、若者のリアル」を語っていきたいと思います。男女問わず「若者のリアル」というところに焦点を当ててお話をしていきたいと思います。
若者代表として、僭越ながら私たちから質問をたくさんさせていただきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
また、このイベントの全体テーマが、『モンスターへの挑戦状』ということで、思い込みから生まれてしまった実体のないものを「モンスター」と表現しているんですが、このモンスターもセッションの中で登場させていく予定です。40分ほどのセッションになるのですが、ここからどうぞよろしくお願いいたします。
山田:よろしくお願いします。では、さっそくですが、テーマ1「『わたし、定時で帰ります。』誕生の背景とは。」というのを教えていただきたいなと。会社員時代の経験が影響しているというインタビュー記事を拝見したのですが、そのあたりを含め、改めて教えていただけますでしょうか。
自己紹介から。はい。
朱野:ちょっと、先走って言ってしまったんですけど、私は2002年卒でして、就職氷河期に世に出まして。どちらかというと、かなり遮二無二働く、ドラマで言うと、晃太郎タイプの人間で。
2社目でホワイトな企業というのを経験したんですけど、作家になって10年ぐらい、どういうものが自分に合うのかなというのが見つからなくて悩んでいたときに、新潮社のゆとり世代の編集者さんと組むことになりまして。
ご飯を食べていたときに、働き方の話になって。どうして私たち氷河期世代が命を賭けてまで仕事をするのかということを、けっこう強い調子で言われました。
朱野:それで、この小説が生まれたという感じなんですけど。
山田:会社員時代に朱野さんの中にもモンスターがいたと事前に伺っていましたが、この辺についてちょっと深掘りしてお伺いしたいなと思っていて。
(スライドを指して)1つめは残業をしないと褒められない。これってどういったことなんですかね。
朱野:私だけじゃなくて、今の30代か40代以上の方はみんなそうだったと思うんですけれど、社会全体がたくさん働く。質より量というような風潮がすごくあって。
たくさん働けば働くほど成長できるっていう、残業成長神話というのが根強い時代だったので。それに輪をかけて不況があったので、「とにかくここをがんばって乗り切ろう」みたいな感じで。ドキュメンタリーとかもなにかというと一番の山場が徹夜。
山田:確かに(笑)。
朱野:お仕事ドラマも、「よし、がんばるぞ!」って言うと、がんばる内容が“徹夜”という感じで。とにかく「徹夜明けの俺がかっこいい」みたいな感じの会社員でした。
山田:やっぱり長い時間働くけれども、「効率化は憎たらしい」と思っていたんですか?
朱野:そうですね。別に自分では非効率に働いているつもりはないんです。まったくないんですけど、なんか楽をすることへの罪悪感というのがすごくて。
例えば上司がものすごく曖昧な指示を投げてくるということに対して、「もっとちゃんと伝えてください」って言うんじゃなくって、先回りして忖度して、意味を読み取って行動する自分に酔うというか。
山田:(笑)。
朱野:後輩から、「朱野さんはなんでそんなに上司の思っていることがわかるんですか?」って言われるのが、ちょっと得意な気分になるという。
本当だったら、もうちょっと上司の自分が言って効率的な指示をしてもらうように、後輩のためにも動かなきゃいけなかったんですけれども、そこまで考えが及ばなかったっていうのが、私の20代ですね。
山田:なるほど。やっぱりそうやって先回りして動けるほうが、会社とか上司からも評価されるようになるんですか?
朱野:そうですね。私、なんか自分で言うのも……(笑)。ワンマンタイプの上司にすごく好かれるところがありまして。独裁者タイプの人に。すごい忖度体質だったんですよ(笑)。
なので、けっこう出版業界に入ってからも、自分が書きたいものよりも編集者さんが望むものはなんだろうって考えちゃうような癖があって。本当に最近ですね。ゆとり世代の編集者さんと組んでから、自分がやりたいことをお互いぶつけるという、すごく……。
山田:いい関係ですね。
朱野:それまでは「無駄にも意味がある」とか、なんかそういうことが好きでしたね。
山田:最後に「定時に帰るやつは仕事を愛してない」。これはどういうことですか?
朱野:これは、たぶん前の2つ(「残業しないと褒められない」「効率化は憎たらしい」)を自分の中で正当化するためだと思うんですけれども、この自分を全肯定するためには、やっぱり定時で帰る人というのはやる気がないという。量より質という方向を否定しなければいけないという心理が働くんだと思うんですけど。
公務員の人とかが、定時に帰っているって聞くと、「さすが親方日の丸さん」みたいな(笑)。
(一同笑)
朱野:そういう感じのディスりをしたりとか。私だけじゃなくて社会全体がそういう空気だったんですけど。
山田:私も入社1年目の頃は、6年前ですけど、当時、定時に帰ろうとしたら、当時の先輩に、「私が1年目の頃は、夜10時まで勉強してたよ」っていうふうにチクッと言われたことがあって。「あ、そうか」みたいな。ちょっとビクッとしましたね。
朱野:なんかその先輩の気持ちがわかるんですけど、このタイトルをつけるときに、ゆとり世代の編集者さんが、「わたし、定時で帰ります。」という強めのタイトルを提案してくださったんですけど、すごく怖くて。
こんなのをタイトルにつけるっていうのは、元会社員としてどうなんだろうみたいなのがありまして。刊行直前までずっとびびって。道で刺されるんじゃないかとか思いましたし。
山田、渡邉:えっ!?(笑)。
朱野:ドラマの放送前も案の定、タイトルがバーンと出たときの、ネットにいる私と同じおじさんおばさんの強い拒否反応というのを、ものすごく感じました。
山田:なるほど。先ほどもおっしゃってましたけども、この編集者さんの「なぜあなたたちの世代は、仕事に命をかけるのか。巻き込まれたくない」って言われたときって、いらつきとか怒りとか、「なんでこんなことを言われなくちゃいけないんだろう?」みたいな気持ちも、やっぱりありましたか?
朱野:そうですね。のたうちまわる感じはあります。本当にストレートにパーンって言われたので。頭の隅では残業する時代じゃないということはわかっているんだけれども、全否定された感じで。ただ、当時私、過労で倒れてしまいまして。後から気づきましたね。編集者の彼女も過労状態だったと思います。
すぐ企画が出たわけじゃなくて、そのまま帰って、3ヶ月か4ヶ月後ぐらいに、「じゃあ定時で帰る女性を主人公にしましょうか」っていうのが出てきたので。けっこう時間がかかりましたね(笑)。
山田:苦しみを乗り越えて、東山結衣が誕生したんですね。東山結衣は、朱野さんと正反対のキャラクターであって、朱野さんのなりたい姿を描いたのかな、と想像しました。
朱野:いや、ぜんぜん私は結衣派ではないというか、ブラックな人間。東山結衣”以外”の彼女に突っかかってくるキャラクターが、全員私の分身なんです。
山田:そうだったんですね。
朱野:「彼女になんて言ってもらったら、私は定時に帰れるようになるんだろう」というふうに話を考えていきました。彼女のセリフは、ブラックな私が彼女に言ってもらいたいセリフなんです。
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