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新生銀行が目指す「価値共創型ビジネス」とは(全2記事)

2019.12.25

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金融業界の異端児、新生銀行が描くデジタルマーケティング戦略

提供:株式会社メンバーズ

2019年11月6日、株式会社メンバーズが主催する、「EMCカンファレンス2019 秋~企業はデジタル施策を通じて、顧客と社会にいかに向き合ってゆくか~」が開催されました。市場のコモディティ化が進み、顧客個人のニーズが細分化・複雑化している現代、企業は顧客にデジタル施策を活用することで新しい体験やエンゲージメントを構築する必要性に迫られています。デジタル専門人材が不足する中で、商品・サービスを通じて「価値」や「体験」を提供し、顧客との接点を改善し続ける事例を紹介します。本パートでは、「新生銀行が目指す『価値共創型ビジネス』とは」と題し、株式会社新生銀行 常務執行役員 個人ビジネスユニット長 兼 株式会社アプラスフィナンシャル 代表取締役社長の清水哲朗氏が登壇。株式会社メンバーズ 常務執行役員の西澤直樹氏とともに、新生銀行における新たな取り組み事例について語りました。

「価値共創型ビジネス」の今後

西澤直樹氏(以下、西澤):本日はご多忙の中、お集まりいただきましてありがとうございます。第1部は新生銀行さんをお招きして「今後の価値共創型ビジネスとは」というタイトルでご講演、かつ対談形式で進めさせていただければと思っております。よろしくお願いいたします。

本日の対談では、これまで新生銀行さまが行われてきた顧客価値の向上の取り組みを振り返りつつ、今年度中に提供を予定している価値共創型のネオバンク・プラットフォームである「BANKIT」という商品について、その取り組み内容や狙いについてお話をさせていただく予定になっております。

金融業界を中心に、昨今さまざまな企業が金融ビジネスに力を入れてくる中で、そういった共通基盤のプラットフォームについて、新生銀行としてどういった強みを持って、今後の展望に関して考えていらっしゃるのか。そういうところを幅広くお話できればなと思っていますので、よろしくお願いいたします。

のちほど簡単な自己紹介の時間があるんですけれども、今回ご登壇いただきます、新生銀行常務執行役員、清水さま。改めてよろしくお願いいたします。

清水哲朗氏(以下、清水):よろしくお願いします。

西澤:聞き手は私、メンバーズ常務執行役員の西澤が承っております。今日はよろしくお願いいたします。それではさっそく、簡単に自己紹介からお話いただければなと思っております。

新生銀行常務執行役員の清水氏が登壇

清水:本日はよろしくお願いします。まずはこういった機会をいただきましたメンバーズのみなさま、それからお越しいただいているみなさまにも、本当に感謝しております。

1990年に今の新生銀行の前身である、日本長期信用銀行(以下、長銀)に入社しました。1998年に金融危機があり、当時長銀も破綻しました。そして、2000年に新たに新生銀行として再スタートをしました。

従来長銀は、事業性金融を中心としたビジネスモデルでしたが、徐々にそのニーズが後退してきたため個人ビジネスにも注力することになり、1998年から2001年ぐらいまでの間は個人ビジネス立ち上げの準備に関わっていました。

その後、縁あって2001年に今のセブン銀行(当時はアイワイバンク銀行)に転職、2006年には楽天に転職し同社の金融事業に携わっていました。最後の2~3年間は、楽天がビットウォレット社を買収したため、電子マネービジネスにも携わりました。

また縁があって、新生銀行に戻り、コンビニやインターネット業界でのバックグラウンドを糧に、現在はグループの個人ビジネスの責任者として金融のマスリテールに従事しています。

新生銀行の名前の由来と存在意義

新生銀行の名前の由来について、「長銀が破綻して、新しく生まれた銀行ですよね」と頻繁に言われます。新生銀行は、メガバンクと違って系列の取引先を持たず、地方銀行のような地域の顧客基盤もありません。また、長銀の破綻によって、従来の取引基盤が縮小してしまった部分もあります。

新生銀行という名前は、こうした背景をもとに2000年の再スタート時に「“新しい価値”や“新しいサービス”を世の中に提供していこう、そして我々は新しいものを生み出す銀行だという思いを背骨にしてやっていこう」という趣旨で決まりました。

英語では"Shinsei Bank"といいますが、当時自分たちでは"New Style Bank"と言っていました。新しい価値やスタイルを世の中に提供していくことが我々のミッションである、これをやり続けていくことが我々の存在意義だと考えています。

新生銀行と他の金融機関やメガバンクの大きな違い

新生銀行グループの特徴を語るうえで、まずはマーケットポジションについて説明します。詳細は控えますが、左上から、個人のお客さま向けの預金、住宅ローン、投資信託および無担保カードローンの各ビジネスにおける残高を表しており、ほとんどが1パーセントほどのシェアになっています。

そのような中で、新しいものを提供していこうと新生銀行立ち上げ当初から注力してきた外貨預金は、約6パーセントのシェアを有しています。また、買収した無担保カードローン事業も相応の存在価値を出しています。お客さまにとっての新たな価値を提供していくことで、引き続きマーケットでの存在意義を高めていきます。

また、新生銀行グループは、銀行中心ではない金融グループを標ぼうしています。グループの中には、無担保ローンビジネスを担う新生フィナンシャル、リース業の昭和リース、それからクレジットカードやショッピングクレジットビジネスを担うアプラスなどの金融会社があり、仮想のグループ本社のもとでグループ一体経営を行っています。

新生銀行グループ全体の総資産は約10兆円、うち営業性資産の6割強が銀行ビジネスで、残りはノンバンクビジネスというユニークなポートフォリオになっています。また、連結で年に約500億円の利益(与信関連費用加算後実質業務純益)を計上していますが、うち個人ビジネスで約250億円、またその大宗(大部分)はコンシューマファイナンスで稼ぎ出しており、他の金融機関と比べると異なった収益構造になっています。

私はアプラスの社長を兼任しているため、人員配置や予算配分などについて、銀行やアプラスの状況を見ながら、組織の壁を越えて異動や再配分することが可能です。

このような他の金融機関ではあり得ない柔軟なオペレーションをできることが特徴であり、その利点を商品開発やサービス提供にも活かしたいと考えています。

話題となった「32色のキャッシュカード」と「2週間満期預金」

少し昔を振り返りますが、2000年に新生銀行になったころの写真です。スターバックス併設型の店舗を作りました。今でこそ銀行とコーヒーショップが隣り合っていたり、コンビニエンスストアと一緒にやっていたりと、いろんな例がありますが、当時は非常に斬新で、メディアにもよく取り上げられました。

また、スターバックスとYahoo! Japanと一緒に店舗を出したりもしました。当時はまだお客さまの数も少なかったので、多少奇をてらったことをやってでも話題を作っていかなければならない事情もありました。

また、新生銀行の株主には海外の投資家が多かったため、海外で知名度のあるコーヒーショップやYahoo!と組むことで「この銀行は日本の中でも変わった銀行なんじゃないか」と目に映るだろうとも考えました。

その次のスライドです。2005年には、変わった銀行ができたよねと少しずつ認知されてきた頃に「選べる32色のキャッシュカード」を作り、当時は相当話題になりました。

少しワクワク感だとか他行にない特色のある商品として「2週間満期預金」を開発しました。今でも1兆円以上の残高があり、お客さまに非常に受け入れていただいています。当時は、日本にあまりないようなサービスやプロダクトを開発・提供することで特色を出していました。

今こそコミュニケーションが重要な理由

近時の報道を見ていますと、例えばIT化やAIの活用によってメガバンクなどが個人向け店舗を減らすだとか、採用を抑制するといった記事をよく見かけます。また、銀行業界は衰退産業だといった書かれ方もされています。

私自身はそんなことはないと思っていますし、新生銀行の場合は、店舗は約30店舗・従業員約2,000人の規模に過ぎませんので、これだけの人の力をフル活用してどのように商売していくかといった観点が重要に思います。

このような状況において、AIやロボティクスの活用などによって、多くのことが変化していくのでしょうが、最後はやはり、それらを使う側である”人”の能力を高めることが肝要であり、コミュニケーションをもっと強化していきたいと考えます。

たとえば「株価が下がりました」「ドルが円高に向かいました」といった場合に、一人の行員が、担当する100人~200人のお客さま全員に一斉に電話でお知らせすることはできませんし、ここにいるみなさまのスマートフォンにいま電話があったとしてもそれを取るわけにもいかない。やはり、新しいコミュニケーション手段を考えないといけないよねということになります。

デジタルを活用すれば、1人の人間から多数の人宛てに情報を送ることができるようになります。確かにメールもその解決手段のひとつですが、もはやメールも見ない時代になってきている中で、どのような方法でお客さまとコミュニケーションを取れば関係をより強化できるかを考えていくことが重要になります。

この図はそれを表しており、言葉で簡潔に説明すると「リモートチャネルやいろんなデバイスを通じて、遠隔地でも24時間コミュニケーションが取れるようになる世界の実現によって、コンサルティングの力を向上し、お客さまとのリレーションをより強化していきましょう」ということです。

顧客情報に関するオペレーションの徹底

では、どのように実現していくかがポイントです。現在新生銀行でもテレビ電話などを使ってお客さまとの遠隔的なコミュニケーションを実施しており、お客さまからは「便利になったね」とか、最近は画像もすごくきれいになっていますので「使いやすくなったね」というお声もいただいています。

テレビ電話やチャットを通じたコミュニケーションは、人と人が接続するだけの簡単なものに見えますが、その裏側にはお客さまのデータベースが構築され、社内で共有するためのネットワークや仕組みがあります。

スタッフの誰が見てもそのデータベースからお客さまの情報が確認でき、そこに新しい情報を入力すれば次のスタッフや新たに接触した人が、しっかりとお客さまを理解したうえでやり取りができるようになっています。

こうした仕組みを最近は「マーケティングオートメーション」という言い方もしますが、CRMのシステムの導入やそのオペレーションを、現場でどのように徹底させていくか。多くの企業がCRMのシステムを導入していますが、我々も然り、支店のスタッフ、コールセンターのスタッフ、Web運営者など、各現場の人間がしっかり理解して使っていかないと意味がありません。

CRMを活用したオペレーションを徹底していくうえで、新生銀行ではその活用状況を評価体系に組み込みました。ある意味、トップダウンでやっていかないとなかなか浸透は図られません。現在、CRMを活用したオペレーションが回り始めている状況ですが、導入後の浸透のためのサポート体制構築が非常に重要だと思います。

これは当然に導入側の企業だけではなかなか実現できません。外部の業者の方々との連携も成功していくうえでの秘訣になります。

3チーム30名体制で新生銀行のデジタルマーケティングを支援

西澤:ありがとうございます。2000年代の新生銀行の歴史からですね。清水さんからお話があったように、デジタル施策をやることが目的というよりは、おもてなしするためにデジタルをどう使っていくかという視点で、新生銀行さんは今もデジタルマーケティングを推進されているんですけれども。

その一部をメンバーズでもご支援させていただいております。今どういったことをしているのかを、僕から簡単にご紹介したいと思います。新生銀行さんに向けた我々のチームは30名ほどの体制で、今は常駐と東京の晴海本社や仙台(のスタッフ)を中心にチームを組んでいます。

チームは大きく3つあります。PDCAチーム、制作・運用チーム、MA運用チームということで、それぞれのビジネスゴールを目指しながら、3チームが一体となって運用することで新生銀行さんの裏側のデジタルマーケティングを支えています。

例えばPDCAチームですと、膝を突き合わせて、企画の部分から実装や検証の部分までを、メンバーズの社員が行員とかなり近い距離で一緒にやらせていただく機能を持っています。

あと制作・運用は、いわゆる金融系のWebサイトだと、やっぱり更新業務が多かったり、一部オペレーション的なものもすごく多いんです。僕らはそれを単純に運用するというよりは、どうやってコストを減らしていけるかということで、RPAを使ったり、お客さまと一緒になって業務プロセスそのものを改善して、「何パーセント削減しましょう」という目標を立てています。

メンバーズにとっては、その削減分はそのまま売上減になるんですけれども。それでもその部分で非効率だったらどんどんやめていこうという提案をさせていただいたりしています。

最終的なコンバージョンまで追える体制の構築

MAについては、新生銀行さんは先ほど名前の由来にもあったように、新しい顧客の提供価値を出していくところでかなり先進的な企業さんです。数年前にSalesforceの導入が決まったタイミングで、我々はインプリ(インプリメント:実装)ではなくて、そのあとの運用をきちんと回すための運用設計の部分でお手伝いに入っていました。

当時はまだSalesforceさんがきちんと運用されている企業さんは少なかったものですから、最初に立てた要件の時点で、まずシナリオ8本くらい回せるんじゃないかということで要件定義したんですけれども。

今考えるとそれもかなり無謀なチャレンジで、実際のSalesforceさんの運用要件や仕様をどんどん紐解いていくと、かなり難易度が高いプロジェクトになるということで、数年がかりでこの実装と運用設計のお手伝いをしました。

そのあと当然、運用していくためには新生銀行さんのCRMのデータがどうなっているのかと、CRMのデータをどう取るのかという設計をさせていただいています。

そのデータを最終的にSalesforce側にセットして、メール配信やWebサイトのほうでは「Rtoaster(アールトースター)」というツールを使ってレコメンドで配信しています。結局Salesforceさんは開封率とクリック率しか見られないので、その後のコンバージョンまで見るためにはBI(ビジネスインテリジェンス)ツールが必要になってきます。

そのBIツールをCRMとつないで、Salesforceとつないで、さらにRtoasterともつないで。このBIツールで一元的に最終的なコンバージョンまで追える体制を構築させていただいて。今ようやくPDCAが回るようになってきているのが現状でございます。

外貨預金デビュー者数が13パーセント増加した施策

直近で8本のシナリオのうちの1本の成果が出ていたので、ご紹介させていただきます。いわゆるWebで閲覧をしたユーザーに対するフォローアップ施策を、Salesforceの基盤を使ってやった事例です。

ユーザーさんがサイト上で外貨ページを見たけれども、結局なにもアクションをせずに帰っちゃったと。普通だったらこれはcookieデータしか取れないんですけれど。そこから顧客のデータを紐付けて、直接来店履歴のあるホットなお客さまにはテレアポをしています。履歴がないユーザーにはメール配信をして囲い込みをしていくことで、外貨預金のデビュー者数が13パーセント増加しています。そんな事例が作れています。

当たり前のようにやっていますが、これは実は裏側ではすごく難しい仕組みを実装しています。こういったことが普通にできるような運用体制をどう作っていくかが我々の価値の1つになると思っています。

あとはそういったチームを作っていくためにも、やっぱり僕ら自身がお客さまのこと、その先にいる顧客のことも知っていかなきゃいけない。これも同時に清水さんの発案でやらせていただいたんですけれども、お客さまとワンチームになるために熱海に合宿に行ったりしています。

ここでもう一度、あるべきお客さまの体験設計や、新生銀行さんの中期経営戦略のようなことを我々の社員や行員の方と一緒に再度レビューをさせていただいて。なんのために新生銀行という銀行が存在していて、何を目指していくのかを一緒になって考える機会をオフサイトで設けることで、さらに一体感が高まって。

これが先ほど言った、いわゆるきめ細かな運用やちょっとした気遣いや、ちょっとしたミスを防止していくところの細部の運用につながっているんじゃないかと思っていまして。

こういう取り組みを、新生銀行さんはじめ多くの企業さんと実際にやらせていただいたりしています。それがすごく我々のモチベーションにもなっていますし、成果につながっている1つの要因でもあるんじゃないのかなと感じています。

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