2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
提供:株式会社MESON
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水口哲也氏(以下、水口):豊田さんのほうで、大阪・関西万博でARの技術を含めてコモン・グラウンドの壮大な実験ができるとするじゃないですか。そうするとどういうことにチャレンジすべきとか、今、頭の中にどういうふうにしようというイメージがありますか?
ここにいる人たちって、もしかするとそのイメージを具現化できる人たちなんですよね。その可能性がある人たちなので。
豊田啓介氏(以下、豊田):たぶん、ここにいる方々が中心になって、多発していくんだと思うんですけど。
水口:そうそう。例えば「今ここなんだよね」という話って、言える範囲でなにかあれば。
豊田:僕が言える立場にないので……
(一同笑)
なんの根拠もないんですけれど、可能性としては死ぬほどあって、いっぱい出してはいるんですが。
小林:例えばさっきの、理想とするコモン・グラウンドや都市計画みたいなものがあるじゃないですか。その中で最初のワンステップとして、解体される前の建物をスキャンしたり、ARの中で家具を置いてみたりという話もあったんですけれど、次のステップとしてそのゴールに向かうためにどういうすればいいかとか。
豊田:何なんですかね。因果関係自体がシャッフルされる状態はすごく大事なんだろうと思っていて。今は言っても、事前にシミュレーションして失敗がないようにするとか、因果関係とか流れ、工程自体が従来と同じじゃないですか。
そうじゃなくて、あとになってから、その前の状態に戻ってものを変えることが、いろんな段階でできるようになっていく。社会の複合的な体験の在り方みたいな……。口で説明するのはちょっと(笑)。ただ、そういう可能性がたぶんいっぱいできていく気はしますね。
で、その枠組み自体があたらしいから、誰もその仕事や発注のしくみがつくれない。ニワトリとタマゴな状態なんです。僕らがいろんな場面で実装をかさねて、例えばARナビゲーションでもARアバターの身体ハックのアプリ化でもいいので、どういう技術と環境が必要で、それにはどの程度の予算と時間、どんなプレイヤーが入る必要があるのかとか、その効果はどういう形で見えてくるのかとか、そういうのが具体的に見えないと実装のための発注がされないわけです。それをみんなでまずは社会に見せてあげるしかないんじゃないかなと。
豊田:すごくベタな話で言うと、例えばライブ会場ってめっちゃ混みますよね。当然「このへんでコンサートをやっているから、こっちの道は混んでる。だからその混雑は避けたい」と思う。今だったら、例えばこっちの道に「ポケモンGO」のカイリューというモンスターを出しておけば、ポケモンクラスタの人はこっちに行ってくれる可能性がある。
また別の道では「レアなタマゴサンドが販売になります」ということになると、サンドイッチクラスタにそっちに流れるとか。
統計的にどういうクラスタの人がいるかがわかると、個々には自分の好みを積極的に追ってるだけなのに全体最適化がされていって、でも個別最適化もされていく。たぶん運営側の感覚からすると、そういうことができるわけです。それも因果関係を前後させる1つの技術みたいな。そういうものがいろんなスケールで必要になるのは間違いなくて。ただ、その枠組みとか予算とか必要な環境がわからないから、誰もそれを前提とした準備ができないんです。
水口:それってマップレベルのオペレーションシステム、OSとか……そういう統合をするなにかが必要になってくるイメージはありますか?
豊田:それがまさに僕がイメージするコモン・グラウンドというもので、例えばSLAM(Simultaneous Localization and Mapping:自己位置の推定と周辺のマッピングを同時に行って位置を測定する技術)。今だと一応、各エッジがSLAMを書いて、それを共有してデベロップするところは、各サービスやデベロッパーごとにやっちゃうじゃないですか。
でも、SLAMを書く作業ってめちゃくちゃ面倒くさいし、計算に時間を取るし。都度、差異だけでなく環境全体を計算するので。それを、実空間のデジタルツインデータみたいなものがあらかじめあって、そこに置いてあるオブジェクトの基本データもあって、基準点だけポイントで置いてあれば、その情報をこっちでダウンロードして、再生しながらその差異だけ取っていくほうが、断然計算が楽なはずなので。
それを各デベロッパーが個別に開発するよりは、もう「建物には必ずこの形式のデータがありますよ」と。その汎用データ環境をベースにそいつとの差異だけに特化して、コーヒーデリバリーマシン開発してもARナビ開発しても、どのメーカーもそれをベースにして開発できるとなった瞬間に、初めてコストなど含めた実装可能性が出てくるんだと思うんです。
というのは、LiDARとかどうしても高価なデバイスなので、それ積んで計算してバッテリーもみたいに全部エッジ側でやろうとすると、どうやっても製品の単価が落ちない。なにを共有化することでサービスとして必要なところに特化できるのか、という整理が社会としてできる汎用の高い領域って、たぶんいっぱいあるんだと思うんですね。
そしてそういうサービス側の情報と環境側の物の世界とをつなぐ専門性を持っているのは、建築業や都市の領域だと思うので。それが僕らのほうでできると、ARの開発をする人や自律走行エージェントを開発する人が、あるステップから開発を始められる。そのベースをどうやって作ったらいいのかということをみんなで急いで探索していく必要があるんだろうなと思いますね。
小林佑樹氏(以下、小林):まさにデジタル上のステージじゃないですけれど、どう提供したうえで各デベロッパーがそこにコンテンツを乗っけるか、というイメージですよね。
豊田:まさに。都市開発で言えば、森ビルさんのビルは、必ず全建物の照明の位置と家具がUnrealとUnityで提供されているんだけど、「三井不動産さんはUnrealだけなんだよね」となると不動産価値も変わってくると。
小林:ははは(笑)。そうすると、やっぱり公開しているデベロッパーさんというか、ユーザーのほうがコンテンツが乗ってくるから魅力も増える。
豊田:三菱地所さんは床にあのタイプのマーカーを絶対入れてくれてるんだけど、住友不動産さんは光学マーカーしか入れてくれないんだよね、みたいな。
水口:それで建物の資産価値が低くなるとかね。
豊田:ほんとにそれで変わってくると思いますね。
水口:「デジタルが弱いんだよね、あそこ~」みたいな。
小林:そういうステージを作ってコンテンツを乗せることは、わりと今は自由にできないんですか?
デジタルを乗せるとしても、さっき言っていた既得権益などをガチガチに固めている人たちにとっては見えないじゃないですか。だから、別に豊田さんが自分でデータを公開してデベロッパーさんを集めてやることが、可能性としてできるのかなと思って。
豊田:どうなるんですかね。もちろんやりたいんですけれど、とても僕らの企業体力で扱える規模でもないし、そもそも相応の場所もってないとそんなのやらせてもらえないですよね。だから僕らがとりあえず芸大のキャンパスでまずデジタル化をやったのは、芸大って誰も文句言わないじゃないですか。「アートです」って言っちゃえば、みんな「あ~、そうか」ってなりますからね。
小林:ははは(笑)。
豊田:でも、僕らがいきなり森ビルをスキャンしてそれで公開実験とかマネタイズとかしたら、森ビルさんに絶対怒られますからね。
水口:そう考えると、大阪万博は本当に実験してもなんでもオッケーな感じで。
小林:そうそう。それこそ、日本のデベロッパーが海外のデベロッパーに公開して、「ここにコンテンツを乗せてください」と言ったら、それはそれでおもしろいことができるかなと思って。
各ピースのARデベロッパーはすごくおもしろいものを作っているけれど、それを統合して、さっき言ったみたいなステージにプラットフォームを作ってあげて、コンテンツを乗せる場を提供してあげる人が、やっぱりまだ日本では少ないのかなと。
豊田:日産もトヨタもホンダも、(自動運転のために)自分たちで道路をつくれるわけじゃない。道路は公共で提供してるけど、それは既存の車のために特化してるからやっぱり自律走行は難しい。自律走行に適合したデータとセンサーの組み合わせの汎用モデルを開発して一定エリアの道路は必ずそのデータ形式に適合しているとか、その状況を早く作ってあげなきゃいけないんだろうなと思うんですけど。
水口:あとは人も当然都市の一部になっているわけで、例えば人事PRというか、万博の中に遊びに行くということは、「自分の個人情報を使って実験をしてもいいですよ」という心構えで行く可能性もありますよね。
万博の期間は実験でもあります。「顔は認識しますよ」とか。
豊田:それもチケットプライスに影響すると思うんですよ。段階的にあって、A段階しか個人情報提供しない人は1万円なんだけど、Cまで提供する人は8,000円みたいな。そうなるんじゃないかなと。
水口:いろんな意味でセキュリティもそうだし、チケット、ゾーニングとか。いろいろいいことはありますよね。ただ、今それをやろうとすると……なんだか一大事だなって(笑)。
小林:ははは(笑)。
豊田:でもその基本モデル、誰かが早急に提示してあげないと、2025年に実装できないんです。
豊田:そういう文脈は世界のITジャイアントたちは明確に理解していて、GoogleにしてもAlibabaにしても、いわゆるスマートシティ実装をしようとしている。たぶんそういう絵を描いて、トロントの湾岸開発をしようとしたり。Alibabaが杭州を全部デジタル化したりしているんですけど。
まさに今面白いのは、Googleがトロントの再開発案を発表しているのに、市民の反対がすごくなってきてるじゃないですか。市民の反発で、Googleが次の発表がなにもできない状況になり始めていて。
技術的に「ITジャイアントじゃなきゃスマートな開発ができない」とか、資金的に難しいとかいろんなものがあったのに対して、結局資金と技術があったとしても、ソーシャルな反発に対してちゃんと安全や安心を提供できない限りは社会実験ができないという、ソーシャルリスクという新しい要因が急速に大きくなってきている。
でも、今の社会的プラットフォームを商品として実装するには、仮免許実習的に社会実験しないと予想値とのパラメーターや関数の正しさをキャリブレーションできない。結局そこで、社会実装を都市レベルでやらないと本当の社会サービスが実装できないっていう、そういった開発の段階に社会がなってきたと思うんですけど。
そのために、いろんなITジャイアントが街ごと買うという流れになってきている。それでも中国であれば、ある程度できると思うんだけど、それは中国外で使えないものになるし、アメリカとかでやると市民に反対されちゃうと。
それに対して、万博ってまず住民がいないじゃないですか。そして半年だけで全部壊しちゃうし、しくみは単一企業ではありえないから絶対にオープンだし。そういう意味でもGoogleにもAlibabaですら不可能な、半年間限定の実験都市を建設していろんなユーザー集まってみんなで実験のノウハウやデータをシェアする、そんな実験都市を日本で作るなんて、万博っていう機会以外でどう考えてもあり得ないじゃないですか。
万博だと、社会的コンセンサスがある前提でちょうど2025年っていう最高のタイミングに仮設実験都市を作って、「データとノウハウをみんなで共有して、そのあとみんな壊すから後腐れなしよ」と言える。そう考えてみると冗談みたいに理想的な状況ですよね。それをちゃんと使わないとなぁと思って。
水口:こういう実験を通過するかしないかで、その先の日本の未来が変わると。
小林:違ってくると思いますよ。豊田さんにかかっていますよ(笑)。
豊田:いろんな人がいるから僕は関われないかも……(笑)。
小林:逆に、そういう理想的な実験の場を提供しようと試みている中で、今日はちょうどARデベロッパーが集まっているんですけれども、豊田さんがその方たちに期待することは何なんですかね?
豊田:どんどん個別の開発を進めて与件を洗い出してもらうことと、その上でやっぱり共通の環境側プラットフォームがいるんだという声をあげてもらうこと。むしろ今は、最先端の技術は個人にあったりするじゃないですか。それはすごくいい状態なんだと思うんですけど、ある程度束ねて集まらないと、やっぱり社会実証実験はできないですし。
そういうものを見る視点というか、スケール感みたいなのをちゃんと肌感で持って、国なのか企業なのかわからないですけど、そちらに関しての要求をしないといけないんだろうなって。それってすごく実装の整備をする側からは見えにくいものでもあるから。
僕らの場合は建築や都市の側からそういうものを顕在化させて、「ここがニーズなんだよ」と見せる。そういう動きを作る役割なのかなと思ってます。音とかゲームとか、いろんなところにたぶん可能性あるんだと思うんですよね。
小林:ちなみに今回は建築学生の方も来ていますけれども、逆に建築学生や建築家の方にとって期待することとかはありますか?
豊田:これまでのいわゆる建築学という価値のフレームを1回外してみようよ、ということはすごく思いますね。
小林:なるほど。先ほどのUnrealで作ってみるとかですね。
豊田:プログラミング自体も建築と言えば建築ですし、音を作ることも建築だし。ある次元の情報を組み合わせて構造化や価値化をすることは、すごく高次な建築ですから。その次元の入り口やアウトプット、道具立てが、XYZの次元だけで閉じている必然性ってぜんぜんないわけじゃないですか。
その組み合わせの自由度をいろいろ試してみた中で、自分の得意な次元領域がどこなのかを見るくらいの感覚は持っててほしいなというか。今だとやっぱりなんらかのデジタルな技術にならざるを得ないので、そこへのアレルギーをなくしてほしいなと思いますね。
小林:VR Chatの中で建築を作る人が増えているじゃないですか。xR Archiみたいなコミュニティも盛り上がってますよね。ああいうコミュニティに入るとか、コミュニティを知ることはけっこう大事だなと思っています。
豊田:それは大事だと思います。あのあたりって、(デジタルに)すごく強い人がめっちゃ集まってるじゃないですか。そういう人たちと日常的に会話することで、自分の成長曲線が明らかに変わるので。こういうところにどんどん入っていくことはすごく大事だと思います。
小林:水口さんの観点から見て、同業者もそうですし、水口さん自身が大阪万博に対して期待することは何かありますか?
水口:ARに絡めてという感じですよね?
小林:まあ、そうですね。
水口:豊田さんとはぜんぜん違う立場で、今までにまったくない共感覚的な体験の創出はなにかしたいなと思いましたね。
例えば何十年か前に大阪万博があったときに、それにすごく影響を受けた当時の子どもたちや若い人たちって、結果的にそのあとの日本経済を作ったような気がするので。きっとなにか大きなショックというか、体験があったと思うんですよね。昔じゃ考えられないような。
僕はやっぱり共感覚的な体験の時代が来ると信じている1人なので、そういうことを提示したいなと思いますよね。
小林:「共感覚を大阪万博にインストールする」というのは、例えばどういうものが考えられるんですかね?
水口:もちろん、さっきの触覚的なものとの融合もあると思う。例えば、よくパビリオンなどに行くと、今だったらこういう四角い映像があって、そこに向かってみんなが座って、せいぜい風が吹いて、音響が3Dだったりするくらいじゃないですか。
だけど、まったくシームレスで、フレームがなくて、すべてが3Dで。本当にそこにあるかのような体験のエンターテインメントやアートって、たぶん6年後には実現できると思うんですよね。それをやってしまえば、5Gなのか6G……まだ5Gかな。5Gで世界中とつながってるところもできるわけじゃないですか。
ということは、ここにいるようだけど、触るといないという衝撃が、おそらく6年後はできているから。そこから考えられるものってすごくたくさんありますよね。
小林:確かに、確かに。その1つとして、先ほど体験していただいたnrealなども可能性はけっこう感じられたかなと思うんですけど。
豊田:そうですね。僕らも入り口として、やっぱりエンタメから入ることが多くて。エンタメとしてまず場のスキャンをしてしまって、スキャンがある前提でできるインタラクションとか。
例えば仮に「これができたら」という一つのお題でやれるものって、いっぱいあるじゃないですか。その1個をやるだけでも、できそうなプラスアルファのエンタメや価値観、ユーザーの拡大ということはすごくいっぱいあるので。
そういうのって、今後もっともっと仮定的に思考実験をしていって、それができるんだったらこんなこともできるということをベースに、技術だけを求めていくとか、これだけ開発すればいいというんじゃなくて、もう少し大きい視点で開く。
そういう具体例増やしていくと、プラットフォームの枠組みつくる人たちもああそういうことか、と先回りして準備始めてくれると思うんです。そういう小さい実装事例、積み重ねていきたいですよね。
小林:最近クラウドファンディングもされているじゃないですか。それって、一種の仲間を集めるという手法ですよね。
豊田:それはあるかもしれない。領域がどんどん広がっていて、僕らだけの専門性でカバーできるものじゃなくなってるじゃないですか。その領域の専門家に興味を持ってもらって、集まってもらうにはどうしたらいいか、ということはあって。なにをやるにしても、簡単に人を採れないようになってきてるから。
小林:なるほど。水口さんの会社って、今は社員さんがいなくてという感じですよね。いろんなノウハウを持った方をどう集めているんでしょうか?
水口:うちは社員がいないというよりも、社員を希望する人間がいないということかもしれないですね。ぜんぜんこだわってないんですよ。社員になりたい人がいれば考えるけど、ほとんどが自営業というか、個人の集まりみたいになっちゃったんですよね。そのほうがみんなモチベーションが非常に高いし。
豊田:自分のやりたいこともできるし。
水口:ただ、コミットメントがすごく大事で。あるプロジェクトとかある目的に向かって、みんなでそれを成功させるということさえちゃんとできていれば、別にどこにいようがどういう立場で仕事しようが、基本的には関係ないですよね。
それができる環境が最近すごくできてきたというか。国も関係ないし、あるのは時差だけという状況にどんどんなってきている気がするんですよね。ますますこうなるので、そう考えると……例えばブロックチェーンみたいなものを使えば、きっと自分の働き方も全部自分で管理できる。それでマネジメントできると。
マネージャーがいなくなるって、すごくいいことだと思っていて。何と言うか、例えばクリエイティブの現場でマネジメントする人って、ちょっとクリエイティブとは違う感じのことをやるわけじゃないですか。
そうすると、クリエイティブの人たちからけっこう文句言われて、すごくストレスだと思うんですよ。いつもかわいそうだと思うので。「マネージャーやってくれる?」と言うのは、その人に対して申し訳ないなっていう気持ちがずっとあって。
一番いいのは全員が全員でマネジメントできることで、どんなに大きい組織でもそれができればみんないいわけで。そうすると、マネージャーに払っているお金もみんなで分配すればいい。
そうすることで「みんな、自分でマネージャーやれる?」「オッケー」「その分、みんなにお金払うからちゃんとやってね」というほうが効率は絶対にいいですよね。
小林:各セッションを通してお話ししましたけれども、AR/VRでは、けっこういろんな業種、異業種の人とコラボできる方法が大事になってくると思っていて。
豊田:流動性やフレキシビリティーはすごく大事ですからね。イチゼロのコミットじゃないじゃないですか。時間なのか能力なのかわからないですけれど、自分の切り方というか編集で、リアルタイムに変動しながらできる体制って、どうしても大事になるので。
今の普通の企業の体制って、それを許容しないじゃないですか。大企業はすごい人材が眠って……眠ってないけど!(笑)。眠ってないんですけど、ある意味囲い込まれてる。あの人たちが流動化された瞬間に、社会の能力はすごく変わるのになと思います。
水口:そうなんだよな~。ただ実は、例えばxR業界でユニオン的なものを作ったらどうだろうという話で、この前盛り上がったんですよ。
会社に属しているかフリーランスで契約しているかわからないけど、副業オッケーのところもたくさんあるわけだから。その人たちのリソースが、例えば「MESONでこれからこんなプロジェクトを始めるよ、豊田さん」となったときに、「その10パーセントでもいいから手伝わせてくれ」「手伝いたい」というのが、すごくわかりにくい。
だけど、就職系の会社がどんどん盛り上がっていて、すごく売上を上げているのは、要するにそこが30パーセントとかマージンを取るわけじゃないですか。
それはそれで今はいいんだけど、もっと速い動きで人がつながって流れたりすると、こっちで経験積んで、今度はあっち側で別の経験を積んでと、どんどん業界全体が経験を得ていく状況になるとおっしゃっていて。それができたらいいよねって、この前盛り上がってたんです。
小林:そういうコミュニティができたらいいですよね。
豊田:企業なのか趣味なのか、一緒にやっているだけなのか、本当にプロジェクトをやっているのか。そのへんがグラデーショナルになってくるほうが、いろんなものが生み出せたりしますよね。
小林:建築業界は今ってどうなんですか?
豊田:めっちゃガチガチですよ。
小林:ガチガチ(笑)。
豊田:ゼネコンのいわゆる大手5社ってあるじゃないですか。僕がよく「早く潰れろ」って言って、いろんな人に怒られるんですけど。
(会場笑)
ぶっちゃけて言いますけど、1億2,000万人の人口が今後8,000万人とかになると、単純に5分の4以下になるわけで、経済的にも勢い堕ちるからマーケットはもっとシュリンクしますよね。となると、5社のうち1〜2社は比例でいくと潰れなきゃおかしいわけじゃないですか。
でも、今の体制を維持もしながらデジタルコンストラクションとかAI実装とか、いろんな技術をやらなきゃいけない。たぶん今のゼネコンで内部からそれに移行するのって、今のままじゃ絶対無理だと思う。守るものが変化に対して大きすぎるから。
だったら早く潰れてしまうことで、人材が流動化して、新しいベンチャーに今の技術を持っている人が集まってきたり、そういう人材が例えばGoogleコンストラクションみたいな新世代の建設会社に移ったり。そういうことが早めに起きたほうが、業態としては健康な気がしていて。だから、大手5社のうちの2社くらいが早く潰れてくれるといいな~、みたいな。
小林:一応、今オンラインですからね(笑)。
(会場笑)
小林:ありがとうございます。そろそろお時間なので、ここからはみなさんからいただいた質問にいくつか答えていければと思っています。
まずは「仮想空間で、より自由で魅力的な場所が提供されるようになったときに、建築という制約の多い空間に何が求められると思いますか?」という質問なんですけれども。こちらはいかがでしょう?
豊田:仮想空間と実空間の連動という意味で行くと、それこそ自律走行で走るとか、そういう複数のサービスのうち、ある程度共通するような必要なスケール感はたぶん見えてくるんだと思うので。
それを早めに洗い出してあげて、20メートルごとに置いてあるマーカーなのか、壁が全部マットな感じで白くなっているのかわからないですけど、そういうものがたぶん複数出てくると思うので。そういうのを早めに物理的に洗い出さなきゃいけないなと、実務としては感じています。
小林:なるほど。先ほどの資料でゲームエンジンとか、ゲームのアバターじゃないですけど、そういったものを使ってシミュレーションする話もあったと思いますが。
豊田:まずデジタル化するということが、なにをやるにしても大前提です。位置空間と情報がほぼ合致している状態にするのは当然そうですし、そっちでシミュレーションするから実空間でのスキャンなり計算がなくてもいい状態を早く作ることは、なにをやるにしても大前提ですね。
それが、BIMみたいな設計データを変換したものと、もうできているものをスキャンしてくるものと、その両方のシームレス化というのは、まだ意外にできないじゃないですか。点群をゲームエンジンに持っていくのは、属性データが作れないし、フレーム問題が入ってきちゃうので。
「ここまでが壁で、この線からこっちが床である」ということは、今はできないですよね。それを早く作ることをたぶんやらなきゃいけないんだろうなと。いろいろな課題は明確には見えてきています。
水口:僕はちょっと不思議な気がしているというか。建築の世界って、なんでUnityなどを使わずにUnrealを使ってるんですか?
豊田:いや、僕らは一応両方使うんですけどね。でも、そんなに違いはない気がしますね。むしろ使っている人が極端に少ないくらいで。
小林:今日もけっこうUnityの方多いと思いますけども。
豊田:どっちかスポンサー入ってる?(笑)。
小林:スポンサーはないです(笑)。
豊田:うちはUnrealが多いですね。
小林:そうなんですね。建築でUnrealが多いという意味ではなくて、豊田さんの周りにUnrealが多い?
豊田:これは全体の傾向なのかなぁ。あんまり建築の中にゲームエンジンを使うという流行というか、傾向自体がまだできてない。そこに至っていないのがむしろ問題というか。
水口:なんとなくわかる気もするんだけど。うちも実はUnrealをけっこう使っているんですが、レンダリングの質感の雰囲気などがちょっと違うので、確かに建築に向いているというか。建築やっている人が好きそうな要素がいろいろあります。
豊田:たぶんこれから、自律走行のためのプラットフォーム化のようなところになっていくと、結局今のNVIDIAなどのプラットフォームベースでいくと、仮想空間としてのマッチアップを提供しているのがUnrealかUnityのどっちかだけじゃないですか。
そこにあんまり差がなさそうなので、たぶん二本立てで進んでいくんだろうなと思っていて。三菱地所と森ビルはUnrealだけど、三井不動と住友不動産はUnityだ、みたいな。ベータとVHSみたいな話になるのか、むしろマルチであることが大事なんだというふうになるのかは、ちょっと興味があるなというところです。
小林:デベロッパーさんも早めにUnityとかUnrealとか、そういった対応をしてもらいたいですよね。
豊田:はい。家具メーカーとかだってUnityとUnrealの3Dモデルをアップしないと、市場に流通しないということがたぶん相場になるので。それでデータが出ていることで、どこに行ってもARアプリで認識すれば、これがどこにあるかわかる。そういう状態をどこかの会社が早く作っちゃえば、一気に潮目が変わる。
小林:まさに「LOWYA(ロウヤ)」という家具のECサイトをやっている方は、家具の3Dモデルを作って、それを活用するためにWebでフィットするか確認できる、家具の試し売りができるアプリケーションを作ったという。
3Dモデルからそうなっていったので、先に3Dモデルやアセットを作ることはけっこう大事だなと思うんですね。
豊田:レンダリング向けのモデルとか、ある程度流通しはじめてますけどね。企業やメーカー側が商品を流通させる前提で、カタログを基本データとしてメーカー側が早くやっていくと、そういうものが前提としてあるだけじゃなくて、常識ができてくると。多分今後実社会の写真からの製品検索とかAIベースでやるとかいうことになると、より3Dモデルが事前にあるかどうかとか重要になっていく気がします。
小林:そういう意味で言うと、3Dモデル自体を作れる企業がまだ少ないのも問題なのかもしれないですね。
豊田:精度などの問題ですけれど、たぶんiPhoneのアプリに取り入れるのであれば、数年内にできるとなると、そういうものを前提にした流通経路が必要になる。
BIMって本来そういうものなんですけれど、すべてのデータがマーケット上に3Dデータであって、属性データも全部入っているものがあるから初めて大手企業も個人も関係なく機能する。それなのに、いまだに企業内でカスタマイズして閉鎖的に使っているので、そこがすごくもったいないなと思います。
水口:ちょっと違う角度からの質問なんですけど。例えば自然のもの……木とかって、建築や都市設計的にはどうなんですかね?
この前、実はハワイでおもしろいものを見て。ハワイ島でコアの木という、もともとハワイ島に生えていた木が乱伐されて、輸出されてそれがお金になった時代があって。今はハゲ山みたいになって、ぜんぜん違う種の木が生えてしまって、ハワイのローカルの人たちがまたコアの木を増やすために、観光客に20ドルで苗木を売るんですよ。
そこにタグが付いていて、そのタグが根本に埋め込まれるんですよ。そうするとネット上で自分の木の場所を確認できるというものをやっていました。
つまり、自分が植えた木とのエンゲージメントをすごく満たすことに成功して、ものすごくお金が集まって、どんどん盛り上がって大きくなっている状況があって、すごくおもしろいなと思ったんですよね。
これがたぶんARになってくると、目に見えるわけじゃないですか。なんだかそういうイメージとかあります? 都市の中にどういう印象の公園とか緑があるか、そういうものさえも都市の一部ですよね。
豊田:例えば携帯電話が出始めたときって、人前で携帯でしゃべるってめっちゃマナーが悪いと言われていた。それがスマホになった今も「マナー悪い」とか、まだみんながやってたら、おもしろくないじゃないですか。
つまり、みんなが離散的に今ここにいるんだけど……みなさんもたぶん話を聞きながら、30パーセントくらいの人はメールチェックをしたりTwitterをしたり、ほかのところに存在してるわけですよね。
そういう存在と、社会とのコミットメントが物理的に距離的に離散的になっていくのがどんどん加速していく前提になったときに、ストーリーをどこのレイヤーでどう取っているかと言うと、たぶん普通にマルチに取っている状態になるんだと思っていて。
そうなったときに、どういうストーリーに持っていくかという「ストーリーの作り方」という視点で考えると、場所とかモノが持ってる情報量ってやっぱり圧倒的じゃないですか。匂いとか歴史的なつながりとか。
水口:時間ですよね。過去の時間も含めて。
豊田:そこが結局、デジタルにすべてをデザインするよりは……この前、都城の解体されてしまう市民ホールを3Dスキャンをしたときもすごいコンテンツ力だなと思ったのは、やっぱりあそこにリアルなストーリーが存在したという事実があるから。それはやっぱり否定できないので。
場所ならではの特性とか、いろんな人が関わった属性とか、ものとして存在している情報として書ききれない強さみたいなものの価値って、デジタル化が進めば進むほどむしろ強くなっていくんだと思うんです。
水口:そうですよね。僕らはまだ積み重ねがないけど、30年後の僕らの次の人たちは、その30年間の蓄積を存分に得られるということですよね。
豊田:物理的な、ある属性を持った塊が、物理的な環境の中になくてもいいわけじゃないですか。そいつを好きなレイヤーと好きな距離のところに置いておいて、そいつとの関係性は自由に持てるけど、そのコンテンツ対象自体はすごく物理的という。その編集の仕方は、たぶん、これまでとこの先とでだいぶ変わってくるだろうなと思います。
小林:おもしろいのは、デジタルを突き詰めると人間的になるところだと思っています。例えばその木だって、木と心のつながりみたいなものを感じて、デジタルであるはずなのに人間味が入ってるじゃないですか。そういうのがおもしろいなと。
水口:だからきっと、今日のARISEの冒頭でも小林さんが言っていたけれど、非常に日本的な感性というか、日本の中に眠っているなにかの感性がすごく役に立つような気がする。チャンスがあるというか。そういう話ですよね。
小林:そうですね。あると思います。
豊田:結局、すごく高次元な情報を、僕らはある塊としてしか把握しようがない。それに属性と対象としての認識を与えるために、身体性というものを持たせないとコミュニケーションができないじゃないですか。そこがすごくおもしろくて。
そっちを極めていくと、結局自分の認識も相手との認識をするのも、身体性や物質性を持たないといけない。そういうところで振り戻しが来るんだなと思います。
小林:なるほど。ありがとうございます。もっと話したいんですけど、お時間が来てしまいましたので、すみませんがここで締めさせていただきます。本当に今日はおもしろかったです。みなさん改めて拍手をお願いします。
(会場拍手)
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