2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
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水口哲也氏(以下、水口):当然ですけど、最初頭の中にあるイメージって、3Dからスタートするわけですよね?
豊田啓介氏(以下、豊田):どうなんですかね? 最近、そういう工程的な入り方にも複数のモデルが……工程的なもの、メタモデルもあって、形のイメージもあって。
そもそも、先ほどのRez Infiniteじゃないですけど、かたちにならないモワッとした雰囲気のようなものとして、こういう雰囲気を作りたいというところから工程をデザインするときもあるし、テクノロジーがきっかけになるときもあるし、かたちのイメージをするときもある。もっとメタなものからスタートしている感じはありますね。
水口:その過程で、やっぱり1回は2次元の建築図面に起こすというのは……どうなんですか?
豊田:もちろんそれで整理されることも多いんですけど、それしか手段がないっていうのはやっぱり不自然だと思うんですね。これまでは紙しかないから当然それでしかやれないと思っていたんですけど、建築界はそれが正解だという固定概念に、あまりにも縛られすぎているんです。仮に紙以外に、高次元のものは高次元のままで伝えられる手段があるんだったら、ミケランジェロだって当然それをがっつり試していたと思うんですよ。
「これまでの評価軸はそうだった」という理由だけで、「それは正解だ、それ以外は不正解だ」というようなことを言うのはナンセンスだよな、って。新しいテクノロジーの面白いのは、やっているうちにだんだん自分の常識のほうが溶けていくんです。やらなければわからないので。
水口:実際に建築や都市設計の世界で、ARとかMRの使用事例はどれくらいあるんでしょうね?
豊田:実務的にはけっこうまだベタなところで、それこそ家具を置いてみて寸法が入るかどうかというところに使うとか。そういう、普通の人がわかりやすいものからですよね。建売住宅で、できたときの壁紙の色をどうしようみたいなね。
僕らもまだ慣れるつもりで、この前Unreal Engine 4(高性能なゲームエンジンで、建築業界ではVRを用いたビジュアライゼーションなどに活用されている)だけを使って、住宅の設計を全部やってみたりしたんですけど。
小林佑樹氏(以下、小林):へ~!
水口:すごいですね。
豊田:BIM(Building Information Modeling:初期段階にバーチャル上で建物の構築を行うことで、設計や施工のミスと工数を減らすことができるソフトウェア)やCADを使うのが建築業界では普通なんですが、まだゲームエンジンで設計をというのはほとんどないと思います。いろんな確認やシェアがVRゴーグルだけでほぼできるという。
水口:BIM・CADかUnrealっておっしゃいましたっけ?
豊田:原則はUnrealの中だけで作ったりとかもやっていて。それはそれでやっぱりおもしろくて。ライブラリとかすごいじゃないですか。あと光のシミュレーションとかも。建築でやってると、図面と3Dを立ち上げてから光シミュレーション用のものにわざわざ移して、光学的に厳密にやったりするんですけど。現実的な間隔としてはUnrealのシミュレーターでも十分なので。
むしろこれでやっていたときの光の入り方とか、素材のシミュレーションがリアルすぎるんです。普通建築やってて仕上がったときの最後のうれしいことって、施主にお披露目して「うわ~、やっぱりできるとすごいですね!」という褒め言葉なのに、(建物が)できてみんなで入るとみんなの感動のツボが「うわ~、まったく同じっすね~」っていう。
(会場笑)
そこだけ建築家としてはちょっと微妙な(笑)。それくらいリアルでした。
小林:それは微妙なんですか? 感覚として僕らや豊田さんたちがもともと慣れてるだけで、実はそれが正しいかたちというわけじゃないんですか?
豊田:僕らとしてはやっぱり、デジタル上でできたもの以上のものを加味しているつもりなので。やっぱり「できたら違うよね」と言いたかったんですけど。「すっごい! そのままじゃない?」というのは、ちょっと微妙な気がします(笑)。
小林:なるほど(笑)。
水口:ここからの話って、例えば建築図面から作る前にシミュレーションするとか、その中で建築(の図面)を起こすという話なので、たぶん今日小林さんや僕が話したいテーマなんですよね。そこから先は、「要するに都市とか建築って一体何だ?」というような話になってくるわけじゃないですか。
水口:この前、小林さんと僕で「おもしろいね」というふうに読ませていただいたWIREDの特集記事の中で、大阪万博のことにも触れられてますよね。これからの都市って、コモン・グラウンド……要するに「共通化」していく必要があるよねと。
この共通化って結局、情報やデータというものも建築の一部として……一部というか建築として取り込むという考え方ですよね。
豊田:僕はそう思っています。
水口:それって、たぶん今までの建築家は誰も発想しなかった……いや、できなかった話だと思うんですよね。そういうものがなかったという前提で都市が作られてきたわけだから。
デジタルとアナログとか、触れるタンジブルなものと触れないインタンジブルな情報なども含めて、全体として「それが都市である」とか「建築である」という。こういうことを言っているのがすごくかっこいい。すごいところにきてるなというか。
小林:そうですね。
豊田:デザイナーとしてはそこは微妙なところでもあって。もちろん、なにをもって「デザイナー」と言うかの定義次第なんですけれども。
例えば、よくレクチャーなどでも言うのは、今は新しいビジネスの世界があって、それに応じた都市とか環境をデザインしなきゃいけない。今のビジネスの最先端で言うと、やっぱり情報プラットフォーマーが出てきて……という話の先に、UberやAirbnbみたいなものが出てくる。
Uberは、要はタクシーという固定された物理的なパイを、乗用車でもタクシーでも定義次第でいくらでも変えられるように、離散化したり流動化するわけじゃないですか。あれが最先端のデザインですよね。
Airbnbがホテルという固定されたパイを流動化して離散化して、WeWorkがオフィスを同じようにしていくと、最先端の連中が扱っている次元って、もはや空間次元じゃなくなっちゃってるわけですよね。
ポイントは、Uberはタクシーのデザインを変えることを求めないないですし、Airbnbもホテルのデザインは変えないですし。そうなってくると、そっちに行けば行くほど……僕らもそっちにコミットするんですけど、新しい価値をだすための勝負領域が、いわゆるかたちのデザインである必然性が相対的に小さくなっていく傾向あるんです。旧来のデザイナーの立場としてはどんどん微妙な感じにはなっています。
でもたぶん、今の時代の価値を扱おうとすると、それこそ高次元化していくので。XYZの3つの選択肢以外のところに、ものすごく価値のある次元ができてきて、こっちに社会的なデザイン価値が出るとなると「むしろここは扱わないのが正解」という選択というか、デザインもできてくると思っていて。
小林:さっきの「一種の社会システムをデザインする」というのとは違うんですか?
豊田:そこはたぶん境界が曖昧になっていると思うんですね。さっきお見せした腕のない方が、自分のどこを拡張するかという感じで。
僕らがこれまで「建築というもので扱う領域や次元はここです」と、それ以外と明確に白黒をつけていましたが、外にも広がっていくし、外からも建築に入ってくるように、どんどん離散化、流動化していくみたいな。
なにをもって建築家と言うのかが、本当に場合と定義次第でどうとでも取れちゃうような感じです。
水口:よくソフトウェアの業界でも「アーキテクチャ」と言いますからね。
小林:確かにそうですね。
水口:いろんなものがアーキテクチャに、総合的になるんだろうなって。それこそ「音のアーキテクチャを都市の中で実装しよう」という考え方の方もいらっしゃるし。そうなりますよね。きっとみんなそれぞれが、nrealやMagic Leapみたいなものを普通につけて街を歩く時代は、10年後には絶対実現してるじゃないですか。
豊田:たぶん10年もかからないですよね。
水口:10年後は、きっとみんな普通にかけていますよね。このカンファレンスなんかでもみんながかけていて、こういう(張り紙やスクリーンを指差す)二次元を見て「懐かしいね」とか言ってるわけじゃないですか。
豊田:「物理的に集まるしかなかったんだよね、昔は」みたいな。
水口:昔は1人とか何人かと対面して、どういう関係で座ったのかということを懐かしく感じちゃうと思うんですよ。
小林:確かに、確かに。
水口:人が真ん中にいて、みんなが周りを囲んでるとか。そんないろんな形態が出てきちゃうわけで、あらゆるものが変化していくと思うんですよ。
水口:そういうことが当たり前になった時代において、そのときのアーキテクチャはどうなっていると思います? また、どうしたいと思っています?
豊田:その領域が例えばゲームであるのか、音楽という領域なのか、建築なのか。呼び方だって、どう呼んでもいいものになってるんだと思うんです。
その専門性が、高次元の領域の中で、物理的な建築的なものを扱う周辺が得意な人、音的な領域がすごく得意な人など、そういうシームレスな専門性の組み合わせとバランスになっていくんだと思っています。
チームの組み方で、「これは音と物理環境に特化したアルゴリズムが必要だ」みたいな。職業の表現自体がすごく難しくなっていくんだろうなと思います。
それが物理空間に入ってもいいし、食べるものが入ってもいいし、匂いが入ってもいい。その組み合わせって、本当に無限に出てくるじゃないですか。専門性っていう概念も今はいかに一つの領域に深くスパイクするかですが、多領域の繋ぎ方とかその組み合わせの仕方もまたその人のエッジというか、一つの専門性になるんじゃないかと。
小林:僕らはよくARクラウドという話をするんですけど、あれはいわゆる人間側から見たデジタルな空間みたいなものを考えていて。コモングラウンド(街のデータをデジタル記述した都市のコピーに、AIやロボット、自立走行マシンといったデジタルエージェントに現実世界を認識させる仕組みを取り込むこと)って、それにプラスして機械から見たリアルの話とかも含んだ概念じゃないですか。
そうなったときに、コモングラウンドとか豊田さんがおっしゃってるお話とかって、けっこう機械からの視点というか、ロボティクスから見た都市みたいなものまで含まれているのかなと思っていて。
コモングラウンドを掘り下げていくときに思うのが、建築の中でデジタル情報というものがいわゆるマテリアルみたいなものになっていくのかどうかって、ちょっとお聞きしたいなと思います。
今まで壁というもので建築を作っていたけれども、例えば20世紀だったらコンクリートが多かったわけじゃないですか。でも、その中で、21世紀後半とか22世紀になったときに、実はデジタルな壁ができるような話とか、デジタル情報に寄った建築みたいなものができてくるのか。コモングラウンドの先としてお聞きしたいなと思います。
豊田:たぶん双方向なんですけれど。今は物理側が100パーセントだということに対して、例えば自律走行が前提の街は、100パーセント自律走行になるなら、むしろ電子的な航路が定義できちゃうじゃないですか。ラッシュアワーだけは道が広がったり、ある特定のときだけこっちに道が分岐したりできちゃう。
小林:一種の生物みたいな感じですよね。
豊田:僕らはアメーバ道路と読んでるんですが、そういうのが合理的になる世界では物理的な境界は、むしろあっちゃいけないということになるんです。縁石があって歩道があると、そういう制御の自由度を制限してしまうから。できるだけフラットでフレキシブルであるほうが、電子制御がしやすい。道ってだんだんそうなっていくんじゃないかと。
それでいくと、土地の所有とかも、物理的にゼロイチで固定されてないほうが、そういう社会と相性がいいみたいな話になっていくはずなので。その制御系がどんどん電子的で動的になっていくほうが、今のゼロイチで固定された、物理側に寄っているものに大して増えていくはずです。
ただ、たぶんコンピューティングの能力って、どうあがいたって物理的な全情報をすべて網羅することは原理的に無理じゃないですか。ある程度は一般解というか、制御の価値観が決まっている領域の中では、むしろリザバーコンピューティングというか、物理コンピューティングみたいな、ある系を一つの物質として扱うみたいな新しい単純化のかたちも重要になってくると思うんですよね
ある物に計算させちゃうことで、そこに対しては全部因果関係を計算しなくても、「もうちょっとマクロな因果関係を計算させちゃえ」ということをやらないと、都市とか社会ってそれ自体圧倒的な複雑系なので、全部を同じ密度で計算しようとしてもたぶん現実的な制御できないんだと思うので。
そういった特殊領域はすごくいっぱいあって。もう物の統計的な定常的な挙動がある前提で、そいつに計算させろみたいな。だから「デジタルな計算は物にさせろ」という方向へ戻ってくる部分もあるだろうなと思っていて。そういう領域とかスケールを社会的に探るみたいな、そういう研究がもっと必要何だろうと思うんです。
小林:なるほど。そういったものを実現するためには、いわゆる「Unrealで建物を建ててみる」という話もあったように、建築や都市を作るうえでの工程も変わっていかなきゃいけないということですか?
豊田:今のところ、まず物は物、デジタルはデジタルって分かれすぎちゃっているので。それがどれだけ重ねられて、どの情報がどっち側にシームレスに持っていけるのか。どの情報はつなぐのが苦手なのかというノウハウをまず作って、その解像度を上げていくことからしか始まらないんだろうなと思っています。でもその可能性はあまりにも多様で。
「コモングラウンドをまず作りましょうよ」という呼びかけをしているのはそういうことで……そこがあまりにもブリッジしてないんですよね。まずは狭い領域でいいんですが。
水口:例えば、それこそポケモンGOでレアポケモンを求めて集まっている人たちって、側で見ていてもぜんぜんわからないですよね(笑)。だけど、それぞれの中では、完全に融合しているわけじゃないですか。
例えばWi-Fiをつなぐところなんかも。まったく見えないものに吸い寄せられて、というね。でも、こういう領域がもっともっと増えてきますよね。
小林:そうですね。
水口:例えば「なにがユートピアか」「ディストピアって何だろう」という議論もよくありますよね。VR/ARメディアアーティストのケイイチ・マツダくんって知ってます? Leap Motionの前のUXデザイナーの。
マツダさんを知ってるって人どれくらいいます?
(会場挙手)
小林:けっこう知ってますね。
水口:ロンドン在住でね。日本名だけど英語のほうが得意という。
小林:YouTubeで「Hyper Reality」っていうすごい映像を公開してますよね。
水口:「Hyper Reality」を見たことがある人はどれくらいいます?
(会場挙手)
けっこう見てらっしゃいますね。「Hyper Reality」をちょっと一瞬流してもらえますか?
小林:あ、わかりました。
水口:これはすごくいい例だと思うんですよね。彼は映像作家でもあるからか、すごくシニカルにディストピアの感じを描いているじゃないですか。あれってある意味で、広告とかマーケティングが都市の中に溶け合ったときにどれだけ人間が翻弄されるのか、という。その1つのシニカルな事例を映像にした感じですよね。
小林:豊田さんはあれを見たときにどう感じました?
豊田:テクニカルにすごい!という感動がある前提で、そこにどこか“ネオ東京”的な、説明なしに共有できるおもしろさをちゃんと入れてるじゃないですか。そのイメージをテクニカルなもので表現する難しさって、やっぱりあるじゃないですか。それが一発にまとまってるのがすごいなと。説明だけになっちゃいけないし。
セクシーさのある雰囲気が盛り込まれているけど、同時にちょっとシニカルな部分も盛り込んでたりとか。表現者として本当すげぇなと思いましたね。そしてまさにさっきnrealを体験させてもらったときに、「あ、これで本当にこの世界ができるんだ」というのは感じましたね。
水口:できちゃいますね。この世界はすごい。
小林:今の日本の渋谷とか見てると、もうけっこう近いものを感じるじゃないですか。広告が多くなっちゃうみたいな話とか。
豊田:いわゆるディスプレイ広告がどんどん次世代のOOHでインタラクティブなものになっていくから、歩いている人の属性などに応じてどんどん変わっていくようになるし、今度はユーザー側がそれぞれにカスタマイズされた世界を見る段階になる。そのうちゴーグルをかけていると、実は周りは全部ホワイトボードで、見る人に応じて見えるものは違うように、だんだん段階的になっていくはずですよね。
水口:そう考えると、「リアルでは街の中の看板や広告は全部常に真っ白です」ということになりますよね。
豊田:「マーカーだけ」とかってことになりますよね。
水口:そういう意味では、建物にもいろんな影響がありそうですよね。
豊田:そうですね。まだやっぱり、物理的なものをスキャンしてその3Dデータを取り込んで、それに対してのオクルージョン(手前にある物体が背後にある物体を隠して見えないようにする状態)が……ということって、まだしばらくはできないじゃないですか。
環境側はどういうデータを事前に取っておいて、どれをデフォルトで提供しておけば、それができるようになるのかというのは、まだ手法として誰も持っていない。とりあえず今僕らはそこにすごく興味があって。
そういうことができるようになってくると、歩いている人にとっては渋谷なんだけど、見えるのは人によってジャングルだったりドラクエの世界だったり。そういうのが普通に選べるマルチバース的な状況が日常になっちゃうんだろうなと。
豊田:それをまず試験的に、2025年の大阪万博でやりたいと。あの会場に行くと、「そういうものが複数から選べて、個別に体験できる」ということは、この機会になんらかせざるを得ないなと思っています。
水口:本当にそうですね。万博って、ある意味で壮大な実験ができる場じゃないですか。今回のオリンピックにもそういう兆候をすごく感じるんですけど、結局大きな試みができずに過ぎ去っていく。そういう感じもちょっとするので(笑)。
豊田:水口さんのところはオリンピック関連のイベントでなにかあるんですか?
水口:いくつかあったんですけど、ちょっと僕は引きました。引きましたというか、ちょっと無理だなって。オーガナイゼーションとしては、クリエイティブにはすごくつらいことばかりじゃないですか。
豊田:はい(笑)。
水口:本当にそう。あれで作ったものは、自分たちでまったく持てないから。
豊田:ちょっと提供すると、僕らのほうが今後使えなくなるっていうね。
水口:そうそう。あまりにもちょっと理不尽なことが多すぎて。「それじゃあどうすればいいの?」ということがやっぱり多すぎですよね。
小林:ははは(笑)。
豊田:それを20世紀以来ずっと引きずっていて…。まあ、20世紀のビジネスや社会の構成だったらそれが正しかったんだと思うけれど、今はやっぱり社会の資材の在り方とか、クリエーションの仕方ってもう根本的に違ってきてるじゃないですか。閉じるが勝ちではもうなくて、いかにオープンにしてみんながメリット共有できる状況をつくることで、そこを通過していく人や情報の流量を高めることのほうが圧倒的な価値なのに、いまだに閉じようとする。
新しい時代なりの共有知の作り方と、将来の展開の仕方自体を実験する機会を社会で作らないといけないんだろうなと、オリンピックや万博を見ていて思いますよね。
水口:万博はタイミング的には最高なんですけれどね。あと6年しか……というか、6年もあるし。6年後って、ARISE的に言うとARの世界は相当おもしろいことになっているはずで。
小林:そうですね。
豊田:AR、VR、いろんなxRが部分的にちょうど実装できそうなタイミングですね。
水口:そこの会場に行けば……まあ行かなくても、遠隔で体験できるかもしれないけど、そこにあるものと合成された世界で、本当に新しい体験がいろいろできる。そういう実験をするにはすごくいいですよね。
豊田:いわゆるパビリオンがあって、物理的な会場を暑い中歩き回るというのも、もちろんその1つでいいんです。でも、いわゆるウェブ上のバーチャル会場みたいなもの、物理的なものに拘束されないでオンライン上で楽しめるという会場も当然あると。
さらに今回大事なのは、会場がデジタル化されていることで、会場に行ったときにエンハンスドでマルチな体験ができるというのは、やっぱり会場に行かなきゃできないというのが当然あるわけです。これがいわゆるコモングラウンドの実験版になるわけですが。
その3種類の世界がちゃんと事前にデザインできて、それぞれでどういうことができて、たぶんエンハンスドな世界とバーチャルな世界というのは、会場に行くこと自体が意味がなくなってくるような。
今まさに会場の入場者数みたいなものをどう定義するかという議論が実際に出ているんです。これまでは2,700万人の来場者をゲートをくぐった人としてカウントしていたんですけれど、むしろそうじゃない人のほうが万博の来場者として貢献もするし、体験としてもおもしろいので。
水口:なるほど、なるほど。世界中でVR的な入り方をした人たちもカウントしていくと……。
豊田:そっちのほうが意味があるかもしれないですよね。それもたぶんグラデーショナルで、チケットの在り方だって普通だったら8,000円だけど、6,000円でいい代わりに2時間だけ自分の体をアルゼンチンの子どもにアバターとして提供するチケットみたいなのがあったりして。そうすると、その子が乗り移って一緒に見て回ることができるという、ボランティアの分だけ安くなるチケットみたいな。
水口:すごいですね!
豊田:リモートと実際の価値みたいなものを組み合わせると、いくらでも出てくるわけじゃないですか。アバターも機械であったり人であったりARであったり、自動翻訳で、体の体験のうちのどの部分をリモートに提供するのかとか。そういう仕組みって、本当に死ぬほどあると思っていて。
水口:確かに。
豊田:それを実装したい。そして、2025年ってちょうどいいじゃないですか。そこでは本当にしたいなと思うんですよね。
水口:ここにいる人たちがみんな「俺も実験したい」ということがすごくたくさんあって、それが限りなくできやすい環境などができていると、本当におもしろいですよね。
小林:おもしろいですよね。確かに。
豊田:今のままいっちゃうと、いわゆる松下館とか東芝館とかいったパビリオンみたいなものの構図になっちゃうので。そうじゃないところが絶対におもしろいじゃないですか。会場にも縛られないで。
水口:自動翻訳とかね。ぜんぜん違う国の人とかと会話する機会なのに、ある程度それができていないと絶対にまずいですよね。
小林:そういう意味で、挑戦を阻害する要素みたいなものってあるんですか?
豊田:これ、オフラインになりますか……(笑)。
小林:今日はオフラインではないので、言えないですかね(笑)。
豊田:でも、ぶっちゃけた話、万博も僕らは誘致段階の会場計画で主に関わっていて、そのときはもちろん勝たなきゃいけないので、ある程度盛り気味にいくじゃないですか。でも勝ってからは一気に既得権益者の陣取り合戦みたいなものがドドドドドーっと用意スタートになっちゃって、むしろ「もう夢見る世界とかいらねぇから」という。潮目がやっぱり変わっちゃうんですよね。でも組織や体制の整備ってそれよりずっと遅いから、ある程度制御できるようになった時には既に獲物の切り分け終わってるみたいな。
小林:なるほど。
豊田:たぶんオリンピックもそうだったんだと思うんですけど、近づけば近づくほど、やっぱり「失敗できないから安全側に行く」というのがどんどん強くなっていっちゃうので。たぶん、こういう話をいろいろ盛り込むようなかたちで広げる側に話ができるのは、今年いっぱいが勝負だと思います。
来年からは実装側に落とし込んでいかなきゃいけなくなっていくので、そういう意味では期待感とか、「このくらいはやんなきゃいけねぇぞ」という世論的なものの声を大きくするのって、本当に今年やっとかないと。そうしないと普通のパビリオンがいっぱいできて終わっちゃう。「なんちゃってIoT」が入って終わりみたいな。そうはしたくないなと本当に思うんですよね。
水口:5年後のイメージを的確に持てていない人に、「5年後はこうなります!」と言って信じてもらえる状態にするのは、確かにけっこう大変なことですよね。
豊田:そうですね。イメージと実装手段が全然つながらないんですよ。
水口:やっぱりわかんない人はね。ここの会場にいる人たちは絶対わかるけど。そうか、今年いっぱいでそういう機運を作らなきゃいけないんですね。
豊田:その機運が具体的にどういう枠組みで、どういう企業がどういう立場で入って、それの告示をしてどうやって応募をして、という。そこまで落とし込まなきゃいけないので。でも、今関わっているような人たちは誰もできないんですよね。
水口:きっとARISEのような集団というか団体というか、1人ひとりがたぶんそういう機運を作っていく以外にないですよね。
小林:そうですね。
豊田:こういうのって、実際に実装している人が先行するしかないじゃないですか。やっぱり実装していると、こういう役割分担でこういう業態の人がいて、これくらい時間かかるので、ということが見えてくるので。
とにかくそれを先行していくしかないんだろうな、というのはあって。
小林:まさにここのイベントでそういうことをしてほしいなと思いますね。参加者の方にもしてほしいし、登壇者の方にも今までの知見とかをシェアしながら話ができるとすごくいいなと思います。
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