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パネルディスカッション 「成熟市場におけるV字回復と急成長の本質」(全2記事)

2019.10.07

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成熟市場でも急成長を遂げる企業の事業戦略とは? 現状を打破するためのイノベーション論と失敗の本質

提供:ClipLine株式会社

2019年7月24日、一橋講堂にて「成熟市場におけるイノベーション ~V字回復と急成長を実現するリーダーシップと戦略~」が開催されました。市場そのものの成長が見込みづらい成熟市場において、V字回復・新規事業を成功させた戦略や、リーダーシップの本質に迫るこのイベント。パネルセッション「成熟市場におけるV字回復と急成長の本質」には、その代表としてホリイフードサービス株式会社の水谷謙作氏と株式会社ティップネスの小宮克巳氏が登壇。一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏を交え、その戦略についてディスカッションが行われました。本記事では、現状を打破する組織づくりについて語ったパートを中心にお送りします。

成熟市場におけるV字回復と急成長の本質

高橋勇人氏(以下、高橋):それでは、これからパネルディスカッションを始めたいと思います。まず私から、ディスカッションの進め方をご説明いたします。

国内産業が成熟する中で、今回ご登壇いただく2社は過去数年で、絵に描いたようなV字回復や新規事業の立ち上げを成功させた企業様になります。企業の躍進に対して、先ほど基調講演をいただきました野中先生から、イノベーション論と失敗の本質という2つの視点からコメントをいただこうと思っております。

まずはティップネス様ですけれども、2013年に「FASTGYM24」というアルバイトを中心に店舗を運営する24時間型のジムを、わずか6年で100店舗を超えるところまで成長させました。他の総合ジムを抱える競合他社と比べても圧倒的なペースになりまして、この大差がついた理由について、ディスカッションで迫っていきたいと考えております。

2社目は北関東を中心に居酒屋「忍家」を展開しております、ホリイフード様です。一時期営業利益が10分の1まで落ち込んでいたのですけれども、わずか2年で奇跡的なV字回復を遂げられました。

ご存知のとおり、地方の居酒屋業態は市場規模が縮小しており課題が多くなっておりますが、V字回復の秘訣は、本日ご来場の多くのみなさまが経営を考えるうえでのヒントになるのではないかなと思っております。

ディスカッションの進め方ですけれども、私のほうでこの2社のフェーズを、立ち上げをする前の戦略転換期をフェーズ1、店のアクティビティが始まった変革着手期をフェーズ2、飛躍的成長期をフェーズ3として、3つに分けさせていただきました。

それぞれに対して事業面と組織面と、そしてClipLineをどのように活用したかということで、全部で8問ご用意させていただきました。

最初に自己紹介をしていただき、このセッションからご登壇いただく御二方にお話をいただきますので、それぞれ非常に短いですけれども、2分くらいでご回答をいただきたいなと思っております。

それぞれのフェーズごとに野中先生からご講評をいただくというかたちで、本来であれば今日の基調講演とこの2社のお話は、1トピックに1時間以上かけて聞いてもおもしろい、非常に勉強になるセッションではございますけれども。

可能な限り、短い時間に内容を詰め込みたいと思います。みなさんお忙しいので、時間の効率良く、機動的なセミナーにしたいということで、このようなかたちで進めていきたいと思っております。

シリアルイントレプレナーの小宮克巳氏

高橋:それでは、さっそくパネルディスカッションに入っていきたいと思います。まずは小宮様から自己紹介をお願いいたします。

小宮克巳氏(以下、小宮):株式会社ティップネスの小宮でございます。

ClipLineのセミナーの第1回にも登壇させていただきました。また、本日もこのような場にお招きいただいてありがとうございます。自己紹介はパンフレットにも出ていますので、あまり書いていないことを言いますね。

ティップネスには17年前に入社したんですけれども、そもそも新規事業をやる気はまったくございませんでした。

もともとマーケティングが専門なものですから、既存事業の店舗開発や業績改革などをメインにやっていたんですが。どういうわけか社歴の後半は新規事業の立ち上げをしたり、最近は業界外から講演を依頼されることもたくさんあります。

業界外の方からは「あなたのやっていることはイントレプレナーだね」と。「ましてやこれだけ連続しているなら、あなたはシリアルイントレプレナーだ」と言っていただいて。ふと自分の立場に気づきまして、最近は偉そうに自らシリアルイントレプレナーと言っております。

新規事業を5つ立ち上げているんですけれども、売上の構成でいくと、今は2割強くらいになりました。利益はというと……利益構成比は広報から言っちゃダメと言われているので、具体的な数字じゃないんですが、もちろん2割以上ございまして。ちょっとこの場で言うと、会場がどよめくぐらいの構成比を叩き出しているということでございます。

これも妻からは「今日は絶対言わないほうがいい」と口止めされてきたんですけど、一応言います(笑)。先ほどもマッスルインテリジェンスですとか、最後のページにも出ていましたが。僕は実はボディビルをやっておりまして、1996年に日本一になりました。日本代表でアジア大会に行ったりもしておりまして、知的かどうかはなんとも言えませんが、体育会系であることは間違いございません。

今日の表題は、リーダーシップの文脈ということになっておりましたが、新規事業はリーダーシップというよりも、野中先生もおっしゃるようにコミュニティシップが大事かなと思います。いかにコミュニティシップを発揮して事業を展開したかというお話ができればいいなと思っています。本日はよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

投資先とのご縁から飲食チェーンの会長職に就いた水谷謙作氏

高橋:小宮様、ありがとうございます。では続きまして水谷様、よろしくお願いいたします。

水谷謙作氏(以下、水谷):ホリイフードサービスの代表取締役を務めております、水谷と申します。よろしくお願いいたします。今日は貴重な機会にお招きいただきましてありがとうございます。

私自身はちょっとキャリアが変わっておりまして、飲食を始めたのは実は一昨年で、今年で3年目になるというところなんですね。今の主業務は投資業務を行っております。もともとキャリアは商社からスタートし、続いてM&Aの世界に入りましてアドバイザーをやっておりました。

そのあと今の投資会社を立ち上げて、その投資をいくつか……ここにちょっと書いてあるんですけれども、経験をしてきました。投資を行って、その会社様をいい会社にしようと。従業員、経営陣が生き生きと働けるような会社になってもらいたいという熱い想いを持って、投資活動を行っております。

今まで私は11社を担当してきたんですが、そのうちの1つにTBIホールディングスという居酒屋のチェーンの会社がございました。このTBIという会社からホリイフードに投資を行いまして、それからいろいろとご縁があり、今ホリイフードの代表取締役会長を務めさせていただいております。

「忍家」というお店に行かれたことのある方はいらっしゃいます?

(会場挙手)

めちゃくちゃ少ないですねぇ。

(会場笑い)

一応北関東を中心に80店舗ほど展開しております。あんまり都心にないだけで東京にもありますし、ぜひ忍家で今すぐググっていただいて、お近くに足を運んでいただきたいと思っているんですけれども。極めておいしいです。居酒屋のチェーンの中では、たぶんトップクラスのおいしさかなと。

忍家だけではなくて、「もんどころ」という、これは茨城の地産地消を中心とした店舗展開もしております。あと「赤から」という、名古屋にある赤から鍋ですね。この鍋のフランチャイジングをして、10店舗ほど展開しております。合計103店舗を展開しております。

私は食べることがものすごく好きで、いろんなところを食べ歩くんですね。それもあって、会社に入らせてもらってからすごく楽しくて。メニュー開発を率先して一緒にやったりして、ワイワイやっているところです。天職だなと思いながら楽しくやっています。

楽しくやってきた中で、先ほど高橋さんがおっしゃったようなV字の回復を実現しました。その流れをClipLineさんにもお手伝いいただきながら実践していったわけですけれども、そのあたりを今日はご説明できればなと思います。よろしくお願いいたします。

(会場拍手)

フィットネスクラブは100人中97人が買わない商品

高橋:水谷さんありがとうございます。それではさっそくディスカッションに入っていきたいと思います。

まずは戦略転換のきっかけについて、当時の事業の状況を教えていただけますでしょうか? 小宮さんからよろしくお願いいたします。

小宮:ティップネスは、フィットネスクラブを経営している企業でございます。水谷さんもアンケートを取られていましたので、僕もちょっとやってみようかなと思いますが。会場の中で、今リアルにスポーツクラブにお金を払って通われている方、もちろんティップネスじゃなくてもけっこうです。どのくらいいらっしゃるか、もし会場にいらっしゃったら挙手を。

(会場挙手)

ありがとうございます。けっこういらっしゃいますね! 僕のストーリーとちょっと違いました(笑)。ありがとうございます。

日本のフィットネスクラブの参加率というのは、ここ20年変わらず3パーセントと言われておりました。100人中97人は買わない商品だということであります。ただここ数年、外資系もしくはフィットネスクラブの業界外、異業種からの参入で、これまでフィットネスクラブには通ったことがない、いわゆる非消費者を取り込む業態が非常にたくさん出てまいりました。

よく比較するのは、流通小売りの業界と似ているなと思うんですけれども。我々が展開している基幹業務は、プールを内包する1,000坪規模の大型の総合スポーツクラブなんですね。これは流通業で言いますと、たぶん百貨店だと思うんですけれども。

流通小売業界から量販店やコンビニエンスストアという、さまざまな業態がたくさん出てまいりまして。百貨店業界の方がいらっしゃったら申し訳ないんですけれども、今は非常に百貨店自体が厳しくなっている状況ですね。フィットネスクラブも総合型クラブは厳しい状態でございます。

そんな中で、ぜひティップネスにこれまで振り向いていただけなかった非消費者の受け皿になるような業態をいち早く作りたいなという思いから始めました。

僕には大きな反省点がありまして。みなさんよくご存知の、いわゆる女性向けの30分フィットネス「Curves(カーブス)」という業態がございます。実はカーブスさんが日本に入ってくる前から、私はずっと研究をしておりました。

これが15年前のことなんですけども、そのときに僕はカーブスをどう評価したかと言うと、「あれはフィットネスじゃない」、「誰でもできる」と甘くみて、企画書まで作ったのに出しませんでした。

結果的にカーブスは14年くらいで80万人の会員様を獲得していると。我々は今年32年目になりますけれども、会員は25万人ということで、どちらが日本のフィットネスクラブ参加率を押し上げたかと言うと、歴然としているわけですね。

15年前に自らおかした失敗を、このタイミングで二度失敗することは絶対避けたいというところがありました。なんとかこの24時間ジム……まあ、コピーキャット戦略ではあるんですけれども、これをいち早く展開したいと、当然ながら思いました。

業態転換が早まる時代の事業継承

高橋:ありがとうございます。では続きまして、戦略転換のきっかけの事業面ということで、水谷さんよろしくお願いします。

水谷:そもそものきっかけからなんですが、ホリイフードサービスという会社は堀井さんという方がオーナーで、上場企業だったんですね。私はその堀井さんと長年ゴルフ友達だったんです。ゴルフ会員権を共有する方で、よくプライベートでゴルフのお付き合いをしていました。

ところがあるとき、堀井さんから事業承継を考えているというご相談がありました。じゃあちょっと内容を見てみましょう、というところで始まったんですね。それが2016年なんですが、よく見てみると2013年くらいにけっこう急速な出店を行なって、人手不足も相まって、かつお酒離れという時代の流れもありました。

それから、業態転換が非常に早まってきた時代でもありました。そんなことが相まって、店舗当たりの売上が昨対をずっと割り続けていたという状況でございました。

堀井さんからの相談は、プロの目から見ると、どうすれば立て直すことができるのかといったことですね。そんなご相談を受けながら事業承継を行って、戦略的なパートナーとしてお選びいただいたという次第です。

そんな中で、自分の後釜をやってくれないかというご相談もありました。私は経験がなかったんですけれども、代表取締役会長に就かせていただいたという経緯です。そんな局面を迎えておりました。

過去の成功体験に酔いしれている組織の風土

高橋:ありがとうございます。今は事業面でのお話をいただいたんですけれども、続きまして今度は組織・人事面で、いかにその状況を打破する組織を作っていったかというお話をお願いいたします。

小宮さん、お願いします。

小宮:ここは一番広報から止められている内容なんですけれども(笑)。差し障りない範囲で、なるべくしゃべりたいと思います。17年前に私がティップネスに入社したときには、会社は業界で……今は4位ですけれども、僕が入ったころは確か5位か6位くらいの企業でした。

もともとサントリーの社内ベンチャーで興した会社でございまして、都心の好立地に出店して、非常に勢いがあって高利益率の会社でございました。売上高は6位から5位止まりだったんですが、社員はリーディングカンパニー意識が強く、会社としてはあまり新しいことにチャレンジする風潮ではありませんでした。

ただ、1つの業態しかありませんでしたので、これから当然のことですが、少子高齢化が起きて人口減少も起こる中で、この会社はどうしていくんだろうということが自分の中にはあったんです。ですが、なかなか新しいことにチャレンジをするような風土ではありませんでした。

背中を押されながら新規事業がスタートすることなんてない

小宮:2012年ごろからFASTGYM24の企画を始めましたが、最初の役員会の起案から1年半後にようやくGOが出て、1号店出店までに2年かかりました。

上司や組織とのやりとりで紆余曲折はありましたが、社内ではなくお客様のほうだけを見て、開業にこぎつけました。

1号店をてんわやんわで開業したんですけれども、開業から1週間ほどしたときにA新聞さんが取り上げてくれまして、現場までインタビューに来られました。僕のインタビューだったんですけれども、「お客様にもインタビューしていいですか」ということで、了承を得た方にインタビューが始まりまして。

26歳くらいで夜に働いている男性の方でしたけれども、インタビューの中で「こんなジムを待っていたんですよ」と。「なんでもっと早く作ってくれなかったんですかね」というインタビューを横で聞いていまして、涙ぐむどころか、すぐに席を立って、クラブの奥にある男性用更衣室で号泣しました。「作ってよかったな」と。

そういったかたちで、会社は簡単に「新規事業を作れ」と言うんですけれど、実際やりだすとだいたいブレーキがかかったりします。今日もここに新規事業の担当の方がいらっしゃると思うんですけれども、基本的には全面的に背中を押されながらスタートすることはありません。逆境の中で立ち上げるのが新規事業かなと思っております。

高橋:ありがとうございます。

小宮:ちょっと長すぎましたね。すみません。

高橋:すでに5分以上オーバーをしておりますので(笑)。

小宮:気をつけます!(笑)。

(会場笑い)

高橋:本当は追加質問で「なぜ忖度しなかったのか」とか聞きたかったんですけれども。私のほうでまとめました。3つかなと思いました。まず、日本一のボディビルダーだったということと。

(会場笑い)

あとカーブスさんでの忸怩たる思いと、顧客の声がすごく後押しになったということなのかなと理解をしました。すみません、勝手にまとめて(笑)。では、続けてホリイフードさん。

担う役割は「行司」

水谷:組織・人・体制ですね。体制は、先程申し上げたとおり堀井さんからの依頼もあって代表取締役会長になりましたと。社長以下、プロパーの4名がいらっしゃいまして、今もずっと一緒のポジションでやっていただいています。

そこに追加で、先ほど申し上げたTBIという実際に買い付けを行った親会社ですね。ここから2人、外部の飲食の専門家の方1人ということで、すなわちプロパー4名に対して外部から4名入り8人体制で経営をスタートしました。

このあと申し上げますけれども、意識したこととしては、TBIは親会社ですから、自分のことだけを考えて押し付けるようなことがあってはならないと。ホリイフードはジャスダックに上場している会社ですし、株主もいらっしゃいますので、シナジーを追求したいと。

私が行司役となって、TBIのいいところ、ホリイのいいところを双方に植え付けていくというかですね。双方の会社にメリットがあることのみを捉えて、それを実行していく。こういった行司役となることを意識して体制づくりを行いました。

高橋:ありがとうございます。さすがプロ経営者ということで、体制をガラッと変えつつも既存の役員社員にも配慮して体制を構築されたということかなと理解しました。

アダプテーションとイノベーション、2つの戦略

高橋:さて、ここでフェーズ1の総括として野中先生より、この2社はなぜ失敗の罠に陥らず、イノベーションを達成するための入り口に立つことができたのかについて、ご講評をいただければと思います。

野中郁次郎氏(以下、野中):小宮さんは十二分なリサーチを重ねた上で、勝てるポイントを掲げて既存事業と別で立ち上げたのがいいのかなと。

ホリイフードサービスはトップが交代して水谷さんが上級指導者としてチームを導いた。過去のヒストリーも必要なので他の経営陣は一部残し、同時に現実に向き合って新しいコンセプトを全員で作り上げた。両社とも過去の成功体験を打ち破ったのが成功につながったのかなという印象を受けました。

イノベーションを起こすときに、過去・現在・未来を総合しないといけないが、「いま・ここ」で何をやるべきかという問題意識がないと過去の記憶はよみがえってこないんですね。「いま・ここ」と過去が一体になって未来が見えてくる、それを現象学では「幅のある現在」と呼んでいるけれど、 現在の中に過去と未来が凝縮されており、主体的コミットメントがないとこの3つはつながらない。「いま・ここ」で何をやるかタイミングを計るのが非常に重要です。

葛藤や矛盾を抑え込まず、対話を重ねていくことで答えが出てくる

野中:同時にお二人とも、他のメンバーや関係者と共感し向き合っていて、GRIT(根性)がありますよね。知性が前面に出るというよりやり抜く力のほうかな。知性がないのではなく「I think」から「We think」となるための知的コンバットを徹底的にやっている。それがないとイノベーションは起こりません。

現実には、「あれかこれか」の二項対立、白か黒かでは解は出ないんですね。必ず葛藤、矛盾があり、それをどうバランスをとって落とし込むかは対話と実践を重ねている中で出てくるんじゃないかな。分析思考からは決して出てこないんですよ。

高橋:ありがとうございます。それでは、引き続きましてフェーズ2に入らせていただきたいと思います。

まずは1号店を大成功させ、続く店舗でPDCAを回す

高橋:ここまでのところは、新規事業あるいは新体制を始めるまでのお話でした。戦略転換は、もしかしたらある意味、勢いで乗り切れるところがあったのかもしれないですけれども、いざ改革が始まりますとコストも時間もかかります。

もしかすると、この変革に着手するときが一番つらい時期なのではないかなと思います。小宮さんと水谷さんが、この時期をどう乗り越えられたかをお話しいただければと思います。

まずは事業面について、小宮さんからお願いします。

小宮:2年かけて最終的に勝ち得たのは、「わかった、じゃあ3店舗でテストするのを許可しよう」ということで、大々的に事業を承認されたわけではありませんでした。小規模の店舗ですから、3店舗の投資額は大きい総合型店に比べたらはるかに少ないものですね。

その3店舗をどう組み立てていこうかというのが、スライドのこの図でございまして。本当はPDCAじゃなくて戦略でいきたかったんですけれども。これだけ逆風で開業しましたので、1号店は絶対に成功させなければならず、それも空前の大ヒット店にしなければいけないなと思っておりました。

のちに作る2号店や3号店は、あえて意図的に競合がある駅に作るということで、そこでテストしようという戦略でございました。おかげさまで1号店は絵に描いたようなストーリーなんですけれども、今でも104店舗中1番目か2番目の在籍数を誇っておりまして、大ヒットいたしました。

2号店と3号店は、同業者もしくは総合型のあるエリアに出店しまして、それなりに苦戦したんですけれども、今は両店とも黒字化をしております。そこで得た教訓をもとに戦略や施設内の設備を見直し、PDCAの構造改革を行ったということでございます。

保守的な企業でしたので、まずは大成功で信用信頼を勝ち得ることから始めました。そうは言いながらも、僕は実は5年で200店という企画を立ち上げていましたので、見据えているのは200店舗だったものですから、なるべく早めに実験をして悪い要因を見つけたいと思っていました。そんなやり方をしましたね。

高橋:ありがとうございます。非常に勇気がありますよね。1号店を大成功させて、2号店、3号店で課題を洗い出すと。非常に勉強になりました。

シナジー創出に向けた5つのテーマ

高橋:続きまして水谷さん、よろしくお願いします。

水谷:経営体制が決まりましたと。そのあと、どうやってシナジー創出に向けてやっていこうかと考えたときに、5つのテーマを設けました。不採算店舗対策、広告販促強化、共通費削減メニュー開発、CS・ES向上プロジェクト、それから人事・教育。

この5つのプロジェクトを立ち上げて、TBIとホリイからそれぞれ2~3人ずつ担当者に出てもらって、1人リーダーを決めてもらいました。隔週で分科会のようなかたちでプロジェクトを回していったんですね。

その隔週のときに「ステアリングコミッティ」と言って、もう少し上位の各リーダーが参加し、この5つのプロジェクトのリーダーが参加して議論し合う会を設けていて、そこの議長を私がやりました。私も各プロジェクトにオブザーバーとして参加していました。

何を決めるかというと、ステアリングコミッティで(意見が)あふれ出てきた中に、「TBIではこういうことをやっています」「ホリイではこういうことをやってます」という棚卸しを行って、「こっちいいですね」「これを採用すればいい効果がありますね」など、私がその行司役となってものごとを決めていくと。そんなことをやってきましたね。

そこのテーマが、ここに書いてある5つです。TBIは本社が新宿で、ホリイフードは水戸なんですね。新宿と水戸に、隔週で集まってやる。そんな会議を行っておりました。成果はまたのちほどご説明申し上げます。

高橋:ありがとうございます。

参入障壁の低さを踏まえ、陣地取りを最優先

高橋:次は組織面に関しての質問です。私もずっと経営コンサルタントとして事業変革に関わってきましたので、ある意味では、事業よりも組織面の変革のほうがよっぽど大変だったんじゃないかなと思います。

かつ、フィットネスに関しては新業態ということで人材もいなかったでしょうし、ホリイフードサービスさんには既存と違う考え方を持ち込まなくちゃいけない。考え方を変えなきゃいけない。このあたりをどのように乗り越えられたのかをおうかがいしたいと思います。

まず、どんな状況だったのかを小宮さんからお話いただけますでしょうか?

小宮:24時間ジムはインストラクターを配置せず、運動の指導は一切いたしません。営業時間24時間のうち、3分の2の16時間は無人になります。

なので、実は初期の段階で何が一番リソースとして重要かというと、多店舗展開をするうえでは、やはり出店するための投資、いわゆる資金力が一番重要です。

おかげさまで本業も安定しておりましたし、なんといっても親会社は上場企業なものですから、いわゆる信用力もあります。そのため、資金調達面では一切心配はありませんでした。

一方で新規事業になりますので、立ち上げのノウハウですとか、その後のアルバイトの方々を採用・雇用して運営するための、いわゆる知的人的リソースがほぼゼロでございました。

しかも、この業態はインストラクションしないので、非常に参入障壁が低いです。同業者様も当然追随をしてくるでしょうけれども、異業種の方もある程度準備をすれば出店することは可能です。

いかに人口密集地のいい立地にすばやく展開をするかが重要でしたから、初期の段階では人的リソース、知的リソースを貯めるよりも、とにかくたくさん作っていこうということを目標にしまして、1年目に19店店舗を開業しました。

そこで何が起きたかと言うと、従業員になかなか定着していただけないという状況です。アルバイトさんの半年後の離職率は3分の1。1年経つと7割が辞めるような状況でございまして。出店はできたけれどもなかなか組織が安定しなかったことが初期の段階でございました。

不採算店舗の撤退と人手不足の解消

高橋:ありがとうございます。では続きまして水谷さん、よろしくお願いします。

水谷:スライドに書かせていただいてますけれども、不採算店舗がすごくたくさんありました。

やっぱりなかなか撤退しきれないところもあったので、この撤退を加速していきました。あとはやっぱり、人手不足がありまして。SV制度をとっているんですけれども、SVが店長を兼務しているような状況だったんですね。

ここでClipLineさんが現れると。そのタイミングで高橋さんを紹介されて、その日に導入を決めるというイベントがあったんですけれども。この人手不足という問題がありました。

また、広告の販促が弱かったですね。スライドにはペイドメディアと書いてますけれども、食べログやぐるなびやホットペッパーなど、飲食の業態では常識のように行われるペイドメディアを使いきれていなかったというか、ほとんど使っていなかった状況がありました。

メニュー開発のところでいくと、最近は専門業態化されていますから、メニュー数が少ないんです。ところが総合居酒屋としては、そのメニュー数が非常に多かった。現場のオペレーション上も、ファーストドリンクの提供スピードなど、サービスがいまいち行き届かない。かつ、現場のオペレーション業務も複雑になっていっている状況でした。

さらに、キラーコンテンツというものがやっぱりあるわけですね。時代時代によって流行りになる食事。そういう人を引っ張るキラーコンテンツもなかったというところです。

それから従業員制度でいくと、インセンティブがあまりなくて。飲食ってどうしても「ガッツで行くぞ」という現場の盛り上がりが必要なんですけれども、そういうインセンティブがなかった。モチベーションが上がらない仕組みになっていたんだと思います。

現場を盛り上げていく風土がないと書いていますけれども、みんなでイベントをやったり、ワーっと騒ぐとか、そういう盛り上がりがないのかなということで、去年初めて全国社員総会をやったりしています。

それからCSとES。顧客満足度と従業員満足度は、やっぱりサービス業の基本だと思うんですね。それは意識しなきゃいけないんじゃないかなと思うんですが。それを測る指標がなかったんです。そこはミステリーショッパーなどを入れながら、測る指標を持っていって。

その点数を意識して上げろということで、これもClipLineさんのご協力を仰ぎながら、顧客満足度と従業員満足度だけは上げていきましょうと。そんなことをやっていましたね。

高橋:ありがとうございます。今回フェーズを1、2、3に分けて、さらに事業面、組織面それぞれお話をうかがっているのには、ちょっと意図がありまして。今回フィットネス業界と居酒屋業界というかたちでご登壇いただいているんですけれども、今日お越しのみなさんは必ずしも同じ業界じゃないという方が多いと思うんですね。

ですので、ある程度フェーズや事業の見方というところで、2つのケースを同時に聞いていただく中で、より多くのお持ち帰りただけるアイデアが出てくるんじゃないのかなということで、こういう順番で進めさせていただいております。

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