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キーノートセッション(全1記事)

2019.04.18

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大学の技術シーズを事業化するために ピクシーダストテクノロジーズの使命

提供:つくば市スタートアップ推進室

2019年3月19日、つくばのスタートアップとスタートアップエコシステムのPRを目的とする「Tsukuba Startup Day in Tokyo」が東京都中央区のシティラボ東京で開催されました。つくば発のスタートアップのプログラム「スタートアップアクセラレーションつくば」に採択された5者によるピッチやパネルディスカッションなどを実施。キーノートセッションにはピクシーダストテクノロジーズ株式会社・村上泰一郎氏が登壇し、「技術シーズの事業化に向けた取り組み」というテーマで、自社の取り組みを語りました。

テーマは「技術シーズの事業化に向けた取り組み」

村上泰一郎氏:ピクシーダストテクノロジーズのCOOをやっております、村上と申します。よろしくお願いいたします。

タイトルは「技術シーズの事業化に向けた取り組み」です。僕らの会社がどういう事業をやっているかを説明しながら、どんな取り組みをしているかをご紹介できればと思っています。

ちなみに、ピッチにあまり出ないと言われますが、その理由の一つに、僕らは極めてBtoBでやっていて、細かいところがしゃべれないというところがあります。今日はしゃべれる範囲になっちゃうので、具体的なところは端折るかもしれませんが、ご容赦ください。

まず自己紹介からですが、私はもともと大学/大学院時代はバイオエンジニアリングをやっていて、バイオセンサーというか、DNAシークエンサーや細胞のセンサーのようなものを作っていました。そのあとコンサルティング会社に行きまして、オープンイノベーションや新規事業戦略などをいろいろやったあとに、いまの会社を立ち上げました。

若干補足ですが、一般社団法人未踏のアドバイザーと、一般社団法人xDiversityの理事も兼任しています。

会社の紹介です。ここで絶対謝らなきゃいけないと思ったのが、我々は筑波大発ベンチャーなんですが、本社が東京にあります。

(会場笑)

さっそく逃げ出してしまった感じになっちゃってすみません(笑)。申し訳ないんですけれども。

しかしながら筑波大の中にも場所を借りて研究を進めていまして、メンバーとしては筑波大の准教授も兼任している落合(陽一)が代表で、私も共同代表というかたちです。それ以外に東大の先生をやっていた星(貴之)や、大学発ベンチャーの経営陣として活躍していた関根(喜之)といったメンバーが加わって事業をやっています。

最初にこういうところから入るとみなさん驚かれますが、落合がデジタルネイチャーという概念を提唱していることもあって、経営理念として「人類と計算機の共生ソフトウェア基盤を構築する」というものを謳っています。

ただ、だいたいこの理念は「なんだかよくわからない」と言われるので、経営理念の実現に向けて「魔法のように生活に溶け込むコンピュータ技術を開発していく」と言っています。これでもなお、「なんだかよくわからない」と言われるので、僕の中では2つくらい意味を持たせています。

1つは、我々はアカデミック発のベンチャーですので、大学で一生懸命研究したものをどう社会実装していくかを考えています。そのときに、大学で研究だけをやっていると、社会実装から遠くなってしまうので、それを生活の中へ溶け込ませる。すなわち、「社会の中で使われるようにしてなんぼだよね」という考え方です。

もう1つ、空間をかなりのキーワードにしています。技術が社会実装されたときに、技術然としてあるというのではなく、空間側が空間の中を制御してあげて、技術は技術として見えない状態でそこにある。だけれども、課題が解かれていく世界観を目指したいなと思っています。

ピクシーダストテクノロジーズの歩み

先ほど申し上げたように、CEOの落合は筑波大の准教授を兼任しています。それ以外のメンバーで言うと、東大でもともと先生をやっていた星は、波動制御や超音波制御の専門家です。関根がCFOをやっていますが、我々の会社の前はペプチドリームという会社にいました。

我々がどんな会社かですが、一見複雑なので簡単に説明しますと、リサーチ機能・技術開発機能・事業開発機能を、全部会社の中に入れ込んでいる会社です。それをやっている仕組みがポイントで、かつ今日お話ししたいところです。

前提として、我々は特定の技術をスピンオフさせて、その特定技術を社会実装することを目指しているのではなく、「アカデミック発の知を連続的に社会実装する仕組みを作る」ことを目指しています。

これはもともとの課題感として、このままだと日本のアカデミックが死んでしまうのではないかというのがあったからで、これを何とかしたいと思っています。要するに、大学でいい研究をしてもそれが世の中にちゃんと出ていかない、というところにてこを入れたい。やはり工学は実学だと思っているので、大学で研究したものを社会にちゃんと出して誰かの課題を解決して、そこで正当な対価をいただいて、それを大学に戻していく。その仕組み全体を作りたいなと考えて会社を始めています。

それを表現するのに一番わかりやすい仕組みが、いま筑波大学さんとやっている産学連携のかたちです。落合は筑波大学准教授ですので、大学内に「落合研究室」があります。「デジタルネイチャーグループ」と言っています。

そこで知財が生まれたら、100パーセント会社側に譲渡される仕掛けになっています。その対価として、筑波大学さんに直接的に新株予約権を付与しています。この仕組みのポイントが、先に新株予約権を付与しているということです。

発明が出たら、都度交渉して対価を払う、もしくは新株予約権と交換する交渉をするのではなく、先に新株予約権をこれだけ付与しておくので、この先何年かで生まれたものすぐに譲渡してね、という契約になっています。これは何がいいかと言うと、とにかく早いんですよね。

普通に産学連携をやっていくと、だいたい発明が出たあとに権利配分などを調整する必要があるんですね。ここは交渉事なので、かなり時間がかかってしまう。

僕らは最初は、スライド上の仕組みでやっていたんですが、あまりに時間がかかるので下の仕組みにシフトしました。これをやっていくと、大学で発明が起こって、一応届け出を出すんですが、その後すぐに使えるかたちで、極めてスピーディーに技術を社会実装につなげるようになっています。

加えて、もう1ついいことは、連続的に大学の知が会社に入って来るところです。これは落合研ならではの可能性もありますが、過去実績ベースで言うと、だいたい技術のネタとしては年間10~20くらい、新しいネタが出ています。

当然、全部を会社で扱えるわけではないというか、マーケッタビリティがあるわけではないので、この中からセレクティブにやっていきます。

こういった新しい技術群が会社にどんどん入ってきて、それを会社のほうで育てて、それをいろいろな会社さんとコラボレーションさせていただきながら、世の中に出して行く。それにより収益が上がって企業価値が上がれば大学側にお返しすることもできる。そういった「生み出し、育て、社会実装する」、そしてアカデミック側に返す一連の仕掛けを全体としてデザインして回していきます。だいたい回りそうなかたちになってきたなというのが現状です。

波動制御技術の開発にフォーカス

基本的にはリサーチ機能・技術開発機能・事業開発機能があると言いましたが、アカデミックと連携することでリサーチ機能を担保して、会社のほうでは主に技術開発と事業開発を行っています。

技術として現時点で扱っているのは、波動制御技術です。それをいろいろなかたちで世の中に出すところを事業開発側がやっています。

せっかくなので、技術をいくつかお見せしたいなと思います。まとめると、音・光・電磁波を制御して、人で言えば聴覚・視覚・触覚あたりにタックルするような技術の開発にフォーカスしています。

具体的にどんなものが出てきているかと言うと、たくさんありますが、聴覚で言うと、特定の人だけに音が聞こえるスピーカーなどです。音が人を追っかけるようなこともできます。ポスターなど、本来スピーカーになり得ないものをスピーカーにする技術などもそうです。

触覚系だと、イメージできるかわからないですけど、空中に触覚を出して、自分の周りに触り心地を体感できるようなものだったり、物を浮かせて運んだりできるものが出てきています。

ちょっと変わっているんですけど、離れたところに力を出す技術をうまく使ってあげると、ヘルスケア系で使えたり、人工授粉に活用できるなどさまざまな用途が見えてきています。

視覚的なところで言うと、人の網膜に直接投影できる技術だったり、空中に映像を直接映し出す技術だったり、そういったところがいろいろあります。

「ピクシーダスト」の要諦

せっかくなので、いくつかお見せしますね。社名の由来になっている「ピクシーダスト」という技術があります。テレビなどでご覧になられたことがあるかもしれません。これは、超音波制御によって物体を空中に浮かせて3次元的に動かせる技術になっています。

何をやっているかと言うと、正確性を欠きますが、超音波をうまく制御してあげて、空中の離れたところに力を出し、その力で物体をつかんで、持ち上げて、動かすと考えていただければわかりやすいかなと思います。

(映像が流れる)

小さなビーズみたいなものだけではなく、部品のようなものも浮きます。液滴も液滴のまま浮くんですね。なので、それを動かしてバイオやケミカルの実験に使いたいというお話をいただきます。

それ以外の技術では、同じ超音波制御型のものでは焦点スピーカーです。これは特定の人だけに音が聞こえるスピーカー技術です。

(映像が流れる)

すごく簡単に言うと、ある特定のエリアだけ非常に強く音が聞こえて、それ以外のところではあまり聞こえないんです。聞こえるエリアをソフトウェア制御で動かすことができるので、誰かの耳元で「右」「左」とか、音が聞こえます。それを2つに分けて、右の人には日本語、左の人には英語を聞かせることも可能です。

スライド下側の例なんですが、スポットで音が出せるので、例えば車の中で運転手だけに音を聞かせられるのではないかと考えています。

その他アミューズメント施設などのすごく賑やかな場所でのニーズもあります。機械から出ている音を付近の人だけが聞ければ、その空間が静かになるるため、そういった使い方ですね。

スライド上側ですが、過去からある技術ではあるんですけれども、ビームで音を出すこともできます。ビームの向きもソフトウェア制御で変えることができるので、いろいろなところにいる人に音を届けられます。

いまもそうですが、いわゆる普通のスピーカーは、音が出たら全体に聞こえちゃいます。それを、空間内の特定のエリアやライン上だけで聞かせる。聞こえるエリアをソフトウェア的に制御することを実現しています。

触れる光「Fairy Lights」

せっかくの機会で見てほしいので、どんどんいきますね。波動制御と言うからには光の技術もあります。例えば「Fairy Lights」という技術です。いま、スライドに光の点が出ていると思うんですけど、空中に直接的に光の点が出ています。これは短時間であれば触れます。触ると触覚もあるという技術になっていて、触れて、触覚のある空中映像が作れる技術です。

(映像が流れる)

いずれ映像は画面を飛び出して、ここらへんの空中に出るようになるとみんなが思っています。そういった時代に備えて研究開発を仕掛けているタイプのものです。

(映像が流れる)

それ以外にも、網膜投影の技術もあります。後ろに透けて見えているのは向こうの景色です。いま、映像に出ている蝶が網膜に直接投影されます。ポイントは、焦点フリーで映像が見えるところです。どこを見ていてもピントが合います。

例えば、(動画内で)ドラゴンからどんどんピントがシフトしています。どこを見ていても、ウサギの映像が見えます。だんだんシフトしていっても、ずっとウサギの映像が見えます。戻ってきても、見えるようなかたちです。

たいていの場合、よくある透過型の映像投影の仕掛けは、特定の位置を見たときに映像がはっきり見えますが、ほかの位置を見たときには映像がぼやけてしまう。これは目のピント調節機能に依存しないことも意味しているので、目が悪い方でもはっきり映像を見ることができる用途も開拓していきたいですね。

2つのビジネスモデル

(映像が流れる)

コア技術の役に立つ先を探すだけではなく、課題ドリブンで、それを技術でどうやって解決するかにタックルしているプロジェクトもあります。例えば自動運転車椅子のプロジェクトです。介護施設の方と対話しながら、その介護施設の実際の課題をどうやって技術で解くか。それにフォーカスして進めているのが、このプロジェクトです。

いろいろな技術を、どうやって社会実装するか。我々は冒頭に申し上げたとおり、1つの技術に限定しているわけではなくて、アカデミックから出てくる技術を、社会実装する仕組みを連続的に作るところにフォーカスしています。

そのためにバリューチェーン方向はかなり切っていて、当然自社で大量生産するところはやりません。とにかく、コア技術の部分を抱えて育て、それを梃子にいろいろな会社とコラボしながらやっています。

コラボ方法は大枠で2パターンあります。超シンプルに言うと、スライド左側が、僕らの技術を使って新しいプロダクトサービスを共同開発しましょうというものです。実際に事業化するとなったら、技術をライセンスするので、その分の対価をもらうタイプのビジネスですね。

右側のほうが、どちらかと言うと、現場の課題を抽出するところから一緒に始めるものです。課題ドリブンで技術がどうハマっていくかをデザインして、一緒にソリューションを作るみたいな感じでイメージしていただければと思います。この大枠2系統でビジネスを推進しています。

「クロスダイバーシティ」とは

補足的に、2つのビジネスモデル以外に、会社と別ビークルで「クロスダイバーシティ」という取り組みもやっていて、いま社団法人化しています。技術を用いて、ハンディキャップを持った方々が、そうでない方々と変わらない暮らしをできるように、一生懸命取り組むプロジェクトです。

ここには当然、僕たちや筑波大学さんも入ってはいるんですけど、僕らだけでやっているわけではありません。それ以外に、いろいろな会社の技術を持ち寄って、ハンディキャップのある方々に向けたソリューションを作っていこうとしています。

再三繰り返しになりますが、申し上げたかったことは、僕らはアカデミック発の技術を社会実装する仕組みが作りたいんです。そのために筑波大学さんと特殊な産学連携の仕組みを組んで、今後はほかの大学さんにも展開したいと考えています。

さらに、いろいろな会社とコラボしながら、一緒にプロダクトやサービスを作るでもいいし、課題ベースで一緒にソリューションを作るでもいい。そういったかたちでコラボレーションして、世の中に出していくことをがんばっています。

加えて、こういったハンディキャップのある方々向けの取り組みは、別ビークルに切り出してタックルしているのが現状です。

大学で生まれたシーズをそのまま事業化するために

最後です。日本の大学のライセンス収入は、まだ米国の数十分の一くらいですね。ずっと課題だと言われています。

要は、大学でいいシーズがあっても、それが「世の中に出てない」とよく言われますし、ずっと言っています。それを、民間側からガサッとテコ入れして、なんとかしたいと、すごく強く思っています。その仕組みを作ることによって、この問題を解決したいです。

それを進めていく中でのポイントは、ストレートに言ってしまうと、大学で生まれたシーズをそのまま事業化するのは難しいということです。大学で昨日生まれたものが「明日からこれ売ります」みたいな感じになることは、なかなか難しいですよね。大学発ベンチャーというビークルを使って、それを育てる必要があるし、社会の課題やニーズとすり合わせる必要がある。

そのときに、チームがすごく重要だなと思っていて。今僕らのところでは開発チームがきっちりその技術を育てていって、要はチャンピオンデータでよかったところを実用に向けて開発していっています。

さらに事業開発チームがその提供価値を見極め、顧客の課題・ニーズときっちり擦り合わせていく中で、市場へブリッジして初めて人々の生活に溶け込み、そこで価値になる。そのチームを作るところに腐心していますし、今いいチームができてきたなと思っています。

あと、みなさんには言わなくてもいいと思ったんですけど、最初のころの自分を振り返って、とくに技術系のベンチャーでは、油断するととにかく技術オリエンテッドになりすぎる可能性があるなと思っています。

最近ものすごく意識しているのは、とにかく一次情報として、生々しく現場の課題・ニーズを理解しないと始まらないということです。要は、机上で「これはこういうふうに使えるんじゃないか?」「こういう人の課題を解決できるんじゃないの?」と言っても、現場に行くとそういうレベルとぜんぜん違ったりするんですね。

こうだと思っていたけれど、ぜんぜん違うところに悩みがある。そういうことが平気で起こると思いますし、実際に僕らの中でも起こっています。

その中で、新しい技術の使い方が出てくるかもしれないですし、いままで見えてこなかった「こんな人たちがこう助かる」みたいなことが見えてくれば、それはすごく意義深いプロジェクトになっていくはずですし、意義深い技術の社会実装のあり方になると思っています。

そのあたりは、すでにそういったお話をピッチの中でもいただいたので、まったく問題ないと思います。すごく意識してやるといいと思いますし、僕らも意識してこれからもがんばっていきたいと思っています。ご清聴、ありがとうございました。

(会場拍手)

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