2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
ミッドランド税理士法人 小泉直哉 氏(全1記事)
提供:サイボウズ株式会社
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小泉直哉氏:こんにちは。ミッドランド税理士法人の小泉です。私は税理士法人、つまり会計事務所の職員です。会計事務所の仕事が、どんな仕事かご存知でしょうか?
会計事務所はいま、日本に3万件ぐらいあります。この数はだいたい日本全国のファミリーマートとローソンを足した数と同じです。典型的な分散型のビジネスで、1つずつの事業所はとても小さいという特徴があります。
『雇用の未来』という論文において、近い将来、簿記・会計・監査の事務員の仕事の約86パーセントが、AIやRPAによってなくなってしまうと予測されています。ただ、本当は職業が奪われるということではなく、業務のコンピュータ化が進むというメッセージなんですが、かなり誤解されています。
会計事務所はどんな仕事なんでしょうか? 税金の計算や税金の相談などは確かにやっていますし、基幹的な業務です。でも、それ以外に事業計画の策定をお手伝いしたり、収益性の改善をしたりしています。
根本的に僕たちの仕事は何なのか? そういう意味でいうと、専門性をもって経営者を理解して経営のパートナーになっていく。それが会計事務所の仕事なんです。なので、とても冷静で情熱的な仕事です。
そんな仕事をしている私について、少し話したいと思います。私の趣味は落語と音楽を聴くことです。落語は立川談志が好きです。音楽はボブ・マーリーが好きです。この2人のメッセージは共通していて、「心配するな、うまくいく」というメッセージなんです。
私は、このメッセージのように生きていきたいなと思っています。大学を卒業してから、友達と一緒にケータリングのレストランを始めました。夏の間はとてもうまくいったんです。ギターを弾きながらキャンプ場でチキンを売って、かなり儲かりました。
ただ、けっこうクリティカルなことに気づいていなかったんです。日本には冬がありました。冬になったらぜんぜん売れないんです! 当たり前なんですよ。寒い日に外でチキンを食べながらお酒を飲みたい人っていますか? いないんですよ。この仕事ではやっていけないなと思いました。好きなことを仕事にするのは、とても難しいんだなと思いまして、僕はここで夢を諦めました。
その後、しばらく料理の仕事を続けて、転職をして、普通に就職しました。その後、数年間働いて、自分で会社を作りました。日本と中国に会社を作っています。
自分で経営するのはとても大変でした。大きな仕事を受注して「うわ〜!」と喜んだり、ちょうど震災があって、自分が持っていた高価な貨物がバッと全部なくなってしまったり。そういったことを経験しました。
だんだんお酒を飲む量が増えていったんです。あるときから、お酒を飲んでないときがなくなってしまい、ずっと飲んでいました。お酒をずっと飲んでいると、どうなっていくかというと、ちゃんと仕事ができなくなってくるんです。
仕事ができなくなってしまったので、会社はやっていけなくなりました。その時期に、私は離婚も経験しました。「このままだと、僕は死んじゃうんじゃないかな」と本当に思いました。今でもタクシーの中で「死んでしまうんじゃないか」と思って、ドキドキしながら、ずっと泣いていたことを覚えています。いま思い出しても、ちょっと目頭が熱くなっちゃうような思い出なんです。
でも、僕はお酒をやめられたんです。どうやってやめたかというと、筋トレです。筋トレを始めたら、お酒を飲まなくなりました。そのころ僕はとても太っていて、お腹が大きすぎて靴紐が結べなかったんですね。これが嫌で筋トレを始めたんです。筋トレを始めたら、「お酒は筋肉に悪いよ」と言われて、お酒をやめられました。
そうすると、お酒を飲んでいた時間が暇になっちゃうんですね。毎日寝てる時間以外はほとんど飲んでいたので、ものすごく時間が空いちゃうんです。それで勉強を始めました。
勉強をしているときに、いまの会計事務所の代表にたまたま会いました。それで、会計事務所の業界に引っ張ってもらって、今日の僕がいます。それから、本当に運命が始まっていると思っています。
僕はお酒でたくさん失敗しましたし、仕事の失敗もいっぱいしました。仕事仲間に僕の印鑑を偽造されて、借金を肩代わりしたこともあります。なかなかすごいキャリアだと思っています。でも僕はいま、とっても楽しく働いています。本当に、幸福そのものだと思っています。
「僕の人生って何なんだろう」という心配をする必要がなくなると、人生がうまく進み出しました。死にそうになるまでお酒を飲む必要もなかったし、毎日毎日、泣いて暮らすこともなかったんです。うまくいくんです。そのことに気がついたら、これをほかの人にも伝えたいと思いました。
そうして、僕がサポートしたい人は「誰なのかな」と考えたんです。考えた結果、それは経営者だったんです。僕の人生で一番つらかったのが経営者のときだったので、経営者の人たちのサポートをしたい。その人たちの理解者になりたい。これが僕の夢になったんです。そんな自分の紆余曲折が活かせる仕事が、会計事務所だと事務所の代表が教えてくれました。
目標が決まったので、次に手段を考えました。「30」という数字は、僕が一生懸命筋トレをして、勉強して、支援ができる会社の数です。でも、日本には400万社くらいの中小企業があります。これは1人では絶対に対応できないと気づきました。当たり前ですよね。
最初にもお伝えしたんですけど、日本には会計事務所が3万社あります。そうすると、なんかできそうな気がしてきませんか? 「そうか、みんなでやればできるんだ!」と思ったんです。ですが、そんなに簡単な話じゃなかったです。
会計事務所は税法が毎年変わるたびに、どんどん複雑になっていきます。加えて、税務以外の相談もいっぱいあります。スライドに書いてあることなんて、本当にごく一部です。そうすると、そもそも税務会計を勉強していくことすら、たやすいことじゃないんです。必死にやらないといけないんです。
じゃあ、できないんですかね? 経営の支援なんかできないのでしょうか? 僕は「もう1回、夢を諦めて毎日お酒を飲んで靴紐が結べない生活に戻るのかな」と思ったんです。
でも、最初にも言ったんですけど、僕たちの仕事の86パーセントはコンピューターに置き換えていくことができるんです。ということは「コンピューターに置き換えたら僕の夢は叶うんじゃないか?」と思ったんです。
ここまで考えたうえで、自分のこれからやるべきことを整理しました。まず僕たちの会計の業界に必要なもの。それは2つ。安全に業務を効率化していくこと。経営の支援をするための時間を作ることとも言えます。もう1つは、付加価値化。これは正しい経営の支援をしていく、より高度なサービスを提供していく。そういったことにシフトしていくことが必要です。
そのうえで、私が何をやるべきなのか? これは、そのようなことを達成するために必要なテクノロジーを提供していくこと。それは、ポイッと投げればいいんじゃないんです。現場にフィットさせていくことがとても大切です。士業の現場に最適化されたテクノロジーを提供すること。これが、私がやらなければいけないことだと理解できました。
僕たちの士業、法律家は、英語で言うとLawyer。それにTechnologyを足す。これが士業のテクノロジー武装。この2つを混ぜたLawyTechという造語をキーワードにして、僕たちはいま、活動しています。
ようやく本題です。会計事務所の基本的な業務の手順です。業務設計から品質の保証まで。これを伝統的な業務手順ではどうなっていたか。
まず業務の設計なんですが、従来は1人の担当者が1人の関与先、お客様に対してケアをしていくので細かい業務の設定はいらないんです。資料の回収はだいたいコミュニケーションとセットで行われています。「通帳はありますか?」「このお取引はどういう中身ですか?」などを聞きながら、取引自体を理解していき、理解しながら回収していく。
そうやって理解したものを、会計ソフトに仕訳として1本ずつ入力していく。これが会計事務所の仕事でした。そして最終的にできあがる決算書は、膨大な知識、ものすごい経験、それに基づいて品質を保証していく。そのような流れです。
これを我々のLawyTechという考え方で、どういうふうにやっていくか。
LawyTechの業務手順です。まず、業務の設計と品質の保証は一緒だと思っています。ここのところにkintoneが活きています。
我々は、お客様と契約しているサービスや決算の時期などから、将来のタスクを立てていきます。そのタスクは、さまざまなステータスがあります。そこに対して、我々の職員の能力や働き方などとマッチングさせながら、アサインしていきます。そして、その工程をkintoneで見える化していくんです。
具体的に見ていくと、まず顧客のマスタですね。ここに出しているのは本当にごく一部です。我々会計事務所が必要とするお客様の情報は、会社名や税務上の届出日みたいな基本的なデータ以外に、その会社がどういう仕事をやっていて、どういうお金のやり取りをしているのか、経理がどうなっているのかといったことまで理解しなければいけないので、本当に膨大な量です。それをマスタとして作りこんでいきます。
次に、タスクに職員をアサインしていきます。この黄色いところは、まだアサインされていない仕事ですね。
そのときに大事になってくるのが、その人がどういう能力を持っていて、どういうことができるのかということです。そういったことに合わせて、仕事と働く人をマッチングさせていくんです。
そうやって仕事が進んでいったときは、このようなかたちで全体の進捗を把握しています。これ見ていただくと、上から2番目のところは緑色の棒が長いんですが、これは資料の回収がまだうまくいっていません。たぶんリーダーに怒られます。
さきほどのパーセントではわからない個人の状況を、件数として把握しています。一番下は棒が短いんですけど、これは時短で働いているパートの方です。そもそもできる量は人によって差があります。その多様な状況をきちんと表現していきます。
これらが積み重なって、1つの業務として、ワークフローとして、プロセスが流れていきます。このあとAIやRPAの話もしますが、とにかくkintoneで業務設計することが一番大きなポイントになっています。
続いて、資料の回収と仕訳の入力です。我々は目的に応じて手段を選ぶことを重視しています。もともと訪問や来社という対面形式がメインだったんですが、単純に「対面のほうがいい」「APIのほうがいい」といった話ではありません。
例えば、マンションを買った、相続があった、そういった複雑なお取引の場合は対面でしっかりとお話をさせていただくべきだと思っています。一方で、売上や仕入れのような継続的で反復的なお取引については、例えばレジや販売管理のソフトからAPIで会計ソフトに直接流していくことができる。そのほうが高速で正確です。
今日、少し触れたいのは右から2番目ですね。画像での資料の回収です。
RPAを中心に、AIやSaaSと連携させて資料を回収していく方法です。お客様の手元にある領収書をスキャナーに放り込んでもらいます。そうするとスキャナーでJPEG化されたデータがクラウドストレージに入ってきます。お客様のストレージと事務所のストレージはリンクしているので、我々がJPEGとしてデータを手に入れることができます。
このストレージにデータが入ったことをロボットが認識して、ロボットがJPEGを取り出して、OCRとAIに放り込んで、データを補正して、会計ソフトに取り込むための元データを作っていきます。
これができた時点で、次にロボットがChatworkを叩きます。このChatworkが担当者を呼び出します。担当者はこのタイミングでチェックを始めていきます。それまで、タバコを吸っていればいいんです。
ここまでいくと、さらにRPAがkintoneに業務の処理状況として、「ここまでのプロセスが終わりましたよ」と書いていきます。まだ、ここのところは製作中なんですけど、このようなかたちで仕事が流れていきます。
AIは、判断をするにはいい脳なんですけど、記憶や記録については、正直を言って、あまり向いていないです。私たちはAIとkintoneの両方が必要です。kintoneを記録と記憶の脳みそだと思って使っています。
こうしてできあがったデータは、手で入れていくのではなく、取引のデータをCSVファイルで会計ソフトに放り込みます。過去の取引から推定されて仕訳が立っていくと。
全部がこれでできるというわけではなくて、簡単にできるものを簡単にやって、複雑なものはきちんと人間的に複雑にやっていく。そういう住み分けをしていくのがLawyTechという考え方です。
最後にコミュニケーションです。コミュニケーションはChatworkをkintoneと連携させて使っています。
顧客管理のアプリの中にChatworkの履歴を表示しています。これはどういうことかというと、担当者の人は、そもそもお客様と作っているChatworkグループをChatworkのUIでそのまま見ればいいんです。
ただ、この担当者さんはインフルエンザにかかりました。僕たちの業界は、3月は確定申告があるので、インフルエンザにかかるとやばいんです。あるいは、恋人と1週間旅行に行きたいときもあると思います。そうすると、この人がやり取りしているものを別の人も見られたほうがいいんです。そういうことで、kintone上でChatworkを見られるようにしておきます。
方法はすごく簡単で、Chatworkでkintone連携用のアカウントを1個作っておくだけでできるんです。ものすごく簡単なJavaScriptを5行くらい書くだけで、これも作れちゃいます。これで1人あたりの負担が軽減されて働きやすい職場になってきます。
いまお話ししたような、kintoneを基幹として使った我々のLawyTechの考え方の母体となっている哲学についてお話しします。
多様性と共存共栄。これは我々が21世紀で一番大事だと思っているキーワードです。会計事務所のお客様は、20代の若手の社長から80代の財産家の方まで、ものすごく多様です。
多様なお客様と一緒にお仕事をすることは、人間性を育むうえではすごくいいことなんです。ただ、多様性を受け入れる側は、受け入れるコストがものすごく高いんです。このコストをどうするか? ここまでお話しすればわかると思うんですけど、僕たちはそのコストの低減をテクノロジーでやろうと思っています。
テクノロジーで低減していく。それによって業務が再定義されていくんです。どういうことかというと、例えばインターネットが苦手なお年寄りの方がいらっしゃったとしましょう。その人にネットバンキングを無理やり使わせるのは、多様じゃないです。僕たちはそういうことは望んでいません。
じゃあ、その方が持っている通帳を手にとって、目で見ながら1つずつ入力していくか? それも多様じゃないんです。お客さんは紙の通帳でいいんです。それをいただいて、僕たちがテクノロジーを使ってデータに変えて投入していけばいいんです。こういう環境や働き方、お客様との関係をデザインしていくこと。これが重要だと思っています。
今日、ここでお話ししたいのは次のステップです。次は「連携」なんです。僕たちにとって必要な次のキーワードは連携です。これがないと、次の時代に行けません。
士業の仕事は、インプットになる契約書や領収書、アウトプットになる税務の申告書などは法律で決まっています。つまり、日本全国で同じ仕事をやっているんです。
そうすると、みんながバラバラのソリューションやツールやノウハウを作っていくことが正解なのか? そうじゃないんです。
1個1個の事務所でそういったものを所有するんじゃなくて、日本全国の士業で共有していけばいいと思っています。
例えば、ここに書いてあるのは私たちが共有できると思っているものです。こういったものの作り込みは、まだまだ浅いです。研究中のもの、研究前のもの、ここに載せられていないものもあります。それをみんなで一緒にやっていきたいと思っています。
根っこにある思い。それは、僕たちはライバルじゃないんです。僕たちは中小企業を支援して日本を良くするための同志です。だから、そんなところで争っている必要はないんです。
今日、僕から士業のみなさんにお願いがあります。僕は直接企業に対して支援をする方法ではなく、別の手段を選びました。テクノロジーを提供するということです。経営者はとっても大変です。つらいんです。だから、僕の思いである「心配するな、うまくいく」というメッセージを伝えていってほしいと思っています。
最後に、これがLawyTechのシンボルです。LとTの字を抽象化したものですね。ちょうど画家やカメラマンの人たちが構図を取るときにやる指の形です。このLawyTechを通して、日本の明るい未来を見ていきたいと僕たちは思っています。
今日、この場でお話をさせていただきましたが、私の話自体はこれでおしまいです。ただ、今日ここで話しておしまいじゃないんです。僕たちは今日、ここから始めていかないといけないと思っています。
最後は「はじまり」という言葉で終わりたいと思います。どうもありがとうございました。
(会場拍手)
サイボウズ株式会社
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