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基調講演(全1記事)

2019.03.29

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中国・深圳のサプライチェーンは、日本のスタートアップにどう寄与するのか? ハードウェアスタートアップ支援の最新事例

提供:一般社団法人 環境共創イニシアチブ

2019年3月14日、スタートアップ等の量産に向けた設計・試作の支援拠点を構築する、経済産業省事業「スタートアップファクトリー構築事業」の成果報告イベントが開催されました。このイベントは、ハードウェアスタートアップのエコシステム構築を推進することを目的として実施。本パートでは株式会社ジェネシスホールディングスの藤岡淳一氏が「日本のスタートアップに製造業ができること~深圳のサプライチェーンによるスタートアップ支援事例からの示唆~」をテーマとして、基調講演を行いました。

中国・深圳で飛躍を遂げるジェネシス

藤岡淳一氏:みなさま、今日はよろしくお願いします、藤岡と申します。さっそく、今日はスタートアップファクトリー構築事業ということで、「日本のスタートアップに対して我々製造業ができること」をテーマとしてお話しします。まずは、中国の深圳のサプライチェーンによるスタートアップ支援事例などをご説明させていただきたいと思います。

私の自己紹介ですが、1976年生まれで、中国広東省の深圳市に10年以上身を置いています。ジェネシスホールディングスという日本の会社がありますが、基本的には中国の現地法人の、工場のほうに駐在・定住をしています。

一方、中国の製造会社をやりながらスタートアップの支援をいろいろやっていまして、KDDI∞LABOのハードウェアアドバイザーや、こちらのスタートアップファクトリー構築事業の「スタートアップクリニック」という相談会のお手伝い等をしています。

私たちは、スタートアップ支援だけではないんですが、ハードウェアの量産支援をする深圳の拠点として、法人を2つ持っています。1つが製造事業、工場の会社ですね。今約140名のスタッフがいます。ほとんど日本向けですが、毎日5,000台くらいの製造と出荷をしてまして、去年はおかげさまで60万台の出荷をしました。

この1年くらい前から、同じ工場の敷地内に試作・プロトタイプと、それから量産設計をやる法人を立ち上げて、こちらの代表も務めています。

今日はいろいろなテーマをいただいているんですが、そもそも、どうして私が深圳という土地で製造企業を始めたのか。まず私は、以前は自分がスタートアップみたいな感じで、自分で企画した製品を中国に製造委託をして日本で販売する事業を2005年に始めました。

当時は今とは状況がけっこう違いまして、資金調達もほとんどままならず、いわゆるハードウェアで起業することがなかなか認知されませんでした。仕方なく上場企業の傘下というかたちで会社を始めました。

その頃から自社企画の製品をやりながら、スタートアップと言われるようなベンチャー企業の量産支援を行いました。Cerevo(セレボ)という会社がありますが、こちらの1号機の「Cerevo Cam」が一番最初の製品だったかと思います。これは2007年の話ですね。

結局、そのあと2011年に深圳で独立をしまして、スタートアップやIT企業、いわゆる製造業が本業ではない日本の企業向けに、深圳市で製造受託をやろうと決断をしました。

当時、日中間の問題もいろいろありました。深圳で起業するんですが、当時は中国も非常に経済が発展して、日本の案件もだいぶ数が減ってきました。いろいろな細かい要求が多くて、日本のオーダーを毛嫌いする中国の工場の会社が多く、「中国企業の日本離れ」がありまして、製造委託先に非常に困った経験がありました。

その後の2013年に深圳で、「やってくれるところがないんだったら、自分で工場をやろう」と思って、工場を開始しました。3度の拡張移転を繰り返して、現在に至っています。最近では年間50機種、また製造台数ですと60万台を日本企業へ送っています。もちろん、スタートアップを含んでいますが、受注生産と出荷をしている状況です。

ジェネシス工場やオフィスの設備

最近移転したばかりなんですが、我々の工場ですね。こちらは外観です。

これが弊社の深圳工場のオフィスですね。事務所がこういった感じで、設計部門も購買部門もあります。

こちらが組立ラインでして、生産ラインは3つあります。1日に3製品、違うものを同時に生産することが可能です。

こちらが品質管理部門ですね。検品をしています。

それからエイジングや防塵室。

それから、こちらは倉庫と、部品の受入検査(IQC)ですね。こういったものを完備しています。

また、一部ではありますが、信頼性試験機も導入して、いわゆる日本のお客様の要求に応える、またスタートアップさんが日本市場で販売するのに最低限の品質管理や生産体制を整えています。

「スタートアップクリニック」で得たつながり

ここで、スタートアップのどういった製造案件事例があるかをご紹介させていただきます。

最近お手伝いしているスタートアップで、ビットキーというベンチャー企業があります。創業して、そんなに間もない会社です。

若い人たちでやっておりまして、いわゆるブロックチェーンのプラットフォームを使った、スマートロックサービスを行っており、それに用いるハードウェアも開発しています。

スライドの事業が、私たちとビットキーとの出会いです。先ほどご説明がありましたが、実はこのスタートアップファクトリー構築事業の「スタートアップクリニック」をお手伝いさせていただきました。2018年の9月7日・8日は東京、12日は大阪で、場所を3日間お借りして、無料相談会を開催させていただきました。

ハードウェアスタートアップ特有の問題である「量産の壁」に向けた相談会です。私が9人の専門家を引き連れてきまして、インターネット上に誰に相談に乗って貰いたいかを募って、指名制度で個別の相談会を行いました。その中の1社がビットキーなんですが、延べ29社のスタートアップの相談に応じることができました。

WEBサイトで公開されたレポートから抜粋させていただきましたが、参加者の声として、スライドのように「いろいろな接点を持ったことで方向性が明確にできた」「そもそも量産できないような製品に、非常に良いアドバイスをいただけた」等々、非常に良い反響をいただいた結果となりました。

私たちがビットキーの試作設計から量産までの一括サポートを受託しました。スライド左側は、プロトタイプですね。CNCや試作基板を使って、実際にこういったベニヤ板をドアに見立てて、まず原理試作を行いました。

その後に3Dプリンターと試作基板を使って、量産設計をしました。まさに今準備をしているところですが、これから量産です。数万台の規模ですが、金型成型や量産基板、PCBAですね。そして、組立、梱包。原理試作から最終梱包、製造から梱包を、弊社の深圳のサービスとして一括して対応させていただきました。

ビットキーの代表取締役COO、福澤(匡規)さんからは、こういった非常に良いコメントをいただいています。ビットキーは「初期費用なし、月額300円から利用できるスマートロック」を目指していて、アジャイルに作れるところが特徴です。

原価の低減や「どうやったら納期が縮められるか」「梱包にこだわりたい」などの要求があります。そういった要求が深圳のサプライチェーンで叶うか等々、いろいろな悩みをお互いに解決しながら、試作が量産に至った、というひとつの事例です。

量産化の壁と、深圳のIoTサプライチェーン活用

私は深圳のハードウェアサプライチェーンの専門家ですが、日本の製造業とはまた少し違う、深圳のIoTサプライチェーンを使うことで、どういったサポートができるかを少しお話しします。

まず、これは経済産業省さんのホームページから拝借しています。そもそも、プロトタイプから量産設計するところと、量産設計が終わってから実際に量産するところ。ここに「量産の壁」が2つあると言われています。

いわゆるデバイス上の問題だけに限りません。お金や梱包、品質の問題など、試作から量産に向かうにあたって、克服しないといけない壁がたくさんあるということです。

私なりに、その量産の壁について考えてみます。まず試作と量産では、使用される「BOM(Bills of materials)」……1個1個のコンポーネント、部品などが急激に変わってしまいます。

とくに日本で試作を終えたあと、我々のほうで量産を受託するときがあるんですが、例えば村田製作所のセラミックコンデンサや、ロームの抵抗などは、中国で同じものを置き換えていけるからいいんです。

しかし、時には秋月電子のような日本のローカルのサプライヤーがBOMに書かれていることがあって、これは中国で調達できないですよね。そういう調達できる部品がまったく違うのが、まず”量産設計の壁”かなと思いました。

また、量産を委託する先ですね。例えば、日本国内なのか、中国なのか。選択肢があるようで、けっこうないのかなと思います。スタートアップからも「意外と選択肢ってないんですよね」と聞きます。

じゃあ、自社のプロダクトをどういうところに委託するのがいいのか、悪いのか? どういうメリットがあってデメリットがあるのか? という“製造先選択の壁”があると思います。

そのあと、例えば金型を起こすこと、PCBAやハードウェア、OSなどのNRE(開発費用)が入ってきます。イニシャルで開発費用が出る際にも、量産化の壁がありますね。比較的、量産でも材料のお金が先に出ます。ハードウェアの量産は、資金がいくらあっても足りないという、”資金の壁”が大きく立ちはだかるかと思います。

深圳のサプライチェーンは「すごい」が「万能ではない」

また、カテゴリーによっては深圳のローカルサプライチェーンやエコシステムを使うことによって、もしかすると劇的なメリットや恩恵を受けられるかもしれない。ただ、これは、やはり“中国の壁”が存在すると思います。

深圳のローカルサプライチェーンは、すべてが万能というわけではなくて、そのときどきの旬なカテゴリーがあります。例えば、10年前だったらCDやDVDなど、液晶テレビのような部品は容易に買えましたが、今ではそういった部品の購入は非常に難しいです。

各部品についてお話しします。今の深圳のエコシステムですが、旬なカテゴリーに関しては、たくさんの部品メーカーが互換品を作り合います。もっと言うと、1つの部品に対して松竹梅のグレードがあります。もう少し悪くいうと、コピー品ですね。

そういったものが非常にたくさん存在していて、部品メーカーが互換品を作り合ってお互いの開発費を全体的に下げていくことが、ボトムアップ型のエコシステムとなって形成されています。

スマートフォンは正直、今は旬なカテゴリーではありません。スマートフォンの材料を今から集めるのは非常に困難です。例えば最近ですと、ネットワークカメラ、IPカメラのようなもの、ドローン、車載のドライブレコーダーや、決済関係の端末、POS系の端末ですね。

スマートスピーカーやそのマイクロフォンといった、こういう最近のいわゆるエッジ系のデバイスで使われている部品は、非常に容易に調達することができます。

SoC系でしたらQualcomm、Intel、Mediatekのようなもの。マイコン系ですと、ESP、CSR、Nordicといったものが非常に流通されています。

SoC系であれば、深圳にはIDHと呼ばれるデザインハウスが各カテゴリーにいまして、量産設計などの終わったPCBAを1,000個単位で売ってくれるような、小ロット多品種を支えてくれるようなサプライチェーンの中心企業もあります。

深圳の一番すごいところは、サプライチェーンのプロセスが川下から川上まで、すべて深圳の街の中で凝縮されているところです。いわゆる部品から金型、基盤の実装、組み立て、梱包材の印刷をする会社から、メカニカルやIDHのような設計会社、電波や安全認証を取る認証機関ですね。

私たちも深圳に工場を構えていますが、だいたい半径1時間以内でみんなリーチできてしまう。こういうところに密集しています。

香港が近いので、物流もいいです。空港から港といったところまで、ハードウェア特有のロジスティックも24時間完備されているのも特徴です。

小ロット・短納期を支える、深圳のエコシステム

カテゴリーによるので一概には言えないんですが、1つのデバイスを深圳でエコシステムを使う、日本の製造会社に設計から委託するときに、深圳でいわゆる有り物……半完成品のような互換性のある部品を調達すると、開発費をほぼゼロにすることができます。

最近はICT、IoTが好調ですので、デバイスは例えばゲートウェイなど、エッジ側の端末としては、センサーならなんでもいい。クラウド側とアプリ側で差別化するスタートアップがやはり多いんですね。

そういった場合に深圳だと、小ロットで、かつ短納期でこういったデバイスが調達できる。日本だとどうしても、開発費も1人月100万円以上かかってしまいます。どうしても設計期間に3ヶ月から半年かかります。

スタートアップにとって時間やイニシャルコスト、最低発注数量にかかる量産費用がかかるのは経営上厳しい。ここを劇的に抑えるのは、カテゴリーによっては深圳のサプライチェーンが有効です。ただ一方で、深圳のサプライチェーンはいいことばかりではない。やはり部品のばらつきも多いですし、金型は荒いところもあります。

どちらが良い・悪いよりかは、そのスタートアップが抱える環境において、場合によってはこういった深圳のサプライチェーンを使うことで、メリットが出る場合があると思います。

また、最近はクラウドファンディング等でスクラッチ型で開発を進めるスタートアップも多いです。

その際は、例えばArduinoやRaspberry Pi、Seeed Studioのモジュールなどを活用しますね。私は、ピーバンドットコムとソースネクストの顧問をやらせてもらっていますが、こういった試作をマイコンボードやモジュール、試作基板を使って、3Dプリンタで筐体を作る。ビットキーもこういったやり方でした。

スクラッチでもモジュールを使いながら、試作をする。そこから量産に移るときに、深圳のサプライチェーンはもちろん、互換性の部品や有り物の基板があるのは魅力なんですが、今は深圳のサプライチェーンのエコシステムを見てもいわゆる小ロット・短納期を支えるエコシステムがあります。こういうマイコンモーター量産化も、非常に速く簡易的にやることができます。

これはやはりモジュールですね。1個1個のチップからPCBAを組み上げるよりも、モジュールを組み合わせていける。これが深圳の強みかなと思います。

日本のスタートアップに製造業ができること

こういうさまざまな要求に対して、我々はIoTデバイスサービスの開発に特化したワンストップ設計量産サービスを始めました。川崎にあるミラという会社さんと一緒に中国で合弁会社を作りまして、いわゆるエッジ系、センサーデバイス系のプロトタイプから量産・保守までをワンストップで提供する。ビットキーもこちらのプラットフォームを利用されています。

このサービスを使いますと、企画から相談に乗って量産設計、いわゆる壁があるところに私たちの専門のスタッフが入って、最後の出荷まで責任を持って対応している流れです。

最後になりますが、日本の製造業、私たちも含めてですけれども、スタートアップ支援に取り組むにあたって、スタートアップ案件は手間もかかりますし、数量も少ないです。なので、短期的な採算は取れないと思いますが、まずは日本のハードウェア界に対する投資と思って、寄り添う気持ちでぜひ取り組んでいただきたいなと思います。

私たちは、自分がハードウェアスタートアップをやっていたということもあって、ものづくり以外の点、いわゆる資金調達とか組織のマネジメント、今日も議題にありますけど契約をどうしたらいいかとか、こういう経営的思想や我々が当初起業したときのいろいろな苦労話とかもアドバイスしています。こういったことをどんどん若い人、またスタートアップの人に伝えていただきたいと思います。

スタートアップは最近露出がけっこう多いですので、いろいろな紹介やネットワークが意外とすぐに広がります。

もしかしたら、みなさんが製造業の立場でスタートアップの案件を受けて、例えば次のロットなどは海外他社に乗り換えてしまうスタートアップもいるかもしれないんですけれども。

「別にいつでも日本に帰ってきていいよ」くらい大船に乗った気持ちで、親が子を見守るくらいのつもりでいると、業界全体の底上げになるかなと思います。みなさまも、今の製造業の先輩方が起業したころの想いに重ね合わせていただいて、製造業を支えるという大きな気持ちで、ぜひ取り組んでいただけたらなと思います。

本日はご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)

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